「ふぅ〜…っ!なんとか最後に1本取れました〜!」
「やるなぁ、鈴原。最後のアレには驚かされた」
「ああでもしないと、太刀川さんには近付けないと思ったので!でも太刀川さん、まだまだ本気じゃないですよね?」
「おっと、バレてたか…。だが、鈴原の成長速度に驚いてるのは本当だ。陽介や鋼に勝ち越せる日もそう遠くはないと思うぞ」
「はい!鈴原、いつか米屋さんに鋼さん、太刀川さんを超えてみせます!」
「ああ。俺もこれからもっと強くなるだろうお前との勝負が楽しみだ」
試合を終え、ブースから出てきた鈴原と太刀川が今後の楽しみに期待を膨らませるなか、2人を待っていた村上達が合流する
「お疲れ様です。太刀川さん、鈴原さん」
「良い試合だったっすね。ギャラリーも大盛り上がりでした」
「あ〜!米屋さん!と…後ろの方は鋼さん達のお知り合いですか?」
太刀川との試合前から共にいた鋼の傍に米屋の姿を捉えた鈴原は嬉しそうな声を上げるが、直後に2人のすぐ後ろに見知らぬ人がいるのに気付いた
「ああ、紹介します。こいつは影浦雅人。A級6位:影浦隊の隊長です」
「ちなみに、攻撃手ランキングは鋼より上の4位なんすよ」
「わぁ…!そんなに凄い人だったんですね…!私、にじさんじ所属の鈴原るると言います!よろしくお願いしますね、影浦さん!」
「…ああ、よろしくな」
愛想の良い自己紹介をする鈴原に影浦は素っ気ない返事をする
「まったく…。すみません、鈴原さん。でも、誤解しないでください。カゲは見ての通り近寄り難い印象ですが、根は単純で裏表のない奴です。よければ、これから仲良くしてやってください」
「そうなんですね!はい!分かりました!」
「…余計なお世話だっつーの」
「つーか、カゲがここに来るなんて珍しいな?」
「カゲは昨日のランク戦の記録を見て、にじさんじ支部の隊員に興味が湧いて来たそうです」
「あ〜、そういうことか。でも、残念だったな。今期のB級ランク戦に参加してるにじさんじの隊員は…」
「いねぇんだろ?鋼達から聞いた。だが…」
「…?」
「代わりの面白そうな奴を今見つけた」
と、影浦は鈴原に目をやりながらニヤリと笑みを浮かべた
「鈴原っつったよなぁ?俺と遊びねぇか?」
「遊ぶ?」
「試合をしないか、ってことです。だがカゲ、鈴原さんは休憩を挟まずに俺と50戦、太刀川さんと100戦試合を続けてる。少し休む時間が必要だろうし、なんなら後日また…」
「鈴原は全然大丈夫ですよ?」
「「「え…?」」」
と、累計150戦の個人戦を行って尚、まだ続けられるとけろりと答えた鈴原に村上達は思わず呆けた声を溢した
「ほ、本当に大丈夫なんすか?鈴原さん…?」
「いくらトリオン体でも、疲れが溜まってきてるんじゃ…」
「いえいえ!私まだまだ元気ですよ!影浦さんからのお誘いがなかったら、このまま米屋さんと50戦勝負しようと思ってたくらいなんですから!」
「マ、マジすか…」
米屋達の心配を意に介さず、鈴原は影浦との個人戦を強く望む
「なら、さっさと試合を始めようぜ…!何本勝負するかは好きにしていい…!」
「それじゃあ、50戦でどうでしょうか!」
「ああ、それで構わねぇよ…!」
「では、よろしくお願いしますね!」
影浦と鈴原は嬉々とした表情を浮かべながら個人ランク戦に臨むため、それぞれ空いているブースへと入って行った
*
『個人ランク戦50本勝負、開始』
市街地を模した仮想空間への転送が完了すると共に、鈴原と影浦の勝負の開戦を告げるアナウンスが流れる
「よ〜し!いきますよ〜!」
気合いを入れた鈴原はワクワクとした表情で突っ込んで行く
対する影浦は武器も出さずに手をぶらんと下げ、構える様子なく鈴原の接近を待つ
(構えてない…。でも、分かる…!影浦さんは全く油断してない…!私を倒そうって意志が凄く伝わってくる…!)
