「…………」
「ハグハグっ、んっ? 新、どうしたんだい? 早く食べないと焦げてしまうよ?」
その日の夜、総司と新はとある焼肉店を
テーブルの真ん中の網で焼かれるタン塩、カルビ、ロース、ハラミが美味そうな匂いを
しかし、新は一向に箸を伸ばさず、不機嫌そうな顔で頬杖をついているだけだった
その間にも総司は焼けた肉を次々と
長い溜め息を吐いた新は次第に不満を漏らしていく
「……なんで食べ放題の店なんだよ。焼肉ならもっと良い店があるんじゃねぇのか?
「おいおい、ここだって結構イケるんだぞ? メニューは豊富だし、ビールも美味いし。せっかくの焼肉なんだから、食べないと勿体ないよ」
「親父、今の俺らの状況を分かってるのか?
「なんで惨めになるんだい? 良いから今は食べなって。すいませーん! ホルモン追加でー!」
女性店員に追加注文をする総司
バクバクとがっつく総司とは対照的に、新は沈んだ表情でユッケを摘まむ
「はぁ……っ。
延々と愚痴を
“次に
“飼い犬のままで俺に勝とうなんて夢を見るな”
“獣だった
“俺の相手をまともに出来るのは―――お前だけなんだからな”
「……また戻らなきゃいけねぇのか……。クズだった時代の、あの頃に……」
自分にとって忌まわしい過去であり、1番の汚点だった
ネガティブな物思いに
そんな時、追加のホルモンを乗せた皿がテーブルの上に置かれ―――総司はそれを一気に網の上へ投入
「なーにジジ臭い事を言ってるんだ。ほら、これでも食べて元気を出せ」
総司が網の上で焼かれていたホルモンを箸で掴み、新の皿に乗せる
しかし、そのホルモンは―――
「……何だよコレ。丸焦げじゃねぇか」
「そのホルモンと同じさ、お前も私も」
「は?」
「カルビやロース、ハラミ、タン塩、どの肉も確かに美味いけど、焼き過ぎたら固くなって不味くなる。だけどホルモンは違う。焼かれてこそ価値があるんだ」
「…………」
「焼かれて焼かれて、真っ黒になるまで焦げて……
新は皿に乗せられた黒焦げのホルモンを摘まみ、口へ運んで
一拍置いた後、「おお、美味い」と素っ気なく言う
「そうだろう? じゃあ、コレはどうだ?」
今度は“さっき焼き始めたばかり”のホルモンを1つ、皿の上に乗せられる
新は先程と同じように口へ運ぶが……
「―――っ⁉ 何だよコレ! 生焼けじゃねぇかっ⁉ ぶえっ! ペッ、ペッ、こんなモン食わせんなよッ!」
新は生焼けのホルモンを吐き出し、口直しに水を飲み干す
その様子を見て総司が告げる
「そうだ、生焼けのホルモンほど食べられない物は無い。もっと焼かれなきゃダメなんだ、私達は。いくらブランド物や宝石で着飾っても、贅沢な暮らしをしても、所詮は裏の世界の住人。……育ちの良い肉とは違う」
「……俺達はホルモンみたいなロクデナシって事かよ」
「そうだ。私達のような
総司がジョッキに注がれたビールを飲み干し、話を続ける
「新、キミは今まで支えられて生きてきたんだ。たとえ焼かれても、黒焦げにされても、キミの周りにいる人達が支えてくれた。リアスちゃん、一誠くん、アザゼルくん―――大勢の人達に支えられて“今のキミ”がある。新、今度はキミが皆を支えてやる番だ」
「俺が……皆を支える……?」
「そうだ、これからの戦いは更に激化していく。その時、1番の経験者でもあるキミが落ち込んでいたら、それが周りにも伝播してしまう。ウイルスの感染と同じさ。いつまでも弱気でいると、その弱気がどんどん周りを
良い具合に焼けたホルモンを網の端に寄せ、総司はホルモンを1つ食べる
