「犯人がここに来てたってどーいうこと!?」
「お前っ、連絡くらいしろよ! ファングの用意も無しに犯人と向き合うなんざ自殺行為だぞ!?」
「承知している。だがシャドウは影、実体を持たない。いくらファングといっても攻撃が当たりもしない相手では無いも同然だ」
サンドイッチを口に運びながらフィリップは事も無げにそう答えた。
シャドウの“出題”から程なくして戻ってきた3人に事の顛末を伝えたが、反応はやはり彼が想像した通りだった。
「……まあ無事ならいいか。今はもうミュージアムもねえんだからな。それよか次の話をしねえと」
「次は奴の動機だ。これはガーデンの残りのメンバーである北川から何かを聞き出す以外にヒントが存在しない。問題はその北川の容態だが……」
「今日の24時までに起きなかったら、その時点でアウトってこと……?」
「いや、恐らくそう遠くない内に目覚めるはずだ。でなければゲームにはならない」
「つったって、そんなのシャドウの奴がどうやって把握してんだよ。……いや待てよ、ヤツのハイドープ能力は……」
「それだ、陰口が聞こえる。恐らく北川が今収容されている病院から容体まで、あらゆる情報が奴に筒抜けのはずだ。まもなくか、あるいはもう目覚めているかもしれない。その話を奴は聞き取ったんだろう」
「なら、私たちのこの会話も?」
「解答者の動向に気を配る出題者ならきっと耳をそばだてているだろうね。ルールを定めるタイプの殺人者は必要以上の殺しをしない傾向にあるが、迂闊なことを言わないのをオススメするよ、ときめ」
そう言うとフィリップはスタッグフォンの画面を3人に見せた。
『声を介さないならぼくらの動きも察知されないだろう。どうしても悟られたくないことは声ではなく文面でやりとりするといい』
フィリップは翔太郎の方に視線をやって、自分の腹部の辺りを指差し、次に頭を指差した。『ぼくらだったらダブルドライバーでやりとりしよう』という意図を察した翔太郎はドライバーをジャケットから覗かせて頷いた。
とは言えそれは気休めに過ぎない。シャドウは影に潜みその中を移動する。ガレージにやって来たのも正面からではなく薄暗い秘密通路を辿ってのことだろう。であれば事務所から一歩出た瞬間、誰かの影にシャドウが潜伏する可能性もあるのだ。やらないよりマシ、程度の選択肢だ。
「さて、と……。今は照井待ちだ、俺は腹ごなしに聞き込みにでも行ってくるぜ。フィリップ、お前はシャドウを倒す手段を考えといてくれ」
「ああ」
昼食の後再びガレージに戻ったフィリップは一人真っ白なページと向き合っていた。
そこにはやはりシャドウが陰口という形で情報を得るなどという記述は存在しなかった。その手の拡大解釈はやはりハイドープで覚醒した能力なのだろう。であれば相手の力は額面通りとは行かない、これをいくら読み込んだところで勝ち目はないのではないか――
頭を振ってネガティブな思考を弾き出す。クラブ・ドーパントと戦った時のように、可能性は本の中だけにあるものではない。情報は常に更新され続けるのだ。
全てを閲覧し終えたフィリップは静かに検証を開始した。手持ちのメモリで攻撃が通用するものはどれか、どのように攻めれば形無き敵を捉えられるか。
だが結論は出なかった。思考が闇の中に沈んでいく。
ぼくの視点は普段より低い。その時点で「園崎来人」だった頃の記憶であることは容易に分かった。
ぼくは背丈の2.5倍ほどもありそうな大きな扉と扉の隙間から部屋の中を窺っていた。
必要以上の装飾が施されていない長いテーブルの上座には園崎琉兵衛――父さんが陣取っており、以下燕尾服の執事や家政婦たちがずらりと並んで同じ卓を囲んでいた。
何かの資料を手に持った父さんは非常に真剣な顔つきで使用人たちと議論を交わしている。ぼくは彼らがまばらに同じ部屋に集まっていくのに興味を惹かれ、今こうして覗き見をしているということだった。
皆が父さんの話に真剣に耳を傾ける中で、ふと執事がこちらを向き、ぼくと目が合った。
彼がなぜぼくに気が付いたのかは分からないが、恐らく何か気配や視線の類を感じ取ったのだろう。園崎で執事をこなしているのだからそれくらいできてもおかしなことはない。
