kからあなたへ   作:astroswitch

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kからあなたへ / 怪人は舞い戻る

 夜が明け、朝風が街の網目を縫うように吹き渡る。しかしいつもは一日の中でも格別に爽やかなその風が淀んでいるように探偵事務所の面々には感じられた。依頼人が扉を叩くその日と同じように。

 一番に事務所の扉を叩いたのはやはり照井だった。昨晩は寝ずの捜査となったがその顔には疲労の色など微塵もない相変わらずのタフさを見せながら、彼は挨拶もそこそこに事件の話を切り出した。

「昨晩発生したドーパント暴走事件。その経路を遡っての捜索を行った結果、最初の痕跡が発見された浜風港のテナントビルで惨殺死体が発見された。被害者は南方(みなかた)(りょう)21歳と西野(にしの)(たい)()20歳。いずれも死体は地下1階から発見された」

 そう言って照井が提出した現場写真には目を覆うような惨状が記録されていた。

「手足が……全部バラバラだ」

「それだけじゃない、その指に至るまで一本残らず切り離されている」

「うげぇえ……先に朝ご飯食べといて良かったぁ〜」

 その死体は腕と脚が付いていない所謂(いわゆる)達磨(だるま)”になっており、加えて肘、膝、手首足首、手足全ての指すらも付け根である第三関節から切り離されていた。もはや人体を模した関節組み替えパズルの部品の様ですらある。

「猟奇殺人だな。少なくとも『カッとなって』程度の突発的な事件じゃこうはならねえ。動機は何であれ特殊な思考の人間による犯行なのは間違いなさそうだ」

「ふむ。ぼくたちの経験からすればロードか、スクリーム……五条一葉の可能性も浮上するね」

「もしかして竜くん、そのために?」

「その通りだ所長。ときめ、昨夜の24時ごろに裏風都と繋がる感覚はあったか?」

「ううん、私もメモリも何ともなかった。向こうから来たり、逃げたりはしてないはず」

 ときめの証言を補強するように、フィリップが現場写真を手に取って見解を述べる。

「写真を見ても、バラバラにはされているが欠けている部分が一つもない。いつも空腹のロード共では指の一本も我慢できないはずだ」

「何より、ロードはお世辞にもオツムがいいって感じじゃねえ。逃げ出したヤツがいりゃあ全力で追っかけてくるはずだ。でもポニーちゃんを追ってくるヤツはいなかった、俺たち以外はな……。状況証拠だけだが、少なくともロードがやった可能性は捜査線上から省いても良さそうだぜ」

 照井はコーヒーを一口含み、小さく息を吐いた。

「そこまでは俺も同じ見解だ。同時に五条一葉のやり方であれば手足や指と言った細かい部位は残るが、被害者の身元の特定に繋がるような重要部位は必ず消えている。奴がやったこととも思えん」

「てことは結局ぅ……今回はこの街の誰かが殺人犯、ってことでいいんだよね?」

「断定はできないが、裏風都の関与を否定する条件が多い以上、そうなる。所長、君たちにも調査を依頼したい、頼めるか」

「愛する旦那様のご依頼ならーっ、モチのロンよぉーっ!」

 即決。亜樹子の独断だったが、街に潜む猟奇殺人犯を野放しにしておけない気持ちは確認を取るまでもなく皆同じだ。異論など挟む余地もない。

「今回も容疑者はドーパントなの?」

「死体の状況だけ鑑みればメモリの力を使わずとも可能な犯行だ。だが……これがその可能性を潰す」

 そう言って追加提出されたのは押収品のガイアメモリ二本。それぞれ「RHINOCEROS(サイ)」、「HYENA(ハイエナ)」と刻まれている。

「……ま、そういうこっちゃねえかと思ってたぜ。お手軽超人(ドーパント)が逃げ出すってことは相手もご同類、かつ上手ってことだ。それが被害者のメモリで、犯人が二人を殺害するのを見てビビったポニーちゃんの逃走劇に繋がる……筋は見えてきたぜ」

 

 

 

 捜査が始まった。調査項目はまず被害者二人の身辺調査と関係の洗い出し、そして先のホース・ドーパントの青年の身元の特定だ。彼は身分が分かるものを持ち合わせておらず、先のテナントからも発見されなかったそうだ。翔太郎とときめは照井から送られた顔写真だけを頼りに聞き込みを開始した。

