この回の終盤で
オェェェェ……ッ!
ゲボッ、ビシャァ……ッ!
深夜の路地裏、デスゲーム『クロニクル』が終わってからの新は荒れていた
学園にも顔を出さず、自宅にも帰らず、酒場を転々と渡り歩いて飲んだくれる……
アルコールの過剰摂取のせいで胃が対応しきれず、飲んだばかりの酒を吐き出す
吐瀉物をぶちまけた新はフラフラと夜を
目的も無く歩いていると、ガラの悪そうな3人組の男がわざとらしく肩をぶつけて絡んでくる
「おう、待てやコラ」
「人にぶつかっといて謝りもしねぇのか?」
「あー、いてぇ。こりゃ骨が折れちまったなぁ。治療費で100万出してもらおうか」
タチの悪い当たり屋のようだが、新はチンピラに視線を移すと……小さく呟いた
「―――失せろ」
「あ?」
「失せろ……殺すぞ……」
「はぁ~?このガキ、頭イッちゃってんの?」
「ギャハハハハ!」
今の新には何もかもが
下卑た笑い声も……態度も……
やり場の無い怒りが
新の手がゆっくりと拳を作り―――チンピラの1人を殴り飛ばした
油断してたチンピラ1号は一撃で失神、新は更に頭を踏みつける
骨が折れる音を皮切りに新は暴走
逆上したチンピラ2号を蹴り上げ、顎と歯を数本破壊する
その後も抑えられない怒りをぶつけるが如く、チンピラ2号の頭を掴んで壁に叩き付けた
チンピラ2号の鼻は潰れ、壁からずり落ちる……
「あ……あぁぁ……っ」
残されたチンピラ3号は完全に恐怖し、新が視線を移してくる
チンピラ3号が悲鳴を上げて土下座する
「ご、ごめんなさい!すいません……!すいませ―――っっ!」
そんな命乞いも新には届かず……無慈悲に頭を蹴り抜かれた
首を折られたチンピラ3号も地に沈み、新は無言で立ち去っていく
やってる事はただの八つ当たり
だが、今の新は制御する心を失っていた……
路地裏から出て再び
「おいおい、たかがチンピラ相手に何やってんだよ?」
そこにいたのは―――買い物帰りと思しき袋を抱え込んだ行きつけの酒場のマスター、イスルギ・タスクだった
新は知ってる顔に会ったせいか、「マスター……」と弱々しく呟く
「お前んとこの堕天使の嬢ちゃん達から話を聞いて様子を見に来てみれば、随分と荒れてやがるな」
「…………マスターには関係ないだろ……」
「まあ、とにかく話ぐらいさせろ」
マスター・イスルギにそう言われ、近くの公園まで渋々ついていく事に
ベンチに座り、
新の様子を見て、“こちら側から話すしか無い”と踏んだイスルギが口を開く
「聞いたぞ、推薦昇格を蹴ったんだってな」
イスルギの問いに新はピクッと反応を示す
「デスゲームってヤツを終わらせる為とはいえ、後輩ちゃんを殺しちまって、その罪悪感から昇格を捨てたって事もな」
「……………………っ」
「確かにツラいわな、普通のヤツなら耐えられんだろう。だがなぁ……いつまでウジウジしてるつもりだ?やっちまった事を
「……………………っ!……何が分かる……っ!アンタに……俺の苦しみが分かってたまるか……ッ!俺はこの手で……初めて出来た後輩を……殺しちまったんだ……ッ!」
頭を押さえて泣き
「んで、泣いてりゃ後輩ちゃんが生き返るとでも思ってんのか?酒を飲んでりゃ傷が
「……………………っ」
「良いか?お前の世界ではお前だけが傷付き、お前だけが被害者だ。けどな、現実は違う。傷付かずに生きてる奴なんて何処にもいねぇんだよ。そして、苦しんでいるのもお前だけじゃねぇ」
「………………っ」
「こうしてる間にも、お前んとこの悪魔の嬢ちゃん達も苦しんでいる筈だ。今のお前に掛けてやれる言葉が見つからない、見つけられない、どう励ましてやれば良いのか分からない。その事で悩み、苦しんでいるが……それでもお前の帰りを待ってるんだと思うぜ?」
新は何も言い返せなかった
確かに犯した
だが、だからと言って塞ぎ込んだところで解決の糸口など見つからない
そして、新が苦しんでいるのと同じように―――リアス達も苦しんでいるのだ
それを分かろうともせず、ただ
ましてや、誰にも打ち明けず独りで抱え込めば押し潰されるのは明白
「ゆっくりでも良い、まずは帰ってやれよ。お前を心配してくれている奴らのもとに。直ぐに治る傷なんざ、この世には存在しないんだ。仲間がいるなら、そいつらと一緒に治していけ」
イスルギが穏やかに
僅かに過ぎないが、
「…………マスター……ありがとう……」
「よしっ、少しは持ち直したか?なら、さっさと帰ってやんな」
「……そう、だよな。戻らねぇとな。リアスが、皆が待ってくれてるんだから」
リアス達の所に戻る決意をした新は涙を
