ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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遂に書けました、クロニクル編ラストです!

この回の終盤で造魔(ゾーマ)のボスがチラッと登場します!


ユナイト・クロノス・キリヒコ

オェェェェ……ッ!

 

ゲボッ、ビシャァ……ッ!

 

深夜の路地裏、デスゲーム『クロニクル』が終わってからの新は荒れていた

 

学園にも顔を出さず、自宅にも帰らず、酒場を転々と渡り歩いて飲んだくれる……

 

アルコールの過剰摂取のせいで胃が対応しきれず、飲んだばかりの酒を吐き出す

 

吐瀉物をぶちまけた新はフラフラと夜を彷徨(さまよ)い、まるで生ける(しかばね)のようになっていた……

 

目的も無く歩いていると、ガラの悪そうな3人組の男がわざとらしく肩をぶつけて絡んでくる

 

「おう、待てやコラ」

 

「人にぶつかっといて謝りもしねぇのか?」

 

「あー、いてぇ。こりゃ骨が折れちまったなぁ。治療費で100万出してもらおうか」

 

タチの悪い当たり屋のようだが、新はチンピラに視線を移すと……小さく呟いた

 

「―――失せろ」

 

「あ?」

 

「失せろ……殺すぞ……」

 

「はぁ~?このガキ、頭イッちゃってんの?」

 

「ギャハハハハ!」

 

(かん)(さわ)る……

 

今の新には何もかもが(かん)(さわ)った……

 

下卑た笑い声も……態度も……

 

やり場の無い怒りが沸々(ふつふつ)と煮え(たぎ)る……

 

新の手がゆっくりと拳を作り―――チンピラの1人を殴り飛ばした

 

油断してたチンピラ1号は一撃で失神、新は更に頭を踏みつける

 

骨が折れる音を皮切りに新は暴走

 

逆上したチンピラ2号を蹴り上げ、顎と歯を数本破壊する

 

その後も抑えられない怒りをぶつけるが如く、チンピラ2号の頭を掴んで壁に叩き付けた

 

チンピラ2号の鼻は潰れ、壁からずり落ちる……

 

「あ……あぁぁ……っ」

 

残されたチンピラ3号は完全に恐怖し、新が視線を移してくる

 

チンピラ3号が悲鳴を上げて土下座する

 

「ご、ごめんなさい!すいません……!すいませ―――っっ!」

 

そんな命乞いも新には届かず……無慈悲に頭を蹴り抜かれた

 

首を折られたチンピラ3号も地に沈み、新は無言で立ち去っていく

 

やってる事はただの八つ当たり

 

だが、今の新は制御する心を失っていた……

 

路地裏から出て再び彷徨(さまよ)い歩こうとする新に、1人の人物が呼び掛ける

 

「おいおい、たかがチンピラ相手に何やってんだよ?」

 

そこにいたのは―――買い物帰りと思しき袋を抱え込んだ行きつけの酒場のマスター、イスルギ・タスクだった

 

新は知ってる顔に会ったせいか、「マスター……」と弱々しく呟く

 

「お前んとこの堕天使の嬢ちゃん達から話を聞いて様子を見に来てみれば、随分と荒れてやがるな」

 

「…………マスターには関係ないだろ……」

 

「まあ、とにかく話ぐらいさせろ」

 

マスター・イスルギにそう言われ、近くの公園まで渋々ついていく事に

 

ベンチに座り、(うつむ)いた何も話さない新

 

新の様子を見て、“こちら側から話すしか無い”と踏んだイスルギが口を開く

 

「聞いたぞ、推薦昇格を蹴ったんだってな」

 

イスルギの問いに新はピクッと反応を示す

 

「デスゲームってヤツを終わらせる為とはいえ、後輩ちゃんを殺しちまって、その罪悪感から昇格を捨てたって事もな」

 

「……………………っ」

 

「確かにツラいわな、普通のヤツなら耐えられんだろう。だがなぁ……いつまでウジウジしてるつもりだ?やっちまった事を女々(めめ)しく嘆いて、(わめ)き散らして、酒を飲んで暴れ回って―――それで何か変わるのかよ?」

 

「……………………っ!……何が分かる……っ!アンタに……俺の苦しみが分かってたまるか……ッ!俺はこの手で……初めて出来た後輩を……殺しちまったんだ……ッ!」

 

