孫悟飯は勇者である   作:桜開花

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たたかう 二

 銀の病室で、他愛もない雑談をしていた時だった。

 時間が止まるよりも、音が鳴り響くよりも先に、須美には予感がした。

 嫌な気配とでもいうのだろうか。重くのしかかるような圧が、大橋の方角からやってきてた。

 

「来るの?」

「ええ」

「そっか。もうなのか」

 

 ベッドの上で、銀が寂しそうに目を伏せた。

 大赦の人間はこれを最後の戦い、決戦だといっていた。それに参戦出来ないのは銀としても悔しい事の一つだろうが、それでも笑みを浮かべたままなのは信頼しているからだろう。

 

「銀は樹海に居るんだっけ」

「適正が無くなった訳ではないらしくてさ、樹海に飛ばされるけど神樹様が守ってくれるっぽかった。枝が伸びてある程度なら防御とか移動とか補助してくれた」

「なら安心だね~」

 

 前回の活躍を遠くからだけど見てたよと言われた時は驚いたが、そういう事情があったらしかった。変身の為のスマホはないが、一度選ばれてしまえば樹海に引きずりこまれてしまう。

 ただ帰るのは病室らしく、そこは優しさがあった。

 だからか、神樹様も万能じゃない、仕方ない事だろうと受け入れていた。

 

「あ、そうだわっしー」

「うん?」

「これ、持ってて」

 

 そういって渡したのは園子がいつも髪に付けていたリボンだった。

 紺と白のシンプルなそれだが、間違いなく園子のチャームポイントの一つだったものだ。それを受け取った須美は困惑したように園子を見つめ返す。

 

「髪につけても良いんだよ?」

「……戦いが終わったらね」

 

 最後の戦いに、誰かに何かを預けるというというのは聞いた事があった。

 それは絶対に生きて帰るという強い意思表示だ。

 

「え、あたしなんかあったかな……」

「そんな無理して探さなくてもいいんじゃないかな」

「私もないから平気よ、銀」

「ミノさんとゴッくんには帰ってきたらまたあげるよ~」

「そっか。なら期待しとこうかな。……さてと、須美」

「ええ」

 

 銀が四人の中心に拳を作って突き出した。呼ばれた須美は、それに合わせるように拳を突き出す。

 視線を向けてみれば、力強く見つめ返すその瞳があった。

 気合は十分らしい。

 

「園子」

「うん」

 

 次に拳を合わせたのは園子だ。

 振り向いて園子を見る。柔らかい笑みを向けてくるのは、きっと緊張もない、いつも通りの乃木園子が居るからだ。

 

「悟飯」

「ああ」

 

 悟飯が三人に拳を合わせる。一際大きい、頼もしい手だ。

 園子が言った怖いような鋭い目つきは変わらないが、その笑みは自信に満ち溢れているように思えた。

 きっと、三人なら成し遂げるだろうと確信しているように四人が視線をそれぞれ重ね、四色のリストバンドが、円を作る。

 最後に銀が歯を見せて笑う。

 

「頑張れ! あたしはここで待ってる。だから、またね!」

「また後で!」

「またね!」

「ええ、また!」

 

 そして、世界は光に包まれた。

 

――

 

 樹海に立つと早速と悟飯が握り拳を作り、その顔を怒りへと変える。その圧に息苦しさを前までは感じていた。しかし、今感じるのは頼もしさだ。

 風が巻き起こり始めたのを見てから、須美と園子はスマホを手に取り、己の姿を勇者へと変える。

 見た目から大きく変わっていた。装飾などが変化しているのだが、特に目立つのは須美は胸に、園子は腹に描かれた花の模様だ。

 

「ゴッくん、新しい勇者服はどうですかな?」

「えっ、あー、もう何度も見てるけど、うん。カッコいいよ」

 

 園子の前勇者服は制服に近い物を感じていたが、新勇者服は振袖にも似た長い袂のある袖などが増えて動きにくさが追加されたような気がしていた。しかし、その程度で動きが鈍る園子ではないのを知っている。

 須美は逆にその袖などが無くなり、スマートな風に変化している。そのせいか、しっかりと体のラインが出るようになったのは困りどころではある。

 服の変化にも理由があるのか気になっていたが、流石にそんな余裕がなかった。

 

「はぁっ!」

「やっぱいいねー超怒髪天! いつ見てもかっこいい!」

「ええ、とっても」

 

 訓練のお陰か日々増してゆく超怒髪天への変身時の、弾けるような衝撃にものともせず、変身した悟飯の隣に二人が立つ。

 悟飯の変身は服は変わらない。強いて言うなら制服から道着に着替えるくらいだ。

 

