ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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GW初投稿です!


焼かねぇホルモンはただのゴミだ……

「…………」

 

「ハグハグっ、んっ? 新、どうしたんだい? 早く食べないと焦げてしまうよ?」

 

その日の夜、総司と新はとある焼肉店を(おとず)れ、食事を取っていた

 

テーブルの真ん中の網で焼かれるタン塩、カルビ、ロース、ハラミが美味そうな匂いを(ただよ)わせ、総司は焼けた肉を白米の上に乗せて食べる

 

しかし、新は一向に箸を伸ばさず、不機嫌そうな顔で頬杖をついているだけだった

 

その間にも総司は焼けた肉を次々と(たい)らげ、ジョッキに()がれたビールも豪快に飲む

 

長い溜め息を吐いた新は次第に不満を漏らしていく

 

「……なんで食べ放題の店なんだよ。焼肉ならもっと良い店があるんじゃねぇのか? 麻布(あざぶ)に六本木、銀座、新宿とか。それこそ、この近辺にだって少しはマシな所があるだろ。なのに、なんでわざわざ―――」

 

「おいおい、ここだって結構イケるんだぞ? メニューは豊富だし、ビールも美味いし。せっかくの焼肉なんだから、食べないと勿体ないよ」

 

「親父、今の俺らの状況を分かってるのか? 造魔(ゾーマ)が現れてからは散々揚げ足を取られて煮え湯を飲まされ、(しま)いにはバサラ(アイツ)までもがやって来る始末。元からバケモノみたいに強すぎた奴が、更にバケモノどもを引き連れて一大組織を結成している……。何か圧倒的な差を見せ付けられたせいで惨めになってきた……」

 

「なんで惨めになるんだい? 良いから今は食べなって。すいませーん! ホルモン追加でー!」

 

女性店員に追加注文をする総司

 

バクバクとがっつく総司とは対照的に、新は沈んだ表情でユッケを摘まむ

 

「はぁ……っ。造魔(ゾーマ)が来てからはスッカリ食欲も落ちてんだよ。特に(あぶら)っこい肉は胃が受け付けなくなってる。カルビ一皿で炊飯器のメシ一合(いちごう)を食ってた時代が懐かしいぜ……」

 

延々と愚痴を(こぼ)す新の箸は止まり、手元に視線を落とし―――バサラの言葉が脳裏に(よみがえ)ってくる

 

“次に()り合う時は今日以上の獣に戻っておけよ?”

 

“飼い犬のままで俺に勝とうなんて夢を見るな”

 

“獣だった自分(テメェ)反芻(はんすう)して、戦いに活かせ”

 

“俺の相手をまともに出来るのは―――お前だけなんだからな”

 

「……また戻らなきゃいけねぇのか……。クズだった時代の、あの頃に……」

 

自分にとって忌まわしい過去であり、1番の汚点だった

 

(むかし)に戻そうとするバサラと、(むかし)に戻りたくない新

 

ネガティブな物思いに(ふけ)る中でも、網の上に取り残されたホルモンは焼かれ、焦げ目が付いていく……

 

そんな時、追加のホルモンを乗せた皿がテーブルの上に置かれ―――総司はそれを一気に網の上へ投入

 

「なーにジジ臭い事を言ってるんだ。ほら、これでも食べて元気を出せ」

 

総司が網の上で焼かれていたホルモンを箸で掴み、新の皿に乗せる

 

しかし、そのホルモンは―――

 

「……何だよコレ。丸焦げじゃねぇか」

 

「そのホルモンと同じさ、お前も私も」

 

「は?」

 

「カルビやロース、ハラミ、タン塩、どの肉も確かに美味いけど、焼き過ぎたら固くなって不味くなる。だけどホルモンは違う。焼かれてこそ価値があるんだ」

 

「…………」

 

「焼かれて焼かれて、真っ黒になるまで焦げて……(あぶら)を落として味を磨くんだ」

 

新は皿に乗せられた黒焦げのホルモンを摘まみ、口へ運んで咀嚼(そしゃく)する

 

一拍置いた後、「おお、美味い」と素っ気なく言う

 

「そうだろう? じゃあ、コレはどうだ?」

 

今度は“さっき焼き始めたばかり”のホルモンを1つ、皿の上に乗せられる

 

新は先程と同じように口へ運ぶが……

 