頭を押さえて泣き(わめ)く新だったが、イスルギはキツく(さと)そうとする

 

「んで、泣いてりゃ後輩ちゃんが生き返るとでも思ってんのか?酒を飲んでりゃ傷が()えると思ってんのか?八つ当たりしてれば優しく声を掛けてくれるとでも思ってんのか?……今のお前はただの反抗期のガキだ。自分だけが傷付き、自分だけが苦しんでいると思ってやがる」

 

「……………………っ」

 

「良いか?お前の世界ではお前だけが傷付き、お前だけが被害者だ。けどな、現実は違う。傷付かずに生きてる奴なんて何処にもいねぇんだよ。そして、苦しんでいるのもお前だけじゃねぇ」

 

「………………っ」

 

「こうしてる間にも、お前んとこの悪魔の嬢ちゃん達も苦しんでいる筈だ。今のお前に掛けてやれる言葉が見つからない、見つけられない、どう励ましてやれば良いのか分からない。その事で悩み、苦しんでいるが……それでもお前の帰りを待ってるんだと思うぜ?」

 

新は何も言い返せなかった

 

確かに犯した(あやま)ちは、どうやっても消せない……変えられない……

 

だが、だからと言って塞ぎ込んだところで解決の糸口など見つからない

 

そして、新が苦しんでいるのと同じように―――リアス達も苦しんでいるのだ

 

それを分かろうともせず、ただ彷徨(さまよ)い、酒に溺れて暴れるのは愚行の極み

 

ましてや、誰にも打ち明けず独りで抱え込めば押し潰されるのは明白

 

「ゆっくりでも良い、まずは帰ってやれよ。お前を心配してくれている奴らのもとに。直ぐに治る傷なんざ、この世には存在しないんだ。仲間がいるなら、そいつらと一緒に治していけ」

 

イスルギが穏やかに(さと)すと、ようやく新は重い腰を上げ始めた

 

僅かに過ぎないが、(むしば)まれていた傷が()え―――まずはリアス達の所に戻る決意をする

 

「…………マスター……ありがとう……」

 

「よしっ、少しは持ち直したか?なら、さっさと帰ってやんな」

 

「……そう、だよな。戻らねぇとな。リアスが、皆が待ってくれてるんだから」

 

リアス達の所に戻る決意をした新は涙を(ぬぐ)い、イスルギに礼を言ってから公園を去っていく

 

犯した過ちに潰されている場合じゃない

 

自分だけで苦しんでいる場合じゃない

 

戻ったら、リアス達に謝ろう

 

そう思い、少しだけ足を早めていった

 

 

――――――――――――――――

 

 

『……はぁ、やっぱり精神面ではまだまだガキだな。まさか、あそこまで廃人寸前になるとは思わなかった。俺としても、ここでお前に壊れてもらったら困るんだよ。一応の助け舟ぐらいは出してやるが、こんな事で壊れるようなら―――この先の修羅場には耐えられんよ。新、お前が足を踏み入れようとしてるのは地獄以上の地獄だ。これからもエグい手段を行使させてもらう。まあ、精々(せいぜい)踏ん張ってくれや』

 

 

――――――――――――――――

 

 

「本当にスマなかった」

 

オカルト研究部の部室に戻ってきて早々、新は皆に向かって土下座をしていた

 

独断で行動していた事、1週間も塞ぎ込んでいた事、その他諸々(もろもろ)の謝罪も踏まえて誠心誠意を込めた土下座

 

(こうべ)を深々と下げる新に、リアスは頭を上げるように言う

 

「新、あなたが思い詰めてしまったのは私の……いえ、ここにいる全員に非があるわ。あなたが誰よりも苦しんで、悩んで、傷付いていたのに……私達は認識が甘かったわ……。だから、もう独りで抱え込むのだけはやめなさい」

 

リアスは新を優しく抱き締め、新もリアスを抱擁して「……ゴメン」と小さく(つぶや)

 

その後、皆にも一言ずつ詫びを入れていき、謝罪を終えたところでアザゼルが今後の話を進める

 

