烏丸超常探偵事務所の超常事件簿(修正前)   作:ゲーマーN

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旧13話 一巡目の世界(一日目の今日)

 チリン、と風鈴が小さく音を立てる。赤い着物の少女と向かい合うように、大悟達は赤い座布団の上に腰を下ろした。姫子は胡座をかいており、残りの三人は少女同様に正座で座っている。

 

「私はヒガナ。えっと、私の姉にはもう会いましたよね」

 

「あの黒い着物を着た女の子のこと、だよね?」

 

「はい、その通りです。彼女の名前はヒバナ。私の双子の姉です」

 

 赤い着物の少女は自らの名を告げる。ヒグラシの回廊でも彼女達が双子とは聞いていたが、瓜二つの顔の作りからして、彼女達は一卵性双生児の姉妹に違いない。

 当時の日本には双子忌避の風習が存在していた。双子が生まれることを「一度に二人も三人も産むのは犬猫の仲間」などの意味から「畜生腹」と忌み嫌う地域が多かった。こういった双生児に対する偏見は昭和30年代頃から薄れてきたと言われている。

 

 その当時、女手一つで双子を育て上げた女性は本当に立派な母親だったのだろう。幼少の頃に山奥に厄介払いされた彼女が周囲の習慣や価値観に染まっておらず、双子を育てることに心情的な抵抗が無かったのだとしても、二人の子供を育て上げるのは大変だったはずだ。

 無論、彼女の伴侶、双子の父親が共に家事育児をしていた可能性もあるにはあるのだが、ここまで父親に関する記録がない以上は、彼女一人で子供たちを育て上げたと考えるのが妥当だろう。

 

「お前、この世界に来る前からアタシ達のことを知ってたな? それはどういうわけだ?」

 

「私には、生まれつき千里眼という力が備わっています。母から受け継いだ能力です」

 

「千里眼…!?」

 

「ほ、本当ですか…!?」

 

「はい。遠く離れたものを透視したり、稀にですが、未来に起こり得ることも見えます」

 

 姫子の追求に対するヒガナの答えは驚くべきものであった。

 

 本来、千里眼とは千里先など遠隔地の出来事を感知できる能力であり、即ち「空間」を飛び越える能力と言い換えることができる。だが、彼女のそれは「時間」をも飛び越える。空間と時間、その両方を飛び越えるなど超抜級の異能力と言っていい。

 姫子の知る限り、空間と時間、この二つの権能を併せ持つのは、外なる神■■=■■■■(ヨグ=ソトース)と旧神■■■・■■■(ヤード・サダジ)の二柱のみ。それほどまでに、この二つに干渉する力は稀少なものなのだ。

 

「あなたたちのことは、遠い昔、夢で見ました。夢の中であなたたちは、バラバラになった私たち家族を再び一つに結びつけてくれた。そして、遠藤健二さんがこの世界に迷い込んだ時、夢が予知夢であったことを確信しました」

 

「健二さんが…?」

 

「夢の中では、彼があなたたちをこの世界に導いたからです。そこで私は、彼を見守ることにしました。彼と一緒に迷い込んだ、この子を通して……」

 

 膝の上に乗せた黒猫の尻尾の付け根部分をポンポンと撫でるヒガナ。にゃあ、と黒猫は心地よさそうに目を閉じた。彼女は優しげな笑みをしていたが、次第にその表情は暗くなっていく。

 

「……ですが、最後まであなたたちがこの世界に現れることはありませんでした」

 

 そうしてヒガナは一日目の今日(一巡目の世界)で起きた出来事を語り出した。

 

 

 

 

 遠藤健二は、決死の探索の末に霊魂の淵叢の祭壇の間に辿り着いた。これまでの祭壇は如何にもな部屋の中央に設置されていたが、霊魂の淵叢は、石の洞窟の中央に設置されていた。憎悪を振りまく影に追われていた彼は、必死の表情で勾玉を祭壇に納める。

 すると、彼を追っていた殺意は何事も無かったかのように消え去ってしまう。安堵の息を吐いた健二は開かれた扉の先に歩みを進め――

 

 シャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャン……!

