ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

225 / 263
やっと書けました……。今回はカオスです


復活の(かなめ)は……おパンティー⁉

新が部室を去ってから1時間、部室内は完全にお通夜状態となっていた

 

『クロニクル』を仕掛けたキリヒコの策略によって打つ手を(ことごと)く潰され、もはやどうする事も出来ない……

 

『クロニクル』のボスキャラはプレイヤーにしか倒せず、プレイヤーを保護しても自動的に消滅

 

全てに()いて八方塞がりな状況……

 

アザゼルは悔しげな表情で頭を掻き、リアス達も現状に頭を悩ませる

 

「……結局、私達に出来る事は……何も無いの……?」

 

リアスがボソリと(つぶや)

 

その一言に部室内の空気は更に沈んでしまう

 

このまま指をくわえて見ているわけにもいかないが、今の自分達に何が出来るのだろうか……?

 

居ても立ってもいられない一誠は声を荒らげてアザゼルに言う

 

「……先生!何か良い手は無いんスか⁉このまま黙って見てるだけなんて……俺、やっぱり納得できないっスよ!」

 

「イッセー、んな事は俺だって分かってる……!分かってるんだ!……だが、さすがの俺にも現状を打開する方法が思い付かん……!新が全てのボスキャラを片付けるのを待つしか―――」

 

「それじゃあ……新はまた独りで背負う事になるじゃないっスか!」

 

一誠の一言にアザゼルの口が止まり、一誠は更に続ける

 

「……俺、バカだった。あんな頭ごなしに怒鳴っちまって……っ。アイツは……新はいつも危険な事をしてきたんだ……っ。今まで独りで生きてきたアイツだからこそ、悩んで……苦しんで……苦渋の決断を下したんだと思う。その苦しさとツラさを―――俺は全く分かっていなかった……!仲間なのに……これからも一緒に歩んでいくダチ公だってのにっ!」

 

一誠は頭をクシャクシャに掻きむしり、再びアザゼルに言う

 

「このままじゃ、俺達は肝心なところで役に立たない……新のお荷物になっちまう!少しでもアイツの苦しみを軽くしたい……!その為にも―――俺達はここで立ち止まっちゃいけない筈なんスよ!」

 

一誠の熱弁にアザゼルは苦虫を噛み潰したような表情で腰に手を当て、少し考えたのち―――映像用魔法陣を展開する

 

そこにこれまでの『クロニクル』によって死亡した者のリストが映し出され、被害状況を再確認する

 

ボスキャラによる死亡者(ゲームオーバー)PK(プレイヤーキラー)による死亡者(ゲームオーバー)の数……

 

その中でも特に群を抜いていたのは―――PK(プレイヤーキラー)・シドによる被害だった

 

「このグラフを見ても分かる通り、シド・ヴァルディによる被害が飛び抜けてやがる。プレイヤーの救出も保護も出来ない以上、取れる方法はコイツを叩くしか無くなった。新を除いたグレモリー眷属、シトリー眷属総出でシドを叩き潰す……!異論のある奴はいるか?」

 

全員が“異論無し”を表すように(もく)し続け、アザゼルは一同を見渡してから話を再開する

 

「良い覚悟だ。……ただ、この方法には1つだけ不安要素がある。―――それはお前だ、イッセー」

 

「お、俺っスか⁉」

 

「ああ、今のお前は本調子じゃない。ドライグが未だに眠ったままだから、『真・女王(クイーン)』どころかトリアイナも使えない状態だ。今のままだと、また返り討ちにされるのが目に見えている」

 

アザゼルの言葉は(もっと)もだった

 

ドライグは冥界での魔獣騒動以降、眠りっぱなしなのでイッセーは本来の力を発揮できずにいる

 

通常の禁手(バランス・ブレイカー)のままでは、規格外の強さを持つシドに勝つのは到底不可能……

 

頭を悩ませる一誠だが、アザゼルが直ぐに切り返す

 

