孫悟飯は勇者である   作:桜開花

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くんれん 二

 樹海の上、既に変身している悟飯達は、浮遊してゆっくりと進行してくる天秤にも似たバーテックスを見ていた。

 

「あれが、次のバーテックス……」

「天秤みたいだね」

 

 前回のお役目から半月程経っての襲撃、それは神託通りだ。

 合同訓練も本格的に始まっている。一度勝利をしていることも相まって、余裕も出てきたのか軽い準備運動をしながらバーテックスの観察をしていた。

 相変わらずの巨体だが、前回とは違い全体的に細身なデザインをしていた。

 

「バーテックスって、ウイルスの中で生まれたんだよね」

「ええ、世界中が死のウイルスに包まれてしまったというのを昨日したのは覚えていますか?」

「神樹様がそれから四国を守ってくれてると言うのは、覚えてるよ」

「そのウイルスの中から生まれたのがバーテックス、神樹様を破壊せんとする敵です。通常の兵器は効かず、私達神の力を借りた勇者が戦う必要がある」

 

 須美の説明を聞いて、改めてバーテックスを見る。

 どんなウイルスから生まれればあんな形のものが生まれるのか。どうして通常の攻撃が効かないのか。自分の攻撃が届かないのか。

 バーテックスに何か法則性があったりしたら分かるかと思ったが、思い出すのは前回の金魚鉢だ。

 

「天秤で、前回が金魚鉢……法則性はないか」

「ゴッくんどうしたの?」

「あ、いや今回は何をしてくるかって思って……」

 

 天秤のような見た目からは遠距離攻撃は出来そうには見えない。が、前回もしてきそうかと言われれば全くそうではない。

 警戒して損はないだろうと悟飯は構える。

 

「まずは私が!」

 

 前に出た須美が矢を放った。

 神の加護というのは凄まじいもので、その威力は空気を巻き込み、螺旋を描く。弾丸よりもずっと速く、一直線にバーテックスへ飛んでいった。

 しかし、そんな須美の攻撃は急な方向転換をしてバーテックスの分銅に引き寄せられた。

 あまりにも急な方向転換に矢の勢いが消え、着弾の爆破は多少ダメージを与えたが修復がすぐに追いついた。

 

「そんなっ……」

「えぇ、なんだよいまの」

「磁石みたいなものなのかなー?」

「くっ、もう一度!」

 

 須美が諦めずに矢を放つ。

 しかし、それは同じように分銅に引き寄せられ、大したダメージにならない。

 

「ミノさんがあれを落とせばわっしーの矢を通せるかも!」

「なるほどね、了解!」

 

 園子の言葉に銀と園子が飛び出した。

対するバーテックスはと言えば、動いていなかった。正確には前進以外の行動がない。攻撃行動が見られなかった。

 

「なんだ、あいつ……」

 

 疑問を抱きつつも、とりあえずと須美と悟飯は構え、銀と園子の動きを見守っていた。

 そして、遂にバーテックスが動きを見せた。

 中心を軸に、回転し始めたのだ。

 

「須美、何かする前に攻撃をっ!」

「了解!」

「押し込むぐらいなら出来る筈だ。かめはめっ……」

 

 須美に指示を出し、悟飯も構える。

 一瞬、タイミングがズレたのを感じた。  

 合同訓練の時よりも遅い。感覚だが、躊躇いのような。

 

「きたっ……波っ!」

 

 しかし、確かに矢は放たれた。それを確認して押し込むようにかめはめ波を放つ。

 矢は確かに速度を増した。しかし、矢は不自然な挙動をして、明後日の方向へ飛んで行った。

 

「そんな、どうしてっ」

 

 須美が叫んだ。悟飯も驚きはするが理由に想像がついていた。

 そして、その理由が四人を襲った。

 

「きゃあっ」

「うおっ、風が強い」

「ミノさん捕まって!」

 