影浦の姿は傍から見ればやる気がないようにも見えたが、彼の闘争心を本能で感じ取った鈴原は遠慮なく、急所となる首を狙ってナイフ型のスコーピオンを振るう
「えいっ!」
ビュッ…!
ドッ!
「…!?」
そして、1本目の勝負は一瞬で片が付いた
鈴原の渾身の一振りは屈んで躱され、直後に影浦が反撃として突き出したスコーピオンが鈴原の心臓…急所を貫いた
「最初から首を狙ってくるたぁ、見かけによらず血の気が多いなぁ?鈴原ァ」
『トリオン体活動限界、ベイルアウト』
影浦がそう告げられるなか、鈴原のトリオン体は完全に崩壊し、ベイルアウトした
*
「まずはカゲが1勝っすね」
「まあ、アイツのサイドエフェクトを考えれば当然の結果だな」
個人ランク戦ロビーに設けられたソファに腰掛けて鈴原と影浦の試合をモニター越しに見ていた太刀川達は早速決着の着いた1本目の試合への所感を述べる
「とは言え、鈴原さんは動きだけで言えばもうB級上位に通用するレベルです。今みたいに避けられたらデカい隙が生まれてしまう大振りの攻撃じゃなく、打ち合いに持ち込めば勝機もあるのでは?」
「そうだな。鈴原の桁違いなトリオン量なら、スコーピオンの削り合いでカゲを追い詰められる。あいつのスコーピオンは性能が実質弧月みたいなものだからな」
「問題は、カゲが素直に打ち合いに乗ってくるかどうかっすよね。鈴原さんと太刀川さんの最後の試合は見てたし、鈴原さんのスコーピオンの性能が異常なことには気付いてるでしょ」
「だろうな。その辺も含めて、鈴原がどうカゲを攻略するのか見物だな」
影浦を相手に鈴原がどうやって勝ちを取りにいくか
その点に注目しながら、太刀川達はまだまだ始まったばかりの2人の試合に目を向ける
*
続く2本目、3本目…5本目と、流石に急所は警戒されているかと感じた鈴原は初撃の狙いを腕や足に変えながら仕掛けたが、影浦はその悉くを見切り、躱して、返しの反撃で彼女をベイルアウトさせた
(影浦さん、まるで私が何処を狙ってるか分かってるみたいに簡単に避けちゃう…!もしかして、視線や表情でバレちゃってるのかな…?よし!今度は少し工夫して…!)
と、鈴原は影浦に感心しつつ、どうやって攻撃を届かせるか、次の試合が始まるまでのインターバルを使って考える
『6本目、開始』
そして始まる6本目…住宅街に囲まれた道路上に向かい合う形で転送された鈴原はそれまでと違って試合開始と共に影浦へと突っ込んでは行かず、キョロキョロと辺りに目をやる
(何やってんだ…?)
これまでの5試合とは行動が一変した鈴原に影浦が疑問符を浮かべる
(あった…!よ〜し!まずはアレを使って…!)
そんななか、ある物を見つけた鈴原はすぐさまそれに向かって走り出す
(あぁ…?どういうつもりだ…?)
その後、鈴原が取った行動に影浦は更なる疑問符を浮かばせる
影浦へと突っ込んで行かなかった鈴原が向かった先は道路の真ん中
そこで立ち止まった鈴原はその足下にあったマンホールの蓋を急に取り外し、それを盾のように持ち構えた
「…おい、そのマンホールはなんだ?防御するために持ってんなら意味ねぇぞ。つーか、んなもん使わなくてもシールドがあんだろうが」
「それは私も知ってます!でも、教えませんよ!」
(教えねぇ…ってことは、何かしら考えがあって持ち出したってことか)
影浦は鈴原がシールドの存在を忘れてマンホールを持ち出したと思い、声を掛けるが、彼女の返答を聞いて何かしらの意図があると察する
「それじゃあ、いきますよ〜!」
マンホールを持ったことで準備が完了した鈴原は改めて影浦に向かって走り出す
(差し詰め、あのマンホールを攻撃に利用するつもりか。いいぜ、乗ってやるよ!)