「ドライグに関しては1つだけ秘策を用意してある。かなり一か八かだが、上手くいけば形勢逆転できるかもしれない」

 

「マジスか!そ、それってどんな方法ですか?」

 

「以前から打診していた件も(あい)まったものでな。そのキーパーソンとなるのが―――アーシアだ」

 

アザゼルの言葉を機に全員の視線がアーシアに(そそ)がれ、アーシアは(かしこ)まった様子でペコリと頭を下げる

 

一誠がアザゼルに訊く

 

「ア、アーシアがドライグ復活の鍵なんですか?」

 

「そうだ。詳しくは言えない―――と言うより、今は言わない方が良いかもしれないな。とにかく明日、両眷属総動員でシドを捜索しろ。秘策はそこから始まる。それまでは何が遭ってもアーシアを守り通せ。アーシアがやられたら、完全にお手上げだ」

 

いつになく真剣な表情のアザゼル

 

それを見た一誠は勿論、全員が無言で(うなず)いた

 

全員の確認が取れた事で、アザゼルは再度勧告する

 

「俺達は今まで踊らされ、コケにされてきた……!その代償を一気に支払わせる……!お前らがやる事はただ1つ!―――総掛かりでシドを叩き潰す、その一点だ!俺達に喧嘩売ってきた事を後悔させてやれッッ!」

 

 

――――――――――――――――

 

 

時刻は深夜2時、新はスマホに表示された廃ビルの中にいた

 

建物内で鳴り響く金属同士が打ち合う音、時折走る火花が暗闇を刹那に照らす

 

一頻(ひとしき)りの剣戟(けんげき)が終わり、新は剣を構え直す

 

対するは……一振りの刀を上段に構える虚無僧(こむそう)のような出で立ちをした異形

 

無論、この者は『クロニクル』ボスキャラの1人―――カイデン・オーデン

 

『我が流派と対峙して、立っておられる者を見たのは初めてだ。心より感服する。今までにやって来た者どもは口先だけの小童(こわっぱ)揃いだったのでな』

 

口振りからすると、既に死亡者(ゲームオーバー)が何人も出ているようだ……

 

新は早急に終わらせるべく、剣に火竜のオーラを纏わせた

 

それを見てカイデンも刀にドス黒いオーラを流し込む

 

(しば)しの静寂から数瞬、二者の刃が空を

走って暗闇に包まれた世界を(いろど)

 

10回、20回、30回と金属音が鳴り響き―――暗闇を一閃……!

 

背を向け合う両者はそれぞれ水平に掲げた刃を下げ―――お互いに振り向く

 

『…………死して尚、一片の悔い、無し……ッ!』

 

最期の台詞を(のこ)し、カイデンは刻み込まれた切り口から血を噴き出し―――淡い光と化して消えていった

 

新は肩で大きく息をして、鎧を解除する

 

ほぼノンストップで『クロニクル』のボスキャラを討伐している為か、さすがに疲弊の色を隠せなかった

 

フラフラと覚束(おぼつか)ない足取りで廃ビルを出て、少し先の公園のベンチで一休み

 

背もたれに体を預け、星々(ほしぼし)が小さく(きら)めく夜空を見上げる

 

それから1分……2分……3分と何も考えずに微睡(まどろ)み、目を自然に閉じてしまう

 

「……………………」

 

どれだけ眠りに(ふけ)っていたのだろうか

 

ふと目を覚ますと―――見知った顔の女性が自分の顔を覗き込んでいた

 

「目が覚めましたか」

 

「顔(ちか)っ⁉」

 

突然の接近に飛び起き、勢い余ってベンチから転げ落ちる新

 

彼の前に現れたのは―――新人ハンターのミカサ・ヨルハニアだった

 

打った後頭部を(さす)りながら起き上がり、彼女が何故ここにいるのかを尋ねる

 

「ミカサ、なんでここに?」

 

「はい、警邏(けいら)も兼ねて町の散策をしておりました」

 

「警邏って……今は深夜2時過ぎだぞ?そこまで徹底しなくても良くね?……あ、ところでウチの酒飲み堕天使どもは?」

 

