「隊長!虎太郎君!お待たせしました!」
「いや、気にするな。鈴鳴とアルビオ隊のスナイパーが狙撃位置に着いてるかもしれないからな。まずはよく無事に合流してくれた」
市街地D北側…モール手前の密集した建物に囲まれた路地で柿崎隊の3人は合流した
『ザキさん、モール東側の外で既に鈴鳴とアルビオ隊が交戦してる。多分、村上先輩とエクスさんかフレンさんのどっちか』
「モール内にも2人いますが、どちらも外の味方に合流する気配が無いですね」
「そこも既に交戦してるのかも。急ぎましょう、隊長」
「ああ!俺達もアルビオ隊に仕掛けるぞ!」
試合前に立てた作戦通り、鈴鳴第一と協力する形でアルビオ隊を倒すため、柿崎達はモールへと向かって走り出す
*
『な、なんと…!村上隊員の前にエクス隊長が立ちはだかった…!早くも注目の2人が激突することに…!』
試合が始まって早々、この試合を観に来た誰もが期待した展開が実現し、桜子及び観客席の隊員達は驚きながらも興奮で胸を高鳴らしていた
『エクス隊長は来馬隊長とフレン隊員の接触後、すぐにバッグワームを起動して行き先をモールへ向かう村上隊員に切り替えましたね』
『レーダー情報から、モール内にいたのが来馬さんだと分かった時点でアルビオ隊は相手全員が何処にいるか粗方検討が付くからな。それで、敢えて鋼さんの下に向かったということは…』
『はい。どうやら、エクス隊長は最初から村上隊員と戦う気だったらしいですね』
そんななか、解説席の出水と堤は冷静にアルビオ隊の狙いについて解説を行う
『柿崎隊のことも考えると、アルビオ隊としてはここで孤立している鋼さんを押さえて、その間に鈴鳴の2人を獲るのが狙いだろうな』
『全員揃った状態の両部隊を相手するのが、アルビオ隊にとっては避けたい展開ですからね』
『なるほど!早くも窮地に立たされた鈴鳴第一!しかし、来馬隊長の下には別役隊員が向かっています!合流出来れば、射撃戦でフレン隊員を押さえられそうですが、そのフレン隊員の下にもアルス隊員が合流に向かっている様子!』
『追い付かれる前に相手の機動力を大きく削ることが出来れば、この窮地から脱せそうですが、フレン隊員の実力を考えるとそう簡単にはいかないでしょう』
『一応、MAPの北で合流した柿崎隊も今モールへ向かい始めた。鈴鳴が落とされるのは不都合だろうから、必ず介入してくるはずだ。それまで持ち堪えられればまだチャンスはある』
『アルビオ隊に狙われた鈴鳴第一!この窮地を切り抜けることは出来るのか!?』
*
ガキンッ!ガンッ!ガンッ!
(この人、思っていた以上に手強い…!)
「思ってたより粘りますね。まあ、負ける気は全くしないんだけど」
市街地D中央ショッピングモールの東側大通りでエクスと村上は弧月を振るい、レイガストで防ぐ互いに一歩も譲らない激しい攻防を繰り広げていた
だが、まだ余裕がある様子のエクスに対し、村上は内心焦っていた
(記録を見て理解っていたつもりだったが、実際に刃を交えてみたら想像以上だ…!ただ見ただけじゃ届かないほどの実力差…!今の俺でこの人に勝つのはまず不可能…!なら、ここは無理に勝負はしない…!来馬さんと太一との合流を優先する…!)
フレンと接敵してしまった来馬達の下に一刻も早く向かいたい村上はエクスとの1対1の勝負に見切りをつけ、強行突破に出ることを決意する
(スラスター・オン!)
「…!」
エクスが振るう弧月をレイガストで防いだ直後、村上はスラスターによる突進を仕掛ける
直撃を受けた衝撃でエクスは十数m後方へ押し飛ばされるも、村上が何か狙っていることに瞬時に気付き身構えたことで大きく体勢を崩すことはなかった
(スラスター・オン!)
