どんな日曜日何だろう?
第3話、どうぞ。
人工太陽の輝きに照らされ、木々が緑々しい葉を揺らす。嘗て地球に生い茂っていた緑の一端を再現すべく植林された森、その根元で一人の男が寝転がっていた。
白いYシャツとネクタイを決めた上から緑色の制服を羽織っている男は掲げた端末に指を滑らせ、情報を目に流す。時折指先を押し当て書類を選択し何かを書き込んでいた彼は、ふと手を止めると端末を降ろした。
「誰かと思えば、色男が一人とはな」
見ると長い金髪が特徴の、胸元をはだけさせた青年がこちらを見下ろしている。頬を緩め穏やかな笑みを浮かべる彼は、寝転がっていた男に話しかけた。
「こんなところで仕事?」
「大変だよ、まだまだ人手が足りないから、幾つかの業務は学業と兼任だ」
「…グループ傘下企業への新規事業提案、お陰で幾つか持ち直したってね」
「耳が早い、サリウス代表からいくつか仕事任されているんだっけ?」
「あそこ、あと少しで切られてたらしいから。義父さんも感心してたよ」
シャディク・ゼネリはウキヨ=エースのすぐ横で腰を下ろす。
「『スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズ』…A.S.199年創設の新興コンサルティングファーム。僅か1年で多くの企業へ新規事業・企画を提案し成功に導きグループと業務提携、今じゃ文字通り業界のスター…」
「流石、良くリサーチしているよ」
「知らない人はいないんじゃないかな?…この前の決闘のこともあったし」
「ああ、あれか」
エースは心当たりを思い返して苦笑する。
この学校の最大の特徴と言える昨日の
「デミトレーナーでザウォート6機を撃破した社長転校生…こんなとこでコソコソ作業しているのも、やっかみから逃げる為?」
「あの後大変だったんだよなぁ、デミトレーナー借りた会社から怒られてさ…フレームが使い物にならなくなって買い替えなきゃ~って」
「あんな動きしたら当然でしょ…最後の何?ザウォート踏みつけて更に錐揉み回転って。よく吐かなかったよね」
「ま、お陰でデミは空中分解寸前。OS弄っただけじゃ無理があったか…」
カラカラと笑うエースに苦笑いを浮かべるシャディク。ふとエースは半身を起き上がらせた。
「で、何か用事があるんだろ?ナーゴ」
真剣な眼差しを向けるエースに対し、
「こんなところまで取り巻きガールズを連れずに来る用事なんて限られてる…デザグラはその存在を隠しているからな」
確かお前いつも周りに女の子いたよな?と眼をキョロキョロ向ける。木の間には誰もいないし、隠れている気配もない。この森林が生い茂るエリアは学園を運営する宇宙都市『フロント』の管理下にある。定期的な伐採や雑草処理の為に職員がやって来ることがあっても、生徒が寄り付くことはそうそうないのだ。
指摘され、ここでやっとシャディクは笑顔を崩した。
「パルネオ、テングリフ、ロングロンド…ここ数年で事業縮小又は倒産したグループ企業を調べてみたけど、半分近くが中核を担う経営者やその一家が行方知れずになっている。一部じゃ過激派アーシアンの犯行なんて言われているけど、彼らはデザグラに参加して
「そういえば何人か見かけたから、そうかもな。」
「やっぱり。聞けば君は常連優勝者らしいからね、色々知ってると思って────奴ら何者なの?」
「それは俺も知りたいところだ。素性を明かしてないのは、要らぬ混乱を避けるための政治的判断、とも思えん」
「明らかにMSとは逸脱した存在ジャマトと、それと闘うために製造されたであろう、
膝に頬杖をつくと、シャディクはエースの顔を覗き込む。その眼には口元に浮かぶ笑顔は籠っていない。
「俺を疑っているのか?」
「何でも願いが叶うなら、可笑しな話じゃないさ。『社長になりたい』とか…ね」
二人の眼差しが交錯し、沈黙が流れる。息が停まりそうな圧迫感がその場を支配しようとしたが、エースの笑みがそれを全て打ち消した。
「大丈夫………少なくともウチは信頼と安心を売りにしているからな。仕事があったらいつでも連絡をくれ」
「…商魂逞しいね、嫌いじゃない」
「まだまだ社を大きくしたいからな。受けられる仕事は何でも受ける」
「なら今度頼もうかな~僕個人で相談したいことがあるし」
「いつでもお待ちしてますよ、グラスレー・ディフェンス・システムズ様?」
立ち上がったエースは仰々しく一礼する。わざとらしいのに様になっている所作が苦笑を誘う。森を出ようと背を向けて、少し横顔をのぞかせた。
「安心しろナーゴ…奴らが何者であれ、最後に勝つのは俺だ」
「足元掬われないように気を付けてね?デザ神君」
二人は別れ、それぞれの場所へ戻っていく。その胸に黒く光る牙を研ぎ澄まし、いざ時が来れば首に突き付ける為に。
アスティカシア高等専門学園は只の学校ではない。
ベネリットグループという一大企業の利権と策謀渦巻く、未来の傑物たちの住処である。