犯した過ちに潰されている場合じゃない
自分だけで苦しんでいる場合じゃない
戻ったら、リアス達に謝ろう
そう思い、少しだけ足を早めていった
――――――――――――――――
『……はぁ、やっぱり精神面ではまだまだガキだな。まさか、あそこまで廃人寸前になるとは思わなかった。俺としても、ここでお前に壊れてもらったら困るんだよ。一応の助け舟ぐらいは出してやるが、こんな事で壊れるようなら―――この先の修羅場には耐えられんよ。新、お前が足を踏み入れようとしてるのは地獄以上の地獄だ。これからもエグい手段を行使させてもらう。まあ、
――――――――――――――――
「本当にスマなかった」
オカルト研究部の部室に戻ってきて早々、新は皆に向かって土下座をしていた
独断で行動していた事、1週間も塞ぎ込んでいた事、その他
「新、あなたが思い詰めてしまったのは私の……いえ、ここにいる全員に非があるわ。あなたが誰よりも苦しんで、悩んで、傷付いていたのに……私達は認識が甘かったわ……。だから、もう独りで抱え込むのだけはやめなさい」
リアスは新を優しく抱き締め、新もリアスを抱擁して「……ゴメン」と小さく
その後、皆にも一言ずつ詫びを入れていき、謝罪を終えたところでアザゼルが今後の話を進める
「さて、問題はこの後だ。今回の件を皮切りに
「とにかく、今は情報が欲しいわね。情報が足りないまま攻めるのは無謀極まりないもの」
アザゼルとリアスの言う事は
今まで戦ってきた敵とは強さも、情報の少なさも、戦力の規模も次元が違う
戦いに於いて情報は武器となり、手にした情報が多ければ多いほど対処の方法も広がる
これ以上、後手に回されるのは避けたいところだろう……
雨が降り始めたのだろう
リアスがカーテンを閉めようと窓の方に足を運ぶ―――刹那、リアスは動きを止めた
カーテンを握り締める手が徐々に強まり、見開いた目は“ある人物を見据えている
それは……今もっとも会いたくない諸悪の根源だった
雨 あめ 降れ ふれ 母さんが~♪
蛇の目で お迎え 嬉しいな~♪
雨の降る中、声が透き通るように歌う1人の男
不可解にも降り注ぐ雨は男の周囲から弾かれ、
新も窓越しにその男を見つけ、忌まわしき名を
「…………キリ、ヒコ……ッ」
新の視線に気付いたのか、キリヒコは不敵な笑みを浮かべる
キリヒコの登場にゼノヴィアは殺気を
「よせ!」と叫ぶアザゼルの制止を聞かず、一誠も続くように窓から飛び出す
ゼノヴィアはデュランダルを
「貴様ァッッ!よくも私達の前に顔を出せたものだなッ!今すぐその不愉快な
「
キリヒコは
チェーンソーのような刃でデュランダルの一撃を軽々と受け止め、弾き返す
渾身の初撃をあっさりと返されたゼノヴィアは憎むように睨み付け、残りの皆も合流する
グレモリー眷属全員が揃ったところで、キリヒコは軽く会釈する
「
「よく言うぜ。少なくとも、お前みたいな腐れ外道よりは礼儀を
アザゼルが憎々しげに返すが、キリヒコは嘲笑するだけだった
「沸き上がる感情を優先させて、自分を律する事も出来ないような
キリヒコの言い草に一誠は
ここは何とか
激情に駆られているのは皆も同じ
キリヒコは構わず続ける
「本日ここに足を運んだのは、私の発現した新しい力をお披露目する為です。とても
そう言ってキリヒコが右手の
「心
『
不気味で恐々とした音声と共に、キリヒコの背後から時計盤のような幻影が出現
その幻影が中央から2つに分かれ、キリヒコの周りに位置付く
宙に浮くカウントと時計盤の幻影はキリヒコの全身を呑み込み―――絶望の化身を誕生させた
以前に異形化した時の姿とは全く別物の様相
鮮やか且つ妖しく輝くメタリックグリーンの装甲、王冠を彷彿させるような頭部
刃のように突き出た両肩、腰にたなびくローブ
優雅な
キリヒコはアピールするように両手を広げ、得意気に語り始めた
「
皮肉と嫌味をタップリ混ぜたキリヒコの賛辞に、誰もが怒りを抑えられなかった
特に一誠とゼノヴィアは
「ふざけんなぁァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
「貴様だけはッッ!貴様だけは斬り殺すッッ!」
赤い鎧を纏う一誠、デュランダルを構えるゼノヴィア
両者はそれぞれ莫大なオーラを孕んで飛び出していった
対するキリヒコは焦る事無く構えて―――
『
――――――――――――――――
「
――――――――――――――――
突如、爆炎と火柱が盛大に噴き上がり、キリヒコに向かっていこうとした一誠とゼノヴィアが吹き飛ばされる
“いったい何が起きたんだ……?”