その直後、村上は再びスラスターを起動させ、エクスから逃げるようにモールへ向かって急進する
そして、村上はスラスターを発動させているレイガストを進行方向へ向けたまま横目で後ろに視線を向けながら右手の弧月を構える
隙を作ったとは言え、エクスの体勢を大きく崩すことまでは出来なかったことから、村上は旋空や先の試合で見せた弧月の投擲、もしくは未だ見せていない弾トリガーを警戒したからだ
そして、村上の視線の先では予想通りスラスターによる突進を踏ん張ったエクスが自身に何か仕掛けようと構えていた
「…っ!」
だが、その行動は村上の予想とは大きく異なっており、視界に映ったエクスは弧月を振るおうともレイガストを投擲しようとも構えておらず、その手に銃は勿論、周囲にシューターが用いる弾丸も存在していなかった
代わりにエクスは村上に向けて左の掌を突き出しており、その表面には六角形の紋様が薄っすらと浮かんでいた
(あの構えは…?いや、まさ…っ!)
ガッ!
「…っ!?」
エクスが取った行動に村上は数瞬思考を巡らせた末にあるトリガーを思い至ったが、その瞬間に足が何かに引っ掛かってしまい、大きく転倒してしまう
(シールド…!?まさか、そんな使い方をしてくるなんて…!)
転倒した瞬間に村上が視界に捉えた自身の足を引っ掛けたものの正体はシールド
村上はそれが左の掌を自身へ向けて突き出していたエクスによって展開されたものだと理解し、予想だにしなかった方法に驚愕する
「…っ!」
転倒した村上はすぐに起き上がろうとするが、そんな隙は与えまいと跳躍して飛び掛かって来たエクスが弧月を振り下ろし、村上はそれをレイガストで受け止める
「…!?」
直後、間一髪で攻撃を防いだかと思いきや村上は弧月を握る右手をエクスの左手に掴まれ、次の瞬間には勢いよく引っ張り上げられ、モールとは反対側へと投げ飛ばされる
「…っ!」
「いやぁ、今のは惜しかったですね。でも、貴方をこの先へは絶対にいかせませんよ。俺達の点になってもらうんで」
(やはり強い…!実力は当然だが、トリガーの使い方に対する自由な発想に加え、型にハマっていない戦い方がこっちの予想を超えてくる…!勝つどころじゃない…!今の俺には、この人を飛び越えることすら厳しい…!)
来馬達との合流に雲行きが怪しくなると共に、今し方の攻防を終えて余裕な様子を見せるエクスに村上は自身との実力差を思い知らされる
*
タタタタタタッ!
市街地D中央ショッピングモール5階…互いに視認した後、来馬は自身がいる階層に上がって来たフレンを吹き抜けを挟んだ西側の通路から射撃する
その射撃をフレンはシールドを張って防ぎつつ、割られそうになったら柱裏等の遮蔽物へ一瞬身を隠してシールドを張り直すを繰り返しながら吹き抜けを周って来馬との距離を詰める
(マズい…!このままだと追い付かれる…!)
そこそこの厚みがある柱等に身を隠されては、これまでに耐久力を削ったシールドも新しいモノに再展開されるため一向に割り切ることが出来ない
加えて、フレンは来馬よりも足が速いため、大した足止めも出来ない限り追い付かれるまでそう時間が掛からないのは目に見えていた
(鋼がもうすぐそこまで来てる…!なんとか踏ん張らないと…!)
だが、来馬には耐える他なかった
自ら村上の下へ合流しに行こうとすれば、その間にいるエクスに格下の自分が真っ先に狙われることは明白だった
部隊で戦うランク戦では、味方が1人欠けるだけで相手との戦力差が大きく開いてしまう
自身を犠牲にアルビオ隊のアタッカーであるエクスかフレンどちらか1人でも道連れに出来るならそれも良いと考えたが、確実性のある方法も無い上、自分だけが落ちれば部隊を窮地に追い込むことになる
だからこそ、来馬は村上の下へは向かわず、彼が上手くエクスを躱してこちらに合流しに来てくれる方がまだ部隊として生き残れる可能性があると判断した
(あと少し…!まずは1点…!)
だが、現実はそう甘くない
吹き抜けを周り切ったフレンが来馬のいる通路の北側端まで辿り着き、シールドを正面に張って一気に距離を詰めに駆け出す
「くっ…!」
タタタタタタッ!
