ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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タイトル通り、吸血鬼との会談が始まります!


吸血鬼との会談

 翌日の深夜―――つまり、(くだん)の吸血鬼との会談当日を迎え、新達は旧校舎オカルト研究部の部室にいた

 

 この場に集合したのはグレモリー側オカルト研究部全員、シトリー側のソーナ会長と真羅椿姫(しんらつばき)、堕天使代表としてアザゼル

 

 そして天界側からシスターが1人

 

 ベールを深くまで被り、女優のように目鼻立ちがハッキリとした北欧的な顔立ち

 

 20代後半ほどで柔和な表情と優しそうな雰囲気を纏っていた

 

 シスターが見渡すようにこの場にいる全員へ挨拶する

 

「挨拶が遅れました。私、この地域の天界スタッフを統括しておりますグリゼルダ・クァルタと申します。赤龍帝さんやシスター・アーシアとは少し前にご挨拶できたのですが、皆さまとはまだでしたので、改めまして今後とも何とぞよろしくお願いできたら(さいわ)いです」

 

「私の上司さまです!」

 

 イリナがそう付け加え、アザゼルがシスター・グリゼルダと握手を交わす

 

「おー、話は聞いてるぜ。ガブリエルのQ(クイーン)! シスター・グリゼルダっていやー、女のエクソシストの中でも五指に入ってたな」

 

「恐れ入ります。堕天使の前総督さまのお耳に届いているとは……光栄の至りですわ」

 

 シスター・グリゼルダはこの地域で展開する天界側のスタッフを統括する転生天使であり、四大セラフ―――ガブリエルのQ(クイーン)でもある

 

 更にはイリナの上司、新とゼノヴィアの知人だったりする

 

 普段は天界とヴァチカンを行ったり来たりしているので、この地域の教会支部に顔を出す事が(ほとん)ど叶わず、新達と面会できたのもつい最近の事だ

 

 その際、新とゼノヴィアの狼狽ぶりは凄まじく、小さい頃から世話になってたせいか、2人とも彼女には頭が上がらない

 

 シスター・グリゼルダが深く陳謝する

 

「申し訳ございませんでした。本来ならもっと早くに挨拶に(うかが)うべきでしたのに……もろもろ都合が付かず、今になってしまい、己の至らなさを悔やむばかりです」

 

「あらあら? 新くんとゼノヴィアったら、顔色が悪いわね?」

 

 イリナが意味深な質問を新とゼノヴィアに投げ掛ける

 

「……からかうな、イリナ」

 

「わざと言ってやがるな? 覚えとけよ」

 

 新は苦々しい表情、ゼノヴィアは顔を強張(こわば)らせ、両者ともシスターの視界に入らないようにするが―――

 

「ゼノヴィア? 私と顔を合わせるのがそんなに嫌なのかしら?」

 

 シスター・グリゼルダがゼノヴィアの顔をガッチリと両手で押さえる

 

「……ち、違う。た、ただ……」

 

「ただ?」

 

「……で、電話に出なくてごめんなさい」

 

 ゼノヴィアから謝罪を受けて、シスター・グリゼルダも手を離す

 

「はい、よく出来ました。せっかく番号を教え合ったのだから、連絡ぐらい寄越しなさい。分かりましたか? 食事ぐらい出来るでしょう?」

 

「……ど、どうせ小言ばかりだろうし……」

 

「当たり前です。また一緒の管轄になったのだから、心配ぐらいします」

 

 端から見れば困った妹としっかり者のお姉さんと言った感じである

 

 次にシスター・グリゼルダは新の方にも顔を合わせる

 

「あなたもですよ、アラタ。以前言った事は覚えてますね? これ以上、皆さまにご迷惑や心配事を増やさないように」

 

「……分かってますよ、シスター・グリゼルダ」

 

 そんなこんなでシスター・グリゼルダとの挨拶も済ませて、後は吸血鬼の来客を待つだけとなった

 

 外は完全に静まり返り、会話も少なくなった頃、外から異様な冷たさを感じてしまう

 

 全員がそれを把握したようで一様に窓―――旧校舎の入り口のある方向に視線を向けていた

 

 リアスが立ち上がる

 

「来たようね。……相変わらず、吸血鬼の気配は凍ったように静かだわ」

 

 リアスが祐斗に視線を向ける

 

 祐斗は立ち上がり、一礼をしてから部屋をあとにした

 

 吸血鬼を迎えに行ったのだろう

 

 ここで吸血鬼に関する情報をおさらい

 

 吸血鬼とは―――招待された事の無い建物には入れない

 

 鏡に姿が映らず、影も無い

 

 流水を渡れず、ニンニクを嫌い、教会のシンボルたる十字架や聖水にも弱い

 

 そして、自分の(ひつぎ)で眠らなければ自己の回復が出来ない

 

 ハーフのギャスパーはそれらの内、いくつか違う

 

 影もあり、鏡に姿も映る

 

 川も渡れる上にニンニクも克服しつつある

 

