koushite machi ni nokosareta kage no subete ga hakujitsu no moto ni sarasareta.
今回の事件の唯一の生き残りだった北川辰実は、その後メモリにまつわるいくつかの罪状でお縄を頂戴することとなった。生き残ったのに刑務所送りなんて本人からすれば冗談じゃないだろうが、それはそれ、これはこれだ。命あっての物種、これからは更生して真っ当な道を歩んでほしいもんだな。
犯人の神田孝介は未だ昏睡状態のままだ。医者が言うには生きているのが奇跡なほどだという。最も古いドーパントの一人、それもハイドープになるようなレベルだったんだ、即死してないだけ大したもんだぜ。
「当初こそ初期の反動が強いタイプを使っていたが、後に現在のプロダクトモデルに変えたんだろう。そうでなければ最古のメモリ使用者がメモリブレイクされて生きていることなどありえない」
「うおっ。お前がこいつ読むなんて珍しいな」
「まあね。ぼくにだって思うところがある」
「犯人の動機は復讐だけではなかった、と言っていたな。フィリップ、お前はどの段階でそのことに気が付いた?」
「それはやはり君と行った鈴鳴荘だ。ぼくと神田孝介とでチェスを指したが、その時の指摘の仕方がきっかけになった。死中に活を求めるという彼の言葉がそのままシャドウの能力を攻略する方法だったように、彼はぼくたちにわざと自分の能力をひけらかしているんじゃないかと感じたのさ」
「つまり犯人の神田さんは復讐と裁きを受けたい気持ちの両方を持ってたってこと?」
「真相は本人のみぞ知るところだが、ぼくはそう考えている。メモリが増幅した復讐心と、理性が掻き立てた罪悪感の両輪が彼を犯行に走らせたと」
「……苦しかったのかな」
「分からん。だが搬送先の彼の様子を見に行ったが、穏やかなように見えた。お前たちがメモリに人生を狂わされた一人の人間を救った。それは疑いようのない事実だ」
「……そうだね。そう信じるよ」
「フッ……。なあどうだフィリップ。たまにはお前も書いてみないか、報告書」
「君の儀式だろう、邪魔して平気なのかい?」
「んなもんあとでいつだってできるさ。それよかお前の感じた事を残しとく方が大事だ」
「そーそー! 写真だけじゃなくて、文章だってふとした時に記憶や感情を思い出させてくれるものだよ、フィリップくん」
「残しておきなよ。またいつ記憶がなくなるか、わからないでしょ」
「……そうだね。翔太郎、借りるよ」
状況から判断するなら彼が目覚めるとは言い切れない。病床の上で一生を終える確率の方が遥かに高いだろう。
しかしぼくは「彼ならば」、と考えている。なぜなら彼には僕が与えた仕事が、生きようとする理由があるからだ。主人直々に与えられた最後の仕事を、彼ならばきっと生きてやり遂げると信じてみたい。
そしていつか園崎来人の昔話を、フィリップの体験した出来事を、これからの未来の話を、彼と共にできる日がくると、ぼくは心から信じている。
そのためにもぼくたちはこの街を守り続ける。彼が愛した風の音を聞きながら。
デスクの傍らの小窓を開け放つ。
空は雲一つない青天井。燦燦と輝く太陽と、光が落とした影が地面に伸びる。そこに潜む怪人はもういない。
ひゅるりと風音がして爽やかな朝風が事務所に吹き込む。緑色の髪が少しなびいた。