そして彼につられるように父さんも入り口に目をやり、ぼくはあっけなく捕まってしまった。
と言ってもこれはまだぼくがデータ人間になる前の記憶だ。そこにいる父さんは“まだ”優しい。
彼らが中で行っていたのは何のことはない、母さん――園崎文音の誕生パーティに対する打ち合わせだった。サプライズが好きな父さんは、やはり母さんにもサプライズを用意したくて入念な打ち合わせに臨んでいたのだ。まあ、ガイアメモリ技術の第一人者となる前から母さんは機械工学の権威としていつでも忙しく、家にはあまり帰ってこない人だったから何をしてもサプライズにはなったとは思うが、そこは父さん“らしさ”というものだろう。
ぼくを中に招き入れた父さんは、優しくぼくの頭を撫でてから人差し指を唇に当てた。「母さんには内緒だぞ。守れるかな?」そう問う父さんにぼくは同じジェスチャーで応えた。
在りし日の記憶の一幕――いや、正確な記録映像だ。
ぼくにとって一般に言う“記憶”とは「フィリップ」になってからのものを指す。
即ち、それによって何らかの感情を呼び起こされたり、時々の感情によって良くも悪くも事実が曲がってしまう性質を持つ“記憶”だ。
それ以前の「園崎来人」としての記憶は主観に則れば“記録”の方が正しいように思える。
その瞬間、その場所に起きていた出来事を、何の外的要因もなくただ客観的に見つめるものという意味での“記録”だ。
それはぼくが「園崎来人」の記憶を取り戻したのが、地球の本棚を介しぼくの過去に関する正確な情報の羅列のみを体験ではなく知識として吸収したことによる影響も少なくはないと思う。だから今こうやって夢の形で過去の記憶を見ていても、ぼくにはあまり実感が湧いてこない。
夢――そう、これは夢だ。ぼくは常人とは異なる頭脳領域と精神形態をしているためか、明晰夢を見ることも少なくない。
こうして夢で過去を見ると実感はなくとも心のどこかに風が吹いたような気分になる。翔太郎やアキちゃんに言わせればそれが郷愁の念らしい。
その郷愁と呼ばれる風が吹く度に、ぼくは「フィリップ」と「園崎来人」が同じ人間であることをどこか遠く、だけど近くに実感するのだ。
例えるなら実体に付随する“影”のような、切っても切れないものとして。
「ん……」
目が覚める。目の奥にわずかに残る眠気と先程までの明晰夢の記憶が今まで眠っていたという事実をより鮮明にした。検索疲れ、食後の血糖値の上昇、静かな状況での没頭などが複合的に重なっての一時的な入眠――そう結論付けたフィリップは、先程まで見ていた夢の内容をもう一度思い出そうと試みる。
「ぼくの記憶……」
一般的に夢を見るのは睡眠時に行われる脳の情報処理の影響と言われている。以前夢の怪物を追う時に翔太郎の夢が直近で視聴していたドラマ「風の左平次」に多大な影響を受けていたことがいい実例だ。
しかしついさっき見ていた夢はそのメカニズムには当てはまらない。
「何か、無意識に過去を検索していたのか……?」
思い当たる節はある。最後にシャドウが言った言葉に、確かに郷愁を覚えたのだ。ならば犯人は過去から来たる者なのか。
そのことについて検索を行うか、幾ばくか思案するうちにスタッグフォンがその終わりを告げた。
『竜くんから連絡! 北川って子、目覚ましたみたい』
時刻は18時を少し過ぎた頃。暴走事件から4日を経て、風都市内にある警察病院に収容されていた北川は2時間ほど前にようやく目覚めた。いくらかの検査を終えた北川は一旦の休憩を置かれ、そして今は病室にて照井と対面していた。
「超常犯罪捜査課の照井だ。北川辰実、意識ははっきりしているか」
仏頂面にお堅い雰囲気、そして瞳の奥に燃える犯罪を許さない信念の炎が、元より臆病者だった北川のノミの心臓を酷く揺さぶった。
「あ、ああ。頭痛くてしばらく寝れる気がしねえくらいだよ……なっ、なあっ、あの、俺って――」
「質問をするのは俺だ。これから事情聴取を行うが、できる限り正確に思い出して供述をしろ。お前が助かる道はそれしかない」
ピシャリと言い切る照井の態度は、北川からすればあの日遭遇した恐怖のシャドウと同じくらいには絶望的だった。
