くもりくもらせ   作:aru

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20,希死念慮

 

 

 

 屋敷にいた最後の怪異の死体がチリになったのを見届けると、長く息を吐いた。酒呑童子とメリーさんを殺したあとは、たいして強い怪異がいなかったため楽な仕事だった。

 

(……父さん、母さん、浜矢さん。仇、討ったよ)

 

 もちろん怪異たちを殺したところで私の罪が赦されるわけではない。ただの自己満足だ。だが、それでもやるべきことが終わったので、妙にすっきりした気分だった。

 

『終わったな、舞。復讐を遂げた感想はどうじゃ?』

 

「……別に。普通だけど」

 

『そうか』

 

 玉藻がにやにや笑っているのを見て、私は少し語気を強くした。しかし玉藻は意にも介さず、「ところで」と話を続ける。

 

『外の怪異課連中が屋敷に入って来たようじゃ。まもなくこの座敷にも来る』

 

 九尾は9つの神通力―「火炎」「吹雪」「稲妻」「毒霧」「盾」「読心」「幻術」「変身」「予知」をもっているが、「予知」は玉藻がその内容を告げるという形で知ることになる。予知された出来事が実際に起こるまでは10秒~30秒というところなので、制限時間は短い。

 

 私は急いで「朝比奈」に変身した。頭に血が上っていたためあかりや谷子を放って屋敷まで来てしまったが、「保存食糧」として連れていかれたと言えば言い訳になるだろう。「味見」されたということにして手を失った状態に化けた方がリアリティが増すだろうか。

 

 そんなことを考えているうちに、足音が聞こえてきた。

 

「……朝比奈さん?」

 

 障子をあけて入って来たのは、あかりだった。てっきり外に展開しているのは現地の怪異課だと思っていたので、まさかあかりに会うとは思わず、面食らった。

 

「時雨さん。どうしてここに」

 

「突入隊として呼ばれたんです。とりあえず、ここからでましょう」

 

 あかりは私の手を引き、歩いていく。

 

「……助けに来てくれてありがとう。蜘蛛にやられちゃって……不覚だったわ」

 

 そう言うと、あかりはぴくりと眉を動かした。

 

「その怪異なんですが……屋敷に突入しても、1体もいないんです。包囲してて逃げられるはずがないのに。朝比奈さん、何か知りませんか」

 

 当然だ。屋敷の中にいた怪異は私が一掃した。とはいえただの一職員であるはずの「朝比奈」にそんな芸当ができてはおかしいので、私はかぶりを振った。

 

「わからない。さっきまで私は気絶してたから。どこかに抜け穴があるのかな」

 

「……抜け穴、ですか。奴らが私たちに特定されることまで予想していたとは思えませんが」

 

「一回襲撃したわけだし、そういうのが用意されても不思議じゃないと思うけどな。それにしても、どうやって課はこの場所を突き止めたの?」

 

「朝比奈さんが女郎蜘蛛と戦ってるとき、私も葬儀場にいた怪異と戦ってたんです。そいつから聞きだしました」

 

 もう一体いたのか。私は隠れ屋敷の手がかりを探ることに夢中になって、あかりを一人にしてしまったことを反省した。あかりが勝ったから良かったが、殺されていたら取り返しがつかなかった。

 

 そうこうしているうちに玄関にたどり着き、私とあかりは外に出た。

 

 すでに夜のとばりが下りており、辺りは暗い。今日は満月だったが、月明かりがないのは稲妻の術で雲を呼び寄せたためらしい。暗闇を包囲を敷く職員たちの篝火が照らしていた。その数は何十もあり、かなりの職員が集められているようだった。

 

「……すごい数。これじゃ、怪異たちも逃げるしかないわね」

 

 私のコメントに、あかりはゆっくりと振り向いた。その顔は、怒っているような、泣いているような形容しがたい表情だった。

 

「逃げられませんよ。五幣さんのときみたいに、結界を張ってますから」

 

