ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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また1ヶ月以上掛かってしまい、申し訳ありません……。


『クロニクル』終局間近、絶望の選択……っ!

時間を少し(さかのぼ)り、睡眠を済ませた新は(すた)れた教会跡に足を運んでいた

 

理由は勿論、『クロニクル』のボスを討伐する為であり―――まさに戦闘を(おこな)っている渦中(かちゅう)だった

 

新の正面に1体、そして背後にもう1体

 

(ただ)し、背後の1体には剣が突き立てられていた

 

『お、弟よっ!』

 

『ス、スマン……兄者(あにじゃ)ぁ……!』

 

“弟”に呼び掛けるは黒き体躯のボス、ガッカオ・ビターズ

 

“兄”に詫びを入れるのは赤い体躯のボス、レッドチーリ・ビターズ

 

二対一体(についいったい)のボスキャラである

 

(レッドチーリ)が刺された事に激昂し、飛び掛かってくる(ガッカオ)

 

それでも新は冷静に兄ボスの攻撃を(かわ)し、剣で突き刺した弟ボスを兄ボス目掛けて投げつける

 

早急に決着をつける為に新は『真・女王(クイーン)』形態に変貌し、黒い火竜を撃ち放った

 

放たれた火竜は猛然と突き進み、兄弟ボスを焼き払っていく

 

彼らは断末魔を上げる暇も無く、全身を端々から焼き尽くされ―――消滅していった

 

Game(ゲーム) Clear(クリア)‼』

 

攻略完了の音声が響き、新は元の姿に戻って深く息を吐く

 

クリアしたとはいえ……周りには死亡したプレイヤー達の残骸(ざんがい)が転がっていた

 

「……ったく、やりきれねぇよな……。こんなのを見た後じゃあ……」

 

新は不機嫌に毒づいて地べたに座り込み、(ふところ)から栄養ドリンクの瓶を取り出す

 

蓋を開けて栄養ドリンクを一気に飲み干し、(から)になった瓶を投げ捨てる

 

『……けど、これで5人のボスを倒したんだ。あとは、ラスボスとやらを倒せば……このふざけたクソゲームを終わらせる事が出来る……っ』

 

そう息巻いた直後、新のスマホが鳴り響く

 

「もしもし?……アザゼルか、どうした?」

 

『どうもこうもねぇ、今すぐグリゴリ系列の病院に来てくれ。―――イッセー達がやられた……っ』

 

「―――っ⁉なん……だと……⁉」

 

 

―――――――――――――――――

 

 

アザゼルからの凶報を受けて堕天使系列の病院へ直行した新

 

受付で病室を聞き、部屋の扉を開け放つと―――そこにはアザゼルとレイヴェルもいた

 

険しい顔付きで新を待っていたアザゼルはベッドに視線を向ける

 

(つら)なるベッドの上には……一誠を含め、グレモリー眷属のほぼ全員とシトリー眷属全員が横たわっていた

 

目の前の光景に唖然とする新は、直ぐに何が遭ったのか問い詰め―――アザゼルが苦々しい表情で答える

 

「また、あのゲーム野郎にやられたんだよ……」

 

「ゲーム野郎―――って、シドの事か……?」

 

「ああ、ファーブニルを介してイッセーが復活したかと思えば―――厄介な事に……ヤツは赤龍帝(せきりゅうてい)のデータを利用してパワーアップしやがったのさ。お陰でこのザマだ……っ。アーシアも無理して全員の回復を(おこな)ったもんだから、ぶっ倒れちまった」

 

シドが去った直後、アーシアは一誠達の傷を癒すべくフル稼働した為―――過労で倒れてしまったのだ……

 

レイヴェルは水で濡らしたタオルをアーシアの(ひたい)に置く

 

事の顛末(てんまつ)を知った新は震え始め、自責の念に駆られる

 

『……俺が、俺がもっと早く対処していれば……っ!クソッッ!』

 

新は急ぎ足で病室を飛び出ようとするが、寸前でアザゼルに呼び止められる

 

「待て、新!お前、昨日から休んでないだろ!そんな状態で―――」

 

「睡眠ならさっき取った!ボスも倒した!あと1体……ラスボスとやらを倒せば、このクソゲーを終わらせる事が出来るんだよ!」

 