来馬は突撃銃のアステロイドで迎撃するが、シールドでしっかりと身を守っているフレンの足を止めることは出来なかった
(や、やられる…っ!)
旋空の射程範囲に捉えられる残り僅かな距離まで詰められ、絶体絶命のピンチに来馬の表情が恐怖に染まる
ビギュンッ!ビギュンッ!ビギュンッ!
「…っ!」
だがその時、モール西側の階段へ通ずる通路の角から弾丸が放たれ、それがフレンに襲い掛かった
「来馬先輩!大丈夫ですか!?」
「太一…っ!」
来馬の窮地を救うべくフレンに攻撃を仕掛けたのは、モールの1階に転送されていた鈴鳴第一のスナイパー:別役太一だった
太一は来馬の下へ寄りつつ、連射性と速度のあるスナイパー用トリガー:ライトニングで来馬と共にフレンへの射撃を集中させる
(このままだとシールドが割られちゃう…!ここは一度隠れなきゃ…!)
2人分の火力にフレンはメインとサブ両方のシールドを展開するフルガードで防御するが、この状態では攻撃に転じることが出来ない上に、最初に張っていた1枚目のシールドにヒビが入り始めたのを見て、態勢を立て直すために近くにあった雑貨店へとガラスを割って飛び込み、来馬達の射撃から身を隠す
「遅れてしまってすみません、来馬先輩…!」
「いや、よく間に合ってくれたよ…!」
太一との合流が間に合い、一先ずフレンを退かせて来馬はホッと一安心しつつ、すぐさま村上への通信を入れる
『鋼…!こっちは合流出来たよ…!そっちはどう…!?』
『すみません、来馬先輩。エクスさんが想像以上に手強く、こちらから合流しには行けそうにありません』
『…っ!やっぱり、そう簡単にはいかないよね…!』
『どうしますか、来馬先輩…!鋼さんが難しいなら、俺達の方から合流しに行きますか…!?』
『そうだね…!そこの吹き抜けから飛び降りれば…!』
太一と2人ならば、仮に村上と挟んだエクスが自分達を狙いに来ても十分な火力を出せ押さえられるだろうと思った来馬はその提案に賛同し、村上の下へ向かおうと吹き抜けに駆け寄る
『気を付けて、2人共…!モール内にもう1人入って来てるわ…!』
「…っ!?」
だがその時、オペレーターの今から警告が入ると同時に来馬は吹き抜けの下から姿を現したある人物を目にした
(あの人は…!?アルビオ隊に新しく入った…!)
視線の先…モール2階東側の吹き抜け越しに姿を現していた人物はアルビオ隊に新たに加わった隊員:アルスだった
「アステロイド!」
アルスは来馬達の位置を確認すると両手からかなり大きいサイズのキューブを出現させ、それを12分割の大弾で射出する
「…っ!?太一…っ!フルガードだ…っ!」
弾丸の大きさから威力の高さを瞬時に悟った来馬はすぐさま太一に叫び、2人掛かりでのフルガードを展開する
ドドドドドドッ!!!
「「うわああああああああっ…!!?」」
アルスが放ったアステロイドは来馬達のいるモール5階の床を破壊しながら襲い掛かり、2人でのフルガードはなんとか耐え切ったものの、その表面には亀裂が入っていた
(この火力…!トリオン量は二宮さんと同じくらいか…!?)
『気を付けて…っ!フレンさんが動いた…っ!』
「「…っ!?」」
一点集中の攻撃だったら割られていたかもしれないアルスの火力に来馬が戦慄するなか、その攻撃に合わせてフレンがシールドを張りつつ距離を詰めに動き出す
今からの警告でそれに気付いた来馬と太一は突撃銃とライトニングの射撃をフレンに集中させる
『距離20…っ!』
「…っ!?」
「旋空弧月っ!」
だが、シールドを割り切られる前に2人との距離20mまで迫ったフレンは旋空を振るい、今からの警告で咄嗟に屈んだ来馬は無事だったが、反応し切れなかった太一は体を真っ二つに両断される
『トリオン体活動限界、ベイルアウト』
「太一…っ!?くっ…!」
太一がベイルアウトすると同時、この場に留まってはすぐフレンにやられると判断した来馬は、アルスからの射撃で破壊された床の崩れた所から階下へと飛び降りた
「逃がさない!」
それを見たフレンは来馬を追撃するため、後を追って階下へと飛び降りる
『フレン…!アルスさん…!モール内に3人来たよ…!』
「…!?」
その時、メリッサから警告が入った直後…
タタタタタタッ!