 

 前方から聞こえてきたその音に全身が凍りついた。よく見れば、神楽鈴の徘徊者が進行方向の通路から迫ってきていた。今まで、祭壇の間の先で徘徊者に襲われることはなかった。予想外の事態に驚愕と恐怖のあまり健二は身動きが取れない。

 神楽鈴の徘徊者が目の前まで迫り来る。そのまま健二は努力の甲斐もなく暗闇に息絶える――

 

「…え?」

 

 寸前、眩いばかりの光が部屋の中に差し込んできた。視界の全体を覆い尽くすほどの光が神楽鈴の徘徊者の全身を包み込む。否、神楽鈴の徘徊者を包み込むのではない。神楽鈴の徘徊者が光を発していることに、目の前に立つ健二は気が付いた。

 動きを止めた神楽鈴の徘徊者の全身から光が抜け落ちていく。その光が完全に抜けた後には、まるで電池が抜けた玩具のように倒れ伏す神楽鈴の徘徊者の身体だけが残されていた。

 

 健二は恐る恐る床に倒れ伏した神楽鈴の徘徊者の傍に寄って行くと、ここまでの道中で拾った木の棒で能面の辺りをツンツンと突っついてみる。反応はない。どうやらあの光が抜けたことで完全に活動を停止したようだ。

 何が起きたのか正確にはわからない。それでも自分が九死に一生を得たということは、この世界に迷い込んで一日も過ごしてない健二にも理解できた。

 

《あなたの魂に用があるの。細工をさせてもらうから、大人しくしていなさい》

 

「今のは…魂、か?」

 

 ふと、健二の脳裏を過ぎるのは黒い着物を着た少女の言葉だ。彼女は、健二の魂に用事があると言っていた。あの結晶体を化け物に変性した健児(大食らい)に破壊されたことで余裕を失った彼女が、形振り構わずに徘徊者の魂を回収しているのかもしれない。

 その推測を裏付けるように神楽鈴の徘徊者の来た方向に健二が進んでいくと、奥の部屋には力を失った徘徊者が無数に転がっていた。

 

 突然、回廊全体が震動する。転びそうになる体をどうにか抑えつけて、走り廻る徘徊者の背後にある黒塗りの扉を開く。三つ目の勾玉を入手してからというもの、数分間隔で回廊が度々揺れるようになった。その中でも今の震動は最も激しいものだった。

 扉を開けた先には広大な空間が広がっていた。健二が居るのは高台に当たる場所なのだが、そこから部屋の全体像を把握できないほどだ。

 

「あの蜘蛛のような徘徊者(忍び寄る徘徊者)まで…取り敢えず、次の揺れが来る前に階段を降りるべきか」

 

 今の内に、階段を下りておくべきだろう。そう判断を下した健二が階段を降りると、部屋の中央には巨大な穴が空いていた。穴の底には美しい翡翠色の光を放つ巨大な結晶体が存在しており、その結晶体から生えた二本の角状の柱を通して上に何かを注ぎ込んでいる。

 穴の中央には円形の太い柱があり、その上部とは木造の橋で繋がっている。その橋を渡った先にはミイラに似た状態の人型の何かが眠っていた。

 

「私のお母さんよ」

 

 咄嗟に後ろを振り返ると、そこにいたのは両目を包帯で覆い隠した黒い着物の少女だった。

 

「もうずっと長い間眠ったまま。その魂は体を離れ、底知れぬ憎悪に苛まれながらも、今もこの世界を彷徨い続けている。何とか体は維持していたけど……」

 

 少女特有の可愛らしい声に憤怒と憎悪の色が混じる。

 

「あの男が器を壊してしまった。もう時間がない、今すぐ生き返らせなければ……」

 

「どういうことだ?」

 

「魂と体を一体化させるためには、途方もない力が必要なの。あの器で普通の魂を集めても、お母さんの体を維持するのでやっと。だから、これを被せた」

 

 そう告げた黒い着物の少女は闇の中から1枚の能面を取り出した。先程、健二が彼女と対峙した時にも目にしたその面は、被った者に正気を失うほどの大きな力を与える機能を持っている。あの時は、危うく人で無くなるところだった。

 今回は、祖父の助けはない。警戒心を露わにする健二に、少女は静かな声で淡々と言った。

 

「この面を被れば、魂の力が何倍にも増幅される。元となる魂が強ければ強いほどね。その力の大きさ故に大抵は自我を失い、人ならざる者へと変異する。でも、そういう者達は普通の魂を集めるのに役に立った」

