「……どうかな」
「おおー、カッコいいじゃん!」
放課後、魔族服を着て教室に入ってきた悟飯を、銀達が絶賛する。
園子の夢から着想を得た衣装を作り、それを使ってオリエンテーションをしようと言う話になった。
それで、丁度いい服がないかと探している時、かつての師、ピッコロからもらった魔族服を思い出し、今、試しに見せていた。
「マントもしっかりあるし後は仮面とかつければ完璧だね~」
「この服、何処に売ってるんだ? イネスマスターのあたしでも見た事がないぞ」
「これはピッコロさんに貰ったから、売ってはないかなぁ」
悟飯の服の大半はこの世界に来た時に持っていたもののままだ。
ただ基本は体一つで放り出されてしまった為、この魔族服は、ピッコロから教わった物体出現魔術で作りだしたものだ。
作れるのは服や武器程度で、知っている物に限られる。かなり精度も甘く今着ている服は十三回目のトライで生み出した物だ。
お陰で今、衣装作成用の布には困っていない。
「仮面かぁ、どうせならお揃いのがいいかな」
「そしたらどっちに合わせる? グレートサイヤマンか、国防仮面か」
「国防仮面よ!」
「だよね〜」
幾つかあるデザイン案から選ばれた衣装を須美達は手作りしている。
しかも1からの手作りであり、その作業に関しては須美と園子が率先してくれている。家にいる使用人達から教わっているとのことで、やけにクオリティが高い。
あまり器用な方ではない銀と悟飯はその衣装を使ってするイベントの準備だ。
「他の人も何するか楽しみなんだよな」
「大西さん達は確かラップだったよ」
「え、ラップ……?」
「えへへ、当日が楽しみだね~」
悟飯に部屋を丸ごと借りてラップバトルをするのだと話してくれていて、今度別の機会に聞かせてもらうという約束をしていた。
後はシンプルなけん玉やツイスターゲーム、オリジナルカードゲームを作るチームまでいる。どれも参加したくなるようなものばかりだった。
「ありがとう」
「うん?」
「三人のお陰で、最高のオリエンテーションになるわ」
須美の言葉に三人が笑う。
全員が思った事だ。きっと良い物になる。
それこそ、他の誰よりも自分達が最高のものを作ったと胸を張れる。
競争ではないがそれくらいの自信、信頼があった。
「よし、今日はもうひと頑張りしちゃうかな!」
「頑張ろうー!」
「「「おー!」」」
――
オリエンテーション当日。
午後の授業を全て使い、一年生が六年生と遊んでいた。このオリエンテーションの目的は学校に慣れると言う事であり、それは順調に達成されていると言える。
しかし、須美に言わせればまだ足りない。
そう、大切な事を教えていないのだ。
教壇のあった場所から太鼓の音が響く。
「うん?」
その音に、教室内外から視線が集まる。
そこには紙芝居の台と、太鼓を持った銀が居た。
「さぁ! 海の向こうから悪い大猿が我が国に攻めてくるぞ! 大変だ大変だ!」
銀の語りになんだなんだと人が集まる。
巨大な大猿が町を破壊する絵があるが、ポップな絵柄のお陰かニコニコと何が起こるか楽しみにしているのが分かった。
それを見て銀の演技にも熱が入る。
「ずしーん、ずしーん。なんて綺麗な場所なんだ。この土地をよこせ!」
「うわぁ……」
「大変だ……」
「図々しい大猿はこんな事を言っているぞ。……君ならどうする!?」
銀は太鼓のバチを使って一人の一年生を指名する。
当てられた少年は驚いた後、少し考える。
「えっと……怖いし、逃げる……」
「それだと、大猿がここを盗っちゃうぞー」
「あ、そっか……」
少年は俯いて考え込んでしまう。しかし、その隣で一人立ち上がった。
「戦う!」
力強く拳を振り上げて言った少年に銀が笑う。
「そう! あたし達には神樹様がついている! 勇気を出して、戦いましょう!」
そう言うと銀は台の後ろへと戻る。
「国防仮面と一緒に!」
紙を引き抜き、次の話へ。
……と言う所で、一年生から疑問の声が上がる。
「あれ、何も書いてないよ」
そう、次の紙は白紙だった。
「おお? 本当だ。なら、皆で呼んでみよう! お姉さんに続いて。せーのっ、国防仮面ー!」
