魔剣使いとポンコツ 魔狩人外伝   作:空箱

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MISSION1ー3 死者は帰らず

ローエル商会。

この生きるには過酷な災害多発地域魔王領において広く物流網を確保している数少ない会社の一つだ。

その取引先は国境を越えて、遠く王国や聖錬にまで伸びているという。

その支店となれば大通りの一等地に大きな商館を構え、警備に専用の社員を雇うほど。。

 

そんな表通りの日差しの下ににつかわしくない赤いコートをたなびかせ、一人の男が立つ。

 

トニーだった。

 

「大層な建物だ。ここにあのお嬢ちゃんの叔父がいるってわけか」

 

赤いコート、大剣、二丁拳銃。

このままマフィアのアジトに乗り込んでもいい戦闘態勢。

トニーは正面入口へ堂々と歩き出す。

 

「よし、いっちょ行ってみるか」

「そこの男、ちょっと待て」

 

当然のことながら、怪しい輩として門衛に呼び止められるのだった。

 

 

 

「だから言ったでしょう? 私も行くって」

「ったく、しかたがねぇな」

 

勝ち誇るパティを連れて再びローエル商会へ向かうトニー。

今度は呼び止められることもなく、むしろ会釈をされ門衛がドアマンの様に扉を開けるほど歓迎された。

 

「叔父様に会いたいのだけど?」

 

一言パティが告げるだけで即座に支店長と面会が決まった。

 

武装解除して奥の応接室に通されたまではよかった。

トニーは武器を手放すのは渋ったが、パティにまで強く要望されればさすがに従うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

―――その結果が無手で銃を突き付けられたこの状況だが。

 

 

パティの叔父はまだ若かった。だがその表情はやつれ、顔色は悪く髪はぼさぼさに乱れ取り乱し混乱してた。

銃を握る手は震え、暴発の危険がある。

一先ずトニーはパティをかばえる位置に立った。

 

「どういうつもりなの叔父様、どうか銃を下ろしてください」

「どういうこと? どういうことだと!

 それはこちらのセリフだパティ・ローエル! なぜおまえが生きている!確かにお前は死んだはずだ!

 お前が生きているということはもう、もう兄はすべて知っているということか!」

 

一体どういうことだろうか?

どうにもトニーが聞いた話と食い違っている。

支店長の言いぐさはまるでパティがすでに死んでいるかのようだ。

今ここにいるパティを親族であるが見間違えるはずもない。

どうにも聞いていた話とおかしな点がある。

パティがまさか幽霊だとでもいうのだろうか? とてもそうは見えないが。

 

「おいおい、おっさんどう見てもパティは生きてるぜ?

 働き過ぎて目が悪くなってるのか? 薬でも飲んで休んだほうがいい。

 ひでぇ顔してるからな」

「ふざけるな! 薬? 幻覚草のことか? あんなもの私は使っていない!

 あれはただの金もうけの道具だ!

 そうだ、あれほど利益の出る商品はない、一度買った客は幾らでも金を落とす。

 どれだけ値段を釣り上げてもな! 客も求めているのだそれを売って何が悪い!」

「おいおい、そんな話はして無いぜ?」

 

どうやら訳の分からない状況に陥って口が滑っているようだ。

聞こうとしていたことを堰を切ったようにしゃべりだす。

 

「そうだ、パティ! お前が裏帳簿を嗅ぎ付けなければ! 私の商売の邪魔をしなければ!

 殺させる必要はなかったんだ。死んだならなぜ死んだままでいられない!」

 

酷く自分勝手な理屈を叫び散らす叔父に、パティはひどく冷静に仮面の様な冷たい目をしていた。

 

「そうでしたかローエル支店長。でもよく思い出してください。あの時の私の姿を」

「な、なに?」

「死体の顔をよく見ましたか? 体つきは? ろくに確認できる状況ではなかったのでは?

