ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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また更新に1ヶ月かかってしまいました……


デスゲーム『クロニクル』、ゲームスタート……!

「…………」

 

「…………(垂汗)」

 

皆より早く部室を出て時間が経つが、新は無言のまま歩いていた

 

と言うより、話題が見つからない……

 

新人ハンターのミカサは終始無表情&無口、一言も話しかけてこないので新もどう接したら良いのか分からずにいた

 

そのまま5分、10分と時間が過ぎていく

 

このままでは気まずいと踏んだ新は一計を案じる事にした

 

「あ~、ミカサ」

 

「はい、任務ですか、それとも実践練習ですか?」

 

「いや……そういうわけじゃなくてだな。……ちょっと話をしに行こうかと」

 

そう言って新が向かったのはマスター・イスルギが経営している行き付けの酒場

 

この堅苦しい雰囲気を何とか緩和させる為、まずは話しやすい環境を整える事にした

 

新の申し出にミカサは勿論従い、新は行き付けの酒場に直行

 

そして到着した後、扉を開けて入店する

 

「よー、新。今日はお前ん所の“堕天使3人娘”が来てるぞ」

 

マスター・イスルギが開口一番にそう言ってくる

 

“堕天使3人娘”―――それは勿論、新が抱え込んでいる金欠の元凶……レイナーレ、カラワーナ、ミッテルトの事である

 

彼女達は既に30本以上の酒瓶を空けており、未だに飲み続けている最中だった

 

新は額に手を当てて嘆息し、レイナーレが彼の隣にいるミカサについて訊いてくる

 

「アラタ、その()があなたの言ってた新人後輩なの?」

 

「う~っ、ゴスロリとかウチと(かぶ)ってるんですけどぉ……」

 

「話には聞いていたが、私達を穀潰(ごくつぶ)しみたいに言うのは失礼だ。ちゃんとそれなりに仕事はしている」

 

レイナーレに続くようにミッテルト、カラワーナが少々不満を漏らしてくる

 

特にミッテルトは自分と同じゴスロリキャラな部分が気に入らない様子……

 

新は愚痴をスルーして、彼女達に言う

 

「少し話し相手になってやってくれ。お前らの後輩でもあるんだし、先輩ハンターとして何かアドバイスを贈ってくれ」

 

「あら、真っ先に私達へ押し付けるなんて。女性相手なら負け知らずのアラタらしくないわね」

 

「まずは話しやすい雰囲気を作ってやりたいんだ。女同士で話し合えば少しは堅物な感じが(やわ)らぐだろ」

 

その申し出にレイナーレは「まあ、良いわ」と渋々了承

 

ミカサにもレイナーレ達と話をするように言い、自分はカウンター席に座り―――(こうべ)を垂れた

 

マスター・イスルギがグラスに水を注ぎながら言う

 

「いきなりバテてんのか?」

 

「だってさぁ、ずーっと無表情な上に返事は全部“任務ですか”オンリーなんだぞ……?何処をどう攻めれば良いのか分からん」

 

「まあまあ、気を落とすなよ。ありゃ所謂(いわゆる)“クーデレ”ってヤツだ」

 

「クール通り越して完全な“無”の状態なんだよ……常に明鏡止水的なヤツなんだよ……」

 

「ハハハッ、思った以上に苦労してるみたいだな。しっかし、序盤からそんな調子だと先が大変だぞ?ほら、見てみな」

 

マスター・イスルギに言われてレイナーレ達の方を見てみると―――新の目と口から何かが飛び出した

 

それもその筈、ちょっと目を離した隙に(カラ)の酒瓶が3倍以上に増えていたのだ……

 

突然の増量地帯に新はレイナーレに詰め寄った

 

「ちょっ……!お前らっ、短時間でどれだけ飲んでんだよ⁉」

 

「あら、コレ?話してたらいつの間にか飲み比べになってたのよ。そしたら、この娘が予想以上に飲むものだから」

 

「いえ、(たしな)む程度です」

 

平然とそう言ってくるミカサの前にはカラッポのボトルが50本以上並んでいた……

 

「……これ、全部お前が飲んだの……?」

 

「はい、飲みました」

 

「嘘だろ……っ、中にはアルコール度数が強すぎて普通じゃ飲めないようなボトルまであるぞ……」

 