「はい、彼女達はあの後に梯子酒(はしござけ)を再開して―――20件終えたところで自宅に戻り、(とこ)()きました」

 

「あれからずっと飲んでたのかよ……っ。こちとら休まず働いてるってのに……っ」

 

“今から説教しに叩き起こしてやろうか”と思ったが、もはや疲労はピークなのでそれも出来ず……

 

立ち上がるや否や足が(もつ)れ、倒れそうになる

 

そこへミカサが新の手を取り、「肩を貸しましょう」と言って新を起こす

 

疲れが蓄積している状態ではどうする事も出来ないので、新は彼女の言う通りにするしかなかった

 

「……とりあえず、俺の家に連れてってくれ」

 

「了解しました」

 

ミカサは新を連れて新の家へ向かう事に

 

道中、新は密着している彼女の身体(からだ)の柔らかさに反応しつつ、重くなっている(まぶた)を必死に(こら)える

 

やがて自宅に到着し、ドアを開けようとした時だった

 

「では、私は警邏(けいら)の続きに戻ります」

 

「待て。せっかくだから、お前も休んでいったらどうだ?」

 

新がミカサを呼び止め、彼女に休むよう言ってきた

 

そう言われたミカサは―――珍しく疑問符を浮かべた様子で足を止め、振り返る

 

「休む、ですか?」

 

「そうだ。お前も気を張り詰めっぱなしだと疲れるだろ?だから、明日の朝まで休んでいけ」

 

「……それは任務ですか?」

 

「あのなぁ……何でもかんでも任務任務って考えるなよ。俺達は機械じゃねぇんだ。動く時は動いて、休む時は休む。自分の意思を尊重せず動こうってヤツは―――ただの機械と同じだ。良いから休め」

 

新はミカサの手を引っ張り、家の中へと連れ込んでいく

 

ミカサは何も言わず、何も答えられず、ただ新に引っ張られていくのみ

 

リビングに辿り着くと―――新は近くにあったソファーに倒れ込み、上着を掛け布団の如く(かぶ)ってそこで寝る事にした

 

「じゃあ、俺はここで寝るわ……。正直もう限界……。2階の俺の部屋で好きに寝てくれ。あと、明日は昼過ぎに起こしてくれ……」

 

「……分かりました、お休みなさい」

 

ミカサは軽く会釈するが、言い切る前に新は眠りに落ちたようで寝息が聞こえてくる

 

新が眠ったのを確認したミカサは階段で2階に上が―――ろうとはせず、新の(そば)に座り込む

 

そして、寄り添うように身体を預け、彼女もその場で眠った

 

 

―――――――――――――――――

 

 

ジ ブ ン ノ イ シ ヲ ソ ン チョ ウ

 

キ カ イ ジャ ナ イ……?

 

ワ タ シ ハ キ カ イ ジャ ナ イ……?

 

デ ー タ ニ ソ ン ザ イ シ ナ イ コ ト バ ヲ

ニ ン シ キ

 

ジョ ウ ホ ウ ヲ ア ッ プ デ ー ト

 

ソ レ ニ ト モ ナ ウ カ ン ジョ ウ ヲ ケ ン

サ ク シ マ ス

 

ケ ン サ ク チュ ウ

 

ケ ン サ ク チュ ウ……

 

 

――――――――――――――――――

 

 

翌朝、兵藤家地下にある巨大な転移型魔法陣

 

そこに新を除くオカルト研究部のメンバーとシトリー眷属全員が集まっていた

 

召集を受けた一同にアザゼルが話を切り出す

 

「……昨日も言った事だが、今の俺やお前らにこのクソゲーを止められる(すべ)は無い。まだ納得のいかない奴もいるだろうが、それを踏まえた上で狙いを一点集中させる。その内容は単純明快―――シド・ヴァルディを止めろ」

 

いつも以上に真剣な面持(おもも)ちで告げるアザゼル

 