タタタタタタッ!
ドンッ!ドンッ!
「ぴぎゃああああああっ!?」
複数の銃撃音と共にアルスが甲高い悲鳴を上げながらフルガードでその銃撃から身を守る
「アルスさん…!あの人達はたしか、柿崎隊…!」
フレンが階下に目をやると、モールの1階から2階吹き抜け越しのアルスに集中砲火を浴びせる柿崎隊の3人の姿があった
『なんとか鈴鳴が全滅する前には間に合いましたね…!』
『来馬先輩はこのまま逃がしていいんですよね?隊長』
『ああ!来馬さんには外にいる鋼と合流してもらってエクスさんを押さえてもらう!その間に俺達はモール内のアルビオ隊から点を獲る!』
『『了解!』』
モール外のアルビオ隊隊員を鈴鳴に任せることにした柿崎達は射撃を続けながら2階にいるアルスの下へ向かい出す
『こ、こっち来たぁ…っ!?フレ〜ン…っ!助けて〜…っ!』
『アルスさん…!今向かいます…!』
助けを求めるアルスの弱々しい声にフレンは来馬を追うのを即座に止め、急いで彼女の下へ向かう
*
『ここで柿崎隊がアルス隊員を強襲!その援護にフレン隊員が向かい、来馬隊長は難を逃れた!』
一気に鈴鳴の2人が脱落するかと目を見張っていた観戦席の隊員達は来馬の無事に緊張の糸が切れ、安堵の空気に包まれる
『柿崎隊はなんとか間に合いましたね』
『ああ。あとは来馬さんと鋼が無事に合流出来れば、エクスさんにも対抗出来るだろ』
『そうですね!…というか』
と、コメントを述べる堤と出水に相槌を打った桜子は直後に落ち着きが無さそうに体をプルプルと震わせる
『アルス隊員のアステロイド…!とんでもない威力じゃありませんでしたか…!?』
『そうなんだよな。アルスさんはにじさんじ支部の隊員の中でもトリオン量がかなり高くて、二宮さん並かそれ以上らしい』
『出水が試合前に言っていたアルスさんの凄いことってのは、コレのことだったか…』
『マスタークラスのアタッカーと渡り合えるエクス隊長とフレン隊員が同じ部隊というだけでもヤバいのに、そこに二宮さん級のトリオンを持つアルスさんまで…!』
とんでもない逸材もとい化け物揃いのエクス率いるアルビオ隊に戦慄すら覚える桜子と堤は冷や汗を流し、会場の隊員達も騒つき出す
『とはいえ、部隊としての連携の仕上がり具合は鈴鳴はともかく柿崎隊の方が確実に上だ。ここで柿崎隊がフレンさんかアルスさんの1人でも落とせるかが、試合の命運を分けることになる』
しかし、ランク戦では部隊での連携が最も重要となり、それ次第で格上相手に勝てることもある
それを十分に理解している堤と桜子は出水のコメントに頷くと、再び繰り広げられる激闘を映すモニターへと目を向ける
*
『鋼!柿崎隊のおかげでこっちはなんとか逃げ切れそうだよ!モール北側の外で合流しよう!レーダーから消えてるイブラヒムさんが狙撃してくるかもしれないから、注意してね!』
『了解です』
モール東側の大通りでエクスに部隊との合流を阻まれていた村上は、柿崎隊の介入によってフレン達の追撃から脱した来馬からの通信を受け、指示されたモール北側の大通りに向けて移動し始める
(北に向かった…!逃げた鈴鳴のガンナーとの合流が狙いか…!)
