孫悟飯は勇者である   作:桜開花

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ともだち

「えっと、園子さんや。今は何をしているんでしょうか」

 

 困惑気味に尋ねた銀の視線の先、そこには病室には似つかわしくない程の大量の服達が並べられていた。その中から幾つか服を手に取り、園子の体に合わせているのは須美だ。

 

「ゴッくんが凄く強くなっちゃったでしょ? それで気付いたんだ、わたし達はこのままでは足手まといになっちゃうって」

「それは……」

「それでこれ!」

 

 バーンと全身を使って見せるのはハンガーにかけられた服。洋服から和服までどれも取りそろえられている。

 いつか銀と須美が来ていた服まで持ってきているのは偶然だろう。

 それよりも前に、話の流れがつかめない銀は困り果てたように服から目を逸らす。逸らした先、和服ばかりを手に取っている須美と目が合った。

 

「最初はそのっちから悟飯と気まずくなったって相談されたの」

「気まずい?」

「ええ、前回、前々回と私は隊長失格だ~って」

「それはっ」

「悪いとかじゃなくて、やっぱり悔しいんだ。何もできなかった事」

 

 真面目な顔に戻った園子を見て、銀も思い当たる所があった。悟飯が一人でバーテックスを圧倒している時、思ったのはどうして隣に立てないのかだ。

 最後の悟飯と共に打ったかめはめ波。あれがなかったら、正直勇者のお役目をやめきれなかったかもしれないと思うくらいには。

 多分自分は皆の隣に立ちたいのだと、そういう自覚があった。

 

「悟飯も、銀を護れなかった事凄く悔やんでる。だから、何とかしてあげたいって色々してたみたいなのだけれど……」

「それで気まずく? 何したんだ?」

「したっていうか、ゴッくんが最近……」

「最近?」

 

 目を逸らした園子の代わりに須美がスマホを取り出した。

 そして、園子の目を見て何かを確認して須美はうなずく。対する園子は左右にブンブンと振っているがそれを無視して、わざとらしい咳払いのあと、スマホの中を読み上げ始めた。

 

「最近、ゴッくんを見ると胸の奥が温かくなってしまう。彼に話しかけられるとまるで陽だまりの中に居るかのようにぽかぽかふわふわとしてしまい、上手く目を見て話せない」

「えっ」

「あわわわわわ」

「超怒髪天に変身した時のゴッくんの目を始めてしっかり見た。緑色に染まっていて、宝石のように輝いてとても綺麗だった。碧眼と呼ぶらしいその目を見てると、宝石みたいに何処か遠く、手の届かない人のように思えて仕方ない。それはやっぱり、寂しいな」

 

 がたがたと震え始めた園子を見て、銀は全てを察した。

 何でもないように語っていた須美ではあるが、今顔を見ると少し頬を赤くしている。それはそうだろう、聞いているだけの銀ですらかなりの恥ずかしさを感じていたのだから。

 

「ある日、ゴッくんの裸を見てしまった! ガッチリとした肉体に」

「わー! わー! もうやめてー!」

「須美、流石にそこまでにしてやってくれ。分かったから」

「あら……そうね。大体わかってくれたと思ったけど、これはそのっちの初恋なの」

「違うから!」

「……なるほどね。なら確かにおめかししてかないとだ」

「初恋とかそういう訳じゃないんだってー!」

 

 アハハと笑ってから銀はベッドの脇に置かれていた杖を取ってから、立ち上がる。

 一週間もすれば片足で歩くのにも慣れてくる。外出許可が出るのももうすぐだろうと先生は教えてくれた。

 そうして銀も混ざって服を幾つか手に取る。前回は散々着せ替え人形にされたからなと、にやりと笑う。こうして恥ずかしさに悶える園子は珍しい。

 今回は園子の番と言う訳だ。

 

「そういえば最初の方に戻るけど、話し合うって言っても何を話すんだ?」

「……それは」

「ゴッくんに大丈夫だよって言いに行くの」

「大丈夫?」

「うん。ゴッくんは今凄く頑張ってる。訓練の時怖いって思っちゃうくらい一人で頑張ってる。だから、わたしも一緒に頑張らせてって言いに行く。そうじゃないときっと、一人で頑張り過ぎちゃうから」