「―――っ⁉ 何だよコレ! 生焼けじゃねぇかっ⁉ ぶえっ! ペッ、ペッ、こんなモン食わせんなよッ!」

 

新は生焼けのホルモンを吐き出し、口直しに水を飲み干す

 

その様子を見て総司が告げる

 

「そうだ、生焼けのホルモンほど食べられない物は無い。もっと焼かれなきゃダメなんだ、私達は。いくらブランド物や宝石で着飾っても、贅沢な暮らしをしても、所詮は裏の世界の住人。……育ちの良い肉とは違う」

 

「……俺達はホルモンみたいなロクデナシって事かよ」

 

「そうだ。私達のような(やから)はもっと焼かれなきゃならない。焼かれてないホルモンは―――ただの生ゴミだからね。生ゴミは放置しておけば直ぐに腐って悪臭を放つ。その結果、誰も寄り付かなくなる。だから、焼かなきゃならないんだ。ゴミは焼かれて黒焦げになって、初めて意味を成す。そんな当たり前の事も忘れてしまってはいけない」

 

総司がジョッキに注がれたビールを飲み干し、話を続ける

 

「新、キミは今まで支えられて生きてきたんだ。たとえ焼かれても、黒焦げにされても、キミの周りにいる人達が支えてくれた。リアスちゃん、一誠くん、アザゼルくん―――大勢の人達に支えられて“今のキミ”がある。新、今度はキミが皆を支えてやる番だ」

 

「俺が……皆を支える……?」

 

「そうだ、これからの戦いは更に激化していく。その時、1番の経験者でもあるキミが落ち込んでいたら、それが周りにも伝播してしまう。ウイルスの感染と同じさ。いつまでも弱気でいると、その弱気がどんどん周りを(むしば)んでいく。そんな悪循環は避けなければならない。ただでさえ三大勢力にいるのは……生焼けの連中ばかりだからね」

 

良い具合に焼けたホルモンを網の端に寄せ、総司はホルモンを1つ食べる

 

「確かに今は三大勢力として天使、悪魔、堕天使が手を取り合っているし、過去最大の規模にもなっている。キミや一誠くんのように実力のある若手が増えたのも事実だが……その大半は戦争を知らない坊ちゃん・嬢ちゃん世代だ。促成栽培のモヤシと同じく、ヒトの手で育てられたに過ぎない。堅気(かたぎ)崩れの中途半端な連中が集まっている。もし、造魔(ゾーマ)が全勢力で攻め込んだりしてみろ。尻尾を巻いて逃げ出すのが関の山だろうね」

 

「…………」

 

「平和を願うのは構わない、造魔(ゾーマ)を憎むのも構わない。けれど……綺麗事だけで生き残れる程、世の中は甘くない。どんな世界だろうと―――最後は“力”だ。だから、私達が彼らを支えてやるんだ。それが私達“裏の世界の住人”が今もここに居る理由だからな」

 

「……そうだな」

 

汚れてきた自分にしか出来ない事がある

 

そして、裏の世界に通じてきた自分だからこそ出来る事もある

 

過去は目を逸らしても、思い出さないようにしても消えるわけではない……

 

だから、新も嫌な過去に……バサラ・クレイオスとも向き合い―――戦わなければならない

 

ヤツに立ち向かえるのは(じぶん)しか居ないのだから……

 

「―――よしっ! じゃあ俺も腹一杯食うとするか!」

 

吹っ切れた新は網の上で黒焦げになったホルモンを取ろうとするが―――総司が横取りして食べる

 

「あっ⁉」

 

「早く食べないと燃えカスになっちゃうだろ? いくらホルモンでも、消し炭になっちゃったら意味が無いからね♪」

 

「なっ……人がせっかくやる気を出したってのに……っ! おーいっ、特上ホルモン追加、3人前っ! あと、カルビとロースとタン塩も3人前ずつだ! 早く持ってきてくれーッ!」

 

その後はリアス達へのお土産として“特選焼肉弁当”(1個・4500円)を買って帰路についた

 

 

―――――――――――――

 

 

深夜、新はリアスに呼び出され、彼女の部屋に足を運んでいた

 

新が部屋の扉を開けた直後、リアスは結構な勢いで新に抱き付く

 