魔境より遠く離れた水星の、ペビ・コロンボ23。MS格納庫に鎮座するツインアイの機体の中でスレッタ・マーキュリーは通信を開く。もうすぐ16歳の誕生日、仕事で出張している母のプロスぺラと連絡を取れるのだ。
『スレッタゴメンね。誕生日に一緒にいられなくて』
「ううん、気にしないで。」
聞こえてくる優しい声に胸が温まる。
プロスぺラは水星の会社「シン・セー」でどんどん出世しており、地球圏と水星を行ったり来たりを繰り返している。前に誕生日を祝ったのは5年くらい前、だからこうして声が聞けるだけでも嬉しかった。
「最近はみんな忙しそうにしてるし…でも、私もエアリアルも頑張ってるし」
『聞いたわよ、人手が足りないから手伝ってもらっているって。偉いわ、流石私の娘』
「……………うん」
水星は過酷な環境だ。灼熱と極寒が隣り合わせの世界で
故に一人でも欠けたとあれば作業に大きな支障をきたす。最近は老練な作業員であるエルゴが忽然と姿を消してしまったため作業が滞り、採掘量が減少してしまった。スレッタが作業員の補填に入ったため何とか持ち直しているが、管制官のメリッサは一人、夫の安否を心配していた。
頼みに来た時の彼女の沈痛な表情に、スレッタの胸は絞めつけられた。しかし真実を口にすることも出来なかった。
すこし無言になってしまったようだ、母が声を掛けてきている。大分疲れたのではないか?心配する声に大丈夫と返す。作業自体は苦ではないし、彼女も助かったと感謝の声を掛けてくれた。それがうれしかったし、何より命がけの戦闘よりかは気は楽だ。
「あ、お母さん。ちょっといい?」
そう考えた時、自然と母を呼び止めてしまった。しまったと思ってももう遅い、プロスぺラはこちらに注意を向けていた。
『どうしたの?改まって』
こうなったら言うしかない、いや言っておくべきだ。デザイアグランプリに参加していることを、もしかしたら死ぬかもしれないことを、何よりも大好きな家族に。
「うん、実はね────」
だがスレッタの声は細い指に遮られた。
「え?」
指は端末のマイクを切り、声を母へ届かせないようにした。スレッタは戸惑うも、顔を上げて指の主を見た。
「ツ、ツム、リさん」
「デザイアグランプリに関することは、部外者に喋ってはいけません」
やはりどこから現れたか分からない白ドレスのツムリがスレッタを咎める。心なしか目が怒っているように見えた。
「破った場合はその時点で強制
「あ、そ、の…」
「もし…デザイアグランプリを続けたくない場合は構いませんが…」
逡巡するスレッタにツムリが問いかける。
デザイアグランプリは人知れずジャマトと闘うために創られた。彼らが齎す脅威と恐怖は、嘗て巻き込まれた側であるスレッタには身に染みている。懇意にしてくれた人々が殺される悲しみも、自分が殺されるかもしれない恐ろしさも、全て忘れて生きていた方が良いのかもしれない。正しく“あんな世界、忘れるに限る”のだ。
けれど自分は思い出し、なし崩しとはいえ当事者になってしまったのだ。なのにこの苦しみを親しい人に吐き出す事さえできないのか。
『スレッタ』
母の声音に心配の色が混じる。きっと急に声が聞こえなくなったから訝しんでいるのだろう。ツムリの指が端末から離れた。マイクのアイコンを押せばすぐに話せる、早く出ないと。
押す。通じた、言うんだ、言え、言おう、言わなきゃ。出ない、何で、どうして、何かを伝えなきゃ。でも見られている、怖い、どうしよう。
────命をかけてでも叶えたい願いが……ここにいる全員にな。だから勝ち残るしかない
そうだ、言えば楽になる。デザイアグランプリから逃げ出せる。学校なんて別の機会に行けばいい、死んでしまったらそこでお終いだ。だから────
────ここじゃ逃げれば一つはないぞ
「────う、うううん、何でもない」
『そう?ならいいのだけれど…頑張ってね』
励ましを最後に切れた通信の前で体を丸めると、抱えた膝に顔を埋めた。
ついてしまった。多分初めて、母に。
「ご協力感謝します」
震える手に冷たい感触が伝わる。これはツムリの手だろうか、少し驚くが、直ぐに感触が離れていくのを感じた。
「あ!あ、ああの…ジャマト、って、何ですか?」
思わず呼び止めてしまった。背を向けていたツムリは振り返ると、申し訳なさそうに眉をハの字に曲げた。
「最初にも説明しましたが、ジャマトは製造元不明、所属不明、目的不明、何もかもが謎に包まれたMS集団。ただ一つ分かっていることは、人類を脅かしているという事だけ」
「ど、どうして、人を襲うんですか?」
「それは…ジャマトにしか分からないでしょう」
ツムリはそれきり口を閉ざした。どうやらこれ以上は聞くことはできないようだ。
逃げれば一つ、進めば二つ。そうやって今まで自分は進んでこれた。けれど今は逃げても一つはないし、進めているかさえも分からない。
「セカンドミッションは近日中に実施いたします。スパイダーフォンは肌身離さず、所持していてください。」
けれどグランプリは進む。カードに願いを書くよりも前に、ドライバーが届いた時点で後戻りはできない。ジャマトに殺されるか、デザ神になって理想の世界を叶えるか、二つに一つだ。