 

 悟飯の圧倒的な力を見て、銀が思ったのは格の違いだ。

 自分では決して届かないと思うような力に、憧れを抱いたのは事実。しかし、それはある日のヒーロー番組を見ているかのような、届かない物に手を伸ばすだけの憧れだ。

 隣に立つなんて、考えすらしなかった。

 

「あたしも、それ言いたいな」

「じゃあ一緒に言おう!」

「駄目よそのっち。順番に、一人ずつちゃんと言うって決めたでしょう」

 

 須美の言葉にあははーと目を逸らした。

 

「だから、そうしたいってわっし~に相談したんだけど」

「そのっちが間違えて悟飯への思いを綴ったメモを送ってきた時はビックリしたわ」

「それは間違いだって~!」

「ああー……」

 

 確かに言葉と悟飯の事を書いた日記なのか、メモなのかを見れば確かに恋をしていると思う。

 実際に恋しているのかは、園子の反応を見れば何となく銀にも分かった。

 慌てながら訂正している園子と、目が合ったのは銀の後ろでまさかの着物を取り出している須美だった。

 

「銀、これなんかどうかしら!」

「着物?」

「ええ、気合を入れるならこういうのも有りだと思うの」

「それはどうなのさ……。普通の服じゃ駄目なのか?」

「駄目よ! ……そういえば言ってなかったわね。決行日は夏祭りの日よ」

「えっ」

 

――

 

イネスのフードコート。全く人の居ない訳ではないが、数人程度のまばらな足音が響く。学校終わりのこの時間はもう少し先に進んだキッズコーナーがよく賑わっている。

 そんな丁度いい静かさを感じながら、空のうどんの皿を置いて、悟飯は呟く。

 

「どうして核が出たのか」

 

 机に開かれたノートと睨み合いながら、悟飯は大赦に提出する用のバーテックスの情報を書き記す。

 右手だけの悟飯にそれはさせられないと二人は言っていたが、これも慣れる為の手段の一つとして説得していた。

 そして今、最初のバーテックスの違和感について頭を抱えていた。

 イレギュラーな事ばかりだった。自分が原因で三体同時に現れた可能性があるが、後々冷静になれば、どうしてというのが抜け落ちている。

 

「最初の三体は様子見だったのか」

 

 そして、五回目のバーテックスが一体な事に納得いかない。

 そこにもし理由があるとしたら生まれる疑問。

 

「バーテックスの裏に何か居るのか」

 

 バーテックスは今まで知能の低い生物の様な何か、という認識があった。しかし、今回の事を受けて、自分の能力と味方の能力を把握したうえで、状況に応じた様々な連携を見せた三体は知能が低いとは決して言えなかった。

 そして、シナジーを持った三体が同時に来たというのも違和感だ。司令塔が絶対に存在しているはずだ。

 

「どうして、安芸先生はそれをボクに教えたのか」

 

 そこまで言ってペンが止まる。

 可能性を列挙してもバーテックスと言うウイルスから生まれた生物が答えを教えてくれる訳でもない。何か知っていそうな大赦も話してくれないだろう。

 大赦にとって最高クラスの権力者、乃木園子が知らない事を悟飯が聞けるとも思えない。

 これが一番の課題。話さざるを得ない状況に持ち込むしかないだろう。

 

「そもそもどうして星座なのか」

 

 最初のバーテックスからすべて、見た目が何かしら道具や生物に酷似していた。

 水瓶、天秤。三体目は長らく考えていたが、角が特徴的なのは山羊座だろうとなった。そして、サソリ座、かに座、いて座。今回のは体にある桃色の部分とやけに生物的な形状から考えてみれば、乙女座辺りが可能性としてあげられる。

 星座とバーテックスの関係性を疑うにはもう十分だった。何かしらの道具を模倣していた訳ではなく、星座。そこに何かヒントがありそうにも思える。

 

「でも、終わりがある」

 

