「……不知火に落ち度でも?」
ニヤつく私にいつもの文句を言う不知火だったが、いまいち覇気が感じられない。それもそのはずと言うべきか。
「あんたも風邪引くのねぇ。ギリギリ夏だし、実は馬鹿だった?」
「陽炎」
「冗談よ、冗談。そんな怖い顔しないでってば」
睨みつける顔も、怠さが勝っているらしく鋭さが感じられない。布団に横たわる肢体も、重たげに見える。素振りを見せようとしないだけで、実はキツイのかもしれない。
だったら、あまりからかってもいられないか。
「司令も休んでいいって言ってから、ゆっくり休んでいなさい」
「しかし」
「無理に出ようとしたら、縛り付けてでも行かせないからね」
「……わかりました」
私が本気だとわかったのか、起こしかけていた頭を枕に戻す不知火。それでいいのよ、と私は笑いかける。
「寒くない? ポカリ買ってきたけど飲む?」
「頂きます」
「おっ、素直ね。お姉ちゃん嬉しいわー」
そんなことを言いつつ、私は不知火の体に腕を回して起こすのを手伝ってやる。触れる体は、布団にいた事を考えても熱く、病人だということを改めて認識させる。
「……艦娘も風邪をひくのですね」
私がコップにポカリを注いでいると、不知火はぼそっと呟く。
「んー? まあ、そうね。艦娘って普通の人間とは違うらしいしね」
何が、どのように違うのか、どうして違うのか私達自身ですらよくわかっていないが。水の上に立てる理由だって知らないし。もしかしたら、私達ではなく艤装にその理由があるのかもしれないが。
ただ、私達だって疲れはするし――死ぬことだってある。だから、少なくとも私は自分を人間だと思っている。
「ええ、だからこうして苦しんでいることが、生きていることの証なのかもしれません」
「……不知火」
痛みこそが、生の鼓動だと皮肉げに彼女は言う。
「艦娘は兵器なのか、人間なのか。どちらにせよ、戦場に身を起き続けることで、死を間近にすることでしか生を感じられない。そんな風になってしまうのでしょうか」
そう言って不知火は受け取ったポカリを口に含み、
「ッ! げふ、げほっ! ごっほげっほ!?」
おもいっきりむせてた。
「……どう? 生きてる実感あった?」
「……不知火に、落ち度、でも」
「はいはい落ち度無し落ち度無し。いいから大人しく寝てなさい。弱ってるからそんなセンチなこと考えちゃうのよ」
私がこぼしたポカリを拭いてやり、横にさせようとしたところ、不知火に腕を掴まれる。
「なに? 何かしてほしいことでもあった? 子守唄でも歌って欲しい?」
冗談めかして言う私に、不知火は無言のまま真剣な眼差しで応える。思わぬ反応に、私は戸惑い、何というべきか迷っている内に不知火が口を開く。
「陽炎の腕、冷たいですね」
「……え? って、ああ。そりゃあ、あんた熱っぽいんだからそうでしょ」
それがどうしたというのか。不知火は真剣な眼差しのまま続ける。
「生きているものは温かいそうです。けど、これではよくわかりません」
「いや、私を冷たく感じるってことは、あんたは温かいってことでしょ?」
違います、と不知火は首を横に振る。
「陽炎が生きていると実感したいんです。陽炎と生きたいのですから」
――いや、そのさ。真顔で急にそういうこと言うのやめてよ。絶対顔赤くなってるし、見せれないくらい変な顔になっちゃうから。
「……不知火、本当に熱のせいでおかしくなってるんじゃない」
「なので、約束です。不知火の風邪が治ったら、抱きしめさせてください。全身で陽炎の生きている証を感じたいです」
組んだ膝に顔を埋める私の言葉を無視して、不知火は一方的な約束を言い放つ。反論しようにも、こんな顔は見られたくない。
「では、よろしくです。不知火は寝ます」
ぼすん、という音が聞こえ、それっきり部屋には小さな呼吸音だけが聞こえ始める。おそるおそる顔を上げると、本当に不知火は目を閉じて眠っていた。
私は頭を振り、天井を仰ぐ。
「……あーもう。どうしろっていうのよ……」
さっきのは風邪で弱ってセンチになっていた故の言動か。はたまた普段は表に出すこと無く秘めていた思いなのか。
結論の出ない脳内会議は、様子を見に来た黒潮が痺れを切らして頭を叩くまで続いたのであった。
ぬいぬいは格好良い可愛い