「左の弾幕多めだ!」
「了解!」
四人の連携が段々と完成していた。
悟飯の指示は具体的になり、危ない弾や警戒すべき場所を伝える。
それを元に園子が守りながら、ルートを決める。
須美は銀に当たりそうな弾を正確に落とし、道を作る。
その道を、銀が突き抜ける。
「須美、大雑把に!」
「りょう……かいっ!」
須美が複数の矢を同時に放つ。流石に数が増えれば命中精度は落ちる。しかし、同時に気弾が矢へと直撃した。
「曲がったっ!」
気弾の当たった矢はその軌道を少しだけ変えた。そして、当たらない筈だったバレーボールを貫き、銀の行く道が生まれる。
悟飯の出した結論。敵を攻撃出来ないなら味方を。昨日思いついたばかりの、悟飯の支え方。
「今だっ、銀っ!」
「うおおおおっ、ごぉぉぉぉる!」
叫び声と共にバスが大破した。限界まで破壊しろと言われていた銀は更に回転しながら、バスを解体していった。
「やった!」
「やったやったー!」
須美と園子が手をあげて喜ぶ。園子に至っては数時間も経っていた筈なのに、疲れを忘れ、飛び跳ねて喜びを表現している。
銀の元へ向かった悟飯に、銀が気付く。
「やったな、銀!」
「くぅー疲れたぁー悟飯、だっこー!」
手を伸ばしてその場の座り込んだ銀を見て、悟飯は笑う。
合宿、三日目の朝の事だった。
――
連携の特訓を完遂した四人は、合宿最終日を楽しんでいた。
海で遊ぶという話になり、泳ぐは流石に寒いので却下されたが、バレーボールやビーチフラッグになった。
結果はバレーは悟飯須美チームの勝ち、ビーチフラッグは悟飯の圧勝、次点で銀、須美園子の順で終わりだ。
その後は周辺の散歩と買い食いをしていたらいつの間にか夜である。
そうして悟飯は今、勉強をしている。
「え、悟飯も弟居るのか!?」
買ったお土産などの荷物を片付けていた銀が立ち上がった。
宿に戻った銀と悟飯は部屋で雑談をしていた。須美と園子は安芸先生に呼ばれてしまって今は居ない。
「まだ二歳だけど、悟天って名前で一人。も、って事は銀にも弟が?」
「あたしんとこは二人。鉄男と金太郎って言うんだ。金太郎はまだ赤ん坊よ」
机の上で開かれていたノートを取ると銀が漢字を書いて見せる。悟飯もそれの隣に同じように書いた。
「手は掛かる弟だよ。すぐ愚図るし、何がしたいのかもわかんなくて……」
「目を離すと勝手に動いて、危なっかしくて、困っちゃうけど……」
「「かわいい!」」
「そうなんだよなー!」
二人が顔を見合わせ笑うと同時に、トレーにお菓子やジュースを持った須美達が部屋に入ってきた。
それに気付いた銀が、おお! とテンションを上げる。
「なになにー、なんのお話?」
「弟について、かな」
「手が掛かって困っちゃうって話さ……」
銀の言葉に園子が首を傾げた。
「弟? ゴッくんもミノさんも弟居たんだ〜」
「そうそう、あ、確か写真が……」
銀は思い出したようにスマホを取り出し、三人に見せた。
「これが未来のあたしの舎弟さ」
「舎弟って……」
「弟が居るとは知ってたけどまだ赤ん坊……なのね」
画面にはまだ赤ん坊と六歳前後であろう男の子が映っている。須美はそれを見て驚いていた。
「かわいいだろ?」
「ええ……。もしかして銀はいつもお世話を?」
「まぁね。うちはお手伝いさんとかは居ないからさ」
あははと銀は笑った。
「それで、悟飯のは写真とかある?」
「一応お母さんが撮ったのが……あった」
そこには銀の弟ほどではないが、かなり幼い子が映っている。これまた須美が驚いている。
「凄く独特な髪型ね……」
「確かに! ツンツンだ!」
悟天の髪型はかなり独特だ。父親の悟空と全く変わらないレベルで、一度聞いてみた事がある。
チチが言うにはサイヤ人は同じような顔や髪のパターンばかりと言う話らしかった。
「いいな〜、私も弟欲しいな〜」
「そうね……兄弟は確かに羨ましいと感じるわ」
それから暫くは弟がどう可愛いか、どう困るかという話が続いていた。
それを聞いてる須美と園子が羨ましそうに聞いているのをみて、ついつい銀と悟飯はそれでと話し続けてしまう。
そうして、就寝時間が近づいた時、園子から提案があった。
「孫さんは、一番後ろに……いえ、いっそ前かしら」
「なんかポーズとらない? ヒーローみたいなさ」