 十二星座をモチーフとしているなら、残り五体のバーテックスを倒せば終わりだ。

 疑問は残るが、余計な事に気を取られていては勝てる勝負も勝てない。

 

「もっと頑張らないと……」

「あれ、悟飯くん! 偶然だ」

「あ、大西さん。こんにちは。お使い?」

「そ、で余ったお金でジェラート買おうかなって」

 

 買い物袋を片手にぶらさげた大西さんが、悟飯の向かいに座る。

 イネスでクラスメイトと合うのはそれほど珍しい事じゃない。銀もそうだが、一人が暇だったらイネスに来れば大抵の友人と出会える。遊ぶ場所にも困らないから数時間ぐらい余裕で潰せてしまう。

 

「悟飯くんは何してたの?」

「お役目、かな」

「あっあー……」

 

 閉じたノートをしまってから、そう濁した。

 拒絶をした訳じゃないが、お役目についてとなるとどうしても会話が途切れて沈黙がやってきてしまう。

 自分で作った状況とはいえ、気まずくなった悟飯はそう、と指を立てた。

 

「佐々木さんは一緒じゃないの?」

「ササ? どうして?」

「いつも一緒に居るから今日も一緒なのかなって」

 

 二人の仲の良さと言ったらかなりの物だ。大抵は二人揃っているし、悟飯が片方を見かけたら大体もう片方も居るという具合だ。

 その言葉に目を細めた大西さんは身を乗り出した。

 

「あのね、私がいつもササと一緒に居ると思ったら」

「あ、いたニッちゃん! 孫君も一緒じゃーん」

「大正解なんだけどさ」

 

 遠くから手を振ってきた佐々木さんはドーナツの箱を片手に持っていた。どうやら別れていた理由はそれらしい。

 佐々木さんが机にたどりつくと思わず、頬を緩めてしまうような柔らかい匂いが漂った。

 

「食べてきたろ」

「我慢できず……」

 

 佐々木さんが開けた箱の端には明らかに一つあっただろう隙間が空いている。

 

「孫君も食べる? 美味しいよ」

「いや、ボクは」

「ほら、遠慮しないで」

「もがっ!?」

 

 悟飯が断ろうと手を出すよりも先に、佐々木さんは悟飯の口にドーナツをねじ込んだ。エンゼルフレンチのクリームが口一杯に広がっていく。ちょっとむせる。

 甘さよりも流石に驚きが勝つ。エンゼルフレンチを勢いのまま飲み込んでしまった悟飯は慌てて水を手に取る。

 

「ちょ、ちょっと!」

「孫君、考え事には甘いものだよ」

「そ、それは良く聞くけどどうして突然」

「難しい顔をしてたからさ。悩み事あるなら相談乗るよ~」

 

 そんなに悩んでいたかなと顔を触りだした悟飯を見て、大西さんが笑った。

 

「そんな一瞬の表情じゃないよ。ここ最近悟飯くんずっとノートとにらめっこで大丈夫かなーって思ったの」

「左手使えないのに頑張りすぎなくらいね」

「……そ、そうかな」

 

 二人は頷いた。

 それを受けても、悟飯は渋い顔でそうかなぁとこぼした。

 

「お役目、大変じゃない?」

「お役目って辛くないの?」

「怖くでしょ」

「多分、疲れるよね?」

 

 悟飯の返事を待たずに想像でお役目をしている悟飯像が作られていく。

 しかもそのどれもが、ネガティブな言葉で出来ていた。

 

「そんな事っ、ないよ」

「……でしょ~?」

「え?」

「ほら、あたしの言った通りじゃ~ん。お役目は全然辛くないし、疲れないって~」

「えっ、ササもしかして素なの? あー……ま、悟飯くんが言うなら、そうなんだろうね」

「あっ……いや……」

 

 とっさの言葉に意見を急に変えた二人に悟飯は、困惑していた。

 全てを肯定されて、悟飯にとって良い事の筈なのに、なんだか胸の中にモヤが残っている。どうしてかすぐに晴れない何かの正体に、すぐ気付いた。

 