 自分の棺で眠らなければならないわけでもない

 

 これはギャスパーが人間の血の方が濃いからである

 

 祐斗が下まで降りていったのは来客の吸血鬼が純血であり、招待されなければ旧校舎に入る事が出来ないからだ

 

 新達は来客に備えて席を立ち、『(キング)』であるリアスの(かたわ)らに並んで待機する

 

 同様にソーナ会長の背後に椿姫が立ち、イリナも席に座るシスター・グリゼルダの後ろについた

 

 朱乃は給仕(きゅうじ)が出来るよう専用の台車の前に待機

 

 アザゼルは堂々と座り、新達は立って待機と言う形で来客を待つ

 

 そして、当のギャスパーは複雑極まりない表情をしていた

 

 自分を迫害してきた本物の吸血鬼が(おとず)れてくるのだから、当然の反応だろう

 

 しばらくして、部室のドアがノックされる

 

「お客さまをお連れしました」

 

 祐斗が紳士的な応対で扉を開き、来客を招き入れる

 

 姿を現したのは―――中性のお姫様が着るようなドレスに身を包む人形のような少女だった

 

 目と鼻、口元は西洋人形の如く人間味の感じられない、作られたような美しさがあった

 

 長い金色の髪をウェーブさせており、それも相まって人形のイメージを強くさせていた

 

 死人のように顔色が悪く、生気を感じ取れない色合いの肌

 

 真っ赤な双眸(そうぼう)はギャスパーの眼よりも深く濃い

 

 見た目は新達と同じぐらいの年齢だろう

 

『―――っ』

 

 一誠は少女の足下を確認して、目を見開く

 

 ―――影が無い

 

 彼女が本物の吸血鬼である事を改めて思った

 

 少女の背後にスーツを着た男女が1人ずつ、恐らくボディーガードだろう

 

 その2人も吸血鬼で、冷たく刺々(とげとげ)しい気配が感じられる

 

 少女―――吸血鬼の来客が丁寧にリアスと新達に挨拶する

 

「ごきげんよう、三大勢力の皆さま。特に魔王の妹君のお二人に、堕天使の前総督さまとお会いできるなんて光栄の至りです」

 

 リアスに(うなが)されて、対面の席に少女が座る事に

 

 座る前に彼女は名乗る

 

「私はエルメンヒルデ・カルンスタイン。エルメとお呼びください」

 

 如何にも高貴な響きの仰々(ぎょうぎょう)しい名前……

 

 アザゼルがあごに手をやる

 

「……カルンスタイン。確か吸血鬼二大派閥の1つ、カーミラ派の中でも最上位クラスの家だ。久しぶりだな、純血で高位のヴァンパイアに合うのは……」

 

 カーミラ派―――

 

 吸血鬼は(いにしえ)より存在する闇の世界の住人

 

 上級悪魔と似たような階級制度や弱点まで有するが……悪魔は冥界の住人

 

 吸血鬼は人間界の闇に住む者達であり、似てはいるが価値観と文化は差違(さい)するところが多い

 

 悪魔と吸血鬼はお互いに縄張りを刺激せず、人間を糧に生きてきた

 

 天界―――神の従僕達が天敵なのも一緒だが、共闘をせず今の今まで一定の距離を置いてきていた

 

 悪魔は今夏に(おこな)われた三大勢力の和平に応じて長い三つ巴の様相を収束させたが……吸血鬼は未だ和議のテーブルに付こうとすらしていない

 

 その為、今でも天界―――教会の戦士達と小競り合いがある

 

 ここまでは吸血鬼の基本的な知識、問題は二大派閥の事だ

 

 数百年前に吸血鬼の業界で大きく(たもと)を分かつ事件があった

 

 それがツェペシュ派とカーミラ派の誕生である

 

 ツェペシュ派は男尊主義、カーミラ派は女尊主義の派閥

 

 なんでも純血の吸血鬼を残す為、男の真祖を尊ぶか、女の真祖を尊ぶかで長年主張を対立させていた者同士が(こじ)れに拗れて、その結果―――数百年前に真っ二つにグループが分かれたそうだ

 

 アザゼルの説明通りなら、エルメンヒルデは女尊主義カーミラ派の吸血鬼と言う事だ

 

 席に座るエルメンヒルデ

 

 朱乃がお茶を差し出したのを確認して、リアスが開口一番に率直な質問をする

 

「エルメンヒルデ、いきなりで悪いのだけれど、今まで接触を避けてきたあなた達カーミラの者が、突然グレモリー、シトリー、アザゼル前総督のもとに来たのは何故?」

 

 エルメンヒルデは瞑目し、1度だけ頷くと目を静かに開いた

 

「―――ギャスパー・ヴラディのお力を借りたいのです」

 

『―――ッ⁉』

 

 新達は全く予想もしていなかった答えに絶句、驚愕するしかなかった

 

 全員の視線がギャスパーに集まり、ギャスパーはブルブルと全身を震わせていた

 

 アザゼルがエルメンヒルデに問う

 