「さて、問題はこの後だ。今回の件を皮切りに造魔(ゾーマ)の動きが激化していくだろう。今後は各勢力にも勧告して、少しでも多く情報を入手する他あるまい。幽神(ゆうがみ)兄弟にも独自に動いてもらう必要があるな」

 

「とにかく、今は情報が欲しいわね。情報が足りないまま攻めるのは無謀極まりないもの」

 

アザゼルとリアスの言う事は(もっと)もだった

 

今まで戦ってきた敵とは強さも、情報の少なさも、戦力の規模も次元が違う

 

戦いに於いて情報は武器となり、手にした情報が多ければ多いほど対処の方法も広がる

 

これ以上、後手に回されるのは避けたいところだろう……

 

(しばら)くすると、窓の外から雨音が聞こえてくる

 

雨が降り始めたのだろう

 

リアスがカーテンを閉めようと窓の方に足を運ぶ―――刹那、リアスは動きを止めた

 

カーテンを握り締める手が徐々に強まり、見開いた目は“ある人物を見据えている

 

それは……今もっとも会いたくない諸悪の根源だった

 

 

雨 あめ 降れ ふれ 母さんが~♪

 

蛇の目で お迎え 嬉しいな~♪

 

 

雨の降る中、声が透き通るように歌う1人の男

 

不可解にも降り注ぐ雨は男の周囲から弾かれ、()れていく

 

新も窓越しにその男を見つけ、忌まわしき名を(つぶや)く……

 

「…………キリ、ヒコ……ッ」

 

新の視線に気付いたのか、キリヒコは不敵な笑みを浮かべる

 

キリヒコの登場にゼノヴィアは殺気を(ほとばし)らせ、いの一番に窓から飛び出していった

 

「よせ!」と叫ぶアザゼルの制止を聞かず、一誠も続くように窓から飛び出す

 

ゼノヴィアはデュランダルを(たずさ)え、怨敵(おんてき)のキリヒコに斬りかかっていく

 

「貴様ァッッ!よくも私達の前に顔を出せたものだなッ!今すぐその不愉快な(ツラ)を斬ってやるッッ!」

 

Oh(オー) la() la()、せっかちなMademoiselle(マドモアゼル)ですね」

 

キリヒコは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)と言った様子で右手に一新(いっしん)された装置(デバイス)を展開

 

チェーンソーのような刃でデュランダルの一撃を軽々と受け止め、弾き返す

 

渾身の初撃をあっさりと返されたゼノヴィアは憎むように睨み付け、残りの皆も合流する

 

グレモリー眷属全員が揃ったところで、キリヒコは軽く会釈する

 

Bonjur(ボンジュール)、皆さん。手荒い歓迎のご挨拶、痛み入ります。しかし、悪魔の皆さんは少々モラルが欠落しがちなんですね。ヒトにいきなり剣を振るってくるのは、(いささ)か礼儀がよろしくないと見えますが?」

 

「よく言うぜ。少なくとも、お前みたいな腐れ外道よりは礼儀を(わきま)えてるつもりだ」

 

アザゼルが憎々しげに返すが、キリヒコは嘲笑するだけだった

 

「沸き上がる感情を優先させて、自分を律する事も出来ないような方々(かたがた)(わきま)えると言った器量があるのでしょうか?」

 

キリヒコの言い草に一誠は(たま)らず殴りかかりそうになるが、それではゼノヴィアの二の舞になりかねない

 

ここは何とか(こら)えるしかなかった……

 

激情に駆られているのは皆も同じ

 

キリヒコは構わず続ける

 

「本日ここに足を運んだのは、私の発現した新しい力をお披露目する為です。とてもTrés bien(トレビアン)に仕上がりましたので、皆さんに是非とも味わっていただきたいのですよ」

 

そう言ってキリヒコが右手の装置(デバイス)を掲げ、円を描くように一周させる

 

「心()くまでご堪能ください。バージョンアップした―――時戒器(ツヴァイト・ギア)を。そして、私の新しい力を―――Bonne chance(ボヌシャンス)

 

Unite(ユナイト) Chronus(クロノス) Chronicle(クロニクル) Breaker(ブレイカー)……!!!!』

 

不気味で恐々とした音声と共に、キリヒコの背後から時計盤のような幻影が出現

 