鈴原の狙いを予測した上で、それでもまだ影浦は自ら攻撃には出ず、彼女の出方を窺う
(よし、ここ!)
影浦との距離が残り10m程に迫ったところで、鈴原が動く
「えいっ!」
「…っ!」
鈴原は力の込もった掛け声と共に、手に持っていたマンホールを地面に向かって垂直に手放すと、次の瞬間にその面に対して強烈な掌底を繰り出し、影浦に向けて勢いよく押し飛ばした
これには予想外だったか、影浦は少し驚いたように眉をピクリと動かし、飛んでくるマンホールを切り払おうと鉤爪型のスコーピオンを掌から生やした右手を振りかぶる
その最中、影浦から見て、押し飛ばしたマンホールの面と重なって見えなくなるようにしながら鈴原が迫って来ていた
(影浦さんが動いた…!)
鈴原が立てた作戦の1つ…それは大きめの投擲物によって影浦の注意を引かせると共に、その陰に隠れ接近することで自身の攻撃、その狙い所を読ませないことだった
飛来するマンホールに対応すべく、影浦の振りかぶった右手が視界に重なったマンホールからはみ出て見えた鈴原は作戦が上手くいったと確信する
そして、影浦がマンホールを切り払うと同時に、その太刀筋を避けるように低姿勢を取り、右足に目掛けてスコーピオンを振るう
バカッ!
ガキィンッ!
「…っ!?」
だが、現実は鈴原の想像通りにはならなかった
飛んできたマンホールの陰に隠れていた鈴原が攻撃するタイミング、その動きがほとんど視界に入っていないはずの影浦は、彼女が右足に目掛けて振るったスコーピオンをその狙われた右足から生やしたスコーピオンで完璧に受太刀した
(防がれちゃった…!上手くいったと思ったのに…!)
今度は避けられこそされなかったものの、またしても攻撃を読まれたことに鈴原が驚くなか、影浦はニヤリと笑みを浮かべる
「今のは悪くない手だったぜ、鈴原ァ。でも、悪ィな…俺にその手は通用しねぇ」
ドッ!
影浦はそう告げると、右手のスコーピオンを振り下ろし、鈴原の急所を貫いた
*
「これで14敗…。流石にカゲのサイドエフェクトには鈴原さんも苦戦してるっすねぇ〜」
「流石の鈴原もそろそろ違和感に気付く頃だろうが、分かったところで容易に対策出来るものじゃないからな」
あれから更に8本…鈴原は消化器を使った目眩しやフェイントを入れる等、様々な方法を駆使して攻撃を仕掛けたが、そのどれもが影浦に通用することはなく、苦戦を強いられていた
「それにしても、カゲは一向に自分からは仕掛けませんね。もしかして、遊んでるんでしょうか?」
「だろうな。最初は様子見だったろうが、鈴原の実力を把握してからはまともにやり合う気はないみたいだ」
「たしかに、まだアレも使ってないっすもんねぇ〜」
その上、鈴原に対して影浦がまだ本気を出していないと太刀川達は見破る
そんななか、鋼は太刀川の言葉に疑問を感じた
「鈴原さんが実力不足…?あの身体能力であれば、十分な実力があると言ってもいいんじゃ…?」
「身体能力はそうだな。だが、それだけじゃ今の鈴原はカゲには勝てない、足りていない。この戦いの中で、それに気付くことが出来ればあるいは…」
「気付く…?何にですか…?」
意味深に呟く太刀川に村上が尋ねる
「鈴原と何度も試合をしてきたお前なら分かるはずだ、鋼。鈴原は身体能力こそ既にボーダーでもトップレベルだが、あいつはまだスコーピオンというトリガーを使い切れてない」
「…っ!」
太刀川の言葉を聞いて、村上はハッと目を見開く
これまでの鈴原との試合で垣間見た、彼女の凄まじい成長率と身体能力が強く印象に残り過ぎて見落としていたあることに気付いて
*
(う〜ん、考えた手がどれも上手くいかない…。影浦さん、本当に私の考えが分かってるみたいに全部防いでくる…。もしかして、本当に心が読めたりするのかな…?)