「率直な質問に率直な答え。すまんが、順を追って説明してもらおう。―――吸血鬼の世界に何が起きた?」

 

 エルメンヒルデが口を開く

 

「我々吸血鬼の世界でとある出来事が、根底の価値観を崩す程のものになっているのです。情報が流出しご存じかもしれませんけれど、神滅具(ロンギヌス)を持つ者がツェペシュ側のハーフから出てしまったのです」

 

 ツェペシュ派のハーフヴァンパイアから神滅具(ロンギヌス)所有者が出現、なのに相談してきたのはカーミラ派

 

 面倒事の臭いが強くなる……

 

 アザゼルが目を細めながら訊く

 

「それでツェペシュ側が所有している神滅具(ロンギヌス)は何だ?」

 

 神滅具(ロンギヌス)とは全部で13種ある神器(セイクリッド・ギア)の総称

 

 現在判明している段階で悪魔側が『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』、『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』の2種

 

 つまり、一誠とサイラオーグの『兵士(ポーン)』レグルスの事だ

 

 天界側には2番目に強いとされる『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』を持つジョーカーがいて、堕天使側はアザゼルの配下に『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』こと『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』がいる

 

 魔法使いの協会―――三大勢力と懇意にしているメフィスト・フェレスの組織に『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)

 

 三大勢力とは距離を取り、多くの魔法使いから危険視される無法者のはぐれ魔法使い集団に『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』が在籍している

 

 その他にヴァーリが持つ『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』、『禍の団(カオス・ブリゲード)』英雄派には『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』、『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』、『絶霧(ディメンション・ロスト)』の3種と言う形

 

 ただし、英雄派は機能停止してしまった為、3種の行方は知れずじまい……不気味にも、元の所有者から離れて次の宿主に移ると言う段階には至ってないそうだ

 

 所在が未だに判明していない残りの3種は―――『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』、『蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)』、『究極の羯磨(テロス・カルマ)』は三大勢力でも把握しきれていない……

 

 話によれば、『蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)』はアジュカ・ベルゼブブがその素性を捕捉しているらしいが……詳しくは調査中だと言う

 

 そうなると残るのは『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』か、『究極の羯磨(テロス・カルマ)』のどちらかである

 

 エルメンヒルデはこう答えた

 

「―――『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』です」

 

 彼女の言葉を聞いた瞬間、アザゼルは目元を更に厳しくした

 

「よりにもよって聖遺物(レリック)の1つ―――聖杯か」

 

 聖遺物(レリック)―――曹操が持っていた聖槍(せいそう)もその1つで、『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』も聖十字架の聖遺物(レリック)に該当する

 

 アザゼルが話を続ける

 

「最後の晩餐に使われたもの、イエスの血を受けたもの、聖杯ってのはとりわけ伝説が多い。だが、神器(セイクリッド・ギア)のアレはただの聖杯じゃない。神滅具(ロンギヌス)であり、生命の(ことわり)(くつがえ)しかねない代物だ。……エルメンヒルデと言ったか、不死者の吸血鬼がそれで何を求める?」

 

「絶対に死なない身体(からだ)―――。杭で心臓を(えぐ)られても、十字架を突きつけられようとも、自分の棺で眠らずとも、太陽の光を浴びようとも、決して滅びない体をツェペシュの者達は得ているのです。いえ、正確に言いますと滅びにくい体を得た―――でしょうか。聖杯の力はまだ不完全のようですから」

 

 エルメンヒルデは続けてこう加えた

 

「何も弱点の無い存在になろうとしているのです。吸血鬼としての誇りを捨てる。それだけならまだしも、あの者達はこちら側を襲撃してきたのです。既に犠牲者も出ております。これら一連の行為を私どもは決して許すつもりはございません。同じ吸血鬼として粛清するつもりです」

 

 エルメンヒルデの瞳は暗く、憎悪の色を強く帯びていた

 

 よほど吸血鬼の生き方を否定し、攻撃を加えてきたツェペシュ側の行動が気に食わないのだろう

 

「カーミラ側は吸血鬼としての生き方を否定して、襲ってきたツェペシュサイドのやり方が気に入らないって事か。まあ、攻撃されたら誰だってアタマくるわな」

 

 アザゼルの言葉にエルメンヒルデは頷く

 

「はい、その通りです。そして、私達の目的は―――」

 

 彼女の視線がギャスパーへ移り、両者の赤い双眸が邂逅(かいこう)する

 

「そちらにいらっしゃるギャスパー・ヴラディの力を借りて、ツェペシュの暴挙を食い止める事です」

 

 つまり、ギャスパーを吸血鬼同士の抗争に参戦させようと言う目論見だ

 

 リアスが冷静に訊く

 

「……それは、ギャスパーがヴラディ家の―――ツェペシュ側の吸血鬼である事と関係があるのかしら?」

 

 いつものエレガントな態度と口振りだが、新は気付いていた

 

 リアスが内心で少しずつ激情を煮えさせているのを……

 

 自分の眷属を今まで交渉に応じなかった吸血鬼の抗争に貸せと言われ、情愛の深いリアスがそれを知って黙っているわけがない

 

 それでも真意を、ギャスパーの事を少しでも知ろうと表向きは平静を(よそお)い、問いただそうとしている

 

 リアスの問いにエルメンヒルデは意味深な笑みを見せた

 

「それもあります。リアス・グレモリーさま。けれど、本当に私どもが欲しているのは、ギャスパー・ヴラディの力です。眠っていた力が目覚めたと小耳に挟んだものですから」

 

 何処でギャスパーが得体の知れない能力を発揮したと知ったのか?

