孫悟飯は勇者である   作:桜開花

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くんれん 三

 合宿当日の朝。

 大通りにあるバス停で、一台のバスが止まっている。

 神樹館貸し切りと書かれたバスには既に、須美と園子が乗っている。一番後ろの席で。

 そして今、悟飯が乗り込んで三人。荷物を片手に手を振った。

 

「おはよう、須美」

「おはようございます、孫さん」

 

 悟飯の挨拶に須美は笑顔で返した。

 集合時間の十分前だというのに既に居るのは流石須美だなと感心する。園子は須美が心配だから迎えに行ったから、珍しいといえば珍しい。

 悟飯は少しづつ三人に慣れてきていた。

 須美の真面目さ。その隣で寝息を立てる園子のマイペースさ。そして、

 

「銀はまた、かな……」

「三ノ輪さんは、恐らくまた、かと」

 

 遅刻常習犯の銀だ。

 まだ十分前と言えどあまりの常習性にそうなのだろうなとこの時点で察してしまう。

 悟飯は二人の前、二人席に荷物を置いて座ろうとすると、須美が「あの!」と声をあげた。

 

「隣、空いてますから」

「ん? じゃあお言葉に甘えて」

 

 その言葉に悟飯は特に気にした様子もなく須美の隣に座った。ふと、隣を見ればかなり勇気を出したのか耳を赤くしていた。

 

「そ、孫さんは、素晴らしいですね!」

「え?」

「い、いえ……十分前行動の徹底。普段の言葉遣いや礼儀作法もしっかりとしていますから、素晴らしいなと、思いまして」

「そうかな? ボクからすれば須美や園子の方が凄く見えるよ」

「この国を守る勇者としては、これくらいはちゃんとしてないとっ」

 

 使命感、責任感が強い。

 それが悟飯の須美に対しての印象はそれだ。

 勇者という役目だけではなく、国を憂い、良くしようとする。否しなくては、と言った話の回数は、既に片手の指を超えている。

 そんな悟飯はただ、笑い返す。

 

「でも、うん。須美には敵わないよ」

「そう、でしょうか。私はまだまだで……」

 

 まさかと悟飯は笑う。

 須美が毎朝自分で朝食を作っていると聞いた時は驚いた。

 しかもそれが、洋食派の両親を和食派に変える為だと聞いた時は更に驚いた。更に毎日のお祈りやお清めなんかも欠かさない。

 須美の使命感の行動は多少やり過ぎに思うことはあるが悟飯からすれば、偉いの一言に尽きる。

 自分とは比べ物にならない程努力家の彼女を尊敬していた。

 

「孫さんは真面目で良かったです。その、こう言ってはなんですが、乃木さんと三ノ輪さんはあまり……」

「なんとなくわかるよ。あはは……」

 

 須美の言いたい事を理解して悟飯は苦笑いをする。

 現在進行形で須美の肩を枕に寝ている園子は特にだが、二人とも個性が強い。お役目の時はそれなりに問題ではないのだが、こういう日常生活ではなかなか困ったりもする。

 ただ、須美も個性の強さは変わらないと思ったが、それは言わなかった。

 

「銀、まだかな……」

 

 それから暫く須美と悟飯が話してもう二十分程立った頃、悟飯が心配そうに呟いた。

 運転手は貸し切りだから幾らでも待つよとは言っていたが、やはり遅いと銀の安否が気になってくる。

 

「やっぱりボク、銀を探して」

「はぁ、はぁ……悪い悪い遅くなっちゃった」

 

 悟飯が立ち上がると同時にバスのドアが開き、銀が乗り込んだ。

 

「良かった、事故に巻き込まれたとかじゃなくて」 

「三ノ輪さん遅いわよ!」

「いやー色々あって……いや、あたしが悪いな。ごめんよ須美、悟飯」

 

 須美の言葉に銀は笑いながら謝る。

 そんな銀に反省を感じられなかったのか、須美は指を立てて説教を続けた。

 

「この際だから言わしてもらうけど、三ノ輪さんは普段の生活がだらしなさ過ぎよ! もっとお役目に選ばれた勇者として、自覚をもった行動をして!」

「あはは、悪かったって」

「何回も聞いてます! そもそもこの合宿の目的を覚えていますか?」

 

 須美の小言が炸裂していく。非があるのは銀の方だからか、謝罪をしながらしっかりと聞いているようだった。

 

「ん……? あれ、お母さんここどこ……」

 

 須美の声に目を覚ましたらしい園子が、寝ぼけているのか、虚ろな目で周りを見渡し始めた。

 が、分からなかったのかまた夢の世界へ帰ってしまう。

 それを見て銀が笑った。

 

「園子ー……。えっと後ろの席で一列、ならあたしは悟飯の隣だっ」

 

 須美達が一列に座っているのを見てから、銀がダッシュで座り込んだ。

 悟飯の隣で大きくため息が聞こえてきた。須美の苦労が察せらる。

 

「孫さん、二人で頑張りましょう。この美しい国を守る為に!」

「え? う、うんそうだね」

「え、何々二人で何の話?」

 