新の言う通り、ミカサが飲んだボトルの中には“スピリタス”と呼ばれるアルコール度数96度の酒が混じっていた

 

※ちなみにアルコール度数60度以上は確実に火が点きます(火気厳禁)

 

多量のボトルに加え、世界最高のアルコール度数を誇る危険酒を飲んでも平然としている……

 

「ミカサ……お前、まだ飲めるの……?」

 

「はい、飲みます。先輩も飲みますか?」

 

「いや……俺は遠慮しとく……」

 

「そうですか。では、こちらの方々からのお酒をいただきます」

 

「む~っ、なかなかやるじゃん。ウチのゴスロリ魂にも火が点いた!よ~しっ、こうなりゃトコトン飲ませてやるっす!お酒50本追加~っ!」

 

プライドに火が点いたのか、ミッテルトの追加オーダーが入る

 

ミカサのまさかの酒豪っぷりに新は再びカウンター席に腰を下ろし、(こうべ)を垂れた

 

「マスター……ここってツケは効く……?」

 

「無論、現金払いだ」

 

ツケは一切無しの請求に、新の財布はめでたく破産(笑)

 

打ちのめされたように突っ伏すも、レイナーレ達と会話をするミカサを見て―――

 

『……まあ、時間を掛けて打ち解けていけば良いか。少しでも話しやすい雰囲気を作れたのが(さいわ)いって事だよな』

 

僅かな進展だが、その代償はあまりにも高額だった……

 

 

―――――――――――――――――

 

 

「計画は順調ですか?Monsieur(ムッシュ) シド 」

 

「うんっ。簡単に乗ってくれたから楽勝だったよ♪これから楽しいゲームが始まるんだね」

 

Oui(ウィ) Oui(ウィ) Oui(ウィ)、既に多くのプレイヤーが『クロニクル』の(とりこ)になっています。日常とは違うスリルと興奮に味を占めて、のめり込む人が後を絶ちません」

 

「皆が日頃から『退屈だ~』とか、『刺激が欲しい~』って不満を抱えているもんね」

 

「グレモリー眷属や三大勢力は“安穏な日常”と言う逃げ道を求めているのに対し、人間は“非日常”を探し求めている。何とも皮肉な話です」

 

「だからこそ、この『クロニクル』は僕達にも、人間にもお(あつら)え向きのゲームってわけだね♪」

 

Oui(ウィ)(おのれ)を満たす為に人間は欲望に溺れ―――その欲望を喰らって我々は更なるフェーズに移行する。人間とは(いと)おしい程に愚かで哀れなMa puce(マピュース)です」

 

「エヘヘッ、これでイッセー先輩も本気で僕と遊んでくれそうだよ。楽しみ楽しみっ♪」

 

「さあ、Trés bien(トレビアン)(うたげ)の始まりです。グレモリー眷属、どうぞ心ゆくまで狂ってください。―――Bonne chance(ボヌシャンス)

 

 

―――――――――――――――

 

 

翌日、三連休が始まって今日は学園も休み

 

バウンティハンターの仕事も依頼が来なければ、基本的には休み扱い

 

久々にゆっくりと過ごせる日を(もう)けた新は―――早速競馬場へ向かう準備をしていた

 

「新、せっかくの休日を賭け事に(つい)やすの?」

 

嘆息しながら言うリアスに対し、新は「当然だ」とハッキリ告げる

 

「これも重要な資金調達なんだよ。昨日はレイナーレ達の飲み代で財布の中身が消え、ほぼ素寒貧(すかんぴん)状態だ。少しでも元手を増やさないと本当に破産しちまう」

 

「それなら貯金を下ろしたり、バイトする方がよっぽど健全だと思うのだけれど?」

 

「貯金を下ろせば直ぐに消費され振り出しに戻り、バイトなんざする気力も無い!仕事はバウンティハンターと悪魔稼業で充分だっ!」

 

「悪魔になってからのあなたは欲望に忠実ね……」

 

リアスは額に手を当てて溜め息を吐き、新もいざ競馬場へ出発―――しようとした矢先、新のスマホが着信音を知らせる

 

発信先は一誠からで、新は不機嫌な様子で通話を開始する

 

「もしもし?」

 

『おお、新!俺だ!』

 

