孫悟飯は勇者である   作:桜開花

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そんごはん 三

 大橋に辿り着いた時にはまだうっすら影だけだった。

 そこからさらに進んだあたりでその敵の全貌が明らかになる。

 金魚鉢、あるいは水瓶にも似た何か。硝子の様な中央部分に円形の水晶に似た部分が両脇についている。何とも言えない造形だ。

 その大きさはあまりにも巨大。十数メートル以上はあるだろうかと言う所。

 そしてそれは、浮遊して移動していた。

 

「お、大きい……」

 

 悟飯はその大きさに言葉を漏らす。

 それは他の三人も同じだったようで、少し気圧されている。

 道中に受けた説明を思い出す。

 向こうから来たもの、バーテックス。

 正体はまだ不明だが彼らは人を襲い、逆に人以外は襲わないのは分かっている。

 そして、勇者の力のみが彼らに対抗できるらしい。

 

「あ、あれっ!」

 

 園子がバーテックスが通った場所を指差した。そこにはまるで焼かれたような植物の地面があった。

 それも話にあった。

 バーテックスによる樹海の浸食。

 

「早く倒さないと、浸食によって元の世界に悪影響が出るっ!」

 

 須美はそう叫んで弓を構えた。しかし、須美よりも先に飛び出したのは銀だった。

 それを追うように園子も飛んだ。

 

「ちょっと、二人とも!」

 

 須美が二人を止めるべく声をあげたが届かない。

 残った須美と悟飯の目が合う。

 どうしようと聞いているかのようで、悟飯は一度考える。

 二人と二人。悟飯には遠距離の攻撃手段、気弾がある。つまりは槍と斧、弾と矢で分かれている。

 もしかすると丁度いいかもしれない。

 

「残ったボク達で二人の援護をしましょう!」

「そ、そうですね。あっ、三ノ輪さん!」

 

 須美の言葉に悟飯が振り向くと、銀がバーテックスが放った水の弾に襲われているが見えた。大きく飛び跳ねたせいで回避が上手く出来ていない。

 まばらにまかれたそれに集中砲火と言う訳ではない。

 けれど、腕と胴体の二発だけに被弾した。

 

「あっ――」

 

 弾は吸い付く様に銀に纏わり着くと同時に、勢いだけはそのままで大きく吹き飛ばされていった。

 地面にたたきつけられたのか大きな音と煙が上がる。

 

「しまったっ!」

「ミノさん!」

 

 園子が銀を呼ぶ声を聞いて、血の気が引く。

 つまりは気を取られたと言う事。

 案の定と言うべきか、今度はバーテックスの水晶部分からビームが放たれた。

 気を取られていた園子は直撃こそ避けたが、足場へと直撃する。

 体を浮かせた姿を最後に煙があがり、須美と悟飯の視界から消えた。

 これで二人。

 残りを掃除するかのように、バーテックスの矛先が須美達の方へ向いた。

 

「もう二人が……。鷲尾さん、ボクは銀さんの元に行きます。鷲尾さんはなんとか園子さんの援護を!」

「え、援護って、ちょっと!」

 

 返事を待たずに悟飯は飛び出す。

 弾の速度自体は大したことがなく、余裕をもって避けれた。

 銀が食らった時の様子を思い出す。

 体に纏わりついていたのを見るに、一発も食らえはしないだろう。

 

「とにかく、早く倒さなきゃか……」

 

 銀の落ちた所まで飛んでいく途中、須美の矢がバーテックスに命中しているのを見た。

 金魚鉢のような見た目と同じく、ガラスの様に一部が砕けたのも束の間。

 その傷は修復されていった。

 

「傷が治るのかっ」

「おりゃっ! あっ、悟飯さん!」

「銀さん、あまり無策に突っ込んでは……」

 

