突然ですが、機動戦士ガンダム 水星の魔女2nd SEASON放映を記念して、誠に勝手ながら「機動戦士ガンダム アスティカシアの妖狐」を「水星の魔女×仮面ライダーギーツ」としてもう一度作り直します。
第1話、どうぞ。
人類が西暦という時代を超え、<
人々に打ち捨てられた母なる大地、されど回る四季折々。降り注ぐ陽光が乱反射する雨上がりの丘の上に、彼はいた。
日溜まりを吸い上げる黒い袖から手を伸ばし、懐からあるものを摘まみ上げる。男はそれを天に掲げ、世界を映しそうな表面に反射光を照らし出した。
男は輝きをしばらく見つめていると、親指に乗せ思い切り弾く。ピン、と天に昇った輪郭が太陽と重なり、一際大きな輝きを宿す。草葉香る風靡く自然の中に現れた小さな太陽を、彼は掌に納めた。
「おめでとうございます!」
明るい声へ振り返る。丘には男しかいなかったはずだ、だが彼の背後には白と黒を基調とした、場違いなほど仕立てられたドレスを着た女がいた。
「厳正な審査の結果、貴方は選ばれました!」
彼女の手には黒い蓋の黄色い箱。金属質な光沢が反射し、振り返った男の眉を顰めさせる。だが男は目を襲った眩しさにも、突然現れた彼女にも訝しむことはなく。
「────知っているよ」
口角を釣り上げた男は箱を受け取る。スライド式の蓋を開けると中には狐を模ったマークが刻まれたエンブレムと、正三角形の角を切り落としたような六角形のデバイス。男はエンブレムを指で摘まむと、デバイスの下部に突き刺した。
「今日からあなたはガンダムです!」
<ENTRY.>
微笑む女の背後で、白い巨狐が目を覚ます。
さぁ、世界を救うゲームを始めよう。
水星軌道基地「ペビ・コロンボ23」は、太陽の重力で不安定な水星周回軌道を、微妙なバランスで回っている。
水星は太陽からたった5791万kmしか離れておらず、その熱を直接浴びればたちまち血液まで沸騰してしまうだろう。その反対に、水星の影に入れば、マイナス100度を越える極寒となる。とてもじゃないが人間が暮らせる場所じゃない。
さらに太陽から飛来する強力な荷電粒子は断続的にシステムを誤作動させる。わずかなエラーが死を招くこの水星では、太陽風はまさに死を招く風だ。
ジジジという音がして、格納庫の照明が赤暗い色に変わる。太陽フレア発生による警報で、基地全体が緊急事態モードに移行したのだ。
真っ暗になった基地内をスレッタがやってきた。
「エアリアル、入れてくれる?」
エアリアル。僕の名前。
外部には秘密だけど、
スレッタが僕のところに来るときは、お母さんが仕事で忙しいときだ。水星にはスレッタと同世代の子供はいない。僕が、スレッタの唯一の友達なのだ。
「ねえエアリアル、学校ってどんなところ?」
さあ。僕も行ったことないから。
「このコミックみたいなのかな」
それはフィクションだよ。それにそのコミックは少し古い。
「行ってみたいな、学校」
一人ぼっちのスレッタは、また僕の中にこもることが増えた。15歳になったスレッタの興味は、もっぱら学校だ。
同じ年頃の子供たちがいっぱいいて、楽しそうで、刺激的な毎日。コミックや映画で描かれる学校は、きらきらと輝いて見えるのだろう。
でもね、スレッタ。僕らは地球圏には戻れない。
君は知らないだろうけど、あっちじゃお母さんは
僕も、
だから君の夢は叶わない。
けど、大丈夫。
僕がずっと君といてあげる。学校なんかなくても、友達なんていなくても、僕が一緒にいてあげるから。
「ねえ、エアリアル。私が学校に行けることになったらさ────」
そっと秘密を打ち明けるようにスレッタが言おうとした、その時だった。
基地が、一際大きく揺れた。
「な、何?」
この揺れ、爆発だろうか?散発的な振動にスレッタがコックピットに座り直す。
揺れはだんだん大きくなっていく、違う、これは…揺れが近づいてきているのだろうか。スレッタもそう考えたのか、操縦桿を動かして僕を動かし始めている。