「ミッション…」
そしてその日は2日後に来た。
| SECOND MISSION:ゾンビサバイバルゲーム |
|---|
| ・第3ウェーブまでに、ゾンビジャマトを全滅させよ! |
「今回は拠点防衛戦です」
デザイア神殿に召集された六人のパイロット。彼らの前に立つツムリの頭上で大きなモニターが起動する。
映し出されたのは、あるMSの概略図。流線型な装甲に肥大化した手足、大きく突き出たクリスタル状の胸から生えた頭部には従来のカメラアイはなく、代わりに一本の横線が彫られている。前回現れた個体よりもさらに生物的とした、もはやモンスターと形容できる外観のジャマトだ。
「今回のジャマトはパーメットに干渉する電脳ウイルス『パーメットウイルス』を持つゾンビジャマト…」
「…ゾ、ゾンビ?」
「はい。このウイルスはMSを介して人体にも影響を与え、やがてその命を奪い物言わぬ傀儡へと変えてしまいます。このウイルスがばら撒かれれば、多くの人々が死に至る事でしょう」
ゾンビと言うよりドラゴンじゃ、とスレッタがつぶやくが、他の5人は画面を食い入るように見つめている。
パーメットとはスレッタが住む水星や月で採掘される鉱石から生成される金属化合物である。パーメット粒子間でボゾンによる情報共有を行うという性質を持ち、この性質を活かした革新的な制御技術によりパーメットを混合させた新素材や推進剤が開発された。
数十年前にはパーメットの特性を生かして人体と機械を有機的に結び合わせようとした技術体系が提唱されたが、機械から人体へ過度な情報が流れ込む危険が見られ禁忌とされた。今回のウイルスはその侵害的情報逆流現象“データストーム”を人為的に引き起こすものだと理解できた。
「ゾンビジャマトの狙いは、軌道エレベーターです。軌道エレベーターを介することでウイルスを広範囲に効率的にばらまくことが出来るからです」
「成程、ウイルスを撒くにはうってつけって訳だ」
「コレ防衛するの?」
地上と宇宙の行き来には欠かせない軌道エレベーター、その中には多くの通信機器、維持管理の為の情報網が存在するし、それらを稼働させるために大量のパーメットも使用している。もし軌道エレベーターがウイルスで汚染されれば、地球宇宙問わず甚大な被害が出るだろう。
しかし軌道エレベーターはMSが小人に見えるほどに巨大だ。こちらは6人、守り切れるのか。
「そして本ミッションはスコア対決、スコア最下位となった方は強制脱落になります!」
軌道エレベーターの図解が消え、表示されたスコア表に以下のような項目がずらりと並ぶ。
| ACTION | SCORE |
|---|---|
| 討伐 | +1000pt |
| 救助 | +3000pt |
| ヘッドショット | +200pt |
| バックショット | +200pt |
| 2コンボ討伐 | +500pt |
| 3コンボ討伐 | +300pt |
| アシスト討伐 | +100pt |
| コンビネーション必殺 | +1000pt |
| ファースト討伐 | +200pt |
| ワンショット討伐 | +500pt |
| ロングショット討伐 | +300pt |
| ポイントブランク討伐 | +400pt |
| ノーダメージ討伐 | +400pt |
| リボルヴオン | +100pt |
| ノーウェポン討伐 | +200pt |
今回のミッションはエリア内に取り残された人々の救助も行う。討伐スコアの3倍のスコアが入るため、戦闘よりもいかに人の命を守るかが重要視された配分のようだ。
さらにルール違反した場合には以下のような減点項目も存在するようで、
| BAD ACTION | MINUS SCORE |
|---|---|
| 過剰討伐 | -800pt |
| エリア外に出る | -1500pt |
| 他プレーヤーへの攻撃 | -2000pt |
| 妨害 | -1000pt |
主に他者への妨害や逃亡に対して減点が付く仕様だ。
ゾンビジャマトの感染を避けつつ、時に連携しながら多くの人を助け、多くのジャマトを倒した者の勝ち。要約するとそういうルールだ。
「なお皆様もウイルスに感染し死亡した場合は討伐対象となりますので、感染には十分ご注意ください。それでは、第1ウェーブ・ミッション開始です!」
ツムリの号令の下、6人のプレイヤーたちがコックピットへ乗り込む。正面コンソールが明滅してシステムが起動。連動してドライバーのIDコアが輝くとユニフォームがパイロットスーツに変化した。
各々懐からバックルを取り出すとドライバーの拡張スロットに差し込んでいく。
ドライバーから情報を受信した神殿がその権能を稼働。彼らの頭上から対応する拡張装備が運び出される。準備を終えると、エースはフィンガースナップした。
「
バックルのエンブレムを押すと同時にドッグの設備が動き出し、装備を手に持たせていく。最後に右肩部へ装備のエンブレムを印字した装甲が設置された。