 大きく斧を振り下ろすと同時、体についた水が弾ける音がした。

 悟飯が銀の元へ降り立つと、銀は笑顔を見せる。どうやら深い傷にはなっていないらしい。

 しかし、悠長に話している余裕は得られなかった。悟飯達の方へ既に泡が向かってきていた。

 

「はあっ!」

 

 悟飯が泡の一つへ向けて手をかざす。同時に、光球が生み出され放たれた。

 そして弾の一つと相殺して弾ける。

 自身の身に宿る気を練り上げ弾にする初歩的な技、気弾。

 

「か、かっこいい技ですねそれっ!」

「と、とにかく銀さん、一緒に行きましょう!」

「へへ、了解!」

 

 カッコいいと言われ、満更ではない悟飯だったが、ここは戦場だと自分に言い聞かせる。

 悟飯の合図で二人は一斉に飛び出す。

 

「あ、あれっ? そうか舞空術は……」

 

 第一歩と同時に気付く。悟飯と銀の飛距離の差が大きく開いていた。

 跳躍力もあるが、その速度もまた悟飯と銀では差がある。

 移動中は話を聞くために抑えていたが、いざ力を出してみると悟飯の身体能力は三人とは比べ物にならない程に高いらしい。

 流石にだからと銀を置いていく訳にもいかず、一旦銀の元へと戻る。

 

「すいません、置いて行ってしまって……」

「悟飯さん飛びすぎでしょっ!」

 

 慌てて悟飯の元に駆け寄った銀が叫ぶ。

 舞空術で宙に浮いている悟飯はもはや飛ぶどころの話ではないのだが、それをしらない銀は不公平だーと頬を膨らませた。

 

「そう言われても……なっ、まずいっ!」

 

 目を離した隙だった。

 バーテックスは何かをチャージするかのように自身の中で渦巻を発生させていた。その標的、渦の中心の先を目で追うと園子が居る。泡の妨害と落下した衝撃で思うように動けていないように見えた。

 須美は多少近くに寄っているが、弓で戦う距離を保っていたせいか、少し遠い。

 

「乃木さんっ!」

「助けなきゃっ!」

「ちょ……うわぁっ!」

 

 悟飯が力を込めて飛び出した。同時に風圧で銀の悲鳴が聞こえた。

 攻撃よりもずっと速く、悟飯は園子の元に辿り着く。

 時間がないと、園子を抱えようとした時、後ろで何かが開いたような音がした。

 

「しまっ」

 

 気を取られて行動が一歩遅れた。

 咄嗟に防御姿勢を取って数秒。

 ……思っていたような衝撃は来なかった。

 

「うーっ!」

 

 防御姿勢を解いて見れば、園子の槍の刃を開き傘の様になっていた。

 

「これ、盾になるんだったー!」

 

 土壇場で思い出したらしい事実に悟飯が安堵すると同時にその槍を支える。

 真正面からの攻撃を受けて、ヒビなどが入る様子がない。強度はかなり信頼出来そうではある。

 ただ問題があるとすれば、園子自身だ。

 高い威力相手にいつまで腕が持つかの勝負になる。悟飯も支えている現在は良いが、ただただここで耐えていてもしょうがない。

 衝撃波からか泡は悟飯達の方へ来ていないが、ビームと泡は同時攻撃が可能だ。

 変化が訪れない理由は銀は恐らく泡を避けきれていないから。

 そして須美の矢は一撃しか見て居ないが、火力面に不安が出ていた。

 

「ありがとうゴッくん。ミノさんは……」

「銀さんは大丈夫です。ただ、こっちがそうもいかないですね……」

 

 攻撃を耐える事自体は問題がない。

 悟飯だけならこのまま反撃だって可能だろうがどうしても強引な手段になる。

 そして園子がここから離脱するのは容易じゃない。更には膝をすりむいているのだ。

 彼女の武器を借りでもすれば泡に襲われる危険もある。

 一応地面を支点に一人でも最初の一瞬は支えていたのを思い出す。

 少しだけなら持つだろう。

 

