痛いのは嫌だけどこの素晴らしい世界に転生したいと思います。   作:タイラー二等兵

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やっと書き終わりました。


2話 防御特化と説明に祝福を!

── カズマ ──

 

今、サリーとメイプルは俺達の屋敷に来ている。メイプルが「冒険者の家を見てみたい」と言って、サリーが「まあ、メイプルがいいなら」と答えた、というわけだ。

 

「……えーと?」

 

「見事なくらい、殺風景ね」

 

屋敷の中を見た二人の反応は、俺の予想したとおりのものだった。まあ、それも仕方がない。何しろ。

 

「みんな借金の形に持っていかれちゃったの」

 

アクアが悲しそうに言った。そう。俺達は莫大な借金によって、屋敷の中の殆どの備品を差し押さえられてしまったのだ。残ったのは俺達が今着ている服と日本時代の想い出のジャージ、アクアの羽衣と杖、めぐみんのスタッフくらいだ。

そんな事を説明すると、メイプルは純粋に憐れみを、サリーは呆れを露わにする。

 

「言っとくが、俺のせいじゃないからな! 魔王軍幹部を倒すとき、アクアが洪水クラスの水を呼び出して門と家の一部を破壊したのが原因だから!」

 

「あーっ、何言ってるのよ! カズマだってデストロイヤーのコロナタイトをウィズにランダムテレポートさせて、国家転覆罪かけられたじゃない!」

 

「ばかやろう! 国家転覆罪は濡れ衣だっての! 大体普段から借金こさえてるテメーに言われたくないわっ! この駄女神がっ!」

 

「あーっ、駄女神って言った! この麗しい水の女神の私を駄女神って! この引きニートがぁ!」

 

「引きニート言うな! このクソビッチ!」

 

「クソビッチじゃないわよ! このカスマ! クズマ! ゲスマ! ロリニート! 鬼畜のカズマっ!」

 

こ、こいつっ!

 

「あのー……」

 

更にヒートアップしそうなところで、メイプルが声をかけてきた。

 

「魔王軍幹部とか、デストロイヤーって何のこと?」

 

あ。二人は転生したばかりで、その辺のことはわからないのか。

 

「フッフッフ。私が毎日、魔王軍幹部ベルディアが潜む城に爆裂魔法を撃ち込んでこの街に誘き出し、我らの策で倒したのですよ!」

 

ものは言い様とはこの事だな。

 

「機動要塞デストロイヤーは爆裂魔法で足を吹き飛ばし、中に乗り込んで動力のコロナタイトを処分、最後は再び爆裂魔法で本体を破壊したのです!」

 

「いやー、あの、そもそもデストロイヤーって……」

 

「デストロイヤーはわしゃわしゃしていて、子供に大人気だったのです!」

 

「めぐみんはもう黙ろうか。すまない、俺が一から説明するよ」

 

そう言って俺はベルディアの事、デストロイヤーの事、そしてついでに、俺にかけられた嫌疑についても説明をした。すると。

 

「そのアルダープって人、ひどいなー! まるで初めっからカズマくんに、濡れ衣着せる気みたいだよ!」

 

メイプルが憤慨してくれる。

 

「それにその、ダクネスさんだって……。えーと、その、ダクネスさんは大丈夫なのかな?」

 

それを聞いた俺は手で口許を覆い、メイプルから視線を逸らす。アクアも沈んだ表情になり、めぐみんに至っては昨日と同じように、「ああああああ!」と叫びながら頭を掻きむしっている。

 

「え、ええと?」

 

「ああ、気にしないでくれ。ダクネスは、帰ってきたら何も聞かずに優しく迎えてやるつもりだから」

 

「う、うん。わかった…」

 

イマイチ理解できてないのか、あるいは俺達の意図を汲んだのかはわからないが、戸惑いながらもそう答えて頷いてくれた。

 

 

このすば!