「確かに今は三大勢力として天使、悪魔、堕天使が手を取り合っているし、過去最大の規模にもなっている。キミや一誠くんのように実力のある若手が増えたのも事実だが……その大半は戦争を知らない坊ちゃん・嬢ちゃん世代だ。促成栽培のモヤシと同じく、ヒトの手で育てられたに過ぎない。
「…………」
「平和を願うのは構わない、
「……そうだな」
汚れてきた自分にしか出来ない事がある
そして、裏の世界に通じてきた自分だからこそ出来る事もある
過去は目を逸らしても、思い出さないようにしても消えるわけではない……
だから、新も嫌な過去に……バサラ・クレイオスとも向き合い―――戦わなければならない
ヤツに立ち向かえるのは
「―――よしっ! じゃあ俺も腹一杯食うとするか!」
吹っ切れた新は網の上で黒焦げになったホルモンを取ろうとするが―――総司が横取りして食べる
「あっ⁉」
「早く食べないと燃えカスになっちゃうだろ? いくらホルモンでも、消し炭になっちゃったら意味が無いからね♪」
「なっ……人がせっかくやる気を出したってのに……っ! おーいっ、特上ホルモン追加、3人前っ! あと、カルビとロースとタン塩も3人前ずつだ! 早く持ってきてくれーッ!」
その後はリアス達へのお土産として“特選焼肉弁当”(1個・4500円)を買って帰路についた
―――――――――――――
深夜、新はリアスに呼び出され、彼女の部屋に足を運んでいた
新が部屋の扉を開けた直後、リアスは結構な勢いで新に抱き付く
多少の圧迫感に苦しむも、リアスの震える体をソッと抱き締め、頭を優しく撫でる
「新……っ」
「今日は随分と積極的じゃねぇか。……バサラの事を思い出しちまったのか?」
新の問いにリアスは無言で
少しだけ落ち着きを取り戻したリアスはベッドに腰掛け、徐々に口を開く
「初めて見るタイプだったわ、あの男……。何もかもが私達とは違う。強さも、威圧感も、価値観も……っ。その全てが私達を圧倒的に上回り、平和を忌み嫌っていた……っ」
「……ヤツが怖いか?」
「自分が情けないわ……。あれだけ啖呵を切ったのに、全く手も足も出なかった……っ」
「でも、それは俺だって同じ―――」
「それだけじゃない……っ。私は……新を止められなかった……っ。あの男と戦う新を……っ」
リアスの目に再び涙が
「あなたが本気で戦っている時、怖くなって……動けなかった……っ。本当は止めなきゃいけないのに、震えて……見てるしか出来なかった……っ。あの時の新は、私達の知ってる新じゃなかった……っ。そう考えた途端、体が動かなくて……何も出来なかった……っ」
リアスは狂気じみたバサラにも、獣に戻りかけた新にも臆してしまったのだ
止めたくても、
本物の殺し合いを目の当たりにして、認識の甘さを思い知らされた……
「本当に情けないわ……っ。私はあなたの
リアスの目から再び涙が
「いや、元はと言えば俺が周りの事まで
新は
「リアス、これから先……俺はもっと無理をするかもしれない。今のままじゃアイツに勝てないのは明白だ。だから、俺は自分を使いこなしてみせる」
「自分を、使いこなす……?」
「そうだ。俺はヒトとしての部分―――知性は充分に使いこなせているが、もう1つ……
新が頭を下げてリアスに頼み込む
「もし、俺がどうしようもない
「…………っ」
新は決意をしたものの、自分で自分を抑えられるかは半信半疑
ゆえにリアスに止め役を
もしもの場合は……
新の覚悟を聞いてリアスも
