孫悟飯は勇者である   作:桜開花

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やくそく 二

 本当に、酷い話だと思う。

 どれだけ満開して、神の力をその身に宿したとしても、届かない壁があるというのだ。

 そんな壁を相手にすれば、誰だって絶望してしまう。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 回数は覚えていない。どれだけ時間が経ったのかも数えていない。

 ただ、園子はまだ一体もバーテックスを倒す事が出来ていなかった。

 

「GUUUUUAAAAAAAA!」

 

 砕かれたピスケスの姿を見ても、園子は何も思う事が出来なかった。

 バーテックスを倒していたのは全て、悟飯だった。大猿の凶暴な力と、舞空術もなく、巨体にも関わらず陸海空を自由に駈ける高い身体能力にバーテックスは最早成すすべもなく一体、また一体と倒れ、砕け散ってゆく。

 では何故園子は満開をしたままなのか。

 悟飯が、ふと思い出したように園子を見た。と同時に姿が消えた。否、空をゆく園子の真下から跳躍して近づいてきたのだ。

 

「避けれないっ……!」

 

 そして、飛んできた悟飯の拳は精霊バリアと満開の盾を併用してようやく受け止め切れた。どちらか片方では衝撃を消しきれずに吹き飛ばされ、満開が解除されてしまうのだ。

 そう、つまりは悟飯は全てを荒らしていた。

 生き残っているバーテックスはもう水瓶座、アクエリアス・バーテックスと獅子座、レオ・バーテックスの二体だ。

 アクエリアスは悟飯に対して、水の波動砲を放つ。園子達が最初に戦った時よりも太さや速さが上がっているように見えたそれだが、悟飯は背中にそれを受けた後、防御する事なくアクエリアスに振り返った。

 

「……ほんとは嫌なのになぁっ!」

 

 悟飯という圧倒的な力が居た時、それ以外に勢力が二つ以上あればどうなるか。

 そう、共闘だ。バーテックスと共闘など悪夢でも見ているのかと思う程だが、悪夢だったらどれだけ楽かとも思えた。

 それくらいに酷い状況の中、アクエリアスを護る為に園子は悟飯の背後へと剣を伸ばす。尻尾さえ切れば、この悪夢は終わるのだ。

 しかし、反応速度もまた異常に高い悟飯はそれを避けながら、アクエリアスの前へと飛んでいく。そして、間もなくアクエリアスは悟飯の牙によって砕けた。

 

「もう、一体……それまでに……」

 

 そう呟く園子の前にいつの間にか大猿の顔があった。

 

「しまっ――」

 

 言葉を言い切るよりも、悟飯が開けた口から放たれた光線の方が速かった。

 防御もしきれずに、精霊バリアが園子を護るが満開は解けてしまう。それと同時に既に全身がアームで支えられている姿へと戻る。もう、自分の体では一歩も歩く事は出来ない。

 

「う……うぅ……」

 

 痛みか、それとも別の何か。園子の言葉は誰にも届かない。

 アームで支えられた右腕で顔をこすってから、立ち上がる。どれだけ失っても、それでも動けてしまうのも、また酷い話だ。

 動けるのなら、しなくてはいけないではないか。

 

「さぁ、かかってきなよゴッくん!」

 

 意を決したように園子が叫ぶ。

 彼女の意思は、希望はそれでも消えない。

 

「GUAAAAAAAAAAAA」

 

 悟飯は園子の叫びに反応し、再び園子へと飛び跳ねる。

 満開で船を出している時は的の大きさから回避が難しいが、通常時は何とか回避が出来た。更に言えば、精霊が増えているのにも気づいた。

 精霊バリアを逸らすように使いながら、園子は悟飯と何とか戦っていた。

 とは言え、反撃は出来そうにもない。このままではジリ貧である。

 園子が苦虫を嚙み潰したような表情で、悟飯の後ろを見た。そこには、巨大な火球が生み出されていた。悟飯が止めた火球よりも更に大きくなっている。全てのバーテックスが倒れるまで溜めていただけはあると思うが、にしても大きすぎるように思えた。レオを悠に飲み込める程の火球は、奥の手を出したのか、あるいはバーテックスが強くなっているのか。

 いずれにせよ、悟飯はどうしても振り向かなければならなくなった。

 

「これで、最後っ! うおおおおおおおおお、満開っ!」

 