「一誠か、何だよ?今日は大事な稼ぎ時だってのに電話してきやがって。お前だって今日はアーシアとデートの予定じゃなかったのか?」

 

『いや、そうなんだけどさ!アーシアと一緒に買い物に行こうと近くの公園を通ろうとしたら……何か変な事になってるんだ!』

 

「変な事?お前の顔芸以上に変な事って他に無いだろ」

 

『顔芸は後回し!とにかく来てくれ!あと、部長達にも知らせた方が良いのか⁉』

 

「……いや、大所帯(おおじょたい)で行くとかえって目立つ。だから、俺が行くまでその場から離れるなよ」

 

『分かった!』

 

一誠からの着信が切れ、新は休日の競馬を中断せざるを得なくなった

 

「せっかくの休日がまたパァかよ……。けど、行ってみないとな」

 

「新、さっきの電話はイッセーからよね?何か遭ったの?」

 

「詳しい事は分からんが、どうやら変な事に巻き込まれてるらしい。一応、俺だけで行って様子を見てくる」

 

「分かったわ、気を付けるのよ」

 

新は「おう」とだけ告げた後、ヘルメットを被り、バイクに(また)がって走り去っていく

 

発信源から特定し、場所は2㎞程離れた公園

 

そこには一誠とアーシアもいた

 

バイクを停め、ヘルメットを外した新が2人と合流する

 

「んで、変な事って何なんだよ?」

 

「いや、それがさ……アレなんだけど」

 

一誠が指差す方向を見て、新も「……は?」と間の抜けた声を発するしかなかった

 

目の前で起こっている奇怪な状況

 

それは―――“黒いアンダースーツの上に茶色いプロテクターを纏った複数の人物が、怪物どもを相手に戦っている”と言う光景だった

 

次々と沸き出てくる怪物、それらを迎え撃つ(やから)

 

“そっちへ回り込め!”だの、“ポイントは早い者勝ちだ!”と叫び回る茶色軍団

 

持ち前の武器―――短剣を駆使して怪物どもを倒していく

 

新は怪物どもを討伐している奴らに違和感を覚える

 

「あいつらの戦い方、まるで素人だ……。動きに無駄があり過ぎる」

 

「やっぱり、新もそう思ったか。俺でも分かるぐらい動きが素人なんだよ、あいつら」

 

「いったい何がどうなってんだ?―――っ。おい、あいつら……!」

 

新が目を見開いて驚いたような声音を出す

 

それもその筈、この奇怪な現場に一誠の悪友―――松田と元浜もやって来ていたのだ

 

これには一誠も仰天する

 

「松田⁉元浜⁉」

 

「ん?何だ、イッセーじゃねえか。アーシアさんと公園デートかよ。相変わらずリア充ライフを満喫か、ちくしょうめ」

 

「だが、俺達の惨めな人生も終わりを告げる。俺達もお前と同じリア充ライフを手に入れるのだ」

 

「「リア充王に、俺達はなるっ!」」

 

何処かで聞いた事のあるような台詞を強く言い放ち、2人は小型の端末を自分の前に掲げた

 

The() Chronicle(クロニクル) Game(ゲーム) Start(スタート)……‼』

 

不気味な音声が鳴った直後、端末から光が放たれ、松田と元浜の全身を包み込む

 

光が止むと、そこには怪物どもと戦っている奴らと同じ装備の茶色戦士が現れた

 

「な、何なんだよ、それは⁉」

 

「行くぞ、元浜!俺達のリア充ライフの為に!」

 

「おおっ、モテモテ人生の為に!」

 

一誠の言葉など耳に入っていない2人は、怪物どもに向かっていき―――攻撃を加える

 

新、一誠、アーシアは最初から最後まで目の前の状況を理解できず、ただ見ているしかなかった……

 

やがて怪物どもの数が減っていき、最後の1体も倒されて消える

 

茶色軍団が“ヒャッホウ!”、“やったやったー!”等と勝利を喜んでいると……地面に一際(ひときわ)大きなサークルが浮かび上がる

 

サークルの中から何かがせり上がり、姿を見せる

 

そこから現れたのは―――先程までの怪物とは違う雰囲気を纏った1体のモンスター

 

結晶の如く光り輝くボディを持つモンスターは茶色軍団に向かって言う

 