15本目…影浦と共に市街地の大通りに転送された鈴原はこれまでの試合を振り返り、影浦の異常過ぎる読みに疑問を抱え、難しい顔になる
「…おい、急に大人しくなってどうした?まさかとは思うが、もうお手上げだなんて言わないよな?このくらいの負けなんて、鋼や太刀川達ともあったろ」
その様子を見て影浦が声を掛けるなか、鈴原はある質問をすることを決心する
「影浦さん、もしかして私の心が読めたりしますか?」
「…どうした急に?」
「最初は影浦さんの反射神経が凄いだけなのかと思ってました。でも、攻撃が読まれないようにって色々考えた手も影浦さんは全部防いでて…。流石にちょっとおかしいかもって思ったんです」
「…それで、もしかしたら俺がお前の心を読めるから攻撃が通らない。そう思ったのか?」
その問いに鈴原がコクリと頷くと、影浦はニヤリと笑みを浮かべた
「ハッ…!まあ、流石にこれだけやれば勘付くか」
「じゃあ、本当に…!」
「ああ。でもな、俺のクソ能力はそんな便利なもんじゃねーよ」
「能力…?それってもしかして、迅さん達が言ってた…えーっと…」
「サイドエフェクトだ。聞いたことくらいはあるみたいだな」
サイドエフェクト…高いトリオン能力を持つ人間に稀に見られる、トリオンが脳や感覚器官に影響を及ぼして発現する超感覚の総称である
「俺のサイドエフェクトは感情受信体質っつってな。他人が向けてくる感情や意識が肌に刺さる感覚で伝わんだよ」
「感情や意識が伝わる…!それで鈴原が何処に攻撃するかも分かったってことですか…!?」
「そういうこった。おかげで斬り合いにスリルが無くなっちまってつまらねぇ。その上、感じたくもねぇ他人からの感情が嫌でも常に刺さってきやがる。とんだクソ能力だよ」
「そうだったんですね…。ごめんなさい、嫌なこんなことを聞いてしまって…」
「…気にすんな。んなことより、これでお前の疑問は解決してやったわけだが、それでどうする?」
(たしかに…。どんなに隙を作ろうとしても、攻撃する時の意識や感情が読まれちゃうなら意味がない…。どうしたら…)
「考えんのは勝手だが、何か策を思い付くまで待ってやれるほど俺は優しくねぇぞ!」
意識や感情を感知するサイドエフェクトの攻略に頭を悩ませる鈴原のことはお構いなしに、じっとすることが性に合わない影浦は向こうから来ないならばと自ら攻めに出る
「…っ!」
ガキィンッ!ガギギキィン…ッ!」
絶え間なくスコーピオンを振るってくる影浦の容赦ない猛攻をなんとか凌ぎつつ、鈴原は突破の糸口を見出そうと思考を巡らせる
(影浦さんの動きには付いていける…!でも、こっちから攻撃しても避けられるか、あの時みたいに…!あっ…!)