急に攻め気を失くして北へと移動し始めた村上の行動からエクスは鈴鳴の意図を察するなか、南東の高層ビルで狙撃位置に着いたイブラヒムから通信が入る
『エクス、狙撃位置に着いたぞ!今なら俺の狙撃と合わせて鈴鳴のアタッカーを…!』
『いや、アタッカーはここで倒さない。鈴鳴のもう1人と北側で合流させる』
『はあ…っ!?なんでだよ…!?』
『今鈴鳴のアタッカーを倒したら、ガンナーの方は雲隠れして最悪自発的にベイルアウトする可能性があるだろ?獲れる点をみすみす逃したくない』
村上の打倒に待ったを掛けたことについて問うイブラヒムにエクスは自身の考えをそう伝える
事前の情報収集で鈴鳴はエースアタッカーである村上を落とされたら、残る2人は逃げる傾向にあることが分かっていた
そして、遠征への参加権を得るための条件であるA級昇格のためにはB級ランク戦で2位以内に入る必要があり、1点でも多く点が欲しいエクスとしては来馬が撤退しないように立ち回らせたいため、今は敢えて村上を生かしておきたかったのだ
『なるほど、それはたしかにそうだな。ん…?じゃあ、俺がビルの屋上まで上がったの無意味じゃねぇかよ…!?』
『まあ、そういうことになるな…。ドンマイ!』
『ったく、マジかよ…。じゃあ、お前を援護する必要が無いなら、俺はフレン達の方に行くぞ』
『そうだな。アルスさん達と一緒に柿崎隊を頼む』
『了解』
『あ…!それとさ、俺から作戦があるんだけど…』
*
ドドドドドドッ!
ガガガガガガッ!
市街地Dモール内4階北側通路…柿崎隊の3人に狙われたアルスの下へ合流したフレンは自身がフルガードで防御を固めつつ、アルスに攻撃を任せての射撃戦に臨んでいた
対する柿崎隊は柿崎と照屋が射撃しながら、2人それぞれのシールドと巴が張る二重の固定シールドを駆使してアルスの射撃を凌いでいた
「ああ、もう〜…っ!しぶといな〜…っ!」
「アルスさん…!そろそろ私のシールドが保たないです…!」
「もう〜!?」
柿崎隊の射撃を凌いでいたフレンのシールド耐久値に限界が訪れ、アルスは文句を垂れながら攻撃を中断し、代わって自身がシールドを張り防御に回り、その間にフレンに抱き抱えられながら柿崎隊からの射線を切るべく、その場から移動する
『アルビオ隊のシューターの子、火力が桁違いですね』
『もう少し長く撃ち合ってたら破られるところでした…!』
『ああ…!だが、この有利な状況もいつまで続くか分からねぇ…!』
『居場所が分からないアルビオ隊のイブラヒムさんがこっちに来る可能性がある、ですよね』
『そうだ!だから鈴鳴がエクスさんを惹き付けてくれてる今の内に、俺達でせめて1人でも落とすぞ!』
『『了解!』』
柿崎隊はアルスが放つアステロイドの火力に目を見張りつつも、射撃戦を有利に進められていることから戦闘を続行するべく、怯まずアルス達を追走する
『アルスさん!フレンさん!』
『アルビオ…!』
『エビ先輩…!ねぇ…!こっちヤバいから、イブラヒムを援護に回してくれない…!?』
その最中、フレン達にエクスからの通信が入り、アルスは現状自由に動けるイブラヒムの援護を要請する
『イブラヒムはそっちに回すけど、手を出すのは作戦を決行する時になります!』
『『作戦…?』』
『はい!柿崎隊を3人まとめて倒せるかもしれない作戦です!簡潔に説明します!』
エクスの言う作戦の詳細にアルスとフレンは耳を傾けた
*
『さあ!一方は別役隊員が落ちて2人となった鈴鳴第一vsエクス隊長!もう一方は柿崎隊とアルビオ隊の3人!モールの中と外で戦場が分かれる形となりそうです!』
