にじさんじ×ワールドトリガー   作:Mr.ソロ

7 / 11
第7話「葛葉隊」

 

『間宮隊があっという間に全滅…っ!?葛葉隊長に2人落とされ、残された秦隊員もローレン隊長とアクシア隊員の集中砲火の餌食に…!奇しくも昼の部の吉里隊と同じ末路となった…!』

 

 

実況席の桜子が間宮隊の全滅を伝え、その一部始終を見ていた会場の隊員達からは歓声と驚きの声が上がる

 

 

『なるほど、グラスホッパーか〜!だから葛葉あんなに自信があったんすね!』

 

『相手を自動追尾するハウンドはたしかに強力ですが、先程のグラスホッパーや昼の部で大活躍していたレイガストのスラスター等、爆発的な加速に対しては追尾し切れないという弱点があります。トリガーの特徴について、しっかりと把握していますね』

 

 

と、まずは間宮隊の2人を落とした葛葉に対して、嵐山と佐鳥はそれぞれ感想と評価を述べる

 

 

『2点を獲得した葛葉隊長!しかし、そこへ奇襲を仕掛けたのはイロアス隊のローレン隊長とアクシア隊員!なんとか窮地を脱しましたが、左腕を負傷してしまった!というか、アステロイドの威力がおかしいぞ…!?』

 

 

続いて、漁夫の形で介入してきたローレン達の射撃によって葛葉のシールドが容易に破られてしまったことに桜子が言及する

 

 

『いえ、あれはアステロイドではありません。ギムレットです』

 

 

嵐山の言葉に、観覧席の隊員達がどよめき出す

 

 

『ギムレット…!?たしか、アステロイドとアステロイドを組み合わせた合成弾だったでしょうか…!』

 

 

合成弾…A級1位:太刀川隊の出水公平が思いつきで生み出した2つの弾型トリガーを組み合わせることで出来る更に強化された弾型トリガー

 

シューターはともかく、ガンナーでその使い手のいないトリガーに桜子は驚きの声を上げた

 

 

『はい。ギムレットは弾型トリガーの中で威力のあるアステロイド同士の合成弾ということもあって、威力と共に貫通力が増しています。葛葉隊長のシールドを容易に割ることが出来たのはそのためです』

 

『なるほど…!しかし、これまでガンナーで合成弾を使用する隊員は見たことがありません』

 

『銃型トリガーは2種類まで弾丸をセットすることが出来ますが、合成弾ではそれのみになってしまう欠点がありますからね』

 

『はい。ですが、持ち回しの良い拳銃型なら、複数の弾種が使える利点を差し引いても採用されることも不思議ではないように思われますが…』

 

 

ここで、桜子は1つの疑問を投げ掛けた

 

これまでに合成弾を使ったことのある隊員はその全員がシューターであった

 

シューターが合成弾を使う場合は、メインとサブそれぞれに装備された2つの弾型トリガーを実際に合成する必要がある

 

ただし、合成にはある程度時間がかかる上にその間は他のトリガーが使用出来なくなる隙が生まれる欠点が存在する

 

対して、ガンナーにはシューターのような使用時のデメリットはなく、精々が合成弾を装備した銃はそれのみしか撃てなくなるというものだった

 

しかし、戦闘時におけるデメリットの有無を考慮すれば合成弾はシューターよりもガンナーの方が扱い易いように思える

 

更にガンナーには、装備しているメイン又はサブトリガーの銃に1種類の弾型トリガーしか装備していない者もいる

 

1種類だけなら、性能が強化された合成弾を装備した方が良いのでは…という考えに至るのは至極当然であった

 

多くの隊員も同じように考えるその疑問に、嵐山と佐鳥は返答する

 

 

『たしかに強力だけど、ガンナーにおける合成弾はシューターよりもトリオンの消費が大きいんだよね』

 

『乱用すれば、僅かな負傷でも簡単にトリオン切れでベイルアウト…ということにもなりかねないので、継続的な戦闘をする上では相性が悪いんです。百発百中で当てられるなら、話は変わるかもしれないけど』

 

 

強力故の消費するトリオンの大きさ、そしてガンナーとして高い技術が求められることを説明した嵐山と佐鳥に桜子及び会場の隊員達は"なるほど…!"と納得の声を漏らす

 

 

『さあ、狩る側から狩られる側となってしまった葛葉隊長!2対1のこの状況は流石に万事休すか!?』

 

 

 

 

「まずは1点だな、ローレン」

 

 

工業地区西側中央寄り…葛葉が身を隠した建物の向かいの屋上でアクシアは相手を警戒しつつ、ローレンと合流する

 