 

 

『南方……あー、あいつか。荒れてたねー、喧嘩っ早いし学年問わず誰からもカツアゲするような奴だったよ。メモリ? ……興味あるって言ってた気がする』

 

 

『西野ならなんかやると思ってたわぁ~。いやさ、とにかく金に汚いのよ。バイト中にレジから売上ちょろまかすとかウチの前から常習犯だったっぽいし』

 

 

『あら、この子……間違いない、昔私のクラスの生徒だったわ。名前は……』

 

 

 事件が発生してから3日が経つ頃、ようやく情報が転がり込んできた。

「ポニーちゃんの本名は北川(きたがわ)(たつ)()、20歳。高校の時の担任によれば校内の不良グループの使い走りをやらされてたみてえだ。それに鬱憤が溜まってたのか、一人の時は自分より弱い相手に手を出すこともあったんだと」

『南方、西野、そして北川か』

 同じ場所に集った人間に共通点がある。こういったことは大抵偶然で片付けられない更なる繋がりを示唆するものだ。

「こう来ると“東”って苗字のやつがあと一人いそうだよな。もしかしたらそいつが犯人かもしれねえ」

『前者には同感だ。三人も名前が割れていれば絞り込みも容易い、検索もすぐ終わるだろう。このままで少し待っていてくれ』

「おうよ」

 フィリップの検索と閲覧が終わるのを待つ間、捜査情報をまとめていたときめは浮かんだ小さな疑問を口にした。

「ねえ翔太郎、一応聞いておきたいんだけど、この北川が犯人の可能性はないの? 例えば彼らが喧嘩でもして、カッとなった北川がメモリを使った。でもメモリのせいで意識がないまま二人をバラバラにして、それを隠すために誰かに追われてるフリをした、とか」

「ありえなくはない、北川が犯人じゃねえってのは俺の直感だ。でも直接見たがあんな必死に逃げ惑う姿が演技だったら役者を目指した方がいい、それくらい真に迫ってた。疑う気にもなれないくらいな」

「……他の証拠が二つ三つは欲しいところだね」

『では二人に新しい情報を追加しよう』

「終わったか。何が分かった?」

『三人の名前で検索したら一件に絞れた。本の名前は『GARDEN』だ』

「ガーデン……庭か」

『どうも彼らの形成していたメモリ密売グループの名称のようだ。構成員は四人、読み通り東で始まるメンバーがいたよ。名前は東風村(こちむら)明夫(あきお)、年齢は24歳で“ガーデン”のリーダーだ』

 それからフィリップが語った情報をまとめると以下のようになる。

 

 ガイアメモリ密売グループ“ガーデン”。東風村明夫が創始者となって、南方・西野・北川の三名を引き入れ結束された。

 活動開始時期はおおよそ園崎亭崩壊の1か月後……すなわちミュージアム壊滅から程なくしてだ。当時就活生で将来に悩んでいた東風村はたまたま流出したガイアメモリを入手、それを闇ルートで売り付けたところ思いもよらぬ大金になったことからメモリの魔力に魅入られ、密売によって大金を稼ぐことを目的とした組織を立ち上げたらしい。

 無論彼ら自身もメモリに手を出した身ではあるがその規模と目的から必要以上に名が知られることを厭い、あまり人の寄りつかない港湾地区に拠点を構えメモリ収集を最優先させることで他のメモリギャングとの抗争は一度も起こっていなかったそうだ。

 

「そうなると抗争の結果って可能性は潰れるね」

「ああ。同時に今度は仲間割れの可能性が出てきたわけだが……最後の一人の東風村はどうしてる? そもそも生きてるのか?」

『彼個人の本には死亡が記されていなかったからまだ生きている。住所も既に照井竜に連絡した。とはいえ拠点のビルは既に警察が規制線を敷いているからよほど愚鈍でもない限り何かしらは察知しているだろう。もぬけの殻と見るべきだね』

「よし、今度は東風村探しか。とりあえず一歩前進だな。また何か分かったら連絡する」

 

 

 そしてその翌日、早くも東風村明夫が発見された。

 

 ――その胸に巨大な風穴を開けた、物言わぬ死体として。

 

 