多少の圧迫感に苦しむも、リアスの震える体をソッと抱き締め、頭を優しく撫でる

 

「新……っ」

 

「今日は随分と積極的じゃねぇか。……バサラの事を思い出しちまったのか?」

 

新の問いにリアスは無言で(うなず)き、より一層強く抱き締めてくる

 

少しだけ落ち着きを取り戻したリアスはベッドに腰掛け、徐々に口を開く

 

「初めて見るタイプだったわ、あの男……。何もかもが私達とは違う。強さも、威圧感も、価値観も……っ。その全てが私達を圧倒的に上回り、平和を忌み嫌っていた……っ」

 

「……ヤツが怖いか?」

 

「自分が情けないわ……。あれだけ啖呵を切ったのに、全く手も足も出なかった……っ」

 

「でも、それは俺だって同じ―――」

 

「それだけじゃない……っ。私は……新を止められなかった……っ。あの男と戦う新を……っ」

 

リアスの目に再び涙が(こぼ)れ、心中を吐露する

 

「あなたが本気で戦っている時、怖くなって……動けなかった……っ。本当は止めなきゃいけないのに、震えて……見てるしか出来なかった……っ。あの時の新は、私達の知ってる新じゃなかった……っ。そう考えた途端、体が動かなくて……何も出来なかった……っ」

 

リアスは狂気じみたバサラにも、獣に戻りかけた新にも臆してしまったのだ

 

止めたくても、彼ら(バウンティハンター)の領域に足を踏み込む事が出来なかった

 

本物の殺し合いを目の当たりにして、認識の甘さを思い知らされた……

 

「本当に情けないわ……っ。私はあなたの(あるじ)なのに……」

 

リアスの目から再び涙が(あふ)れそうになるが、新がその涙を指で(ぬぐ)

 

「いや、元はと言えば俺が周りの事まで(かえり)みずに()ったのがいけなかったんだ。今の俺は……あの時とは違うのに、大事なことを忘れちまっていた。本当にスマン」

 

新は(かしこ)まった様子でリアスに告げる

 

「リアス、これから先……俺はもっと無理をするかもしれない。今のままじゃアイツに勝てないのは明白だ。だから、俺は自分を使いこなしてみせる」

 

「自分を、使いこなす……?」

 

「そうだ。俺はヒトとしての部分―――知性は充分に使いこなせているが、もう1つ……(ケモノ)としての部分―――獣性を使いこなせていない。それは今も俺が過去から逃げている証拠なんだ。アイツと(わた)り合う為には二律背反(にりつはいはん)する性質―――知性と獣性を自分の物にしなきゃならない。そうしない限り、俺はアイツの足元どころか歯牙にも届かない……。だから、リアス」

 

新が頭を下げてリアスに頼み込む

 

「もし、俺がどうしようもない(ケモノ)になっちまったら……その時は全員で止めてくれ」

 

「…………っ」

 

新は決意をしたものの、自分で自分を抑えられるかは半信半疑

 

ゆえにリアスに止め役を(たく)した

 

もしもの場合は……(みずか)ら命を()つ事も辞さないだろう

 

新の覚悟を聞いてリアスも毅然(きぜん)とした表情で返す

 

「ええ、分かったわ。でも、1番の望みはいなくならない事よ。私の……いいえ、私達の前からいなくなってはダメよ?」

 

「……ああ、約束する」

 

ようやく肩の力が抜けたのか、リアスはそのまま新の方に体を(ゆだ)ねる

 

新に支えられるリアスは上目遣いで彼を見つめた

 

その流れでキスしようとする2人……だが―――

 

「話は聞かせてもらったぞっ!」

 

バァンッ!と豪快に扉が開かれ、視線を移すとゼノヴィアが腰に手を当てて立っていた

 

その後ろからは朱乃、イリナ、小猫、ロスヴァイセ、レイヴェルがチラリと顔を覗かせる

 

「あらあら、リアスったら。また抜け駆けで新さんとイチャイチャするつもり? そうはさせないわ」

 

ズカズカと朱乃が歩み寄り、ムギュゥッと新を抱き締める

 

「コ、コラ! 朱乃! 今は私と新がキスする雰囲気でしょう⁉ ここは譲りなさいっ!」

 

「やーですわ。私だって彼に甘えたいですもの。(なぐさ)めた後で彼にキスしたいですわ」

 