『ようこそ、プレイヤーの諸君!私は当ゲーム「クロニクル」の五大ボスが1人―――ソルティーユ・クロコッショーだ!ボスである私を倒せば大量のポイントを獲得できる!更に私と同じボスキャラを5人倒せば、ラスボスへの挑戦権を得られるぞ!さあ、ナンバーワンのヒーローを目指したいなら、かかってきたまえ!』

 

仰々しく名乗り口上を挙げるボスキャラ

 

ボスキャラの登場に茶色戦士(プレイヤー)達のやる気が沸き上がる

 

「よぉし、ボスキャラのお出ましか!」

 

「ぶっ倒してポイントGETだ!」

 

「僕が倒してヒーローになるぞー!」

 

松田と元浜を含めるプレイヤー達が我先にとボスキャラ―――ソルティーユに向かっていく

 

しかし、そうは問屋がおろさない

 

ボスキャラは今までのザコ敵と違い、プレイヤー達の攻撃を巧みに受け、素早い身のこなしで(かわ)し続ける

 

隙を見てはプレイヤー達に攻撃も加えていく

 

『ンッフフフフ、しょっぱい、実にしょっぱい攻撃だな。そんなスウィートな動きと装備で私に勝てると思わない事だ!』

 

プレイヤー達を(ことごと)退(しりぞ)け、余裕を見せつけるソルティーユ

 

一頻(ひとしき)りプレイヤー達を(もてあそ)んだところで、両腕に電気が(ほとばし)

 

『くらえ!ショッペーノ電気ショック!』

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

「ぎゃああああ!」

 

「びびぃいいいいっ!」

 

ソルティーユの両腕から電流が放たれ、プレイヤー達が電撃の餌食となる

 

電撃で痺れたプレイヤー達はその場に膝をつき、ソルティーユは高笑いする

 

『ンッフフフフ、まだまだレベルが足りないぞ?私を料理したいのなら、もっともっとレベルを上げてこなければなぁ?出直して来るが良い!』

 

勝ち誇り宣言を残して、ソルティーユはサークルの光に包まれて姿を消した

 

ボスキャラの逃亡を機に、プレイヤー達は落胆の声を上げて装備を解除する

 

「あ~あっ、またボスキャラに逃げられちまったよ」

 

「レベル3じゃ、まだダメかぁ」

 

「そろそろ新しい装備も買わないと勝てないか」

 

茶色戦士(プレイヤー)の中身は老若男女様々な年齢層だが……いずれも一般人ばかり

 

その事に気付く新と一誠

 

松田と元浜も元の姿に戻り、ガックリと肩を落とす

 

「くそぉ……っ、せっかくここまで来たのに、また逃げられた……」

 

「嘆くな、それは他のプレイヤーも同じだ。チャンスは幾らでもある。俺達がリア充になる為の試練だと思え」

 

プレイヤー達は散開して公園から立ち去っていく

 

松田と元浜も公園から去ろうとしたが、一誠に詰め寄られる

 

「おい、お前ら!さっきのはいったい何なんだよ⁉あの怪物は―――」

 

「……?イッセー、なに色めき立ってんだよ?」

 

「やれやれ、今の時代の最先端に乗り遅れる(さま)はみっともないな」

 

「時代の最先端?」

 

意味を理解できない一誠に、松田と元浜は意気揚々と答える

 

「今のはバーチャルと現実が一体化した最新のゲームだ!」

 

「これからの時代を先取り、俺達をリア充へ導いてくれる夢のゲーム!―――と言う事だけ教えといてやろう」

 

「「夢のゲーム?」」

 

意味深な言葉に疑問符を浮かべる新と一誠

 

松田と元浜は持っていた小型の端末を得意気に見せつけてくる

 

「これさえあれば、俺達もリア充ライフを築く事が出来るのだ!」

 

「その通り。負け組から脱却する為に、俺達は時代の最先端を先取っていく。イッセー、悪いがお前にはこれ以上の情報をくれてやるつもりは無いぞ」

 

「お前は存分にアーシアさんと公園デートしてくると良い。その間に俺達はリア充ライフを網羅してやるのさ!」

 

松田と元浜の話に新は(いぶか)しげな首を(かし)げ、一誠とアーシアはお互いに顔を見合わせる

 