デスゲーム『クロニクル』の犠牲者は日に日に増加しており、その中でもシドによる被害は甚大なものだった

 

(ゆえ)に……今回の出陣をシド・ヴァルディの撃破に専念させる

 

それは並大抵のものではないが、『クロニクル』自体を止める事が出来ない以上―――やるしかない……

 

一誠はここで1つ気になっていた事をアザゼルに訊いてみる

 

「先生、やっぱ気になります。今回の件はアーシアが重要な役割をするって。それって……いったいどういう理由なんスか?」

 

一誠の問いに対してアザゼルは答える

 

「以前から打診していた事なんだが、アーシアには魔物との契約、もしくは召喚魔法に向いている線が濃厚でな。オーフィスにも“アーシアにドラゴンとの付き合いを教えてやってくれ”って頼んでおいたんだ」

 

アザゼル(いわ)く、アーシアには召喚魔力、あるいは召喚魔法の才能があるらしい

 

ちなみにここで語られてはいないが……アーシアは契約が難しいとされる蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)(名前はラッセー)と契約を結んでおり、今ではアーシアの使い魔となっている

 

アーシアと友好な関係を築き、通常のギブアンドテイクな契約ではなく―――絆を得ての契約を果たした

 

「シド・ヴァルディを止めるにはイッセー、まずはお前が本来の力を発揮できるようにドライグの意識を呼び戻さなきゃならん。そこで重要なのがアーシアと言うわけだ。アーシアの準備が(ととの)い次第、一気に攻勢に転じようってのが今回の作戦だ」

 

「なるほど」

 

納得する一誠がアーシアに視線を向けると、当の本人は何故か顔を赤くしていた

 

アザゼルがアーシアを呼ぶ

 

「アーシア、オーフィスにアドバイスを貰いながら進めてきたから問題は無いと思うが―――頼むぞ。龍神(りゅうじん)のありがたい加護ってのを信じろ」

 

「は、はい、とても恥ずかしいですけど……が、頑張りますっ」

 

アザゼルの言葉にアーシアが応じる……しかし、彼女の顔は更に赤くなっていた

 

気になるものの、転移型魔法陣が強い光を放ち始めたので全員が準備する

 

転送される直前、アザゼルが皆に言う

 

「良いか、お前ら。ここで奴らの鼻っ柱をへし折ってやれ。散々ふざけた真似をしてくれたツケをたっぷり支払わせるんだ」

 

全員が(うなず)き、シドの撃破に向けて転送の光に包まれた

 

 

―――――――――――――――

 

 

「最上級のと~りむね肉~で唐揚げ~っ♪唐揚げ~っ♪」

 

とある町外れの鉱山付近にて、シド・ヴァルディは陽気に歌っていた

 

何処かで聞いた事のあるようなフレーズを意気揚々(いきようよう)と歌い、手に持っている唐揚げを食べる

 

彼の周りには死屍累々(ししるいるい)と横たわり、苦しみ(もだ)えるプレイヤー達がいた……

 

既に意識を失った者、体の激痛に苦しむ者

 

涙を浮かべ―――「死にたくない……!」、「助けて……!」等と命乞いをする者

 

そんな事をしたところで彼らの願いは届かず、無情にも消滅していく……

 

絶叫、後悔、悲嘆、負の感情が(いろど)られた叫び声が(むな)しく木霊する

 

プレイヤーの消滅を確認したシドは唐揚げを食べ終え、口元を舌でペロリと舐める

 

「これで死亡者(ゲームオーバー)が15378人か。快調快調~♪ここらでイッセー先輩が乱入イベント起こしてくれたら、盛り上がるんだけどな~」

 

シドが屈伸しながら“次は何処へプレイヤー狩りに向かおうか”と算段を立てていると―――彼の期待するイベントが舞い降りる

 

「見つけたぞ、このゲーム野郎」

 

聞き覚えのある声がする方向に視線を向けると……転送され、ここまでやって来た一誠達がいた

 

彼らの姿を見た途端、シドは無邪気な笑みを浮かべる

 