リアスと朱乃のおっぱいに挟まれながら、二大お姉さまの口論に巻き込まれる新

 

しかし、それだけには(とど)まらない……

 

「むむっ、リアス部長と朱乃副部長に(おく)れを取ったか。それなら私は新を元気付ける為に裸で添い寝するぞっ!」

 

ゼノヴィアは勢い良くパジャマを脱ぎ捨て、全裸で新の方に駆け寄った

 

新の顔を自身のおっぱいに引き寄せて(うず)めさせる

 

それに触発された小猫は新の背後に回り、背中に小振りなおっぱいを密着させる

 

「……新先輩を癒してあげます」

 

「わわわっ、私だって新くんを癒してあげないとね!こういうのも天使の使命なのよっ!」

 

「あ、新さまのマネージャーとして私もお手伝いしますわ!」

 

「私も教師として、生徒の相談を親身(しんみ)になって受け止めてみせます!」

 

イリナも慌てて参戦し、レイヴェルとロスヴァイセ、部屋に突入してくる

 

てんやわんやになった室内で新はモミクチャにされながら、自分を気に掛けてくれる仲間を大事にしようと誓ったのだった

 

「リアスのアンポンタンっ!」

 

「朱乃のおたんこなすっ!」

 

『ただ、そろそろ解放してくれないと圧死するかも……っ』

 

 

――――――――――――――――

 

 

とある空中を浮遊する造魔(ゾーマ)の戦艦

 

その船内の一室、場に似つかわしくない造りのテーブルが置かれ、囲うように5人の人物が椅子に腰掛けていた

 

テーブルの中央にはトランプの山札があり、ドローポーカー(チップを賭けずに行うゲーム)の真っ最中だった

 

1人めは造魔(ゾーマ)の首領バサラ・クレイオス

 

魔剣聖(ヴァンキッシュ)の異名と六振りの魔剣―――禁忌の神滅具(ロスト・ロンギヌス)を持つ今世紀最凶(さいきょう)と言っても過言ではない怪物(おとこ)

 

彼は大胆にもカードを4枚チェンジ

 

2人めは彼の右目役と称される青髪にカチューシャを付けた少女レビィ・シャルティア

 

慣れない手つきでカードを1枚チェンジする

 

3人めは造魔(ゾーマ)の中間管理職……もとい、執政官を務める滅悪祓士(デビル・スレイヤー)シルバー・ゼーレイド

 

眼鏡を上げつつ、カードを2枚チェンジする

 

4人めは白いミニスカ軍服を纏い、前髪ぱっつんな黒髪の美女カグラ・イザヨイ

 

彼女もこう言った賭け事やゲームに(うと)いのか、たどたどしい手つきでカードを1枚チェンジする

 

そして5人めは……ユナイト・クロノス・キリヒコ

 

造魔(ゾーマ)の中でも一際不穏な動きをしており、同じ組織内でも周りから不信感を買われている……

 

カードを2枚チェンジした後、バサラに訊く

 

Monsieur(ムッシュ)バサラ、久々のご対面は如何(いかが)でしたか?」

 

「対面? あぁ、竜の字の事か。今のアイツは昔よりもキレが悪くなってやがるからな。少なくとも感動の再会なんて気色悪いもんじゃねぇよ」

 

Oh(オー) la() la()、意外と辛辣(しんらつ)ですね」

 

「俺は仲良しごっこをやってるわけじゃねぇからな。今の竜の字(アイツ)がどんな風になってるのかを見に行っただけだ」

 

「その割りには随分と楽しみに待っているような表情をしてますが?」

 

「当たり前だ。俺が出張(でば)ってくるのを知って竜の字は焦り始めた。“今のままじゃ到底勝てねぇ”って考えてるだろうよ。そこからどうやって(ケモノ)に戻るのか、それとも“全く新しい獣”に化けるのか……見物(みもの)だぜ」

 

バサラは意味深な笑みを見せながら、再びカードを4枚チェンジする

 

他の皆も2周めのチェンジに突入し、3周めに入る

 

ここで手札を揃えれば、あとは開いて勝負するのみである

 

すると、キリヒコが“ある提案”をバサラに持ち掛けてくる

 

「せっかくですし、どうせなら何か賭けませんか? お金以外のモノで」

 

バサラが「良いぜ、何を賭ける?」と返しながら、手札のカードを2枚取り替える

 

キリヒコが持ち掛けた賭けの対象とは……?

