くもりくもらせ   作:aru

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14,遺される気持ち

 

 

 

 

「逃げろ……時雨、真白」

 

 目の前で起きていることが信じられなかった。浜矢は瀕死の重傷を負い、血だまりに倒れている。

 

 それは私の役目だ。いくらでも生き返れる私こそ死ぬべきだったのに。

 

「狙いがそれてしまった。……が、なかなかうまいな」

 

 酒呑童子の声が、いやに遠く感じる。

 

「なんで……私なんて、助ける価値ないのに」

 

 浜矢にとって、大事な存在でもなかった。なぜ助けた。

 

「黙れ。勝手に俺の命をゴミと交換したことにすんじゃねえよ」

 

 そう言われ、私は泣き出したくなった。私の命の価値などゴミのようなものなのだ。一回きりの命と比べていいものではない。あなたのしていることは、ただの無駄死になのだ。

 

 しかし言えなかった。これから死ぬ者に、自分をかばってくれた人間にどうしてそんな残酷なことが言えるだろう。

 

「……俺はゲームオーバーだ。だからせめて、お前たちを五幣の結界のとこまで逃がしてやる」

 

 浜矢は「雲外鏡」をポケットから取り出した。

 

 そのときになってようやく私は思いついた。彼に殺生石を渡せば、私と同じように蘇ることができることを。おそらく復活した後にいろいろ聞かれるだろうが、それでも私のせいで死んでほしくはなかった。

 

「浜矢さん。今助けますから」

 

 私は殺生石の入っているホルダーに手を伸ばしたが、浜矢は構わず鏡を向けてきた。

 

「気休めはいらねえ。もう飛ばすぞ」

 

「待ってください。お願いですから」

 

「……生きろよ。『雲外鏡』」

 

「待って!」

 

 雲外鏡が白く光ったその瞬間、私がさしのべた手は空を切った。

 

 視界が戻って来たときには、私たちは屋敷の外にいた。目の前にあるのは、緊急脱出用の手鏡だけ。

 

「待ってって……言ったのに」

 

 私はへたりこんだ。

 

 まだ助けられた。話を聞いてくれれば蘇生できたのに。

 

(殺生石のことなんて知らないから、話を聞いてくれないのは当たり前だ)

 

 私の中の、ほんの少し残った冷静な部分がそう答える。そう。酒呑童子の攻撃を避けていたら。正体がばれることを恐れず殺生石のことを伝えられていたら、彼は死ななかった。

 

 つまり私のせい。

 

「あ……」

 

 私が殺したも同然だ。

 

「あああ……」

 

 その事実をつきつけられ、私は吐きそうになった。一生取り返しのつかないことをしてしまった。

『自分がやってきたことだろうに』

「真白」

 

 あかりは私を呼んだが、立ち上がる気になれない。少し放っておいて欲しかった。

 

「真白! しっかりしなさい!」

 

 思い切りビンタされ、私は我に返った。あかりは泣いてはいなかった。顔面は蒼白だが、毅然と立って私を見下ろしている。

 

「周囲を警戒して! 煙の結界が解けてる!」

 

「結界が?」

 

 はっとして周囲を見回すと、五幣が倒れていた。頭を撃ち抜かれている。彼の死によって「煙々羅」が解除されたのだ。

 

「五幣さんは結界の外にいたんでしょ? なんで殺されてるの」

 

「……銃をもった怪異がいるってことでしょ。煙々羅の結界は怪異を通さないだけで、物理的な攻撃は素通しだから」

 

『♪』

 

 そのときあかりの上着のポケットから、着信音が聞こえた。彼女は青ざめると、左手を屋敷に向け、『塗壁』を発動させた。

 

 その瞬間、かたたたた、と無機質な銃声が聞こえてきた。思わず首をすくめたが、弾丸は全てあかりの掲げている塗壁に弾かれ地面に落ちた。私があっけに取られていると、あかりは銃撃のした方角を睨みつけた。

 

「……メリーさんね」

 

「あら。よく分かったわね?」

 