「「「「国防仮面ー!」」」」
一年生全員の叫びが教室の外にも響いた。
一年生だけではない。ノリのいい六年生達、外から見ていた他のクラスの人間も国防仮面を呼んだ。
廊下には誰も待機していない。教室にもそれらしき影はない。
しかし、呼ばれたならば、ヒーローは現れる。
――風が吹いた。
「国を護れと人が呼ぶ」
それと同時に、黒い衣装に身を包んだ背中が突然現れる。
そう、彼女こそが国防仮面一号。
「えっ」
「突然現れた! すげぇー!」
歓声が上がる。しかし、まだ口上は終わらない。
風はまだ吹く。
「愛を護れと叫んでる!」
今度は緑の衣装に身を包んだ背中が現れる。
そして、彼女が国防仮面二号。
軍服を思わせる衣装の二人が振り向く。
「全員気を付けっ!」
そして二人の間に、白い衣装身の国防仮面三号が姿を現した。
「「「憂国の戦士、国防仮面! 見参!」」」
敬礼の決めポーズと共に、一年生から当然に、六年生達からも歓声があがった。
「うおー!」
「わー!」
まさかの登場の仕方に仕掛けなどを考えている者までいる。しかし、残念ながらこれはあまりにも原始的な方法によってなされている。
純粋に悟飯が最高速で須美と園子を運ぶだけだ。目で捉えきれない程の速度で辿り着いてまた消えているから突然現れたように見えるだけだ。
「さぁ、今日は楽しく体操しながら国防の仕方を学んでいきましょう!」
「さぁ、立って立って!」
その言葉に一年生達が大きく教室中に散らばる。両手を横に広げたポーズを基本にしている為か、自然と安全な距離が作られていく。
想像以上の参加者に、数人の六年生が教室の外に追いやられていたのが見えた。
銀がスマホに入れた音楽を流す。
「お友達とぶつからないように気を付けて。よし、行くぞっ!」
三人がマントを脱ぎ捨てる。
曲名は「国防体操」。
歌うのは須美。
――さぁ、国防が始まる。
――
闇の中、安芸先生が立っていた。
目で見て分かるくらいに黒いオーラをもって、何故か国防仮面の衣装に身を包んでいる。
「ハッハッハッ」
「あわわわわわ」
「やばいよやばいよ」
四人は怯え切っていた。
理由は分からないが安芸先生がバーテックスよりもずっと恐ろしい存在に思えてならないのだ。
現状に心当たりは全くない。
「まさか闇の国防仮面だなんて……」
「貴方達には下級生を洗脳した責任を取ってもらいます!」
「せ、洗脳……」
訂正を入れる。
四人には覚えしかない。
「一週間のうどん禁止、それが貴方達への罰です!」
「なっ、冗談ですよね?」
「そんなっ……」
「なんて酷い事するんだっ……」
一週間もうどんを食べられない。
想像しただけで体が震えてきた。お役目をこなすよりも何倍も辛い罰だ。
そんな、あれはいけなかったのか。
「あ……ああ……」
視界が黒く染まる。
絶望に染まっていくのが分かった。
ああ。そんなの、そんなのって、
「うどんが食べられないなんて、そんなのってないよー!」
「突然どうした!?」
「大変!? うどんが食べられないなんて、病院に見てもらいましょう!」
夢だった。
園子が涙目で周りを見ると、心配した風な須美、驚いた銀、呆れている悟飯が居た。しかも場所は教室だ。
そういえば、と園子は思い出す。自分がオリエンテーションの終わりに疲れて寝てしまったのだと。
「どんな夢を見たの?」
「安芸先生にうどんを禁止される夢……」
「うわっ、おっそろしい夢だな。正夢にならなくてよかった」
悟飯を除いた三人は大のうどん好きだ。
ここ香川に住む人間であればうどんが嫌いな人間は全くと言っていい程いない。三食全てうどんな人も居るとかいないとかと言うレベルだ。
一週間禁止とは、ほぼ断食と変わらないのだ。
「そしたら、帰りにうどん食べようか」
「うん! わたしも食べたい!」
「私も丁度食べたくなってきた所だったわ」
「決まりだな。じゃあイネスへレッツゴー!」
――
「そろそろ、バーテックスが来る頃になるのかー」
「そうね。細かい日にちは分からないけど、気を引決めないと」
