ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

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気付けば半年以上経過……。これはアカン。


兵藤一誠と幽神正義、2人を合わせれば迷コンビ、『イッセーギ』の誕生だッ!?(中編②)

「あの〜、ジュビアさん。私にお話って何でしょうか?」

 

 白が映えるガーデンチェアーに座り、色がお揃いの円卓テーブルの上に置かれたドリンクを一口飲んだアーシアが訊いてくる。ジュビアはドリンクの中に浮かぶ氷をストローで回し、同じく一口飲んでから話を切り出す。

 

「アーシアさん、あなた……正義さまの事をどう想っています?」

 

「……え? それってどういう―――」

 

「聞きましたよ? 正義さまから愛ノッ、愛の告白をサレタと……ッ。それはもうジュビアからすれば嬉しさ100倍で狂喜乱舞したくなるようなハッピーイベントデス……ッ。あなたはそんなラッキーでハッピーなアピールを受けマシタッ! にも! にもかかわらずぅっ!」

 

 最初は嫉妬心に(まみ)れて狂いそうになったジュビアだったが、途端に(しぼ)むように怒気を弱らせる。

 

「……正義さまは、あなたからのお返事を自ら放棄したそうじゃないですか。それを聞いた時、ジュビアの頭は疑問でいっぱいになりました。『どうして、そのような事態になったのか?』―――『どうして、正義さまが自ら諦めるような言動をなさったのか?』―――そして何より、あなたは正義さまをどう思っているのですか?」

 

 ズイッと身を乗り出して問い(ただ)すジュビア。アーシアは突然投げ掛けられた質問に目をパチクリさせるが……ジュビアの真剣な眼差しを見て、如何に重要な話かを悟り―――自分なりに答えを出す。

 

「そう、ですね。最初は怖い人だと思いました。でも、とても悲しい目をしていた事に気付きました……。私よりも悲しくて、苦しくて、ツラい目に遭ってきたのが痛いぐらいに伝わって……っ。だから、あんな(かな)しい目をした人を放っておけなかったんです……っ。私の悪い(くせ)みたいなものです」

 

「クセ、ですか?」

 

「困っている人、苦しんでいる人、救いを求めてる人を見ると……どうしても放っておけないんです。だから、幽神さんも……何とかしてあげたいと思ったんです。私のワガママでしかないですけど、少しでも気持ちを(やわ)らげる事ができるなら、私はお力添えしたい―――支えたいんです。イッセーさんが私にしてくれたように、1人でも多くの人々が笑顔で過ごせるようになれるなら……私は迷わず手を差し伸べます」

 

 アーシアは自分なりの答えをジュビアに聞かせた。嘘偽り、思惑、打算など一片も感じさせない、本心から出された答えにジュビアは言葉を失い、感銘を受けた。

 

『……とても嘘を吐いているようには見えません。とても慈悲深く、温かい優しさに満ち溢れた目……っ。正義さまがアーシアさんに告白したのに、(みずか)ら身を引いた理由―――何となく分かる気がします……っ』

 

 確かに幽神正義はアーシアに惚れていた。出来る事ならアーシアの(そば)に居たい、アーシアと共に過ごしていきたいと思ったのだろう。だが、自分ではそれが出来ないと悟った……。

 

 今まで負に満ちた人生を歩み、人の心を捨てかけた幽神正義には……アーシアの隣に立つ資格が無いと気付いてしまった。そして今―――アーシアの傍には一誠がいる。自分とは真逆で、泣いてる女の子を決して放っておけない(一誠)が……。

 

 だからこそ、アーシアの隣には居られない……その資格が自分には無い事を悟り、身を引いた。その役目を一誠に託したと言っても過言ではない。正義本人が導き出した答え―――。

 

 それからジュビアはもっとアーシアの事を知るべく、話を続けた。アーシアもこれまでの経緯を話していった。自分の生い立ち、ツラく苦しい過去、一誠との出会い、その後の生活等々(などなど)―――嫌な顔一つせずに話してくれた。話を終えた時、気付けばジュビアは号泣していた……。

 

 自分よりも遥かに重い人生を歩み、それでも自分の信条を捨てず、健気に……ひた向きに生きている。そんなアーシアを一方的に(ひが)み、ちっぽけな嫉妬を(いだ)いていた事を大いに恥じた。

 

「ジュジュジュビィィィィィィィ……ッ! ジュビません……ッ! 今の話を聞いて、泣いてしまいましたァァァ……ッ。まさか、あなたにそんなツラ過ぎる過去があったなんて……ッ! ジュビア、穴があったら入りたいぐらいですゥゥゥゥッ!」

 

「はゎぁっ!? す、すみません! せっかくの親睦会なのに、こんな話を聞かせちゃって……」

 

「いいえっ、ジュビアの方こそ申し訳ないです! こんな清純と慈悲と優しさの塊とも言えるアーシアさんを疑い、妬み、嫉みの感情のみで見ていたジュビアが恥ずかしいです! ディオドラくんの件も、トレミーくんの件も重ね重ね申し訳ありませんでした! アーシアさんっ!」

 

 ジュビアは今までの言動を改めつつ、アーシアの手をギュッと握る。テンションの移り変わりに戸惑うアーシアだったが、ジュビアは強い決意を孕んだ眼差しで言う。

 

「ジュビアは決めました! ジュビアはアーシアさんの恋を全力で応援しますっ! そして、正義さまの中に未だ残っているかもしれない哀しみを全て払拭してみせますっ! ですので、アーシアさん! これからはジュビアの事も頼りにしてくださいっ! たとえ何が起ころうと、世界の全てが敵になろうと! ジュビアもアーシアさんの味方になりますっ!」

 

 ジュビアの目には一切の(よど)みも(にご)りも無い。アーシア・アルジェントの優しさ、健気(けなげ)さに触れ、彼女の不遇過ぎた過去に邪念を打ちのめされ、自分の認識の至らなさを恥じた。

 

 ディオドラの一件(しか)り、トレミスの一件(しか)り、ジュビアはアスタロト家の息女として誠心誠意を込めてアーシアに謝罪し、償いの意を示す。その思いが伝わったのか、アーシアは優しい微笑みを見せてくれる。

 

「ジュビアさん、ありがとうございます。私にもジュビアさんの事を応援させてください。ですので、改めて……私とお友達になっていただけますか?」

 

「ジュビーンッ! 勿論です! ジュビアは恋する乙女の味方ですっ! こちらこそよろしくお願いします!」

 

 こうして親睦会にて新しい友情が芽生え、ジュビアのアーシアに対する確執(一方的な嫉妬)は取り除かれたのだった。重苦しさから一変、(ほが)らかな空気に満ちたところでジュビアが新しい話題を切り出す。

 

「ところでアーシアさん。お聞きしたい事があるんですが」

 

「はい、何でしょう?」

 

「意中の男性のハートを射止める方法の1つとして―――『裸エプロン』と言うモノをご存知ですか?」

 

「―――ッ!? はい……っ」

 

「アーシアさんは……その『裸エプロン』を実践した事がありますかっ!?」

 