 あかりは私を睨みつけ、絞り出すように言った。

 

「あなたもです。朝比奈さん──いや、九尾の狐」

 

 私は凍り付いた。頭をがつんと殴られたような気がした。

 

「……一体、なにを」

 

「慣れた呼び方の方がいい? ねえ、舞」

 

 二度目の衝撃は、最初の何倍も大きかった。あかりが、なぜ私の正体を知っている。フリーズした私の前で、あかりはつぶやいた。

 

「私が葬儀場で戦った怪異は……ドッペル凛だった。覚えてる? 私と一緒に倒した怪異よ。あなたのもってた殺生石の能力をコピーして復活してた」

 

「………」

 

「それで、あなたの企みを全部聞かせてもらったわ」

 

 確かにドッペルにコピーされたときの「凛」の記憶を辿れば、私にたどり着くことは可能だ。全く予想だにしていなかった。私は天を仰いだ。

 

「私を……悲しませたいって? そのために死んでたって? ……別にそれはいいわ。あなたの命だから、どう使おうと文句を言う筋合いはないかもね。でも……っ」

 

 次の瞬間、あかりは感情を爆発させた。

 

「そんなことのために私のお父さんとお母さんを殺したのは、絶対許さない!」

 

 あかりは憎悪をこめた視線で私を貫く。あかりは今まで見たことがないほど激昂していた。強烈な敵意を向けられた私は、思わず後ずさった。

 

「ち、違……」

 

 そして言い訳しようとして思いとどまった。もはやあかりが私の言葉を信用するとは思えない。それに私のせいで二人が死んだのは事実なのだ。

 

 喉がからからになる。心臓が締め付けられるような感覚がして、私はぎゅっと胸を押さえた。

 

『どうする? 舞』

 

 私の隣に現れた玉藻は目を細めながら言った。

 

『お前はまだ十分瘴気を残しとる……前は征伐されたが、あれは万の軍勢を相手取ったからじゃ。この程度の数なら、皆殺せる』

 

 悪魔のような囁きだった。もしも私が何が何でも生きたいと願う人間なら、彼女の言葉に従っただろう。だが──

 

(皆を殺して生き残って、私は何をすればいいの?)

 

 そもそも私には帰るべき家はない。会いたい家族ももういない。そしてたった今、あかりと一緒にいて、彼女を見続けたいという希望さえも喪った。私が生きる意味は残っていないのだ。

 

 出せる結論は一つ――あかりの復讐を受け入れる、しかない。

 

 だが、攻撃のそぶりも見せず無抵抗でいれば、生け捕りにされる危険がある。人権のない私は捕まれば国に管理・実験の対象とされ、死んだ方がマシな日々を送るはめになるだろう。

 

『言っておくが、自殺はできんぞ。自分の能力は自身には効かぬからな』

 

 玉藻は私の思考を先回りしたかのように答える。火焔や吹雪を使っても自分が火傷したり凍ったりしなかったのはそういうわけらしい。ということは、私はあかりにとっての黒幕として立ち振る舞い、殺してくれるよう仕向けなければならないわけだ。

 

(ああ、寂しいな)

 

 あかりに憎まれるのはつらい。だが彼女に憎まれながら生きていく方がもっとつらかった。ここで終わりにしてもらえるよう、いい演技をしなければ。私は詐欺師(シェイプシフター)としての最後の仕事にとりかかることにした。

 

 

 

 

 

 

 あかりに詰め寄られ朝比奈は茫然としていたが、やがて両手で顔を覆い、笑い始めた。

 

「……くふっ、ふふふ。はは、あはは!」

 

 あかりや他の職員たちをも気に留めず、彼女は哄笑した。あまりの不気味さに誰もが手を出せないでいると、朝比奈はぴたりと笑うのをやめた。

 

「そう、化かしていたつもりだったけれど、見抜かれてたのね。ええ、私は御剣舞よ」

 