「だとしても、独りで突っ走ってどうにかなるワケじゃないだろうが!」

 

「元々は俺が()いた種が原因で一誠やリアスが、皆がこうなっちまったんだっ!俺がケジメをつける……ッ!その為なら――――倒れようが知った事かっ!」

 

“自分のせいで一誠達が造魔(ゾーマ)魔手(ましゅ)に巻き込まれ、深傷を負わせてしまった……”

 

新はヤケクソに自分を責め立て、一刻も早く『クロニクル』を終わらせるべくアザゼルの制止を振り切る

 

レイヴェルは病室を飛び出していった新の背を見る事しか出来ず、アザゼルも一概に新の責任と追及できないがゆえに―――黙っているしかなかった……

 

 

――――――――――――――――――

 

 

『クソ……ッ!モタモタしてる暇は無いってのに!こうしてる間にも死亡者(ゲームオーバー)の数は増えるばかりだ……!何か情報は()ぇのか……⁉』

 

新はスマホの画面を見ながら辺り一帯を走り回る

 

画面には―――死亡(ゲームオーバー)となったプレイヤーの総計がリアルタイムでカウントされており、その数は遂に30000人を超えてしまった……っ

 

ますます焦燥感(しょうそうかん)(つの)って冷静な対応が出来なくなり、新はところ構わず走り回った

 

時間だけが無情に過ぎていく……

 

そんな時、新のスマホに何やらメッセージが届く

 

確認してみると―――

 

『おめでとうございます!5人のボスを倒したあなたはラスボスへの挑戦権を獲得しました!さあ、今こそラスボスを倒し―――「クロニクル」のレジェンドプレイヤーになりましょう!』

 

何処をどう見てもふざけているとしか言えない文面のメッセージだった……

 

新は心中で沸々(ふつふつ)と怒りに震えるが、次のメッセージが届く

 

ラスボスの出現予定ポイントが記された場所である

 

映ったのは何年も前に閉鎖され、今では誰も寄り付かなくなったボーリング施設

 

「……待ってろよ、クソ野郎。今まで散々踊らせてくれた礼をしてやる……!」

 

新は場所を確認すると即座に走っていった

 

 

――――――――――――――

 

 

既に日が沈みかけた時刻、新は(くだん)の閉鎖されたボーリング場へと辿り着いた

 

息を切らし、呼吸を整える間も無く新は入口へと足を運ぶ

 

既に閉鎖されている為か、入口の扉には鎖が巻かれていた

 

新は鎖を無理矢理壊して入口の扉を勢い良く開け、ズカズカと中へ入り込む

 

電気は通っておらず、何処もかしこも(ほこり)まみれ

 

不気味さしか滲み出てこないような空間……その中央で新が叫ぶ

 

「何処だッ!出てきやがれッ!」

 

怒声を放つが返事は無し、更に声を荒らげる

 

「ラスボスってのは根性無しか⁉このクソゲーをおしまいにされるのが怖いのかよっ⁉いい加減ケリをつけてやるッ!さっさと―――」

 

Oh(オー) la() la()、欲しがりですね。それともグレモリー眷属の悪魔は(こら)え性が無いのでしょうか?」

 

(あざけ)る声が(さび)れたボーリング場内に響いてくる……

 

その声の主がゆっくりと新の前に姿を現す

 

このデスゲーム『クロニクル』の元凶とも言える、悪趣味極まりない諸悪の根源が……

 

ça va(サバ)?」

 

あざとい挨拶を放つキザな男

 

その者こそがデスゲーム『クロニクル』の首謀者……

 

「キリヒコ……ッッ!」

 

彼の姿を見た途端、新の中で怒りが沸々(ふつふつ)と煮えたぎってきた

 

ギリリと強く握り締める拳からは血が垂れ、(ほこり)だらけの床に赤い斑点を作る

 

「ようやく……ようやく、ここまで来たぞ。ラスボスってのはお前か?お前を倒せば終わりか?それともシドってヤツがラスボスか?」

 

一方的に話を進めようとする新に、キリヒコは「Non(ノン) Non(ノン) Non(ノン)」と首を横に振る

 

「ラスボスはもっと素敵な方ですよ。あなたの為に用意しました―――特別な、ね……」

 