「…………ありますっ」

 

「ジュビッ!!? 本当ですか!?」

 

「イッセーさんがお好きなものでしたので、恥ずかしいですけど……頑張って『裸エプロン』しました……っ」

 

「ァワワ……アーシアさんって意外と大胆ですね……っ。ジュビアも『裸エプロン』を実践したら、正義さまは喜んでくれるでしょうかっ!!?」

 

 ※喜ぶどころか間違いなく死にます。だから、やめなさい。

 

「きっと、嬉しいと思います! イッセーさんが言ってました。『裸エプロンの女の子を嫌う男はいないっ!』って」

 

 ※アーシアも止めなさいよ。死人が出るから。

 

「い、色はどんなのが良いでしょうか!? あとフリルが付いたエプロンの方が―――」

 

「そうですね。あと、お料理の方も大切だってイッセーさんが隠してた本に載ってました。ジュビアさんもお料理を―――」

 

 突如、アーシアとジュビアの間で始まった『裸エプロン談義』。恋する乙女2人の話し合いはキャッキャウフフと盛り上がり、ジュビアはいつの日か『裸エプロン』の実践を心に誓ったのだった。

 

 そんな彼女達を食い入るように、そして獲物を見つけた獣のように暗殺者どもが周りを囲んでいる事も知らずに……。

 

『ナンバー(よん)、配置完了』

 

『ナンバー(さん)、準備良し』

 

『ナンバー()、いつでもOK〜♪』

 

『…………(問題無い)』

 

 取り囲むのは暗殺組織『名無し(ノーネームド)』の上位者4名。同業組織の『アンサツファイブ』と結託し、本来の標的である一誠と正義への抑止力として、アーシアとジュビアを捕らえるべく別行動を取っていたのだ。そして、難無く彼女達を見つけ―――既に襲撃態勢を整えた。小型の通信機を介して、それぞれの準備が完了したのを告げ合う。

 

 ※ちなみにナンバー(いち)は複数の呪いの武器を体内に埋め込んだ代償で喋る事が出来ない為、ハンドサインで意思を伝えている。

 

『では、手筈通りにやるか』

 

『我ら4人で同時に襲撃』

 

『1人、2人がやられても構わず』

 

『…………(任務を遂行する)』

 

 気配を殺し、音すら発さない動きでジリジリと距離を潰していく。

 

『恨みは無いが』

 

『必要であれば手足をもぎ取る』

 

『抵抗はご自由に』

 

『…………(だが、貴様らは単なる獲物)』

 

 アーシアとジュビアの四方を取り囲むように位置取り、襲撃の時が来たる……ッ。

 

『『『『我ら4人の同時攻撃から逃れる(すべ)は無いッ!』』』』

 

 名も無き暗殺者達が、アーシアとジュビアに牙を剥く……ッッッッ!!?

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 その頃、一誠達……否、一誠はビーチボールバレーにて(たわむ)れる女性陣営を嬉々として眺めていた。審判は幽神正義が務めている。

 

 ビーチボールバレーとはそれぞれ4人ずつのチームに分かれて、ネット越しにボールを打ち合う―――要するにバレーボールの縮小版とも言える。ちなみにチーム分けはイッセーチームが『ユキノ&ソラノ姉妹、チェルシー、ディマリア』。幽神チームが『リント、ヒメガミ、フローラ、シャルル』となっている。

 

 すぐそばのベンチにて一誠、幽神兄弟の弟・悪堵(あくど)、ウェンディが座って見学と言う体勢である。

 

「ソラノお姉さまっ!」

 

「ナイスだゾ、ユキノ! くらえぇっ、ソラノ式エンジェルアタックだゾぉっ!」

 

「おっと、どっこい! なかなかやるッスねぇ! んじゃ、こちらもスペシャルな動きで行きましょうかぁ!」

 

「フローラ、私達も負けてられないわよ!」

 

「そうね、私達の華麗な連携プレイを見せてやりましょう!」

 

 激しく言葉を交わし合い、凄まじい勢いでビーチボールを打ち合う両陣営。彼女達も一誠達同様、身体能力が常人の域を遥かに超えているので普通ではあり得ない威力のボールを繰り出す。

 

 打つ(たび)にボールがひしゃげ、考えられない速度で相手チームのコートに突き刺さろうとする。それを阻止する度に衝撃が走り、空気も振動する。

 

「こ、これがビーチボールですか……っ? こんなに激しいスポーツを……っ」

 

「いや、俺達が知ってるビーチボールじゃねぇよっ」

 

 初めて見たビーチボール(?)の壮絶さに戦慄するウェンディと、真顔でツッコみを入れる悪堵。その2人を尻目に一誠はグヘヘな変態顔で試合……否、正確には女性陣の肢体を眺めていた。

 

 ボールをサーブ、レシーブ、トス、アタックする度に激しく揺れる―――たわわな果実(おっぱい)達。ユキノとソラノの姉妹おっぱいは勿論、ディマリアのおっぱいも派手に暴れ、チェルシーのジャストサイズおっぱいも揺れを主張してくる。

 

 新体操の如くアクロバティックな動きでボールを返し続けるリント、華麗な連携プレイで魅せるヒメガミとフローラ。そちらの三者も激しい動きをする為、その度に健康的なおっぱいが上下左右に激しく揺れる。7人の様々なおっぱいが揺れ動く中、ただ1人―――シャルルは神妙な顔付きで傍観していた。

 

「何この場違い感、疎外感……?」

 

 自分の慎ましやかな胸に手を当て、脅威の……いや、胸囲の格差社会を思い知らされたシャルルから暗く沈んだオーラが滲み出てくる。しかし、そう思ってるのは1人だけじゃなかった……。

 

『皆さん、凄く……プルンプルンって揺れてますぅ……っ。やっぱりお胸の差でしょうか……っ?』

 

 ウェンディも激しく揺れ動くたわわなおっぱいに羨望の眼差しを送っていたが、若干涙目だったのは言うまでもない。

 

『これが……これこそがっ、夢にまで見たおっぱいのワンダーランドやぁ……ッッッッ!』

 

 一誠は心中で狂喜乱舞しながら、揺れ動く女性陣のおっぱいを凝視し続ける。普段ならば長時間眺めていても(とが)められる事は無いだろう。しかし、今回ばかりは違う……。

 

 何故なら―――良からぬ気配の察知に厳しい(幽神正義)がいるから………。

 

「んじゃ、行くっスよ! 教会式スピントルネードアタックっスッ!」

 

「だったら、こっちもだゾっ! 姉妹式エアリアルブロッークッッ!」

 

 ネット際での攻防。リントが跳んでスパイクの体勢、ソラノとユキノ両名が跳んでブロックの体勢を取る。その間にも三者三様のおっぱいが揺れる揺れる。一誠の視線が釘付けになろうとした刹那―――。

 

「―――ッッッッ!」

 

 審判役の正義が宙を(ただよ)うボールに鋭い蹴りを打ち込み、ボールは形をひしゃげさせてから超スピードで一誠の方へ飛んでいく。まるで自我を持ったかの如く縦横無尽かつ不規則な動きを見せながら……っ。

 

「ブヮァッベェシィッッッッ!!?」

 

 そして、右サイドから一誠の顔面に激突! しかし、それだけでは終わらない……。交通事故さながらの激突を果たしたボールは弧を描くように逆側へ回り込み―――再度激突!

