「ありがと、悟飯くんは教えるの上手いから助かるよ」
悟飯と机を合わせたクラスメイト、大西さんが机に倒れ込む。
勉強があまり得意じゃないと自負する彼女は成績が悪く、時折悟飯に分からなかった所を聞いているのだ。
しかし、最近ではそれを聞いた須美も時折混ざるようになって、彼女の成績は右肩上がりだ。
「教える事自体は良いけど、あんまり頼りきりにならないようにね」
「正論……次回は自分で頑張ります……」
目を逸らして頭を下げた大西さんに少し呆れながら、悟飯は窓の外を見た。
お昼休み、校庭ではしゃぐ銀の姿が見えた。悟飯も誘われてはいたのだが、球技は気を抜くとすぐ力加減をミスしてしまうと須美にキツく止められていた為に断念した。
その須美はと言えば、日直としての仕事をこなしている。黒板を消して、クリーナーにかけてついた汚れを落とす。その次に配布物を配っていき……と、とにかくテキパキと真面目に進めている。
「調子はどうですか、大西さん」
「バッチリ! 終わりましたよ須美さん!」
悟飯の元に配布物を渡しに来た須美が話しかけてくる。それに大西さんがピースで返す。
悟飯を通じて須美も全体的にクラスメイトからの印象が堅そうから真面目さんに変わりつつあった。
実際、小言が多めな彼女はどうしても少し敬遠されがちだった。彼女のまわりにも真面目な人達が集まると言った具合だったが、悟飯や銀を通して話す機会が増えるとそうでもないと全員が気付いていったのだ。
「いや~お役目に選ばれた人は違いますな」
「そんなんじゃないって」
「そうですよ。神樹様に選ばれるのと、勉強が出来るのは全然違います」
「しまった」
須美の小言の時間が始まった。それに気付いて手で顔を覆った大西さんだが、もう手遅れだ。
「大西さんは少し授業中に眠そうな事が多いですよね。夜更かしをしているのですか?」
「ちょ、ちょっと……」
「だからですね。それに、夜更かしは成長も阻害しますよ。この前に背が伸びないと言っていましたけれど、そうやって不健康な生活をしているから」
流石須美、クラスメイトをよく見ていると悟飯は感心していた。
これは大西さんに限った話ではない。全員をしっかり見て、しっかりそれにあったアドバイスをしている。友達想いの須美らしいのだが、ちょっと一回が長い。
助けを求めるような視線を送ってきた彼女に対し、首を振って諦めを促すと悟飯は立ち上がる。
「ちょっとお手洗いに」
そう言って教室を出た悟飯は廊下をチラリとみる。廊下で会話している別クラスのグループだったりが居るが、その中で一人だけ教室を覗いている少女が居た。
覗いているのが六年二組、悟飯達の教室であり少し気になった。
「どうしたんですか?」
「えっ……」
「誰か探してるなら、ボクが呼んできたりとか」
振り向いた少女は前髪で片目が隠れてた大人しそうな雰囲気を持っていた。彼女は悟飯を見て、目を見開いて驚いている。
それを見て、驚かせたかなと悟飯は少し屈む。目線を合わせると彼女は凄く目を泳がせて何かを言おうとしているのかその、えっとと繰り返している。
「そ、そういう訳じゃなくて……」
「あれ、そうなんですか? あっ、ボクは六年二組の孫悟飯です。よろしく」
「し、知ってる。お役目についてる……」
「えっ、そんなに有名なんだ……困ったなぁ」
頭を掻いた悟飯を少女は凄く興味深そうに見ていた。
その視線は悟飯も覚えがある。珍しそうな物を見る、と言う風な目だ。原因はそれなりに高い身長と異様に鍛えられた肉体だ。クラス中の力自慢は既に悟飯に敗北している。
お役目以外でも有名になる要素は少なくなく、本人に自覚はないが、こうして別のクラスから悟飯を訪ねてくる人は少なくなかった。
「と言っても、お役目について話しちゃ駄目って言われてて……」
「そう、なんだ……。えっとなら私はこれで」
「あ、いやよく考えればお役目の内容以外だったら見せてもいいのかな」