と、思考の途中で鈴原は6本目の試合の時に影浦が右足を狙った自身の攻撃を右足から生やしたスコーピオンで防御したことを思い出し、同時にボーダーへ正式に入隊する前、迅達からトリガーについての指導を受けたことを思い出す
*
「…弧月についての説明は以上です。次に、このスコーピオンについて説明します」
遡ること4月初旬…ボーダーへの入隊を決めた鈴原を含む一部のにじさんじメンバーは、玉狛支部にてそれぞれの希望ポジションに分かれて指導を受けていた
その時のアタッカーのポジションを希望するメンバーの指導を担当していた迅が、ボーダーの有するアタッカー用トリガーについて順に説明を行っていた
「スコーピオンは弧月に比べて軽く、スピード型の隊員がよく使います。ですが耐久力は低く、受太刀すると結構簡単に折れてしまうので、守りに入ると弱いトリガーでもあります」
「ってことは、弧月との打ち合いは不利…」
「防御に不安がある以上、そりゃ弧月が1番人気のブレードトリガーになるわけだ」
スコーピオンの欠点を聞いて、剣持や葛葉が思ったことを呟き、他の一部メンバーもスコーピオンには惹かれないといった微妙な表情を浮かべる
「はい。ブレードそのものの性能では、高いレベルでバランスの取れた攻撃力と耐久力を持ち合わせる弧月にスコーピオンは劣ります」
"ですが…"と、迅は続ける
「スコーピオンにも弧月に無い優位性があります。それはブレードを体の何処からでも自由に出し入れ出来ること。そして、ブレードの形や長さも自由に変えられる点です」
"たとえば、こんな風に…"と、迅は実際に頭や膝からスコーピオンを生やしてみせる
「「「「「おお…っ!!」」」」」
と、最初の説明でスコーピオンに対する興味を無くしていたメンバーも含め、それを見た一同は驚きの声を上げ、その評価を改める
「何処からでも生やせる…ということはつまり、どんな状況からでも攻撃や防御を可能にするということです。まあ、いきなりやろうとするのは大変なので、まずは慣れてから、その後スコーピオンをよく使う隊員の記録等を参考にしていただければと思います」
*
(そうだ…!スコーピオンは体の何処からでも出すことが出来るんだ…!)
ボーダーへ正式に入隊してからもずっと、鈴原はスコーピオンをナイフ型のブレードとして常に手に持つ形で使用していた
そして、これまでの試合で対戦してきた相手は弧月使いが多く、スコーピオンを使う隊員も鈴原と同じく手に持つブレードとして使用していたため、その優位性をすっかり忘れていた
(なんか思い付いたって顔だな…?)
影浦との試合を経て、それを思い出した鈴原は意気込み、その気持ちが笑みとして表れた顔を見た影浦は何か思惑があると察する
チリッ…
(首か…!)
激しい打ち合いの最中、影浦が振るった右手のスコーピオンを左手のスコーピオンで弾いた鈴原は直後に右手のスコーピオンを影浦の首に目掛けて突き出す
ドッ!
だが、それをサイドエフェクトで感知していた影浦は刃が届く直前で膝を上げ、そこから突出させたスコーピオンで鈴原が突き出した右手を切断する
チリッ…
「…っ!?」
だが、影浦の首を狙う鈴原の攻撃の感情はまだ消えてはおらず、直後…
ドッ!
鈴原は切断された右手の断面からスコーピオンを突出させ、影浦の首を貫いた
『トリオン体活動限界…』
(やった…!)
「やるじゃねぇか…!これで少しは楽しめそうだな、鈴原ァ…!」
『ベイルアウト』
試合を始めてようやく攻撃が通り、勝ち星を1つ上げた鈴原は内心で声を上げるもその表情には誰が見ても分かるほどの喜びを表し、スコーピオンを活かし始めた彼女の成長に影浦もまたニヤリと笑みを浮かべた
*
「おお…っ!?鈴原さんが1本取ったぞ…!」
「ああ…!それに今のは…!」
「どうやら、鈴原も気付いたみたいだな。さぁて、ここからもっと面白くなるぞ」
鈴原が上げた初めての勝ち星に村上達を含む観戦していた隊員達から大きな歓声が上がり、更に激しさを増すここからの試合に太刀川は嬉しそうに笑みを浮かべた
*
ガギキィンッ!ガギガギィンッ!
それから40本目まで、スコーピオンを活かし始めた鈴原は影浦と互角の勝負を繰り広げた
(楽しい…!楽しい…!!)
(ハッ…!この試合を始めてからそうだったが、見た目の割に不気味なくらいずっと笑ってやがる…!テメェもこっち側ってことか、鈴原ァ…!)