 実はあれは私の影武者なのですよ。

 私の影武者が代わりに死に、私は生き残ったのです」

 

それを聞いたパティの叔父はさらに興奮して顔を真っ赤にした。

 

「そんなわけはない! 殺す前に話して確認したんだ!

 愚かにも私を糾弾し、自首するように求めたのだ。愚か者めそんなことをするわけがないだろうに。

 あとは琥珀の茨卿に任せたがあの状況で逃げられるほどあの男は甘くはない!  

 パティ・ローエルは死んだ! あれが影武者であるはずがない!」

 

パティの叔父は言い切った。

死んだのは間違いなくパティ・ローエル。

それはつまり、ここにいるパティは・・・

 

「そう、そうでしょうね。パティ・ローエルが生きているわけはない。

 そんなことは解っていました。わかってたのよ」

「は、はぁ?」

「そこまでわかってまだわからない?

 パティ・ローエルは死んだ。ではここにいるのは?

 簡単なことじゃない。任も果たせず無様に生き延びた役立たずの影武者よ」

 

パティは、いや、その影武者は怒りを滾らせた目でパティの叔父をにらみつけた。

 

「お前がパティを殺した! 血の繋がったあの子を!」

「ち、違う、やったのは琥珀の茨卿で・・・」

「お前が幻覚草の密輸に手を出して、それに気づいたパティを殺すように命じたんだろう!

 自分の利益と保身の為に!」

「し、仕方がなかったんだ! この密輸がバレれば身の破滅、いや極刑で私が死んでしまうから・・・」

「だから? それでパティが死んだことが仕方がないわけないでしょう!」

「う、五月蠅い! お前さえ死ねば全てことは収まるんだ!」

 

もはや追い込まれた鼠のごとく、パティを殺した叔父は銃口を影武者のパティに向けた。

いまさら親族の顔をしていても殺すことにためらいなどなく、影武者の少女は避けようともしなかった。

だが忘れてはいないだろうか、ここにもう一人頼れる男がいることを。

 

「おいおい、俺を忘れちゃいないか?」

 

視野の狭まったパティの叔父の目にその動きは映らなかった。

ほんの瞬く間に距離を詰め、気づいたときにはトニーは拳銃を掴みトリガーを引けないように指を差し込んでいた。

 

「あ」

「危ないもんは没収だ」

 

銃をむしり取られ、床に転がされた無様な男はそれでもまだ笑っていた。

 

「は、ははは、無駄だ、無駄なんだよ! 証拠はもう何もない。証拠が無ければ私は捕まらない。

 私を殺したところで犯罪者はお前たちだ、何を言ったところで下等な魔狩人と偽物の言葉など誰も信じない!」

 

確かに社会的信用は天と地ほどの差があるだろう。

素直に影武者の言葉が通るとは残念ながら思えない、証拠が無ければ。

 

証拠が無ければ。

 

「確かに、私たちの言葉は信用されないかもしれません。

 支店長というあなたの社会的信用は私たちとは比べ物にならないでしょう。

 でも、そうですね。社会的地位のある人が証言すればどうでしょう。

 例えばあなた自身の言葉なら?」

 

影武者のパティは頷き、懐から手の平サイズの巻貝を取り出した。

 

「これ、何かわかりますか?」

「そんな貝殻がどうしたというんだ、ふざけたことを言っていないで・・・」

 

パティは黙って貝殻の先端を押した。

 

『ふざけるな! 薬? 幻覚草のことか? あんなもの私は使っていない!

 あれはただの金もうけの道具だ!