 

 確かに覚醒(暴走に近い感じ)したギャスパーは上位神滅具(ロンギヌス)所有者で魔法の使い手だった英雄派ゲオルクを圧倒

 

 破格な力である事は間違いない

 

 エルメンヒルデは言葉を続ける

 

「私どもは吸血鬼同士の争いを吸血鬼の力で解決しようと思っていますわ。その為には、ギャスパー・ヴラディのお力をお借りしたいのです」

 

 リアスが眉根を寄せてエルメンヒルデに訊く

 

「……あの力は何? あなた達はそれを知っているの?」

 

 核心―――新達が知りたい事の本質……

 

 新達の視線がエルメンヒルデに注がれる

 

「……ごく(まれ)に本来の吸血鬼の持つ異能から逸脱した能力を有する者が、血族から生まれる事があります。今世においてはハーフの者に多く見られておりますわ。ギャスパー・ヴラディもその1人でしょう。カーミラに属する私どもでは、詳細を調べ上げられる程の資料を有しておりません。しかし、ツェペシュ側には手がかりになるものがあるやもしれませんわ」

 

 吸血鬼側から見てもギャスパーの力は常軌を逸した能力……

 

 詳しく知るには、やはりヴラディ家を訪問しなければならない

 

 エルメンヒルデは続けて言う

 

「そして、問題の聖杯について。所有者はもちろん忌み子―――ハーフではありますが、名はヴァレリー・ツェペシュ。ツェペシュ家そのものから生まれたのです」

 

 “ヴァレリー・ツェペシュ”

 

 その名を聞いてギャスパーが泣きそうな顔をしていた

 

「……ヴァレリーが……? う、嘘です! ヴァレリーは僕みたいに神器(セイクリッド・ギア)を持って生まれてはいませんでした!」

 

 先程までビクビクしていたギャスパーがヴァレリー・ツェペシュの名前が出た途端、人が変わったようにエルメンヒルデに言葉をぶつける

 

 どうやらギャスパーにとって大事な存在のようだ

 

 エルメンヒルデは答える

 

「生まれつきではなくとも神器(セイクリッド・ギア)とは、何かの切っ掛けで発現します。それはあなたもご存じでしょう? ヴァレリー―――彼女も例外ではありませんでした。近年覚醒し、能力を得たものと思われます」

 

 神器(セイクリッド・ギア)は知らず知らずの内に発現している場合もあり、どの歳で目覚めるかは個人差がある

 

 アザゼルが目を細め、腕を組む

 

「俺達や天界が観測、特定が済む前に隠蔽されたと思っていいんだろうな。ったく、どうしようもないな。聖なる力を嫌う吸血鬼が、聖遺物(レリック)神滅具(ロンギヌス)―――聖杯を捨てもせず、こちらに預けもしないで自分達のもとに隠すなんてよ」

 

「私もそう思います」

 

 アザゼルの言葉にエルメンヒルデも応じていた

 

 エルメンヒルデは目線をギャスパーに向け、ギャスパーはオドオドしながらも今度は真っ直ぐに視線を交わす

 

「ギャスパー・ヴラディ、あなたは自分を追放したヴラディ家に―――ツェペシュに恨みは無いのかしら? 今のあなたの力なら、それが可能ではないかと私は思うのだけれど」

 

「……ぼ、僕はここにいられるだけで充分です。部長達と一緒にいられればそれだけで―――」

 

「―――雑種」

 

 その言葉を耳にした途端、ギャスパーの顔は徐々に曇り始める

 

 それを確認してエルメンヒルデは続けていく

 

「―――混じり物、忌み子、もどき、あなたはいかような呼び名でヴラディ家で過ごしていたのかしら? 感情を共有できたのはツェペシュ家のハーフ、ヴァレリーだけ、でしたわね? ツェペシュ側のハーフが一時的に集められて幽閉される城の中で、あなたとヴァレリーは手を取り合い、助け合って生きてきたと聞いておりますわ。ヴァレリーを止めたいと思いませんか?」

 

 今まで黙していたシスター・グリゼルダが口を開く

 

「あなた方はハーフの子たちを忌み嫌いますけれど、元々人間を連れ去り、(なぐさ)み者として扱い、結果的に子を宿させたのは吸血鬼の勝手な振る舞いでしょう? あなた方に民を食い散らかされ、悔しい思いをしながらも憂いに対処してきたのは、我々教会の者です。出来れば、趣味で人間と交わらないでもらいたいものです」