「ええ、分かったわ。でも、1番の望みはいなくならない事よ。私の……いいえ、私達の前からいなくなってはダメよ?」
「……ああ、約束する」
ようやく肩の力が抜けたのか、リアスはそのまま新の方に体を
新に支えられるリアスは上目遣いで彼を見つめた
その流れでキスしようとする2人……だが―――
「話は聞かせてもらったぞっ!」
バァンッ!と豪快に扉が開かれ、視線を移すとゼノヴィアが腰に手を当てて立っていた
その後ろからは朱乃、イリナ、小猫、ロスヴァイセ、レイヴェルがチラリと顔を覗かせる
「あらあら、リアスったら。また抜け駆けで新さんとイチャイチャするつもり? そうはさせないわ」
ズカズカと朱乃が歩み寄り、ムギュゥッと新を抱き締める
「コ、コラ! 朱乃! 今は私と新がキスする雰囲気でしょう⁉ ここは譲りなさいっ!」
「やーですわ。私だって彼に甘えたいですもの。
リアスと朱乃のおっぱいに挟まれながら、二大お姉さまの口論に巻き込まれる新
しかし、それだけには
「むむっ、リアス部長と朱乃副部長に
ゼノヴィアは勢い良くパジャマを脱ぎ捨て、全裸で新の方に駆け寄った
新の顔を自身のおっぱいに引き寄せて
それに触発された小猫は新の背後に回り、背中に小振りなおっぱいを密着させる
「……新先輩を癒してあげます」
「わわわっ、私だって新くんを癒してあげないとね!こういうのも天使の使命なのよっ!」
「あ、新さまのマネージャーとして私もお手伝いしますわ!」
「私も教師として、生徒の相談を
イリナも慌てて参戦し、レイヴェルとロスヴァイセ、部屋に突入してくる
てんやわんやになった室内で新はモミクチャにされながら、自分を気に掛けてくれる仲間を大事にしようと誓ったのだった
「リアスのアンポンタンっ!」
「朱乃のおたんこなすっ!」
『ただ、そろそろ解放してくれないと圧死するかも……っ』
――――――――――――――――
とある空中を浮遊する
その船内の一室、場に似つかわしくない造りのテーブルが置かれ、囲うように5人の人物が椅子に腰掛けていた
テーブルの中央にはトランプの山札があり、ドローポーカー(チップを賭けずに行うゲーム)の真っ最中だった
1人めは
彼は大胆にもカードを4枚チェンジ
2人めは彼の右目役と称される青髪にカチューシャを付けた少女レビィ・シャルティア
慣れない手つきでカードを1枚チェンジする
3人めは
眼鏡を上げつつ、カードを2枚チェンジする
4人めは白いミニスカ軍服を纏い、前髪ぱっつんな黒髪の美女カグラ・イザヨイ
彼女もこう言った賭け事やゲームに
そして5人めは……ユナイト・クロノス・キリヒコ
カードを2枚チェンジした後、バサラに訊く
「
「対面? あぁ、竜の字の事か。今のアイツは昔よりもキレが悪くなってやがるからな。少なくとも感動の再会なんて気色悪いもんじゃねぇよ」
「
「俺は仲良しごっこをやってるわけじゃねぇからな。今の
「その割りには随分と楽しみに待っているような表情をしてますが?」
「当たり前だ。俺が
バサラは意味深な笑みを見せながら、再びカードを4枚チェンジする
他の皆も2周めのチェンジに突入し、3周めに入る
ここで手札を揃えれば、あとは開いて勝負するのみである
すると、キリヒコが“ある提案”をバサラに持ち掛けてくる
「せっかくですし、どうせなら何か賭けませんか? お金以外のモノで」
バサラが「良いぜ、何を賭ける?」と返しながら、手札のカードを2枚取り替える
キリヒコが持ち掛けた賭けの対象とは……?