 

「ああ。くっさんは仕留められなかったけど、左腕は削ったし、単独でいる今が落とすチャンスだ。叶さんの狙撃に注意しながら…!?」

 

 

と、ローレンがすぐさま葛葉に仕掛けようと提案するなか、その相手が身を隠している遮蔽物の裏から上空へとハウンドが撃ち上がり、山なりの弾道を描いて降り掛かる

 

それをローレン達が展開したシールドで防御するなか、葛葉は遮蔽物から飛び出してグラスホッパーを踏み、自分達から逃げるように東へ向かう

 

 

「逃すかよ…!」

 

 

それを見たローレンとアクシアも葛葉の跡を追い掛けようと起動したグラスホッパーを踏んで飛び出す

 

 

ドッ!

 

「なっ…!?」

 

 

その直後、飛んだ先の屋上で再びグラスホッパーを踏んだ葛葉が突然ローレンに向かって突っ込んでき、スコーピオンを振り下ろす

 

咄嗟にシールドを展開したローレンは間一髪のところで葛葉のスコーピオンを防御し、加速の勢いが相殺された2人はぶつかった地点の屋上に降り立つ

 

 

「ローレンッ!」

 

 

アクシアは飛んだ先の屋上に着地した瞬間、葛葉に向けて拳銃を構える

 

 

ドンッ!

 

「…っ!?」

 

 

だが、拳銃の引き金を引くよりも先に、アクシアは北東方面から放たれた狙撃によって胸部を撃ち抜かれてしまう

 

 

(しまった…!叶さんの狙撃…!)

 

『トリオン供給機関破損、ベイルアウト』

 

 

ローレンの身を案じたばかりに叶の狙撃に対する警戒を一瞬怠ってしまったことを悔い、機械音声に敗北を告げられたアクシアはベイルアウトした

 

 

「アクシア…っ!?くそっ…!やってくれたな、くっさん…!」

 

 

ローレンとアクシアは最初に葛葉がグラスホッパーで逃げたのは叶の援護が無く、不利な状況にあったからだと思った

 

しかし、その後の不意打ちも含めて、行動の全ては叶の狙撃を確実に決めさせるための布石だったのだ

 

その罠にまんまと嵌まり、アクシアを落とされてしまったローレンは悔し紛れにそう呟く

 

 

「俺を恨むなよ。全部お前等の甘さが招いた結果だ」

 

「ああ、そうだな…!」

 

 

耳の痛い正論を突きつけられたローレンは苛立ちながらそう返答し、起動させたグラスホッパーを踏んで葛葉との距離を取る

 

 

「おいおい、そっちから仕掛けておいて、返り討ちにあったから尻尾巻いて逃げる気かぁ…!?ローレン…!」

 

 

逃げようとするローレンに葛葉は起動したグラスホッパーを踏んで跳躍し迫る

 

 

ドンッ!

 

「…っ!」

 

 

その瞬間、南東の方角から狙撃による弾丸が頭部目掛けて飛来し、葛葉はそれを集中シールドで防御する

 

直後、ローレンが拳銃を発砲するが、葛葉は起動させたグラスホッパーを踏んで素早く回避し、狙撃の射線を切るため遮蔽物のある場所まで退避する

 

 

『叶…!』

 

『分かってる、レインさんだな。でも、僕の所からじゃ遮蔽物が邪魔で撃てない』

 

 

ローレンを仕留める邪魔をしてきた狙撃の主…イロアス隊ガンナー:レイン・パターソンの対処を叶に促す葛葉だったが、相手を狙えなかったためそれは実行出来なかった

 

 

『葛葉、ここは無理しない方がいい。僕の援護がある以上、ローレンは無理せずに退くはず。でも、それを追ってお前が僕の援護が届かない場所へ誘導されたら勝てないよ』

 

『…チッ。分かったよ』

 

 

叶の提案を葛葉は仕方なく受け入れ、バッグワームを起動して屋上から飛び降りてローレンの前から姿を消す

 

葛葉が退いたのを確認したローレンは叶からの射線を完全に切るため、建物の屋上から飛び降りつつバッグワームを起動する

 

それと同時、レインから通信が入る

 

 

『ローレン!大丈夫か!?』

 

「ああ、おかげさまでな。助かったぜ、パタさん」

 

『葛葉先輩は?』

 

「流石に深追いはしないで退いたっぽいわ」

 

 

2人が安否と状況を共有するなか、イロアス隊オペレーター:レオス・ヴィンセントも通信に加わる

 

 