「……!! ……分かってる、もちろん分かってる。なあ答えたらちゃんと保護してくれんだよな!? 頼むよ、この部屋ッ暗くしないでくれ!」
「……お前次第だ。では聴取を始める」
同じ頃、翔太郎はハードボイルダーを走らせて警察病院にやってきていた。フロントで照井の協力者である旨を伝えてパスし、予め聞いていた病室へ向かうと廊下には真倉が待機していた。
「よおマッキー、ご苦労さん」
いつも翔太郎が事件に関わるのが気に食わない真倉だが今回は照井からの捜査協力ありの状況、嚙みつくにも調子は今一つである。
「ああ探偵か……。チッ、今頃照井課長が聴取してるとこだ」
「あいつが? できんの、あの鬼の面構えで?」
「あのボウズがビビりなら言うこと聞くんじゃないか。上手く引き出すのとかは……まあ」
「ハハー、だよな。ところで刃さんはどこ行ったよ」
「売店にお茶買いに行ったよ。じき戻ってくるだろ。なんか用か?」
「ちょっとな」
そう言ってから壁にもたれかかって手帳とにらめっこすること数分、
「おう翔太郎、今朝ぶりだな。なんだいお前、俺のファンか?」
手に飲み物のペットボトルや缶がいくつも入ったビニール袋をぶら下げ、いつも通りの軽い口調で刃野が現れた。
「もしかしたらそうかもしんないっすね。あっそうだ刃さん」
『会話は犯人に聞かれてる。話せないんで今から相棒のメッセージ見せます』
「この前言ってた風麺の新メニューのことなんすけど」
会話の途中で翔太郎は喋りながらついさっきまで手帳に書いていたメッセージを見せた。
シャドウの能力は照井以外と共有していない。二人を信頼しないわけではないが、人の口には戸が立てられないもの、情報を知っている人物は可能な限り絞っておきたいという考えからだ。翔太郎がわざわざここへ足を運んだ理由の一つである。
そんな翔太郎のメッセージに目を通した刃野は黙ったまま頷き、そして口を開いた。
「あ~、ダブル風車ラーメンだろ。あのでっけえナルトが二枚になってるって、それもうラーメンなのかね? マスターもいよいよ“映え”意識の迷走期ってか」
全く関係のない話を続けてくれた刃野に内心感謝しながら翔太郎はページを一枚めくり、そこに書かれたフィリップからのメッセージを示す。
「いやこれがね、中々イケるらしいんすよ。知り合いの情報屋が近々取り上げようかなーっつってたもんで」
「…………いやいや、それってあのナスみてえな顔長ブロガーだろ? 仲いいだろあそこ、お互いPV稼ぎと宣伝のためにグルなんじゃねえのォ?」
「……そうなのかな。そうなのかも?」
「お前探偵やってるくせに騙されちゃいかんだろうよ。ハッハッハ」
「ハハハハハ」
そうして二人が他愛もない会話をしていると病室の扉が開いて照井が出てきた。
「お疲れさまです課長。首尾は」
「素直だったが動機に繋がるような話は聞き出せなかった。刃野刑事、次を頼む」
「任されました」
刃野は入れ替わりで北川の病室へ入っていく。
それを見届け、照井は真一文字に結んでいた口を開いた。
「これでいいのか?」
「あいつの言う通りならな」
最小限の言葉だけの二人の会話が指すのは先程までの照井による事情聴取のことだ。これは元より照井と刃野の二段構えによる情報の引き出し、北風と太陽の如きフィリップの案だ。照井にプレッシャーをかけられた後で刃野がやんわりとした態度で聞き出すことを想定していた。
「特に回りくどいことをしなくても問題は無さそうだったがな。まあいい」
“何が動機に繋がりそうな質問か”は予め照井に伝えてあったがそれは半分である。もう半分、かつ“本命”はついさっき翔太郎が刃野に見せた分だ。
「ここは人情派デカのジンさんのお手並み拝見と行こうじゃねえか」
「よォ少年。元気か?」
「あ、ああ。あんたも刑事か?」
「おう、刃野ってんだ。さっきのおっかねえ兄ちゃんの部下だよ。疲れてねえか? 色々喋って喉乾いたろ。ほれ、色々あるからなんか飲めよ」
「どうも…………はぁ」
「落ち着いたか。いやぁ~課長のことだから腕組みしたまま仏頂面で質問してきたんじゃねえか? 『お前たちはどこでガイアメモリを手に入れた?』『密売ルートを言え』『犯人の顔を見ていないか?』『嘘を吐くとお前のためにならないぞ』とか言ったろ」