 朝比奈が手を下ろすと、舞の顔がそこにあった。正体を現した舞――白面金毛九尾の狐から、邪悪な瘴気が吹き付けてくる。

 

「そして……凛も私、真白も私、八千代も私。全員同一人物」

 

 舞はそう言うと、凛の姿に変身した。微笑を浮かべながら、真っすぐあかりの顔を見てくる。

 

「まさか私の正体に気づくとは思いませんでしたよ、あかりさん」

 

「……どうして、私を苦しめたがるの。私が嫌いだったの?」

 

 今度は、凛は真白に変身した。おおげさに首をかしげ、口を開く。

 

「ううん、それは逆かな」

 

「……は?」

 

 あかりが聞き返すと、真白は朝比奈に変身した。

 

「つまり、時雨さん。大好きなあなただからこそ、苦しんでほしかったの。それに、ふふ……面と向かって言うのはなんだけど……あなたが悲しんでくれるほど、私は愛されてるってことでしょう?」

 

 狂気の一人芝居を終えて元の姿に戻ると、けらけらと舞は笑った。

 

「狂ってる」

 

 親友だと思っていた舞は、誰よりも理解不能な存在だった。ただ、歪み切ったあかりへの友情、愛情が彼女を突き動かしていたことだけは理解できた。

 

「お父さんとお母さんを殺しただけじゃない。浜矢さんも……本当は助けられたんじゃないの」

 

 舞は一瞬だけ真顔になったが、すぐに笑みを取り戻してうなずいた。

 

「ええ。だって、そうしたらあかりはもっと悲しんでくれるでしょう?」

 

 舞の言葉に、あかりは言いようのない怒りを覚えた。浜矢も、命を懸けて守ったのがこんなクズだったと知れば浮かばれないだろう。課長や突入組が戻って来るまで喋って時間を稼ごうとしているのだが、その役目を捨てて彼女を攻撃したくなった。

 

 そんなあかりの気配を察知したのか、舞は笑いを引っ込め肩をすくめる。

 

「……でも、ここまでばれちゃったらしょうがない。方針を変えるわ」

 

「どういうこと?」

 

 舞はにこりと笑って言った。

 

「私はここで怪異課全員を殺すけど、あかりだけは見逃してあげる。その代わり、これからあかりの友達は全員殺す。光紀君も殺す。恋人ができたら、結ばれる直前で殺す。自殺もさせない。死ぬまで苦しんでもらう」

 

 ぞっとした。やろうと思えば舞はそれができる。つまり舞―九尾の狐と戦って勝たなければ、あかりの人生は殺される。生かさず殺さず、地獄のような日々を送ることになるのだ。

 

「ね、あかり。……ずっと一緒にいよう」

 

 もはや呪詛のような告白を聞きながら、あかりはぎりと歯を食いしばる。そのときだった。

 

「『がしゃどくろ』」

 

 空中から現れた巨大な骸骨が、舞めがけて拳骨を振り下ろした。あかりが飛びすさった直後、がぁん、と鋼鉄をぶつけ合ったような衝撃が走った。

 

 屋敷の方を見ると、課長と伊見が戻って来ていた。あかりと対峙する舞をみて、とっさに攻撃の判断を下したらしい。

 

 しかし骸骨の拳は、舞の数十センチ手前で止まっていた。半透明の虹色の硝子のような結界が彼女の前に現れている。あれで課長の攻撃を受け止めたのだろう。舞は巨大な骸骨を見上げ、眉をひそめた。

 

「その程度ですか? 課長。攻撃と言うのは……こうするんです」

 

 舞が息を吹きかけると、がしゃどくろの腕が一瞬で冷凍された。そのまま無造作に手を振り上げ、橈骨を叩く。

 

 こおん、と小気味のいい音が反響したかと思うと、指の先端から腕がぼろぼろと崩れていき、地面に落ちてはチリとなって消える。課長は構わず骸骨の左手を振るったが、これもやはり舞の盾に防がれた。

 

「何度やっても同じよ!」

 