 

「お互いの―――と言うのは如何(いかが)でしょう?」

 

「―――っ⁉」

 

「「―――ッ!」」

 

キリヒコの言葉を聞いた瞬間、レビィは目が飛び出しそうな程に驚き、シルバーは表情に殺気を(にじ)み出させる

 

カグラに至っては腰元に帯刀(たいとう)している刀を今にも抜き放つ様相だった

 

シルバーが濃密な殺気を滲ませながら問いただす

 

「キリヒコ、今の言葉は我々に対する宣戦布告と(とら)えられてもおかしくありませんよ? あなたの多少の冗談には目を(つむ)ってきましたが、今回ばかりは許容できません。……今すぐこの場で(めっ)してやろうか?」

 

丁寧だった口調が粗暴に変わり、シルバーの眼力もより鋭くなる

 

「あなたが何を考えているのかは知りませんが、バサラさまへの不遜(ふそん)な言動はこの私が許しませんよ!」

 

カグラも怒り心頭の様子でキリヒコに詰め寄るが……当のキリヒコは2人の反応を見て笑うだけだった

 

「何が可笑(おか)しいのですかッ!」とカグラが問いただすと、キリヒコは悪怯(わるび)れる事もなく告げる

 

Excusez-moi(エクスキュゼモワ)。あなた方の反応があまりにも面白くて、つい笑ってしまいました。ちょっとしたジョークのつもりだったのですが……ここまでユーモアセンスの欠けた人達だとは思いませんでしたので」

 

「今の無礼極まりない発言をジョークの一言で済ませるつもりですか⁉」

 

Monsieur(ムッシュ)バサラ、今のは忘れてください。ただ、あなた方の反応が見たかっただけです。Je suis désolé(ジュスィディゾレ)

 

「別に気にしちゃいねぇよ。最初(ハナ)っから冗談だと分かってたからな。お前らもいちいち目くじら立てんなよ」

 

バサラは性質(タチ)の悪い冗談を意にも介さず、シルバーとカグラを(いさ)める

 

シルバーとカグラは渋々(しぶしぶ)キリヒコへの追及を中断し、席に着く

 

「最後のチェンジだぜ? 早くしな」

 

Merci(メルシィ)。あなたなら分かっていただけると思ってました。……では、1枚チェンジです」

 

そう言ってキリヒコが手札の1枚を捨て、山札からカードを1枚引く

 

ここで全員の交換が終了し、手札を公開する

 

レビィは5((ハート)&(スペード))のワンペア

 

シルバーは(クラブ)の3、5、6、8、9でフラッシュ

 

カグラは2((ダイヤ)&♠)と7(♥&♣)のツーペア

 

対してキリヒコは――――

 

「すみませんねぇ、4のフォーカードです」

 

見せびらかすようにアピールするキリヒコ

 

それを見たバサラはフッと鼻で笑い、何故か自分の手札を裏向きで置いて立ち去ろうとする

 

キリヒコが「おや、続きをしないのですか?」と引き止めようとしたが、バサラは視線だけをキリヒコに向けて言う

 

「ああ、イカサマ野郎のお陰でもう勝負は決まっちまったからな。昼寝でもしてくるわ」

 

意味深な台詞を残して部屋を出るバサラ

 

バサラがいなくなった直後、キリヒコが「やれやれ」と言った感じで自身のカードをトントンと指でつつく

 

その瞬間、カードからドロッとした黒い液体が排出され……キリヒコの指へ吸収されていく

 

やがてキリヒコの持ち札だった4のフォーカードは消失し、残されたのは♥の4と(クイーン)、♠の7、♣のJ(ジャック)、♦の10となり、数字もスートも全てバラバラだった

 

つまり……役無し

 

それを見た3人は仰天し、レビィとカグラが再び詰め寄る

 

「キリヒコッ! アンタ、イカサマしてたのっ⁉」

 

「さっきの無礼な発言だけでも許せないと言うのに、この男は……ッ!」

 

Oh(オー) la() la()、短気なMademoiselle(マドモアゼル)ですね。しかし、イカサマはその場で摘発されなければ意味が無いのですよ? Monsieur(ムッシュ)バサラは気付いていたようですが摘発せず、あなた方は気付いてすらいなかった。彼はイカサマを黙認していたのですから、勝負は有効です」