柿崎隊の介入によって更に激しさを増す試合状況に桜子はウキウキしながら実況する
『モール内の撃ち合いは柿崎隊が優勢ですね。柿崎隊3人のシールドをアルスさんが割る前に、柿崎と照屋ちゃんの集中砲火でフレンさんのシールドが先に割られてしまう』
『かと言って、アルスさんが射撃をしつつシールドも張ると火力が不足して近づけ易くしてしまう』
『その戦況を覆すためにイブラヒム隊員が合流に向かっているわけですね!』
『ですが、流石に勿体無いと思いますね』
『と、言うと…?』
『フレン隊員とアルス隊員が柿崎隊3人を相手に苦戦を強いられているとはいえ、村上隊員を落とせる絶好のチャンスをみすみす逃がすなんて…』
村上は入隊から半年程で、現在はスナイパーへと転向したマスタークラスの実力を有するアタッカー:荒船を上回り、今なお凄まじい勢いでその強さを増している将来を期待されている猛者
攻めにおいてはエクスの方が上手だが、守りに関しては負けておらず、一筋縄で倒すことは出来ない
柿崎隊を相手にするアルス達の援護なら、先に村上を落としてからでも遅くはないのでは?と、堤は疑問に思った
『多分、アルビオ隊は来馬さんを逃がしたくないんでしょ。今ここで鋼が落とされたら、1人残される来馬さんに勝ち目はない。即座にその場から離れて自発的にベイルアウトすると思いますよ』
『1点でも多く獲るために敢えて…ということか?だとしたら貪欲だな…』
『いえ、エクスさんなら有り得る話だと私も思います!』
『そ、そうなのか…』
『ん…?』
出水の推測に自信満々で太鼓判を押す桜子に堤が少し気圧されるなか、モニターに視線を移した出水が怪訝そうな声を漏らす
『出水先輩?どうかされましたか?』
『いや、フレンさんとアルスさんがどんどん上の階へ上がって行ってるなと思ってな』
その言葉を聞いて、桜子と堤もモニターに映るフレンとアルスの動向に目を向ける
そこに映っていた2人は追いかけて来る柿崎隊と射撃戦を止め、随時に設置した置き弾のアステロイドで牽制しながら足を止めることなく階段を駆け上がっていた
*
タタタタタタッ!
市街地Dのモール外:北側大通りでは、合流に駆け付ける村上を待つ来馬が彼を追うエクスの足を止めるべく、突撃銃によるアステロイドを撃ち込んでいた
それをシールドモードのレイガストで防御するエクスは限り無く低いと睨んでいるが、来馬の射撃に巻き込まれることを承知で村上が強襲を仕掛けて来る可能性を考慮し、追い掛ける足を止めた
「鋼…!大丈夫…!?」
「おかげさまで、問題ありません。ありがとうございます、来馬先輩。ですが、すみません。俺が駆け付けられなかったばかりに…。太一もすまなかった」
『そんな…!鋼さんが気にすることじゃないっすよ…!』
『そうよ、鋼君。背負い込み過ぎるのは良くないわ。反省点があるなら、それは部隊全員にあることなんだから』
「そうだね。それに、まだ試合は終わってない!今はここから挽回することを考えよう…!」
「…了解です!」
仲間の優しさに村上は頬を緩めるや否や気を引き締め直し改めて試合に臨もうと構える
(向こうは2人で俺を相手取るつもりだな…!よし、ここまでは作戦通り…!あとはアルスさん達が上手くやってくれるかどうか…!)
その村上と来馬に向かい合うエクスはモール内で柿崎隊との追走劇を繰り広げるアルスとフレン、そして2人との合流に向かっているイブラヒムに告げたある作戦が決行される時を待っていた
*
パパパパパッ!