 そうだ、あれほど利益の出る商品はない、一度買った客は幾らでも金を落とす。

 どれだけ値段を釣り上げてもな! 客も求めているのだそれを売って何が悪い!』

 

叔父の顔色は蒼白になった。

それは、つい先ほど恐慌状態で口を滑らせた一部始終だった。

 

「これは音貝(トーンダイアル)というものです。音を録音しいつでも再生できる特殊な貝殻で。

 今のようなときに役に立つ道具なのですよ。

 これを聞けば私の話に耳を傾ける人も出てくると思いますよ。

 そうは思いませんか?」

 

決定的な証拠を突き付けられ支店長はこのままでは支部長としての職を失い、金も野望も命すら失う。

突き付けられた未来は絶望的だ。

だが身勝手で利己的で暴力を使うことにためらいのないこの男にはまだ打てる手が残っていた。

 

この二人をここで始末すれば証拠も証言もなかったことにできるのだ。

瞬時にそのことを計算して顔を上げた。

 

「琥珀の茨卿! 仕事だ! こいつらを殺せ!」

 

支店長は怒りに震えながら誰かへと大声で命じた。

その言葉に応え、隣の部屋に繋がる扉が勢いよく開かれる。

入ってきたのは角の生えた大柄な男性。フード付きの黒い豪奢なローブに身を包み、青白い肌をしているが鍛えられた戦闘を生業とする体つきをしている。

冷徹な殺意を宿した瞳は男が殺し屋を生業とすることを雄弁に語っていた。

 

「証拠を握られなければ外の警備を呼べたものを。

 お前の不始末のしりぬぐいだ、報酬はいつもの五倍を頂くぞ」

 

しゃがれた声でそういうと、琥珀の茨卿は両手を空を掻く様に動かした。

トニーはとっさにパティ、いや影武者の少女を連れて距離を取ろうとしたが全身を針で突かれたような痛みが走り、縄で締め付けられたように突然身動きが取れなくなった。

トニーは無理やりに立ってこらえたが、パティも同じ状況なのか苦悶の表情で床に倒れた。

驚くことにトニーが力を込めても拘束が緩む気配もない。

 

「たいした手品じゃねえか。何ならチップをやってもいいぜ」

「愚かな強がりだ、もはやお前は死ぬ運命。泣き叫び命乞いでもすればいい」

 

琥珀の茨卿は両手を突き出した状態で憐れむような眼をトニーに向けるが、トニーは絶体絶命の状況をむしろ楽しんでいるかのように笑っている。

 

「あなたが琥珀の茨なのね! よくもパティを! 絶対に許さない!」

 

影武者の少女は身動きの取れないまま叫んだ。

 

「仕事の邪魔をしければ死ぬこともなかったのだ」

 

場を制圧した琥珀の茨卿は落ち着き払ってそう言った。

 

「あの女は若いが有能だった。まさか到着から数日もかけずに我々の関係に気が付き、裏帳簿の存在までかぎつけるとは。

 あれは知りすぎた、生かして帰すわけにはいかなかった」

「ああ、まったく忌々しい限りだ、無能であれば私が兄を排除し商会を掌握した後に、政略結婚の手駒として生かしてやったものを」

 

叔父は落ちていた銃を拾い上げトニーに向ける。

 

「お前もだ影武者よ。死んだ者に義理立てした結果がこれだ。お前の行動がこの男を殺すのだ。

 モノ言わぬ死体となるところを目に刻んで、後悔しながらお前も死ね。

 ああ全く、お前が何もしなければ誰も死ななかったのにな?」

「ふざけるな! お前が先に殺したんだ! お前の都合でパティを殺しておいてふざけたことを言うな!」

 

だが影武者がどれだけ叫ぼうと身体は動かない。

琥珀の茨卿の束縛は強力で立ち上がることすらままならない。

それでも藻掻かずにはいられない。影武者はまだ何もできていない、憎い仇に何も報いを与えていないのに!