「そうだよ……だから俺も聞かれたことはちゃんと全部答えた。なあ、俺本当に助かんだよな? あ、あいつ捕まえられんの?」
「ハッハッハ、お前さん俺たちを舐めちゃあいけねえよ。風都で起こったメモリ犯罪を追っかけては解決してんだぜ。今回の犯人もアッと言う間に、ヘッ刑務所送りさ」
そう言って刃野は手にしたツボ押しマッサージ器をヌンチャクのように軽快に振り回してみせた。
そんな刃野の砕けた態度に気が緩んだ北川の顔が小さく綻ぶ。それを刃野は見逃さなかった。
「さって、質問の前に確認しときてえことがあんだ。お前さん、犯人に自分たちが襲われた理由について本当に心当たりはねえか? どんなことでもいいからよ」
「知らねえって……。他のチームと抗争したこともねえし、メモリ売る時は足がついてその後万が一“お礼参り”のハメに合わないよう、コチさんが気を付けてたんだ。恨み買ってねえとは言い切れねえけど、わかんねえよ」
「そうか。オーケーオーケー、じゃあ質問させてもらうぜ。つってもそんなに構えるようなことじゃねえ、俺の個人的興味なんだけどよォ――」
前置きをしてから、刃野はフィリップからのメッセージを口に出した。
「なんでお前たちのグループ、あの名前なんだ?」
「は?」
「いやぁだって考えてみろよ。お前ら全員で東西南北だろ? なら“NEWS”とかの方が名前としてはピッタリじゃねえか。そういう意図があってメンバー集めたなら名前も合わせた方がなんつーかこう、収まりがいいと思うんだけどな」
「あー、そういうことか……。分からなくもねえ。でもそれはコチさんが付けた名前なんだ、変えられねえんだよ」
「ってえと?」
「どうせ調べついてんだろ、コチさんがメモリ密売始めた理由とかさ。そん時のコチさん、セールスマンの姿が街から消えたことや、園崎の屋敷がブッ飛んだとかから『ミュージアムは園崎家だった』って直感したんだと。だからミュージアム=園崎家に代わってメモリ販売を握る組織を作るってことで“ガーデン”って名前にしたんだよ」
『ビンゴだ』
フロッグポッドが扉の振動を増幅した聴取の音声をスタッグフォン越しに聞いていたフィリップが呟いた。
「つまり犯人は東風村たちがミュージアムを継ぐ組織として自らを名乗ったために今回の事件を起こした、ということか?」
『その通り。言うまでもないがGARDENの意味は庭、つまり“園”だ。それを自らのハイドープ能力で聞きつけ、思い上がった若者たちを粛正するべくシャドウは動き出した。これが第2問、動機の答えだ』
フィリップの声は答え合わせを終わらせただけとでも言うように淡々としていた。いつもの頭脳を動員し仕掛けを見抜いた際の興奮などその声色には微塵も含まれていない。フィリップらしさが大いに欠けていると翔太郎は感じていた。
それはやはり動機にあるのだろう。フィリップから伝えられていたメッセージの段階で翔太郎にも「恐らくシャドウはミュージアムの構成員で、組織の後継を名乗る若者が気に食わなかった」という推理はできた。しかしそれでは腑に落ちないことが一つある。「なぜフィリップにはミュージアム絡みだという見当がついたのか」という点だ。
GARDENの意味から導くにしても、それだけでは憶測・仮説の域を出ないだろう。しかしフィリップが託したメッセージは「なぜガーデンという名前なのか」だけだった。それさえ確認すれば動機は分かる、その確信が無ければ一つに絞ることはしないはずだ。そして今、話を聞いていたフィリップはそれが正解だと確信していた。誰にも伝えていない、彼しか分からない1ピースがあるのだ。
しかしそれを聞き出すべきは今ではない。
「……フィリップ」
『翔太郎、君の言いたいことはおおよそ把握している。そのことは後でぼくから説明する、今は待っていてほしい』
「わーったよ。……切るぞ、何かあったらすぐ連絡しろ」
『ああ』
通話は切れた。翔太郎はスタッグフォンを懐にしまいダブルドライバーに手を伸ばす。フィリップは解答した、正しいならシャドウがまた現れるかもしれない。そして“次”を考えると今度はフィリップにも襲い掛かる可能性はゼロではない。用心は必須だった。
「必要になったら屋上へ行け。人が寄り付かないから大の男が倒れていても気付かれん」