 隠れ屋敷の屋根の上にはマシンガンを搭載した大型のドローンが置いてあった。その傍に立っているのはメリーさん。彼女は不満げな顔でこちらを見ていた。

 

「電話してくる相手なんてあなた以外いないから」

 

「そう。あーあ、せっかくの秘密兵器だったのに……お遊びが過ぎたわ。お仲間はまだいるの?」

 

「さあ。知らないわ」

 

「……まともに答える気がないなら、他のことを聞いてみようかしら。友達を刺し殺した感想とか?」

 

 メリーさんはそう言って含み笑いをした。明らかな挑発。しかしあかりはそれを無視し、私に携帯を渡した。

 

「課長に連絡して。私たちは撤退するって」

 

「あれは倒さなくていいの?」

 

 そう言うとあかりは本当に悔しそうに顔を歪めて答えた。

 

「さすがに鬼火も空まで届かないし……無理ね。メリーさんと酒呑童子の情報、死亡者を伝えて」

 

 確かに事前に危なくなったら撤退するよう言われていたし、逃げるにせよ戦うにせよ、課長たちなら何とかするだろう。私はうなずいて文章を入力し始めた。

 

「内緒話は駄目よ。私も混ぜてほしいわ~」

 

 あかりが無視したのが気に障ったのか、メリーさんは姿を消して攻撃を開始した。彼女が憑りついたドローンは銃撃しながらこちらに近づいてくる。

 

 私が文字を打っている間、頭の上で弾丸が弾かれる音が響いていた。よくあかりは平気でいられるものだ。そう思ったが、メッセージを打ち終えてちらりと彼女の顔を見ると、神経を張って警戒しているのがわかった。

 

「終わったわ」

 

「じゃあ逃げるわよ」

 

 あかりは塗壁で私をかばいながら後退を始める。メリーさんの操るドローンは崩れないあかりの防御に苛立っているのか、無理な軌道で追ってきていた。

 

「あーもう、さっさと死になさいよ!」

 

 かなり苛々しているようだったが、私たちが密集した木々の中に入り込むと、その大きさが仇になり、立ち往生していた。

 

「……追ってこれないようね」

 

 振り返ると、メリーさんはドローンの操縦をやめ、姿を現していた。私たちが逃げる間、いつまでもこちらを睨み続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あかりと真白に逃げられた後、メリーさんは神標に電話をかけた。彼女はどうやらスパイだとばれて捕まっていたらしく、霊的なガードのほどこされた部屋にいた。

 

 スパイとして無価値になった彼女に対しては動きを縛ったあとに人質を殺したと言って(実際、人外にされていたので狩人に始末されていた)、絶望しきったところでなぶり殺して溜飲を下げた。

 

 神標を殺してから戻ってくると、屋敷の屋根に大穴が開いていた。生き残っていた怪異によると、巨大な骸骨が現れ屋根をぶち抜き、3人の狩人が撤退していったのだという。

 

 彼女の主―酒呑童子を殺すことにこだわって屋敷の中に留まっていてくれれば囲めていたはずなので、メリーさんは落胆した。狩人たちの奇襲で全滅しなかっただけマシではあったが。

 

 

 

 夕方になってから、メリーさんは同格の仲間とともに大広間に集められた。まだ主は来ていないらしく、上座は空席だった。

 

「今回の被害はどれくらいだったかね」

 

 入って来たメリーさんにそう言ったのは、赤ら顔の老人。醜い顔に小汚い蓑を着ているのでぱっと見は浮浪者のように見える。彼―「天狗」はメリーさんの眼をじっと見つめていた。

 

「……3分の2くらい」

 

「はて、お前は狩人どもは任せておけと言ったはずだが、どうしてそんなことになっておるんだ?」

 

「うるさいわね。だいたいあなたが起きてたら被害は少なかったのに」

 

「話をすり替えるな、このアマ。今はお前の責任を問うとるんだ」

 

 くそジジイが、とメリーさんはねめつけた。河童はなんだかんだ言うことを聞いてくれていたが、天狗はことあるごとにつっかかってくる。狩人も、利用価値のある河童ではなくこいつを殺してくれればよかったのに。

 