 

グヌヌと悔しさを(あら)わにするレビィとカグラ

 

キリヒコが裏向きに置かれたバサラの手札に視線を移す

 

「さて、そんな彼の手札は……。―――ッ」

 

開いた瞬間、キリヒコの顔色が一転……表情から嫌味を含んだ笑みが消えた

 

それもその筈、何せバサラの手札は……♠のA(エース)、10、J(ジャック)(クイーン)K(キング)の5枚

 

(すなわ)ち……ロイヤルストレートフラッシュ

 

ポーカーの役の中で最も強いのはファイブカード、その次に強い役を揃えていたのだ

 

しかも、キリヒコのイカサマを黙認した上で……

 

「さすがはバサラさまだ。イカサマをも()じ伏せるとは……」

 

「これに懲りたら、もう2度とふざけた真似はしないように」

 

シルバーがバサラを称賛し、カグラがキリヒコに釘を刺すように言う

 

キリヒコはそんな言葉など意にも介さず、バサラの手札を見続けていた

 

『……勝つ可能性は限りなく皆無に等しい状況でこの引き。圧倒的な強さに加え、禁忌の神滅具(ロスト・ロンギヌス)(したが)える技量とカリスマ性。そして、相手の策を意にも介さず捩じ伏せる悪運の強さ……』

 

理不尽の権化とも言えるバサラの手腕(しゅわん)に、キリヒコは不敵に笑む

 

Je vois(ジュヴォワ)……これは焦るのも無理ありませんね。どんな策を練ろうがお構い無しに一切合切蹂躙(じゅうりん)する。魔剣聖(ヴァンキッシュ)バサラ―――彼はそういう星の下に生まれてきたのかもしれませんね』

 

 

――――――――――――――――

 

 

戦艦内のとある部屋にて

 

1人の異形が天上から吊り下げられた複数の糸に囲まれ、瞑想をしていた

 

その者の名は……スメラギ・リュウゲン

 

中国拳法の如く流れるような円舞を(おこな)い、更に素早く力強い拳と蹴りを糸に向かって放つ

 

迫力ある動作でありながら、吊り下げられた糸を全く揺らさず―――全ての先端を一つ結びに纏めた

 

力強さと繊細さが(あふ)れる手腕……

 

すると、何処からか拍手が聞こえてくる

 

「へえ、やるじゃない。糸を全く揺らさないで結ぶとか。芸達者」

 

声の主はどうやら女性のようだ

 

スメラギは「大した事は無い」と簡素に返事し、糸の囲いから抜け出す

 

「じゃあ、こっちも見せてあげるっ」

 

そう言って女性は右足を上げ―――離れた場所から糸に向かって連続の蹴りを放つ

 

尚、こちらも糸を全く揺らさない

 

蹴り終えた後を見てみると……全ての結び目が綺麗に(ほど)けていた

 

「ほう、糸を切らずに蹴りで(ほど)いたか」

 

感嘆するスメラギの前に女性の他、2名の男が現れる

 

1人は顔中に金属片が埋め込まれ、人間の胴体以上に太い両腕を持った(いか)つい巨漢(きょかん)

 

もう1人はカウボーイハットを(かぶ)ったガンマン風の男

 

そして、女性は長い黒髪にピッチピチのボディスーツを着込み、口元には棒付きキャンディの『チュッパチュッパス』を(くわ)えていた

 

「アンタが『双竜(そうりゅう)の武人』とか呼ばれてるスメラギ・リュウゲンね? さすが造魔(ゾーマ)の幹部、威厳がアタシらとは全然違うわね」

 

「お前達が『三羽の闇鴉(バンディット・レイヴン)』とやらか。マリア・ミルコビッチ、ゴリランド・ローニッシ、ジョーズィ・バリスタン。殺人、強盗、人身売買を専門的に(おこな)うような外道と言えど、実力はお墨付きか」

 

「ええ、造魔(ゾーマ)に入っておけば好き勝手できるでしょ? アタシらにとっては最高の仕事場ってわけ。お金も儲かるし」

 

「フン、ならば見せてもらおうか。外道に仕事が務まるかどうか」




次回はゼノヴィアが苦手なあの人を登場させます!
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