ある日世界中の人々が異種族の姿になったのに俺だけなんの変化もないんだが?   作:ぼんじりA

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三話

 

 

放課後、鈴木と孝介に別れの挨拶をしてから、僕は屋上に続く階段を一歩一歩踏みしめながら登っている。

 

今日の授業は全くもって頭に入っていない。ずっと天羽さんのことを考えていたからだ。もちろん恋焦がれているとかそんなのではなく、告白の事を。

 

天羽さんからの告白は、断ろうと思っている。

傷つけることになると思う。

罵倒されることも覚悟の上だ。それでも断るべきだと結論づけた。

 

階段を登り終え、ドアの隙間からはそよ風が吹いている。

意を決して僕は屋上のドアを開いた。

 

「あ…」

 

天羽さんがいた。

風に靡くオレンジ色の髪の毛がどこか幻想的な雰囲気を醸し出している。それに揺られる尻尾とヒョコヒョコと動く猫耳姿の彼女に一瞬魅入ってしまった。

 

儚げな顔をして運動場を見下ろしていた彼女は、ドアの前に立つ僕に向かって微笑んだ。

 

「来てくれたんだね」

 

ブンブンと頭を振り、余計な考えを捨て返答を返す。

 

「もちろん、待たせてごめん」

 

「嬉しいよ。来てくれただけでも。それで……返事、してくれるんだよね?」

 

「…うん」

 

すぅっと息を吸い、心拍を整えながら、彼女に歩み寄る。

 

「ごめん、天羽さんとは付き合えない」

 

伝える。真っ直ぐに。彼女の目を見て。

 

「それは……なんで?聞いてもいい?」

 

当然のごとく理由を問われる。

いつもしている返事とは少し違うけど、今の自分の気持ちを素直に伝える。

 

「僕は、世界が変わってから今まで色んな女の子に告白されてきた。最初はそれをヤバいモテ期程度にしか思ってなかったんだけど、天羽さんから告白されて自分なりに考えてみたんだ。もしかして彼女達は変わってしまった自分の容姿を、それでも受け入れてくれる人に救いを求めてたんじゃないかって」

 

天羽さんは黙って僕の話を聞いてくれている。

 

「そう考えると、ヤバいモテ期なんて思ってた自分が恥ずかしくなってさ。でも、僕が彼女達の友達になることでそれで救いを得られてたのなら、それはそれで良いんじゃないかって、なんていうか、そのあんまり上手く言えないんだけど……」

 

へへっと笑いながら照れ臭くなり自分の首に手を添える。

 

「僕も自分に自信がない。顔も普通だし、今まで付き合ったことなんて一回もないし。

天羽さんほどの美人に告白されるなんて夢にも思ってなかった。なんで僕なんかって正直天羽さんに対して疑ってる部分もあるんだ。だから」

 

首に添えた手を下ろし、天羽さんの目を見る。彼女は一瞬視線を外したあと、ゆっくりと僕の瞳に焦点を合わせてきた。

 

今から僕は凄い恥ずかしいことを言おうとしてる。けど、関係ない。

 

「だから天羽さんも何か不安に思ってることがあるなら、言ってほしい。

友人として天羽さんの力になりたい」

 

懺悔のような、自分自身を曝け出した、もはや返事ではない宣誓にも似た何か。

 

難しい言葉なんて使えないし、短く説明できる頭なんてない。これが僕の精一杯、その思いを彼女に伝え終わった。

 

彼女は目を閉じてゆっくりと瞼を開ける。

気のせいか、一瞬ネコ科の獣のような目になった彼女は、長く閉ざしていたその柔らかな唇を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「…はあ?なにそれ?」 

 

 

可憐で儚げなイメージの彼女から出る見当違いの言葉に、一瞬頭がフリーズするのは無理もない。

 

罵倒されることも覚悟の上だったが結構クるものがあるな……。

 

「ごめん。本当、何言ってんだって思うよね。天羽さんが僕のことを本当に好いてくれたなら凄い失礼だし、長々と自分語りしちゃって鬱陶しいと思うのも」

 

「いやアンタさ、何聖人君子気取ってんの?力になりたい〜とか本気で好きなら天羽さんに失礼〜とか、気持ち悪いんだけど」

 

僕の話を遮り天羽さんがここぞとばかりにぶっ込んでくる。

 

「あ〜そんなガチに考えてるとは思わなかったわ〜。からかってただけなんだけど悩ませてごめんね?」

 

からかわれてるだけかもとは勿論考えていたが、実際そうだと知ると中々にショッキングだ。

 

「ながながとくだらない自分語りお疲れ様。聞いててちょーつまんなかったわ」

 

たしかにそう思われても仕方がない。

 

「アンタの事ただのキモいやつだと思ってたけど訂正するわ、超キモいやつ」

 

いやちょっと待って言いすぎじゃね?

 

「じゃあね、二度と会うこともないだろうけど、ばいばーい」

 

 

「……」

 

ポカーンと、空いた口が塞がらないとはまさにこのことか。

 

そんな僕のことなどつゆ知らずとでも言わんばかりに、颯爽とその場を去る天羽さん。

隣を横切った時にフワリと良い匂いがしたが、色々な感情で埋め尽くされた頭の中にそんな事は入ってこなかった。

 

しばらくして、5分くらい棒立ちを続けていた僕は、意を決して彼女を追いかけることに決めた。

 

 

なぜなら彼女に対して気にかかったことがあるから。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

「……ついてこないでよ」

 

まだ天羽さんは正門前のところにいた。

無駄に広い運動場に感謝すべきか、なんとか見失う前に追いついた。

 

「なに?まだなんか用?文句でも言いに来た?早くしてよね、さっさと帰りたいんだけど」

 

僕が今まで見た涼しげでどこか優しさを兼ね備えた瞳はもう無い。

天羽さんはジトーっとした目で、睨むようにこちらを見てくる。

 

「ハァ…ハァ……それは…引っかかってたことがあったから…」

 

久しぶりに全速力で走ったので、膝に手をつき息を切らす。

その場から去ることだってできるはずなのに、天羽さんは立ち止まって僕の話を聞こうとしてくれている。

 

ふと天羽さんの方を見ると、どこか不安げな表情を浮かべていた。

 

呼吸を整え膝から手を離し、天羽さんの目を見る。彼女は咄嗟に目を合わせまいと視線を外した。

 

真っ直ぐ彼女を見つめながら、僕は彼女に疑問をぶつけた。

 

 

「なんで、二度と会うこともないって言ったの?」

 

「…っ!……そんなことで……」

 

予測していたものとは違ったのか、天羽さんの顔が悲しげな表情に変化してゆく。

それはまるで喧嘩で相手を傷つけてしまった子供のようで。

 

彼女は唇を固く噛み締めていた。

 

 

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