 樹海に暴風が吹き荒れる。

 同時に巻き上がった樹海の一部が襲い始めた。

 距離のある須美と悟飯は風の影響が薄かった。木片の攻撃が届かない程には。けれど余裕を見せれるほどではなかった。

 須美の弓はまともに狙えず、たとえ無理に矢を放った所でこの風を突き抜けはしないだろう。

 そして、銀達だ。木片の攻撃もそうだが回転するという事はバーテックスのメインの攻撃手段は恐らく近接。

 

「銀達が危ないっ……」

 

 悟飯は大きく飛び上がり空に浮かぶ。影響が薄いお陰か気合を入れるだけで安定できていた。

 銀と園子を探すと二人はすぐに見つかった。槍を軸に風に耐えるので精一杯になっている。

 攻撃を避けるのは出来そうもない。

 

「かめはめ波っ!」

 

 回転は止まらない。多少後退はしたようにも見えるが無駄な攻撃になったと言っていいだろう。

 天秤は大橋の前進速度こそ遅いが、回転はかなり速い。そんな勢いの攻撃は前回のビーム以上かもしれない。

 ふと見えた樹海の一部が黒ずんでいた。

 浸食も進んでいる。

 

「行くしかないかっ!」

「孫さんっ!?」

 

 須美が叫ぶよりも早く、悟飯はバーテックスの持つ分銅部分へと飛んで行った。

 バーテックスの回転は速い。しかし、悟飯が捉えられない程ではない。

 

「ゴッくんっ、危ないよっ!」

 

 回転の中へ飛び込み、正面で受け止めようと構えた悟飯は、園子が叫びを聞いた。もしかすると此方に向かおうとしているかもしれない。しかし、それは間に合うことはない。

 

「うおおおおおおおおおおっ」

 

 悟飯は叫びながら、真正面に回転する分銅を殴りつけた。

 そしてそれは大きな鐘のような音を鳴らすと同時に動きを止めた。

 

「やっぱり力だけなら、ボクのほうが上だなっ」

「凄い、ゴッくん止めちゃった……」

 

 バーテックスの回転が止まると同時に突風も止まった。

 

「今だ!」

「よ、よし、あたしがっ!」

 

 呆気にとられていた園子達だったが悟飯の言葉で顔を振り、我に返った。

 そして一番早く反応したのは、銀だった。

 続いて園子は警戒に緩めず盾を構え、須美はすでに新たな矢をつがえている。

 しかし、バーテックスも受け止められ続ける訳がない。銀が辿り着くよりも前に、悟飯の受け止めていた鐘が逆回転を始めた。

 

「まずいっ銀っ!」

「せめて一撃だけでもっ……うわぁぁ!」

 

 突風が吹き始めるまで、一瞬だった。回転の開始とほぼ同時に吹き荒れた強風に銀が吹き飛んでしまった。

 つまり、残った二人はまだ風に耐える状態に戻ってしまっているだろうと想像がついた。また状況が元に戻るが、悟飯が止めたという事実は確かに残っている。

 

「逆回転したって受け止めてやる……なっ」

 

 振り向き、再び回りだした分銅を止めようと構えた悟飯だったが、その視界には予想通りの物が映る事はなかった。

 慌てて周囲を探せばすぐに見つかった。バーテックスが悟飯から離れるようにして動き出していた。そしてあろう事が強引に神樹様へと向かおうとしていた。

 

「くそっ、ボクを無視する気かっ」

「わっしー!」

 

 園子の声が聞こえて振り向くと、須美がいつの間にか近づき、体を宙に浮かせながら弓を構えていた。

 無茶だ、そう叫ぶよりも先に須美は決死の一矢を放った。しかし、その矢は当然のように突風に負けて、風に攫われていく。

 更にその矢は、突風に吹かれた勢いのまま、樹海の根の一つに突き刺さった。そして、爆発する。

 

「あっ……」

 

 爆発と共に根が抉れていた。

 須美は、もう風に吹き飛ばされていた。

 

「しまった……。くそ、まずいな……」

 