『今、MAPの東南から2人…長尾君達が叶君のいる位置に向かっていますねぇ。でも、このままだと数の差で葛葉隊に食われる可能性は高い。ローレン君達も連動して仕掛けた方がいいですよ』

 

「そうだな。パタさん、俺の方へ合流しに来てくれるか?」

 

『分かった!』

 

 

レオスの提案に同意したローレンとレインは互いの合流を目指しつつ、葛葉隊を長尾隊と挟み込める位置に向かって移動する

 

 

 

 

『叶隊員の狙撃でアクシア隊員がベイルアウト!そして、葛葉隊長に追い込まれるローレン隊長でしたが、レイン隊員の援護が間に合って危機を脱した!ここは互いに一度退く様子!』

 

 

横槍を入れてきたローレン達を逆に手痛い返り討ちにした葛葉と叶の連携に会場からは"おお…っ!"と驚嘆の声が上がる

 

 

『不意打ちで隙を作ったところをすかさず狙撃か〜!』

 

『相手の虚を突いた良い作戦だったな』

 

 

と、嵐山と佐鳥はそれぞれ感想を述べる

 

 

『葛葉隊長とローレン隊長はそれぞれ味方との合流を目指す!そして、MAPの東では長尾隊と葛葉隊の剣持、勇気隊員が交戦の予感!』

 

 

葛葉とローレン達の戦闘が終わったも束の間、新たな戦闘に会場の注目が再び集まる

 

 

 

 

「来たぞ!ちーちゃん!」

 

「うん!」

 

 

工業地区東側…周囲に建物が密集した入り組んだ区画の一際広い通路で、葛葉隊アタッカー:剣持刀也とガンナー:勇気ちひろは叶を狙いに来たと思われる長尾隊隊長のアタッカー:長尾景とシューター:甲斐田晴の姿を視認して迎撃態勢に入る

 

ちひろが突撃銃の引き金を引いてアステロイドを射撃し、向かって来た長尾達は展開したシールドで防御しながらそれぞれ左右の路地へ飛び込む

 

 

『葛葉さんはバッグワームを着けてるから、到達時間は正確には分からないけど、狭いMAPだからそう長くはかからずに合流されるよ』

 

「なら、出し惜しみ無しの速攻で最低でも1人は落とすぞ!晴、援護は頼んだ!」

 

「分かってるよ!ハウンド!バイパー!」

 

 

長尾隊オペレーター:弦月藤士郎からの報告に応答しつつ、長尾は援護を呼び掛けると共に飛び出し、甲斐田は路地に身を隠した状態からハウンドを上空へ山なりに、バイパーを長尾と並走させる形で相手の正面へ向けて射出する

 

 

『剣持さん、勇気さん!上からハウンドが来るよ!』

 

「分かった!ちーちゃんは僕の後ろに!上から来るハウンドを頼んだ!」

 

「了解!」

 

 

叶から通信を受け取った剣持はちひろに指示を出し、正面から迫るバイパーを自身のシールドで防御し、上から飛来するハウンドを彼女が展開したシールドで防いでもらう

 

 

「おらぁっ!」

 

 

その最中、バイパーと共に迫って来た長尾が弧月を抜刀…振るわれた一閃を剣持は腰に携えた鞘から引き抜いた弧月で受太刀する

 

 

「僕と剣で勝負か…!受けて立ってやるよ!」

 

「そうしたいのは山々なんですけど、状況的に手を抜いて戦うなんて悠長もしてもいられないんすよ…!」

 

 

"だから…"と、長尾は受太刀された弧月の角度を調整しながら言葉を続ける

 

 

「悪いっすけど、俺は最初から本気でやらせてもらいますよ!」

 

ドッ…!

 

「…っ!?」

 

 

長尾がそう告げた直後、彼の弧月の刃から突如として新たな刀身が生え伸び、それが剣持の首に突き刺さる

 

反射的に避けたことで、辛うじて伝達系への損傷は免れた剣持は予想外の攻撃に面食らいながらも後ろへと飛び退き、首に突き刺さった弧月の刃から抜けると共に長尾との距離を取る

 

パパパッ…!