「照井お前気ィ使ってんのかよそれで……」
(さて、再び現れるか……)
一方事務所のガレージでフィリップは警戒しながら怪人のアクションを待っていた。その傍らに
解答は間違っていないという確信がある。犯人の人物像も、意図的に伝えていない情報のある仲間たちよりはいくらか見えてきたが、今度も襲われないとまでは断定できなかった。『ルールを定めるタイプの殺人者は必要以上の殺しをしない傾向にある』とは自ら言ったことだが、ここまでの情報が全てブラフやミスリードだったという可能性は十分にあり得るし、犯罪者の思考パターンを信用し切るものではない。真に危険なのはメモリのパワーではなく、相手を欺き寝首を掻こうとする“狡猾さ”であることをフィリップは十分に知っている。
待つこと数分の後、音が響き渡る。スタッグフォンの着信音だ。
「来たか……」
『非通知』の表示を確認しフィリップは電話に出た。
「今度は来なくてよかったのかい?」
『一度目はサプライズとして上手く行きましたが、待ち構えられているところに現れても面白くはないでしょう。趣向は変えていかないと』
「ぼくの解答は聞いていたか?」
『おおうテンポが速いですね。まあ良いでしょう、お答えいたします。デレレレレレレ……ジャーン! 今度も無事正解です! ヒューヒュー!』
返答を聞いたフィリップはため息を吐き、くしゃりと頭を掻いた。わずかながらの気落ちから来る行動だ。
「あれで正解か。そして次が最後の問題なんだろう。問題は……『お前は何者か?』」
『ええーっ? 出題者から問題取り上げちゃう解答者って、そんなのアリですか? ……な~んて、まあ分かり切ったことですもんねぇ。でもちゃんと言わせてください、ではいきますよ。ついに迎えた最終問題! 【私は一体何者か?】 いよいよ大詰め、犯人当てだ! 検索と捜査を疎かにすると私にはたどり着けませんよ』
「……言われるまでもない。ぼくたちの力で、必ず貴様の正体に辿り着く」
人は闇への恐怖を払拭し切れない。文明が発達した現代においても夜闇を照らし切ることはできず、その中に何かが潜むことにして恐怖を理解できるものに貶め、あるいは身近に置いて制御する。例えば海の向こうで語られる“ブギーマン”という陰に潜む怪人の
闇と共に恐怖はいつも、どこでも忍び寄る。音もなく、形もなく、ただ広がるままに。
その怪人はまさしく陰に潜み、陰を歩き、陰から襲いかかるブギーマン。
狙いを定めたのはもう子供ではないが、子供のように愚かな青年の命――
「そこまでだ」
「面会時間はとっくに終わったぜ、メン・イン・ブラック」
二人の声と共に灯りの落ちた廊下に一条の光が差す。その光は空間に現れた影に遮られて奥まで届かない。
『うーん、流石ですね。気を抜いてはくれませんでしたか、仮面ライダーさん』
「当たり前だろ。24時までに動機が当てられなかったら口封じに来るとは言ったが、答えられたところでそうしない確証はハナからなかった。だからこうして張ってたわけさ」
24時を過ぎた警察病院内の一角、ここは北川が収容されている病室の前。翔太郎とフィリップは既にダブルドライバーを装着した状態でシャドウのことを待ち構えていた。
(フィリップ、こいつ只者じゃないぜ。口調はあんなだがどこにも隙が見当たらねえ。ミュージアムでも相当の手練れだったはずだ)
(ぼくも同意見だ。おまけにまだ有効な手段が確立できていない。手探りの戦いになるがやってくれるかい、翔太郎?)
(任しとけ、アドリブくらいどうってこたねえさ)
(相手が影なら光はある程度効果を発揮するだろう。炎を纏うヒートジョーカーで行こう)
(おっしゃあ!)
方針は決まった。翔太郎は愛用のジョーカーメモリを、フィリップはヒートメモリをそれぞれ取り出しスイッチを押す。
『ヒート!』『ジョーカー!』
「「変身!」」
『ヒートジョーカー!』
赤いヒートのボディから噴き出す炎が廊下を照らす。陰を全て押し退けるとまではいかないが、今は配られた手札で相手の出方を探る時だ。
『この陰の中で私に勝てますか? 仮面ライダー!』
「今から思い知らせてやるよぉっ!」
言葉と共に繰り出された燃える右拳によって戦いの火蓋が切られた。