 

 

「それよりも、カズマだったよね? あなたも私達と同じで日本からやって来た、って事でいいのかしら?」

 

そうサリーが訊ねてきた。そういや、その説明のためについて来たんだったよな。

 

「ああ。俺はアクアを持ってくる()()として、こっちへやって来たんだ」

 

めぐみんがいるため、俺はぼかし気味にアクアの事にも触れる。

 

「持ってくるモノ?」

 

メイプルはハテ、という顔をして聞き返したが、サリーはすぐに理解したのかメイプルに耳打ちをした。

 

「……ええっ!? あ、でも、天使さんも女神の代理とか言ってたよね。……えっ、それじゃあアクアさんて本当に?」

 

どうやらメイプルも理解したみたいだ。まあ、天使やら女神やらの単語にめぐみんが訝しがってるが、とりあえずは放っておこう。

 

「それで、アンタらの特典って何だ? メイプルなんかは最初、その装備だと思ったんだが……」

 

だが、テイムモンスターも連れてたりするし、どうも違うみたいだ。

 

「えっとね、サリー……理沙の発案なんだけど、『New World Online』での私と理沙のアバターの、全てのデータを使える様にお願いしたんだ」

 

「ってことは、さっきの『悪食』とかいうスキルも……?」

 

「うん。私が習得したスキルをこの盾、【闇夜ノ(うつし)】の空きスロットに付与しちゃった」

 

メイプルはアハハと笑いながら軽く言っているが、ゲームのスキルにしたってかなり凶悪である。これに泣いたプレイヤーは結構いるんじゃないか?

 

「楓のメイプルとしての異常さは、こんなもんじゃないわよ?」

 

「ちょっと、理沙ぁ!?」

 

からかう様に言ったサリーにメイプルが文句を言うが、さっきの戦闘を見る限り、サリーも充分異常な部類だと思う。

 

「ねえ。ところで、リサの発案とか言ってたけど、もしかして()()()に、二人一緒にいたの?」

 

「え、そうだけど、それが何か?」

 

サリーが訝しげにアクアへ聞き返す。

 

「何か、じゃなくて、本来私達は貴女のような人達と、一人ずつ対応して導いてるの。だから貴女達二人があの場に一緒にいるって事が、普通では有り得ないことなのよ」

 

おお、それは初耳だ。しかしそうなると、メイプルの発言は確かにちょっとおかしい。

 

「ああ、それは理沙が、私と一緒じゃないとって駄々をこねたみたい」

 

「私の交渉を、駄々って……」

 

困ったような笑顔を浮かべるサリー。

 

「因みになんて言ったんだ?」

 

「ん? 三つの選択肢を聞いた後、私と一緒だったら楓も着いてくるかも知れないって言っただけよ」

 

「ええっ、そんなこと言ったの!?」

 

「で、呼ばれたカエデは、まんまとそれに乗っかったというわけですか」

 

「ううー……」

 

結論を言うめぐみんに、やや不貞腐れ気味のメイプル。

 

「でも、だって、理沙とはまだまだ一緒にいたかったから……!」

 

「私だって同じだよ、楓」

 

必死になるメイプルに、サリーは優しく微笑みかけた。ここだけ切り取ると、ゆりんゆりんしてる様に見えるな。

 

「この男、またよからぬ事を考えているようですね」

 

「そうね。また下世話な事でも考えてるのよ」

 

「お前ら、余計な事は言うないっ!!」

 

 

このすば!(勘、良すぎ!)

 

 

少し気分を落ち着けた俺は、改めて二人に聞く。

 

「それで二人は、これからどうするんだ? このまま二人パーティーでやってくのか、それとも他に仲間を募集するのか。

因みに俺は、コイツらクビにしてでもアンタらを仲間にしたいくらいだが」

 

「ちょっと、カズマ!?」

 

「ほほう。ケンカならいくらでも買いますよ?」

 

アクアとめぐみんが文句を言うが、それだったらそう言われない様に努力をして欲しいというもんだ。いや、努力しなくてもいいから、もう少し言う事を聞いてください。お願いします。

 

「……そうねー。パーティーメンバーは必要だったらその時に募集すればいいし、しばらくは二人でレベル上げかな?」

 

ふむ。サリーはしっかりとその辺りの計画は立てていたらしい。……って、そういえば。

 

「なあ、ギルドのお姉さんから聞いたんだけど、確かメイプルの職業って『シールダー』だったよな? お姉さんも初めて見る職業だったらしいんだが、どんなスキルがあるんだ?」

 

「え? えーっと、『大盾装備』とか『攻撃逸らし』、あとは防御力とは別に『ダメージ軽減』みたいな感じかな?」

 

お、攻撃逸らしとかダメージ軽減って、結構使えそうな気がするぞ?