だから叫ばずにはいられない、身をよじりながら力の限りその名を呼んだ。

 

「トニーッ!」

 

身体の自由を奪われてなお倒れず立ち続けるトニーは、絶体絶命のこの状況でもタフな態度を崩さない。

 

「パティまあ見てな、俺はこれでも不死身なんて呼ばれる男だ。

 これくらいじゃあ死んでやれないな」

「たとえお前が魔人であろうとも我が力から逃れられはしない、諦めろ」

 

トニーが力を込めても戒めはビクともしない、おまけに魔力もうまく練ることができない。

琥珀の茨卿の確信は正しかった。このままではトニーですら抜け出すことができない。

 

支店長もそのことをよく知っていた。

だからこそ自分の絶対的な優位を全く疑っていなかった。

嗜虐的にあざ笑う。

 

「その強がりが何発まで持つか試してやろう、さあ悲鳴を上げろ、泣き叫べ!」

 

それでも、それでもトニーは笑っていた。

ぺろりと唇を舐め、眼に爛々と強い意志を灯す。

この窮地にこそスリルがある。追い込まれたからこそ面白い。

ここからの逆転劇は最高にスリリングで楽しいだろう。

トニーはにやりと挑発する。

 

「やってみな、三流の小悪党」

 

その表情にいら立った叔父はついに引き金を引いた。

 

「もういい、死ね!」

 

 

ガシャンッ! バキンッ、バキンッ、バキンッ、バキンッ!

 

窓が割れる、銃声が響く、硝煙がたなびく、人が倒れる音は・・・しなかった。

影武者は眼を逸らさなかった。

 

だからその瞬間を見た。

 

 

「だから言っただろう? 不死身だってな」

 

 

不敵に笑うトニーを守るように、天窓を破りつき立つ鈍色の大剣が銃弾をことごとく弾くのを。

銀の髑髏が悪党二人をあざ笑う。

 

「Let's Party!! さあ、踊り狂おうぜ!」

 

トニーはいつの間にか緩んだ拘束を振りほどきすぐさま大剣を掴んだ。

そのまま状況を理解できずに棒立ちの叔父を殴り倒して琥珀の茨卿へと突進する。

 

「喰らいな、Stinger!!」

 

重量武器である大剣を片手で軽く構え、床を割るほどの踏み込みを速さに変える。

その速さをそのまま乗せて放たれる突きは激烈な威力となり、琥珀の茨卿の妨害も守りも一緒くたに貫いてその右腕をえぐり落とす。

 

「がっ、ぐああっ!! ま、まだだっああああ!!」

 

凄まじい激痛と衝撃に襲われながらも、残る左腕を遮二無二振り回す琥珀の茨卿。

その手が操るものが具体的に何であるかトニーにはわからない、だがそれは剣で断ち切れるものだ。

飛び込んできた大剣はその何か(・・)を断ち切った。だからトニー動けるようになった。

ならばそれは恐れるようなものではない。

 

トニーの手の中で剣が踊り、銀の軌跡が重なって不可視の何かを切り捨てていく。

 

「C'mon, wimp! 捕まえてみな」

 

剣劇は止まらない。

反撃の拳をいなしながら、琥珀の茨卿の全身に無数の傷を刻んでいく。

全身から血を流し立つのがやっとの琥珀の茨卿は、それでものたうち空を掴もうとする。

 

「Show down! おやすみだ!」

 

だがそれも空中で華麗なスピンを決めて放たれた回し蹴りによってついに終幕を迎える。

床にバウンドして壁に叩きつけられた琥珀の茨卿は、意識を完全に失いもうそれ以上立ち上がることはなかった。

 

横たわる琥珀の茨卿にトニーは言った。

 

「もう終わりか? 俺の相手をするにはダンスの練習が足りなかったな!」

 

ほんの十数秒の逆転劇だった。

 

 




>「ソードマスター」:
 父より受け継いだ基本的な戦闘スタイル。魔人の身体能力を前提としている。
 純粋な剣術だけでなく様々な近接武器や格闘へ応用可能な柔軟性がある。
 本来は魔なる武器の力を扱うための技。
 どれだけ癖のある武器もこの流派を体得していれば握った瞬間から身体の一部の様に扱える。
 
 →「スティンガー」:
   片手に武器を構えた素早い突進から速さを乗せて繰り出される強烈な突き。
╋<魔器所持:魔剣リベリオン>╋<ソードマスター>╋<心眼(偽)>╋<怪力>╋<片手持ち>╋
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