「
「…
それに倣うようにナーゴ、ダパーンも装備を持つ。但しダパーンは両手が外され、マグナム専用の両腕『ガンスリンガーアーム』に換装、両肩に『マグナムガードSA』を増設され胸部『PPチェスター』が白く発光する。
順次装備が進み、パイロットたちは戦意を高める為起動コードを口ずさむ。
シャディクは黒猫を思わせるように両拳を挙げてクイッと曲げて。
カルナは面倒くさそうに首を鳴らし。
道長は右胸を左手で払うと、その手を挙げて。
モリンは右腕を大きく回してから、万歳するように両手を挙げた。
「
「
その中で一人、スレッタは今だバックルを差していなかった。
手にしているのは緑色のバックル。ファーストミッションの時、拾い上げていた戦死者の形見。これを見るたびに死にざまと最期の言葉を思い出す。
エルゴはスレッタとプロスぺラを嫌っていた、憎んでいたと言っていいだろう。採掘作業中の事故から助け出しても不遜な態度を崩さない、故に彼とそこまで接点はなかった。けれど彼にも、妻の為に叶えたい願いがあった。
今でもやはり怖い。戦えば死ぬかもしれない。そんなリスクを背負ってまで叶えたい願いも、まだ自分の中では定まっていない。だが目の前で再び死に行く人を見過ごせるか?気後れなんてしてられない、スレッタはバックルを思い切り差し込んだ。
「
自らを勇気づけるように叫ぶ。それにこたえるかのように、装備したタイクーンはそのつぶらな目を輝かせた。
さぁ、世界を救うゲームを始めよう。
光のトンネルを抜け、ガンダム達は軌道エレベーターから少し離れた市街地へ着地した。街は軌道エレベーターを中心とした都市開発によって栄えていたのだろう、だが今は見るも無残な廃墟を晒している。
砕けた建造物の間から蠢くモノが在る。猫背のような姿勢でこちらを睥睨する線上の光。ゾンビジャマトだ。身構えるガンダム、その周囲から無数のMSが湧きだしてきた。
丸い頭部からブリオン社のデミシリーズだろうか、皆一様に破損して内部フレームを露出させている。明らかに動けるダメージではない、にも拘らず体を揺ら揺らと動かしながらこちらへ手を伸ばしてくる。この街を守っていた部隊は既に感染してしまったようだ。
ゾンビジャマト達はこちらへ走り寄ってくる。6機のガンダムは武装を構えると、散開して迎撃し始めた。チェーンソーが唸り、マグナムが火を噴き、ハンマーが装甲を凹ませ、シールドをぶつけて競り合う。その中でタイクーンもまたアームドアローを両手で構えた。
引き絞った弓から矢が放たれる。緑のビームが感染したデミ、名付けてデミゾンビの足を溶断する、しかし横転したデミは指の欠けたマニュピレータで這いずりながら近づいて来た。既にコックピット周りは抉れてパイロットの影さえなかったはずなのに、本当にゾンビのようだ。
嫌悪感を抱きながらも脚部スラスターを吹かして距離を取る。だが着地と同時に足を掴まれた。見ると上半身だけのデミゾンビがこちらを見上げながら何かをこちらに近づけている。まるで噛もうとしているようだ。
咄嗟に推進器を全開にして飛び上がる。デミゾンビは足からずり落ち、あおむけに転がり落ちる。タイクーンはアローからありったけの矢を撃ちはなった。殺到した矢が全身を焼き、最期に頭を砕かれたデミゾンビは動かなくなった。
跳躍したタイクーンが地上に足を降ろす。だがバランスを崩したのか近くの建築物へ片手を突っ込みながら尻から着地した。引き寄せられるような痛みに苦悶するスレッタ。やはりまだ重力下での戦闘になれていない。
立ち上がろうとした時、センサーに反応があった。生体反応、場所は直ぐ近く。
「人!?」
尻もちをついたタイクーンの指の間、母親と幼い子供が互いを抱きしめ合っているのが見えた。逃げ遅れたのだろうか、スレッタはスピーカーをオンにした。
「大丈夫ですか!早くこっちに!」
体勢を立て直し片膝をつくタイクーン。差し出された手に顔を見合わせた親子は、恐る恐るよじ登る。それを確認したスレッタは、マップを映しながら操縦桿を引いた。
「確か救助者は…軌道エレベーターに」
端末の指示に従い、軌道エレベーターへ疾走する。救助した人間はそこで保護するように指示されているからだ。エリアを出る為、その分減点されるが気にしなかった。兎に角この親子を安全な場所へ送り届けなければ。
幸いにもタイクーンのコックピットは立地式であることを覗けば共通規格、そしてエアリアルに勝るとも劣らない性能を持っている。途中倒れ込むように襲ってくるデミゾンビたちをひらりと躱しながら、エリアを脱出。近づいていく天空への階段、その大きさをひしひしと感じとれる位には滑走出来た。もしこれがジャマトの手に堕ちれば、あの日の水星の比じゃない被害が出る。やがて軌道エレベーターのふもとに辿り着いたタイクーンは、掌にしがみ付いていた親子を降ろした。
親子はふらふらと地上へ降りていく。子供の方が笑顔でこちらに手を振るのが見えると、スレッタはホッと息を着いた。