その場にいる誰もが呆気に取られ、一誠もゼノヴィアも何が起きたのか分からないまま体を起こそうとする
全身を焼かれ、痛みが身体中を駆け巡り、血と共に内容物を吐き出した
「……っ⁉な、何だ……っ、何が起きたんだ……っ⁉」
「いったい何をされたんだ、私達は……っ⁉」
『……ポーズだと……っ?まさか……っ!』
アザゼルは最悪の予想を頭に
キリヒコが使った能力、それは―――
「お前……まさか、時間を止めやがったのか……っ⁉」
アザゼルが発した一言に全員が驚愕、戦慄
不可解な現象の核心を突いたアザゼルに対し、キリヒコは含み笑いをする
「
「造った、だと……⁉神の力を造ったって言うのか⁉バカげてやがるっ!そんな事できる筈が―――」
「さすがに本物の神とは呼べませんが、“神に近い能力”なら現存しても不思議ではありません。たとえ、どんな形であろうと目の前で起きてる以上、それが真実なのです」
キリヒコは両手を広げ、こう宣言する
「これからはユナイト・キリヒコ
この瞬間、
キリヒコは再び時間を止めるべく、
「奴を止めろォォォォォォぉオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!」
アザゼルがそう叫び、後方からリアスの消滅魔力、朱乃の雷光、ロスヴァイセの魔術砲撃が一斉に飛び交う
一誠とゼノヴィアも痛む体に鞭を打ち、アーシアとレイヴェルを除く全員がキリヒコに攻撃を仕掛けようとしたが―――遅かった
『
その瞬間、“全ての
否、正確には“キリヒコ以外の刻”と言った方が正しい
一誠達だけじゃなく、降っている雨粒までもがキリヒコの力によって停止させられていた
停まった刻の中を悠々と往来するキリヒコ
右手の
『
『
銃口から放たれた光弾は幾つにも分かれ、消滅魔力の塊や
撃たれたリアス達は一瞬だけ動きを再開させるが、直ぐにまた停止する
まるで動画やゲーム等で一時停止を連続で
キリヒコは次のターゲットを一誠、小猫、ゼノヴィア、イリナに定め、
チェーンソーの刃を回転させ、先程と同じように禍々しいオーラを集める
『
『
オーラの刃が伸び上がり、振り抜いて一誠達を纏めて一閃
周りの地が
キリヒコの凶行はまだ終わらない……
斬りかかろうとしていた祐斗に近付き、まずは
その後は止まっているのを良い事にパンチを何発も浴びせ、最後に強烈な蹴りで一閃した
蹴られた祐斗は空中へ飛ばされ、再び停止
コウモリに変化していたギャスパーも
無論、時間は止まったままなので一瞬だけ動いて直ぐに停止
そして、新にも攻撃を仕掛けるかと思いきや……
「このまま一方的に蹴散らすのは物足りないですね。ここで
気紛れなのか余裕なのか、キリヒコは再び
『
その刹那、止まっていた光景が一気に動き出し―――あちこちで爆炎が噴き上がった
新は自分の周りで噴き上がる爆炎に目を奪われ、一挙にやられたリアス達の姿が視界に入る
キリヒコの時間停止能力に
アーシアとレイヴェルが皆の治癒を急ぐ中、新はユナイト・クロノス・キリヒコを憎々しげに見据える
対するキリヒコは、手をクイクイと動かして挑発してくる
新は火竜の力を解放した―――真『
半端な力では
新は火竜のオーラを爆発させて、キリヒコに拳打を見舞う
だが、キリヒコはそれを片手で受け止め―――空いた手で逆に拳打をくらわせた
新が拳打を放てば、それを受け止めて拳打を返し……蹴りを放てば、同じように受けて蹴りを返す
肉体と精神を同時に
「どうしました?あなた方の感情は、この程度で
両腕を広げ、挑発の意を込めて歩み寄るキリヒコ
憤慨した新は雷炎モードを発現し、雷も
しかし、その攻撃もキリヒコは両手で防ぎ―――新の腹部に強烈な蹴りを入れ、左右の拳打を入れて
その後、キリヒコは全身から
『
『
必殺を唱える音声が不気味に鳴り、キリヒコの足元を中心に時計盤の幻影が出現
キリヒコは幻影時計盤の長針の動きに合わせて、新に回し蹴りを撃ち込んだ
「…………ッ!…………ッ!」
蹴り抜かれ、新の全身に形容し