 

「良かったらなんだが、俺にそのスキル教えてくれないか? ほら、俺って『冒険者』だから、教えてもらえればいろんなスキルが習得できるだろ?」

 

そう伝えると、メイプルは困り顔になる。一体何だ?

 

「楓は『ダメージ軽減』以外、スキル習得してないから」

 

「は? なんだよそれ?」

 

「楓は元々大盾使いだから『大盾装備』は必要ないし、『攻撃逸らし』は自動発動スキルみたいだから、発動すると行動が制限されて、運動が得意じゃない楓の場合逆に隙を作る原因になる可能性があるの。だから私が取らせなかったのよ」

 

な、なる程。どうやらサリーはかなりのゲーマーらしい。スキルの特性とプレイスタイルとの相性を考え助言をしているってわけだ。

 

「『NWO』の時は、楓に楽しくプレイして欲しかったから口出しはしなかったけど、さすがにここじゃ生死に関わるから。……もっとも、楓にまともにダメージ与える方が大変だけどね」

 

「どういう意味ですか?」

 

俺と同じ疑問を持ったんだろう、めぐみんが聞き返す。それにはメイプル自身が答えた。

 

「私、VIT(バイタリティ)にポイント全部注ぎ込んでの防御力特化だから」

 

「防御力極振りかよっ!?」

 

「まるでダクネスみたいね」

 

アクアがそんな事を言うが、あいつだって防御力に全振りはしてなかったはず。だが、それを置いといてもだ。

 

「……まさか、ドMじゃないだろうな?」

 

「ええっ!? えっと、言ってる意味がわかんないけど、私は痛いのが嫌だから防御力特化にしただけだよ!」

 

「もちろんゲーム内じゃ感じる痛みは軽減されてるけど、それでも楓にとっては重要案件だからねー」

 

よかった。どうやらまともな理由だったみたいだ。いや、ゲーマーからすれば、縛りプレイ以外の極振り自体がまともな行動じゃないんだが。

……やべ。今、「縛るプレイだとっ!?」とか言って興奮するダクネスが思い浮かんじまった。

 

「痛みは軽減されるし、ゲーム内だから死んでも近くの町からリスタートするのよね。そっちだったら、カズマも無双出来たのかしらね?」

 

「何でお前はゲームのシステム知ってるんだ? ……まあ、そんな疑問は置いといて。さすがにサリーには勝てる気がしないんだが。これが普通のMMOなら戦略次第でどうにか出来ると思うけど、さすがに格ゲーの大会で優勝する様にはいかないぞ?」

 

アクアにそんな事を言って聞かせていると、急にサリーの表情が険しくなる。

 

「ちょっと、カズマ? 格ゲーの大会ってもしかして、『KING of STREET』!?」

 

「えっ? ああ、そうだけど……?」

 

「それじゃあ、まさかアンタが『S・K・FIGHTER』なの!?」

 

「なっ! なんでその名前を!?」

 

『S・K・FIGHTER』は俺が『KING of STREET』、通称『KOS』とか『キンスト』と呼ばれる格ゲーの、大会でのみ使用していた名前だ。

 

「……決勝の対戦相手の名前、憶えてる?」

 

「確か、『LISA』……って、リサ!?」

 

おいおい、まさか? ゲーセン同士の通信対戦を、メイン会場の巨大パネルに映し出すシステムだったから、全然気付かなかったぞ?