「アハハッ♪やっぱ来てくれたんだ、イッセー先輩。騒ぎを起こせば速攻で駆け付けてくる―――もはやどうしようもない(さが)だね。でも、そうまでして僕と遊んでくれるって事を考えると嬉しいよ♪」

 

「気色悪い発言すんな!こっちはバトルジャンキーのお前と違って、平和に生きたいんだよ!」

 

「平和ねぇ……。本当にヌルゲー発想が好きだね、先輩は。その為にわざわざ連敗記録を更新しに来たのかな~?」

 

シドの挑発に一誠だけでなく、全員が険しい顔つきとなる

 

早速シドは手元に黒い魔法陣を眼前に展開し、それを(くぐ)って戦闘形態(パズリングフォーム)と化した

 

「イッセー先輩、僕を止めたいなら―――それなりに本気を出してくれないと。いつまでもヌルゲーじゃあ面白くないよ」

 

“確かに今のままではシドに勝てない……”

 

これまで一誠は何度も煮え湯を飲まされてきた

 

ゆえに―――ドライグの意識が元に戻ってもらわなければならない

 

一誠は再度ドライグを呼び掛ける

 

「……ドライグ。聞こえてるか、ドライグ?」

 

一誠が宝玉に問い掛けるが……反応は無い

 

“まだ寝てる?”

 

そう思っていたら―――『………………』と何らかの反応はあるようだ

 

「ドライグ?おい、どうした?」

 

一誠が再度尋ねる、すると―――

 

『……お兄ちゃんは誰?』

 

………………変な台詞が出てきた

 

「……ド、ドライグさん……?」

 

『うん、僕はドライグ。ドラゴンの子供なの』

 

「え、ええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ⁉」

 

一誠は目玉が飛び出して叫ぶしかなかった

 

他の皆も今のドライグの声が聞こえたのか、困惑するばかり

 

シドに至っては首を(かし)げる始末……

 

誰もが混乱する中、ソーナが言う

 

「……もしかすると」

 

「ソーナ会長、何か分かりますの?」

 

朱乃の問いにソーナが答える

 

「……これは仮定ですが、元々兵藤くんによる『おっぱいドラゴン』関連の影響で赤龍帝(せきりゅうてい)ドライグは精神的に(まい)っていました。それにプラスして先日の魔獣(まじゅう)事件で、ドライグは兵藤くんの蘇生に力を使い、眠る時間が多くなってしまった。力を使い過ぎた結果、未だ完全に復活できず、軽い幼児退行になったのかもしれません」

 

「……単にイッセー先輩のおっぱい関連で疲れ切って退行したような……」

 

ソーナの解説に小猫がボソリと言う

 

つまり、一誠の度重(たびかさ)なる“おっぱいドラゴン・センセーション”で心身共に疲労が溜まり、それが振り切ってドライグの精神年齢が幼児に戻った―――と言う事だろう……

 

途端にドライグは震えた声音になる

 

『……おっぱい……おっぱい、こわいよ……』

 

なんという事でしょう―――『おっぱい』1つでドラゴンが現実逃避しています……っ

 

一誠は(なだ)めるように言う

 

「ドライグ!いや、ドライグくん!おっぱいは怖くない!おっぱいはとても柔らかくて良いものなんだ!そう、おっぱいは奇跡!俺達はそれで何度も助かってきたじゃん!」

 

『……ずむずむいやーんって、心の奥にまでずーっと残ってるの……』

 

“トラウマが(ひど)すぎる”

 

もはや、そう言うしかなかった……っ

 

「天龍が幼児退行⁉何だそれは⁉どうすれば伝説のドラゴンをそこまで追い詰める事が出来るんだ⁉」

 

匙が驚いている様子だった

 

そんな事、元凶たる本人(イッセー)も知りたいぐらいだろう

 

「ヴリトラ、何とか出来ないか?」

 

匙が訊くと、匙の陰から人間サイズの黒い蛇―――ヴリトラが出現して答える

 