市街地Dモール内6階…逃げるアルスとフレン、それを追う柿崎隊はモールの屋上手前となる最上階に到達していた
「全く撃ち合おうとしませんね。この様子だと、このまま屋上まで行くつもりなんでしょうか?」
フレンとアルスが逃げた跡に残してきた置き弾のアステロイドを3人全員でのフルガードで凌ぎ切ると、屋上へと通じる階段があるモール6階の北へと向かう2人の背中を見て巴がそう疑問を口にした
「だな。多分、射線の無い屋上でイブラヒムさんに狙撃で援護してもらうつもりだろう」
「なら、これ以上追うのは危険ですね。ここは一度、地上に乗りて鈴鳴と挟んでアルビオ隊の隊長を獲りに行きますか?」
照屋からの提案に柿崎は顎に手を当てて少し考え込む
「…いや、駄目だ。俺達が地上へ降りれば、その瞬間にエクスさんは離脱するだろう。そうなれば仕切り直しになって、今以上にチャンスを獲れるチャンスが作れなくなるかもしれねぇ」
"それに…"と、柿崎は言葉を続ける
「俺達が降りたのを見計らって屋上のアルビオ隊2人が追い掛けて来たら、こっちが外の連中と挟み撃ちにされる危険がある」
屋上を押さえられている以上、柿崎隊はモール内から地上へ降りるしかない
そして、外の鈴鳴と共にエクスを挟み撃ちにするなら、当然自分達はモール側からになる
だが、その際にフレン達がモール内から地上に降りてくれば外と内で挟まれることとなり、たとえエクスを落とせたとしても、今度は自分達が窮地に立たされることとなるのだ
「じゃあ、ここは敢えて相手の誘いに乗るということですか?」
「そうなるな。このまま放置しておいたら、アルビオ隊のスナイパーは当然、シューターも地上にいる鈴鳴を一方的に攻撃出来る。鈴鳴が落とされたら俺達に勝ち目はない」
それはたしかにその通りだと、柿崎の意見に照屋と巴は頷いて納得を示す
「だが、無理をする必要はない。俺達は屋上のアルビオ隊がフリーにならない程度に相手をすればいい。もし、屋上の2人とスナイパーが俺達を無視して鈴鳴を狙うような隙を見せたら、その時は多少強引に仕掛ける」
「そうですね。それで異論はありません」
「僕も」
部隊の方針が纏まり、同意する2人に柿崎は笑みを浮かべ頷く
「よし!それじゃあ、いくぞ!まずは相手の出方を窺いながらスナイパーの位置を突き止める!射線さえ割れれば、その後の対応もいくらかマシになるからな!」
「「了解!」」
照屋と巴を先導し、柿崎はフレン達が待ち構える屋上に通ずる階段へと駆け出す
ドゴォォォォォンッ!!!
「「「…っ!!?」」」
だが、その瞬間だった
柿崎達の目の前で階段で派手な爆発が起き、崩落した瓦礫に埋め尽くされて屋上への道が閉ざされてしまう
「メテオラ…!?」
「もしかして、上ってくる私達への罠に仕掛けて…!」
「でも、向こうは屋上で俺達と交戦するつもりなんじゃ…!?」
メテオラによる階段の爆破…その意図が掴めず、柿崎達の思考は"何故…!?"と疑問に埋め尽くされる
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
「「「…っ!」」」
その最中、背後からの突然の銃声に柿崎達は咄嗟にシールドを張って銃撃を防ぐ
「あれは…!」
「アルビオ隊のガンナー…!」
その振り返った先にはアルビオ隊のガンナー:イブラヒムがいた
「…っ!文香!虎太郎!」
柿崎が呼び掛けた瞬間に照屋と巴は即座に気持ちを切り替え、3人はそれぞれの銃型トリガーでイブラヒムを射撃する
3人分の火力を前に攻撃と防御を同時に行えるほどの高いトリオンは無いイブラヒムはシールドをフルガードで展開し、モール東側の通路から南へと後退する
『隊長!俺が獲りに行きましょうか!?』
『いや、駄目だ!ここは慎重に3人固まって動く!天井越しからの爆撃もあるかもしれねぇ!周囲への警戒を怠るなよ!』
『『了解!』』
屋上のアルス達が唯一通じる階段を爆破したことに続けて、そのタイミングに合わせて単独で仕掛けてきたイブラヒム
一見すれば全く整合性の無い行動に思えるが、だからこそ何か裏がある可能性があった
屋上のアルス達がイブラヒムを囮に何か仕掛けてくるなら、下手に踏み込むのは危険だと考えた柿崎は射撃を援護に1人イブラヒムへの接近を提案する巴を諭し、3人固まって射撃しながらイブラヒムを追おうと動き出す
バリバリバリバリンッ!!!