 改めて、悟飯は須美も個性が強いなと苦笑いで返した。

 

――

 

 波風の吹く砂浜で、四人は並んでいた。

 その向かいには安芸がクリップボード片手に立っていて、説明を始めていた。

 

「お役目が本格的に始まった事により、大赦は貴方達勇者を全面的にバックアップします。ご家族にも説明はしてあります。全力で訓練に臨むように」

「「「「はいっ!」」」」

 

 波音だけの海岸で、四人の返事が響く。

 既に三人は勇者に変身していて、悟飯は道着に着替え、超怒髪天の変身していた。

 道着は母の用意してくれた亀仙流の道着だ。

 

「そして、貴方達にはこれから連携の特訓をしてもらいます」

 

 安芸先生が指差した先には砂浜に大量に置かれた射出機と、その奥にある崖上の道路に置かれたバスがあった。

 特訓の内容は簡単なものだった。

 安芸の指定した位置から銀をバスまで送り届ける事、のみである。

 当然にルールはある。と言うのも須美は砂浜から少し離れた防波堤の先から動く事が許されないというものだ。

 

「ここから動いちゃダメなんですかー?」

「駄目よー!」

 

 メガホンで拡大された声が響いた。

 悟飯も同様に指定がある。

 数十メートル上空、大声を出して声が届く位置から左右にズレても良いが降りる事はしていけない。

 そして、攻撃も一切してはいけないとの事だった。

 

「こっからジャンプすればあんなとこ届くんだけどな―」

「ズルは駄目だよー」 

 

 そして、銀と園子は砂浜の上。

 バスから大きく離れていた位置にスタンバイしている。そこから走って向かうというのが全体の流れだ。

 

「ボクは攻撃を、してはいけない……」

 

 どうしてかはわかっていた。悟飯の攻撃はバーテックスに通用しない。

 攻撃が効かない以上、悟飯は状況の把握を優先した方がいい。

 サポートなどをメインに動く為、前線に立ち、隊長として指示を出して動くのはやはり園子の方がいい。

 

「それでは、始めっ!」

 

 ホイッスルの音と共に、銀と園子が走り出した。射出機から撃ちだされたのはバレーボールだった。それがいくつも射出され、園子と銀を襲う。

 大半は園子の盾で防がれているが、どうしても銀は後ろについていくという関係上、軌道によっては守り切れない。

 悟飯がそれを見極め指示を出し、須美がそれを撃ち落とす。

 その筈が、一つを逃した。

 

「あいてっ」

 

 バレーボールが銀の顔へと直撃した。悟飯程ではないが、勇者は防御力も高くなる。バレーボールでは大した傷にはならない。

 ただ、当たった事でホイッスルが鳴る。

 再トライだ。

 

「ごめんなさい、三ノ輪さん……」

「どんまいだよ~!」

「良いって。呼び方も硬いんだよ! 銀で良いよ! 銀で!」

「私の事はそのっちで~」

 

 二人の言葉に須美は恥ずかしそうに目を逸らした。

 

「次は、ボクももっと早く指示出すから、頑張ろう!」

「はい早く戻って! 出来るまでやるわよ!」

 

 安芸先生の声が響く。バレーボールが別の大赦の人間に回収されるとすぐに二回目の挑戦が始まった。

 二回目、悟飯が指示を間違えた。

 三回目、銀が先走り直撃。

 四回目、須美がバレーボールを落としきれなかった。

 五回目、園子自身がバレーボールに当たった。

 つまりは失敗続きだった。

 結局、その日は一度も銀がバスへとたどり着く事はなかった。

 

――

 

「部屋、同じなんですか……?」

「これから貴方達四人には一緒に生活してもらいます」

 

 宿の一室に案内されると同時に安芸先生に、そう告げられた。

 一面畳の敷かれた大きな和室は確かに四人で過ごせるほどの大きさだ。

 

「連携を深めると言う事は、仲を深める事も含まれます。四人で四の力ではなく五にも十にもするの」

「なるほど……」

「そんな事よりお腹すいたー。あたしもうお腹と背中がくっついちまうよー」

 

 銀の言葉に宿の従業員が入ってきた。そして手際よく、食事の準備を進めていく。

 待機していたのだろうかと思う程の素早さだったが、その料理は出来立てのように湯気をあげている。

 

「お、おぉ! 豪華な料理だ! カニ!」

 

 料理のレパートリーも凄い。海が近いからか海産物が多めだが、鯛の活け造りに丸々のカニ。それ以外にも刺身や天ぷらなどなど。

 丁寧に盛り付けられたそれは、見ているだけで食欲がわいてくる。

 流石にその誘惑は強かったのか、満場一致で全員がすぐに席についた。

 

「「「「いただきます!」」」」

 

 そう言って食べ始めた悟飯の横に、猫のぬいぐるみが置かれた。やけに胴体の長い猫は机の上に手を置いてまるで餌を待っているかのよう。

 

「そ、園子。これは……?」

「この子はサンチョだよ~?」

「そ、そうなんだ」

 