 全てを使い切るようにして、箱舟が蘇る。

 死ななくとも、疲労は溜まる。これ以上、自分は戦えるのだろうか。そして、自分はこれ以上捧げられるものなんてあるのだろうか。

 そんな不安を振り切るように、箱舟が大きく進む。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAA」

 

 悟飯が片手を突き出し火球を受け止めた。が、流石に威力が高かったのか受け止めた直後に、悟飯が大きく後ろへと押し返されていく。

 熱もあるだろう、悟飯と火球の間から焼ける様な音と煙が上がっていた。

 しかし、それは悟飯を倒せる理由にはなりえなかった。

 火球はその動きを止めた。レオ・バーテックスの全ては、悟飯の手によって完全に止められてしまったのだ。片手だけなのは、もはや悟飯にとってハンデでもなんでもないらしい。

 更にあろうことか、悟飯のその足を一歩進め始めていく。

 

「嘘……」

 

 園子はもう、唖然とするしかなかった。

 あんな攻撃、自分だったら絶対に止められる事はない。だというのに、悟飯は押し返しているのだ。こんなのどう倒せばいいのかと思ってしまう。

 だが、それでもチャンスはやってきていた。

 押し返している悟飯の背中に園子は居る。つまり弱点の尻尾は今、無防備に園子の前に晒されていた。

 しかし、すぐに切ってしまえばこの火球は園子を容易く飲み込み、神樹様を破壊するだろう。だから、狙いをつけつつも、園子は耐える事しか出来なかった。

 

「GUAAAAA……」

「今だっ!」

 

 悟飯が一瞬、腕を引いたのを園子は見逃さなかった。それは反撃の合図。

 抑えていた手をどけると同時に、悟飯が火球を殴りつけた。

 その衝撃は、園子の船を容易く揺らした。荒波に揉まれるかのように、不安定に揺れる船体を園子は何とか抑える。

 既に園子は、飛ばした八つの刃を悟飯の尾の周囲に集めていた。いつでも切り裂けるようにと。

 

「と、閉じろぉぉぉぉぉ!」

 

 園子の叫びと共に刃が集まり、悟飯の尻尾が切り裂かれる。同時に、火球がレオに衝突した。

 レオも黙って火球に飲み込まれる訳ではなかった。再び同じような火球を作り、何とか抵抗を見せていた。そして最終的に、両方の火球はその形を保ち続ける事が出来なくなっていき、遂には爆発した。

 巨大な爆発と共に、レオも、悟飯も、園子も吹き飛ぶ。

 そして、大橋は、その大半の形を失った。

 

――

 

 悟飯が目を覚ました時、樹海が解除されていない事に気付いた。

 失われた服を見て、慌てて道着を生み出そうとして下半身、ズボンだけしか生み出せなかった。同時に酷い倦怠感に襲われて、自分の体が傷だらけになっている事に気付いた。

 

「良かった、ゴッくん目、覚めたんだ」

 

 声のした方向は足元だった。そして、そこには園子が居た。そして同時に絶句した。

 彼女の全身には数多のアームがあった。右目、両手、両足。片耳。目に見えるのはその程度だが、それでも異常だ。

 

「園子……それ、まさか」

 

 察しの良い悟飯に、園子は少し困ったように笑った。

 

「ごめんね、もうちょっとだから」

 

 満開ゲージを溜める為にはバーテックスと戦う必要がある。だが、もう園子にはその体力も機能も失われかけているのが見てとれた。

 顔をあげれば、レオ・バーテックスだけが壁から一体が、こちらに侵攻しているのが見えた。しかし、それはよくみれば今までと異なり、赤色に染まっていて内で何かがうごめいている様にも見える。まるでそれが、未完成かのように。

 だからこそ、悟飯は起き上がろうとする園子の肩を抑えた。

 

「どうしたの?」

「やめろ」

「なんで?」

 

 悟飯の祈るような言葉に、園子はいたずらっぽく笑った。

 悟飯も、分かっていた。

 

「でも誰かがやらなくちゃ」

「やめろって言ってるだろ!」

「ゴッくん……」

 

 悟飯の言葉に、園子は困ったふうに目を細めてから視線を逸らす。

 既に悟飯の変身は解かれていて、服が生み出しきれなかったのも見られているのだろう。悟飯も相当に限界が来ていた。

 だが。

 それでも。

 

「くそっ……くそ、くそっ!」

「大丈夫、ゴッくんは悪くないよ」

 

