「いいなぁ……皆さん戦闘で活躍できて……」
ほう、と感嘆混じりの嘆息をもらす大鯨。執務室の窓からは、帰還した艦隊が鎮守府に向かっていくのが見える。
「私も改装されれば活躍できるのかなぁ……」
潜水母艦の自分が大鯨で活躍出来ないのは当然といえば当然である。軽空母として改装されればもっと活躍できる、と自分に言い聞かせながら訓練を積む日々だが、先は長い。
それでも、と大鯨は拳を固め気合を入れる。提督のためにも、艦隊のためにももっと頑張らなければ。
そこにがちゃ、とドアが開く音がした。
「作戦終了……帰還しました……」
「あ、ハチさん。お疲れ様でした」
やってきたのはハチだった。言葉の端々と体から疲労の色がにじみ出ている。彼女は『Danke』と疲れきった声で言うと、司令室を見渡し提督の所在を訊ねた。
「少し席を外しています。すぐ戻ってくると思いますよ」
「そう……じゃあ、ここで待たせてもらうね」
言うが早く、ハチは眼鏡と本を机に置くと、ソファーに身を投げ出し目を閉じる。お疲れ様です、と大鯨は優しい声と共に毛布を掛けてやる。返事はなく、代わりに小さな寝息が聞こえてきた。
大鯨はハチの頭を撫でてやりながら改めて思う。彼女達の負担を減らすためにも、一刻も早く自分が戦力となるんだ。そのためには強い者から学んでいかなければ、と。
では、誰から何を学ぶべきか、と考えると、机に置かれたハチの眼鏡が目に入る。
そこではたと思いつく。眼鏡を掛けている艦は、皆強いではないか。
ハチはもちろん潜水艦隊の主力として活躍しているし、駆逐艦隊の望月も『やればできる子』と聞く。あの大和型2番艦の武蔵も、金剛型の末っ子霧島も眼鏡を掛けている。
「はっ! つまり、眼鏡を掛けると強くなれる!?」
そうだ、戦闘中ウィークポイントにもなりかねない眼鏡を付けながら戦えるということは、イコール強者の証なのではないだろうか。
思い立ったら即行動。大鯨はハチのメガネを手に取り装着する。
「こ、これで私も強く……!」
なったかなぁ、と独り言ちる大鯨。体感としてはまったくそんな気はしない。いや、待て。外見だけでなく中身も真似る必要があるのでないか。
ならば、と大鯨は小さく息を吸い、手を前にかざしつつ叫ぶ。
「こ、この主砲の本当の力、味わうがいいです!」
間髪入れず火を噴く46cm三連装砲。なんてこともなく、ただ執務室に可愛らしい声が響いただけだった。
ですよねぇ、と大鯨は呟く。そもそもそんな大口径の主砲は積めないし。
だったら、12.7cm連装砲を積んだ艦ならば。
「射線は……まあ適当でもいいですよね……」
いやいや良くないです絶対にダメです、と自分で駄目出しする大鯨。いずれは軽空母になる身が、適当に弾を撃ってはいけないだろう。
「マイクチェック、わん、つー。わん、つー……。これは戦闘に関係ないですね」
霧島は、時報係を結構気に入ってると聞いたし、役目を取るのも悪い。
「あ、そう言えばハチさんってドイツ語が得意でした」
ひょっとして、強さの秘密は外国語を使えることも関係あるのかもしれない。ボールペンですら『クーゲルシュライバー』になるドイツ語なら、自分も強く出来るのでは。
潜水艦と潜水母艦、役目は違えど通じるものがあるはず。きっとこれで私も強くなれる。大鯨は確信を持っていた。
「えーと、確か……。ふぉ、ホイヤ!」
掛け声を出してはみたが、大鯨は何か違うと首をひねる。これだと戦場よりも祭りの方が似合いそうだ。
「ホイヤ、じゃなくてFeuerですよ」
「ああ、そうでした。けど、難しいですね」
照れくさそうに大鯨は笑って、その顔が固まる。流暢なドイツ語喋れるものは、この場には一人しかいない。
「大鯨さん、ドイツ語に興味ある?」
まったくそうは思っていない、意地悪な顔で訊ねるハチ。大鯨は、真っ赤な顔でぱくぱくと口を動かすばかりで、言葉にすることが出来ない。
「あああああのいついつかかから」
「『この主砲の本当の力、味わうがいいです!』からです。さすがに叫ばれたら起きますよ」
「あ……ああ……」
ということは、最初から聞かれていたということに――。
そこに思い至った大鯨は、今までやってきたことの間抜けさに思わず悶絶し、顔を抑えてへたり込んだ。今なら顔から出る火でフラ戦だって沈めることが出来る。だが、ここは執務室で戦場じゃない。普段は怖い戦場が恋しくなるなんて思いもしなかった。
「ハチさん……シュトーレン、食べたいですよね……」
「ん?……はいっ、食べたいです」
「で、ですよね!」
にかっと嬉しそうな笑顔をみせるハチに、大鯨は真っ赤な顔で引きつり気味の笑顔で応える。
どうやら、強くなる方法よりも先に、シュトーレンの作り方を学ぶ必要があるようだった。
大鯨ちゃん潜水艦作戦可愛い