キリヒコが指を鳴らした直後、その場の雰囲気がガラリと変わる

 

すると、1人の人影が姿を現す

 

フード付きのローブを羽織った小柄な者で、その両手には長剣が握られていた

 

新がキリヒコに(たず)ねる

 

「……アイツがラスボスか?」

 

Oui(ウィ) Oui(ウィ) Oui(ウィ)、頑張ってクリアしてくださいね。私は一切手出しを致しませんので」

 

「これが片付いたら、次はテメェの番だからな。覚悟しとけよ……っ」

 

Oh(オー) la() la()、怖い怖い。たかがゲームじゃないですか。まあ……あなた方にとっては死活問題でしたかね。せいぜい頑張ってください。では―――Bonne chance(ボヌシャンス)

 

そう言うとキリヒコは近くの椅子に歩み寄り、優雅に腰掛ける

 

言葉通り、彼はこの戦いに横槍を入れるつもりは無いようだ

 

しかし、今まで手玉に取られてきた経験ゆえか……新は疑念を拭い去れなかった

 

警戒心を(いだ)きながら、ラスボスの前に立つ

 

直ぐに闇皇(やみおう)と化して戦闘態勢に入り、向こうも長剣の切っ先を新に向ける

 

『……(テキ)認識(ニンシキ)、コレヨリ―――排除(ハイジョ)開始(カイシ)スル』

 

機械のように無機質な声音を発した直後、ラスボスの姿が一瞬ブレる

 

危険を察知した新は瞬時に飛び退くが、鋭い一閃が彼の鎧を(かす)めた

 

横一文字に刻まれた鎧の裂傷を見て、新は言葉を失いかける

 

『……なるほど、ラスボスって言うだけの事はあるな。今までの奴らとは動きがまるで違う。それに―――何か嫌なオーラを感じる……っ。何なんだ、この寒気は……?』

 

新も剣を構え、慎重に距離を詰めようとする

 

ラスボスの方も左の長剣を逆手(さかて)に持ち替えた

 

少しの静寂……刹那、熾烈な剣戟の音が鳴り響く

 

新の剣とラスボスの長剣がぶつかり、激しい火花を散らす

 

順手(じゅんて)と逆手、それぞれに持った二刀から繰り出されるラスボスの剣戟は素早く、そして重みもある

 

今までのボスキャラとは桁違いの強さに新は兜の中で冷や汗を垂らす

 

『正面から行ってもダメか……っ!だったら――ッ!』

 

新は一旦距離を取って剣に魔力を流し、幾重にも斬撃(ざんげき)を放つ

 

ラスボスは向かってくる斬撃を(ことごと)く斬り払う

 

その最中、新は斬撃を繰り出す途中で床に一撃を与え―――爆煙(ばくえん)を生み出した

 

辺り一帯が煙に包まれ、新の姿が煙に(まぎ)れて消える

 

斬撃を全て防いだラスボスは新が消えたのを機に攻撃の手を止め、静止する

 

微動だにしないラスボス……新はその背後に回っていた

 

正面からの打ち合いは分が悪いと判断し、奇襲戦法に切り替えたのだ

 

素早く背後に回り込んだ新は魔力を込めた剣戟で決めようとした―――だが……!

 

『……(テキ)背後(ハイゴ)確認(カクニン)迎撃(ゲイゲキ)システム起動(キドウ)

 

言葉と同時にラスボスのローブから何かが飛び出してきた

 

飛び出してきたのは―――ゲーム等でよく見られる“浮遊する2つのポッド”

 

その浮遊物体から銃口がせり出し、ビームが放射された

 

『―――ッ!ファ○ネル……ッ⁉』

 

完全に意表を突かれた新は咄嗟に身を(ひるがえ)してビームを回避するが、息つく暇も無くラスボスの剣戟が飛んでくる

 

段々と速度を上げてくるラスボスに対し、新も移動速度を高める

 

しかし、2つの浮遊物体(ポッド)が空中を飛び交い、掩護射撃してくるので有効な攻撃が与えられない

 

剣戟も徒手も銃撃によって軌道をズラされて空振りに終わったり、段幕射撃が新の動きを制限させる

 