お役目の内容以外、かめはめ波は問題だが気については別に他人に話すなと言われていない。
そもそもこんな所で見せびらかすものでもないが、折角来てくれた人をごめんねとだけで返す訳にも行けない。
「と、特別に見せれるものなら一個あるので外、行きませんか?」
「え、え? う、うん分かった……」
何があるのか分からないと言った風の少女は流されるように悟飯の後ろを付いていった。
辿り着いたのは体育館の裏である。人に見られないようには一応配慮する。
「えっと……ここでなにを」
困惑する少女を横目に悟飯はすぅっと息を吸う。
瞬間、悟飯の姿が変わった。
「なんだそりゃあ!?」
「スーパー、じゃなかった。超怒髪天って言うんだけど……」
「ちょうどは……よくわからねぇがなんだよそれ……」
「あれ……雰囲気変わった?」
「あっ、しまった。驚いて変わっちまったじゃねぇか」
頭を掻いた少女は一度髪をかき上げた。
隠れていた片目が現れ、目付きも変わった。一瞬にして大人しそうだった印象が荒っぽく変わる。
「てか、俺ら自己紹介すらしてねぇじゃねぇか」
「あっ、そうだった……」
「俺は山伏シズクだ。で、最初に会ったのがしずく」
「しずくさんと……しずくさん?」
「俺がシ、ズ、クだ!」
「えっと……分かった!」
あまりわかっていないが悟飯は雰囲気で頷いた。
とにかく目の前に居る荒っぽい雰囲気の山伏がシズクだろうと言う事は理解した。
「それはいいとして、なんなんだよそりゃ」
「お役目の為の……力? いや、違うのかな……とにかく凄い力を持ってるって感じかなぁ」
「なんで当の本人が曖昧なんだよ……。と言うか、俺達に見せても良かったのかよそれ」
「えっ……あー、多分大丈夫じゃないかな!」
あははと苦笑いした悟飯に、シズクは呆れていた。悟飯としては折角来てくれたのだからと何かしてあげたかっただけなのだが、その後は何も考えていなかった。
それに言いふらすような人にも見えなかったというのもある。
「お人好しにも程があるだろ……」
「まぁ、だからくれぐれもご内密にって感じで」
「はぁ。まぁ、分かったよ」
呆れた態度のままシズクは頭を掻いた。それと同時にかき上げられた前髪がおりて、最初の雰囲気を取り戻した。
それを見て、悟飯も変身を解く。
「その……えっとありがとう」
「え、ああうん。どういたしまして」
「やっぱり悟飯だ。おーい何してんのー?」
遠くから掛けられた声に悟飯が振り向くとそこには銀が居た。短時間だが目一杯に遊んで少し汗をかいている。
それを見て、休み時間の終わりが近い事に気付いた。
「三ノ輪銀、銀もお役目についてるけど」
「うん、見た事ある」
「おっと知らない人だ。あたし、三ノ輪銀って言います」
「山伏しずく、です」
銀が自己紹介するとしずくも返した。
それと同時に銀が悟飯を訝し気に見た。
「ところで二人は何してたんだ?」
「え、えーっと、お話?」
「お話って。怪しすぎる……」
目を逸らしながら必死に言い訳を考えるが悟飯は思いつく事がなかった。かわりにしずくが一歩前に出る。
「私が、孫さんにお役目について聞いてて……。傷だらけになってるから大丈夫かなって」
「なーんだ、そう言う事か! でも最近は慣れてきて傷もなくなってきたから安心安全よ」
笑顔を見せた銀にしずくも笑った。それを気まずそうに悟飯が見る。
それと同時に休み時間の終わりが近い事を知らせる鐘の音がなった。
「あ、しまった。はやく戻んないとまた須美に色々言われる……」
「それはちょっと困るな……早く行こうか」
駆け足で戻っていった銀を見送ってから悟飯は振り返ってしずくを見た。
「さっき誤魔化してくれて助かったよ。またお役目について以外でも話そう」
「あ……うん!」
「放課後とか、またねしずくさん!」
銀を追い掛けるように悟飯は走っていってしまう。
また、と言われて大抵はもう話す事はないだろうと思った。のだが、まさかの放課後と指定されて呆気に取られていた。
そして忙しない人、と笑った。