ゴン、とハッチが揺れる。大きく凹んだ合成金属の壁が形を変えていく、否な予感しかしない。整備ラックに引っかかっているライフルを取るのと、ハッチが壊れるのは同時。
現れたのは、どことなく丸みを帯びた体をした緑色のMS、なんだろうか?肩にはシールドのようなものをひっかけているし、口や足にはパイプのようなものが繋がっている。けど何か違う、機械のハズなのに、生き物みたいな生々しさがある。
MSの後ろから別のMSが出て来た。
「ビビラチャポ?」
「ピンキョコデロチャ!」
通信越しに聞こえてくる、何を言っているんだろう。人の言葉じゃない。けど、緑MSの一機がこっちに銃を向けて来た。
「クエン!」
全身から
エスカッシャンの向きを変え、
「ポスダモルクピ⁉」
まだ訳の分からないことを言っているけど、構うもんか。スレッタや基地のみんなが心配だ。驚いたようなリアクションをするMSに近づき、その不気味な顔を踏み抜く。ココで思いっきり足を延ばして整備ドッグから飛び出した。
背後から爆発に押されて、ゲートまで押し出される。水星は人が住むにはまだ厳しい場所だ、外に出れば途端に灼熱の太陽が機体を襲う。スレッタはすぐさまクレーターの影に飛び込んだ、これで太陽光の直射は避けられる。
「何コレ…」
けど振り返れば。
炎に吹き上げて崩れ出す基地があった────。
ココはどこか、少なくとも渦中の惑星ではないだろう。大理石の床とそれを囲うアンティーク調の支柱。無数の十字架が漂う荘厳な世界に、近未来的なディスプレイが輝いた。
写しているのは天体地図、ある一点、水星付近が赤い線で覆われている。それを見たモノトーンドレスの女性、ツムリは地図に背を向けた。
「ジャマーエリアが現れました。それではミッションを開始します!」
振り返った先には3機の巨影。それぞれほぼ同一の、骨組みと間違うほどの簡素な黒いボディのみを持つが、唯一違うのは頭部。大きく丸いものもあれば、巨大な角を持つものもある。
ツムリの号令に合わせ三機が前へ、神殿の淵に移動させられる。彼らの頭上からアームが降りて来た。ホールドしているのは肘先と膝下、それをアタッチメントに接続してまた引き上げていった。
「半年にわたる戦いもついにラストミッション。生き残った『
呟く間にも作業は進む。直立していた機体たちが前へ倒れ込むように神殿側面のカタパルトへ固定され、下部に青白い扉が開く。先は水星────ジャマ―エリア。これが最後の戦い、三機の双眸が爛々と輝いた。
「────運命の時を迎えます!」
『《SHIROWE》、行きますッ!』
『《BUFFA》、出るぞ!』
号令により、MSが射出されていく。
顔を上げた目の前、白い狐面を付けた両手足の無いMSがカタパルトはおろか、装備もつけずに鎮座している。マシントラブルだろうか、と思考をよぎらせようとした時、タンッと背後で足音が鳴った。
振り返るとすらりとしたシルエットに走る一本のライン、極限まで無駄を削ぎ落したようなパイロットスーツの男が一人、ヘルメットをハズして切りそろえられた黒髪を振っていた。籠っていた熱を払うと、メットをわきに抱え、手を軽く上げた。
「…アフタヌーンティーを」
そう一言だけ言った男は手を降ろして懐から端末を取り出す。幾度かの操作の後、目の前に転移門が現れると男はそこに潜っていった。余りに滑らかな所作にぽかんと口を開けていたツムリだが、転移門が放つ光の中に男の背中が消えると、我に返ったように転移門へ駆け寄った。
「出なくていいんですか?」
「ああ」
「白クマさんも、牛さんも行っちゃいましたよ?」
右へ左へ男の顔を覗き込むツムリだが、男は意に介すことなくアルカイックスマイルを浮かべ続ける。転移門を抜けた二人がたどり着いた先は、暖色のライトに照らされた温かい空間。大理石の床とモダンチックな壁に囲まれた世界に赤いソファが置かれ、奥にはキッチンや冷蔵庫が設置されている。男はソファにドカリと座ると、足を組んでくつろぎ始めてしまった。