『もう1体、龍王がいればドライグの意識を引っ張ってこられるやもしれぬ』

 

どうやら何とかなる方法はあるらしい

 

「ねー、イッセー先輩~っ。まだなの~?早く遊ぼうよ~」

 

シドは退屈を我慢できないのか地面に座り込み、伸ばした足をパタパタと動かしている

 

早くしないと、いずれは痺れを切らしてしまうかもしれない

 

「私に任せてください!」

 

当惑する一誠達だったが、ここで思いもよらない者が1歩前に出てきた

 

意を決した様子のアーシアを見てリアスが言う

 

「準備が整ったようね、アーシア。ここは任せましょう」

 

怪訝(けげん)に思う一誠を尻目に、アーシアは力強い呪文を唱え始める

 

アーシアの前方に金色の魔法陣が出現した

 

「―――我が呼び声に(こた)えたまえ、黄金の王よ。地を這い、我が褒美を受けよ」

 

その呪文を受けて、金色の魔法陣が光を高める

 

「お()でください!黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)!ファーブニルさんっ!」

 

アーシアが呪文を唱え終わった瞬間、呼び声に応じた者が姿を現す

 

黄金の魔法陣より出現したのは―――金色の(うろこ)を持つ四足歩行のドラゴンだった

 

雄大なオーラを纏い、全長は十数メートル

 

頭部には生える角に布らしき物がくるまっている

 

「ファーブニル⁉ファーブニルって、先生と契約してたあの龍王⁉」

 

見覚えがあるのも当然

 

ファーブニルは五大龍王の一角で、アザゼルが多用する黄金の鎧と化していたドラゴンだった

 

驚く一誠にリアスが説明する

 

「アザゼルは前線を引いたから、龍王との契約を解除したそうよ。ただ、そのまま返すのも何だからとアーシアとの契約を(うなが)したのよ」

 

アザゼルは以前からアーシアの魔物使いとしての才能を見ており、回復している時に敵に狙われても良いように壁役を用意しろと打診していた

 

まさか、その壁役が龍王とは予想もしていなかっただろう……

 

リアスの話にソーナも続く

 

「リアスから聞いていた通り、契約を結べたようですね。龍神(りゅうじん)オーフィスの加護を得られたのも納得できます」

 

「……オーフィスの加護?ああ!先生がそんな事言ってた!」

 

「アーシアさんのオーラにオーフィスの神通力らしきものが付与され始めたようです。調べてみたところ、直接の能力向上は無いものの、御利益(ごりやく)によって運勢やドラゴンとの相性が底上げされていたそうです。オーフィス自身も加護を与えている自覚は無かったようですから、きっと無自覚の内にアーシアさんに感謝の念を送ったのでしょう。同様に紫藤イリナさんも加護を受けてます」

 

「運勢がバッチリ上がったわ!この間もショッピングセンターのくじ引きで2等当てたの!」

 

イリナが親指を立ててグッドサインをするが、現実には微妙な御利益だ

 

「会長、俺にはオーフィスの加護は無いんですかね……?いっつも後ろに付いて回るくせに俺にはくれないのかな」

 

「……兵藤くんの場合は加護と言うよりも()かれていると言った方が適切でしょう。恐らく、どの神々がお(はら)いしても祓いきれない業を背負い込みましたね」

 

(なつ)かれている―――ではなく、憑かれている上に神でも祓う事が出来ないらしい……

 

「オーフィスの仲介もあり、ファーブニルはアーシアさんと契約を結びました。世界中の秘宝を集めてコレクションしていた伝説のドラゴンです。アーシアさんは契約を完了させる為に彼を満足させるだけの宝を用意しなければならなかった。……代償は大きかったようです」

 

「いったい何を代価に支払う事で契約が完了したんですか?」

 

「……そ、その……私の口からは……」

 

一誠の問いにソーナは口ごもる

 

気になる一誠はリアスに視線を移すが、リアスもソーナと同じように「……私からも、ちょっと言えないわ……」と視線を逸らすだけだった

 