 樹海の侵食やダメージは現実に還元される。つまりは今の一撃は現実の大きな事故や災害となってしまうかもしれない訳である。

 守る筈が危険にさらすなど、あってはならない。

 須美の焦りは悟飯にも分かった。

 元々須美の攻撃は未だまともに入れられていないというのもある。浸食も進んでいる。吹き飛んだ銀は勇者とは言え、落下すればかなりのダメージだろう。

 悪くなっていく状況。

 焦るに決まっている。

 そんな事を分かっていながら一人にしたのは誰か。

 

「ボクが……」

 

 唯一風に耐えれる悟飯が火力面ではどうしても役に立たない。金魚鉢同様に、また打つ手なしの状況に陥っている。

 ……訳では無い。悟飯は首を振って頭をリセットする。

 

「まだだ!」

 

 風に吹き飛ばれた須美を悟飯が受け止める。ショックから戻ったようでハッとして周りを見渡した。

 

「良かった……」

「孫さん、す、すみません……」

 

 理由は悟飯も分かっていた。否、悟飯も変わらないと自覚していた。成功したから良くなっているが、分銅を止める行為は須美の行動と本質は変わらない独断行動。

 

「私、先走ってしまって……」

「あ、いや……ボクの方こそすみません。浸食は確かに広がってて、焦ってました。だから、あいつを早くなんとかしないとだけど」

 

 須美を近場に降ろす。須美は顔を伏せていた。

 更に浸食が広がっている。

 早く倒さないと現実に甚大な被害が出てしまう。それは避けなくてはならない。

 その時、ガンッと鈍い音がした。

 

「園子っ!」

 

 バーテックスが園子に近づいたらしく、回転させた分銅をぶつけられていた。

 盾で何とか防いでいるが今はそれが問題だった。

 立っているのも辛い状況で、槍を樹海に刺して軸にしている。つまりはバーテックスの攻撃による衝撃は全て樹海へと向かうことになる。

 悟飯は突風に耐えれると言っても、長く誰かを支えられる程余裕はない。攻撃手段として、銀を無理矢理連れて行くには危険すぎた。

 何にせよ、次は園子を助けなくてはいけない。

 

「須美はここで」

「待って悟飯!」

 

 悟飯が飛び出そうとした時、銀が駆け寄ってきた。

 

「このままじゃ埒が明かない。園子が言ってた。回転して風を起こしているのなら、頭上はもしかすると空いてるかもしれないって」

「……確かに」

「だから、あたしが上から一撃かましてやる」

 

 銀の作戦とも言えない作戦だった。

 突風の中、バーテックスを中心にして回っているなら、中心の上空は影響を受けずに攻撃が出来るだろう。

 しかし危険にも程がある。失敗すれば盾がない分酷く反撃を受けるだろう。

 そう考えを巡らせたが、悟飯は駄目だと言える代案を出せなかった。

 

「……吹き飛ばされたら、ボクがすぐに連れ戻してやる。だから信頼してる」

「サンキュー。あたしも悟飯を頼りにしてるよ」

 

 悟飯は銀を掴むと大橋の入り口を経由して、回り道をするようにはるか上空へと飛び上がる。

 銀が落ちてもダメージを受けないギリギリを考えながら、バーテックスの上空で停止した。

 

「舞空術だっけ、ひゃー……」

 

 あまりの高さに苦笑いした銀を余所に、悟飯は少しづつ地上のバーテックスへと近づいていく。

 

「まだ、もう少し……」

 

 悟飯の頬に、風が触れたのを感じた。

 恐らくこれが近づく限界だろう。

 

「今だっ!」

 

 悟飯は銀を投げ飛ばす。

 銀はそれに合わせ斧を召喚する。

 

「まかせろ! うおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

――

 

「ごり押しにも程があるでしょう!」

「す、すみません……安芸先生」

 

 生徒が居なくなった教室の中、四人は説教を受けていた。

 相手はクラス担任、安芸だった。

 大赦の人間でもあるらしく、お役目の内容を知っている大人の一人でもある。そんな彼女は勇者を監視すると共に、訓練をつけたりなどをしていた。

 

「はぁ、合同訓練も始まったばかりですがこうも……」

 