ツムリは踵を返した。どのように戦うか、パイロットの自由だ。自分には他のパイロットを導く仕事があるし、男の対応も別の人がするだろう。去っていく彼女の姿を男が見送っていると、入れ違いに銀のカートが入って来た。
カートの後ろから見えたのは、純白のタキシードを着こんだ男だ。ソファーの近くでカートを止めると、ソーサーに乗せたティーカップへ大きめのポットを傾ける。カップの底で跳ねあがった紅茶が香りを巻き上げて鼻孔へ通り抜ける、今日はアッサムティーのようだ。
「お待たせしました。」
「さすが仕事が早いな、コンシェルジュ」
「お褒めに預かり光栄です」
謙遜する様にコンシェルジュと呼ばれた男、ギロリは笑みと共に一礼する。男が紅茶を一口含むと、芳醇な香りが脳幹を洗い流し、コクが舌を柔らかく撫でていく。程よい抽出時間と空気に触れたことによる風味の変化を計算された、絶妙な味わいだ。
ギロリはカートからケーキスタンドをテーブルへ移すと、一礼してカートを引き返す。無駄のない所作を見送りながら男はティーカップを置いた。
「そう、風林火陰山雷…昔からそう言うだろ?」
そうスコーンを手に取る男の傍らには、赤いマフラーと黒いハンドルを模った一つのバックルがあった。
「何処…みんな何処に…」
太陽を避けながら僕らはレーダーを頼りに進む。
モビルクラフトの信号をキャッチしたのはこの先だ。山脈、渓谷、地溝、水星のどの地形を使うのが最短なのか、どのルートが機体に最も負担をかけないか、スレッタは知りつくしている。
僕らは地面の裂け目から飛びだした。けどそれは良くなかったかもしれない。
「あ、メリッサさ────」
『や、やめて…』
「ピアープ!」
振り下ろされたオレンジ色の斧がモビルクラフトを破砕する。脱出した人たちが一息に踏みつぶされる。今声を掛けた知り合いなんてマニュピレータに手足を捕まれて、思い切り引きちぎられた。
余りにも酷い光景が目の前に広がっていた。あのMSのパイロットは人の心がないのか。
僕の中でスレッタが叫んでいる。当然だ、こんなの酷すぎる。けど緑MSたちはこちらを見ると、マシンガンを撃ってきた。
僕らは右へ躱しながらビームライフルを撃つ。エスカッシャンも使って周りを一気に打ち抜く。けど緑MSは減るどころか、どこからともなく湧き出てくる。
投げつけられた斧でライフルが壊された。サーベルで飛んで来る斧を弾くけど、数が多すぎる。手首ごと斬り飛ばされ、目の前にオレンジ色の刃が迫った時だった。
緑色の光が斧を撃ち落とした。小さな爆発が晴れると、緑MSが次々と打ち抜かれていく。誰だろう、光が来る方へ振り向いた。
そこには黄緑のボウガンを構えた、丸く白い頭のMSがいた。
そのMSは次々と緑MSを打ち抜いていく。一体ずつ一体ずつ、緑MSの胴体を打ち抜いていく。丁寧な狙撃の腕だ。感心していると背後から緑MSが斧を振り上げてきていた。しまった、気を取られ過ぎた。
MSがピタッと止まった、と思ったらブルブル震え出して、気づいたら真っ二つに分かれていた。爆発するMS、その光の中から紫の頭の、二本角が目立つ牛みたいなMSが突っ込んできた。
慌てて横に逸れるけど、相手は気にせず緑のMSに突っ込んでいく。あっちもマシンガンを撃って来るけど、あの分厚そうな装甲に弾かれて効いて無さそう。右手の大きなチェーンソーからビームの光が唸り、振り上げた左手の大きな爪でバッタバッタと切り裂いていく。
牛のMSがチェーンソーに手を這わせると、ビームのエネルギーがさらに迸る。ブウンと大きく振り上げると、囲っていた緑色を一気に切り裂いた。危ないな、っていうか斬られたMSの上半身がこっちに飛んできた!?