「いえ、気になるんです!俺の大事な家族がいったい何を犠牲にして龍王との契約を得たのか!俺は聞かないといけないんです!」

 

力説する一誠

 

リアスとソーナは頬を赤く染め、恥ずかしそうな小さな声で(つぶや)

 

「……ツよ……」

 

「……ツです……」

 

「え?聞こえません!ハッキリとお願いします!」

 

聞き直す一誠―――すると、アーシアが恥ずかしさ満点で叫んだ

 

「パンツです!」

 

…………………………はあぁっ⁉

 

先程よりも更に驚く一誠は、唐突に角の先端にくるまっていた布の正体に気付く

 

布の正体は―――女物のパンツだった

 

ファーブニルが重い口を開く

 

『―――お宝、おパンティー、いただきました。俺様、おパンティー、うれしい』

 

一誠は瞬時に(さと)った

 

“こいつは変態だ……っ!”

 

「パンツを代価に契約に応じる龍王だと⁉じゃあ、先生はどういう契約でこのおパンティードラゴンと契約したんだ⁉パンツか⁉先生も何処かからおパンティーを調達していたのか⁉」

 

「アザゼルはきちんとした宝物を与えていたわよ」

 

一誠の疑問に答えるようにリアスがそう言ってくれた

 

……パンツオンリーに思考がいってる時点でバカだと思われるが……とにかくファーブニルの印象が最悪すぎる

 

アザゼルとの契約では黄金の鎧と化していたが、正体はパンツドラゴン……

 

イメージダウンにも程がある

 

恥ずかしさに耐えながら、アーシアはパンツ龍王に訊く

 

「ファーブニルさん!ドライグさんの精神が弱まっているんです!同じ伝説のドラゴンとして、ドライグさんを助けてあげる事はできないんですか⁉」

 

『―――できるよ』

 

「―――っ!本当ですか⁉お願いします!ドライグさんを元に戻してください!」

 

『お宝、ちょーだい』

 

パンツ龍王からおねだりが入った

 

「……わ、分かりました。契約の対価ですね……」

 

アーシアは恥辱に耐えながら、ポシェットから水色の可愛らしいパンツを取り出した

 

それを見てゼノヴィアとイリナが叫ぶ

 

「あ、あれはアーシアのお気に入りの水色のパンツだ!」

 

「アーシアさん、それをあげちゃうの⁉」

 

どうやら契約の対価に差し出すのはお気に入りの(フェイバリット)パンツのようだ

 

「やめろ、アーシア!アーシアがそこまでする必要なんてない!おい!龍王!なんでおパンティーが欲しいんだよ⁉」

 

一誠が問うと、パンツ龍王は顔色1つ変えずに言い放つ

 

『おパンティー、お宝』

 

「それは分かる!確かにお宝だけど!おい、ヴリトラ!同じ龍王だろ!何とかしろよ!このパンツ野郎を説得してくれ!」

 

『知らん』

 

速攻でスルーされる中、ゼノヴィアが叫んだ

 

「待て!アーシアが差し出す事はない!私のをやろう!」

 

しかし、イリナがゼノヴィアを制止しようとする

 

「何を言っているの、ゼノヴィア!その戦闘服って下にパンツ穿()いてないじゃないの!」

 

「くっ……!ファーブニル!私の戦闘服じゃ不服か⁉」

 

戦闘服を脱ごうとするゼノヴィアだが、当のパンツ龍王は―――

 

『俺様、金髪美少女のおパンティーがいい。パンツシスターのお宝欲しい』

 

「うちのアーシアちゃんはパンツシスターじゃありません!」

 

一誠が詰め寄ってファーブニルの頭を叩くが、パンツ龍王は全く動じない

 

もし、ここに新が居たら―――彼は発狂していただろう

 

(あるじ)のリアスがスイッチ姫、アーシアがパンツシスター……酷すぎる

 

このやり取りを見ていたシドは―――

 

「パンツせんぱーい、まだ終わらないの~?」

 