 

 柔らかい物腰ながら、その言葉には毒が満載

 

 エルメンヒルデは口元に手をやり、小さく笑む

 

「それは申し訳ございませんでしたわ。けれども、人間を狩るのが我々吸血鬼の本質。悪魔や天使も同じだと思っておりますが? 人間の欲を叶え対価を得る、または人間の信仰を必要とする。我々異形の者は、人間を(かて)にせねば生きられぬ『弱者』ではありませんか」

 

 確かに悪魔は“正義”ではない、理不尽な取引で下僕にされるヒトも多い

 

 一誠も人間をやめ、悪魔として生きるしかないものの―――人と悪魔の狭間を往来している立場にいる

 

 しかし、エルメンヒルデは完全に異形側

 

 人間は糧だと割り切り、等価交換などせず一方的な狩りと断言している

 

 純血の吸血鬼は悪魔以上に血と階級にこだわり、彼らにとっては純粋な吸血鬼か、「雑種」や「忌み子」等と酷く蔑むものしかない

 

 エルメンヒルデは後ろで待機していたボディーガード役の吸血鬼を呼び、鞄から書面らしき物を取り出させた

 

「手ぶらで来たわけでもありませんわ。書面を用意しました」

 

 エルメンヒルデは書をアザゼルに渡し、それを受け取ったアザゼルは書面を見て息を吐く

 

「……カーミラ側の和平協議について、か」

 

『―――ッ⁉』

 

 今の今まで応じてこなかった吸血鬼が、ここに来て外交のカードを切ってきた……

 

 アザゼルは書類をテーブルに置いてエルメンヒルデに言う

 

「つまりだ。今日のこれは外交―――特使として、お前さんが俺達のもとに派遣されたって事だな?」

 

 アザゼルの問いにエルメンヒルデは笑みを見せる

 

「はい。我らが女王カーミラさまは堕天使の総督さまや教会の方々との長年にわたる争いの歴史を憂いて、休戦を提示したいと申しておりました」

 

 エルメンヒルデの対応にアザゼルは額に青筋を立てる

 

「順番が逆だ、お嬢さん。普通は和平の書面が先で、神滅具(ロンギヌス)の話は後だろうが。これじゃ、まるで力を貸してくれなければ和平には応じないと言っているようなもんだ」

 

 目元を妖しく細めたシスター・グリゼルダも平静を(よそお)いながら続く

 

「隔てる事なく各陣営に和議を申し込み、応じていた我ら三大勢力が、この話し合いに応じなければ他の勢力への説得力が薄まりますわね。『各勢力に平和を説いているのに相手を選んで緊張状態を解いているのか』―――と。しかも停戦ではなく、休戦ですもの。こちらの弱みを突かれた格好ですね」

 

 要約すれば、彼女達は“和平に応じてやるからギャスパーを貸せ”と上から目線で言ってきたのだ

 

 この話に応じなければリアスの体面だけでなく、魔王サーゼクスまで信用を失う

 

 更にはスイッチ姫やテロリストとの戦いで殊勲(しゅくん)を上げているので、今後の活動にも支障が出てもおかしくない……

 

 リアスがフルフルと怒りに打ち震え、ソーナ会長がリアスの手を握り、宥めるように首を横に振る

 

『……相変わらず胸くそ悪いな、この女は……ッ!』

 

 新は無言でエルメンヒルデを睨み、エルメンヒルデは嬉しそうに口の両端を吊り上げて言った

 

「ご安心ください。吸血鬼同士の争いは吸血鬼同士でのみ、決着をつけます。ギャスパー・ヴラディをお貸しいただければ、あとは何もいりませんわ。和平のテーブルにつくお約束と共にヴラディ家への橋渡しも私どもがおこないましょう」

 

 ここで一誠が(たま)らず訊いてしまう

 

「待てよ。仮にギャスパーをそっちに送ったとして、無事にこちらに返すつもりはあるのか? いや、まだ貸すとは言ってないけど! 一応その辺を訊きたい!」

 

 問いただしてきた一誠に対し、エルメンヒルデは(さげす)んだ目で見る

 

「あなたは上級悪魔リアス・グレモリーさまの下僕―――赤龍帝ですわね? あなたが特使である私に話しかける権利があるのですか? いくら赤龍帝でも権利を持っていない、ただの従僕であるのなら、私に意見する資格は無いでしょう?」

 

「―――ッ!」

 

 怒りで頭が沸騰しそうになる一誠

 

 こんな言葉を投げ付けられては直ぐに「ふざけんなっ!」と叫びたくなるだろう

 

 しかし、それをしたら全てが台無しになってしまう……

 

 権利云々(うんぬん)を持っていないにしても、明らかな上から目線での侮辱……

 

 祐斗が一誠を手で制し、リアスに目を配らせる

 

 リアスも深く息を吐いて、自分を落ち着かせようとしていた

 