 

その直後、剣持達からは見えない建物の影に隠れている甲斐田がハウンドとバイパーを上空へと弧を描いて放つ

 

 

『また甲斐田の射撃か…!ちーちゃん、もう一度頼む…!』

 

『分かった!』

 

 

甲斐田の射撃を援護に、再び長尾が攻め込んで来ると踏んだ剣持はちひろに射撃からの防御を頼み、自身は長尾の攻撃に身構える

 

 

「…っ!?」

 

 

その時だった…対面にいる長尾の背後から左右それぞれへと弾丸が飛び出し、直後に剣持に向かって弾道を変えて迫る

 

剣持は甲斐田から放たれた上空から降り注ぐハウンドとバイパーをちひろの援護によるシールドが防ぐなか、長尾が放った左右から迫るバイパーは自身のフルガードでなんとか防御する

 

 

「旋空弧月!」

 

 

直後、長尾が旋空を振るい、防御の手が足りなくなった剣持は成す術なく真っ二つに斬り払われた

 

 

『トリオン体活動限界、ベイルアウト』

 

 

無機質な音声に戦闘不能を告げられ、トリオン体が崩れた剣持はベイルアウトする

 

 

 

 

『剣持隊員ベイルアウトッ!甲斐田隊員との射撃による連携で作った隙を狙い、長尾隊長の旋空弧月が決まった!』

 

 

桜子の実況と共に観客席からは"おお〜!!"と、歓声が上がる

 

 

『今のは良い連携だったね〜!それに珍しいトリガーもありましたよ!』

 

『長尾隊長が使用した弧月のオプショントリガー:幻踊ですね!』

 

『はい。幻踊はスコーピオン程の自由度はありませんが、先程のように弧月の刀身を変化させることが出来て、本来なら不可能な攻撃を可能とします』

 

『あの不意打ちで仕留められこそしなかったけど、その後のバイパーと旋空に繋げたのは上手かったですよね〜!』

 

『と、言いますと?』

 

『長尾隊長が幻踊を見せたことで、剣持隊員にはそれが強く印象付けられたと思います。長尾隊長が再び甲斐田隊員の援護と共に仕掛けてきた時、剣持隊員は後に待っているであろう接近戦での幻踊を警戒していたはずです』

 

『でも、そこに突然の長尾さんのバイパー。直前とは違う相手のアクションに剣持隊長は咄嗟に"シールドで防御する"ことを選んだ。この時点で剣持さんは詰んでたんだよね』

 

『長尾隊長のバイパーも防ぐためにフルガードをしてしまったから、旋空を防ぐことが出来なくなった…!』

 

 

解説を素に出した桜子の答えに、嵐山と佐鳥は正解と示すようにコクリと頷き、観客席の隊員達からは"おお〜っ!"関心の声が上がる

 

 

『柔軟な思考と数ある選択肢の中から最良の一手を素早く判断させる余裕。幻踊の使用はそれらを奪うためでもあったんです』

 

『なるほど…!弧月のオプショントリガー:旋空と幻踊の両方を使いこなす長尾隊長!このまま勇気隊員もその餌食となってしまうのか!?』

 

 

 

 

「よっしゃ!まずは1点!」

 

 

連携が見事に決まって剣持を落とし、甲斐田は拳を握り締めて歓喜の声を上げる

 

 

「ああ!このまま、ちーさんも落とすぞ!」

 

「ひぃ…っ!?」

 

 

出だしは上々…と、勢いに乗る長尾は続けてちひろも落としに地を蹴る

 

ドンッ!

 

 

「…っ!?」

 

 

だがその時、正面奥の建物の屋上が一瞬光ったかと思いきや、直後に狙撃が飛来し、長尾は既の所でシールドを2枚張ることで辛うじて防ぎ切る

 

 

『長尾…!?』

 

『当たってねぇ…!でも、面倒な展開になってきたぞ…!叶さんが狙撃位置に着いちまった…!』

 

 

心配する甲斐田へ長尾は手短に無事を告げると共に狙撃への警戒を促し、射線を切るべく建物を遮蔽物に路地へと飛び込む

 

 

『長尾…っ!反対から来てる…っ!』

 

 

続け様、弦月の警告が耳をつん裂き、その直後…

 

ドッ!

 

 

「ずはさ…っ!」

 

 

ガキン…ッ!

 

広い通路を挟んだ反対側の路地…そこからグラスホッパーを踏んで肉迫してきた葛葉がスコーピオンを振るい、長尾は弧月で受太刀する

 

 

「チッ…!」

 

 

長尾を仕留められなかった葛葉は舌打ちを鳴らすと、深追いはせずに叶とちひろの援護を受けられる通路へと退がる

 

 

『あっぶねぇ〜…!ナイス警告だったわ、藤士郎…!』

 

 

葛葉の奇襲には流石に長尾も冷や汗を流し、それを防ぐに至った警告をくれた弦月に礼を伝える

 

 

『うん…!でも、これで葛葉隊が揃っちゃったよ…!』

 