 

「ヒィデェブュゥッッッッ!!?」

 

 更に同じような軌跡で正面へ回り込み、回転を増したボールはそのままストレートに一誠の顔面に吸い込まれていった。

 

「ァタックナンバヮンッッッ!!?」

 

 激突した瞬間、ボールは小気味良い音を立てて破裂! そのインパクトも相まって一誠は海老反るように宙を舞い―――背中から落下していった……。一誠の顔には痛々しいボール痕が刻まれ、破裂したボールの残骸が一誠の周りに散らばる。

 

 そして正義()は最後にこう告げた。

 

「スマンな、足が滑った」

 

「ダウトォ゙ッ! その発言ダウトォ゙ッ! 明らかに足が滑ったなんてレベルじゃなかったぁっ!」

 

「皆、すまない。兵藤の顔に毒虫がいたような気がしたんだ。なので、ボールを使って退治しようとしたら破裂させてしまった」

 

「俺ごと退治する気満々だったよなぁ!!?」

 

「今から新しいボールを調達してくる。行くぞ、兵藤」

 

「えっ、なんで俺まで? お前が破裂させたんだから1人で行けば良いだろう!?」

 

「無論、俺にはボールを破裂させた責任があるから行く。兵藤、貴様にも足の裏のような顔面でボールを破壊した責任がある。だから来い」

 

「足の裏のような顔面って何!? 俺の顔は誰かの足の裏みたいな見た目だと言いたいのかっ!?」

 

「さっさと行くぞ。それとも何だ、貴様自身が新しいボールになりたいか? まあ、俺はそれでも構わんぞ。何の躊躇も容赦も無く蹴れるからな」

 

「イキマスよ! 行けば良いんだろ、行けば! チクショウッ! せっかくのパラダイスなのに、なんでこんな目に遭わなきゃならないんだ……っ!」

 

 一誠は悔し涙と鼻血を垂らしつつ、新しいボールを調達するべく目の前のパラダイスから離れざるを得なかった。その時、ユキノが「私も一緒に行きます」と進言したが……正義が「俺達2人の責任だから大丈夫だ」と制止する。

 

 パラダイスから離れて数分後、未だにガックリと項垂(うなだ)れたまま歩く一誠。その前をズカズカと歩む正義がピタリと足を止める。

 

「何だよぉ……幽神ぃ……っ。俺を桃源郷(おっぱいワンダーランド)から遠ざけただけじゃ飽き足らず、更に深傷(ふかで)を負わせようって魂胆か……? そっちがその気だってんなら、もうヤケクソだ! お前をブッ飛ばして俺はパラダイスに戻るぞ!」

 

「……兵藤、貴様は本当にお気楽な脳ミソをしているな。現在進行形で起きている異変に気付かんとは」

 

 突然の言葉に一誠は頭を起こし、直ぐに「どういう事だよ?」と正義に問い(ただ)す。正義はこう答えた。

 

「まだ分からないのか? 周りを見てみろ。あまりにも静か過ぎる。つい先程までは他の客や従業員を絶えず見かけていたが、今では人っ子1人見当たらない。これで気付かないほうがどうかしてるだろう」

 

「……あっ、言われてみれば確かに! でも、どうしてこんな事に?」

 

「簡単な話、俺達を狙っている不届き者が施設内に潜んでいるんだ。そいつがこの静寂過ぎる空間を作ったと言う事だろう。全く大した度胸だ。兵藤はともかく、俺を相手に大掛かりな仕掛けを施してくるとは。よほど自信に満ちた玄人(くろうと)か、もしくは智謀(ちぼう)が足りな過ぎる素人(しろうと)の二択だろうな。コレが俗に言う『(かも)(ねぎ)を背負って来る』ってヤツか」

 

「俺達を狙ってくるとか命知らず過ぎる……。もうネギどころか鍋も持参して、自分から鴨鍋にしてくださいって言ってるようなものだよな」

 

「ならば、お望み通り鴨鍋にしてやろうじゃないか。誰を敵に回したか後悔させてやる」

 

 まだ見ぬネギを背負った鴨(不届き者)に対して珍しく毒づく一誠と、悪役顔負けの表情を作る正義。警戒心を高め、周囲を余す事無く注視する2人だが―――早くもその時が(おとず)れる。

 

「ハァ~ァッァッァ〜イ♪ そこのお二人さんっ。ちょぉ〜っと止まってくれるかしらぁ〜ん?」

 

 いきなり聞こえてきたオカマ声の方向に視線を向ける一誠と正義。視線の先にいたのは身長が(およ)そ190cm前後、七色に彩られた髪を逆立て、白塗りの顔に三日月や星のマークを描き込まれた―――見ただけでピエロだと分かる様相の男だ。

 

 珍妙な人物が目の前に現れた事で正義の表情は(しか)めっ面に変わり、一誠に抗議を飛ばす。

 

「兵藤、貴様の人脈にロクな奴が居ないのは分かりきっていた事だが……交友するべき相手ぐらい選んだ方が良いぞ。親を悲しませる気か?」

 

「お前からそんな哀れみを向けられるとは思わなかったぞ!? それにいくら俺だって、あんな珍妙超えた珍獣じみた知人は―――いや、約1名いるわ。魔法少女に憧れる世界最強の(おとこ)()が……」

 

「何だそれは、貴様以上の変態生物がこの世に存在するのか?」

 

「アレはもはや次元すら超えた変人と言っても過言じゃないからな……」

 

「……少し貴様が不憫だと思ってしまった俺は異常か?」

 

「いや、異常じゃない。ただ……変に慰められると余計に気が滅入るだけだからやめてくれ」

 

「分かった、何も言うまい。とりあえず目の前にいる珍獣もどきが貴様の知人ではない事が分かった」

 

「ちょっとちょっとぉ。個性的で前衛的なファッションに染まったあたしを珍獣だなんてぇ、失礼ぶっこいてくれちゃうじゃな〜い? 自分達が今どんな状況に(おちい)ってるか、分かってないわけぇ?」

 

 一誠と正義の漫才(?)に横槍を入れるオカマピエロ。あからさまな挑発に正義は眉根を寄せた。

 

「どんな状況だと? 度し(がた)い珍獣もどきにダル絡みされたとしか言えないんだが?」

 

「んぅもぉぅ! ホント失礼無礼な獲物ちゃんねぇ! あなた達はあたしら暗殺団―――『アンサツファイブ』が飛躍的に出世する(いしずえ)として選ばれたのよぉ。あなた達の首を手土産に『アンサツファイブ』は出世街道を闊歩(かっぽ)するのよぉっ!」

 

 オカマピエロはクネクネと体を動かし、それに合わせて七色の髪もわさわさ揺れる。いつまで珍妙な動作を見せ付けるつもりだと心中で毒づく正義など気にせず、オカマピエロが自信満々に口を開く。