 あれからの話をすれば、結果は見事にバーテックスを鎮火の儀にて撤退させる事に成功した。

 が、簡単な話ではなかった。何度も吹き飛ばされ、その度に悟飯が銀を中心部へ連れ戻す。その間、須美と園子はバーテックスの気を引く為に様々に立ち向かっていた。

 その結果は、銀達の体にしっかり刻まれている。

 

「すみません……」

「ごめんなさい……」

 

 消毒液が染みる体を真っ直ぐに伸ばして、悟飯達は再び反省を言葉にする。

 

「このままじゃ、命がいくつあっても足りないわ」

 

 最もな言葉に誰も何も返せない。

 しかし、その後に安芸は微笑む。

 

「でも、お役目が成功して、現実の被害が軽微で済んだのはよくやってくれました」

「っそれは! 孫さん、三ノ輪さん、乃木さんのお陰です」

 

 食い気味に話した須美の言葉に銀と園子が照れたのが見えた。しかし、悟飯だけが少し浮かない顔をした。

 その時、悟飯は安芸と目があった気がした。しかしすぐに視線は逸らされ「そういう話ではありません」とため息を吐いた。

 

「貴方達の弱点は連携の弱さね」

 

 確かに、と悟飯は思った。

 先の二戦、各々が自由に動いてすぐに分断されてしまった。銀が最初に突っ走り、須美が焦って先走って止めを刺そうとして、二度も失敗している。

 悟飯が全員のフォローをするように動くのは良いが、突発的な事への対応にかなりの難がある。

 合同練習自体は始まっていたが、まだまだなのだ。

 

「じゃあ、そうね。四人の中で指揮を執る隊長を決めましょう」

 

 安芸先生の言葉に悟飯は自分は無理だなと、他の三人を見る。

 一番反応していたのは須美だった。

 言葉にこそしなかったが、目を見開き、自分だと言わんばかりに安芸先生を見ているのが見えた。

 須美は……と悟飯は考える。不安が残った。戦いだけではないが、どうにも真面目過ぎたように思えたのだ。

 

「乃木さん、隊長を頼めるかしら」

「えっ? 私、ですか?」

 

 選ばれたのは園子だった。園子は驚いたように、自分を指差す。

 まさか言われるとは思っていなかったのだろう。

 それでいいのかと聞くかの様に三人を見てきた。

 

「あたしはそういうの、柄じゃないから。あたしじゃないならどっちでも」

「僕も、あんまりそういうの得意じゃなくて……お願いします」

 

 銀と悟飯が頷いて肯定する。半ば押しつけのようではあるが、根拠もしっかりとある。園子が一番、状況把握と打開策を考えるのが上手い事だ。

 そして、目立ったミスをしていない事。

 須美はと言えば、制服のスカートを少し握りしめた後に、笑顔を見せた。

 

「私も、乃木さんが隊長で賛成よ」

「わっしー……」

 

 これで全員が賛成した。

 それを見て、安芸先生は全員賛成ねと横に置かれていた資料を手に取った。

 

「次の神託によると、次の襲来までは割と期間があります。なのでその間に連携を深める為の合宿を行います」

「「「「合宿?」」」」

 

 困惑した様に全員が首を傾げた。

 

「ええ、合宿です。場所は大赦の管理しているビーチで行います。今週末の三連休を使ってみっちり訓練しますのでそのつもりで」

「は、はいっ!」

 

 須美の返事に安芸は満足げに笑うと悟飯へと体を向けた。

 

「孫君には少し特別なお話があります。この後、残ってもらえますか」

「えっ。は、はい……」

 

 何かしたのかと言う風に三人に見られるが、悟飯には心当たりはなかった。

 それから、三人が帰ったのを見届けて、悟飯は安芸先生は椅子に座り向かい合っていた。

 

「……孫君は、神樹様について、どれくらい理解しているかしら」

 

 予想外の質問に、驚きつつ悟飯は考える。

 半月だが、多少勉強は進んでいる。

 

「えっと、ウイルスから四国を守ってくれる神様の集まりです。その恵みで作物などがよく育ったりしている。です」

「そうね。それでいいわ。孫君の言う通り、神樹様は私達に様々な恵みを与えてくれています。勇者の力もその一つね」

 