『ああ。でも、まだスナイパーのいるずはさん達が優勢。この状況をローレン達も良しとするはずはねぇ。必ず向こうに仕掛けてくれるはずだ』

 

『でも、葛葉さん達もそれは予想してるだろうから、叶さんのカバーを考えて退かないかな?』

 

『いや、少なくとも葛葉さんは得点が欲しいはずだから、叶さんが犠牲になることは必要経費と考えて俺達との戦闘に臨んでくれると思うぞ』

 

『だとしたら向こうが仕掛けてるのは速攻…。それも狙撃がある分、僕達から仕掛けることは出来ないよ』

 

『それじゃあ、僕達は逃げるのが駄目な上に、こっちから仕掛けるのは返って危険ってこと…?そんなクソゲーある…?』

 

『腹括れよ、晴。勝つためには時にリスクを背負わなきゃならねぇもんだからよ』

 

 

自分達が置かれた不利な状況に対し、慣れている長尾はあっさりと覚悟を決め、甲斐田はガクリと項垂れる

 

 

『どうする?ローレン達はこっち…まず僕を落としに来ると思うんだけど』

 

『だろうな。まあ、だからと言って引き下がるわけにもいかねぇだろ』

 

『じゃあ、長尾達とこのまま戦闘?』

 

『そうっすね。ローレン達が叶に戦力を割くなら、その間に長尾達を速攻で潰せば、俺とちーさんの2人で漁夫を気にせずにローレン達とやり合える』

 

 

一方の葛葉隊は葛葉の作戦方針によって、このまま長尾隊と交戦することが決まった

 

 

『なら、先手で長尾達の隙を作らないとな。正面から仕掛けても簡単に落とせる相手じゃないから、まずはちーちゃんがメテオラで長尾達が遮蔽物にしてる建物を爆撃。葛葉はそれに合わせて仕掛ける。叶君は可能なら狙撃で援護。どうだ?』

 

『分かった!』

 

『ああ、それでいい』

 

『了解』

 

 

葛葉隊オペレーター:社築の提案に3人は同意し、ちひろはメテオラを起動、分割し、それを長尾達が陰にしている建物へと射出する

 

ドゴォォォンッ!!

 

着弾したメテオラは派手な爆発を起こし、建物を崩壊させる

 

直後、葛葉は長尾に仕掛けるべく地を蹴る

 

その時だった

 

ドンッ!ドンッ!

 

 

「…っ!?」

 

 

背後から2回の銃声が鳴り響き、葛葉は思わず振り返ると、そこには頭部を撃ち抜かれたちひろの姿

 

そして、加速の勢いで素早く路地へと消えて行った襲撃の主…ローレンの姿が視界の端に映った

 

 

「ローレン…!」

 

ドッ!ドッ!

 

 

葛葉が怒りを込めてその名を呼んだ直後、トリオン体が崩壊したちひろがベイルアウトし、更に葛葉が仕掛けようとした先…長尾達2人がいるであろう場所からもベイルアウトの光が1つ、天へと昇っていった

 

 

 

 

『ここでローレン隊長とレイン隊員が奇襲!背後を取られた勇気隊員と甲斐田隊員がそれぞれベイルアウト!』

 

 

剣持のベイルアウトに続いて更に戦況が大きく動き、観覧席の隊員達は歓声を上げ、目を見張る

 

 

『イロアス隊は位置が割れた葛葉隊のスナイパーではなく、相手2部隊両方を狙いましたね』

 

『これには予想外と思った人も多いと思うけど、実はそうでもないんだよね〜』

 

『へ?そうなんですか?』

 

『先程も言いましたが、イロアス隊は全員がガンナー。つまり、相手と距離を取って戦うことが出来る部隊なんです』

 

『対する葛葉隊はアタッカー2人にガンナー、スナイパーが1人ずつ。長尾隊はアタッカーとシューターの2人編成。ここからアタッカーを援護出来る射程持ちの隊員がいなくなると…』

 

『相手を寄せ付けなければ、距離を取って戦えるイロアス隊が勝てる…!』

 

 

位置が割れたスナイパーではなく、各部隊の射程持ちを先に狙った理由に気付いた桜子は興奮気味にそう答え、嵐山と佐鳥は頷いて正解を示す

 

 

『それにローレンさんにはギムレットがあるから、普通ならシールドで防がれる射撃も押し切れちゃうからね〜』

 

『まだスナイパーが残ってますから、グラスホッパーを持っているローレン隊長が必ず狙いに行くでしょう。それに対し、葛葉隊長がどう動くかで試合の結果が変わると思います』

 

 

嵐山のその言葉に、会場の注目が葛葉へと向けられる

 

 

 

 

「ローレン…!やってくれたなぁ…!」

 

 

ちひろを落としたローレンに葛葉は敵意を剥き出し、仕返してやろうと言わんばかりにグラスホッパーを起動する

 

ドンッ!