「敬礼なら認めます」
「それはちょっと……」
園子の提案は思い出を写真に残そうと言う事だった。カメラの用意は当然していたらしく、三脚につけられたカメラの前でそれぞれの立ち位置を決めていた。
最初は身長順に銀、園子、須美、悟飯の順に横に並んでみたがいやに悟飯が目立つと言う事で集まろうという話になったのだが、どう集まるかが決まらない。
「そういえば、園子はどうして写真を?」
「メモも良いけど写真に残すのもとっても大切なんよ……」
「え、えっとそうなのか? まぁ、あたしは良いんだけどさ」
そうして四人で話し合って、最終的に全員で肩を組むという風に決まった。
「……私まで?」
「はいっ! どうせならば皆で撮りたいなって!」
何枚か撮った所で、銀の提案で四人は安芸先生も誘うおうと言う話になった。
厳しいがそれ故に誠実で、生徒想いだというのは神樹館に通う人間なら周知の事実だ。撮らない訳にはいかない。
「五人か……そうだな、戦隊物のポーズを」
「戦隊か……ギニュー特戦隊を思い出すな……」
「お、なにか案があるのかね悟飯くん」
「あ、いやなんでもないですっ……」
銀と悟飯がじゃれ合っている間に三人はさっさと準備を整えていく。
場所を外に移し、旅館を背景に須美達三人が前でしゃがむ。悟飯と安芸先生が後ろで中腰で枠内に収まる。
撮影はすぐに終わり、園子が内容を確認する。するとすぐにぱぁっと笑顔になった。
「ばっちり! ありがとう皆~」
「お、園子が見た事もない笑顔に……」
「乃木さんが楽しそうでよかったわ」
「仲がいいのは良い事だけど、そろそろ消灯時間だから早めに部屋に戻るようにね」
「はーい。安芸先生にも後でデータを送りますねー」
そう言って宿へと戻って行ってしまった安芸先生を見送り、四人が残る。
「しかし、意外だったな。須美が写真がこんなに乗り気になるなんて」
「カメラやパソコンとか、替えの効かない物は私だって使います」
「あ、いやそうじゃなくて……それもあるけど、ちょっと嬉しくてさ」
祝勝会から、須美は良く三人を誘うようになった。今まであまり交流少なかった二人からすれば確かに、嬉しい話だった。
それを聞いて須美は振り返って、宿へと歩いて一定待った。
「そ、そろそろ消灯時間ですから部屋に戻りましょう!」
「あ、照れた」
「照れてる~」
走って行ってしまった須美を追いかけて三人も宿へと戻っていく。
部屋に戻り、四人は布団を敷く。最後の日を終えようと悟飯が電気を消そうとした時、銀が立ち上がった。
「ちょっと待って悟飯。合宿の最終日だぞ、簡単に寝られると思ってるのか?」
「え、何かあった?」
「私は自分の枕持ってきてるからぐっすり~」
「それ枕だったんだ……」
猫のぬいぐるみ、改めサンチョを枕にして寝転がっている園子に悟飯は困惑していた。しかし、それ以上に突っ込みたい事があるのだが、それは抑える。
「園子さんや、その服は……」
「鳥さん! 私焼き鳥すきなんよ~!」
「そっか……」
銀が悟飯の言いたかった事を聞くと園子が体を起こして腕をパタパタと振った。鶏モチーフのパジャマで、靴下から頭のフードまで一式そろえられている。
しかもその理由が焼き鳥が好きとなれば、全員が苦笑いする他なかった。
「よ、夜更かしは駄目よ! いつも通りに寝ないと、迎えが来てしまうのよ……!」
「迎え!?」
「アハハ……」
須美のやけに真に迫る幽霊の演技に園子が怯え始めて銀が慌てて手を振る。
「違う違う。そう言うのじゃなくて、好きな人の言い合いっことかさ!」
「す、好きな人……」
「銀は居るの? 好きな人」
悟飯が布団に戻って問いかける。それを見て銀が、にやりと笑った。
「そりゃあたしは、弟とか!」
「あー……」
「家族はずるいよ~」
言いだしっぺが初手でズルをしてしまうと、その後に続くのもそうなってしまう。
須美は居ない、悟飯も良く分からないと続いてしまった。
「なんだよー、園子は?」
「あたしは居るよ~」
「え、マジ? 教えて教えて!」
「え、く、クラスの人!?」
二人が興味深々と言った風に園子を見る。
ふっふっふ、と勿体ぶるように笑った後、園子は悟飯を見た。
「ゴッくん……」
「えっ」
「と、ミノさんとわっしー!」
「だと思ったよ……」