激しいスコーピオンの応酬のなか、鈴原と影浦は戦いの楽しさからずっと笑みを浮かべており、その姿は観戦していた多くのC級隊員に一種の恐怖を感じさせるほどだった
(こいつも良い感じになってきたことだ…!そろそろ本気で行かせてもらうぜ…!)
そして、41本目の試合の最中で遂に本気を出すことを決めた影浦は鈴原との打ち合いを止めて後ろへ飛び退く
(逃がさない…!)
距離を取る影浦を鈴原はすぐさま追う
ビュカッ!
「…っ!?」
その瞬間だった
スコーピオンの刃が届かない距離で影浦が右手を素早く振るったかと思えば、そこからスコーピオンが鞭のように変形し伸びて、鈴原の左足を斬り飛ばした
(何…今の…!?スコーピオンが伸びた…!)
片足を奪われて体勢を崩し、転倒するなか、鈴原は初めて見る予想外の攻撃に驚くと共に胸を高鳴らせる
ドッ!
そして、生まれた隙を逃すはずもなく、影浦は転倒した鈴原の背中に容赦なくスコーピオンを突き刺した
『トリオン体活動限界、ベイルアウト』
*
「マンティス…!カゲの奴、遂に本気を出しやがった…!」
マンティス…影浦が編み出したスコーピオンを2本繋げることで射程を大幅を伸ばし、スコーピオンが持つ自由な変形を合わせた防御しにくい攻撃を可能とする荒技
ボーダーでも使えるのが影浦ただ1人であるその技の披露に、影浦を知る者達は彼が本気を出したことを察する
「これはまた形勢が逆転しそうですね…」
「ああ。だが、あんなのを見せられて鈴原が何もしないとは思えない」
「そうっすね。また俺達をアッと驚かせてくれる大番狂せがあるかもしれない」
「はい。最後まで目が離せませんね」
本気を出した影浦を相手に、このまま鈴原がタダで終わるはずはないと太刀川達は確信し、その行末に目を見張らせる
*
(さっきの影浦さんのスコーピオン、凄かった…!私にも出来るかな…!)
続く42本目…影浦のマンティスに興味を持った鈴原は早速自分もやってみようと意気込む
『42本目、開始』
チクッ…
(あぁ…!?あの距離からだと…!?弾か…!いや、まさかあいつ…!)
市街地へ転送され、試合開始のアナウンスが流れた直後、まだ位置が数十mも離れているというのに、影浦のサイドエフェクトが鈴原からの攻撃の意思を感知する
「えいっ!」
グンッ!
「…っ!?」
直後、掛け声と共に鈴原が右手を突き出すとそこからスコーピオンが勢いよく生え伸びるが、そのスピードはマンティスには遠く及ばず、影浦は簡単にそれを躱す
(この距離で攻撃出来んのか…!いや、考えてみりゃ当然か…!あいつのトリオン量は桁違いだからな…!なんならもっと伸びてもおかしくは…っ!?)
チクッ…
鈴原のスコーピオンの射程の長さに驚く影浦だったが、その最中にあることに気付いてハッと見開くと同時に、再びサイドエフェクトによる攻撃の意思を背後から感知する
ガキィンッ!
背後から迫っていた攻撃…それは影浦が躱した後、その軌道を変えて攻撃を続ける鈴原が今尚伸ばしているスコーピオンだった
影浦はそれをサイドエフェクトの感知と同時に、鈴原のトリオン量からスコーピオンの射程の長さに納得した時に気付き、振り返って左手のスコーピオンで受太刀する
チクッ…
そして、畳み掛けるように鈴原へ向けた背後から更なる攻撃の意思をサイドエフェクトが感知する
チラリと影浦が後ろを見ると、右手で伸ばしたスコーピオンを維持したまま、鈴原が距離を詰めに迫って来ていた
(こいつ…!俺のマンティスを見様見真似してきたこっちを囮にして…!)