 

 

「…っ!?」

 

 

だがその時、叶の狙撃が飛来し、葛葉の目の前に着弾する

 

 

『叶…っ!何のつもりd』

 

『葛葉!ローレンは構わず長尾達を獲りに行け!俺達には1点でも多く点が必要なんだろ!』

 

「…っ!」

 

 

"冷静になれ"…と、誤射になりかねない狙撃をしてまで伝えてきた叶に、葛葉は苛立ちをグッと堪えて踏み止まり、作戦通りに長尾へ向かって地を蹴る

 

 

 

 

(くっさんは…こっちには来なかったか。なら、向こうはパタさんに任せて、俺はこのまま叶さんを獲る!)

 

 

一方、建物を遮蔽に移動するローレンは葛葉が自身を追い掛けて来ないことを把握し、グラスホッパーを踏んで、そのまま叶に向かって進んで行く

 

 

 

 

「晴…っ!クソッ…!まさか、そうくるなんてな…っ!」

 

 

メテオラの爆撃により起きた建物の崩壊になんとか巻き込まれずに済んだものの、後衛の甲斐田がレインに落とされ、長尾は舌打ちする

 

 

『長尾…っ!正面から葛葉さんが来る…っ!』

 

「…っ!?」

 

 

建物崩壊による土煙が立ち込むなか、弦月の警告を受けて長尾は迫る脅威に身構える

 

瞬間、土煙の奥から葛葉が勢いよく飛び出し、右手に生成した鉤爪型のスコーピオンを振り下ろす

 

ガキンッ!

 

長尾は右手の弧月をそれを受太刀すると共に、左手の弧月を葛葉の腹部に目掛けて振るう

 

ガキンッ!

 

だが、葛葉も上げた左膝から生成させたスコーピオンで長尾の弧月を食い止める

 

ガガガガガッ!

 

 

「…!」「…!?」

 

 

葛葉と長尾が交戦を始めたそこへ、レインが突撃銃で射撃しながら介入する

 

葛葉と長尾はそれぞれシールドを張ってアステロイドの弾丸を防御するなか、レインは更に左手に拳銃を持ち、フルアタックの態勢を取る

 

 

(グラスホッパーを持ってる葛葉先輩を落としたいところだけど、長尾先輩が壁になって上手く狙えない…!でも、この際贅沢は言ってられない…!パタち達が勝つために、確実にどちらか1人は落とす…!)

 

 

手負いとは言え、ローレンと同じくグラスホッパーを持つ葛葉を無理に狙おうとはせず、レインは自身と葛葉に挟まれて1番落としやすい状況にある長尾に狙いを定める

 

パパパパパパパッ!

 

 

「「…!」」

 

 

だが、レインが拳銃の引き金を引くよりも先に長尾がバイパーを起動、放ち、葛葉とレインそれぞれに向かって射出される

 

多角的に迫るバイパーを葛葉は更にシールドを張って防御し、レインもフルアタックを止めてシールドを張って防御する

 

ダッ!

 

その瞬間、長尾はアステロイドの弾丸を防ぐためのシールドを張りながら、レインに向かって力強く地を蹴り迫る

 

 

(こっちに来た…!?いや、そりゃ上手くはいかないよね…!)

 

 

長尾の狙いが自身に向いてレインは一瞬驚くも怯みはせず、迎撃すべく左手の拳銃を構える

 

ドンッ!ドンッ!

 

直後、レインの拳銃から2発のギムレットが放たれる

 

ガキンッ!バリンッ!

 

1発目のギムレットは集中シールドで防がれるも大きな亀裂を入れ、2発目は耐久力が限りなく無くなったそのシールドを破壊し、長尾の左腕に命中して吹き飛ばす

 

 

「旋空弧月!」

 

「…っ!?」

 

 

ズバンッ!

 

だが、その程度で長尾が怯むことはなく、そのまま距離を詰められたレインは振り払われた旋空弧月によって袈裟斬りに真っ二つにされる

 

 

『トリオン体活動限界、ベイルアウト』

 

 

長尾の動体視力と腕を吹き飛ばされたくらいでは怯まなかった精神力により、相手を倒すに至れなかったレインは敗北を喫し、ベイルアウトする

 

 

(よし…っ!次…っ!)