ギャグマンガよろしくな転び方をした後、銀が笑った。須美は頬を赤らめたが、園子の言葉に少し頬を膨らませた。
どうやら本気で勘違いをしたらしい。
「これで良いのかね」
「小学生で恋愛って言うのは……聞いた事はないかな……」
「そうよ! それに、わたし達には神聖なお役目があるのだから!」
須美がそう力説して、電気を消しに行った。時間は消灯時間を少し過ぎていた。
欠伸をした悟飯はふと銀を見た。
銀は少し考えるように素振りをしていた。悟飯に気付くと手を振って、おやすみと
布団の中へと入って行ってしまった。
「じゃ、おやすみ!」
「おやすみ」
「おやすみー」
「おやすみなさい」
そうして、最終日が終わっていく。
――
そして次の日朝、帰りのバスに銀が遅れて乗り込んでいた。
「わ、わるいわるい、野暮用で……」
既にバスの一番後ろで座る三人に謝る。
悟飯は苦笑いしながら手を振っているがその隣、須美が銀を睨んでいた。
「遅いっ! 何をそんなに遅れるの!」
「いや、ちょっと野暮用で……」
「野暮用って」
「大した事ないんだ! ごめんよ、須美」
食い気味にかぶせながら手を合わせた銀を見て、須美は大きくため息を吐いた。
それ以上の追及はなかったが、バスの中ずっと訝し気に見つめて、居心地がよくなさそうにしていた。
――
合宿から帰って、何事もなく学校は続いた。
たった数日の話だったが、同年代の誰かと寝食を共に過ごす日々は初めてで、未だに嬉しさからか時折思い出す。
定期的に行われるらしい習字で、悟飯は「四位一体」と書くまでには。
一応思いつかなかったらと提示されたものはある。「温故知新」や「一日一善」など四字熟語が多いが、「団結」などそうでないという訳でもない。
クラスメイトの大半がその例を書いていて、それから外したのはあまり良くないかなと思ったが教室の後ろに全員分が張り出されると杞憂に終わった。
須美は「七生報国」と、常に日本という国についてを考えているのが良く分かる四字熟語だ。やけに満足気に自分の書いた文字を見ていた。
銀は「焼肉定食」、良くも悪くも自分に素直な彼女らしいものだ。書いた時の感情がよくわかる上に、紙一杯に使って書かれた力強い文字はクラスメイトから好評だった。
そして園子が「ZZZ」。もはや何もわからなかった。いやにキレイな文字で書かれているものだから悪いとも言えず、どう反応していいのか安芸先生すら困っていた。
「だから、三ノ輪さんの遅刻の理由を見つけて、それを改善するしかないわ」
悟飯は放課後にそう言った須美の言葉を思い出していた。
銀の遅刻癖は確かに気になる事ではあるが、銀だって不真面目であるという訳でもない。そんな気にしすぎる事だろうかと悟飯は思っていた。
後ろを歩く園子もきっとそうだろう。
……園子が居ない。
「あれ、園子?」
「え、乃木さん!? 何処かではぐれたとか……」
二人が、居なくなった園子を探して辺りを見回すとすぐに見つかった。
道の端、アリの行列を眺めている園子がそこにはいた。
「へいへいアリさん、元気ですか~?」
手まで振っている。
悟飯達は今、銀の家へと向かっている最中だった。須美いわく、尾行してその原因を取り除かないと、との事だった。
園子は須美に引きずられるように連れていかれてしまった。悟飯はそれを苦笑いで眺める。
辿り着いた三ノ輪家は大豪邸と言う程ではないが、一般よりはやはり大きい。
生け垣で覆われて中は見えないが、見える部分だけでも立派な日本家屋と言った風だ。
「それで、どうするの?」
「これよ」
そう言って須美が取り出したのは先端に斜めにレンズのついた特殊な双眼鏡のような物だった。どうやら上に棒を伸ばし、塀の向こうが見れるらしい。
本格的な覗きをしている須美に悟飯は呆れていた。
周りが見れないというか、前しか見ていないというか、須美も大概なのだ。園子はそんな須美をキラキラとした目で見ている。
しかし、悟飯も気になりはする。生け垣を少しかき分けて中を見た。
少し草が邪魔で、更には遠い。
「すぅ……」
悟飯は息を吸って目を凝らす。
見えた縁側に、銀は居た。掃除をしていたようだが、家の奥から赤ん坊の泣き声がすると走って行ってしまう。
「あっー、はいはい、泣かないの。マイブラザ」
「……大変そうだ~」
今度は弟を抱えて出てきた。