マンティスを真似して伸ばした右手のスコーピオンとの挟み撃ちを仕掛けてきた鈴原の戦法に影浦は厄介そうに顔を顰めながら、右手のスコーピオンを最初に横切ったまま伸び続けている鈴原のスコーピオンへと振り下ろす
伸ばしたことでその耐久力が更に落ちた鈴原のスコーピオンは簡単に折れてしまい、そのまま影浦は振るった右手のスコーピオンをマンティスへと変形させ、鈴原へと飛ばす
キィンッ!
初見だった先程とは違い、鈴原は影浦が飛ばして来たマンティスを左手のスコーピオンで弾き、次の瞬間に力強く地を蹴り、影浦の懐へと一気に迫る
ガキィンッ!
そして、懐へと入り込んだ鈴原は下から勢いよく右手のスコーピオンを振り上げ、影浦はそれをスコーピオンで受太刀する
「やるなぁ…!鈴原ァ…!俺のクソ能力が無けりゃ勝負が付いてたところだぜ…!」
「ありがとうございます…!でも、鈴原はまだ諦めません…!」
影浦からの称賛に鈴原はそう答えた直後、影浦のスコーピオンと押し合っている右手のスコーピオンの刃を極端に短くした
「…っ!?」
ガキィンッ!
ザンッ!
次の瞬間、真下にいる鈴原のスコーピオンを受太刀するために力を入れていた影浦は、そのスコーピオンが突然無くなったことでガクンと体勢を崩して倒れ込む
その際、受太刀のために起動していたスコーピオンは真下にいる鈴原の顔へと直撃するはずだったが、鈴原はそれを残していた左手から生やしたスコーピオンで受け止める
そして、鈴原の極端に短くなったスコーピオンは影浦が受太刀させたスコーピオンを通過した直後に元の長さへと戻り、体勢を崩して倒れ込んできた影浦の顔を縦に斬り裂いた
(俺が受太刀したスコーピオンを抜けるために、一瞬だけスコーピオンの長さを調整しやがった…!?ハハハ…ッ!思った以上に面白ぇじゃねぇか…!鈴原るるゥ…!)
これまでに味わったことのない面白い勝負を繰り広げてくる鈴原に、影浦は狂気的にも見える心底嬉しそうな笑みを浮かべ、ベイルアウトした
そこから最後まで、鈴原と影浦は思う存分に互いの本気をぶつけ合った
*
『50本勝負終了。勝者…影浦雅人』
影浦ー鈴原
35ー15
「「「「「うおおおおおおおっ!!!」」」」」
時間にして約2時間半…長丁場となった鈴原と影浦の試合に終わりが告げられ、それと共に観戦していた隊員達から大きな歓声が上がった
「いやぁ〜、良い勝負だったっすね!」
「ああ。スコーピオンを活かし始めてからの鈴原さんの戦いぶりには驚かされっぱなしだった」
「最後10本だけ本気を出したカゲにも2本取れてる。入隊1ヶ月でこれなら十分な戦績だ。スコーピオンの可能性に気付いた鈴原はこれからもっと強くなるぞ」
結果こそ影浦の勝ちに終わったが、この試合で鈴原は大きな成長を遂げた
そして、ここから更に強くなるであろう鈴原を太刀川達は楽しみに思うと共に、大きな期待を寄せた
*
『お疲れ様です、影浦さん!とっても楽しい試合でした!』
「みたいだな。負けてるってのに随分と元気なもんだ」
『勝ち越せなかったのは勿論悔しいですけど、それ以上に影浦さんとの勝負が楽しかったですし、おかげで鈴原はもっと強くなれて嬉しいですから!』
試合を終えた鈴原と影浦はそれぞれのブースを出る前に一息つきながら、音声通話を通して試合の感想を伝え合い、その余韻に浸っていた
そんななか、影浦はふと気になったことを鈴原に尋ねる
「そういやぁ、昨日のランク戦の録画を見たんだけどよ。鈴原、お前は参加してないのか?」
『ランク戦…?あ〜!B級ランク戦のことですね!はい、鈴原はまだ部隊を組んでないですから!』
"部隊を組んでいない"…その言葉に影浦は眉を顰める
「どういうことだ?鋼から聞いた話じゃ、お前等は遠征目指してるんだろ?」