「お前もパンツ先輩とか言うなぁぁぁッ!」

 

「だって、さっきからパンツパンツ言ってるんだもん。パンツシスター先輩のパンツ劇場は見てて面白いけど、僕は早く遊びたいの」

 

「頼むから、これ以上アーシアをいじめないで!これが終わったら好きなだけ相手してやるから!」

 

「あげます!」

 

アーシアは顔を赤く染め上げて、パンツドラゴンの鼻角に水色のパンツを引っかける

 

それを見てゼノヴィアとイリナが号泣した

 

「うぅ、アーシア!なんて凄い覚悟なんだ……ッ!」

 

「ああ、主よ!この自己犠牲の(かたまり)たるアーシアさんに祝福を!」

 

親友が見守る中、黄金のパンツドラゴンは鼻の穴を思いっきり広げて一気に酸素を吸い込む

 

ドラゴンの解放する、と思いきや―――

 

『アーシアたんのおパンティー、くんかくんか』

 

パンツの匂いを嗅ぎ始めただけだった……

 

「くんかくんかすんなぁぁぁぁっ!」

 

「もう、お嫁にいけません!」

 

またも突っ込んでしまう一誠と、恥ずかしさに耐えられなくなり、顔を両手で覆うアーシア

 

『おパンティー、いただきました。ドライグ、治れっ!』

 

ファーブニルが黄金のオーラを一誠の籠手に向かって放った

 

『くっ!なんてザマだ!』

 

ファーブニルのオーラに反応して、ヴリトラも文句を言いながら黒いオーラを籠手に向かって放つ

 

一拍あけて、籠手の宝玉がいつもの赤い輝きを放ち始めた

 

『―――っ。……はっ!お、俺はいったい何をしていたんだ⁉あ、相棒じゃないか!』

 

「うぅ、ようやく戻ってきたんだね、ドライグ……。お前を復活させる為の犠牲はあまりに大きかったんだぞ……っ!」

 

アーシアはパンツと何か大切なものを失い、ドライグはパンツで意識を取り戻した

 

こんな事を告げれば、繊細なドライグは完全に壊れてしまうだろう……

 

一誠はアーシアに向けて叫ぶ

 

「アーシアァァァァッ!嫁にいけない事なんてないぞ!俺がきちんと責任持つから、安心しろッッ!」

 

「うぅ、イッセーさん!ふつつか者ですが、よろしくお願いしますっ!」

 

「ああ、任せろ!こんちくしょうめっ!なんて酷い運命なんだッ!何が秘策だっ、先生ッ!俺はアンタを絶対に許さんっ!今なら幽神(ゆうがみ)の気持ちが分かっちまうよ、チクショウがぁっ!」

 

『くんかくんか』

 

パンツ龍王はまだパンツの匂いを楽しんでいた……

 

「だから、くんかくんかすんなよ、変態龍王ォォォォォッッ!アーシアの思いを無駄にはしないッ!禁手化(バランス・ブレイク)っ!」

 

Welsh(ウェルシュ) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!!!!』

 

一誠の全身を覆う赤いオーラが鎧を形成していく

 

いつもならカウントしてからだが、カウント無しで禁手化(バランス・ブレイク)できている事に気付いた

 

恐らく、グレートレッドとオーフィスの影響だろう

 

“これでようやくシドとまともに戦える”

 

鎧を纏った一誠が1歩前に出たのを機に、シドも立ち上がって準備をする

 

「へぇ……前に遊んだ時と迫力が全然違うや。あの時は本気じゃなかったってわけだね?良いよ良いよ~っ、やっと本気で遊んでくれるようになったんだ。―――心が踊るよ」

 

トーンの低い声音で構えるシド

 

一誠も握り拳を向けて啖呵を切った

 

「ああ、お望み通り本気でやってやる。今まで散々やられた分を―――まとめて返してやる!覚悟しとけよ、このゲーム野郎ッッ!」




次回は遂に……シドがあの姿で無双します⁉

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。