赤ん坊の弟をあやしながら、掃除の続きをしている。
大変そうと須美は呟いた。
するとまた家の奥で銀の名前が呼ばれた。呼ばれた銀がそちらへ走って行ってしまう。
「どうしたのかしら……」
「お使いをしてと呼ばれたみたいだね」
「聞こえたの? 耳も良いんだ~」
須美と園子が、悟飯を見た。なんと悟飯は超怒髪天へと変身していた。
二人の視線に気付くと、すぐに元に戻ってあははと苦笑いした。
須美が小言を言おうとしたが、それと同時に銀が家から出て行ったのが見えた。
「……とにかく追いかけましょう」
問題はその道中だった。
銀の目の前を通り過ぎようとした少年が大きく転んだ。顔は何とか守れたが、擦りむいた膝を抱えて泣き出してしまう。
「あ、子供が転んだ」
銀の目の前を通り過ぎようとした少年が大きく転んだ。顔は何とか守れたが、擦りむいた膝を抱えて泣き出してしまう。
銀は子供を抱き起こし、慰めていた。傷口に絆創膏貼ってあげて、暫く泣き止むのを待っていると母親が迎えに来た。
「ミノさん優し〜」
そうして銀はまた歩き出す。
「倒れた自転車を起こしてる~」
ドミノ式に倒れた自転車を一台一台丁寧に戻している。その行為に感化されて、近くの数名も戻し始めた。
すぐに終わってまた歩き出す。
「……道案内してるわね」
おばあちゃんに道を尋ねられ、手を取ってそこまで案内していた。
そう遠くはないが、大きく時間を取った。
「トラブル体質なんだね~」
少なくともお使い先であるイネスにつくまで、五回はトラブルに巻き込まれた。
そして、イネスの中でも子供の喧嘩に巻き込まれたり、果物を落としたのを拾う手伝い。
「もう見てられないわ!」
そう言って、走り出したのは須美だった。
三人は落ちた果物を拾い上げていく。銀は驚いた顔をしたが、とりあえずと果物は拾いきった。
お礼を言って去っていく背中を見送ってから、三人は銀と目を合わせた。
「それで、何でここに?」
「えっと……」
「ボクが話すよ。あっちで」
悟飯が指差したのはフードコートだった。
四人がそれぞれ料理を頼んでから席に着く。選んだのはうどんと、うどんと、うどんと、うどんだ。
それぞれ違うが、悟飯が選んだのは銀おススメの肉ぶっかけうどんだ。
悟飯から説明を聞いた銀はうどんを一回啜った後で、大きく笑った。
「なるほど、それでついてきてたのか。言ってくれればよかったのに」
「それじゃ尾行にならないでしょ。それに、元はと言えば、三ノ輪さんが遅刻を繰り返すのが悪いんです!」
「うげ、それは……そうですはい。あたしが悪かったです」
痛い所をつかれ、銀は頭を下げた。
「とは言え、銀が率先して人助けしてるのを見て凄くカッコよかったよ」
「そうはっきり言われると、なんだか照れるな」
「ミノさんかわいい~!」
「よせやい!」
「孫さんもそうやって……確かに、行い自体は素晴らしい物だけど……」
須美は納得がいっていないのか、でもと言っている。人助けをするなとは、言えないのだろう。
勇者としての行動を求めるなら銀の行いは大手を振って褒めていい。しかし、その後はどうにかすべきだ。
思いつかないのだが。
「それはそれ、これはこれです」
「わっしーは真面目さんだなぁ」
「少しくらい大目に見ても良いとは思うけど……。まぁ、忘れ物は無くした方が良いかな……」
二人に言われると、流石に須美も考える。
「そうだそうだー。ま、須美はちょっと硬いんだよ。まだあたしのこと三ノ輪さんって呼んでるままだし、もっと柔らかく銀って呼んでほしいかな」
「わたしもわたしも! そのっちで!」
「そ、それは……」
銀の言葉に須美が考える素振りをとった。今だに上の名前を読んでいるのは須美だけだ。
それが気軽な関係であればよいが、須美には三人にも分かるくらいに恥じらいや遠慮を見せていた。
「まぁまぁ、二人とも――」
悟飯が言葉を言い切る前に、四人は気付いた。
勘のようなもので、ふと周りを見れば全てが時間が止まった様に動かなくなっていた。
一番問題なのは持ち上げたまま浮いたうどんの箸だ。
「食事中だってのに空気読まないな―バーテックスは」
「それでもやりましょう。三人共」
「おうともさ」
「頑張ろう~!」
「そうだね」
三人が須美の言葉に頷く。
お役目の時間だ。