実質、三対一の構図だった……

 

その後も地上での激しい剣戟の打ち合い

 

壁を(つた)い、天井を駆けながらの熾烈な攻防

 

新は浮遊物体(ポッド)からの砲撃を回避しつつ、ラスボスに剣戟を見舞っていくが―――深くは通らない

 

通常の状態では勝ち目など無かった

 

一頻(ひとしき)りの打ち合いが一旦途切れ、距離を置いて着地する両者

 

新は鎧の各所が削られており、疲弊も重なっている為か、肩で大きく息をする

 

一方でラスボスはその様な隙を全く見せず、目の前の敵をただ見据えるのみ……

 

新は本腰を入れるべく呼吸を(ととの)え―――自分の中に潜む竜の力を解放し始める

 

火竜のオーラが滲み出て全身を包み、新の肉体が変貌していく

 

―――『超越の黒竜帝(インフェルニティ・オーバー・ドラグニル)』―――

 

竜の力を解放した新は再び剣を取り、水平に掲げる

 

『……危険(キケン)(チカラ)感知(カンチ)(スミ)ヤカナル排除(ハイジョ)ヲ―――』

 

「それはこっちの台詞だ……ッ!」

 

新は火竜のオーラを増大させ、剣を振るって斬撃を放つ

 

繰り出された斬撃は竜の形となって、地を削りながらラスボスへと向かっていく

 

ラスボスは2つの浮遊物体(ポッド)からレーザーを掃射、向かってくる斬撃を打ち消そうとする

 

しかし、新の斬撃はレーザーをものともせず―――猛然と突き進んでくる

 

ラスボスは瞬時に空中へ跳び上がって斬撃をやり過ごすが……新はそれを見逃さない

 

自分も跳び上がってラスボスの眼前に追い付き、火竜のオーラを纏わせたパンチを打ち込む

 

ラスボスは二刀を前に掲げ、盾代わりに防ごうとするが―――勢いに押し負けて壁に叩き付けられる

 

しかし、直ぐに攻撃へと転じるラスボス

 

二刀の剣戟や蹴り等を次々と繰り出すものの、竜の力を解放した新には決定打を与えられず

 

そこでラスボスは距離を取り、2つの浮遊物体(ポッド)を集結させて巨大な砲口を向け、砲身にエネルギーを蓄積していく

 

デカい砲撃の準備を整えているのだろう

 

それを察知した新も砲撃の準備に取り掛かる

 

口を開き、火竜のオーラだけでなく雷のオーラも解き放ち―――異なる2つの属性が渦巻くように混ざり合っていく

 

以前の魔獣騒動にて、新はリュオーガ族に伝わる“竜の呼吸法”を会得

 

そのお陰で異なる属性の魔力等を喰らい、(おのれ)の力に変換する(すべ)を身に付けたのだ

 

燃え盛る火竜のオーラ、(ほとばし)(いかずち)のオーラが調和し―――更に強力な奔流(ほんりゅう)と化す

 

「―――『雷炎竜の咆哮(ライトニング・ブラスト)』ォォォォォォオオオオオオオッッ!」

 

新は極大にまで溜めた魔力を解き放ち、雷を纏った火竜が天地を裂くような勢いで突き進む

 

ラスボスも浮遊物体(ポッド)から極大のレーザーを放つ―――だが……

 

砲撃合戦は新の方に軍配が上がり、雷の火竜は浮遊物体(ポッド)もろともラスボスの全身を呑み込んでいった

 

壁を突き破り、遥か彼方へと消えていく火竜

 

爆煙(ばくえん)と粉塵が舞い散る中、砲撃の餌食となったラスボスの姿が現れる

 

既に浮遊物体(ポッド)は損傷が激しく、もはや機能しないだろう

 

ローブも全身もボロボロで、フードからは口元が見える

 

この光景を見ていたキリヒコは含み笑いをして、新に拍手を贈る

 

Trés bien(トレビアン)……ッ!あれだけの魔力を使いますか!その禍々(まがまが)しさ、荒々(あらあら)しさ―――やはり、あなたをプレイヤーになるよう仕向けた甲斐がありましたね」

 

「お前に褒められたところで嬉しくも何ともねぇんだよ……っ。悪いが、一気に決めさせてもらう。いい加減ウンザリだからな」

 