『そこのモビルスーツ、こっちだ!』
通信が入って来ると同時に、残骸が粉々に吹き飛ぶ。反応を元に振り返ると、白丸のMS、アレは…確かシロクマって言うのかな?がこっちへ手を伸ばしていた。スレッタはスラスターを吹かして手を掴むと、一緒にここから離れ始めた。爆発の光が遠くなり、MSが二機分隠れられるほどの渓谷に辿り着くと、オープンチャンネルの回線が開いた。
「あ、あり、がとう…ございま、す」
『済まないね、
シロクマさんから聞こえてきたのは男の人の声だ。優しそうな声だ。
『ハン、ポイント稼ぎだろ』
あの緑MSを倒し終えたのだろうか、渓谷の淵に立つ牛の人も男の人だった。けどシロクマの人より言葉に棘があるように感じられる。始めて水星に来たころの基地の人たちみたいだ。
『君と一緒にしないでもらいたいな』
『どうだかな…所詮お前もクソガンダムだ』
とても険悪な雰囲気だ、仲が悪いのだろうか。言ってることはわからないけど、取り敢えず事情は知っているらしい、スレッタが回線をつなげて話しかけた。
「あ、あの…貴方達は」
「ところでアイツは?姿が見えないぞ」
「一緒に出たんじゃないのか?」
「知るか…嫌な予感がする」
「まさか、城を墜とす気か!?どれだけあると思っている!この子だけでも手一杯だ」
「あの~…すいませ~────」
話に割り込もうとした時、センサーに何かが引っ掛かった。
「反応?どこに…」
渓谷の先は行き止まりだ。渓谷の周りを見渡しても緑MSはいない。僕らが暗い渓谷の下にいるだけで。
おかしい。暗すぎる。いつもなら灼ける様な太陽光が指してくるハズなのにそれも見えない。まるで何かに遮られているみたいだ。
そう思った時、スレッタが上を見上げた。
「何あれ…」
『クソ、城か…まずいな』
太陽を覆い隠す、円盤状の上半分から下に鋭く伸びた下半分が特徴の彗星。お城って言ってたけど、こんな近くにこんなもの、水星にはなかったはずだ。
驚いているとお城から何かが伸びて来た。うねうねとくねっていたけどそのうちの一本がピンと伸びた気がした。
『君、離れ────』
そう言ってシロクマさんが僕らを押し出した瞬間、目の前を何かが通り過ぎた。衝撃で渓谷からはじき出される。体制を整えて谷の方を見ると、輸送艦ぐらいの大きさの棘がシロクマさんを貫いていた。
「大丈────」
『────しま、ッ』
触手に潰されたシロクマさんが爆散する。炎を振り払うように棘が動いて戻っていく。
一瞬のことだった。けど確かに、一人、死んだのだ。
『よし、一人脱落』
空いた穴の向こうから牛の人がこちらへ渡ってくる。そう言う牛さんの声はどこか嬉しそうだ。何故そんなことが言えるんだ、スレッタが叫んだ。
「何で…人が死んだんですよ⁉こんなにたくさん…」
『だからなんだ?』
牛の人は苛立たし気にこっちを睨んだ。チェーンソーを僕の首にあてがい、ギィンと唸らせる。ちょっとでも動いたら斬られるだろう。
『どうせこの世界は直に終わる…サッサと退け、でなきゃ墜とすぞ』
クソガンダムが、そう言うと僕を蹴り飛ばして牛の人は去っていった。
酷い言い様だ、でも気にしてる場合じゃない。センサーに無数の反応。牛の人が蹴ったからまだ距離があるけど、その内追いつかれるだろう。
「ぁ…お母さ…ぉェ!?」
とうとう耐え切れなくなったスレッタはコンソールに吐き出した。これじゃ操縦どころじゃない。エスカッシャンで向かってくる緑MSを撃つけど、もうエネルギーがない。
エスカッシャンが次々に壊されていく。何とかしなきゃスレッタが危ない。けど緑MSはもうすぐそこまで迫って来て────。