 

「おっと、自己紹介が遅れちゃったわねぇ。さっきも言った通り、あたしは暗殺団―――『アンサツファイブ』の一員! 稀代(きだい)の奇術師ことジョルジョ・ピエール・オッカマスよぉっぉっぉおぉん! よろしくね、赤龍帝(せきりゅうてい)の兵藤一誠ちゃぁんっ♪『地獄兄弟(ヘル・ブラザーズ)』の幽神正義ちゃぁんっ♪」

 

「名前の適当感が半端無いな……」

 

「名付け親を恨んでるなら、弁護士の1人ぐらいは紹介してやる」

 

 一誠と正義は(あわ)れみに満ちた目線を向けるが、オッカマスはそんな視線など眼中に無いと言わんばかりに話を進める。

 

「さあさあさあっ♪ まずは自己紹介ついでにあたし御自慢の手品を1つ、お見せしてあげるわぁん。取り出すのはぁ、何の変哲も無い綺麗なハンカ―――ヂィヴュェィャァァッッッッ!!?」

 

 突如オッカマスが悲鳴を上げる。その原因は―――既に正義が彼との距離を潰し、強烈な飛び膝蹴りを顔面へ叩き込んでいたからだ……。一瞬にも満たない早業にオッカマスだけでなく、一誠も驚愕するしかなかった。

 

「えぇっ!? いつの間にぃ!? だって、まだ横に幽神がいる―――残像ッ!?」

 

 そう、一誠の隣に居たのは幽神正義の残像だった……。それにしても正義の速度は常識の範疇を超え過ぎている。一見すれば、オッカマスの眼前に“2人めの幽神正義が出現した”かのような不可解現象が起きたと見紛う程だ……。

 

 一誠が仰天してる間にも正義は蹴り飛ばしたオッカマスの毛髪を掴み、ズルズルとプールサイドへ引きずっていく。そして、何の躊躇も容赦も無くオッカマスの顔面をプールの水に漬け込んだ。

 

「ガボぼっ!? グュヮェボボルュボボボッ!!? ゴッボッブベッバヮルァベェブュボボボッ!!?」

 

「ええぇぇ……っ。眉一つ動かさず水責めって、本当に鬼だなアイツ……っ」

 

 (しばら)くすると(幽神正義)はオッカマスの顔面を水面から離し、睨みを利かせる。オッカマスは咳き込んで水を吐き出して抗議を飛ばす。

 

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!? このあたしが御自慢の手品を見せてあげるって言ってるのにっ、いきなり攻撃してくるとか非常識じゃないのよぉっ!?」

 

「寝言をほざくな。貴様は(みずか)ら暗殺者と公言したんだぞ。そんな(やから)一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)を黙って待つバカが何処にいる? その手品とやらも、俺達を攻撃する手段と捉えるのは至極当然だろうが。例えるなら『今からあなたの顔面を攻撃しま〜す♪』と言ってくる相手に対して、『はーい、分かりました〜♪』とマヌケな返事をしてノーガードで棒立ちするようなものだぞ」

 

「そもそも暗殺者が常識を語るのもおかしいよな……」

 

 正義と一誠の指摘はごもっともである(笑)。それでもオッカマスは何故か弁論を止めない。

 

「いやいやいや! 手品は謂わば、あたしにとってもう1つの自己紹介なのよ!? それを無視して乙女の顔に膝蹴りとか、人の道に反してるわよっ!?」

 

「殺しを公言してる輩が人の道を()くだと? ここまで突出した勘違いを堂々とほざかれると、いっそ清々(すがすが)しいな。貴様のような珍獣もどきが女ならば、動物園で飼育されているカバどもは紳士淑女になるぞ」

 

「そうやって先走って結論を急がせるのは良くないわよぉ! そんなせっかちだと女の子に嫌われちゃガボボボボボォッ!!?」

 

「貴様のような珍獣もどきに色恋沙汰を心配される筋合いなど無い」

 

 正義はオッカマスの熱弁(?)を一切合切無視、再度プールの水に顔面を漬け込んだ。相変わらず容赦の欠片も無い(笑)。

 

 しかし、水責めを受けながらもオッカマスは内心で勝利を確信していた。何故なら―――ヤツの七色に彩られた髪の毛や衣装には様々な毒が染み込んでいるからだ。それは揮発性(きはつせい)に長けた毒だが、直接触れても効果を与える程の代物で、まともに食らえばあらゆる苦痛と激痛に苦しんだ挙げ句、そのまま命を落とす威力を持っている。

 

 更に付け加えるならば、奇抜なピエロの扮装と大袈裟な挙動は、毒と言う攻撃手段を相手に勘付かれないようにする為の布石(ふせき)である。派手な格好をしている割には地味過ぎる手法だが……。

 

『不意を突かれたのは予想外だけど、自分から近付いてくれちゃっておバカさんよっねぇ〜! この時点でもう勝利は確定してるのよぉ! さあっ、さあっ、さあっ! あたしが特別にブレンドした毒のフルコースで悶え苦しんでちょうだいねェェェェええェェェェっ!』

 

 内心で狂喜乱舞するオッカマスだったが、水責めが始まってから1分……2分……3分……5分と、どれだけ時間が経過しようが正義の苦しむ兆候(ちょうこう)が現れない。これはおかしいと感じたオッカマスは意地と根性で水責めを中断させ、焦った様子で問い詰める。

 

「な、なんで……っ、なんであたしの毒が効いてないのよぉ!? 普通ならとっくに死んじゃってる筈なのにっ! なんでピンピンしてるのよぉっ!?」

 

「えっ、毒!? 幽神っ、お前大丈夫なのか!?」

 

「毒だと? そんなモノが何処にある?」

 

「「えっ?」」

 

「なぜ俺に毒が効かないか、だと? そんなもん俺が知るか」

 

「「ええぇぇぇッッッッ!!?」」

 

 まさかの言い分に一誠とオッカマスは目玉が飛び出すほど驚いた……ッ。

 

 まるで超電子エネルギーをスパークさせるカブトムシ型改造人間の如く、謎理論で問い掛けを一蹴した正義。その毒は正義(いわ)く、「鼻の奥がムズムズする」程度の被害らしい……。とんでもない理不尽と暴論で御自慢の毒攻撃を無力化させられたオッカマスの表情からは血の気が失せ、真っ白に塗られた顔が真っ青に染まる。こうなったらもはや絶望一択、オッカマスは最終手段を取らざるを得なくなった。

 

「まっ、待ちなさいっ! あなた達、あたしらには人質がいるのよぉ!? あなた達が大事に大事にしてる金髪の娘と、一緒にいた青い髪の女は今頃あたしの仲間が捕縛してるのよぉん!」

 

「なっ! てめぇ、アーシアに何しやがった!?」

 

 (たま)らず一誠が問い詰めるが、オッカマスは勝ち誇ったように続ける。

 