 地面を殴りつける。

 銀を救えた時、勘違いをしてしまったのかもしれない。

 今回もまた、そうなのか。ボクは、結局失うのかと。

 

「そんなの、認めるか……」

 

 それは、悟飯の我儘だ。

 

「こんなの、許せないに決まってるだろ……」

 

 そして、悟飯の怒りだ。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 そんな悟飯の叫びに答えるように、空気が渦巻き始める。

 地を揺らし、あらゆる音が消えてゆき、世界を黙らせる。

 そして、悟飯を内に秘めた怒りが可視化されたオーラとなって、天へと上った。

 

「うわああああああああ!」

 

 再び、髪が逆立ち始める。

 ほとんどなくなった体力が更に酷使され限界を超える。

 金色の輝きも保てず、黒髪から金髪へ、金髪から黒髪へと点滅するように繰り返していた。

 しかし、それでも最後の力は振り絞られた。

 

「ゴッくん……?」

 

 そして、園子は見た。

 逆立つ髪が、更に伸び始めているのを。

 悟飯の背中から、茶色の尻尾が伸びているのを。

 

「出来損ないの化け物は……」

 

 そして悟飯は、()()()()()()()()()()()

 それと共に手の平へと光が集まり始める。

 両手を合わせ構える。

 気を集め、球にする。それを肥大化させて、押さえつける。それがかめはめ波だ。

 しかし、それはもう爆発のようだった。膨れ上がる気が今までのどれとも違う。

 

「出ていけぇぇぇぇぇ!」

 

 最後に大きく縮められた気を解き放つ。

 それは太くはない。しかし、今までのどれよりも眩く、速く、強かった。

 レオに抵抗できる術はなかった。一瞬にして貫かれたレオは消滅こそしないが、一瞬にして壁の外へと押し込められる。

 姿が見えなくなって、何秒か。一分か、十分か。

 悟飯の体力がなくなるまで放たれ続けたかめはめ波はその勢いを段々と弱め、遂に光となって消えた。

 

「うおあああああああああああああ」

 

 悟飯の叫びが樹海に響く。

 それを聞き届ける園子は、言葉を失っていた。

 悟飯は追い返しただけではあるが、それ以上にもっと。

 腕が動いた事。

 悟飯の変わりかけた姿の事。

 変わらない頼もしさの事。

 そして、決して衰える事のない希望の光の存在を。

 それと同時に、戦いの終わりの合図。樹海化が解ける音を聞いた。

 

――

 

 樹海化が解けた時、三人の誰も意識はなかった。

 そして悟飯が目覚めた時、彼を迎えたのは三ノ輪銀ただ一人だった。銀が見たのは、大猿が神樹様に大きく近づいたジェミニを倒した所までだった。守り切るのが不可能とされたのか、神樹様の根に閉じ込められたと本人は語った。

 そして、その後の顛末を全て聞いた。

 大橋が大きく損傷し、修復不可能になってしまった事。

 乃木園子はお役目の最大の功労者として、大赦の何処かに連れられてしまった事。

 鷲尾須美は、酷い怪我で隔離されている事。

 

「……恐らく、再び会える可能性はとても低いかと」

「そんな……」

 

 そして暫く日が経ってから、更に補足として、大赦の神官を名乗った女はそう伝えられた。

 悟飯も全身傷だらけになっていたが一番傷が少ないという自覚があった。そして、大猿になっていた期間の記憶がない。だからこそ、それも仕方ない事だと受け入れるしかなく、それ以上の言葉が出なかった。

 

「元気出せって悟飯。全員生きてるんだ。可能性が低いが何だ! きっと会える!」

「そう、だよね」

 

 背中を叩いて励ましてくれた銀の言葉に、悟飯は笑顔を取り戻す。

 その時、銀はひゃあと声をあげて叩いた手をひっこめた。自分の後ろに何かあったかと思って振り向いてようやく気付いた。尻尾で銀の手を触っていたらしい。

 

「あっ、ごめん。まだ尻尾がある事になれていなくて」

「いや、いいんだけどくすぐったくて」

 

 戦いの後、悟飯には尻尾が生えていた。猿のような毛におおわれた長い尻尾は悟飯の意思で動きはするが、普段は無意識で動かしてしまい銀をくすぐらせていた。

 その事実を知った時は驚いていた。良い機会だと宇宙人とのハーフである事含め、全てを話していた。

 最初は驚いていたが、今更かと銀は簡単に受けれていた。

 最後の戦いを銀は悟飯が大猿になるところまでは見ていた。赤い光線を放ったあたりで大きく吹き飛ばされて、それ以降は見れていないが大体を目の当たりにしていたらしいのもあるだろう。

