七時雨   作:西風 そら

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雪のきざはし・Ⅴ

 

 

 

 

 

 蒼の里より地上を行って一昼夜、北東の山岳地帯。

 

 山に囲まれた盆地に広い川が流れ、そこそこ多くのヒトが住んでいる土地だ。

 商人が行き交う大きめの市街もある。

 今、街の入り口を、風采の上がらない男達の平凡な商人馬車が通過した。ちょっと異彩なのは小さい子供を連れている事。

 

「真ん前に着けなくていいわ。離れた所で降ろして、場所だけ教えて頂戴」

 

 マントのフードを頭からすっぽり被った子供は、きびきびした声で言った。

 

「な、なあ、嬢ちゃん、約束どおり、夜通し走って案内して来てあげたんだから、その……」

 大の大人達は、何かに怯えた感じだ。

 

「分かっているわ。蒼の里にも長さまにも黙っていてあげる。この件は公(おおやけ)にしないで、あたし一人で処理するから」

 

「ホントだよ、約束だよ。蒼の里を怒らせたとなったら、俺達、何処に行っても商売出来ない」

 

「分かってるってば」

 

「そもそも俺達は、これがそんなにヤバい物(ブツ)だなんて、知らなかったんだ」

 男達は、馬車の後ろの荷台にポツンとある包みを、爆弾を見るみたいな目付きで見た。

 

「信じるわよ。知っていたら、蒼の里の側にわざわざ来て里の子供にチョッカイ掛けるようなマヌケな真似をするもんですか」

 

「そうだろ、そうだろ!」

 

 馬車は、中央広場から幾つかある通りを見渡せる場所で、停まった。

 

「あそこの突き当たりの緑の柱の建物だ。表が商談場所で、奥が多分、倉庫」

 

「そう、ありがと」

 女の子は包みを掴み、馬車のヘリをポンと蹴って降りた。

「ケリが付いたら、これとマントは、後で必ず返すわ」

 

「いや、それより……えーと、嬢ちゃん」

「ん?」

「俺達ゃ、その物(ブツ)に、そこそこの金貨を払っているんだ。その……それはもう要らないから、金貨で取り返して貰えると有難い」

 

 フードの下の小さな口が、キュッと絞まった。

 男達は一瞬緊張したが、女の子は、「分かった」と乾いた声を残して、マントを翻して駆けて行った。

 

 

 突き当たりの建物は商店だった。

 雑貨や骨董を扱っている体裁なのだが、看板も出ていないし、間口も狭く如何にも胡散臭い。

 女の子は軋んだ戸口を開けて奥に歩いた。

 薄暗いカウンターに、胡乱(うろん)そうな大男が身体を起こす。

 

「何か用か?」

 客商売としては零点だ。

 

「これと同じ商品が欲しいの」

 

 女の子は包みをカウンターに置いた。

 男はフードで髪を隠した子供を疑わしそうに睨みながら、包みを開いた。

 

「……何処で、手に入れた?」

 

「何処でって? お屋敷に出入りの商人が先週持って来たのよ。あらちょっとどこのお屋敷かは旦那様の命令で言えないんだけれど。でもうちは、お子様が六人もいらっしゃるから、取り合いになってしまってね。あと五つ要り用だと言ったら、商人がここを教えてくれたの」

 

 奥の御簾がいきなり開いて、頭が禿げ散らかした小男が出て来た。

 

「どけ、俺がお相手する」

 

 気弱そうな大男は蹴飛ばされるようにカウンターの隅に押し込まれた。

 

「で、お嬢さん、入り用なのはこれと同じ物で?」

 

 小男は、女の子の持って来た()()()()()()を、仰々しく持ち上げながら言った。

 愛想笑いがここまでナチュラルに胡散臭いのも珍しい。

 

「そう! 有名な風露ブランドの楽器でしょう? 旦那様が是非お子様達に持たせたいと仰ってね。下の坊っちゃまは小さいから、大中小と揃うと嬉しいんだけれど」

 

「へえ、今、在庫を調べやす」

 小男が御簾を上げて、再び奥へ戻ろうとした。

 

「待って! ねえ・・」

 

 呼び止められて、男は止まった。

 

「これって、注文でないと手に入らないって聞いた事があるわ。在庫があるってどういう事?」

 

「独自のルートがあるんでさぁ」

 

 男は背中を向けたまま答えたが、低い声だった。

 

「うそ! ラゥ老師がそんな事、許す筈がない!」

 

 女の子が言い終わる前に、いつの間にか後ろに回り込んでいた大男が飛び掛かって来た。

 しかし女の子はツバメみたいな身のこなしで太い腕をかいくぐり、カウンターを飛び越えて、禿げ頭を踏み台にして御簾の奥へ駆け込んだ。

 

「あっ、このガキ!」

 

 男が掴んだのはマントだけだった。

 

 女の子はざんばら髪をなびかせて建物の奥へ駆ける。

 狭い通路に、頑強そうな黒ひげの男を先頭に何人かの荒くれが、武器を持って立ち塞がる。

 

「ふふん!」

 小さい足が壁に掛かったと思ったら、地上を走るみたいに壁から天井をぐるんと駆け抜け、あっという間に女の子は、男達の後ろに回った。

 

「えええい!」

 

 振り向き様に放った旋風で、男達は団子状になって入り口の方まで吹っ飛ばされた。

 頭を押さえてやっと立ち上がった小男はその団子の下敷きになった。

 通路の奥は半地下になっていて、頑丈そうな木の扉に閂(かんぬき)が掛かっている。

 

「こざかしい!」

 

 カマイタチ一閃、扉ごと真っ二つになった。

 

 分厚い扉が倒れる。

 中は思いの外広々とした空間で、木の板や工具が立て掛けられている。

 明かり取りの窓が天井近くに細く連なり、一番奥の椅子から立ち上がる影があった。

 女の子は、両手を広げてその影に駆け寄る。

 

「ナユタ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





挿し絵:地下室
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