その幻影が中央から2つに分かれ、キリヒコの周りに位置付く

 

(ワン)(ツー)(スリー)(フォー)(ファイブ)(シックス)(セブン)(エイト)(ナイン)(テン)ⅩⅠ(イレブン)ⅩⅡ(トゥエルブ)……カウントが浮かび上がる

 

宙に浮くカウントと時計盤の幻影はキリヒコの全身を呑み込み―――絶望の化身を誕生させた

 

以前に異形化した時の姿とは全く別物の様相

 

鮮やか且つ妖しく輝くメタリックグリーンの装甲、王冠を彷彿させるような頭部

 

刃のように突き出た両肩、腰にたなびくローブ

 

優雅な(たたず)まいと出で立ちが、キリヒコの底知れない脅威をより強調させる……

 

怖気(おぞけ)を引き立てる微風(そよかぜ)も吹き、その場にいる全員が息を呑む

 

キリヒコはアピールするように両手を広げ、得意気に語り始めた

 

如何(いかが)ですか?『クロニクル』によって死亡(ゲームオーバー)となった人間達のデータを吸収し、改良を加えた私の新しい力です。あなた方のおかげで非常に有意義なデータ回収が出来ました。本当に、本当に感謝しています。期待以上に踊ってくださったのですから……Merci(メルシィ)

 

皮肉と嫌味をタップリ混ぜたキリヒコの賛辞に、誰もが怒りを抑えられなかった

 

特に一誠とゼノヴィアは怨敵(おんてき)を睨むように見据え―――()えた

 

「ふざけんなぁァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」

 

「貴様だけはッッ!貴様だけは斬り殺すッッ!」

 

赤い鎧を纏う一誠、デュランダルを構えるゼノヴィア

 

両者はそれぞれ莫大なオーラを孕んで飛び出していった

 

対するキリヒコは焦る事無く構えて―――

 

Pause(ポーズ)……‼』

 

 

――――――――――――――――

 

 

Shh(シーッ)、審判の(とき)は厳粛かつ静粛でなければなりません。―――S'il vous plâit(シルブプレ)

 

 

――――――――――――――――

 

 

突如、爆炎と火柱が盛大に噴き上がり、キリヒコに向かっていこうとした一誠とゼノヴィアが吹き飛ばされる

 

“いったい何が起きたんだ……?”

 

その場にいる誰もが呆気に取られ、一誠もゼノヴィアも何が起きたのか分からないまま体を起こそうとする

 

全身を焼かれ、痛みが身体中を駆け巡り、血と共に内容物を吐き出した

 

「……っ⁉な、何だ……っ、何が起きたんだ……っ⁉」

 

「いったい何をされたんだ、私達は……っ⁉」

 

『……ポーズだと……っ?まさか……っ!』

 

アザゼルは最悪の予想を頭に(よぎ)らせてしまった

 

キリヒコが使った能力、それは―――

 

「お前……まさか、時間を止めやがったのか……っ⁉」

 

アザゼルが発した一言に全員が驚愕、戦慄

 

不可解な現象の核心を突いたアザゼルに対し、キリヒコは含み笑いをする

 

Oui(ウィ) Oui(ウィ) Oui(ウィ)、これまで得た膨大なデータを基に、あなた方を完封する(すべ)を造り上げました。ギリシャ神話にて時を操る神―――クロノスに(ちな)んだ能力です」

 

「造った、だと……⁉神の力を造ったって言うのか⁉バカげてやがるっ!そんな事できる筈が―――」

 

「さすがに本物の神とは呼べませんが、“神に近い能力”なら現存しても不思議ではありません。たとえ、どんな形であろうと目の前で起きてる以上、それが真実なのです」

 

キリヒコは両手を広げ、こう宣言する

 

「これからはユナイト・キリヒコ(あらた)め―――ユナイト・クロノス・キリヒコと名乗りましょう」

 

この瞬間、時間を操る最悪の化け物(ユナイト・クロノス・キリヒコ)が誕生してしまった……っ

 

キリヒコは再び時間を止めるべく、時戒器(ツヴァイト・ギア)を輝かせる

 

「奴を止めろォォォォォォぉオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!」

 

アザゼルがそう叫び、後方からリアスの消滅魔力、朱乃の雷光、ロスヴァイセの魔術砲撃が一斉に飛び交う

 