『ハッ……ちょっと休憩しよう。あーあっつ、風涼しいわぁ……』

『ちょっと、だらしないからやめなって』

『いいだろこんくらい、今日はまだ誰も来てないみたいだし』

『まったく……ねえ、ちょっとあれ』

『ん? あ~なんだろ、酔っ払いか? こんなとこで寝ちまうとか』

『起こしてあげないと』

『へいへ~い。ったく酔っ払いくらいほっときゃいいだろ……』

『えっ』

『何よ? ――はっ?』

 

 

「以上が第一発見者の発見当時の状況だ。場所は朝風丘日時計広場、発見時刻が明け方すぐだったため犯行時刻は未明と推定される」

 新しい資料を携えて探偵事務所を訪れた照井はわずかにその表情を歪ませていた。付き合いが長くなければ分からない程度の変化は、彼が悔しさを覚えていることを物語っていた。

 新たな犠牲者となった東風村の死体は胸におおよそ成人男性の握り拳二つ分ほどの穴が開いている。人を殺すには過剰がすぎるほどの傷だ。

「死因はまだ上がって来ていないが、状況から刺殺と見てほぼ間違いない。このタイミングでの重要参考人の殺しだ、手口は違うが南方と西野を襲った人物と同一の可能性は高い。そしてもう一つ、その二人の検視結果が出た」

「出血性ショック死……『各部位は引き裂かれていた』?」

「ああ。各部位の断面を調べた結果皮膚や筋繊維、血管などは全て同じ方向への断裂が認められた」

「なるほど……だがその程度のことはよほど非力なタイプでもなければほとんどのドーパントが実行できる。メモリの特定に繋がるほどの情報ではないね。それとときめ、昨日君が言っていた北川による殺人の線、それも今無くなった」

「どういうこと?」

「ホース・ドーパントはいわゆるケンタウロスのような上半身が人間、下半身が馬のドーパントだが、馬の特性が上半身にも一部現れる。馬の足は人間の中指に当たる指一本だけしかなく、それが手先にも反映されてしまうんだ。つまり北川がホースとなって南方と西野を引き裂こうとしても、体を掴むこと自体が不可能なのさ。ホースはパワーのあるメモリだが、発揮できなくては意味がない」

「そっか……」

「気ィ落とすなって。可能性を潰してきゃあいつか真実に辿り着く、無駄じゃねえ。とりあえず現場だ、何か見つかるかもしれねえぜ」

 

 

 朝風丘は風都の東端にある地区だ。名前通り、風都の中でも格別に澄んだ朝風が吹くと評判で、特に早朝ジョギングのスポットとして人気が高い。第一発見者のカップルもそのために朝風丘にいたわけだが、今日は彼らにとって最悪の朝となってしまったことだろう。

 小高い丘を登り切ると大きな運動公園が広がり、そこには街の重要文化財に指定されている柱型の大日時計が聳え立つ広場がある。被害者の東風村はそこで発見された。

「オゥ翔太郎。課長から話は聞いてるからなぁ、荒らさないように見てけよ」

「どもども刃さん。お邪魔しま~す」

「お邪魔します」

 周囲と隔てるブルーシートを潜り抜けると、死体のあった位置には澱んだ黒い血だまりと被害者の位置を保存するための白線が書き込まれていた。

「……ここで殺されたんで間違いなさそうだな。胸に穴が開いてたんだ、まず助からねえ」

「なんでこんなこと……」

 

 

 一方事務所のフィリップと亜樹子は捜査資料とにらめっこしながら必死に頭を絞っていた。現状メモリの正体に辿り着くための手がかりは何も見当たらないが、同じだからと何もしないよりはマシだと考えてのことだ。

「アキちゃん、こういう時は君の非凡な発想力が状況を打破する鍵となる。些細なことでもいい、何か遺体で気になった点はないかい?」

「そう言われてもぉ~……。普通のバラバラ死体っていうか……ん? んんん? ん~?」

「“来た”みたいだね。教えてくれアキちゃん」

「……なんかこの死体、綺麗じゃない?」

「綺麗?」

「あ、ビューティフルって意味じゃないよ? これ、断面以外に傷とかないじゃん? 普通ドーパントに襲われたならもっと変な傷とかあってもおかしくないんじゃないかな」

「…………! 流石だよアキちゃん、今確かに僕らは一歩前進した」

「おー! そうじゃろそうじゃろ、この閃き冴え渡る所長さまのことをもっとお褒め!」

「後は翔太郎とときめがクリティカルなワードを拾ってくるのを待つだけだが……」

 