「さぁ~、どうなってるでしょうねぇぇぇぇえぇっ? 少なくとも、これ以上あたしに手を出せばぁ、人質の命は保証しないって感じかしらねぇぇぇぇえっ? あたしがここに現れる前から泣き所を攻めさせて貰ってたのよぉぉっ! どうする? どぉぉするぅぅぅぅ? 人質のお嬢ちゃん達を助けたいぃぃ? 助けたいならぁ、大人しくあたしらの―――」

 

 ブチッッッッ。

 

「ぁん? なに今の音?」

 

「……あっ」

 

 一誠は謎の音の正体を理解し、ス〜っと離れていく。オッカマスは「あらぁ? ようやく自分達の立場が分かったかしらぁぁぁぁあん?」などと見当違いも(はなは)だしい言葉を吐き捨てる。しかし、その余裕ぶった態度も目の前の(幽神正義)を見て雲散霧消してしまう……。

 

 幽神正義はいつの間にか般若の面を着けており、全身からドス黒く危険なオーラを滲み出させていた。本人、オーラ、その影さえも鬼の形を成し、殺意溢れる重圧がオッカマスに降り注ぐ。

 

「貴様、良イ度胸をしテいルな。万ガ一、億ガ一にもアーシア・アルジェント、ジュビアに何カしラやッてミロ。ソノ時は地上ノ生物として、形ヲ保ッタマま死ネると思ウナヨ?」

 

「「ヒェっ……ッッッ」」

 

 (幽神正義)の圧を間近に浴びたオッカマスだけでなく、一誠もたじろいでしまう。死神も泣いて逃げ出す程の鬼迫に、一介の暗殺者風情が耐えられるわけが無い。オッカマスは歯をガチガチと鳴らし、冷や汗と脂汗で顔中が濡れる。

 

 その間も殺意全開で凝視し続ける(幽神正義)。次第にオッカマスの心はへし折れ、本能レベルで保身行為に走る。

 

「……ジョッジョジョっっジョッジョッジョッ……冗談よぉ、冗談……ッ! ジョークもジョークっ、ピエロジョークゥ! 人質は無事よぉ! ただ捕まえてるだけぇ! 何もしてなぁいっ! だから―――」

 

「……どうやら貴様には謝罪と言う概念が消え失せているようだ」

 

 正義は水責めを中断して、うつ伏せにしたオッカマスの背中に乗り、右腕で首を極め、左手で七色の髪を掴み―――。

 

「詫びを入れる気が無ければ、とことん()ってろ」

 

「クュンギュルュブォッヘェッッッ!!?」

 

 “謝る気が無いなら反らせる”―――超越した理論が『変形版キャメルクラッチ』と言う技を生み出し、オッカマスの身体は怪音を立てて“逆Vの字”に折れ曲がった……。その拍子にオッカマスの髪が千切れたのは言うまでもない。一誠が恐る恐る聞いてみる。

 

「ゆ、幽神……そいつ、死んじゃったのか……?」

 

「いや、ギリギリ生きている。この程度で帳消しにするつもりなど毛頭(もうとう)ない。まだ仲間とやらがいるらしいからな。ふざけた言動で煽り、舐め腐った代償をそいつらにも払わせる。楽に死なせはしない……この世に生まれてきた事すら後悔させて、胴体と四肢がゼリー状になるまで蹴り潰してやる……ッ」

 

 この瞬間、オッカマスを含めた『アンサツファイブ』の行く末が決定してしまった……。

 

 正義は般若の面を着けたままオッカマスを引き摺り、一誠と共に捜索を開始する。その姿はまさしく鬼と呼ぶに相応しい光景だった……。

 

 一誠は直ぐにでも逃げ出したい気持ちに駆られるが、アーシアとジュビアを人質(?)に取られてる以上、そんな選択肢は無い。救出の為に自らを鼓舞して(幽神正義)と共に行く。

 

 そして、何より―――。

 

『今の幽神(コイツ)を野放しにしたら、それこそ暗殺者達の死体(ゼリー)が量産されちまう……っ。せっかくの親睦会が血みどろゼリーの光景で終わるなんて……そんなの嫌だぁッッッッ!』

 

 青々と輝くプール施設が、真っ赤な血と肉片(ゼリー)で埋め尽くされる……。そんな事態が(おおやけ)になれば、施設は営業停止を飛び越え、即座に取り潰しと言う最期を迎えるだろう……。それだけは何としても避けたい。

 

 だが、一誠はここで腑に落ちない疑念が浮かんだので、正義に(たず)ねてみた。

 

「な、なあ、幽神。アーシア達が人質に取られてるなら、そんな奴を引き摺って回るより、分担して探した方が早くないか? それに残りの皆にも協力してもらえば人手(ひとで)も多くなるし、どう考えてもそっちの方が効率的じゃないか?」

 

 確かに一誠の言う通り。たった2人で探すよりも一旦戻って、残りのメンバーに協力を(あお)げば捜索の人員も増える上に見つけやすくなるだろう。しかし、正義はそうしなかった。

 

 一誠の問いに対して、正義は「貴様の言う事にも一理ある」と前置きをしてから答える。

 

「だが、仮にそうすれば縛りを受ける人数が増える事になり、結局は奴らの思惑通りに(はま)ってしまう。それを避けるべく、このまま俺達だけで捜索する方が最小限のリスクで済む。そして、このゴミどもは暗殺者などと(うた)っているが……恐らく三流未満の連中だ。そんな奴らの駆除に人員を()く必要など無い」

 

「え、三流未満? なんでそう思うんだ?」

 

「この引き摺っているピエロもどきの手口から(おおむ)ね分かった。コイツらに大した腕は無い。何故なら―――暗殺とは標的だけでなく、周囲にも気付かれずに仕留めるのが本質だ。それをわざわざ標的の前に出てきて、自ら正体を晒すなど愚劣極まる愚行だ」

 

「あ、確かに……」

 

「わざわざ俺達の前に出てきて、人質を取っていると公言したのも愚策だ。やり口もだいたい想像が付く。人質宣言で俺達に抵抗しないよう釘を刺しておき、人質の前で嬲り殺しにする。そうして瀕死寸前まで痛めつけた後、人質を目の前で惨殺。更なる屈辱と絶望を与え、活力を根刮ぎ奪い尽くしてから殺す―――そんなところだろう。そんなやり方を嬉々として(おこな)う輩は暗殺者などではない。ただの愉快犯だ」

 

 正義は瀕死寸前のオッカマスの頭を軽く蹴り、引き摺りを再開する。その所業に一誠は「そこまでする必要があるのか?」と恐る恐る訊くが、正義は当然のように言い放つ。

 

「中国に殺一警百(シャーイージンパイ)と言う(ことわざ)がある」

 

「何だ、そのシャーシーちっぱいって―――あぶねっ!!? おいっ、『どこでも包丁』は止めろよッ!」

 

「貴様がふざけた戯言を吐くからだろう。歩く猥褻物(わいせつぶつ)マシーンが」

 

「過去一で酷い呼び名だな!? んで、何なんだセクシーちっぱいって言葉は?」

 