一誠とゼノヴィアも痛む体に鞭を打ち、アーシアとレイヴェルを除く全員がキリヒコに攻撃を仕掛けようとしたが―――遅かった

 

Pause(ポーズ)……‼』

 

その瞬間、“全ての(とき)”が止まった

 

否、正確には“キリヒコ以外の刻”と言った方が正しい

 

一誠達だけじゃなく、降っている雨粒までもがキリヒコの力によって停止させられていた

 

停まった刻の中を悠々と往来するキリヒコ

 

右手の時戒器(ツヴァイト・ギア)の銃口をリアス、朱乃、ロスヴァイセに向け―――禍々しいオーラを集束させる

 

Finish(フィニッシュ) Burst(バースト)……!!!!』

 

The() End(エンド) Of(オブ) Judgement(ジャッジメント)……!!!!』

 

銃口から放たれた光弾は幾つにも分かれ、消滅魔力の塊や雷光(らいこう)、魔術砲撃を蹴散らして彼女達に被弾

 

撃たれたリアス達は一瞬だけ動きを再開させるが、直ぐにまた停止する

 

まるで動画やゲーム等で一時停止を連続で(おこな)うかのように……

 

キリヒコは次のターゲットを一誠、小猫、ゼノヴィア、イリナに定め、時戒器(ツヴァイト・ギア)の向きを反転させる

 

チェーンソーの刃を回転させ、先程と同じように禍々しいオーラを集める

 

Finish(フィニッシュ) Burst(バースト)……!!!!』

 

The() End(エンド) Of(オブ) Sacrifice(サクリファイス)……!!!!』

 

オーラの刃が伸び上がり、振り抜いて一誠達を纏めて一閃

 

周りの地が()ぜ、一誠達が爆炎に包まれたまま停止する

 

キリヒコの凶行はまだ終わらない……

 

斬りかかろうとしていた祐斗に近付き、まずは聖魔剣(せいまけん)をへし折る

 

その後は止まっているのを良い事にパンチを何発も浴びせ、最後に強烈な蹴りで一閃した

 

蹴られた祐斗は空中へ飛ばされ、再び停止

 

コウモリに変化していたギャスパーも時戒器(ツヴァイト・ギア)の銃撃で残らず撃ち落とす

 

無論、時間は止まったままなので一瞬だけ動いて直ぐに停止

 

そして、新にも攻撃を仕掛けるかと思いきや……

 

「このまま一方的に蹴散らすのは物足りないですね。ここで()いてあげましょうか」

 

気紛れなのか余裕なのか、キリヒコは再び時戒器(ツヴァイト・ギア)を輝かせ―――時間停止を解除する

 

Restart(リスタート)……‼』

 

その刹那、止まっていた光景が一気に動き出し―――あちこちで爆炎が噴き上がった

 

新は自分の周りで噴き上がる爆炎に目を奪われ、一挙にやられたリアス達の姿が視界に入る

 

キリヒコの時間停止能力に戦々恐々(せんせんきょうきょう)とする……

 

アーシアとレイヴェルが皆の治癒を急ぐ中、新はユナイト・クロノス・キリヒコを憎々しげに見据える

 

対するキリヒコは、手をクイクイと動かして挑発してくる

 

新は火竜の力を解放した―――真『女王(クイーン)』形態へと変貌

 

半端な力では一矢(いっし)(むく)いる事すら叶わないだろう……

 

新は火竜のオーラを爆発させて、キリヒコに拳打を見舞う

 

だが、キリヒコはそれを片手で受け止め―――空いた手で逆に拳打をくらわせた

 

新が拳打を放てば、それを受け止めて拳打を返し……蹴りを放てば、同じように受けて蹴りを返す

 

肉体と精神を同時に(もてあそ)ぶような戦法に、新は反撃する気力すら削ぎ落とされてしまう……

 

「どうしました?あなた方の感情は、この程度で()えてしまうのですか?」

 

両腕を広げ、挑発の意を込めて歩み寄るキリヒコ

 

憤慨した新は雷炎モードを発現し、雷も(ほとばし)らせる火竜を右腕に纏わせて渾身の一撃を放つ

 