 

「刺殺なんて死因としちゃありふれてる、ドーパントでなくても可能だ。それがどうバラバラ殺人と繋がる? それとも複数人の犯行か……?」

「…………ねえ刑事さん、被害者の死亡時刻っていつ?」

「おう、なんだ助手の姉ちゃん。課長から聞いてねえか? 死体発見が明け方だったからその前の今日の未明じゃねえかって」

「そう、だよね。まだ検視の結果も来てないから分からないか……」

「どうしたときめ。何が気になった?」

「ううん、大したことじゃないの。ただその被害者が倒れてた位置、日時計の時間では5時ごろだなって思ったら時間が気になって」

「日時計の、時間……そうか、それだ! でかしたぞときめ!」

 

 

 スタッグフォンが震えた。相手を確認する必要などあるはずもない。

『フィリップ! メモリの正体が掴めたかもしれねえ』

 やはり掛けてきたのは相棒だった。彼の言葉には確信と自信が漲っていた。

「待っていたよ翔太郎、こっちも掴みかけていたところだ。早速検索を始めよう。キーワードは【引き裂き(tearing)】【傷なし(scarless)】……そっちは?」

『【(needle)】そして……【(light)】だ』

 数多の本棚が消え去り、そして見事一冊の本だけがフィリップの眼前に残された。

「ビンゴだ! メモリの名前は」

『「シャドウ」』

 地球の本棚にいるフィリップの精神は、飾り気のない真っ黒な表紙に白字で素っ気なく【SHADOW】と書かれた本を手にしていた。

「シャドウは“陰影”のガイアメモリだ。その力を使う者は影となり影に干渉する力を得る。シャドウ・ドーパントが干渉した影はその実体に影響を及ぼすんだ。例えば人の影の腕の部分をシャドウが傷付ければ全く同じ傷が本体の腕にフィードバックされる。アキちゃんが気付いてくれたが、人体を引き裂くほどの力を出せばそのために掴んだ体のどこかにもそれだけの傷痕がつく。にも関わらずそれがない綺麗な死体なのは、この能力で影の四肢を紙のように引き裂いたからだ」

『東風村の死体は日時計の5時頃の位置にあった。つまり日の出の頃だ。東風村は夜明け前に犯人に誘い出され、日の出で作られた“日時計の針”という形無き凶器によって胸を貫かれたわけだ』

「北川が逃げていたのも影からだろう。奴はなるべく明るい幹線道路の照明の下を走り、最も明るい繁華街へ向かっていたが、それは影に潜んだシャドウを近寄らせないようにするためだったんだ。……繋がったね」

『一区切りだな。今集められる情報じゃここらで打ち止めだろう、後は北川が回復するのを待つしかねえ』

「そうだね、ひとまず休息だ。また後で会おう」

『おう、じゃあな』

 スタッグフォンを閉じ一息吐く。もっと情報が必要だが現状は翔太郎の言ったようにこれ以上の手がかりはない、時間が解決するのを待つのみだ。

 そこでふとふくよかな香りが鼻孔をくすぐった。地球の本棚から意識を現実に返すと、目の前にはコーヒーの注がれたマグカップを手にする亜樹子がいた。

「はいっ、コーヒーブレイク! とりあえずこれでも飲んで休憩しなよ」

「ありがとうアキちゃん、いただくよ。でもこの本は先に読み切ってしまいたいんだ、しばらく一人にしてくれないかい」

「ん、わかった。私お昼買いに行ってくるから、戸締りしっかりしてね」

「ああ」

 亜樹子はガレージを出ていき、薄暗い秘密基地にはいつものようにフィリップ一人が残された。

 時刻は正午を回ったが正解に辿り着いた興奮からか空腹感はまだ感じない。そのままにシャドウに関する情報を閲覧しようとした、その時だった。

 キン、と甲高い音がガレージに響く。何かが落ちたかと周囲を見渡そうとしたフィリップは、即座にそれが違うことに思い至った。なぜならその音と共にマグカップを握る右手が揺れたからだ。