 だがそれはつまるところ、

 

「ボクは、園子達を攻撃していたんだよね」

「正直、理性を失ってるとは思った。本気で当てるつもりに見えたし」

「園子の怪我ってさ……ボクのせいなのかな」

 

 俯いてしまった悟飯を見て、銀は少し困った様に頬を掻いてから、背中を叩く。

 

「過ぎた事考えるよりも、これからどうするか、考えようぜ!」

「え?」

「お役目、一応終わったんだろ? でも暫く入院って話だし、勉強とかさ」

「あー」

「その事なのですが、一つ大赦から提案があります」

 

 そういえばと直立不動を崩さない大赦の神官は手に持ったタブレットの画面を見せた。

 そこには幾つかの中学が書かれていた。

 

「お二人とも、これからの生活に苦労される事と思います」

「ま、まぁ……」

「この中の学校であれば、障害を持った人へのアシストが充実しています。もし、ご検討なさる際は大赦の方に相談していただければ出来る限りのサポートをさせていただきます」

 

 受け取ったタブレットの中身は近い所から遠い所まで沢山の学校が並んでいた。そして、それぞれにあるサポート内容などが事細かく書いてある。

 特にこの、讃州中学は凄い手厚さだ。酷く遠い訳でもなく、引っ越す場合に一軒家も用意してくれるなど手厚さが尋常じゃない。

 

「讃州中学は、どうしてここまで手厚いんですか」

「それは、こちらとしても学校により、サポートのしやすさなどが出てきます。讃州中学はその中でも最もサポートしやすい学校なのです」

「そう、ですか」

 

 銀と顔を見合わせる。銀はまぁそうだよなと簡単に流しているが、悟飯は顎に手を当て考え込む。

 ここまでで、大赦に対する信用は大きく失われていた。嘘をついているとかではないが、話していない事があまりにも多すぎるのだ。この提案も恐らくは何か裏の理由があるのだと思えて仕方がない。

 

「園子は何処に進学するんですか?」

「乃木様は、進学出来る目途が立っておりません」

「須美は」

「……鷲尾様も、同様です」

 

 肩をすくめた銀を見て、悟飯は考える。とは言え今の、白鳥家との付き合いを切ってまで行くかとも考えるが、その思考を読んだのか神官は更に続けた。

 

「使用人などはご用意できます」

「うーん」

「その讃州中学に入ったら、お手伝いさんに、これから毎日弟たちの世話ってお願いできますか」

「銀?」

 

 あまり響いてない悟飯の横で、銀が真剣な顔でそう尋ねた。

 その銀の言葉に悟飯は当然に、神官も驚いていた。

 

「あたし、お見舞い来てくれてるけど、家族が大変になってるのが分かってさ。なんとかこういう形でもいいから支えたいって。ズルしてる気もするけど」

「三ノ輪様……」

「ボクも、お願いします」

「悟飯、どうしてお前まで」

 

 銀の理由を聞いた悟飯は頭を下げる。その気持ちは悟飯も同じだ。

 やっと落ち着いてきた悟天の世話だった筈なのに、自分のせいで負担を増やしていた事を、悟飯は気に病んでいた。

 それが解消されるというのなら、大赦の思惑に乗っても良いと言うものだった。

 

「分かりました。孫家、三ノ輪家へ最大限、支援させていただきます」

 

 そうして、悟飯達の讃州中学への入学は決まった。病室から出ていった神官を見送ってから、悟飯は隣を見る。

 どんな時も笑顔を崩さない、明るい友が笑い返してくれる。これから先、どうなるかなんて想像もつかないが、悟飯には幾つか目標が出来ていた。

 

「銀、決めたよ」

「え、何を?」

「夢だよ。前に話したじゃないか」

「あれ、学者じゃなかった?」

「それは変わらないんだけど。医学者っていうのかな、ボクの手や銀の手足、きっと須美も園子も沢山傷ついてる。それを何とか出来るような学者になりたいなって」

 

 人の役に立つという大雑把すぎた夢に、更に方向性が定まった瞬間だった。

 きっと同じように苦しんでいる人が居る筈で、自分含めて何とかしたいと本気で考えた末の結論だ。

 そして樹海での最後は記憶。

 何故か動いた左腕。今はうんともすんとも言わないが、それでも希望を見た。あれの正体を暴ければ、何かが変わるかもしれない。

 