アナウンスと共にコックピットへミッションボックスが転送される。何だと開けてみると、中にはあの赤いバックルが。
「ブーストバックル…」
スレッタは息を呑む。単体で戦況をひっくり返しえる力、だが取る手は震えてしまう。取り敢えず仕舞おうと、ドライバー横のホルダーに突き刺した。
振り返ると今だ戦闘の音が聞こえてくる。まだ戦いは終わらない、そして残っている人がいる筈だ。タイクーンはエリアへ戻って行った。
この間もガンダム達は各々死力を尽くして戦い続ける。デミゾンビがふるう腕を回避しながらハンマーを振り下ろすガンダム・ナーゴ、だが装甲をわずかにひしゃげさせるだけでダメージには至っていない。そこで突き出された爪の上を飛び上がると、がら空きの背中を蹴って近くの建物へ顔面から突っ込ませた。顔が嵌まって藻掻くジャマトの露出した首元にハンマーを打ち込むと、関節部が破断。そのまま胴体が崩れ落ちた。
「個人プレー苦手なんだけどな~」
コックピットで独り言ちるシャディク。背後から迫るゾンビジャマトをハンマーでいなすと、再びハンマーを振り上げる。だが背後から放たれたビームに頭を熔解されたゾンビジャマトは倒れ、ハンマーは空回りした。
振り返ると、どろりと溶け落ちる穴と、その先から見える銃口。建物越しに見えたのは白黒のパンダ頭だった。
『手伝ってやるけど?ゼネリ』
「へぇ親切、ありがとねカルナさん」
ガンダム・ダパーンからの低い通信に、笑って答えるシャディク。しかめっ面が更に険しくなったが、気にも留めずに次の標的を見据える。だがその標的も何処からか落ちて来たデミゾンビに押しつぶされてしまった。
「このッ…デカブツが!」
エリア中心、最も戦闘が激しい場所でデミゾンビの残骸が宙を舞う。破壊と爆発の渦中の中、ガンダム・バッファが猪突猛進にゾンビジャマトとぶつかった。黄土色の鍵爪とバッファの長爪が絡み合い、押しあう。数刻の競り合いの末、バッファが腕を引き込むと、ゾンビブレイカーを叩きつけ腕を切り落とす。前のめりになったゾンビジャマトを蹴り上げ頭を吹き飛ばし、トドメにゾンビブレイカーを胸に突き立て半ばまで押し込んだ。
機能停止を確認したバッファはブレイカーを引き上げようとしたがビクともしない。刺し過ぎたようだ、両手で抜こうとしてまだ切り落とした腕が絡んだままなことに気づく。軽く振っても落ちそうにない為、バッファは思い切り腕を振って腕を引き剥がした。飛んで行った先にガンダム・メリーが居たが、手持ちの盾で別の所へ弾き飛ばす。
『ちょっとちょっと!危ないじゃんよ!』
「知るか!」
モリンからの抗議を一蹴しながらゾンビブレイカーを引き抜き、三人組のゾンビジャマトへ斬りかかる。当たろうが破損しようが知ったことではない。スコア最下位は強制脱落なのだ、一体でも多くジャマトを倒しスコアをギーツより稼がなくてはならない。幸い装備の差は歴全としている、このペースでいけば確実に1位は自分と確信していた。
「あの装備じゃそうそうスコアは…」
『それはどうかな?』
その時、目の前のゾンビたちの頭が飛んだ。ずぶ濡れの平坦な断面を見て横を向くと、建物の上に飛び乗ったキツネ面のMSが放水銃と盾を持って佇んでいる。
『ゾンビは頭が弱点、昔から相場は決まっている』
ギーツはレイズウォーターを逆手に持ち替えると、そのままゾンビジャマトに殴りかかる。二の腕より太い全をんで防がれるが、こちらも下からの突き上げをシールドで防ぐ。黄土色に輝く爪、表面に流れるのはパーメット特有の輝き、これを喰らえば感染するのだろう。
ギーツはジャマトの腹に足を掛けると、上空へ駆けあがる。空へ逃げるのか、ゾンビジャマトはギーツを捕まえようと手を伸ばすが、その胸にパーメット輝く爪が生える。直地したギーツは盾を地面に挿し、レイズウォーターを乗せて照準を合わせると、同士討ちするよう誘導したジャマト達の首目掛けて放水。高圧圧縮された水圧カッターは関節部を直撃し、時間差で二体の首を切断した。
「くっそ、下水道か!」
レイズウォーターから伸びるホースの先を見て、道長が毒つく。前回のような湿地帯でないから水の供給は出来ないと思ったが、ココは市街地だ。マンホールなんて幾らでもあるのに、どうして忘れていたのか。
見ればこのあたりのジャマトやデミゾンビ達はあらかた倒れている。奴がどれだけ倒したか、確認している暇はない。残ったジャマトへ向けてスラスターを吹かした。
そして間もなく。
『第1ウェーブ終了です!』
全20体、エリア内のジャマト反応総てが消失した。
第1ウェーブを終え、戦士たちは休息の時を得た。各々椅子にくつろぎ、ギロリから支給された水分を補充する。脱力した空気の中で、カウンター席では剣呑とした空気に包まれていた。
「取引成立、だな」
「フン!」
エースが紫の大型バックルを手に取ると、道長は忌々し気に残った小型バックルをふんだくる。その様子を見ていたスレッタは彼らの一挙手一投足にビクついていた。