 その瞬間、舞は天を指さした。雷鳴が轟き、腕を削がれた骸骨に稲妻が直撃する。それでも骸骨は立っていたが、二発目を喰らうと体勢をくずし、大質量のチリへと変わり始める。

 

「『精霊風』」

 

 崩れていく骸骨の影から小坂部が現れた。課長の呼び出した骸骨の中に潜んでいたらしく、身体がチリで薄汚れている。舞との距離は10メートルほど。呪具の射程内だ。

 

 だがその奇襲すら読みのうちだったらしく、舞は慌てず青色の炎を周囲にまき散らす。瞬間的に舞の周囲の空気が一万度近くまで温められ、風向きが逆転した。

 

「うっ?」

 

 自ら放った魔風を喰らい、小坂部は昏倒する。そのまま炎で焼き殺されるかと思ったが、なぜか舞はその寸前で炎を消したため、課長が抱えてなんとかあかりの傍まで退避させることに成功した。

 

「……うん、彼女は生け捕りにはできないね。強すぎる」

 

「どうします。あの結界、割れる気がしませんが」

 

 あかりは離れたところで不気味に笑う舞を睨みながらそう言った。悔しいが、今のやりとりに割って入っていく自信はない。唇を噛むあかりの言葉に、課長は特に困った様子も見せず、淡々と答える。

 

「一対一で無理なら、受けきれなくなるまで攻撃を飽和させればいい」

 

 課長はそう言うと、銃でポイントするような格好で舞に人差し指を向け、声を張り上げた。

 

「攻撃!」

 

 シンプルな一言。その余韻が消えるかどうかという瞬間、包囲していた何十人もの職員たちが舞に集中砲火を浴びせた。呪い、銀弾、光線、投擲槍、破魔矢、そしてあかりの鬼火。並の怪異であれば一秒でチリになるような攻撃を受け、さしもの九尾も命運は尽きたかに思われた。

 

(たお)した……?」

 

 誰かがそう言った瞬間、稲妻が落ちた。空中で電気が弾け、職員たちは頭を抱えて逃げ惑いはじめる。舞の結界には無数のヒビが入っていたが、本人は無傷だった。

 

「……ね、勝てないでしょう?」

 

 舞が微笑むと、雷で浮足立っていた職員たちは我先にと逃げ出し始めた。当然だろう。あれだけの猛攻を浴びて無傷で済んでいるバケモノとやりあったら、命がいくつあっても足りない。

 

「あかり君……君も逃げたらどうだい。後は私たちがどうにかするから」

 

 舞の方を見たまま課長はそう言った。おそらく、もう切るべきカードは残っていないのだろう。せめて一矢報いようという決意がその背中から垣間見えた。

 

「嫌です。私はそうやって何度も何度も後悔させられてきました。戦いますよ。最後まで」

 

「じゃあ、付き合ってもらおうかな」

 

 課長は気絶している小坂部を地面に横たえ、立ち上がった。「赤マント」を身に着けた伊見もやってきて、これで3人。九尾との戦力差は絶望的だった。

 

(それでも、最後まで)

 

 結界にはヒビが入っている。あともう一押しできれば舞を斃せるかもしれない。たとえあかりがここで死ぬとしても、刺し違えて──

 

 そこまで考えたとき、あかりは遅まきながら気づいた。舞はあかりを殺せない。彼女の目的はあかりの苦しむ顔を見ることで、殺すのは論外なはずだ。

 

「課長。骸骨はもう一回出せますか?」

 

「出せるけど、何かいい案が?」

 

「はい。ひょっとしたら舞を……倒せるかも、です」

 

 

 

 

 

(……少しやりすぎたかな)

 

 周りにいた職員たちが逃げだし、包囲網が解けてしまった。まあ威嚇攻撃でうっかり人を殺してしまう危険が減るのでありがたいといえばありがたいのだが。

 

 連続で能力を使用したためか、少し疲れた。私は長く息を吐きだし、壊れかけの結界を見上げた。新しいものを張ることは造作もないが、それでは私を殺すことが不可能になってしまう。あえて隙をさらしているのだ。