『……本当に何も変わっちゃいねぇな、この腐れ吸血鬼どもはッッ!』

 

 新は憤怒の形相でエルメンヒルデを睨み付け、リアスの代わりにアザゼルが言う

 

「グレモリー次期当主の眷属1人を犠牲に、吸血鬼と休戦協定、か。お前らカーミラ側の言い分は雑な言い方をすると、こういう事だな?」

 

 アザゼルは気を利かせてリアスの言葉を代弁してくれたが、エルメンヒルデはいけしゃあしゃあと言ってのける

 

「犠牲になるとは決まっておりません。早々と決着がつけばそれに越した事はありませんわ」

 

「俺達の介入は嫌なんだろう? 両者の仲介、もしくはどちらかに加勢ってのは? 戦力不足だからこそ、ギャスパーが必要なんだろう?」

 

 アザゼルの提案をエルメンヒルデは首を横にして答えた

 

「いえ、あくまでも我々の決着は我々の手で(おこな)います。アドバイザーぐらいでしたら、いかようにも」

 

 本当に身勝手極まりない……っ

 

 自分達の領域、価値観以外はどうでも良い

 

 忌み子やハーフだろうと有用ならば対立側の出身者でも使う

 

 迫害しても半分吸血鬼ならば使う

 

 何処までも理不尽と矛盾にまみれた種族だ……

 

 次にエルメンヒルデの視線が新に向けられる

 

「そちらの方もリアス・グレモリーさまの下僕でしたね? 確かバウンティハンターだとか……。正直に申しますと私は驚いています。我々吸血鬼を敵視している者が多いバウンティハンターを眷属にするとは……情愛の深いリアス・グレモリーさまは大変貴重な逸材を得て、羨ましい限りです」

 

「……それは褒め言葉と受け取って良いものかしら?」

 

「もちろんですわ。ハンター協会は永きに(わた)って吸血鬼と争ってきた―――謂わば怨敵(おんてき)のようなモノですからね。その出身者を眷属に引き入れるリアス・グレモリーさまの巡り合わせの良さ……是非とも見(なら)いたいものです」

 

 最後に新達全員を見渡した後、エルメンヒルデは立ち上がる

 

「以上ですわ。今夜はお目通りできて(さいわ)いでした。何よりも、自分の根城に吸血鬼を招き入れると言う寛大なお心遣いに感謝致しますわ、リアス・グレモリーさま」

 

 エルメンヒルデのわざとらしい氷の微笑にリアスは憤怒の形相となり、瞳は怒りに(たぎ)っていた

 

「……ええ、今日は貴重な会談が出来て良かったわ。あなた達の事がよく分かったものね」

 

「それでは、ごきげんよう。この地に従者を置いていきます。何かありましたら、その者に取り次いでください。―――では、良いご報告をお待ちしております」

 

 リアスの最後の最後に吐き出した嫌みをものともせずに、闇の住人達はこの旧校舎をあとにしようとする

 

 その時、エルメンヒルデが急に足を止めた

 

 皆が怪訝そうに(うかが)っていると……エルメンヒルデの口から驚きの言葉が出る

 

「そちらのバウンティハンターさま。あなたにお見送りをお願いしたいのですが、よろしいかしら?」

 

「―――っ?」

 

 突然のご指名にキョトンとする新、リアス達の視線が新に向けられる

 

 いったいどういうつもりなのか……?

 

 

―――――――――――――――

 

 

「……どういう風の吹き回しだ、エルメンヒルデさんよぉ?」

 

 エルメンヒルデから突然見送り役に指名された新は、歩きながら怪訝(けげん)な眼差しで彼女に問い(ただ)していた

 

 彼女のボディーガードたるヴァンパイア2人は新の様相に警戒し、殺気を強めるが……エルメンヒルデが手で制止して言う

 

「あら、私のご指名に何かご不満でも?」

 

「不満もクソもあるだろ。さっきは散々バカにしておきながら、わざわざ見送り役に俺を指名するなんざ怪しさ満載だ。……何を(たくら)んでやがる?」

 

「企むだなんて人聞きの悪い。貴族のレディをエスコートするのは殿方の役目でしょう? たとえ……それが下賎(げせん)で卑しいハンターの出身で、一介の中級悪魔でしかないあなたであってもね」

 

 あざとく嫌味を含んだ笑みを浮かべるエルメンヒルデ

 

 新はフンッと鼻息を鳴らして、さっさと見送り役を果たそうと歩みを進めていく

 

「それにしても……あなたの(あるじ)さまも随分と変わったご趣味になりましたわね。私達を敵対視しているバウンティハンターを飼うなんて」

 

 エルメンヒルデの侮蔑とも取れる言葉に新が足を止め、「……今、何て言った?」と視線を向けずに訊く

 

 エルメンヒルデは高圧的な態度で更に続けた

 

「失礼、お気に(さわ)ったかしら? でも、私は事実を述べただけですよ? 吹き溜まり出身の低俗な野良犬を眷属に加えるだなんて……噂以上に寛容な精神をお持ちのリアス・グレモリーさまに、敬意を払って差し上げているだけですわ」