「おい、一誠。このハゲとメガネは遂に思考能力を失ったみたいだ。延々と妄言を(のたま)ってやがる。救急車を呼んでやれ。今なら腕の立つ外科医がいる病院も紹介してやる。白黒髪のモグリでも良いか?」

 

「……そうだな。一度診てもらった方が良いのかもしれないな……」

 

「「おい!俺達を重症患者のように言うじゃないっ!」」

 

松田と元浜のハモりツッコミが決まったところで、新と一誠が“ある事”についてヒソヒソと話し出す

 

『なあ、新。ゲームって言ってるけど……さっきの怪物……』

 

『ああ、俺も同じ事を考えていた。……あれは、どう見ても本物だ』

 

周りに視線をやると、地面の所々が焦げているのが分かる

 

たとえゲームでも、ここまでの再現は不可能

 

紛れも無く本物である事を証明している……

 

“いったい、誰がこんな物を……?”

 

そう考えている間にも、松田と元浜はスマホを確認しながら叫んでいた

 

「おい、次のモンスターの出現地点が出てるぞ!」

 

「よし、直行だ!そんなわけでイッセー、俺達2人はリア充の道を邁進する!お前はアーシアさんとのデートを楽しんでおくが良い。いずれ、お前を追い抜いてやる」

 

「お、おいっ!」

 

一誠は止めようとするが、松田と元浜は脱兎の勢いで公園から走り去っていった

 

「イッセーさん……」

 

「あいつら、なに考えてんだよ……っ」

 

アーシアはどうしたら良いのか分からず、一誠も目の前で起きた状況に歯噛みするしかなかった

 

そんな中、新はスマホを操作して確認作業を(おこな)

 

「何にせよ、分からない事が多すぎる。さっきの光景を動画に撮っておいたから、今はそれをアザゼルに見せてみるしかない」

 

「そう、だな……。部長や先生に相談してみるしかないよな……」

 

 

―――――――――――――

 

 

時刻は午前11時30分

 

新はアザゼル、リアスを含めるオカルト研究部全員を一誠宅のVIPルームに呼び寄せ、今朝撮影した動画をスクリーンに映し出す

 

“一般人が異形のモンスターと戦っている”

 

唐突な事態に驚きを隠せない面々

 

一通り見せ終わったところで、アザゼルが話を切り出す

 

「なるほどな……アジュカが言ってたのはコイツの事だったのか」

 

「先生、何かご存じなんスか⁉」

 

一誠が食い入るように訊くと、アザゼルは1拍置いてから話を始めた

 

「アジュカの奴が『冥界興業を揺るがしかねない、興味深いゲームを見つけた』と言ってきてな。その時はまだ半信半疑だったが……アジュカの予想が見事に当たっちまったってわけだ」

 

「アザゼル、アレはいったい何なの?」

 

リアスの問いにアザゼルは苦虫を噛み潰したような表情で答える

 

「コイツは最近、人間社会で蔓延している最先端技術を駆使したバーチャルゲーム―――『クロニクル』ってヤツらしい。この町だけじゃなく、世界中のあらゆる都市でコイツが爆発的にヒットしているんだと。……無理も無いか。なんたって“一般市民がモンスターと戦う”ゲームなんだからな。非日常と(えん)が無い一般人にとって、新しい刺激ってのは打ってつけの餌だ」

 

「だとすると、おかしいわ。世界規模で蔓延しているなら、メディアが取り上げる筈よ。それなのに……テレビやラジオでも報道されないなんて」

 

リアスの言う通り、この『クロニクル』が爆発的にヒットしているなら全世界に報道されても不思議ではない

 

―――にもかかわらず、一片たりとも報道されていないのはあまりにも不自然

 

その点についてアザゼルが仮説を語る

 

「そう、これだけの規模で蔓延しているゲームだ。普通ならメディアで報道される。……だが、コイツは表のメディアでは一切流れず、裏ルートでしか機器も情報も手に入らないらしい」

 

「じゃ、じゃあ……松田と元浜はどうやってこのゲームを……?」

 

「イッセー、考えられる説は限られてくる。こう言った“ゲーム”を面白おかしく勧めてきそうで、バックに大物組織がいるような奴が1人―――簡単に目星が付くぞ」

 