────さて、そろそろか。
突然緑MSの山が膨れ上がり、赤い突起が突き出たサブフライトシステムが飛び出してきた。急接近してきたそれは僕を乗せると、急加速して緑MSの大群から抜け出した。
サブフライトシステムとは思えないほどの速さでMS達をぐんぐん遠ざけていく。数分くらいで緑MS達が豆粒ぐらいに見える場所まで来ると、サブフライトシステムは急停止の勢いで僕らを降ろした。
僕の中でスレッタが息をあげている。吐いたばかりに結構なGが掛かっていたもんね。あまり刺激しないようコンソールの明度を落とすと、通信が開いた。
見るとサブフライトシステムの前方の上に人影が見える。この人が操縦していたのかな?ぴっちりとしたパイロットスーツの人がこっちに手を振って来た。
『大丈夫か…怯えた妖精ちゃん?』
なんだこの男の人。ちょっとキザっぽいな、水星にはいない人種だ。
『よくここまで生き残れたな』
「あ…ぇ、のぉ…」
『あとは任せろ、こんな世界は忘れるに限る』
「!…ま、って待…って!くだ…さい」
スレッタのえずく声に男の人が首を傾げる。
『お生憎様、子守は得意じゃないぞ?』
「い、行った、ら、死んじゃう…」
モニターに縋るように手を伸ばすスレッタ。
「メリッサさんも…基地の皆も…さっきの人も…みんな、みんな死んじゃって、もう何にも……残って、なぐで…………」
哭きながら何とか言葉にしていくスレッタ。お母さんは仕事でここにはいない。でも一緒に基地で過ごしてきた人たちは、もう生きてないとは思う。それ以外の考えが、真っ赤に塗り潰されているのだろう。
「進んでも…逃げても…もう何にもないのに…何で進めば二つなんて言ったのッ、お母さん…」
逃げれば一つ、進めば二つ。むかしお母さんから貰った
娘とたった二人でこの水星に逃げてきて、厄介事を招くかもしれない余所者と疎まれ、でもこの厳しい星で生きていくって決めたお母さん自身の、そしてスレッタの背中を押してくれる魔法の言葉。
流石にお母さんも、こんな状況は想定してないとは思う。けど時間が経つほどに御呪いが効いてきて、スレッタを苦しめる。
コンコン、とコックピットが響いた。外側からハッチが開けられることを察して慌ててバイザーを降ろす。ハッチからひょっこり男の人が入って来た。何時の間に僕の所まで来たんだ、スレッタに何をする気だ。
スレッタが体を震わせる。男の人が手を伸ばしてもっと体が強張る。けど男の人はポンと頭に手を置くと、撫で始めた。
ゆさゆさと頭を撫でて、それ以上は何もしない。段々スレッタも力を抜いていき、それを感じ取った男の人は手を退けた。
「え…」
『大丈夫だ、俺が来たからにはな』
「…なん、で」
『進めば二つ…良い母親だな。』
男の人が振り返ると、その先には無数の光が。星明りじゃない。数は20、彼らが近づいてきているのだ。
『人間その気になれば、世界くらい幾らでも変えられる…空降る隕石だって押し返せるし、不滅の細胞も焼き尽くせる…宇宙人とも話せるんだからな』
なのにこの人…すごい自信だな、でも隕石や宇宙人は言い過ぎだと思う。
『こんな世界は終わらせよう…もう一度、やり直すために』
そう言って男の人が何かを取り出した。一つの円の中に六つの黒丸があるような、変なデバイス。それを腰のバックルに差し込んだ。
親指と中指、それと薬指を合わせて右手を大きく回す。顔にかざした腕をピンと伸ばして、パチンと指を鳴らした。
『
そう男の人が呟いたとき、センサーに反応。すぐ上にMS。
黒い足に白い体。妙に肘の出っぱった両腕と銃身が短いライフルを持ったMSがいたけど────