「賭けしてたんだって。スコアが多かったらバックルを交換するって」
「え、あ、えっと…シャディク、さん」
「よろしく…俺も取引乗っかっとけばよかったかな」
横から入って来たシャディクは困ったように笑いながら手元のフォンを弄る。表示されていたのはスコアランキング、シャディクは金色のネコのマークだったようなと眺めていると、彼のマークは一番下に表示されていた。
「最下位、か…」
「あ、だ、大丈夫ですよ。まだあと、2回はありますし」
「ありがとね水星ちゃん…ま、何とかするよ。お互いに気を付けよう」
取り敢えず励ましの言葉を掛けるスレッタに、変わらず笑顔で答えるシャディク。だが最後に欠けられた言葉にスレッタはハッとした。確かスコア最下位は強制脱落、と言っていたはずだ。つまりこのままでは、シャディクは死んでしまうという事なのだろうか。
スレッタは意外にもギーツ、バッファに続く三番目。彼女自身は無自覚だが他パイロット達より人命救助を優先していたため討伐スコアよりも効率よくスコアを稼いでいた。しかし代わりにジャマトを倒す事には貢献できていないから、不安が沸き上がって来ていた。
「あのさ~なんか無いの?こう…課金とかさ」
「デザイアグランプリにはデザイアマネーが存在しますが…購入できるのは衣服や飲み物など、ココで快適に過ごしていただける物品のみでして…」
「嘘~ん」
声のした方を見ると、カウンターで詰められていたギロリの申し訳なさそうな態度にモリンが崩れていた。恐らくもっといい装備がもらえないか相談していたようだ、彼は確か縦しかもっていなかったはずだ。
その様子を同じく見ていた道長は険しい顔を歪めた。
「みっともないなオッサン」
「そんなこと言わないでよ牛ちゃ~ん!だって、何でも願いが叶うチャンスだよ?やれることやっときたいじゃ~ん」
「当たり前だろ、勝つために手段を択ばない…それがデザグラだ」
「でしょでしょ!あそういえば、皆何願ったの?タヌキちゃんとかネコちゃんは?」
「はいぃ!?」
立ち上がったモリンから話を吹っ掛けられスレッタは慌てふためく。挙動不審すぎて逆に注目を集めてしまい、何か言わねばと舌を噛んでしまった。
「わ、わた、ひは、学校です!学校に行きたくて…」
「学校だと?」
「水星には学校が無くて…だから学校を作りたいんです!そのためにもいっぱい勉強して…」
「すごいじゃ~ん!ネコちゃんは?」
「う~ん…色々あって困っちゃうな~本物の愛がほしいし、世の中をよくしてみたいし…あ、あと宇宙旅行とかも」
つらつらと願いを述べていくシャディクにモリン、隣のスレッタは圧倒される。あのカードに書ける願いは一つだけじゃないのかと思いながらも、嬉々として願いを語る彼の姿に思わず魅入られる何かがあった。
「す、すごい、です…きっと叶いますよ!シャディクさんなら────」
少なくとも惰性で戦っている自分よりは、そう言おうとして言葉が詰まった。
相変わらず笑っている、口元は。けれどこちらを見たシャディクの眼が、今まで感じたことがないほどに冷たく見えた。
「残念だけど水星ちゃん…気持ちだけで叶うなら、俺ココには参加してないよ?」
「え、あ…ごめんなさい」
「いいよ別に…気にしてないさ」
揺ら揺らと手を振るシャディク、その眼にはもう冷たさはない。先ほどの背筋も凍るような怖さは気のせいだったのだろうか。
「下らない」
談笑をぴしゃりと遮る声が響く。振り返ると道長がこちらを見向きもせずに休憩室を出ようとしていた。
「ちょっと~!牛ちゃんは?」
物々しい圧にモリンが呼び止める。しかし道長は無視して休憩室のドアを開け放って去っていった。なごんでいた空気は完全に静まり返り、ツムリのアナウンスがあるまで誰もしゃべることはなかった。
「…ねぇ、アタシと組まない?」
猛牛の背を追った者がいたことに気づく者はいただろうか。
『第2ウェーブ、開始です!』
ジャマ―エリア内に存在するゾンビジャマトは、感染済み合わせて40体。範囲は第1ウェーブより広く、先ほどは含まれなかった軌道エレベーターも範囲内に入っている。本格的に防衛戦じみてきた状況に各員、気をひき絞めてミッションを開始した。
コックピットに響く手ごたえにガンダム・ナーゴ、シャディクは内心臍を噛む。感染したMSならナーゴが持つハンマーでも十分破壊は出来る。だが今相対するMSはデミゾンビとは訳が違った。
MD-0031UL“ディランザ・ソル”。ジェターク・ヘビー・マシーナリーが開発・製造したMSで、その鈍重な見た目に違わぬ重装甲。重力下に置いて素早さはないが、堅牢さはゾンビジャマトを上回っている。さらに接近戦ではリーチの長いビームトーチによる剣戟を振るってくるために、ハンマーだけでは分が悪すぎる。
幾度となくハンマーを振り下ろしても両肩部のシールドに弾かれ頭部を狙えない。隙を見て突き入れられるビームトーチを躱しながら、シャディクは思案する。その間にもゾンビたちがぞろぞろと集まってきているのだ、時間はない。