 

「俺には“リアス・グレモリーが悪趣味”としか聞こえないんだが?」

 

「そう聞こえるのは、あなたの中から下賎な価値観が抜け出ていないからではなくて? いくらハンター協会出身の野犬であろうと、牙を向ける相手を(わきま)えるぐらいの事は出来て当然ではありませんか。ですが……会談中でもあなたは、微少と言えど常に怒気を放っていましたわ。さすがの私も緊張してましたよ? ……いつ、この野犬が噛み付いてくるのかと。そんな事になればリアス・グレモリーさまの面目は丸潰れ、今夜の会談も破談になっていたでしょう。野犬の(しつけ)は大変ですからね、リアス・グレモリーさまのご苦労が目に見えてきますわ」

 

 丁寧に言い換えようが早い話、エルメンヒルデは遠回しにリアスを侮辱しているのだ

 

 エルメンヒルデのあからさまな侮辱はまだ続く……

 

「吹き溜まり出身の野犬は本当に礼儀知らずで野蛮な俗物が揃っていましたもの。話には聞いていましたが、実物を見るまではとても信じられませんでした。私としては今夜の会談すら危険と進言したのですが……状況が状況ですので、カーミラさまの意向を汲んで差し上げなければなりません。カーミラ派の為にもね。しかし……それも杞憂(きゆう)に終わって幸いでした。見事に野犬を手懐(てなず)けたものですわ。それだけリアス・グレモリーさまの(しつけ)―――ご教育がよろしかったのでしょう」

 

 いくら最後に褒めようとも、大半が皮肉と嘲笑、侮蔑に染まっているので新の神経を逆撫でするだけだった……

 

 ここでエルメンヒルデに掴みかかれば、最悪の事態は(まぬが)れない

 

 だが、ここまで(けな)されて黙っている程……新も大人ではなかった

 

「……お漏らしエルメのくせに」

 

「――――っ⁉」

 

 新の一言を聞いた途端、エルメンヒルデの顔が真っ赤に染まり、彼女が口元をひくつかせて問いただす

 

「あ、あなた……まだその事を……っ! まさか、周りに言いふらしたりしていないでしょうね……っ⁉」

 

「安心しろ、俺はお前らみたいに弱味を突いてマウントするような悪趣味なんざ持っちゃいねぇよ」

 

「野蛮なハンターの言う事を素直に信じると思いますか⁉」

 

「アレアレ~? 高貴な貴族で純血の吸血鬼さまは“一介の中級悪魔”でしかない“野犬(バウンティハンター)ごとき”のつまらない独り言1つで癇癪(かんしゃく)を起こすのかぁ? それってある意味―――“人間以下の弱者”がやる行為だと思うけどなぁ。貴族・純血の吸血鬼さまはモ・チ・ロ・ンッ、そこら辺を(わきま)えてくださってるんだろう?」

 

 意趣返しと言わんばかりに新はエルメンヒルデにとって痛いところを突っつきまくる

 

 エルメンヒルデは「グヌヌ……っ」と今にも怒りが沸騰しそうになるが、2人の付き人に落ち着くよう説得され……深く息を吐く

 

 新は少しスッキリしたところでエルメンヒルデに警告する

 

「お前、忘れてねぇだろうな。5年前に何が遭ったのか……」

 

「―――っ。忘れる筈がありませんわ。あなたも当事者ですからね」

 

 エルメンヒルデが苦い表情で言う

 

 先程は触れていなかったが、新は5年前にバウンティハンターの任務でルーマニアに渡り、そこで吸血鬼とも接触していたのだ

 

 その時にエルメンヒルデと少なからず知り合っていたので、会談に彼女が来た時は非常に嫌な顔をしていた

 

 新が話の続きを切り出す

 

「ああ、吸血鬼とバウンティハンターの全面戦争みたいなものだったからな。両陣営ともに悲惨・散々な痛手を負ったが、何とか全滅による共倒れは免れた……。そんな大惨事があったからこそ、お前も何かしら改めてくれるかと内心では期待していたが―――見事に変わっちゃいなかった。呆れを通り越して笑っちまったよ」

 

「何がおっしゃりたいの?」

 

「……バサラ・クレイオス、次にヤツが動き出せば間違いなく―――お前ら貴族・純血のヴァンパイアは滅ぼされるぞ」

 

 バサラ・クレイオスの名を出した途端、エルメンヒルデの顔が青褪める……

 

 その怯え方は尋常ではなく、先程までの高圧的な態度が嘘に見えるぐらいの様相だった

 

 エルメンヒルデが恐る恐る訊いてくる

 

「あ、あの男が……また……っ?」

 

「お前らも知ってる筈だ。今のアイツは当時よりも凶悪な強さになってやがる。それだけならまだしも―――今や造魔(ゾーマ)と言う大組織を束ねるイカレた野郎だ。オマケに情報網も広いときた。もし、この会談の内容を聞かれでもしたら……間違いなくアイツの怒りを買う事になる。アイツはお前らみたいな連中を酷く嫌悪しているからな」