「園子さん、すみませんが少し耐えてください。ボクが止める!」

 

 園子を支えるのをやめ、悟飯は大きく距離を取る。

 全体を見渡せるような一番高い位置の地面に降りた時、遠くに弓を構えた須美も見えた。

 考えは同じらしいが、チャージ式のようで須美の周りには花の紋章がゆっくりと色を付け始めていた。

 あれが溜まるまででは遅い。

 ならばこそ、悟飯の出番だ。

 

「かめはめ――」

 

 腰に両手を持っていく。

 気を集め、両手の間に光球を生み出す。

 そして膨張と、抑え込みが繰り返されていた。

 何度もそれを繰り返す。

 そうして巨大化されていった光を、バーテックスへと向けて解き放つ。

 

「波っ!」

 

 かめはめ波。

 悟飯の得意技の一つだ。

 威力は記憶だけでも山は削る。文字通り一撃必殺の威力であると自負していた。

 悟飯の体よりも太く、速いそれがバーテックスを貫く。

 

 ――筈だった。

 

 直撃はした。煙をあがっている。

 衝撃は感じた。

 しかし、だというのに、バーテックスには傷一つついていない姿で煙の中から現れた。

 治ったかと思ったが、だとしたら須美の時よりも早すぎる。

 

「なっ……」

 

 手加減した訳でもない。

 一撃で倒すつもりで放った筈だった。

 だというのに、バーテックスは多少体勢が傾いただけで、傷らしい傷の一つも出来ていない。

 完全に効いていなかった。

 

「これっ、台風の凄いのみたいでっ」

「私がっ!」

 

 しかし、時間稼ぎにはなったらしい。

 須美の矢のチャージが溜まったようで、叫び声と共に矢が勢いよく放たれた。

 その矢は弾に捕らわれて動きを止めた。

 距離を取り過ぎたのもだろう。

 

「……何で」

 

 悟飯が気になったのは防御をしたと言う事実だった。

 防御をする知能がある。つまりはあのビームが園子から悟飯へ向くような事になっても良かった筈なのだ。

 しかしそうはならなかった。

 つまりは、かめはめ波は攻撃として見られていなかったのではないか。

 

「くっ、ああっ!」

 

 叫び声に思考から引き戻される。

 声をした場所えは須美が泡にはじかれ、足場から崩れ落ちるのが見えた。

 

「鷲尾さんっ!」

 

 悟飯が叫んで助けに行きたいが、未だに園子はバーテックスの攻撃を耐え続けている。

 ……優先順位をつけなくてはならない。

 少し探せば銀は見つかった。

 弾を回避するので精一杯のようで、前に全然進んでいない。

 

「これ、なんとかしてくれっ!」

「今っ……いや、先に園子さんを……でも、くそっ……」

 

 考える。

 銀を先に進めて、攻撃を止める?

 それとも園子と須美を助けて振り出しに戻す?

 あるいは他の……。

 思考が纏まらない。

 全員の援護に行ける程、悟飯は器用じゃない。

 それは、悟飯が超怒髪天のままで在ればの話だ。

 

「うおおおおっ!」

 

 悟飯は叫ぶ。

 自身の中にある気が高まるのを感じていた。いつか経験した進化一歩のような。

 それを更に限界まで引き上げるように叫び続ける。

 突風が暴風へと変わり、遂には大地が揺れ始める。

 己の内にある感情を解き放つように、声を、気を、力に変える。

 悟飯の周りに現れた弾が悟飯の熱に耐え切れずに消えていく。

 ――が、そこまでだった。

 

「ハアッ……! やっぱり2には……なれないか……」

 