 

「……え? もしかしてカズマくんが、ゲームで理沙に勝ったの!?」

 

メイプルは驚き、その視線を俺へと向ける。

 

「いや、勝ったと言っても、色々策を弄して2‐1で、しかも最後はHPバーがミリ単位での辛勝だぞ?」

 

「そうよ! ラウンド1で圧勝したと思ったら、ラウンド2じゃ気がついたらアンタのハメ技に引っかかってて、ラウンド3じゃ全く違う切り口に引っかけられて……!

あーーーっ! 今思い出してもムカつくっ!

ああ、殴りたい! 殴ってもいい? 殴るわよ!?」

 

「いいわけあるかっ!」

 

たかがゲーム、とは言わないが、それで殴られてたら割に合わねえ。

 

「なるほど。どうやらその頃から、姑息な策を弄していたようですね」

 

「姑息とか言うな」

 

全く、どいつもこいつも……。

 

「でも、理沙を引っかける事自体が凄いよ。理沙って戦略家でもあるから」

 

「ああ、それは認めるよ。俺だって準決勝までは普通に勝ち上がってきたんだ。だけどサリーと1ラウンド戦って、まともにやっても勝てないのは分かったから、ちょっとばかし卑怯な方法をとらせてもらった。それだって対処されて、薄皮一枚の判定勝ちだ。多分もう一度やったら勝てないんじゃないか?」

 

これは掛け値無しにそう思う。おそらくサリーは、素の身体能力が高いんだろう。反射神経や集中力も高く、しかも策略家。ハッキリ言って俺に勝てる要素なんて、ほとんど無かったはずだ。

ただ、あの時は俺の策が、サリーの思考を上手く狂わせてくれただけだったんだろう。

 

 

このすば!

 

 

「ねえ、本当に泊まっていかないの?」

 

「いや、ベッドもない家に泊めてもらっても、メリットよりもデメリットの方が大きいと思うんだけど」

 

アクアの申し出に、半ば呆れたように笑いながらサリーは言った。まあ確かに、ジャイアントトードの討伐で引取料も含め、12万エリスを稼いでるんだ。少し高めの宿でも、二人で一部屋なら一泊か二泊は出来るだろう。

 

「サリーの意見はもっともだ。現状じゃ、初心者御用達の馬小屋よりかはマシだろうって程度だからな」

 

というか、今時分馬小屋に泊まったら、下手したら凍死する。

 

「ま、いい宿が取れなかったらお願いするかもね。もっとも楓の運がいいから、そんな事はそうそう無いと思うけど」

 

「えっ、そうかなぁ?」

 

なるほど、メイプルも運がいいのか。当人は気付いてないみたいだが。

 

「うーん、それじゃあ仕方がないわね。水の女神アクアとして、貴女達の幸運を祈っていてあげるわ」

 

「おまっ、幸運値最低なくせに余計なこと言うんじゃねえ! せめて幸運値を上げる魔法をかけてやれっ!」

 

「余計なことですって!? この麗しい女神の祈りを! もう怒ったわ、『ブレッシング』なんか、絶対かけてあげないんだからね!」

 

こいつ、駄々っ子かよ!

 

「あはは、別にいいよ。ほら、理沙、行こう」

 

「そうだね。それじゃ」

 

そう言って二人は屋敷から去って行った。

 

 

このすば!

 

 

その後俺は、めぐみんと日課の爆裂散歩に赴き、それも終わって寒い屋敷で縮こまっていると、扉が叩かれる音が聞こえてきた。

一体何事だろうと玄関まで出てみると、そこにはサリーとメイプルが立っている。

 

「あのぅ、悪いんだけど、泊めてもらえないかな?」

 

消え入りそうな声で、サリーが言う。

 

「えっとね、そこそこ高い宿も満室で、物凄く高い宿か馬小屋しか空いてなかったんだ」

 

苦笑いを浮かべてメイプルが説明をしてくれた。

うん。とりあえずあの疫病神は、後で〆る事にしよう。

 

このすば!




当初(書き始めた頃)の予定では、格ゲーの(くだり)でもう一悶着あるはずだったのですが、これ以上長くするのもどうかというわけで、泣く泣くカットしました。
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