 

 エルメンヒルデは(たま)らず辺りを見渡すが、気配が感じられないと分かるや否や―――ホッと胸を撫で下ろす

 

 「も、もし仮にあの男が来たとしても……三大勢力が放っておかないでしょう? 今は三竦みの時代と違って天使・悪魔・堕天使が手を取り合っているじゃないですか」

 

「確かにそうだが、ヤツにそんな事情は関係ねぇよ。アイツは殺ると言ったら必ず殺る……それが胸くそ悪い吸血鬼相手なら尚更だ。三大勢力全てを敵に回してでも、肥えた貴族・純血の吸血鬼を滅ぼしに来るだろうよ」

 

 バサラ・クレイオスと言う怪物(おとこ)をよく知っているからこそ、説得力に満ちた警告を(うなが)せる……

 

 冗談が微塵も感じられない新の目付きを見て、エルメンヒルデは息を呑み込む

 

 「……まあ、良いですわ。あなたなりのご心配と受け取ってあげましょう。我々の方でも警戒を(おこた)らないように進言しておきますわ」

 

「あくまで上から目線かよ……。その見下し体制が“5年前の全面戦争”の引き金になった事をどうして理解しない―――いや、理解しようともしねぇんだ? 一方的に人間を狩り、(もてあぞ)び、他を見下していけば周りに敵を作り過ぎてしまう。それを後先(かえり)みずに横行させた結果―――手痛いしっぺ返しを食らった」

 

「……あなたこそ、私腹を肥やす為に身勝手を続けてきた野良犬のくせに……!」

 

「ああ、偉そうに能書きを垂れちゃいるが……俺も昔は吸血鬼を(ほふ)ってきた身だ。けどなぁ、それでも覚悟を決めてやって来たんだ。『撃って良いのは、撃たれる覚悟がある奴だけ』―――それを(きも)に銘じてきた。お前らはどうだ? 貴族だの純血だの、家柄や血筋の伝統にかまけて、自分達は“人間を糧にしなければ生きられない弱者”と言う立場に調子付いて、覚悟なんざ微塵もしていなかった。世間じゃ吸血鬼は他との接触を拒んでいるって言うが……俺はそうと思わねぇ」

 

 新はエルメンヒルデをジッと見据えて、ハッキリと告げた

 

「吸血鬼が拒んでいるんじゃない。その逆―――吸血鬼が他から拒まれているんじゃないのか?」

 

「……っ!」

 

 新の言葉にエルメンヒルデは口元を歪ませ、ワナワナと震え出す

 

 ボディーガード役のヴァンパイア2人が殺気を強めて新に掴みかかろうとするが……エルメンヒルデは「結構です」と(いさ)める

 

 エルメンヒルデが面白くないと言った表情で新を睨む

 

「……吸血鬼の時世を何も知らない野良犬が、よく言えたものね」

 

「ああ、野良犬だからな。箱入り種族のご時世なんざ知らねぇよ。だが、これだけは言える。“吸血鬼”と言う種を根絶させたくないなら……その姿勢を改めろ。さもないと本当に滅びるぞ」

 

「……ふんっ、一介の中級悪魔風情に言われなくても承知していますわ。アドバイスとして受け取ってあげますわよ。では、そろそろ失礼させていただきますわ。念の為に言っておきますけれど……あなたの無礼な態度や言動を許した覚えはありませんからね? 本来ならあなたも赤龍帝と同じくただの中級悪魔に過ぎない従僕、少しは身の程を(わきま)えてください」

 

「分かりましたよ。お漏らしエルメさま」

 

「あと、その呼び方も金輪際やめてくださらないっ⁉」

 

 立ち去ろうとしたエルメンヒルデが再び顔を真っ赤にして新に抗議を飛ばし、彼女はやむ無く(きびす)を返して駒王学園(くおうがくえん)を去っていった

 

 エルメンヒルデ達が去った後、新は「はぁ~っ」と深い溜め息を吐き、(こうべ)を垂れて一言呟く

 

「俺もまだまだガキだよな……」

 

 

――――――――――――――

 

 

『クックックックッ……ハッハッハッハッハッハッハッ。竜の字もなかなか良い事言うじゃねぇか。殺気を消して覗き見した甲斐があったぜ。それにしても……やっぱ吸血鬼どもは何も変わっちゃいなかったな。ここまで来るとある意味アッパレもんだぜ。見下すしか能が無い吸血鬼(クソ)どもは何も学ばねぇ。バカは死ななきゃ治らねぇってよく言うけどよ、ありゃデマだったな。本物のバカは―――死んだとしても治らねぇんだ。だったら……滅ぼすしかねぇよなぁ? 今まで()られる覚悟を決めてこなかった吸血鬼どもに俺が教えてやるよ。狩られる側の恐怖ってヤツをなぁ……』

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