「「「…っ!?」」」
その直後、ガラスの割れる音と共に上から弧を描いて無数の弾丸が柿崎達目掛けて飛来してきた
(ハウンド…っ!?屋上にいるアルビオ隊のシューターか…!)
モールの屋上には中の吹き抜けと丁度一致するような位置と形で天窓が設けられている
そこを介してトリオン体の反応を追う探知誘導によるハウンドを屋上にいるアルスが仕掛けてきたのだ
(屋上への階段を爆破したのは俺達を近寄らせず、安全に射撃するためか…!)
屋上へ逃げたアルス達の意図…それは階下のイブラヒムと連携した挟撃だと柿崎は捉えた
屋上にいるアルス達が階下にいるイブラヒムを援護するなら、上下を隔てる天井に穴を開けなければならない
その場合はアステロイドやハウンドではなく、メテオラでの爆撃が有効だが、天井そのものに大きな損傷を与えるそれは下手をすれば屋上を崩落させる恐れがあり、せっかく得た地の利を失うことになる
だが、天窓のガラスは天井の壁よりも薄く脆いためメテオラでの爆撃は必要なく、アステロイドやハウンドで簡単にモール内へ射撃を通すことが出来る
これに対して同じくハウンドを持つ照屋と巴が反撃出来るが、ハウンドは威力がアステロイドよりも低いため、トリオン量の高いアルスには片手間のシールドでも余裕を持って防がれる
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
一度リロードを挟んで再び襲いくるハウンドから柿崎達がシールドで身を護るなか、その隙にイブラヒムはエスカレーターへと身を寄せるとそれを遮蔽に拳銃のアステロイドで反撃に移る
(くっ…!屋上の2人をメテオラで爆撃するか…!?いや、仕留められなかったら射線を増やすだけだ…!)
突撃銃にメテオラをセットしている柿崎は屋上へレーダー頼りの爆撃を思案するも、それで相手を落とせる可能性は高くなく、むしろ自分達が余計に不利を被る危険があった
『ザキさん!屋上から反応が1つ消えた!フレンさんだよ!』
『ここでバッグワーム…!?まさか、鈴鳴へ奇襲を仕掛けるつもりか…!』
そこへ更に宇井から通信が入り、柿崎はフレンがバッグワームでレーダーから消え、屋上から地上へと飛び降りてエクスと交戦している鈴鳴を狙いに行ったのではと推測する
『隊長…!ここは一度、態勢を立て直した方が…!』
『そうだな…!2人共…!吹き抜けから地上階へ飛び降りるぞ…!』
鈴鳴が全滅してしまえば自分達にどのみち勝ち目は無い…そう判断した柿崎は地上階から鈴鳴と挟撃すればエクスを落とせることも視野に入れ、ハウンドの弾幕とイブラヒムからの銃撃をフルガードでのシールドで防ぎながら、吹き抜けからの飛び降りに動き出す
「…!?」
その時だった
今放たれているハウンド…その終わりを告げる残り数発が柿崎達へと飛来するなか、それらとは違うモノが後に続いてガラスの無くなった天窓から垂直に落下してきた
「旋空弧月!」
「「「…っ!!?」」」
そして、目の前に現れたそれが先程バッグワームでレーダーから消えたフレンだとはっきり視認した瞬間、高さが自分達と重なるタイミングで振るわれた旋空弧月によって、柿崎達は真っ二つに両断された
(落下中に旋空を…!?)
(バッグワームでレーダーから消えたのは、私達に吹き抜けから飛び降りる選択を迫らせ、旋空の射程に入れるため…!)
(まさか、そんな手を考えていたなんて…!悪い…!文香、虎太郎…!)
『トリオン体活動限界、ベイルアウト』
自身の判断ミスで敗北してしまったことを悔やみながら、柿崎は同じくアルビオ隊の作戦に動揺を隠せない照屋と巴と共にトリオン体が崩壊し、ベイルアウトした
アルス・アルマル
部隊:アルビオ隊
ポジション:シューター
トリオン13、攻撃8、防御援護7、機動4
技術7、射程4、指揮2、特殊戦術2
合計47
メイントリガー:ハウンド、アステロイド、シールド、???
サブトリガー:ハウンド、メテオラ、シールド、バッグワーム