「警戒態勢が復活すると、前みたいな事は難しくなるのは、ちょっと寂しいね」
「もうちょっと遊びたかったな~」
うどんを食べた帰り道だった。
銀が前を歩き、その後を三人がついていく。オリエンテーションでは国防仮面こそやらなかったが、しっかり体操も踊り切ったりと動いたのに一番元気なのは銀だった。
「オリエンテーションはちょっと怒られちゃったけど……楽しかったな!」
「ええ」
「あっという間だったからね~」
「また、休みが来たら遊ぼうよ。もっとこれまで以上に」
思い返す日々。学校での日常、休日の非日常。
それぞれまるっと纏めてかけがえのない日々だった。特に、悟飯にとってそれは初めての事ばかりの夢のような日々だ。
色々思う所はある。それこそ元の世界の繋がりが絶たれてしまった事は辛い話だ。クリリン、ベジータ、それこそピッコロ。様々な縁が切れてここに居る。
未練はある。
でも前を、この世界での次を見たくなるくらい、楽しかった。
「そうだな! 今の内に、何するか考えとこうよ」
「わたし、今度わっしーにお料理教えて欲しい!」
「それ、ボクも教えてほしいな」
「いいなそれ。後は後はー」
四人が話しながら道を歩くと分かれ道に出た。
銀だけが、違う道だった。
「よし。じゃ、またね」
「あっ……」
悟飯と園子が手を振った。
振り返って歩き出す銀の背中を見て、自分達もと思った時だった。
須美が走りだし、銀の手を握った。
「……須美?」
「わっし~……」
「須美……」
全員が須美を見る。ただ、須美はぎゅっと手を握っていた。
しかし、次第に自分の行為に気付いたのかハッとして、ごめんなさいと手を離した。
が、銀がその手をもう一度握り返した。
「いや、気持ちは分かるよ」
「休みが終わっちゃう。そう思ったんだよね?」
「ボクも確かにもっと遊びたいからね」
園子と悟飯が二人の元に歩く。
「あたし、休むのには自信あったんだけど、やっぱりお役目だから……そんなに休めるかなって不安だった」
「でも?」
「うん、四人で居ればいらない心配だったよ」
「私も!」
「ボクもだよ」
銀が笑う。園子も、悟飯も、笑って、二人の繋がれた手に重ねるように、両手で握る。
「須美は……大丈夫そうだね」
「ああ、これはそうだと言ってる顔だ」
須美も、笑う。
「……バーテックスが神樹様を壊したら、こういう日常も吹っ飛ぶんだよな」
「そんな事はボク達がさせない」
「ああ、そうだな!」
「うん!」
「ええ」
須美と銀も、もう片方の手を重ねる。
それは全員で、固めた決意だ。
決して解ける事のない絆だ。
間違いのない、友情だ。
「頑張ろう!」
全員が全員の目を見つめる。
これからも、頑張ろう。そう思った日だった。
「……これじゃ帰れないな。はい、解散!」
「閃いた! このままお泊り会とか!」
「じゃあ、銀の家か」
「それ、ありね」
「うちぃ!? 弟二人いるし、流石に突然過ぎないか……」
そうやって、日が落ちていく。
時間は、無常に、ただ進んでいく。
――
「やっぱり銀辺りに頼むべきかな」
日が昇り始めたばかりの朝、人気のない砂浜で悟飯が呟く。
訓練とは別の、自主的な修行の最中だったのだが、その成果はあまりよくない。その理由は、一つ悟飯のレベルに合う人間が居ないのだ。
勇者としての力がある銀達でも、対人戦となれば悟飯には手も足も出ない。それくらいに力量差が開いてしまうと、地道な基礎以外が出来ないのだ。
「勘を取り戻す以上に、セルの時よりもずっと強くならなきゃなんだ……」
「孫君」
「えっ、うわぁ、安芸先生!」
声を掛けられ振り向くと、そこには安芸先生が居た。慌てて道路の方を見るとそこにはまさかのリムジンが止まっている。同時にその周りにはいつか見た大赦の人間が居た。
それで気付く。今の安芸先生は教師としてではなく、大赦の人間として悟飯の前に立っているのだと。
「突然押しかけてごめんなさい。孫君に話しておかなければならない事があるの」
「話しておかなければならない……。勇者についてですか?」
「半分は正解だけど……強いて言うなら、サイヤ人の事よ」