 

 それが、徘徊者の正体。この回廊に迷い込んだ人間の成れの果てこそが【徘徊者】だった。

 

「あの男は素晴らしい魂を持っていた。あんなに自我を保っていられるなんて、正直驚いたわ。そしてその魂は、あなたに受け継がれている。本当は、増幅した魂を収穫したかったけど……」

 

 黒い着物の少女の言いたいことはオカルト素人の健二にも想像することができた。

 

「わかるでしょ、もう時間がないの」

 

 少女の母親の肉体を維持していたエネルギー源である魂の器が破壊された以上、今すぐにでも死者蘇生の儀式を実行する必要がある。そうでなければ、少女の母親の肉体は完全に腐り果てる。

 即ち、

 

「あなたには、今死んでもらうわ……」

 

 黒い着物の少女は顔の前まで右手を上げると目には見えないナニカを収束させていく。それがわかったのは少女の前方の空間が歪んで見えたからであり、そのナニカそのものを目視することは健二にはできなかった。

 こうなってはもはや万事休すということは健二にも理解できた。それでも、生きることを諦めたくないと相対する黒い着物の少女を睨みつける。

 

《来ちゃだめ! 逃げなさい!》

 

《おい、俺から離れていろ……》

 

 その時、黒い着物の少女が思い出したのは二人の親の姿だった。

 

 自分を庇い、社を取り囲む村人の前に立ったお母さん。

 健二を庇い、深淵にて自分の前に立った仲間殺しの男。

 

 ゆっくりと手を下ろす。少女には、もはや健二に対する殺意は宿っていなかった。

 

「まあいいわ…素の魂なんて、足しにもならない。そこで見てるといい」

 

 穴の底にある翡翠色の結晶体から角状の柱が急速に力を吸い上げる。その光は彼等の頭上で緑色の球体を作り出し、光の奔流となって母親の肉体へと降り注ぐ。その神秘的な光景を眺めていた健二は、妙な胸騒ぎを感じていた。

 このままでは良くないことが起きる気がする。しかし、何をする力もない健二には、そこで見ていることしかできない。

 

「なんで…!? こんなはずじゃない!!」

 

 その結果、少女の母親は未だ嘗て見たことがないほどの怪獣に変貌を遂げた。少女の母親が生き返ることはなく、憎悪のままに動き回る化け物に成り果てた。想像を絶する巨大な体躯で天井を突き破り、黄昏の空に飛び出していく。

 

「待って、お母さん!!」

 

 母の後を追うように部屋を飛び出した黒い着物の少女。ただ一人、部屋に取り残された健二に話しかける者は一人もいないはずだった。

 

「…遅かった」

 

 その声に振り返ると橋の前に黒猫が座っていた。その首には、五つの勾玉が連なる首飾りが掛けられている。翡翠の勾玉の放つ神秘的な光が影の中に佇む黒猫の姿を照らし出す。

 

「…君が話したのか?」

 

「やっと私の声が届きましたね」

 

 猫が喋る。十分に異常なことのはずなのに、健二はその異常を自然に受け入れていた。この世界で過ごす内に感覚が麻痺したのか、それとも驚くだけの余裕(SAN)がないのか。いずれの理由にせよ、その冷静さは現状で有利に働くものだった。

 

「事態は一刻を争うので、手短に話します。私のことは、一先ず置いておいてください」

 

「分かった。私にも分かるように、今の状況を説明してほしい」

 

「はい。彼女は、復活に不足していた力をこの世界を構成する力で補填したようです。お陰で私の声が届くようになりましたが…この世界は間もなく崩壊するでしょう」

 

 世界が崩壊する。創作物の世界では稀によくあることであるが、現実として目の前で起きるとなると理解が追いつかない。それでも、自分なりに理解しようと必死に情報を咀嚼する。

 

「復活のために集められた魂はどれも苦痛や憎悪によって歪んでいた。それがあの人を変えてしまいました。今のあの人は、もはや人ではありません。肥大化した憎悪そのものです」

 

「肥大化した憎悪……」

 

「あの怪物は、やがてあなたの世界に現れることになります。人の魂を食らい、更にその力を増し、途轍もない災厄になる…まだ力が弱い内に、こちらの世界で対処しなければなりません」

 

「どうやって?」

 