アザゼルの言葉を聞いて、一誠の脳裏に“ある人物”が(よぎ)

 

それは一誠どころか、新もリアスも―――否、部員全員が知っている人物……

 

ゲーム好きで一誠達にも宣戦布告してきた―――あの男……

 

一誠は自然とその者の名を声に出した

 

「……シド、ヴァルディ……っ」

 

「そうだ、何せヤツの属している『造魔(ゾーマ)』はまだ得体の知れない組織だ。こんなバカげたモンを出してもおかしくない。ヤツはお前と戦う事を楽しもうとしている。だから、挑発的な意味も込めて動き出したんだろうな」

 

「あの野郎……ッ!こんなわけの分からない事にあいつらを巻き込みやがって……!」

 

シドの身勝手な振る舞いに一誠は怒りに震え、それは部員全員にも行き渡る

 

しかし、世界規模で『クロニクル』が蔓延している為、冥界政府どころか三大勢力もこの事態を抑える事は不可能に近い

 

異形の(つど)いであるがゆえに、“人間社会での出来事”に干渉する事は許されないのだ

 

しかし、『造魔(ゾーマ)』は違う……

 

テロ組織ゆえに三大勢力のルールやしがらみ等お構い無し

 

ルール無用だからこそ出来る芸当であり、三大勢力の干渉を封じてきたと言えよう

 

アザゼルが苦々しい顔付きで話を続ける

 

「そう言う事も踏まえると、少なからず『造魔(ゾーマ)』内部で協力者がいる筈だ。あのシドって奴が単体でこれだけの事態を起こしたってのは無理がありそうだからな」

 

「どちらにしろ、根源を潰さない限り続くだろう。俺の撮った動画を提出したとしても、揉み消されるのがオチだ。とにかく情報を集めて対処するしか方法は無い」

 

「ああ、その通り。シトリー眷属にも呼び掛けて網を張ろう。少しでも多くの情報をかき集めるんだ。今の俺達に出来る事はそれぐらいだろう」

 

「待ってください、先生!だったら、今すぐシドを捕まえて吐かせましょうよ!俺がぶん殴って―――」

 

「今のお前じゃあ、シドには勝てない。この前の事をもう忘れたのか?新と二人がかりでも勝てなかった相手に、独りで立ち向かうつもりか?」

 

アザゼルの言葉に一誠の口が止まる

 

ただでさえ強いシド、更に今の一誠はトリアイナも『真・女王(クイーン)』も使えない状態にいる……

 

「冷静さを欠いて勝てる相手じゃない。いや、冷静であっても今のお前が勝てる確率は―――ほぼ0だ。確かに(はらわた)が煮え繰り返る思いだろうが、感情任せに行っても返り討ちに遭うだけだ。今はとりあえず耐えて、情報を集めるのが先決だ」

 

「……はい」

 

納得いかない様子だが、一誠はアザゼルの進言に従うしかなかった

 

リアス達も本来なら今すぐにでもシドを捕まえて問いただしたいところだが、彼が直ぐに白状するとは思えない

 

それ以前に総動員で向かっても勝てるかすら怪しい……

 

危険が大きい上に、下手を打てば眷属総倒れと言う事態もあり得る

 

最悪の事態をなるべく避けつつ、情報を集めて『クロニクル』の根源を絶つ

 

アザゼルが皆に向かって言う

 

「良いか、現状で1番危険なのは相手の挑発に乗って先走った行動を取る事だ。もし、下手に手を出して返り討ちに遭えば、それこそ奴らの思惑通りになっちまう恐れもある。まずは手分けして情報を集めろ。俺もアジュカに頼んで、このふざけたゲームの起動を止められないかどうかやってみる。だが、これだけは忘れるな。―――俺達の町に手を出した事を後悔させてやれ……!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

造魔(ゾーマ)』発祥のゲーム―――『クロニクル』の起動を機に、グレモリー眷属も反撃の準備に取り掛かる

 

しかし、彼らはまだ知らなかった

 

造魔(ゾーマ)』の実に抜け目の無い非道な手腕を……




いよいよ始まったデスゲーム『クロニクル』……

今回だけでも怒り心頭なイッセー、『造魔(ゾーマ)』の非道なやり方にも注目……⁉

次回はデスゲームの恐ろしさを目の当たりに……っ

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