「……喧嘩するの、やめてもらっていいですか。食事がまずくなる」

 

 二人の口論にうんざりしたような声をあげたのは、セーターを着た女性だった。しかし背中から生えている黄縞の脚、両の眼に4つずつ、計8つある瞳を見れば普通の人間でも彼女―「女郎蜘蛛」の正体は見破ることはできるだろう。

 

「おいクモ。主が来る前に食べるな」

 

「丑三とかいう狩人と戦ってお腹がすきましたので……失礼」

 

 咎めた天狗をいなし、女郎蜘蛛は食膳に並んでいる臓物の吸い物を飲み始めた。その横に目をやると、我関せずとばかりに座っている少女がいた。少女はメリーさんと瓜二つで、彼女を見てひらひらと手を振った。

 

「……私の姿を真似るのはやめなさいって言ったわよね。『ドッペルゲンガー』」

 

「じゃあ、どんな姿になればいいの」

 

「人間の姿は覚えてるでしょ。それになりなさい」

 

「……分かったわ」

 

 ドッペルゲンガーは瞬時に黒髪ショートの少女になった。見覚えのある顔だったので、メリーさんは目を丸くした。

 

「貴女、この人間と会ったことがあるの?」

 

「ええ、まあ殺されかけましたが。私が会った中で一番強い人間の姿です」

 

「……どうして会ったことあるって言わなかったの」

 

「聞かれなかったので」

 

 御剣凛に変身したドッペルゲンガーは、口調までそっくりだった。最近仲間になった怪異なので知らなかったが、その姿をとれるならあかりとかいう狩人に対してもっとやりようはあった。

 

 出会うだけで動揺を誘えるし、「犬神」を使えばあかりの結界を無視して攻撃できた。今更たらればを言っても仕方ないのだが、メリーさんは頭を抱えたくなった。

 

「揃っているな。我が配下たち」

 

 そのとき、がらりと障子戸が開き、宙に浮いた首が入って来た。深紅の血を足跡のように滴らせながら進むと、メリーさん含め、怪異たちは姿勢を正した。酒呑童子は上座に収まると、「楽にしろ」と言った。

 

「まずは狩人どもを押し返したことをねぎらい、我が獲物を分け与えようと思う。存分に味わえ」

 

 彼の前には、狩人―浜矢警剛の首が置いてあった。たしか神標と組んでいた狩人だが、どうやら仕留められていたらしい。

 

 酒呑童子が大口を開け、勢いよく閉じると食膳に置いてあった首が消えた。直接触れずに相手を食ってしまうこの力は『空顎(からあぎと)』と呼ばれ、身体の滅びている今の酒呑童子が使える唯一の神通力である。

 

「うむ。少しずつ力が蘇ってきている」

 

 肉を嚥下した酒呑童子は満足そうにつぶやいた。メリーさんは血のスープをすすりながら、質問を投げかけた。

 

「五体満足に復活するまでどれくらいかかるでしょうか」

 

「もう少し。だがそう遠くない」

 

「それはよい知らせ」

 

 それを聞いて少し嬉しくなった。すでに彼の瘴気はメリーさんたちの数倍の濃さになっているが、これでも全盛期の10分の1にも満たないらしい。彼の首級を盗み出したときはあまり期待していなかったが、人間をかき集めて食わせる苦労に見合うだけの価値はあった。

 

(……もう、九尾の狐を探す必要もないかしら)

 

 古の大妖の力をもって邪魔な狩人たちを滅し、怪異にとってのユートピアを作る。メリーさんの夢は現実味をおびてきていた。

 

「できるだけ早くしていただけますか。私が交戦した3人の狩人は強かった。彼らがさらに大勢の狩人をともなって攻めてきたら、持ちこたえかねます」

 

 女郎蜘蛛の言葉に、天狗はまた噛みついた。

 

「不遜な。身の程をわきまえろ」 

 

「ただの注進です」

 

「ならばもう少し言葉を選べ。……ああ、そうだ。メリーよ、もとはと言えば誰かが七人ミサキや吸血鬼を適当にけしかけて使いつぶすから守りが薄くなったのだ」

 