時計盤の幻影が消え、キリヒコが「
極大の衝撃と爆炎によって新は身体中から血を噴き出し―――そのまま地面に倒れ伏した
凶悪な時間停止能力と圧倒的な強さに誰もが戦慄、アザゼルも畏怖せざるを得なかった
キリヒコは瀕死状態の新を持ち上げ、治療を受けているリアス達の前に放り投げる
「ご心配無く、加減しておいたので命に別状はありません。
「……どういう意味だ?」
アザゼルが訊くと、キリヒコは含み笑いをして答える
「もっともっと、あなた方の反応を見たいからですよ。私達を絶対に許さないと豪語し、本質や価値を見出だせない、くだらない信念と正義感を掲げるあなた方が―――圧倒的な力と脅威の前に崩れ、泣き叫び、壊れていく滑稽な姿を見たいんですよ……っ。私が飽きるまで……っ」
恐怖と狂気を
キリヒコは足元に転移用の魔法陣を開き、そこから放たれる光に包まれていく
「まだまだ壊れないでくださいよ?これから
そう言うとキリヒコは完全に転移の光に覆われ、その場から消えていった……
彼はほんの挨拶程度で来たのだろう
しかし、アザゼルやリアス達にとっては現状の悪さ、
こんな事はまだ序章に過ぎず、これからが本番だった
アザゼルは苦虫を噛み潰したような顔で
キリヒコの恐ろしさにリアス達もすっかり意気消沈してしまう……
しかし、彼らは
――――――――――――――――――
新達を
それは―――彼の前に複数並び立つ黒い
何かを流し込むような作業を終えた直後、繭が静かに
動く様子はまるで心臓のようだった……
「フム……まだまだ掛かりそうですが、
“彼ら”と呼ばれる繭から別の方に視線を移すと、そこには同じ形状の黒い繭が2つ並んでいた
ただし、その2つは先程の物と違って内部が少し透けており―――中にいる“何か”が鋭い眼孔を放っていた
「
――――――――――――――――
「おい、シルバー。“アイツ”は見つかったのか?あれからだいぶ時間が経つのだが」
「ディザスター指揮官、抜かりはありません。幾つもの情報網を駆使して、ようやく見つけてきました」
「そうか。だが、見つけたからと言って気を抜くな。……奴の方向音痴は気紛れに起こる自然災害と同じ、
「
「キリヒコがどうかしたのか?」
「ええ。……やはり、あの男は危険な匂いを孕んでいます。何を
「そんな事は最初から分かりきっている」
「は……?」
「この
「確かにそうですが……“あの
「そうでなければ、今ここに俺達がいるわけ無いだろう。野心だろうが、裏切りだろうが、正義だろうが、自分に向かってくるならば正面から叩き潰す―――“アイツ”はそう言う男だ」
「……実に恐ろしい方ですね。いずれ裏切ろうとしている者さえも受け入れるとは」
「どちらにしろ言える事が1つだけある。奴を敵に回すなら……生半可な覚悟など捨てるべきだ。中途半端な強さは、奴の前だと
――――――――――――――――
何処か分からない広大な密林地帯
そこに1人の男がいた
何処かで見た事あるような“某独眼竜”の風体をした眼帯の男
彼は今、周りを巨大な猛獣どもに囲まれていた……
獅子や虎、熊、ワニ、ゴリラ、象などの姿に酷似した自然発生型の
その数は100頭を軽く超えていた
男は周りを見渡し、肩を
「最近はケモノ
唸り声を上げて威嚇してくる猛獣の群れに対し、眼帯の男は自嘲するように笑う
そして…………
「―――――――ッ!」
「「「「「……ッッ⁉」」」」」
ドサッ……ドサッ……ドサッ……
なんと、周りにいた魔獣どもが次々と倒れ―――そのまま息絶えていく
眼帯の男は手を触れずに100頭もの魔獣を殺したのだ……っ
男は魔獣の群れを
「チッ、こんなんじゃ腹の足しにもならねぇ、所詮はケモノ風情か。やっぱ
男は口の端を吊り上げ、密林地帯の中を歩いていく
「あれから5年か……。少しは強くなってんだろうなぁ―――
これにてクロニクル編は無事(⁉)終了を迎えました!
しかし、新達を待ち受けるのは更に凶悪な敵の数々……どれだけ
次章のタイトルは“魔剣聖のヴァンキッシュとゾーマ”ですッ!