……過去を省みるのを中止。
現在に戻ってくるとしよう。
いかに衝撃的な出来事があっても学校の授業は一切変わりなく進行して行く。
そして、5月1日の全ての授業が終了し、今まさに星之宮先生の話も終わったところだ。
いつもならクラスメイトはさっさと教室を後にする所だが……。
「みんな、ちょっと話を聞いてくれないかな?」
一之瀬さんが教壇の上に立って、そう呼びかける。
クラスの1/3の生徒は一之瀬さんが言うならという感じで席に座ったままで言う。
そして、クラスの2/3の生徒は私が座ったままなのを確認してから座ったままでいることを決める。
……まぁ、こんなもんか、一週間とちょっとの期間じゃ。
櫛田さんから情報を聞いて、今まで女子を中心にBクラスの生徒たちに尽くして来たんだが……いや、知らなかったとは言え自己紹介をバックれた私にしてはかなり良い成果……なのだろうか?
普通の人間、それも学生と接したことなんて片手で数えられる程度だから分からない。
友達も……人生で2人しかいないし。
それは置いておこう。
一之瀬さんは話を続ける。
ちなみに、星之宮先生はまだ教室にいる。
端っこの方だけど。
……ちゃんと、
「私は、これから各クラス間同士の争い……クラス間闘争が激化すると思うんだ。そして、そのクラス間闘争で有利に立ち回るためにこのクラスの指針を決めるリーダーを選出する必要があると思う。でも、クラスの皆んなの意見を蔑ろにするのは絶対にダメ。だから、これからBクラスのリーダーを多数決で決めようと思うんだけど……じゃあ、そもそもクラスリーダーを選ぶことに賛成の人は手を上げてくれないかな?」
これは全員が手を上げる。
誰だって分かる話だが、組織がなけりゃ戦いを生き残るなんて無理な話だ。秩序が保てないからね。そして、その組織にはリーダーという部品が必要だ。
これが分からないという人は、無政府主義者かなんかなんだろう。
「うん、皆んながクラスリーダーを決めたいっていうのは分かった。次は誰をリーダーにするか、だね。クラスリーダーに自ら立候補する人はいるかな?」
……。
誰一人として手を上げない。
私は本来あげるべきなのだろうが……やたら手が重く感じ、上げられなかった。
これが、私の意志と本能に齟齬が生じている影響か。
「にゃはは……やっぱりいない、か。じゃあ、誰がリーダーに向いてると思う?」
ここで、神崎隆二という男子生徒と白波千尋という女子生徒の二人が手を挙げる。
「そうだね……まずは白波さんは誰がリーダーに相応しいと思うのかな?」
「私は……一之瀬さんがリーダーに相応しいと思うの。賢いし、優しい……」
ま、彼女が一之瀬さんを推すのは知っていた。
明らかに、一之瀬さんのこと好きだしなぁ……友達的な意味でか恋愛的な意味でかまでは知らないが。
「うーん、私はそこまで凄い人じゃないんだけど……分かったよ。白波さんは私を推すんだね。じゃあ、神崎君はどうかな?」
「俺は、霧ヶ峰がリーダーに向いてると思う。小テストの成績は学年トップで人の感情を読み取る能力も突出している」
「なるほどね、神崎君は霧ヶ峰さんを推すと。他に誰かいないかな?」
もう手を挙げる人は出てこない。
それを確認した一之瀬さんは口を開く。
「じゃあ、私と霧ヶ峰さんのどっちがリーダーに相応しいかで決戦投票をしようかな? それでいいかな、霧ヶ峰さん?」
「えぇ、構いませんが……少し、皆んなの前で話をしてもいいですか?」
「うん、大丈夫だよ」
その言葉を聞いた私は、紙の束が沢山入っているバッグを手にとって教壇へと歩み始める。
さぁ、今こそ楽にしてあげるよ。
1ヶ月という短い間だったけど、クラスのリーダーをやってくれてありがとう。
偽りのリーダー、一之瀬帆波。
君は、君の背丈にあった地位に戻るべきだ。
私は教壇にたどり着く。
クラスメイト達の方を向く。
そして、一度深呼吸。
私の自我を奥へと追いやって、本能に後の行動を委ねる。
準備完了。
私は口を開く。