「あはは。えっと、須美は結構変わったよね。その武器までさ。シロガネ、だっけ」

「ええ、銀と一緒に決めたの。気持ちだけでも一緒に戦おうって話して」

 

 園子の武器も多少見た目が変わってはいるが、やはり変化が大きいのは須美だ。

 須美の武器は弓から変わり、西暦の時代にスナイパーライフルと呼ばれていた銃火器へと変わっていた。

 弓以上の火力を求めた結論がそれらしく、弓と扱いは大きく違うそれを使いこなすまで、須美は文字通り朝から晩まで訓練し続け、体にしみこませていた。

 

「おー、あたしも名前つけようかなー、何が良いかなー」

「残念だけど、そんな暇はないらしいね」

 

 悟飯がそういうと、二人は大橋の先を見る。

 そこにはバーテックスが海を泳いでいた。それは魚座の名を関するバーテックス、大赦がつけた呼称はピスケス・バーテックスだ。

 その名の通りに魚のように海の中から上空へ跳ねる様に泳いでいるが大橋の近くを泳いでるからそれほど問題にはならないだろう。しかし、速度の方は問題だ。

 

「私に任せて」

 

 樹海にシロガネを立てると須美は屈んでから標準を覗く。それから射撃までの時間は二秒となかった。

 放たれた弾丸は弓よりももっと速度をあげ、一瞬にして跳ねたピスケスを叩き落した。そして、それは当然一撃で終わらない。二弾目がピスケスを襲う。それを受けると完全にピスケスは行動を停止し、海中へと逃げようとした。

 

「やぁぁぁっ!」

 

 しかし、そんな隙を狙い園子が矢を突き立てた。

 直接ではなく、柄が伸ばされており、更に離れた上空からの勢いを付けられたその突きはピスケスを海中へと叩き付けた。

 しかし、須美達が居たのは大橋の入り口だった。勇者の身体能力をもってしてでも一分は掛かる距離。勇者が走ればの話だが。

 

「よし! いいぞ、園子!」

「私達も向かいましょう!」

 

 須美の隣には投球フォームを取り終えた悟飯が居た。それは勇者を投げ飛ばす膂力と園子の合わせる力あってこその連携だ。二式から始めなかったのは、こういう連携の為の力加減などが理由にある。

 そして、出来た時間を使って悟飯が須美の手を取る。

 

「飛ぶぞっ!」

「了解!」

 

 悟飯が舞空術で須美をぶらさげながら、園子の元まで飛んで行く。

 複数来るのが分かっているからこそ、求められるのは一体一体の早期の討伐。今までは移動時間のせいで大橋の半分あたりで戦っていたが今回は壁付近で討伐してしまおうというのが目的だった。

 結界に近ければ新手に気付かないなんて事はないだろうというのもある。

 悟飯が須美を降ろすと同時に、嫌な予感を感じて上空を見た。そこには二体目のバーテックスが居た。

 

「園子っ!」

「大丈夫!」

 

 悟飯の言葉に着地した園子が手を出して助けに行こうとする悟飯を制した。その直後、閃光が弾けた。

 その正体は雷。園子を襲わんと突き刺しにかかる雷撃が放たれていたが、それは園子の元へと到達する事はなかった。

 園子の前で浮遊する鴉天狗が、光のバリアを張って護っていたのだ。

 

「ありがとう、セバスチャン!」

 

 どうやら園子の方は守ってくれると確信があったらしい。園子の言葉にセバスチャンは任せろと言わんばかり頷いていた。

 精霊バリア、そう呼ばれる力は大赦はあらゆる攻撃を防ぐと言っていたが、本当にそうらしい。

 

「流石園子だな。よし、ボクだって」

 

 感心しながら、悟飯が二体目のバーテックス、牡羊座の元へと飛んで行く。

 大赦呼称、アリエス・バーテックスの頭上へと一瞬にして移動すると悟飯が選んだのは踵落としだ。衝撃に耐えきれずに頭を思わず下へと下げたアリエスに、追い打ちの銃弾が襲った。数発撃ちこまれると、流石に根をあげたのか徐々に高度を落とし始めた。

 それを見てから、悟飯は園子の隣へと降り立つ。

 

「今見えるのは二体だね、一体だけでもさっさと倒しちゃいたいけど……」

「どっちが厄介か……。そういえば園子、体はなんともない?」

「うん、ちょっとビリビリ来た程度で問題なし。今の内にやろう!」

 

 そう意気込み走り始めた園子だったが、同時に視界が暗闇に染まりその足を止めた。

 その発生源を悟飯はギリギリに捉えた。それはピスケスが放った煙幕だった。

 