そうこうしているうちにゾンビジャマトが頭上から落ちるように爪を突き立てる。間一髪ディランザゾンビを蹴り出して回避したが、ゾンビジャマトが大地を抉り、亀裂がそこかしこに走り回る。
「お?」
それを見たシャディクは一瞬地図を見やる。そして操縦桿を押し出して加速すると、ゾンビジャマトの腕にハンマーを叩きつけた。
「確か、こうだったっけ?」
先の第1ウェーブを思い返す。確かあの時も“彼”はこうして敵を踏み台に自身に有利なポジションをキープしていたはずだ。慣性に従いゾンビジャマトを飛び越えたナーゴは、その先にいたディランザゾンビに思い切りハンマーを叩きつける。まさかこちらに来るとは思わなかったのか、対応が遅れたディランザゾンビの頭部は陥没し、そして彼らの足場が崩壊した。
ボッカリと開いた大穴にその場にいたゾンビたちがまとめて堕ちていく。離れていく空へ手を伸ばすゾンビを踏み抜きながら、ナーゴは穴の淵まで跳び去っていく。
ココは軌道エレベーター近くの物資搬入場所。地球から宇宙へ多くの物資を運ぶため、地上だけでなく地下にもMSが大量に入れるほどのスペースが設けられている。あの程度でゾンビたちが壊れることはないだろうが、これでしばらくは時間を稼げるはずだ。
センサーの反応を見るとこちらにダパーンが近づいてきている。彼女は確か遠距離砲撃が出来たはずだから、先ほどの申し出を受けるのも良いだろう。丁度交換条件が出来た所だ、スコア取り放題の状況に乗らない手はない筈。そう考えていると、センサーの反応が激しくなった。ダパーンの反応が減速すること無くこちらに迫っている。まずい、と思った時にはダパーンとナーゴは激突していた。
押し出されたナーゴはそのまま穴の底へ落ちていく。武器を放り反転して何とか着地には成功するがマズい。中に何がいるか、それはシャディクが一番よく分かっている。
『ハッ、これで逃げ場はない…さっさとゾンビになっちまいな糞野郎!』
通信越しの哄笑にシャディクは納得した。何とも思慮深謀の浅い行動だ。プレイヤーへの攻撃は減点対象、だから彼女の行動は自分の首を絞めるだけだ。それなのに個人的な私怨を優先するとは、シャディクは眉をひそめた。
『はっはっはっ!良い様ねぇゼネリィ!』
「全くさぁ…」
ディランザゾンビに組み付かれながら、ナーゴは上を見上げる。ツインアイに映るのは天井に刺さったハンマー、そこから走る亀裂の上でこちらを見下ろすダパーンだ。
次の瞬間、天面がさらに崩れダパーンが転がり落ちて来る。ダパーンのつま先に当たったハンマーは軌道を変え、ナーゴの手に再び収まった。
『な!?』
「言わんこっちゃない…ご愁傷ッ、様!」
何度もハンマーを叩きつけながら、ナーゴはディランザゾンビを沈黙させる。姿勢制御の際にハンマーを投げてみたが、ダパーンに当たらなくてよかった。言い方は悪いが、これで道連れが出来た。彼女も命が惜しいだろう、思わぬ形での共闘になる、そう思っていた。
『────なんてねェ?』
だが迫ってくるゾンビの数は変わらない。ダパーンを見ると、周りにはゾンビが一体もいない。全部彼女を素通りしてこちらに向かってきている。背中に嫌な汗が垂れてきた。
「彼女を無視する?」
『アンタが野垂れ死ぬとこ見といてやるよ、クソスペーシアンがァ!!!』
ジャマトの中に消えていくナーゴを眺めながらカルナは勝ち誇る。ゾンビは同じ死体に興味はないという、あの群れが消えたころには一体どんな無残な様になっている事だろうか。抑えられない笑みが腹から響き、シャディクの最期を刮目せんとした、その時だった。
ジャマトの一団が古いコミックのアクションシーンよろしく吹き飛ばされた。ジャマト達の間から見えたのは陽光を反射する紫の重装甲。左手に延長されたかぎ爪を持ち、右手にビームチェーンソーを振り上げた狐のMS。
「目には目を、ゾンビにはゾンビを…見逃すなよ?このサプライズムーブ」
ガンダム・ギーツが太い腕を振るいジャマトを薙ぎ払う。崩れた戦列に飛び込んでゾンビブレイカーを振るって分厚い装甲を切り裂く。反撃はスライドでもするように躱し背後を獲れば、首をもぎ取って即席の鉄球に変える。
バッファが使っていた時とは違う、力を技術でコントロールして、最大の戦果を挙げている。手にした頭部を投げつけナーゴに覆いかぶさろうとしたゾンビをけん制すると、ナーゴの上を転がり越えて、瞬く間に四肢を両断していく。
「アンタもゾンビになっちまいな!」
マグナムシューターから放たれる光弾を腕で弾き、ジャマトに風穴を開けていく。ギーツは背後を獲ろうとしたディランザゾンビを組み伏せると、その頭を掴んだ。カルナはほくそ笑む、隙を晒したなこの馬鹿め、と。
「良いぜ、受けてやる」
ロックオンの警告を聞き、エースはバックルを180度回した。
手足が外れ、ビームを回避。そのまま上下を反転させ、再接続。ディランザゾンビの上で直立するような姿勢になったギーツがダパーンを睨んでいるに見えた。
「さぁ────ハイライトだ」