「な……なんだ?」

 音と現象から導き出されたのは実に単純な答えだ。つまり『誰かがマグカップを弾いた』。彼以外の誰もいないこのガレージの中で、だ。

 困惑の感情より先に思考が答えを導き出し、フィリップの警戒心を最大にまで引き上げる。

 一体誰が? それは直感で分かった。「なぜか」はともかく、今この探偵事務所に現れる者など一人しかありえない。

「……犯人の方から現れてくれるとは、実に興味深い」

『そうでしょう、私でなければできない登場だ。“影”である私でなければ――!』

 ガレージの暗がりの中から現れ出でる怪人。凹凸一つもない黒いゴム人形のような、空間に黒い絵の具で人型を描いたような、光を吸い込むほどの黒の濃さで空間から浮き出て見えるその異形こそまさにフィリップたちが追う事件の犯人、シャドウ・ドーパントに他ならなかった。

「来客ならせめてチャイムを鳴らしてほしいものだね。礼儀を知らないのかい」

『おやおや知っているでしょう、押せないんですよ。ですので不躾を承知の上、無断で立ち入らせていただきました。フフフ』

 シャドウと対峙しつつ、フィリップは暖かいうちにまた飲めることを期待しながらマグカップを作業台に置いた。

「聞きたいことは山ほどあるが、その前に言っておこう。今すぐメモリを捨てて自首したまえ。狙うのがメモリの持ち主であっても、好き勝手に命を奪ってもいい理由にはならない」

『ごもっとも。ですがそうはいかない、私にはどうしても彼らの命を絶つ理由がある』

「……貴様の動機は何だ?」

 フィリップが訪ねた瞬間、シャドウは右手を勢い良く突き出した。『それではいけない』というジェスチャーだ。

『あなたはクイズの答えをすぐ出題者に尋ねますか? 違うでしょう、あなたであればきっと自らの頭脳で解き明かすことに快感を覚えるはずです』

「クイズだと?」

『ええ、ええ! これはゲームですよ。私から仮面ライダーWに仕掛ける推理ゲーム!』

「…………」

 翔太郎ならもうとっくに「ふざけんじゃねえ」と怒りを露わにしているところだろう。フィリップが口を開かないのは感情豊かな相棒の分まで自分がクールでいるべきだと思っているからだ。そうでなければ彼もまた怒りを言葉のナイフに変えて放っている。

『第1問は【犯人のメモリは何でしょう?】でした。あなた方が見事に正解したため、出題者として「ピンポ~ン!」と言いに来たわけです。そして第2問! 【私はどうして今回の事件を起こしたのでしょう?】 つまり動機当てだ。それを見事に当ててください!』

「その発言は『ガーデンと貴様の間には何か関係があった』ということで間違いないか?」

『勿論ですよ。当然、たまたま目についたから襲った、なんて下の下の解答はありません』

 シャドウがくつくつと笑う。目も耳も鼻も口もない真っ黒な顔から響いてくる声は場違いなほどに明朗だった。

「……問題とは関係のないことだが、一つ質問がある。どうしてぼくのことを知っている?」

『それは簡単。私に聞こえない声はないのです。この街のどんな話も私の耳に届く、影を通じて。ほら、“陰口”って言うでしょ? この街の風の音と同じくらい絶え間なく聞こえてくるんですよ』

「シャドウにそんな能力が……? 現象としての陰影を司る以外の能力……まさか貴様は」

『ハイドープ、とか言うんでしたっけ? それみたいですよ。あんな昼も夜も風もない街、私はごめんですが』

「…………」

『おっと、おしゃべりが過ぎましたね。では最後に、次の問題には制限時間を設けました。今から11時間以内に動機を当てられなかった場合、私は最後のメンバーを殺害します。彼を殺せば私の目的は達成だ、二度と表舞台には出ない。あなた方は私を捉えるチャンスを永遠に失う』

 恐らく今は13時頃だろう。制限時間は今日の24時までということになる。

「……貴様のゲームに乗るのは不愉快だが、やるしかないようだ」

『物分かりが良くて助か――』

「だが覚えておきたまえ。ぼくたちは必ず貴様の全てを白日の下に晒し、裁きを受けさせる。貴様が、ぼくたちの影に怯えるんだ」

 そろそろ我慢も限界だった。きっと相棒ならこう言って啖呵を切ったはずだと信じ、フィリップは怒りを突き付ける。

『……ええ。楽しいゲームといたしましょう』

「――――――」

 何かがフラッシュバックし、フィリップは一瞬虚を突かれる。

 そしてそれがシャドウの最後の言葉となった。

 

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