しかし、その攻撃もキリヒコは両手で防ぎ―――新の腹部に強烈な蹴りを入れ、左右の拳打を入れて(ひざまず)かせる

 

その後、キリヒコは全身から禍々(まがまが)しいオーラを噴かせ―――

 

Finish(フィニッシュ) Burst(バースト)……!!!!』

 

The() End(エンド) Of(オブ) Crews-aid(クルセイド)……!!!!』

 

必殺を唱える音声が不気味に鳴り、キリヒコの足元を中心に時計盤の幻影が出現

 

キリヒコは幻影時計盤の長針の動きに合わせて、新に回し蹴りを撃ち込んだ

 

「…………ッ!…………ッ!」

 

蹴り抜かれ、新の全身に形容し(がた)い苦痛が襲い掛かってくる

 

時計盤の幻影が消え、キリヒコが「Adieu(アデュー)」と(つぶや)いた直後―――新の足下から爆炎が噴き上がり、火柱に包まれる

 

極大の衝撃と爆炎によって新は身体中から血を噴き出し―――そのまま地面に倒れ伏した

 

凶悪な時間停止能力と圧倒的な強さに誰もが戦慄、アザゼルも畏怖せざるを得なかった

 

キリヒコは瀕死状態の新を持ち上げ、治療を受けているリアス達の前に放り投げる

 

「ご心配無く、加減しておいたので命に別状はありません。(むし)ろ……今ここで死なれたりしたら興醒めになってしまいますからね」

 

「……どういう意味だ?」

 

アザゼルが訊くと、キリヒコは含み笑いをして答える

 

「もっともっと、あなた方の反応を見たいからですよ。私達を絶対に許さないと豪語し、本質や価値を見出だせない、くだらない信念と正義感を掲げるあなた方が―――圧倒的な力と脅威の前に崩れ、泣き叫び、壊れていく滑稽な姿を見たいんですよ……っ。私が飽きるまで……っ」

 

恐怖と狂気を(はら)ませたキリヒコの物言いに、全員の背筋が気持ち悪い汗で濡れる

 

キリヒコは足元に転移用の魔法陣を開き、そこから放たれる光に包まれていく

 

「まだまだ壊れないでくださいよ?これから造魔(ゾーマ)の方々も顔を合わせる事になるのですから。その時までに少しでも力を付けていてください。―――では、Salut(サリュー)

 

そう言うとキリヒコは完全に転移の光に覆われ、その場から消えていった……

 

彼はほんの挨拶程度で来たのだろう

 

しかし、アザゼルやリアス達にとっては現状の悪さ、造魔(ゾーマ)の底知れない強さの一端を見せつけられたようなものだ……

 

こんな事はまだ序章に過ぎず、これからが本番だった

 

アザゼルは苦虫を噛み潰したような顔で(うつむ)き、何も出来なかった悔しさを呪った

 

キリヒコの恐ろしさにリアス達もすっかり意気消沈してしまう……

 

しかし、彼らは造魔(ゾーマ)と言う組織の本当の恐ろしさを、造魔(ゾーマ)に立ち向かう事の愚かさを後々(のちのち)思い知らされる……

 

 

――――――――――――――――――

 

 

造魔(ゾーマ)の主な拠点とされる飛行艦隊の一室

 

新達を容易(たやす)く圧倒したキリヒコは時戒器(ツヴァイト・ギア)から伸びる(くだ)を“ある物”に突き刺した

 

それは―――彼の前に複数並び立つ黒い(まゆ)

 

何かを流し込むような作業を終えた直後、繭が静かに躍動(やくどう)する

 

動く様子はまるで心臓のようだった……

 

「フム……まだまだ掛かりそうですが、上々(じょうじょう)のようですね。気長に待つとしますか。―――“彼ら”よりも、こちらの方が先に目覚めそうみたいですし」

 

“彼ら”と呼ばれる繭から別の方に視線を移すと、そこには同じ形状の黒い繭が2つ並んでいた

 

ただし、その2つは先程の物と違って内部が少し透けており―――中にいる“何か”が鋭い眼孔を放っていた

 

魔獣騒動(まじゅうそうどう)時のデータと今回のデータ、三大勢力の皆さんが手こずってくれたお陰で有意義な収穫となりましたよ。後は……まあ、面白おかしく相手をしてあげましょうか。―――深淵(しんえん)(とき)に至るまで……」