「お互いの首―――と言うのは
「―――っ⁉」
「「―――ッ!」」
キリヒコの言葉を聞いた瞬間、レビィは目が飛び出しそうな程に驚き、シルバーは表情に殺気を
カグラに至っては腰元に
シルバーが濃密な殺気を滲ませながら問いただす
「キリヒコ、今の言葉は我々に対する宣戦布告と
丁寧だった口調が粗暴に変わり、シルバーの眼力もより鋭くなる
「あなたが何を考えているのかは知りませんが、バサラさまへの
カグラも怒り心頭の様子でキリヒコに詰め寄るが……当のキリヒコは2人の反応を見て笑うだけだった
「何が
「
「今の無礼極まりない発言をジョークの一言で済ませるつもりですか⁉」
「
「別に気にしちゃいねぇよ。
バサラは
シルバーとカグラは
「最後のチェンジだぜ? 早くしな」
「
そう言ってキリヒコが手札の1枚を捨て、山札からカードを1枚引く
ここで全員の交換が終了し、手札を公開する
レビィは5(
シルバーは
カグラは2(
対してキリヒコは――――
「すみませんねぇ、4のフォーカードです」
見せびらかすようにアピールするキリヒコ
それを見たバサラはフッと鼻で笑い、何故か自分の手札を裏向きで置いて立ち去ろうとする
キリヒコが「おや、続きをしないのですか?」と引き止めようとしたが、バサラは視線だけをキリヒコに向けて言う
「ああ、イカサマ野郎のお陰でもう勝負は決まっちまったからな。昼寝でもしてくるわ」
意味深な台詞を残して部屋を出るバサラ
バサラがいなくなった直後、キリヒコが「やれやれ」と言った感じで自身のカードをトントンと指でつつく
その瞬間、カードからドロッとした黒い液体が排出され……キリヒコの指へ吸収されていく
やがてキリヒコの持ち札だった4のフォーカードは消失し、残されたのは♥の4と
つまり……役無し
それを見た3人は仰天し、レビィとカグラが再び詰め寄る
「キリヒコッ! アンタ、イカサマしてたのっ⁉」
「さっきの無礼な発言だけでも許せないと言うのに、この男は……ッ!」
「
グヌヌと悔しさを
キリヒコが裏向きに置かれたバサラの手札に視線を移す
「さて、そんな彼の手札は……。―――ッ」
開いた瞬間、キリヒコの顔色が一転……表情から嫌味を含んだ笑みが消えた
それもその筈、何せバサラの手札は……♠の
ポーカーの役の中で最も強いのはファイブカード、その次に強い役を揃えていたのだ
しかも、キリヒコのイカサマを黙認した上で……
「さすがはバサラさまだ。イカサマをも
「これに懲りたら、もう2度とふざけた真似はしないように」
シルバーがバサラを称賛し、カグラがキリヒコに釘を刺すように言う
キリヒコはそんな言葉など意にも介さず、バサラの手札を見続けていた
『……勝つ可能性は限りなく皆無に等しい状況でこの引き。圧倒的な強さに加え、
理不尽の権化とも言えるバサラの
『
――――――――――――――――
戦艦内のとある部屋にて
1人の異形が天上から吊り下げられた複数の糸に囲まれ、瞑想をしていた
その者の名は……スメラギ・リュウゲン
中国拳法の如く流れるような円舞を
迫力ある動作でありながら、吊り下げられた糸を全く揺らさず―――全ての先端を一つ結びに纏めた
力強さと繊細さが
すると、何処からか拍手が聞こえてくる
「へえ、やるじゃない。糸を全く揺らさないで結ぶとか。芸達者」
声の主はどうやら女性のようだ
スメラギは「大した事は無い」と簡素に返事し、糸の囲いから抜け出す
「じゃあ、こっちも見せてあげるっ」
そう言って女性は右足を上げ―――離れた場所から糸に向かって連続の蹴りを放つ
尚、こちらも糸を全く揺らさない
蹴り終えた後を見てみると……全ての結び目が綺麗に
「ほう、糸を切らずに蹴りで
感嘆するスメラギの前に女性の他、2名の男が現れる
1人は顔中に金属片が埋め込まれ、人間の胴体以上に太い両腕を持った
もう1人はカウボーイハットを
そして、女性は長い黒髪にピッチピチのボディスーツを着込み、口元には棒付きキャンディの『チュッパチュッパス』を
「アンタが『
「お前達が『
「ええ、
「フン、ならば見せてもらおうか。外道に仕事が務まるかどうか」
次回はゼノヴィアが苦手なあの人を登場させます!