「……Je vois(ジュヴォワ)、確かに今の勢いでなら直ぐに勝敗がつくでしょうね。―――しかし、先程も言った筈です、“これはゲームです”と……。ゲームには思わぬどんでん返しもあったりするのですよ」

 

意味深な言葉を放つキリヒコを(いぶか)しげに睨む新

 

その意味を直ぐに知る―――否、思い知らされる事になる……っ

 

バチバチと火花が散るラスボスの体

 

それを見て新は思わず(つぶや)

 

「……っ?何だ、機械の体……っ?」

 

そう、ラスボスの皮膚が裂けた部分をよく見てみると―――中には血管のように配線が張り巡らされており、金属の部品が稼働していた

 

明らかに他のボスキャラとは違う異質な存在

 

しかし、驚愕の事実はそれだけに(とど)まらなかった……

 

ラスボスがボロボロになったローブを無造作に取っ払い、ローブの下に隠された正体が明らかとなる

 

新はラスボスの正体を見て絶句した

 

何故なら―――それは最近知ったばかりの者だったからだ

 

シルバーブロンドの髪にしなやかな肢体、1度でも見れば強烈に印象に残る特徴を持った者

 

新は目の前にいる者がとても信じられなかった……信じたくなかった……

 

「な、なんで……なんで、お前が……っ?」

 

「驚きでしょう、Monsieur(ムッシュ)。何故なら、あなたの知っている顔触れなのですから」

 

ニヤリと嫌な笑みを浮かべるキリヒコ

 

火花を散らしながらもズカズカと歩いてくるラスボス

 

その姿が未だに信じられない新は声を震わせながら言う

 

「嘘、だろ……?なんで、なんでお前が……こんな事を……?」

 

震える言葉を投げ掛けても一向に返事は来ない

 

ただ黙々(もくもく)と歩み寄ってくる……

 

「なあ、嘘だと言ってくれよ……っ?お前が、お前がこのクソゲーのラスボスなのか……っ?」

 

目の前の現実を受け入れられないのか、新は何度も問い掛ける

 

疑心、焦燥、あらゆる感情が目まぐるしく新の思考を掻き乱す

 

「お前は……キリヒコが送り込んだ刺客だったのか……っ?なあ……なあ……っ!」

 

どんどん冷静さを失っていく新

 

その声は……今の“彼女”には全く響かない

 

「何とか言ってくれよ……ッ!なんで、何も言わないんだよ……ッ⁉黙ってないで、何とか言えよッッ!―――ミカサァァッ!」

 

新は遂にその者の名を叫んだ……

 

彼が今、対峙しているラスボスとは……新人ハンターである筈の少女―――ミカサ・ヨルハニアだった

 

『……(テキ)排除(ハイジョ)再開(サイカイ)

 

ミカサは無機質に言葉を発し、即座に新との距離を詰めて―――二刀による剣戟をくらわせた

 

二振りの剣が新の全面を切り裂き、鮮血が噴き出す

 

まともにくらってしまった新は傷口を押さえ、膝をついて苦悶に満ちた呻き声を上げる

 

「キリ……ッ、ヒコォォォ……ッ。どういう事だ……⁉テメェっ、ミカサに……何をしやがったぁぁ……⁉」

 

Oh(オー) la() la()、心外ですね。私は何もしてませんよ?彼女はただプログラムに(したが)い、(みずか)らに課せられた命令を(まっと)うしているだけです。私はただ―――彼女を“造った”だけです」

 

「……つ、造った……っ?」

 

「―――機械人形(オートマタ)(あるじ)の命令を遵守する戦闘兵器。彼女はその試作品です」

 

ミカサの正体を明かしたキリヒコは更に続ける

 

「あなた方グレモリー眷属の事は調べさせていただきました。若手でありながら成長の激しいチーム。その要因は大半が強い想い……仲間に対する想いを(かて)にしている。“誰かを守りたい”と言った感情が潜在能力を奮い立たせ、爆発的な成長を遂げさせています。そこで私は“ある考え”に至ったのです。―――もし、思い入れた誰かが敵として現れれば、どのような感情を出すのか?そして、その者を敵として(ほうむ)れるのか?その為に私はあなたに目を付けました」