前に倒れ込むように両足を突くと、足で掴んだゾンビを持ち上げる。曲芸の一場面のような光景に動かないダパーンへ思い切りゾンビを投げつけた。
迫る巨体に思わず発砲しながら横へ逸れる。元居た場所には炎上するゾンビの姿が。MS一体を持ち上げるなどどういう出力をしているんだ、ダパーンは再びマグナムシューターを構えた。
「居ない!?何処に…」
ズーム越しに周囲を見渡すと、ガツンとコックピットが揺れた。視界を戻すと胸に橙色のスパイクが突き立てられている。距離を詰められた、銃口が向くより前に右ペディピュレータと化した
ダパーンの腹部を捉えた足を射出、天井を突き破り地上へダパーンを蹴り飛ばしていった。道路を突き破って来たMSの影に地上のガンダム達は身構えるが、出て来たMSの正体、そして後から現れた、ナーゴを抱えた片足のギーツを見て、最初に声を掛けたのは道長だった。
『どういうつもりだギーツ!他のガンダムへの攻撃は────』
「────スコア、よく見てみろ」
怒鳴り声に冷静に対応され、バッファはスコア表を見る。妨害や他プレーヤーの攻撃はかなりの減点だったはず、だが順位の変動はなく自身と大きく差を付けた点数のままだった。
『スコアが減ってない…』
「その通り…なんてったってコイツは、
エースの指摘に道長はコックピットを出る。丁度ダパーンのハッチが空き、カルナが這い出てきたところだった。道長はダパーンへ飛び移り、カルナのメットを外しスーツの胸元をはだけさせる。すると首元には電子回路のような模様が走り、ノイズのように明滅していた。データストームの影響を受けている証だ。
『感染していたのか』
「まだ完全にゾンビにはなってはいないけどな。だからこいつは半分討伐対象だ」
いつゾンビジャマトからパーメットウイルスをうつされたのかは分からない。だが大分時間は立っていたのだろう、データストームの影響がはだけた箇所のほとんどに出ている。道長はカルナを突き放すと再びバッファのコックピットへ飛び移った。
『クソ…クソクソクッソ!ふざけんなスペーシアンが!あと少しでぶっ殺せたのに!』
ハッチにもたれ掛かったカルナは地団太を踏む。普段の無口で静かな風貌と裏腹に、くしゃくしゃに顔を歪め憎悪を吐く姿はあまりに異様だった。
『何で…何でそんなことをするんですか?』
水星でもここまでの人はいない、スレッタは余りの醜悪さに思わず零れてしまった。だがカルナに聞こえたのか、きっとそちらを睨みつけると立ち上がって叫び出した。
『うるせぇドブスペーシアンが!』
『ド、ドブス、ペー…!?』
『毎日毎日学校行きゃあ虐げられて貶されて…たかだか宇宙に住んでるからっていい気になってんじゃねぇぞ!』
『あ、ぃや…わ、ワタ…』
『水星だか何だか知らねぇけどヘラヘラしてんじゃねぇよブス!言っとくけどなぁ、学校はお前が思ってるほどお花畑の世界じゃねぇんだよ屑!てめぇみたいなのはな、存在するだけで害悪なんだよ、死んで詫びッ!?』
泡を吹き続けるカルナの顔に何かがぶつかり、コックピットの中へ転がり落ちる。モノが飛んできた方を見ると、道長が手首を回しながらコックピットのハッチを閉じる。
『ガンダムがセーフならこっちもセーフだ』
『成程』
『────第2ウェーブ終了です!』
いざこざが終わるのを待っていたのか、静寂にツムリのアナウンスが嫌に響いた。ダパーンを除くMSが神殿へ戻っていく。ダパーンだけがその場に残されたが、太陽が地平線に接した時、そこには誰もいなかった。
「後…4人…全員感染させれば…」
神殿に戻される中、血濡れの顔面で天を仰ぎながらカルナは嗤う。振れた瞳孔が見つめる先に、願いはあるか。
『スペーシアンが全て滅んだ世界 カルナ・ホーガン』
否、願いはどちらにしろ叶うからこそ、笑えるのか。
フロントの人工太陽が消え、生徒たちが明日の授業の為睡眠をとっている頃。寝静まった寮内をおぼつかない足取りで歩く影があった。
壁に手を突き、足を引きずるように歩く影は寮長室に辿り着くと、ドアを開閉させ中に入る。そしてドアを施錠するとそのまま壁にもたれて崩れ落ちた。
「コレ、キ…ッツイ」
呻くシャディクの右足首には、電子回路のような光が脈動していた…。
| GAME RESULT(中間発表): | |
|---|---|
| RANKING | SCORE |
| 1ST: GUNDAM GEATS | 30100pt |
| 2ST: GUNDAM BUFFA | 24400pt |
| 3ST: GUNDAM TYCOON | 20100pt |
| 4ST: GUNDAM MARY | 18200pt |
| 5ST: GUNDAM DA-PAAN(感染) | 8200pt |
| 6ST: GUNDAM NA-GO(感染) | 6200pt |
| DGPルール3 |
|---|
| ゲーム中に命を落とした者は、この世界から退場となる。十分にご注意ください。 |
次回、『邂逅Ⅲ:気まぐれネコの想い』
お楽しみに。