「ブレないな、貴様は……まあ良い。『殺一警百(シャーイージンパイ)』とは読んで字の如く―――『一人を殺して、百人の敵に警告する』と言う意味だ。今まさに俺達がこの暗殺者もどきにやっている状況と同じだ」

 

 諺の意味合いと、それを当然の如く行う正義の冷徹さに肝が冷える一誠。正義は話を更に続ける。

 

「兵藤、こう言った組織じみた連中が一番に嫌がる事は何だと思う?」

 

「組織が嫌がる事?」

 

「答えは“メンツを潰される”だ。組織とは名前で商売しているようなものだからな。特に暗殺行為を商売道具として吹聴し、評価を利用している組織はメンツを潰されるのを極端に嫌う。ただ始末するより、生かして見せしめにする方がよりダメージを与えられる。つまり、俺達は現在進行形で暗殺者どものメンツを潰している最中と言うわけだ」

 

「ちょっと待て! 相手を挑発してるって事か!? それって余計にアーシア達を危険に晒すんじゃあ―――」

 

「いや、逆だ。中途半端にプライドの高い連中ならば、現状を放置しておくわけが無い。たとえ人質を放り出してでも俺達に報復の刃を向けてくる筈だ。むしろ、それこそが狙いなんだよ。向こうから出てくる気が無ければ、出てくるように仕向けるまで。謂わば、俺達は残りの暗殺者どもを釣る為の生きた餌だ」

 

 (みずか)ら囮となる事で人質(?)にされているアーシアとジュビアから注意を削ぎ落とし、向こうから出現しやすい状況を作る。その為にわざわざオッカマスを九分九厘(くぶくりん)殺しで(とど)め、生きた餌として徘徊し、残りの暗殺者達を釣ろうと言うのが正義の魂胆なのだ。

 

 自分達さえも囮に使い、相手の嫌がる部分を徹底的に突く。幽神兄弟ならではの作戦だ。一誠は改めて正義の容赦の無さに戦慄する。

 

 曲がりなりにも、一誠達をたった2人で壊滅寸前に追い詰めたんだけあって流石としか言えない……。

 

「俺、改めてお前ら兄弟が敵に回らなくて良かったって思うわ……」

 

「その点に関してはアーシア・アルジェントに感謝すべきだ。血を凍らせ、人間を捨て、外道に成り下がった俺達兄弟を再び人道(じんどう)へと戻してくれたんだからな」

 

「その『人道』とやらの前には“鬼”が常駐(じょうちゅう)してるけどな」

 

「ふん、貴様から褒め言葉と言うものが出てくるとは思わなかったぞ」

 

「明らかに褒めてねぇよっ!? 皮肉を言ったんだよ! お前がボケに回るなんて初めての感覚だっ!」

 

「それはさておき、次の獲物がノコノコやって来たぞ」

 

 正義の言葉に一誠は視線を前に向ける。すると、2人の前に現れたのはキノコとカエルを足して2で割ったような異形―――エルゲロッペ・ドイナカン。全身から粘液のような汗を垂れ流しながら言う。

 

「オメェだぢが兵藤一誠(ひょぉどぉいぃっせい)とぉ、幽神正義(ゅぅぐゎむぃまざよすぃ)って(やづ)らだなぁ? 恨みは無ぇっけんどぉ、オデ達が出世ずる人柱(ひとばすら)になっでもらうぞぉ」

 

「「(なま)り方ヒドいな……っ」」

 

 一誠と正義は同じツッコみを同じタイミングで繰り出してしまう。エルゲロッペは全身から流れる粘液のような汗を更に分泌させ、薄い膜のようにして己自身を包みこんでいく。

 

「ゲフフフゥッ。覚悟しとくべぇよぉ? オデが全身から絞り出すた特別製の油はなぁ、あらゆる攻撃を跳ね返すんだどぉ! この状態になっだオデは無敵だぁ! たとえオメェらがどんなに殴ろうが、蹴ろうが、剣で斬ろうが、槍で刺そうが、コチョコチョ(くすぐ)ろうが、ペロペロ舐めようが一切効がねえ! オデはそごで無様に気絶しどるオがマピエロとは違ぇどぉ!」

 

 自信に満ち溢れた様子で語るエルゲロッペ。一誠は直ぐに禁手(バランス・ブレイカー)の鎧を装着するが、正義は『何処でも包丁』を1本取り出すだけだった。その行動に一誠は(いぶか)しげに(たず)ねる。

 

「幽神、お前それで戦うつもりか?」

 

「逆に()くぞ。あのキノコガエル如きに、そんな仰々(ぎょうぎょう)しい鎧を出す価値があると思っているのか?」

 

「敵にも味方にも容赦無いな……。じゃあ、どうするんだよ?」

 

「簡単だ。ちょっと火を貸せ」

 

 そう言うと正義は取り出した『何処でも包丁』の刃先を一誠に向けて、「コイツに火を灯せ」と言ってくる。一誠は『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』の能力―――倍加と譲渡を発動させる。

 

Boost(ブースト)!! Transfer(トランスファー)‼』

 

 一誠は息を吸い込んで腹の中で火種を作り、ソレを正義が差し出した『何処でも包丁』の刃先に噴きつけた。火を灯した『何処でも包丁』は松明(たいまつ)のように燃え上がる。

 

 その直後、正義は何の躊躇も無く『燃える何処でも包丁』をエルゲロッペに投げつけた。

 

「は?」

 

「んぁ?」

 

 呆気に取られる一誠とエルゲロッペ。『何処でも包丁』がエルゲロッペの体を(かす)めた瞬間―――エルゲロッペは轟々と燃え上がる炎に包まれた……。

 

「アッヂゃァリィゅィィィアィィヤァァ嗚呼ァァァァッッッッッ!!?!!?!!?!!?!!?!!?」

 

 壮大な火柱と共に大絶叫を上げるエルゲロッペ。その場で跳ね回り、地面をのた打ち回る火だるまダンスを披露する羽目になった。何故こうなったのか?

 

 理由は単純明快、エルゲロッペの全身を包みこんでいるのは。油に火気を当てれば炎上する―――当たり前の答えである(笑)。

 

 容赦も躊躇も無く相手を火だるまにした正義の手腕に、一誠は「ヒェェェ……ッッ」と肝を冷やす。一方、放火の実行犯たる正義は―――。

 

「アーチーチーアーチー。燃えてるんじゃーないかー」

 

「いやいやいや! 真顔と低音ボイスで郷ひ◯みの名曲を歌うな!? 怖えよッ! そして現在進行形で燃えてるからァァァァァァッ!」

 

 数分後、火だるまダンスを終えたエルゲロッペは真っ黒な炭へと変わり果てました。※一応死んでません(笑)。

 

 2人目の刺客を撃破した一誠と正義。オッカマスとエルゲロッペは例の如く、般若面を着けた正義に引きずられていく。禁手(バランス・ブレイカー)の鎧を解除した一誠は冷や汗だっくだく状態……。この時点で敵の方が可哀想だと心を痛め始めていた。

 