 

「なん、だと……っ⁉」

 

「あなたはグレモリー眷属の中でも裏の世界に精通しており、尚且つ彼らと出会った事で大きく変化した者です。仲間を重んじ、誰かを守る為に戦う。そして、その想いで異質な進化を遂げてきた。“仲間を持つ”と言う心境が芽生えたお陰で肉体的には強くなりました。……その反面、つけ入る隙が増えたのも事実。そこで―――彼女をデータ収集の為のスパイとして送り込む事にしたのです」

 

キリヒコが指を鳴らすと、ミカサは目から宙に映像を投影させ始める

 

そこに映されたのは―――『クロニクル』での戦闘光景、新や一誠達のこれまでの様子が一部始終記録されていた

 

「あなたは職業柄、あまり多くの仲間を持つ事が出来ず、信頼感を寄せられる相手も少なかった。しかし、グレモリー眷属と触れ合った事であなたは更なる強さを手に入れましたが―――同時に弱くもなった。その理由がお分かりですか?」

 

「俺が……弱くなった……⁉」

 

「理解できなければ教えて差し上げましょう。それは―――あなたに“信頼”と言う感情が生まれ、疑心を緩和させた事です。仲間がいると言う安心感が疑いを(おとろ)えさせてしまった。だから、新人のバウンティハンターと言う肩書きに騙され、彼女の正体を見破れなかった。―――私が裏で糸を引いている事も考えられた筈なのに」

 

キリヒコの言い分に新は反論する余地・気力が無かった

 

今にして思えば……ミカサが新のもとに派遣されてきたのは『クロニクル』が始まる同時期

 

その『クロニクル』の大元がキリヒコ

 

キリヒコのやり口を考えれば、少しでも疑いを持つのは当然……だが、新はそれを見誤った

 

リアス達と一緒に過ごす事で心の余裕・安らぎ・安心が生まれ、バウンティハンターとしての勘がどんどん鈍くなっていった……

 

肉体的には強くなったものの、逆に精神面での弱さに磨きが掛かってしまった……

 

それらを全て見越して、キリヒコはこのデスゲームを仕掛けてきたのだ

 

「結局、あなた方は私の(てのひら)で踊らされていたのですよ。何も打開できず、何も対処できない。弱くて、惨めで、哀れで、愚かな―――Ma puce(マピュース)

 

最大限に嫌味を込めた侮蔑(ぶべつ)と嘲笑を贈るキリヒコ

 

新は頭の中がグシャグシャになってしまいそうな程の怒りに震え、キリヒコに殺意の視線を向けた

 

「キ、サ、マァァァァァアアアアアア……ッッ!」

 

Oh(オー) la() la()、この状況は私のせいではありません。見破れなかったあなたの落ち度です。さあ、Mademoiselle(マドモアゼル)。彼に贈って差し上げなさい。―――苦悩と絶望感に満ちたRequiem(レクイエム)を」

 

『……命令(メイレイ)実行(ジッコウ)(テキ)排除(ハイジョ)シマス』

 

キリヒコの命令に(したが)い、ミカサは再び剣を振るう

 

一太刀を浴びせられた新はミカサの凶行を止めるべく体を動かそうとする

 

『クロニクル』を終わらせるには、彼女を止めるには―――倒すしかない

 

だが、それは新にとって最も嫌な過去を思い起こさせる選択だった……

 

『また、俺は仲間を殺すのか……っ?あの時と同じように……っ』

 

(かつ)て共に戦った仲間を殺し、その自責から他者と距離を置くようになり、次第に堕落していった……

 

“もう嫌だ……っ”

 

“自分の手を仲間の血で染めたくない……っ”

 

“あんな苦しみは、もう御免だ……っ”

 

そんな思いが頭の中を駆け巡っても、ミカサの無慈悲な凶刃(きょうじん)は止まらない

 

何度も斬られ、腹を突き刺される新を見て……キリヒコは嘲笑うように一言だけ(つぶや)いた

 

「―――Mon pauvre(モンプーヴァ)




絶望一直線しかない現状……、今回も嫌な展開MAXです。

あと2話ぐらいで『クロニクル』編を完結させて、次の章に行きたいと思います!
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