影浦は鈴原を含むにじさんじ支部のメンバーがボーダーに入隊した経緯も村上と米屋から大まかに聞いていた
その事情が事情なだけに、鈴原がB級上位の隊員にも通用する実力と素質を持っていると確信した影浦は、彼女が何故ランク戦に参加していないのか疑問に思った
『…私、初めて部隊を組む相手を決めてるんです。でも、その人は今いなくて…』
「…!」
何処かはっきりしない最後の言葉…しかし、通話越しでも分かる鈴原の少し悲しそうな声を聞き、影浦はその概ねを理解する
「…悪ぃこと聞いちまったな」
『いえ、そんなことは…』
「けどよ、それなら尚更だろ。そいつを助けるためには遠征への参加を狙うしかねぇ。拘ってる場合じゃねぇだろうよ」
鈴原の辛い過去を掘り起こしてしまったことには申し訳ないと思いつつも、その想いと行動が噛み合っていないと納得がいかなかった影浦は苦言を呈する
『…ごめんなさい。これ以上詳しく話すことは出来ないんです』
"詳しく話せない"…その言葉から本部あるいは、にじさんじ支部と関わりがあるとされる玉狛支部から、何らかの守秘義務が課せられていると影浦は察する
「…ワケありか。まあ、べつに深入りするつもりはねぇよ」
『…はい、ありがとうございます』
これ以上の詮索は野暮だと悟り、影浦は口を閉じた
(…少なくとも、こいつはその連れ去られた奴を助けることを諦めちゃいねぇ。辞めさせられちまったが、鳩原も連れ去られた弟を助けることを諦めねぇで、人が撃てなくても遠征に行きたがってた)
鈴原の話を聞いた影浦は、ふと先月半ばにボーダーを辞めさせられた鳩原のことを思い出し、同時に彼女の力になれなかったことを今尚後悔している絵馬のことが頭に浮かぶ
(遠征以外の方法が何かあんのか、それともこいつに遠征に行きたくても行けない理由があるのか、そこんとこまでは分からねぇ。ただ、鈴原には十分な力も素質もある。だが、もしこの先、こいつに何かあって鳩原の二の舞になったら…)
出逢って間もないが、影浦は鈴原のことを自身を楽しませてくれる存在の1人として気に入っていた
そんな彼女が、もし鳩原のように大切な人を助ける希望を失い、ある日突然に目の前からいなくなってしまったら、自身も絵馬のように彼女の望みが果たされるよう力になってやれていれば…等と思うのだろうかと考えた
(いや、どうだろうな…)
だが、そんなことはその未来が訪れてからでないと分からない
(分からねぇ…。分からねぇけど、そんな終わり方はこっちも後味が悪ぃ…)
そう影浦は思い、鈴原に対して自分なりに出来る助力をしようと思い立った
「…おい、鈴原ァ」
『はい、なんですか…?』
「お前、毎日個人戦しに来てるんだったな?相手が欲しくなったら付き合ってやるよ」
『え…!いいんですか…!?』
影浦からの嬉しい申し出に鈴原の声音に明るさが戻る
「お前との勝負は面白かったからな。それに、お前はこれからどんどん強くなるはずだしな」
『…ありがとうございます、影浦さん!鈴原、もっともっと強くなって、いつか影浦さんを超えてみせます!』
「ハッ!やれるもんならやってみろ!」
『はい!やってみせます!』
純粋にこれからの鈴原と勝負したい気持ちは勿論ある
だが、それ以上に勝手で余計なお世話かもしれないが、何か彼女の力になれればという想いを胸に影浦は自身を超えると宣言する鈴原と笑い合った
鈴原るる
部隊:未所属
ポジション:アタッカー
トリオン30、攻撃13、防御援護5、機動8
技術7、射程3、指揮2、特殊戦術2
合計70
メイントリガー:スコーピオン、シールド、FREE、FREE
サブトリガー:スコーピオン、シールド、バッグワーム、FREE