 メリーさんが自分に飛び火してきたことを苦々しく思っていると、酒呑童子は「よい」と言って天狗を制した。

 

「メリーは十分仕事をしている。それに我が復活すれば、河童たちの死も報われるだろう」

 

「……」

 

「ああ、それと女郎蜘蛛の言っていたことだが」

 

 酒呑童子は黙った天狗から目をそらし、メリーさんを見た。

 

「この隠れ屋敷は今日の子の刻に移ろうのだろう。次の出先はあちらに知られているのか」

 

「……いえ。ここ藤見市だけです」

 

「ならば問題はあるまい。次の街で力を蓄えればよい」

 

 その通りだ。酒呑童子さえ完全復活すれば負けは後からいくらでも取り返せる。今は逃げに徹する―メリーさんは主が安全策をとってくれていることに安堵の息をはいた。

 

「……だがこの街を去る前に、一つ気になった者がいる」

 

「なんでしょう」

 

「お前は雪のように白い狩人を知っておるか。仲間の狩人から真白、とよばれていた」

 

 彼の問いを不思議に思いながらメリーさんはうなずいた。

 

「ええ。私たちと人間の混ざりものだったと思いますが。なぜ?」

 

「あれが喰いたい」

 

 酒呑童子はそう言うと、面の奥の眼を細めた。

 

「子の刻までには戻ってくる。あれの居場所を教えてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 どう帰って来たかは覚えていない。メリーさんのドローンが追ってこなくなっても私はあかりと走り続けた。

 

「♪」

 

 私たちが森から抜け出て家まで逃げ帰ってきたとき、メッセージがきた、丑三課長からで、彼と小坂部、伊見は脱出に成功したらしい。

 

「私、ちょっと課に行って来る。真白は家に戻ってて」

 

「そろそろ夕方だよ。一人じゃ……」

 

「大丈夫。それに真白、ひどい顔してる。休んでて」

 

「でもあかりにもしものことがあったら」

 

「じゃあこう言えばいい? 真白、家を守って。母さんと父さんと、光紀を守って」

 

 あかりの言葉には有無を言わせぬ響きがあった。思わずうなずくと、あかりは颯爽と走って行ってしまった。

 

 彼女がいなくなって、暗闇の中にいるような最悪の気分が戻って来た。

 

 戦ったり逃げたりしているときは意識しなかったから問題なかったが、暇ができるとあの瞬間を思い出してしまう。あの屋敷からは逃げきれたが、罪悪感だけはどうしようもなかった。

 

「ただいま」

 

 ドアを開けて家に入ると、ちょうど台所から出てきた光紀と鉢合わせた。

 

「真白。何かあったの?」

 

 彼は憔悴しきった私の様子を見て、心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

(……なんでもないって、言わないと)

 

 私は涙をこらえ、微笑を作ろうと頬に力をこめた。余計な心配をあかりの家族にはさせたくないし、もし死人が出たということを伝えれば、あかりは課をやめさせられるかもしれない。

 

 心を押し殺せ。演じろ。明るく振る舞え。泣くな。泣くな。泣くな――

 

 苦労の甲斐なく、ぽたりと涙が床に落ちた。

 

「真白?」

 

「………なんでもない。なんでもないから。放っておいて」

 

「何があったんだ?」

 

「大丈夫だから。ほんとに」

 

 私は光紀を振り払おうとしたが、逆に肩を掴まれた。光紀は私の眼をまっすぐ見返してくる。

 

「何があったんだ!」

 

 その瞬間、押さえていた感情があふれた。いっぱいに広げた目から、ぼろぼろと涙がこぼれる。喉から自分のものとは思えない嗚咽がもれた。

 

「姉ちゃんに何かあったのか?」

 

「ううん。あかりは大丈夫……でも、私はミスをした。そのせいで人が死んだ。私のせいで」

 

 私のような屑よりも、その人の方がよっぽど生きるべき人間だった。思い返せば、浜矢はいつも私たちの心配をしてくれていた。なぜ彼の行動を予測できなかったのだろう。

 