「この世界の礎となった27の人柱、その魂が燻っている場所があります。今なら、私でもその封印を解けるでしょう。27の人柱は膨大な力を蓄えている。とても制御はできませんが、真っ先にあの怪物に向かっていくはずです」

 

 27の人柱、この時の健二は即座にその意味を察することができなかった。だが、後にその意味を正しく理解することになる。阿地市中央部の山陰で土砂の中から発見された27の人骨。始まりの日に消えた27人の村人こそが人柱の正体――

 故に、人柱の27人は自分達を苦しめた化け物の親子を付け狙う。苦痛を、憎悪を、恐怖を、化け物に味わわせるために。

 

「後は、彼等が足止めしてくれます。時間が稼げれば、あの怪物もこの世界と共に消え去るでしょう」

 

「私はどうすればいい?」

 

「あなたが、その場所まで怪物を誘導してください。道中は私が力を貸します。上手くいけば、あなたを元の世界に返しましょう。……それでいいですね?」

 

「ああ」

 

「この首飾りを持って行ってください。あなたの身を守ってくれます。封印を解くためにも必要ですので、くれぐれも無くさないように」

 

 黒猫は勾玉の首飾りを床に落とす。

 

「私は先回りしています。また後で会いましょう」

 

 そして、首飾りを拾うのを見届けると再会の約束をしてその場を後にした。

 

 

 

「無事、健二さんは役割を果たしました。この勾玉の首飾りに守られながらも、肥大化した憎悪から必死に逃げて、27の人柱の元まで怪物を誘導してくれました」

 

 【勾玉の首飾り】には、物理・魔法問わず外的要因による負傷(ダメージ)を半減する加護が宿っている。この加護のお陰で健二は重傷を負うことなく、肥大化した憎悪から逃げ延びることができた。

 

「ですが…私には覚悟が足りませんでした。27の人柱に囚われたお母さんの後を追い、奈落の底にヒバナも消えていきました。その光景を目の当たりにした私は、かつてのヒバナのように、その内に眠っていた力を目覚めさせた。【時渡り】の力を」

 

「【時渡り】…そうか、ループを起こしていたのは君だったのか」

 

 この世界は同じ時間を繰り返している。本来、一日目の今日で脱出できるはずだった健二を閉じ込めていたのは、彼をこの世界に招き入れたヒバナではなく、彼を元の世界に帰そうとしていたヒガナだった。姉と同じように家族を救いたいという思いで彼女は奇跡を成し遂げた。

 

「最初は、何が起きたのかを自分でも理解することができませんでした。ですが、三回目の今日で全てを理解しました。嘗てヒバナがこの世界を作り出したように、私もまたこの世界の時の流れを巻き戻したのだと」

 

 それは、神の領域に手をかけた奇跡だった。

 否、神ですら、これほどの偉業を成し遂げるのは難しいことだろう。

 世界創造と時間逆行。

 どれほどの思いがあれば、そんなことができるのか。

 

「この能力で巻き戻すことができるのは一日だけ。私は今日という日を永遠に繰り返し、あなたたちが来るのをずっと待っていました。私の身動きが取れない今、状況を打開するには、あなたたちに賭けてみる以外にはありませんでしたから」

 

「身動きが取れない?」

 

「これも長い話になります……」

 

 ヒガナはその根源を語り出す。それは、あまりにも救いようがない神隠しの真相だった。




人類悪 変生


以上の経緯を以て彼女のクラスは決定された。四尾の狐など過去の姿。
其は人間が生み出した、人類史を最も有効に悪用した大災害。
その名をビーストⅠ。七つの人類悪の一つ、『報復』の理を持つ獣である。
(尚、この形態は幼体ですらない卵である。影の回廊という卵を食い破ることで、正式に報復の獣はビーストⅠとして顕現することになる)



九条大悟
Lv  31
HP  50/50
MP  14/14
SAN 65/65

榊凛太郎
Lv  31
HP  48/48
MP  12/12
SAN 55/65

秋本楓
Lv  31
HP  48/48
MP  12/12
SAN 55/60

小鳥遊姫子
Lv  31
HP  48/48
MP  21/21
SAN 75/90

所持品
・混沌の神楽鈴×6
・金色の鍵×沢山
・ひかり石×沢山
・爆竹×沢山
・古いカメラ×沢山
・コンパス
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