 

 

一方、レインを下した長尾はすぐさま次の相手…背後から仕掛けてくるはずの葛葉を迎え撃つべく、振り向きながら右手の弧月を振るう

 

スカッ…!

 

ゴッ…!

 

 

「…っ!?」

 

 

だが、直後に起こったのは予想外の出来事だった

 

振るった弧月が空を切り、何かが長尾の顔面に激突する

 

 

(瓦礫の…破片…っ!?)

 

 

よろめくなか、長尾は自身の顔面に飛来、激突したソレの正体を知って驚く

 

そして、同時に"やっちまった…"と、自身の敗北を悟る

 

ドッ!

 

よろめいたことで出来た隙…それを逃さず、葛葉がスコーピオンで長尾の胸の急所を刺し貫く

 

 

『トリオン供給機関破損、ベイルアウト』

 

「あらら…。やっぱ無理だったか…」

 

 

敗北を受け入れてそう呟いた長尾はトリオン体が崩壊し切り、ベイルアウトして仮想空間から消えて行った

 

 

 

 

『長尾隊長ベイルアウトォッ!葛葉隊長が三つ巴を制した!』

 

 

時間にして1分にも満たない短い戦闘

 

しかし、確かに各々がB級下位とは思えない実力を有していると感じられたその一戦に、観覧席の隊員達は"おお…っ!!"と感銘したとも気圧されたとも取れる声を上げる

 

 

『レインさんは2人が交戦したタイミングで仕掛けたのは良かったけど、長尾さんが想像以上に手強い相手だったね〜』

 

『直後の葛葉隊長も、長尾隊長の迎撃を想定して敢えてすぐには接近せず、瓦礫を用いた投擲で隙を作ってから確実に仕留めました。あの一瞬でこれほど冷静かつ素早い判断能力…凄いですね』

 

 

と、佐鳥と嵐山は葛葉、長尾、レイン3人の刹那の戦いに評価を述べる

 

 

『さあ!長尾隊も全滅して、残るは葛葉隊2名とローレン隊長のみ!果たして、勝利はどちらの手に渡るのか!』

 

 

 

 

ドンッ!ドンッ!

 

ガキンッ!ガキンッ!

 

 

拳銃の引金を引き、ギムレットを射撃するが、叶は頭と胸の急所を2枚の集中シールドで防ぐ

 

 

(防がれたか…!まあそりゃ、くっさんから情報は共有されてるよな…!)

 

 

後に控えている葛葉との戦闘も考慮し、ローレンはトリオン温存のために叶をギムレットで仕留めるのを辞め、スコーピオンを構えてグラスホッパーを踏み、距離を詰める

 

 

「……」

 

 

ローレンが接近戦に切り替えてきたことに気付いた叶はイーグレットから突撃銃に持ち替え、振り向いて後ろ走りになりながら射撃する

 

 

「うおっと…!当たらねぇよ…!」

 

 

突撃銃から放たれた無数のアステロイドをローレンはシールドで防御しつつ、グラスホッパーでの機動力で出来る限り被弾を避けながら突っ込む

 

距離はどんどん縮まり、残り10mを切ろうとしたところで建物屋上の端へと追いやられた叶はローレンに体を向けたまま飛び出し、背を向けた形でその場から落下する

 

 

「…っ!逃がすかよ…!」

 

 

何食わぬ顔で飛び降りた叶に少し驚きはしたものの、ローレンも屋上から飛び出して落下する叶を追う

 

 

タタタタタタッ!

 

 

叶は落下しながらも、ローレンに向けて突撃銃の引金を引き、アステロイドの弾丸を撃ち込む

 

 

ガガガガガッ!

 

パッ!パッ!パッ!

 

 

だが、ローレンはアステロイドを全て凌ぎ切って遂に叶へと肉迫し、右手に生成したスコーピオンを突き出す

 

叶は頭と胸の急所だけは守るべくシールドを張り、ローレンの胸を狙ったスコーピオンは防がれるも、即座に左手に生成し直して叶の右肩を切り落とす

 

ブシューーーッ!

 

と、切断された叶の右肩の断面から勢いよく大量のトリオンが漏れ出す

 

 

「ぐっ…!」

 

「念の為、もう片腕も貰いますよ!」

 

 

ザシュッ!