 息を荒げた悟飯は悔しそうに拳を握る。

 もう一段階上の悟飯の変身。それは経験自体はあるのものの、それをはっきりコントロール出来る段階にまだ達していなかった。

 修行は、ここ最近は勉強ばかりでサボりっぱなしだった。

 後悔するが、しても仕方がない。

 悟飯は飛び上がり、額の上で両手を合わせる。

 つまるところ、優先順位の話に戻る事になる。

 

「とにかく、まず園子さんだっ。魔閃光っ!」

 

 悟飯の交差した両手から閃光が放たれた。

 かめはめ波と同じくバーテックスに直撃をしたものの、煙をあげて終わり。

 しかし、狙いはそこではない。横の水晶を狙ったそれは狙い通りに下方向へビームの軌道を変えた。

 

「きゃ、きゃああああ!」

 

 園子の叫び声が響く。

 ビームの向きが変わり、地面にぶつかるとその風圧で園子が吹き飛ばされたのだ。

 すぐに、悟飯は園子の方へと向かう。

 

「園子さんっ!」

 

 吹き飛ばされた園子を受け止めた悟飯の声に返事はない。

 ただ、気絶していた。

 離れた安全な場所へ園子を寝かす。

 彼女の傷は痛々しい。耐えてる時に出来たのだろう。腕や足の至る所に擦り傷が見える。

 悟飯がバーテックスへと振り向いた時、再び水晶が渦巻くのが見えた。

 回避を考えたが後ろには園子が居る。

 

「くそっ、勝てるか……。かめはめ――」

 

 再びかめはめ波を溜め始める。

 バーテックスに合わせるようにさっきよりもずっと長く、大きく。

 

「来たっ。波っ!」

 

 ビーム同士がぶつかり大きな衝撃を生む。

 最初は拮抗するが、威力だけなら悟飯の方がずっと上だった。

 押し合いになるとバーテックスはずっと劣勢で、かめはめ波はバーテックスを押し返していく。

 

「今ならいけるか。うおおおおっ!」

 

 叫び声をあげ、力を込める。

 勝ったのは悟飯だった。逆流するようにかめはめ波がビームの入り口を抑えた事で、大きな爆発が起きた。

 ダメージは入った。

 そう確信したのも束の間、煙の中からやはり無傷のバーテックスが現れた。

 

「やっぱり、ダメージが通っていない……」

 

 確かめるように口に出す。

 絶望的な事実だった。

 とにかくと、悟飯は園子から離れ上空へと向かう。

 状況は二人が気絶。銀はどうやら須美の方へと向かっているらしい。

 判断としては悟飯はそれが正解に思えた。とにかく、一旦体制を立て直すべきだ。

 しかし、バーテックスを放置するわけにもいかない。

 

「守れる力はある。ボクが、ボクがやるんだっ」

 

 悟飯は今度は拳だと全力でバーテックスに近づく。

 弾を避けて進むのは悟飯一人なら容易かった。

 すぐにバーテックスの元まで辿り着く。

 選んだのは勢いのつけたストレート。

 直接の打撃は、悟飯に確信を与えた。

 ……手応えがない。

 決して壊れない物を殴っているような。柔らかい訳でもなく、ただ、ただ硬い。

 須美と何が違うのか。

 悟飯には分からないが、それでも自分がこいつを倒せないのだと理解してしまう。

 

「うりゃりゃりゃっ!」

 

 ただ、それでも手を止めずに気弾をとにかくばらまく。

 大きくあがった煙を使い、須美や園子達から離れるように誘導するのが精一杯だった。

 絶望的に思えるが、悟飯にとって攻撃が全く効いていない経験は一度ではない。

 そしてそのどれも、突破口が何処かにあった。

 なればこそ、諦めない。

 

「――しまっ」

 

 思考に意識を割いていたせいか、煙の中から放たれたビームに対応が遅れた。

 しまったと言葉にすら出来ず、反射の防御しか取れずに直撃する。

 

「悟飯さんっ!」

 

 薄れかけた意識で、銀の叫び声が聞こえた気がした。

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