「煙幕か。ならボクが」

「待ってゴッくん!」

 

 大橋全体を包み上げるようにして放たれた煙幕を突っ切ろうと、一歩踏み出そうとした悟飯を、園子が服を掴んで引き留める。

 その瞬間、精霊バリアが張られた。

 煙を弾くそのバリアを見て、その理由がすぐに思い当たった。

 

「毒か!」

「気を付けた方がいいかも。晴れるまで待つか、あるいは、ゴッくんならここから晴らす方法、ないかな?」

 

 その言葉と共に期待するような視線を向けられた悟飯は、笑みをもって返した。

 一歩、前に踏み出すとその拳を握りしめ、その表情を激しい怒りの形相へと変える。

 同時に、悟飯の元へと光が集まり始めた。溜まってゆく光が膨れ、その大きさを恐れるように大地が揺れる。

 アップデートしたというのに、その強くなってゆく衝撃に地面に立てた槍に掴まっていないと園子は吹き飛ばされるんじゃないかと思ってしまう程だ。

 しかし、そんな変身をバーテックスが待つ訳がなく、動き出したアリエスが煙幕に包まれた大橋を無差別に雷撃で襲い始めた。

 

「きゃあっ!」

「くっ……」

 

 須美と園子が悲鳴をあげるが、その攻撃も精霊バリアはしっかりと防いでいる。

 浸食が進むのが見えたが、まだ焦る程ではない。

 バリアが消えると共に、園子と須美の二人は自分の体に力が溜まっていくのに気付いた。勇者服にある花の模様へと目を向けると、いつの間にか色がついていた。

 それを確認すると同時、園子の隣で光が弾けた。

 

「はあああああああああああぁっ!」

 

 爆発にも似た衝撃に完全に辺りを包んでいた煙が全て消え失せる。と同時に、バーテックス二体も衝撃に怯む。精霊バリアのお陰か、園子達にはそれが伝わる事はないが、その存在感から来る圧はしっかりと感じていた。

 

「行くぞっ」

 

 その言葉を園子が聞いた時には、既にピスケスの体が宙に浮きあがっていた。同時にピスケスが居た場所に、足を振り上げた悟飯の姿を見つけた。

 二式の変身は、全ての髪を鋭い棘のように逆立たせ、獰猛さを溢れさせたような、そんな姿だ。その周囲にはスパークを迸り、自分達よりももっと上の、異次元の強さを持っているというのはその姿を見るだけで理解出来た。

 

「かっこいいなぁ、二式」

 

 深い瞬きをしてから、改めて悟飯を見た園子をそう呟く。

 普段と比べて緩む事のない険しい表情に、それだけでバーテックスを倒してしまいそうな程に鋭い目つきへと変わった悟飯を、初めて見た時は恐ろしいとすら感じていた。

 しかし、それでも孫悟飯ではある事には変わらないのに気付けば、そこに残るのは頼もしさだけだ。

 悟飯が浮き上がらせたピスケスを見て、園子は須美の方へ振り向く。

 偶然ではない、お互いが準備とその時が来たと分かっていたからだ。だからこそ、視線を合わせた二人は地面を蹴って飛ぶと共に、それぞれに溜まった力を解放させる。

 その力の名は――

 

「「満開っ!」」

 

 神に見初められた花が大きく咲き誇る。

 何処からか吹き始めた風に吹かれて、花びらを舞い散らせると共に、二人はその姿を変え、新たな武装を生み出す。

 それが神樹様の力を使う花達の切り札、満開だ。

 須美の満開はまさに、戦艦のようだった。生み出された巨大な台座のような乗り物には複数の砲座がついており、それが宙を進んでいるのだ。

 園子の満開はまさに、箱舟のようだった。生み出された巨大な穂先達がその船のオールのような役割を果たしていて、それが空を漕ぐように宙を進んでいるのだ。

 

「綺麗だ……」

 

 それを見た悟飯は思わずそう言葉を漏らす。

 咲き誇った花の輝き、彼女達の放つ神々しさに思わず見とれてしまいそうになる。そして変わったのは武器や見た目だけではない。威力や速度などの強さもまた、大きくあがっていた。

 悟飯風に言えば、気が大きく高まっている。そんな高まった気は、あらゆるものを通さない壁ともなる。それはバーテックスの攻撃さえも、容易く防いでしまう程に。

 

「お前達の攻撃は、もう届かない!」

 