「違うんだ……」

「うん?」

「違うけど……」

「けど?」

「ボクのせいで、銀が……」

「え、孫君が銀ちゃんの事傷つけたの!? 駄目じゃん、謝ろ! 一緒に行くよ?」

「そ、そうじゃないけどっ」

 

 慌てて否定する。全部肯定されてしまうと、自分の本音が見えてきて、どうしてか逆に自分の言うべき言葉がどんどん分からなくなっていく。

 お役目は大変で、辛くて、怖くて、凄く疲れる。

 それで、銀を傷つけたのは、誰なのか。

 

「悟飯くん、ドーナツ食べようよ」

「えっ」

「考え事には、甘い物でしょ?」

「足りなかったらジェラート食べようよ!」

「……そうだね」

 

 まだ見えない答えだが、それでも何か違和感だけはしっかりと残った。

 疑問の歯車の中に、異物が入り込む。すると不思議な事に、何故か思考がはっきりとしていく。

 一気に考えすぎていたもの事が整理されていく気がした。

 口に含んだポン・デ・リングを飲み込んでから、しっかりと考えてみる。

 

「うーん、美味しい!」

「十個セットじゃすぐ無くなっちゃうね」

「ボクが新しいの買ってくるよ」

「ダメダメ。次はジェラートなんだから一緒にだよ」

 

 立ち上がった悟飯の袖を掴んで大西さんは悟飯を席に戻す。

 一瞬で食べきってしまったドーナツの汚れを手で拭きながら、大西さんはにやりと笑った。

 

「悟飯くん、園子さんの事どう思う?」

「え、藪から棒だなぁ。どうって、面白い人だなぁって」

「違う違う、かわいいよね!」

 

 予想だにしていない言葉に悟飯はドーナツをのどに詰まらせる。慌てて水を飲み干し、口を袖で拭いてから顔をあげる。

 

「と、突然何言うんだよ! いや、そうだけどさ」

「うんでしょ? めっちゃ面白いし、かわいい! でもさ、悟飯くん来るまで園子さん、凄く怖がられてたんだよ」

「分かる! 乃木家の人だから声掛けるのも不安だった!」

「マイペースに寝たりして。お母さん? なんて言ったりして、どう声を掛けていいのか迷ってたから」

 

 悟飯が来る前までの園子の話は、悟飯にとって意外な事ばかりだった。友達がいないとは聞いていたが、実際にその現状を聞くと信じられないと思うばかりだ。

 

「須美さんは分かりやすいかも。真面目で苦手~って思ってた」

「それはニッちゃんだけ。でも、あんまり三ノ輪さんとか乃木さんとか話すようには思えなかったよね」

「銀ちゃんは人気者だったね~。あ、知ってる? 銀ちゃんって別クラスの人も名前全員覚えてるんだって!」

「そういえば、一年生もちゃんと全員覚えてたね」

 

 オリエンテーションの時に手を振ってきた子全員に名前と共に一言を添えていったのは流石に驚いた。それからの慕われ具合は半端じゃなく、昼休みには今も銀と一年生がちょこちょこ遊んでいるのを見る。

 

「これ全部知れたのは、悟飯くんのお陰」

「ボクの?」

「うん! だから、えっとさ」

「ありがとうね! あたしと……じゃなかった。あたし達と友達になってくれて」

「大西さん、佐々木さん。こちらこそ、ありがとう!」

 

 そう言って佐々木さんと悟飯が手を握ると、頬を膨らませた大西さんが二人の手を上から握った。

 それがなんだかおもしろくなって、悟飯が笑う。

 釣られるように佐々木さんが笑って、その後に大西さんが笑った。

 

「お役目の事、別に話さなくてもいいけどさ、困ったなーって思ったら一緒にドーナツ食べようよ」

「うどんでしょ! うどん食べると幸せだよ! 乃木さん達も誘ってもいいからさ!」

「……頼りにする」

「えへへ、何でも言ってよ!」

「なら、今から一緒にジェラート食べよう。醤油味と混ぜて美味しい物を探したいんだ」

「「えっ……」」

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