『ハッキリ言いたい……誰か俺とポジション変わってくれぇっ! もう完全にこっちが悪役っ、悪人っ、悪鬼になってるよ! もう幽神(コイツ)絶対人間辞めてるだろ!? もしくは前世が鬼なんだろっ!? 鬼のまま生まれ変わってきたんだろっ!?』

 

「何か言ったか?」

 

「ナンデモアリマセンッ」

 

 更には恐ろしい程の地獄耳。般若面の幽神正義()は引き続き囮(?)として暗殺者の炙り出しを再開する。一誠は心中でこの状況を嘆き、悲しむしかなかった……。

 

『誰か……誰か俺に癒やしを提供してくださいっ! これ以上こんな鬼と一緒に行動してたら、いずれ俺のライフが0になる! 心身共に0になりますっ! この際、暗殺者でも何でも構わない! 今の俺に癒やしを提供してくれる美少女もしくはエロくて素敵な美女をお願いしまァァァァすッ!』

 

 一誠は正義()にバレないように心の中で叫んだ。現状では決して叶う事の無い要求、要望、懇願を。そして、一誠の悲痛に満ちた心の叫びが奇跡(?)を起こす。

 

「ぁハァ〜ん♪ んん〜♪ あっハァ〜ン♪」

 

 突然聞こえてきた嬌声(きょうせい)。いち早く耳にした一誠は凄まじい速度で首を動かし、嬌声の元を探す。幽神正義()とは少し距離が離れていた為、何とか気付かれていない。そして、一誠は1人のビキニ女性(サキュバッチ)を視界に捉えた。

 

 その視線の先でビキニ女性(サキュバッチ)はうつ伏せに寝そべっており、足をパタパタと動かす。(かたわ)らにはサンオイルの容器も配置され、まるで『そこのお兄さん、アタシにオイルを塗ってくれな〜いっ?』と言わんばかりの熱烈アピールを訴えていた。

 

 暗殺者(?)が自分達を狙っている状況下で、ビキニの女性が誘っている。……誰がどう見ても『いや、罠だろ』と言いたくなるぐらい、あからさまなモノだった。下心満載の一誠ですら見破れる程に……。

 

 しかし、感覚が麻痺してしまった今の一誠にとって―――ソレは天のお恵み、(つか)の間の至福だった。男の本能が理性を上回り、一誠はフラフラとビキニ女性(サキュバッチ)の元へ歩み寄っていく。サキュバッチは心中でほくそ笑み、獲物(一誠)が自分に近付いてくるのを待つ。

 

『プププ〜♪ こんな簡単に引っ掛かってくるとか超笑えるんですけどぉ? やっぱアタシのハニトラ殺法は鉄板じゃ〜ん♪ これで赤龍帝(せきりゅうてい)仕留められるとか、マジ楽勝〜♪ なんか泣きながら近付いてくるのもウケるしぃ。あっ、アタシの悩殺ボディが魅力的過ぎるから感極まってるのかしら〜?』

 

 ※違う。

 

『まっ、どうせ殺すんだしぃ? せめてもの慈悲で背中ぐらいは触らせてあげよっかな〜♪』

 

 完全に舞い上がるサキュバッチ、その餌に食らいつこうとする一誠。しかし、2人は気付いていなかった……。幽神正義()が既に一誠の挙動、サキュバッチの分かりやす過ぎる罠に対して攻撃体勢を整えている事に……っ。

 

 般若面の鬼は引き摺り回していたオッカマスとエルゲロッペを宙に浮かせ、強烈過ぎる勢いで蹴り飛ばした。蹴りのインパクトで『くの字』に曲げられた哀れな道化(ボール)2人は、まず一誠の背中に激突。巻き込まれた一誠も肉弾ボールと化し、希望を打ち砕かれたアホ面のまま―――サキュバッチに向かって飛んでいく。

 

「……は? なんで―――ヴォルゥェッペェッッッッ!!?!!?!!?!!?!!?」

 

 決して聞こえてはいけないブサイクな悲鳴が漏れ……サキュバッチは肉弾ボール3人と大激突。それぞれボウリング球に吹っ飛ばされるピンの如く宙を舞った……。ボール2人(オッカマスとエルゲロッペ)は頭から地面に落下し、続けて落ちてきたサキュバッチもあられも無いガニ股ポーズで意識を()たれた。

 

 巻き込み事故の犠牲にされた一誠は数秒後に意識を取り戻し、飛び起きて辺りを見回す。そこへ巻き込み事故の元凶―――般若面の幽神正義()がやって来て「目を覚ましたか、マヌケめ」と早々に罵倒する。

 

「貴様は本当に理性を機能させない駄犬だな。いや、貴様の場合は駄龍(だりゅう)と言うべきか。あんな罠丸出しの女に(たぶら)かされるとは」

 

「待て、幽神! これは仕方の無い事なんだ! この極限状態の中で、あんなエロいビキニのお姉さんが誘ってきたら……男ならついていくしかないだろっ! たとえソレが罠だとしてもっ! そして、そんな理性を失わせる状態にまで俺を追い込んだのは誰だ!? お前だろう!」

 

清々(すがすが)しいまでの開き直りだな。貴様のクソにも劣る理論で行けば、理性を失えば何をしても良いと言う事だな? ならば、俺もたった今から理性を捨て、暗殺者もろとも貴様を喋らぬ肉塊に変えてやるのも『仕方無い』の一言で済ませられるな。アーシア・アルジェントには俺から伝えておく。『兵藤は尻軽女の陳腐な誘いに乗った挙げ句、鼻の下を伸ばしながら命を落とした』とな」

 

「調子に乗ってスンマセンしたっ、真面目にやりますっ」

 

 ※プライド? 何ソレ、喰えんの?

 

 綺麗な土下座を決める一誠。幽神正義()は一瞥した後、未だ気絶しているオッカマスとエルゲロッペを脚で雑に転がし、暗殺者の捜索を再開。その際、一誠に向かって捕縛用のロープを放り投げ「その尻軽女は貴様が担当しろ」と一言添えた。

 

 一誠は「トホホ……っ」と何一つ幽神正義()相手に強く出られない自分を自嘲し、手足を縛ったサキュバッチを(かか)え上げる。お姫様抱っこで抱えてるので、一誠の両手はサキュバッチの柔肌(やわはだ)を味わえるのが唯一の救い……。

 

 そんな最中、正義が足を止める。どうやらまた刺客が現れたようだ。現れたのは―――筋骨隆々で四つ目のスキンヘッド男。傷痕だらけの全身、上腕二頭筋、大胸筋、腹筋等を見せびらかすようにポーズを決め、声高々に叫ぶ。

 

「我こそがぁ! 筋肉のぉ! 筋肉によるぅ! 全ての筋肉の導き手となる者―――マッチョル・ガチムーティであぁるッッ! 貴様らは我が至高の筋肉によって無様に! そして無残に散り逝くのだぁ! 我が筋肉の御業(みわざ)(ほうむ)られる事を光栄に思うが良いっ!」

 

「「…………」」

 

 もはや言葉を掛けてやる事すら面倒臭くなってしまった一誠と正義。そんな呆れ果てた空気もガチムーティは(つゆ)知らず、意気揚々と話を続ける。

 