 壁や樹海によって四国が守られているのも、人間に勇者の力を与え、バーテックスと戦えているのも全て神樹様のお陰だ。

 神樹様に選ばれ、与えられた力によって変身した勇者のみが樹海で動け、そしてバーテックスと戦えるというのは悟飯も聞いていた話だ。

 だからこそ、悟飯も疑問に思っていた事がある。

 

「孫君の攻撃が、バーテックスに通用しなかった事。疑問に思ってるのではないかしら」

「は、はい……」

「はっきり言うわね。孫君、貴方は神樹様に選ばれた勇者ではありません」

「やっぱり……そうですか……」

 

 薄々感じていた事実を突きつけられ、悟飯は俯く。

 

「でも、ならどうしてボク達を大赦は……」

 

 勇者でない、神樹によって選ばれていない悟飯に、何故大赦は近づいたのか。悟飯にはそれが分からなかった。しかし、安芸先生は落ち着いた表情のまま、淡々と語る。

 

「ご神託があったからです」

「ご神託……?」

 

 神樹様から巫女と言う存在に対して伝えられる予言のようなもの、それがご神託。

 意味はわかるが、ご神託されるようなものが自分にあった覚えがない。

 

「孫悟飯を、保護せよと」

「随分、具体的なんですね……」

 

 わざわざ名指しとなってますます困惑する。なら勇者の力をくれても良いじゃないかとも思う。

 安芸先生は真面目な雰囲気と居て、悟飯に微笑む。

 

「神樹様の考えは私達にも分からないの。でも、神樹様は孫君に戦えとも言っていない」

「えっ」

「勇者の力がないと言う事は別の役割がある筈。それならば樹海で動けるのにも関わらず、戦う力を持たない事にも説明がつく」

「つまり……」

「孫君はこれ以上、戦う必要はないという事」

 

 戦わなくて良い。

 それは今まで、母親ぐらいしか言われた事がなかった言葉だった。

 しかしその言葉が言われた状況は地球が消えるか消えないかの瀬戸際。悟飯がやらなければならない状況だったように思う。

 では今はどうだろうか。

 変わらず、世界が終わってしまう状況ではあるが、ただ悟飯の攻撃はバーテックスに通用しないのだ。悟飯がやらなければならないだろうか?

 悟飯は役に立つのだろうか?

 そんなのは、考えるまでもなかった。

 

「ボクも、戦います」

「……どうして?」

 

 静かに、安芸先生は問いかけてきた。

 その目を、悟飯は力強く見つめ返した。

 

「守りたいんです、三人を」

 

 役に立つのかではない。役に立ってみせる。

 それが悟飯の答え。

 思い出すのは、四国に来るまでのまでの悟飯の闘い。

 ベジータ、フリーザ、セルやボージャック。誰も彼も世界を破壊しようとしていて、誰も彼もが強かった。敗北すらした。

 そんな戦いの中で父親を亡くした。

 大切な人間を亡くした。

 死に目に合わせ、自分も死にかけた。

 それも自分のせいで。

 

「ボクが神託に選ばれたなんて、正直関係ありません。ボクは、バーテックスと戦い、傷つく須美達を見ているだけなんてできない!」

 

 勿論、戦うのは嫌だった。出来るのならば戦わない方がいい。それは変わらない。

 しかしそれで三人が戦いで傷ついていくのならば、そんなのは許せない。

 今度こそ、守りたいと思ったのだ。

 

「ボクは、役に立ってみせます。三人の盾になりますっ! だから、連れてってください! 合宿にっ……!」

 

 悟飯は立ち上がって、頭を下げた。

 それと同時に、安芸先生が小さく息を吐いたのを聞いた気がした。

 

「そうね。私もそう思うわ」

 

 その呟きは、聞き間違いかと思うくらい、悲しい声色だった。

 顔をあげるとそこには変わらず真面目な顔をした安芸先生が居た。

 

「孫君、貴方の気持ちは分かりました。お母様にはこちらから伝えておきます。今週末、着替えなど、忘れないようにね」

「……は、はいっ!」

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