 サンチョ、それがぬいぐるみの名前らしい。

 ただ、それをどうして隣に置いたのかと言う答えは貰えずに園子は料理を食べ始めてしまった。

 これはきっと答えを貰えても、きっとあまり納得できるものじゃないだろうと悟飯は諦め、カニを手に取った。

 

「……このカニ、ちょっと食べにくいな」

 

 足を切り離した後に中身を取り出そうと殻を剥がそうとするが、上手く行かない。

 そして悟飯はもどかしくなって力ずくで殻を割ろうとして、ミシリ、そう音がした。

 それと同時に向かいの須美が身を乗り出した。

 

「待って孫さん! あんまり力を入れると潰れて中身が飛んでしまうわ」

「えっ? こ、困ったなぁ」

「はさみがここにありますから、足はこれで切り込みを入れて、身を取り出すんです」

 

 須美が実践してみせる。

 まず足を完全に切り、その後関節近くに切り込みを入れる。その後、音が鳴るくらいに折ってみれば、すんなりと身だけが殻の中から取り出された。

 須美からハサミを受け取り、悟飯もやってみる。それは思ったよりもすんなりと取り出せた。

 

「出来たっ、ありがとう須美」

「い、いえ……」

「悟飯、力加減も慣れてきましたかな……?」

「あはは、おかげさまで」

 

 カニを上手く切れたのを見て、銀が茶々を入れてくる。

 実際今まで強く握ってハサミを曲げていた。銀と共に遊び兼力加減の練習をしていたのが実を結んだらしい。

 

「最初に比べれば出来るようになったつもりだけど」

「ボール蹴り飛ばしたら文字通り空の彼方まで飛んだ時は驚いたなー」

「うんうん。それに、ゴッくんを初めて見た時から凄い筋肉だよね~って思ってたんよ~。中学生の先輩みたいだな〜って!」

「そ、そうかな……?」

 

 腕まくりをして腕を見せてみる。悟飯のそれは同学年の男児とは、比べ物にならない程の筋肉がある。超怒髪天になればさらにそれが膨れ上がる。

 

「あとでちょっとあたしに触らせてよ!」

「それは良いけど」

「三人共、食事中なのだから、あまり雑談に夢中にならない」

 

 盛り上がり始めた所で須美に窘められる。はーい、とまた静かに四人は食べ始めた。

 

「「「「ごちそうさまでした」」」」

 

 手を合わせ、四人は声を合わせる。

 片付けは、三人のごちそうさまでしたの声を聴くと同時に現れた旅館の人達がやってくれた。

 随分と手厚いなとも思ったが、世界を守るお役目についている勇者に対してはこれくらいするだろうとも思えた。

 

「ふー……お腹いっぱいだ」

 

 悟飯の食事量に三人は慄いていた。白米だけでも一人で三合は食べている。そこから出されたおかずは全て平らげた。食べ盛りと言い訳をしていたが流石に苦しい。

 学校で他の人の食事を見た時、悟飯は驚いた。

 その量の少なさにである。悟飯の元居た世界には父を始め、大食いばかりが揃っていた。それこそ、肉は骨付きを丸々食べたりとワイルドな食事も少なくない。

 だから多少周りに合わせるように少なめに食べてみたのだが、豪華な食事を見せられたことで、悟飯は限界だったのだ。

 

「ゴッくんいっぱい食べたねー」

「あはははは……」

「やっぱり、あたしも一杯食べたら大きくなれるのかな」

「ミノさん、おっきくなりたいの?」

「そりぁあね!」

 

 悟飯の身長はこの場の誰よりも高い。銀と比べれば十センチ以上の差があった。

 食事の量で決まるなら、今ごろ自分は百八十以上あるだろうなと思いながら悟飯は目を逸らした。

 

「ところで、わっし~の荷物あれだけ?」

「え、変かしら……」

 

 園子が端に置かれた須美の荷物を見た。

 須美の荷物は着替えや歯磨きなど必要な物を最低限に抑えているのが見て取れる。服もタオルも綺麗に畳まれコンパクトに纏まっているのは、やはり須美らしい。

 

「少なくない?」

「足りると思うけど……それに、孫さんも同じくらいじゃない?」

「ボク? 着替えを多めに持ってきて……それくらいかな」

 

 悟飯の荷物に視線が集まる。悟飯も須美同様大半の荷物は最低限の量に収まっている。強いて言えば服の量が多い位だ。

 

「それなら、銀の荷物の方が気になったかな。もうお土産買ってるし……」

 

 銀の荷物の周りにはお土産が置かれている。家族用やクラスメイト用などなど、量もかなりあるせいか、そこそこのスペースを取っている。ただ、部屋が広いからそれほど問題ではないが。

 

「それを言うなら、園子の方が変じゃないかな……?」

「確かに……」

 

 園子の荷物は混沌だった。

 まずに目に入るのは黒い球体の物体だった。何に使うのかも分からないが、その横にあるのはまさかの石臼だ。更には謎のメモ帳やサンチョグッズなどなど。

 何がどうバックに詰められていたのかと疑問になる荷物達はもはやどう突っ込めばいいのかと困り果ててしまう。

 

「臼でおうどん作るんよ~」

 

 三人は苦笑いするしかなかった。

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