「…エ、ァリアル?」
僕に似てる、いや、途中で折れ曲がったアンテナが、キツネって生き物みたいだ。そんなMSと目が合った気がした。
男の人がゆっくり飛び上がると、キツネさんの開いていた胸にすっぽりと収まっていく。丁度向かい合うように水星の地面に立つと、キツネさんの眼が輝いた。
『さぁ…ここからが、ハイライトだ』
キツネさんは背中を向けるとスラスターを吹かして緑MSに突っ込む。ぶつかるかと思ったタイミングでキツネさんはジャンプしてビームガンを抜いた。
腕を振りながら放たれたビームが、吸い寄せられるように緑MSに当たる。着地したキツネさんは転がって緑MSの腕をとると、後ろに回してがっちり固定。振り向こうとした首の側から手を伸ばしてビームを撃った。
正面、横、くるりと回って後ろ、脚の間を通って別の機体へ、緑MSを盾にしながらあの大群に攻撃を当てていく。立ち上がったキツネさんは頭に蹴り込むと、つま先を刺したまま直立。銃を持っていない腕から
手が、足が、胴体が、頭が、緑MSに次々と灼けたような穴が空いていく。回転に耐えきれず首がねじ切れとんだ時には立てるMSはいない。首なしの一機も今打ち抜かれて倒れた。
ビームガンから黒いカートリッジを取り、新たに迫る機影に蹴りつける。迫る5機の流れが乱れたのを確認して新しいものをセットするけど、頭上から棘が迫っていた。危ない、アレを受けたらひとたまりもない。なのにキツネさんは回避する仕草も見せず、ビームガンの銃身を伸ばした。
立派なビームライフルに変わったそれを上に向けて撃つ。放たれたビーム砲が棘の側面に直撃する。棘は速度を落とさずキツネさん、の前に逸れながら落下。緑MSに突っ込んで横に倒れた。
キツネさんはまたカートリッジを取り換えると、今度はお城の方へ構えた。2発、引き金を引く。真っすぐと伸びた光はお城に当たりそうなところで弾かれた。距離があったのかな?
「コカカジキョクツ、ビアチャオ!」
『さすがは難攻不落の要塞…コイツの出番かな?』
そう言ったキツネさんは、突然腕を外した。ううん、外れたのかな?
不思議に思ってると、サブフライトシステムの後部から何かがせり上がって来た。銀色の推進機が目立つ赤い腕が射出される。そしてキツネさんの外れた腕に取り付いた。新しい腕として。
上半身の装甲────シェルユニットだろうか、輝きが赤くなる。サブフライトシステムがキツネさんの横に停まると、キツネさんはソレに跨った。
推進機を吹かし水星を飛び立つキツネさんにお城から放たれた無数の棘が迫る。キツネさんが腕のバーニアを吹かして軌道を変えながら棘を躱してお城に近づいていく。
サブフライトシステムの先端が割れ、巨大なビームの
『城は内側から崩せる、人が
お城のあちこちから火の手が上がる、偶に赤いビームが出てきたりする。爆発がお城全体にまで回った時、一番天辺がはじけ飛んでキツネさんが出て来た。
『行くぜ!』
キツネさんがジャンプすると、今度は足が外れた。でも流石に見慣れちゃったのかな、緑MSはひらりと交わしてマシンガンを向けた。けど後ろから白い腕が来ているのに気づかなかったからぶつかったけど。
『盛大に打ち上げだ!』
キツネさんがおもむろに両手足を伸ばした。ポンと手足が外れると、キツネさんを中心に時計回りに回転すると、再びくっついた。上下逆さまにするように入れ替えたのだ。
驚く僕たちの上で赤い足のブースターが轟々と噴き上がる。空中で二回、ねじるように回ったキツネさん。突き出した足の先で、サブフライトシステムの先端がパックリ割れた。まるで足みたいだ…ってことはまさか!