 

 さて、あかりはそろそろ私の殺し方を思いついてくれただろうか? そう思ったとき、もうもうと舞う土煙の中から、巨大な影が立ち上がった。そちらに目を向け、私は思わず頬を緩める。

 

(正解)

 

 課長の出した「がしゃどくろ」の手のひらに、あかりが乗っていた。巨大な骸骨はあかりを私のいる方に向け、ゆっくりと歩みを進める。

 

 炎、吹雪、稲妻、毒霧。全て彼女を巻き込むため使えない。あかりは、自分を盾にすれば私が攻撃できないとふんで課長にこの案を出したのだろう。これこそ、私が想定していた「自分の攻略法」だった。

 

(……嬉しいな)

 

 私は迫ってくる骸骨を眺めながら、しみじみとそう思った。あかりは信用してくれているのだ。私は絶対に彼女を傷つけないということを。

 

 骸骨の裏拳が振り下ろされ、結界が粉々に砕けた。同時にあかりが骸骨から飛び降り、私の前に着地する。

 

「覚悟しなさい」

 

 あかりは私に飛びかかってきた。少しでも動けばあかりにけがをさせてしまうかもしれないので、無抵抗のまま組み伏せられる。

 

 ふーっ、ふーっ、と荒く息を吐きながら、あかりは私の首に両手に手をかけた。九尾の怪異としての特性で多彩な術を使えるが、酒呑童子のようにでたらめな回復能力があるわけではない。もしこの瞬間、彼女が「鬼火」と言えば私は死ぬだろう。

 

 冷たい手の感触を喉に感じながら、私はあかりを見上げた。

 

「残念。負けちゃったわ」

 

 ちろりと舌を出した私を見て、あかりは首を絞める手に力をこめた。

 

「……言ったよね。私、絶対許さないって」

 

 彼女は歯を食いしばり、私を睨みつける。あかりの眼には、見た者を焼き尽くすような殺意が見て取れた。どうやら、あかりは私を楽に殺すつもりはないらしい。

 

「あなたさえ! あなたさえいなければ!」

 

「かっ……ひゅ……っう、ふふ」

 

 さらに力が込められる。これでいい。あかりはこれで仇を討てるし、私は父さんと母さんのところにいける。シナリオ通りだ。

 

 だが――なんだろう、この心の空虚さは。うまくいったのに、狙った通りの結末のはずなのに、涙があふれて止まらないのだ。

 

「死ね、()()!」

 

 死への恐怖でも自己憐憫でもない。ただ寂しかった。私を一番想ってくれていたあかりに憎まれたまま死ぬということが、これほどつらいとは思わなかった。

 

「ぁ……かり」

 

 だんだんと視界がぼやけていく。それなのに、宇宙の中に1人だけ残されたような孤独だけがはっきりと感じられた。本物の死が目前に迫ってくる。

 

 

 痛い。

 

 

 苦しい。

 

 

 誰か、誰か私の手を握ってくれ。

 

 

 抱きしめてくれ。

 

 

 ぬくもりが欲しい。

 

 

 一人で死ぬのはいやだ。

 

 

 寂しい。さびしい。さびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしい──

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのとき、首を絞めていた手がふっと緩んだ。私はせき込み、潤んだ目で見上げる。あかりは憑き物が落ちたような表情をしていた。その首元で、『真白』──マフラーがきらめいている。

 

「どうして」

 

 あと少しで私を退治できるところだったのに、なぜやめるのだろう。それに、あかりを動かしていた激情はもうどこにも見当たらない。私が困惑していると、あかりは絞り出すような声で聞いてきた。

 

「もう一度聞くわ。父さんと母さんを殺したのはあなた?」

 

「……ええ、そうよ」

 

 答えると、あかりは泣き出しそうな顔で呟いた。

 

「嘘ばっかり」

 

 

 

 

 

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