「それ、凄く良いじゃんか! 応援する!」

「ありがとう。ねぇ、銀」

「うん?」

「これからも、四人は友達だよね」

「当たり前だろ?」

 

 そう言って、銀は左腕につけられたリスバンドを見せる。

 悟飯のリストバンドは大猿になってしまった時に、千切れてしまっていた。一応、園子が拾ってくれていたらしく、再び縫い合わせてある。

 何にせよ、これが友達の証として機能しているのには変わらない。

 

「中学行ったら須美と園子探してみようよ」

「それは……」

 

 見つかるだろうか。そもそも、合わせる顔がない気がして仕方がない。

 しかし、何もわからないまま終わった戦いの真実が知りたくはある。

 

「見つけたらさ、お疲れって言おう。もし、悟飯が大猿の時悪い事してたのなら、ごめんって謝ろう。あたしも一緒に言ってやるからさ」

「……ありがとう、銀」

 

 銀の明るさに背中を押され、悟飯も前を見る。

 色々な事があったが、それでも中学へ進学する所まで来ていた。自分達は着実に前へと進んでいる。

 そして、これから進む道のことを、考えると自然と頬も緩んでいった。

 未来は、きっと大丈夫だろうと思えた。

 病室の窓際に置かれた四つの星を持った球が、差し込んだ陽の光に照らされて輝いていた。

 

――

 

 それは、少女を寝かせるには不適切な場所だった。

 沢山の扉の先を抜けた先、常に神官が守る様に立っている部屋だった。その室内はいくつもの種類の札が張られ封じ込めているかのような様相だが、同時に部屋中央に置かれたベッドの周りには奉る様に神具や恐らくは神聖な何かだろう剣などが置かれていて、奉られている様にも見えた。

 

「セバスチャン、次その本とってー」

 

 そんなベッドの上で、乃木園子は自身の精霊、鴉天狗に日記を取らせていた。

 両脇に置かれた本の山は未読と読了済に分かれていて、今は丁度半分を超えた所だ。

 そうやって、園子は真実を幾つも手に入れていた。大赦が隠していた事、大赦が裏でしてきた事、その全てをだ。

 検閲が入ったものばかりではあるが、園子の今の権限ならば大体の事は分かる。それに、何が入っていたか解読してしまえばいい。

 皮肉だが、時間はたっぷりとあった。

 そんな園子は今、ある秘密を探していた。

 

「あっ……あれ?」

 

 鴉天狗に一ページ目を開かせた時、その日記がビリッと音を立てて破けてしまう。かなり劣化もしていたし、仕方ない事だ。もう既にこれで三回目の事だから焦りもない。

 ただ、今回は違う点が一つあった。更に小さな本が落ちたのだ。

 その表紙には何も書かれておらず、中身を見てみると、更に意味分からなくなった。どうやら日記か、メモ帳か何かのようだが、あまりの字の汚さに解読に大分な時間を要しそうに思えたのだ。

 しかし、その次のページを開くと今度はあまりにも丁寧な字で前ページの補足が書かれていた。恐らく内容を知るならこれだけでいいだろうぐらいに。

 

「……これだ」

 

 その補足の一つに書かれている単語が目に留まった。

 サイヤ人。園子の求めていた言葉。

 そして気付く。この本には大赦の検閲が一切入っていない事に。

 

「隠れてたのかな? ……ああ、そういう事か」

 

 表紙と一ページ目の間にあったと言う事は、隠されるようにあったと言う事だ。確かに、大赦も大切な日記を壊して中身を調べる事は流石にしないだろう。

 そしてつまりこの本は、誰かがわざと隠していたものだ。

 その人物は恐らく、その小さな本を隠していた大きな日記の持ち主。

 かつて、()()()()()()()()()()()

 

 ――初代勇者、白鳥歌野。




孫悟飯は勇者である「絶望への反抗」の章はこれで終了です。

一つの章が完結するまで読んでいただいた事感謝いたします。
何度も言いますがお気に入り、評価や感想など、本当にとても励みになっていました。重ねて感謝致します。
次の章は準備していますが、少しだけ期間を空けてから開始しますので気長にお待ちいただければ。
よろしければ、これからもお付き合いの程、よろしくお願いいたします。
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