ウマ娘になったが走る気はない   作:玄武 水滉

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よろしくお願いします。


開店準備

 

 

 

 

 

 

「よしっ……と」

 

 この世に生を受けて早15年。

 前世の事などすっかり忘れてしまった。苗字二文字名前二文字の珍しくのない名前であったり、性別が今とは違う事は覚えているものの、趣味や性格、家族関係などは全て忘れてしまった。

 生まれた時こそは取り乱したものだ。まさかと自分が赤子になるなんて思いもしなかったからだ。

 ただまぁ、適応していけるのが人間の強い所である。すぐに慣れてしまった私は、次に頭と尻に生えているものに着目した。

 これは何だと。頭のてっぺんから生える耳にふりふりと動く尻尾。父にはなくて母にはあるもの。

 そしてそれは生きていく内に『ウマ娘』という生き物特有のものであると分かった。

『ウマ娘』は人間に近しい存在でありながらも、人間とはかけ離れたパワーを持つ生き物。そして何よりも走る事が大好きであると。

 

「準備はこんなものでいいかな?」

 

 ただ、それを聞いた時、きっと私は欠陥であるのだろうと率直に思った。

 別に私には走りたい気持ちなんてなかった。というかのんびりとゆっくりと、いざこざに巻き込まれる事なく静かに暮らしたいという感情があった。勿論人と関わるのは好きだが、トラブルには巻き込まれたくない。頑張らず生きたいなんてきっと若者が抱いていい感情ではないだろう。

 私のその言葉を聞いた時、母親の目から涙が溢れるのを見た。きっと正常に産めなかった事を後悔しているのだろう。ただ、私にとって走る事よりも静かに暮らす事の方がよっぽど正常だ。転んで仕舞えば大怪我必至のレースなんて、誰が走りたいと思うのだろうか。

 

 闘争心に欠け、走る事を好まない私。そんな私を見て両親は好きに過ごさせるべきだと判断したのだろう。笑顔で私の考えを受け入れてくれた両親には頭が上がらない。

 ただ、私には母親を泣かせてしまった罪がある。後悔しているのだ。あの時嘘でもついていれば母親は泣く事も、夜な夜な私について悩む事もなかっただろう。

 だから罪滅ぼしにでも。と始めた父親の手伝い。これが妙に私にハマった。

 

 準備を終えた私は、外に出て看板の掛札をひっくり返す。『OPEN』の文字が現れ、今日の日替わりメニューの書かれた看板を立てた。

 

 私の父はカフェを経営していた。

 お昼はカフェで夜はバー。店内ではウマ娘のレースを静かに観戦出来るのがうちの特徴である。勿論コーヒーもお酒も美味しい。

 この静かに観戦できるというのが私にぴったりだった。ここにはレースを見たい。出来れば同じファンと気持ちを分かち合いたい。でも、レース会場は人が多くて騒がしいからあまり好まない。そんな人達が訪れるカフェだ。なのでお客様も騒がしい者などいなく、ゆっくりとしたい私にとっては正に聖地であった。

 

 中学校を卒業し、店で働きたいと願った私に任された仕事はお昼の経営であった。ランチを作りコーヒーを淹れる。多少のウェイトレスはいるが、責任者は私だ。中学生に責任者を任せていいのかという疑問もあるが、あくまでも私はお飾りで、実際は父親が責任を取る。私次第ではいくらでも父親の首を飛ばせるのだ。勿論そんな事しないが。

 

「サンちゃん。お店もうやってる?」

「えぇ、やってますよ」

 

 っと、お客様が来店した。常連さんは私の名前を呼び、微笑みかけてくる。

 それに対して最高の接客スマイルを返し、扉を開けて迎え入れた。

 

 

 

 

 私の名前はサンセットシー。走る事を好まず、ゆっくりする事を望む稀有なウマ娘。

 これはそんな私と、走る事を好むウマ娘達の静かな静かな物語。





サンセットシー:転生走りたくない系ウマ娘。膝裏まで届く芦毛を持ち、切るのが面倒くさいという理由で切ってないが、飲食店で働いている以上は切ったほうがいいと思う。



誰を出して欲しいかいつかアンケート取ると思います。

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