「オッカマス、エルゲロッペ、サキュバッチの3人を(くだ)した事は褒めてやろう。だが、この我はそやつらと違う! 何故なら……鍛えに鍛え抜いた我が筋肉は、打撃を物ともしない鋼鉄の鎧同然! 生半可な攻撃など一切通さんっ! 他の3人には通用したかもしれんが、我には通用しないっ! さあ、(おそ)(おのの)け! 泣いて懇願してみろ! 我が至高の筋肉にィィィィィィィッッッッ!」

 

 土煙を上げながら爆進してくるガチムーティ。般若面の正義はジト目で相手を見据え、蹴りの体勢を取る。ガチムーティは「無駄だぁ!」と嘲笑する。

 

「我が言った事をもう忘れたのか!? 我が筋肉は至高の域に達しておる! 我が筋肉は剛強な鎧であると同時に、比類無き(ほこ)にもなる! (すなわ)ち! 我は無手(むて)でありながら最強の矛と最強の鎧を備えた究極の戦士ッ! ひ弱な筋肉しか持たぬ貴様らに、我が筋肉と言う牙城は打ち崩せんっ! それを思い知るが良いわァァァッッッッ!」

 

 自信満々に叫びながらガチムーティは爆進を続け、正義は攻撃圏内へ入った奴に向かって蹴り脚を走らせた。

 

 空気を切り裂く程の音を鳴らす正義()の蹴り脚。その行き先は―――奴の股間だった……ッ。

 

 ゴキィィィィィィィンッッッッ!

 

 鬼の蹴り脚がガチムーティの股間にメリメリと食い込む……。その衝撃は筆舌に尽くし(がた)く、凄惨な光景を見てしまった一誠は無意識に内股となった。

 

「ホョ゙ォ゙ッッッッ!!?!!?!!? ホョ゙ッッ、ホォ゙ッッ、ホォ゙ッッ、ケェ゙ッッ、キョ゙ォ゙ぉ゙ゥ゙ッッッッ……ッッッッ!!?!!?!!?!!?!!?」

 

 ガチムーティは声にならない悲鳴を発し、地に倒れ伏した。白目を剥き、口から泡を噴き、失禁する始末……。般若面の正義は倒れたガチムーティを一瞥しながら告げる。

 

「アホめが。どれだけ鍛えようと、人体には鍛えようの無い部分が存在する。そこを狙えば良いだけの話だ」

 

「何の躊躇も無く金的(きんてき)……お前、ホント鬼だな……っ」

 

「フン、金的で終わらせてやっただけありがたいと思え」

 

「すげぇパワーワードが飛び出してきたな!? でも、これで暗殺者を4人撃破したから、あと1人倒せば終わるんだよな?」

 

「ん? あぁ、一応そうなんだが……」

 

 珍しく歯切れの悪い返事をする正義に、一誠は疑問符を浮かべた。先程まではハッキリと断じていたのに、どうも様子がおかしい。一誠は「どうした、何かあったのか?」と(たず)ねる。

 

「その事なんだが……その、何と言うか……もう終わってた」

 

「……はい?」

 

 言ってる意味が理解できない一誠。正義は何も無い場所にブンッと軽い蹴りを放つ。すると……徐々に何かが鮮明に浮かび上がってきた。

 

 現れたのは―――羽織っているマント同様にボロボロとなった細身の男。既にグロッキー状態で全身を痙攣させていた……。突如出現したボロボロの男に、一誠は驚きを隠せなかった。

 

「え、誰コイツ? いつからいたの?」

 

「……分からん。いつの間にか居た上に、いつの間にか倒していた。どうやって倒したのか覚えてないどころか、未だに見当が付かない。こんな奇妙な感覚は初めてだ……。恐らくコイツが残り1名の暗殺者……の筈だ。そう信じたい」

 

「お前がそこまで自信無く言うなんて、よっぽど影が薄い奴だったんだな……っ」

 

 そう、この襤褸切れ同然の細身男こそ、暗殺集団『アンサツファイブ』最後の刺客―――ジィミスンギ・テ・キヅガレンである。実はこの男は最初から(みずか)らを透明化させて一誠と正義を尾行、隙あらば仕留めようと画策していたのだ。

 

 ところが、彼の暗殺(?)は運悪く(ことごと)く失敗。オッカマスの時も正義の膝蹴り奇襲に巻き込まれ、エルゲロッペが火だるまにされた時も巻き添えを喰らって火だるまダンスを踊る羽目になり、サキュバッチの時もいつの間にか肉弾ボールとして蹴り飛ばされ、ガチムーティの時には執念で蹴り脚にしがみついていたのが(わざわ)いして、金的と同時に仕留められていたのだ。

 

 泣きっ面に蜂どころでは無い……。

 

 撃破済みの暗殺者達を地に転がした正義は腕を組み、これからどうするかを模索する。人質(?)にされているアーシアとジュビアの居場所を聞き出すべく、連中を叩き起こそうとした矢先―――。

 

「あれ、イッセーさん?」

 

「正義さま〜っ! こんな所にいたのですね〜っ!」

 

「「……んんッッッッ!!?」」

 

 なんと言う事でしょう……やって来たのは人質にされている筈のアーシアとジュビアだった! 更に頭が混乱する事態に直面した一誠と正義。一誠はアーシアに駆け寄り、怪我が無いか確認する。

 

「ぶ、無事だったんだな、アーシア。怪我は無いか?」

 

「はい、何処も怪我はありませんよ?」

 

「そ、そうか、良かったぁ。アーシアが人質にされたって聞いたから……」

 

「人質、ですか? もしかして、さっきジュビアさんが―――」

 

 アーシアがジュビアに視線を向ける。ジュビアは相変わらず正義に熱烈なアピールを披露しているが、正義が代わりに問い(ただ)す。

 

「ジュビア、お前はアーシアと一緒に行動していたよな? 何か妙な事は起こらなかったか?」

 

「妙な事……? あ、さっきジュビア達に襲ってきた連中がいました。きっと俗に言うナンパってヤツでしょう」

 

「そいつらは何処にいる?」

 

「あそこにいます」

 

 ジュビアが指差す方向に視線を向ける。視線の先にはゴミ箱が点在し―――その中には暗殺者『名無し(ノーネームド)』の4人がぎゅうぎゅう詰めにされていた……。

 

 ボロッボロのボッコボコにされた暗殺者達を見て、一誠と正義は能面の如く無表情となる(笑)。

 

「……なあ、幽神」

 

「……兵藤、言いたい事は分かる。俺も同じ心境だ」

 

「じゃあ、せーので言う?」

 

「……そうだな」

 

「「せーの……何だ、この無味無臭な終わり方はァッッッ!!?!!?!!?!!?」」

 

 あまりにも味気無い幕引き……。しかし、ここからが真の受難の始まりだった……。




長引かせてしまった分、今まで以上に濃い文面が出来たと思います。

次回はいよいよ後編、次こそはなるべく早めに更新できるよう努めます!
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