 

と、ローレンは更に叶の左腕も切り落とし、武器を持つことが出来ない…事実上の戦闘不能状態まで追い込む

 

 

「悪いっすね、叶さん。これで残すはくっさんだけっす」

 

 

ローレンは笑みを浮かべ、叶へ勝ち誇るようにそう告げる

 

 

「その徹底さは流石だね、ローレン。でも、僕から気を抜くには早いよ」

 

 

だが、叶はニヤリと不敵な笑みを浮かべると共にそう告げると、最後の抵抗を言わんばかりにローレンを抱き締め捕らえる

 

 

「なっ…!?何のつもり…!?」

 

 

突然の叶の行動に驚くローレンだったが、直後にある人物が視界の端に入って身を震わした

 

数十m先の路地…そこから、自身を狩らんとする鋭い眼光を放つ葛葉が飛び出し、グラスホッパーを踏んでこちらへと迫って来た

 

 

(マッズい…っ!もう来やがったのかよ…!早く距離を…って、ああ…っ!そういうことかよ…っ!)

 

 

自身もグラスホッパーを踏んで距離を保ちながら迎撃しよう…そう考えかけたローレンだったが、そこで叶の行動の意図に気付く

 

グラスホッパーは踏んだ又は触れた対象を加速させるトリガーであり、特に空中戦においては身軽な者がその効果を大きく受けられる

 

逆に言えば、重い者や物は軽いのに比べてその効果が小さくなる

 

つまり、叶はベイルアウトの瞬間まで掴まることで、ローレンがグラスホッパーで葛葉から距離を取れないように体重を掛けているのだ

 

 

「こんの…っ!」

 

 

ドッ!

 

ローレンは体からスコーピオンを生やし、密着している叶の胸の急所を刺し貫く

 

 

『トリオン供給機関破損、ベイルアウト』

 

 

急所をやられた叶のトリオン体は急速に崩壊して破裂すると共に、光となって天へと上っていった

 

そして、叶の拘束から解放されたローレンは即座にグラスホッパーを踏み、葛葉から距離を取ろうとする

 

 

「もう遅ぇよ」

 

「…っ!」

 

 

だが、葛葉は既に目の前にまで迫って来ており、右手に生成した鉤爪のスコーピオンを振り下ろしてくる

 

ガキンッ!

 

ローレンはそれを集中シールドで防ぐが、更に葛葉は左脚の脛から突出させたスコーピオンを蹴り出してくる

 

ドッ!

 

 

「ぐっ…!」

 

 

これには防御の手が回らなかったか、ローレンの腹部にスコーピオンが突き刺さる

 

 

「捕まえたぞ、ローレン」

 

 

ローレンを捉えた葛葉は敗北を宣告するように冷たく言い放った

 

だが…

 

 

「…へっ!」

 

 

ローレンはニヤリと笑みを浮かべ、葛葉が蹴り出してきた左脚を右手で掴んだ

 

ここで1つ訂正しよう

 

ローレンは葛葉から繰り出された2度のスコーピオン…その後者に対する防御は出来なかったのではない

 

ここで相手を仕留めるために敢えてしなかったである

 

 

「それはこっちの台詞っすよ、くっさん…!」

 

 

葛葉の右手のスコーピオンは集中シールドで防御し、左脚蹴りのスコーピオンをその身で受け止め、更に右手で掴み捉えたローレンは自由に動かせる左手にギムレットを射撃出来る拳銃を構える

 

葛葉にグラスホッパーで動き回られては流石のローレンも正確に射撃することは出来ない

 

だからこそ、相手の動きが止まるこの瞬間を身を削ってまで作り出したのだ

 

 

(動きは止めた…!あとはギムレットを叩き込むだけだ…!)

 

 

葛葉が再び右手のスコーピオンで攻撃してくる前に仕留め切ろうと、ローレンが拳銃の引き金を引く…その時だった

 

 

「悪ぃけど、お前の負けだ。ローレン」

 

ドドドドッ!

 

「…っ!?」

 

 

葛葉がそう告げた直後、ギムレットを射撃すると同時に数弾のハウンドが上空から降り注ぎ、ローレンの身体を貫いた

 

更に、ローレンは左肩を撃ち抜かれて左腕が機能しなくなってギムレットを撃ち続けることが出来なくなり、葛葉は集中シールドでギムレットを防ぎ切っていた

 

 

『トリオン体活動限界…』

 

「マジか…やられたよ、くっさん」

 

『ベイルアウト』

 

 

自身の敗北にローレンは苦笑を浮かべ、勝利した葛葉に称賛の言葉を贈ってベイルアウトする

 





葛葉

部隊:葛葉隊
ポジション:アタッカー

トリオン9、攻撃9、防御援護6、機動9
技術8、射程3、指揮5、特殊戦術2
合計51

メイントリガー:スコーピオン、シールド、グラスホッパー、???
サブトリガー:スコーピオン、ハウンド、シールド、バッグワーム
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。