 光紀は少し困ったようにしていたが、何かを思いついたように私の手を引きダイニングへ連れて行った。泣きじゃくりながら光紀に入って来た私を見て、あかりの母は目をみはった。

 

「真白ちゃん、どうしたの」

 

「よくわかんない……とりあえず落ち着かせて」

 

 それを聞いたあかりの母は湯飲みに熱々のお茶をそそぎ、私に手渡した。ふうふうと息を吹きかけて冷ましながら飲んでいるうちに、少し心が落ち着いてきた。

 

「それで、何があったの」

 

 優しく問われ、私は今日あったことを伝えた。化け物屋敷に突入したこと。最初は楽に戦えていたこと。そして、自分の身代わりで仲間が死んだこと。

 

「私が死んだ方がよかったのに」

 

 そう言ったとき、あかりの母は椅子から立って私の前にやってきた。一体何をするつもりなのだろうと不思議に思っていると、そのまま抱きしめられた。

 

「大変だったね」

 

 彼女はそれ以上言葉を重ねなかったが、抱きしめられたぬくもりのせいで、せっかく冷えはじめた私の心が溶けてしまった。

 

「ああ……あぁぁ」

 

「本当は、あなたたちの仕事が少し危ないことは知ってた。だから無理せず、つらいときはつらいと言えばいい。あと、真白ちゃんが死んだ方がいいなんて言わないで。少なくとも私が悲しいから」

 

 私は背中をさすってもらいながら泣き続け、疲れて眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 そして目をさましたとき、私は布団の中にいた。あまりにも泣いて体力を消耗したので眠ってしまっていたらしい。時計は7時を指していた。

 

 私が眠ってしまってから、家族の誰かが布団を敷いて寝かせてくれたのだろう。

 

 罪悪感はまだ腹の底にわだかまっているが、思い切り泣いて寝たおかげか、少しだけ心が軽くなっていた。まるで子どものような振る舞いをしてしまったことを思い出して少し恥ずかしくなったが、その優しさが身に染みた。

 

(家族か)

 

 両親が死んでから、私はずっと一人で暮らしていた。頼りにできるよすがはなく、「舞」や「凛」の頃は自分で何もかもやっていた。

 

 だが今は違う。朝起きて朝食が用意されているとき、他人の洗濯物を一緒にたたむとき、私はほっとしていた。誰かが一緒に住んでいる安心とでもいうのだろうか。それがこの家にはあった。

 

(……私も、家族)

 

 昨日のあかりの母の言葉を思い出して、なぜか自然と顔がほころんだ。

 

 やがて私は空腹を覚え、身体をおこした。思えば昼から何も食べていない。しばらく寝ていたおかげで体力は回復していたが、何か食べたかった。

 

 そう思って私が廊下に踏み出したとき、床がぬらりとしていて転びそうになった。何だろうと思って床を見ると、そこには赤い血糊がべったりとついていた。

 

 床には這いずった跡があり、その先であかりの父が死んでいるのを見つけた。彼は胸から下が齧り取られたように無くなっていた。

 

「……え」

 

 理解が追い付かなかった。なぜこんな所で。いったい誰が。どうして殺した。急速に頭から血の気が引いていった。他の皆は無事なのか。

 

「あかり、母さん、光紀君! どこにいるの!」

 

 私が叫ぶと、「台所だ」という声が返って来た。3人のどの声でもない。これは隠れ屋敷で聞いた酒呑童子の声だった。私は青ざめ、ダイニングのドアを開けた。

 

「来てくれたか。お前の場所を探す手間が省けた」

 

「真白……」

 

 そう言って舌なめずりをしたのは、黄金の仮面をかぶった酒呑童子。その傍には震えている光紀がいた。テーブルの上にはおかずとサラダが置いてあるから、夕食の準備をしていたのだろう。

 

 私は彼の無事に安堵した。が、酒呑童子の前に()()()()()ものに気づき、息をのんだ。

 

「お母さん?」

 

 そこにあかりの母親が落ちていた。私に微笑みかけてくれた口はきつく結ばれ、目は恐怖の色を残している。首だけになった彼女を見下ろし、私は震えた。

 

 

 

 

 

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