kからあなたへ   作:astroswitch

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イントロダクション

 風都は夜も眠らない。煌びやかな光の中で繰り広げられる一夜の夢もあれば、闇にこそ蠢く無法者たちが目を輝かせ獲物を待っていることもある。

 そんな夜の風都の今日の主役は――

「待ちやがれこの馬面野郎ォ!」

『待ってくれ翔太郎。彼は馬そのもののホース・ドーパントなのだから“人”の容姿に対して向ける形容は適切ではないと思うけど』

「あぁもうノリだよノリ! んなこた分かってっから言わなくていーんだよ!」

「わぁぁぁぁぁっ、どけっ、どけェッ! 来んじゃねえよお!」

 幹線道路を行き交う車の間をすり抜けてひた走る馬の怪物――ホース・ドーパントと、二色のバイクを駆ってそれを追う、同じく二色のヒーロー・仮面ライダーWだ。

 延々と続く照明の下をどこまでも走り続けるホース・ドーパント。そう、このドーパントは特に誰かを傷つけたとか殺したとかを、少なくとも二人が出現の報を聞きつけた時から一切行っていない。ただひたすらに走り続けているだけだ。踏み込みがあまりに強いせいでアスファルトが砕けたことや、走行中の車が急なドーパントの出現に動転して運転を誤ったといった副次的な被害はあったにせよ、悪意による行為はない。

「俺ぁ何もしてねえ! お前らに追われる筋合いはねえんだよォ!!」

『だそうだけど』

「…………」

 翔太郎もそれは分かっていた。言葉の調子からも分かるように、彼はただ必死なのだ。

 必死に走り続けなければならない、その理由を知らなければならない。

「おいポニーちゃん! お前が走るわけを教えろ! 場合によっちゃ保護してやるぜ?」

「黙れっ! あいつにやられるのも、お前に捕まんのもゴメンなんだよっ」

『聞いたかい?』

「ああ。どうやら思いっきりやっても問題はなさそうだ」

 走り続けなければいけないのは“逃げるため”か、“走ることを強要されている”か、どちらなのかによって行動は変わってくる。それに対しホース・ドーパントは「やられる」と言った、すなわち逃げなければ何者かに追い付かれて襲われることを恐れているのだ。

 これが速度を落とせば爆発するバスの追跡ではなかったことに安堵しながら、翔太郎はスタッグフォンを手にした。

「照井、そっちの準備はどうだ?」

『俺に質問をするな』

「ヘッ、相変わらずで。そんな事言えるなら大丈夫そうだな」

『繁華街に入る前で交通規制と住民の避難は済ませた。だがなるべく手早く済ませろ、組合がうるさい』

「オーライ、じゃあとっとと決めてやるぜ!」

 道路は風都中心部の繁華街へと続いている。近ければ誘蛾灯、遠目で見れば宝石の輝きにも見えるその光へ向かって、ホース・ドーパントはわき目も振らずに駆けていく。

 やがて照井の連絡通りに周辺道路には規制線が敷かれ、長大な空間だけが目先に現れる。

『メタルで行こう。マキシマムなら十分な威力が出るはずだ』

「OK!」

『メタル!』 『サイクロンメタル!』

 左半分を銀のメタルにハーフチェンジしたWは、背に出現したメタルシャフトを手に、ハードボイルダーのギアをフルスロットルにした。

「ハァッ、ハァッ、もう少しで、俺はっ」

 ホース・ドーパントも負けじと速度が上がる。驚異的な馬力を発揮し、ハードボイルダーとの距離が徐々に離れていく。

「制御頼むぜ、相棒!」

『ああ!』

 言うが早いかWは姿勢を変えてシート上に直立した。そして疾走から生まれる風の流れをサイクロンがコントロールし、メタルシャフトの元へと集めていく。

『サイクロン! マキシマムドライブ!』

 制御された風の流れはマキシマムによって更に勢いを増す。Wの手の中には小型の竜巻が握られているようなものだ。

狩り(ハント)の時間だぜ、ポニーちゃん!」

 二人の呼吸を練り上げ、勢いと、風とが臨界点に達したその瞬間、Wはメタルシャフトを構えシートから高く跳び上がった。

「『メタルガストライク!』」

 投擲と同時に空を駆ける、鋼鉄の突風――!

 メタルシャフトは正確にホース・ドーパントの後頭部に命中し、威力を余すことなく伝えきった。

「あ―――っ―――――ぁ」

 いくら強化された肉体と言えどウィークポイントを突かれてはひとたまりもない。ホース・ドーパントの眼前は黒く塗り潰され、

『ルナジョーカー!』

 メモリを失って勢いのままに投げ出される若者の肉体を、黄色い右腕が掴んで保護した。

 

 

「ご苦労だった左、フィリップ。あとは我々が引き継ぐ」

 真夜中の狂走劇からいくらか経って、照井ら超常犯罪捜査課や一般部署のパトカーが現場に到着した。闇の中でパトランプの赤い光は(いささ)か目に痛い、翔太郎は帽子のつばを少し下げてから現場に合流した。

「この辺りにゃ何もねえが、一応よろしくな。……それより照井、頼みたいことがある」

「言ってみろ」

「このボウヤに警護をつけてくれ。どうも誰かに追われてるような感じだったんでな、そいつが追っかけてこないとも限らねえ」

「……分かった。お前の言うことだ、用心した方が良さそうだな」

 ホース・ドーパントは何に、誰に追われていたのか。

 メモリの使用者を狙う者は少ないが確かに存在する。ある意味では仮面ライダーたちもそうと言えるし、その他にはドーパント犯罪の被害者による復讐や、ドーパントを狩るドーパントである“始末人”や、メモリギャング同士の抗争などが主な理由だ。いずれにしても背後には何かきな臭い繋がりが存在する。それを暴くことができれば、この街の風通しもいくらかは良くなるはずだ。

『課長、課長! こちら刃野! 応答願います!』

 不意に鳴り出した警察無線が場に緊張を生んだ。

「照井だ。刃野刑事、何があった?」

「はいっ。こちとらルートを(さかのぼ)って(やっこ)さんのスタート位置に到着したんですけど……そこに、ありました。仏さんが」

「「!」」

 

 平和な夜を踏み砕いた真夜中の狂走劇。

 それは風都に遺された者が仕掛ける、最期の挑戦の始まりを告げていた――

 

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