 アリエスの雷撃を防ぎながら、複数の砲座の中心、須美の正面でエネルギーを集めていた。それは悟飯のかめはめ波からヒントを得た巨大なレーザービーム。

 一瞬にして溜まったチャージビームは雷撃を押し返すと同時に、その体を貫く。

 貫かれたアリエスは、修復する事なく弾け、消し飛んだ。そして、光の何かを空へと舞い上がらせてゆく。

 それは、意外にも綺麗さを持った不思議な散り方だった。

 

「園子、任せたっ!」

 

 悟飯が空中から落ちてくるピスケスの一部を掴み、園子へと投げ飛ばす。何倍もある巨体だというのにその速度は尋常ではない。

 しかし、園子は余裕の表情を浮かべると、指を鳴らした。

 

「ふふん、任された!」

 

 合図に合わせて船についていた穂先達が動き出す。園子の意思に従ってそれぞれ八本ほどの切っ先がピスケスへと向けられる。

 そして、ピスケスの全身を貫く。同時にアリエスと同じように弾けると共に光を舞い上がらせた。

 これで二体の撃破が完了した。

 

「三体目が見える前に倒せてよかった」

「悟飯、まだ四体も居るのよ。気を引き締め……て……」

 

 近づいた悟飯の言葉に須美は指を立てて、警戒を促す。しかし、その戦果は今までは考えられない程で、それこそヴァルゴのように無傷の完全勝利を成し遂げたのだ。

 須美の頬も少しは緩んでしまうと言う物だが、それと同時に、須美の体から力が抜けた。

 

「わっしー!? あれ、わたしも……」

「よっと、大丈夫? 力の反動かな。ちょっと休憩しよう」

「え、ええ……」

 

 落下していく二人を受け止め、壁から離れた場所へと降ろしてから、悟飯は壁を見る。

 そこには二体のバーテックスが居た。

 コケの生えたまるで岩石のような牡牛座、タウラス・バーテックスだ。そして、その隣には他のバーテックスよりも一回り大きいバーテックス、獅子座、レオ・バーテックス。

 彼らの進行速度から考えれば、悟飯達の元に辿り着くまでに五分程の余裕はあるだろう。

 

「よし、二人は休憩しとくように。さっきは二人が頑張ったから順番に行こう」

「気をつけ……あれ?」

「あ、足が……」

「どうしたんだ、二人とも?」

 

 二人の様子がおかしかった。

 須美は自身の足を見つめたまま立ち上がらない。

 立ち上がった園子だが、片目を開いたまま、動かない。

 

「なんか、かたっぽの目が見えないんだ……」

「私は、足が動かなくて……」

「な、なんだって!?」

 

 二人がそう言うと同時、変化があった。須美は頭から足へと延びるアームのようなものが。園子は右目を隠すような支えが現れた。機能の回復はないが、須美は行動力を再び手に入れていた。

 それを見た瞬間に、悟飯の目つきが変わる。何か悪い予感とでもいうのか、二人に背を向けて構えた。

 

「とにかく! 二人は休んでいて。もしかすると満開の反動が強いのかもしれない、他に何が起きても危ない」

「そう、だよね」

「ならわっし~とわたしで簡単な援護をするよ。その間は」

「ああ、ボクが二体を相手にする。頼りにしてるよ、須美、園子」

 

 悟飯が親指を立てる。銀と悟飯が何故か気に入って、多用していた合図のようなものだ。それに、園子と須美は返す。

 

「私も頼りにしてるわ、悟飯」

 

 そう言った園子だが、状況だけで言えば、形成は逆転しているように思えた。

 まず、突然の二人の不調だ。

 そして現れたレオは、ただでさえ巨大なバーテックスよりも更に大きい。そんなレオの攻撃は一体どんなものになるのか。もしかすると余波だけで大橋が壊れてしまうかもしれない。

 そして、隣を追従するタウラスは何をしてくるのか。角のような、足のような部位の鋭さや、謎の鐘。今までも、彼らの未知なる行動には四人時も苦しめられてきた。

 そんな不利な点が多いうえに、悟飯は片手しか使えない。攻撃は通じない。二人を護らなくてはならない。

 全くもって、絶望的だ。

 

「わたし達も任された!」

 

 しかし、一つだけ。たった一つだけ、それを覆す希望がある。

 ただ誰よりも強い男。

 世界を破壊せんとするバーテックスよりもずっと。

 孫悟飯、園子達の希望であり、信頼の出来る友であり、紛れもない勇者の名だ。

 

「さぁ、覚悟しろ。バーテックスッ!」

 

 二体のバーテックスへと振り向いて、そう叫ぶ。

 そんな、悟飯の勇気に呼応するように、黄金の光はより一層煌々と輝いた。

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