 

 

――――――――――――――――

 

 

「おい、シルバー。“アイツ”は見つかったのか?あれからだいぶ時間が経つのだが」

 

「ディザスター指揮官、抜かりはありません。幾つもの情報網を駆使して、ようやく見つけてきました」

 

「そうか。だが、見つけたからと言って気を抜くな。……奴の方向音痴は気紛れに起こる自然災害と同じ、何人(なんぴと)にも予測する事など出来んからな。見失えば、また面倒になる」

 

重々(じゅうじゅう)承知しています。そちらも重大なんですが……キリヒコの件について、ちょっと……」

 

「キリヒコがどうかしたのか?」

 

「ええ。……やはり、あの男は危険な匂いを孕んでいます。何を(たくら)んでいるのか分からない上に、あのような力まで会得しました。もしかしたら……我々に反旗を(ひるがえ)す腹積もりなのでは?」

 

「そんな事は最初から分かりきっている」

 

「は……?」

 

「この造魔(ゾーマ)自体、野心の塊が(つど)った組織に過ぎん。己の力を高める為、(いや)しい欲を叶える為、大金を稼ぐ為、そんな奴らが自由に行動するのに都合が良いだけだ。何処で何をしようが(とが)められん、造魔(ゾーマ)とはそう言う組織だ」

 

「確かにそうですが……“あの御方(おかた)”は、そんな身勝手を了承しているのですか?」

 

「そうでなければ、今ここに俺達がいるわけ無いだろう。野心だろうが、裏切りだろうが、正義だろうが、自分に向かってくるならば正面から叩き潰す―――“アイツ”はそう言う男だ」

 

「……実に恐ろしい方ですね。いずれ裏切ろうとしている者さえも受け入れるとは」

 

「どちらにしろ言える事が1つだけある。奴を敵に回すなら……生半可な覚悟など捨てるべきだ。中途半端な強さは、奴の前だと灰塵(かいじん)()する。たとえ神仏(しんぶつ)悪鬼羅刹(あっきらせつ)が相手でもな……」

 

 

――――――――――――――――

 

 

何処か分からない広大な密林地帯

 

そこに1人の男がいた

 

何処かで見た事あるような“某独眼竜”の風体をした眼帯の男

 

彼は今、周りを巨大な猛獣どもに囲まれていた……

 

獅子や虎、熊、ワニ、ゴリラ、象などの姿に酷似した自然発生型の魔獣(まじゅう)

 

その数は100頭を軽く超えていた

 

男は周りを見渡し、肩を(すく)めて言う

 

「最近はケモノ風情(ふぜい)(たか)ってきやがるな。生憎(あいにく)、今は腹が減ってねぇんだよ。さっきドラゴンみてぇな奴を喰って満腹なんだ。余計な動きをすれば、また腹が減る。……つっても、ケモノ相手に説得は無理か」

 

唸り声を上げて威嚇してくる猛獣の群れに対し、眼帯の男は自嘲するように笑う

 

そして…………

 

「―――――――ッ!」

 

「「「「「……ッッ⁉」」」」」

 

ドサッ……ドサッ……ドサッ……

 

なんと、周りにいた魔獣どもが次々と倒れ―――そのまま息絶えていく

 

眼帯の男は手を触れずに100頭もの魔獣を殺したのだ……っ

 

男は魔獣の群れを一瞥(いちべつ)する

 

「チッ、こんなんじゃ腹の足しにもならねぇ、所詮はケモノ風情か。やっぱ()るなら手応えのある相手(ヤツ)じゃねぇとな。……久し振りに日本へ帰ってみるか。面白い噂も出回ってるみてぇだ」

 

男は口の端を吊り上げ、密林地帯の中を歩いていく

 

「あれから5年か……。少しは強くなってんだろうなぁ―――(りゅう)()ィ」




これにてクロニクル編は無事(⁉)終了を迎えました!

しかし、新達を待ち受けるのは更に凶悪な敵の数々……どれだけ(いじ)めれば気が済むんだ……っ

次章のタイトルは“魔剣聖のヴァンキッシュとゾーマ”ですッ!

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