キツネさんがサブフライトシステムに足を刺すと全ての推進機が点火、城に突っ込んだ!城が戦艦触手を出してきたけど、掠っただけで焼き切れていく。もう流星だ。誰にも止められない。
『デャアアアアアアアアアアアアアアアアアア────────!』
「ピ、ピピキョデ、ピピクラァ────!」
紅白の光が要塞にぶつかると、あちこちが爆発で崩れ始める。真空の宇宙空間を揺らす衝撃がしばらく続き、要塞の下が吹き飛ぶ。出て来たキツネさんが僕らの前に着地すると、要塞ははっきりと形を崩した。
緑MSもそれに合わせて体を崩して消えていく。どういう仕組みなのかは知らない。けど、これで終わったんだろう。
「貴方は、一体…」
キツネさんは少し首をこっちに向けて来た。
『ギーツ…ガンダム・ギーツ』
キツネさん、ガンダム・ギーツ。僕と同じ、呪われたMS。けれど何だろう、僕とは何かが違う。そんな気がする。
『その言葉を、お前は信じるか?』
「え、えと…どういう────」
問いただそうとするけど、世界が震えた。
ゴーン、ゴーンと聞いたことのない音がフレームの奥まで響いてくる。レーダーもかき乱される、カメラもノイズまみれだ、今度は一体何なんだ。
「さぁ…始まるぞ。新しい世界が」
足から蒸気を吹き上げ始めたギーツが何か言ってる、けど。
どうしよう、機械、な、のに、ネむke……‥……………………。
水星軌道基地「ペビ・コロンボ23」は、太陽の重力で不安定な水星周回軌道を、微妙なバランスで回っている。
水星は太陽からたった5791万kmしか離れておらず、その熱を直接浴びればたちまち血液まで沸騰してしまうだろう。その反対に、水星の影に入れば、マイナス100度を越える極寒となる。とうてい人間が暮らせる場所じゃない。
さらに、太陽から飛来する強力な荷電粒子は断続的にシステムを誤作動させる。わずかなエラーが死を招くこの水星では、太陽風はまさに死を招く風だ。
ジジジという音がして、格納庫の照明が赤暗い色に変わる。
太陽フレア発生による警報で、基地全体が緊急事態モードに移行したのだ。
真っ暗になった基地内をスレッタがやってきた。
「エアリアル、入れ────」
「────おめでとうございます!」
「わぁ!?」
え、誰この白黒のドレス着た女の人!?何時からそこに居たの?
「え、だ、っちょ…あ、あな、貴方ッ何処か、ら」
「厳正な審査の結果、貴方は選ばれました。今日からあなたはガンダムです!」
「が、ががン…?」
女の人は手にした箱を押し付けると、どこかへ行ってしまった。って言うより今日からあなたはガンダム?スレッタはMSじゃないよ。
スレッタは返そうとしたのか半端に手を伸ばしたまま固まってる。仕方なく箱を開けることにしたみたいだけど、中には緑色の小さなデバイスが入っていた。危ないものじゃないよね?
恐る恐るスレッタがデバイスに触れた、途端に取りこぼしてしまった。大丈夫だろうか、少し硬直していたスレッタは、泣き出しそうな声とともに後ずさった。
「あれ…夢じゃない?」
どうしたのだろうか?
────おめでとうございます!
「……誰だ、お前」
────おめでとうございます!
「ふ~ん、で?君は、君たちは僕に何をさせたいのかな?」
────おめでとうございます!
────おめでとうございます!
────おめでとうございます!
────おめでとうございます!
────おめでとうございます!
────おめでとうございます!
────おめでとうございます!
────おめでとうございます!
────おめでとうございます!
────おめでとうございます!
────おめでとうございます!
────おめでとうございます!
────今日からあなたはガンダムです!
「ようこそ────俺の世界へ」
再びゲームが始まる。開幕を告げるように、デザ神・ウキヨ=エースはコインを弾いた。
| DGPルール1 |
|---|
| ドライバーとIDコアが届いたら、それはガンダムへの片道切符。もう後戻りはできない。 |
次回、『邂逅Ⅰ:グランプリへの招待状』
お楽しみに。