・3-Cに何かを言いたい水上
・六田を助ける漆間を助ける水上
※各章のあらすじ&登場キャラはこちら
※ガラの悪いモブ不良が出る。漆間に殴られ未満の暴力描写あり
※よそよそしさを表すため水上が漆間をクン付けで呼んでいる
謝罪
本部についた頃にはあたり一面薄暗かった。分厚いひつじ雲のすき間からは、時おり夕焼けの名残がちらついて見える。夜空に変わる瞬間を目の当たりにして水上は思う。雨が降らなくて、良かった。
先を急ぐ当真の背中を見送り、水上と王子もゆっくり歩きだす。
「ごめん、みずかみんぐ。春巻きパンが売り切れだって、本当は行く前から分かってたんだ」
王子の説明によれば、春巻きパンは揚げ物という性質上、味が落ちやすい。数を作らないため午前中に売り切れることも多いのだという。
「言わなきゃわからんのに、正直な男やなあ」
「はは。きみにあの店を知ってほしかったんだ、なんとなくね」
王子は小学生の頃からあの店の常連で、店主とも親しくしているようだ。どうりで店の内情に詳しいわけだと、水上は納得する。
だが、小学生が通うには蓮之辺は少々遠すぎる気もした。たしか王子の自宅は蓮之辺とは反対方向にあったはずだ。親の送迎という線もあるが、パンを買い与えるために市外のパン屋に、それも週に何度も子どもを連れていけるものだろうか。彼の家は両親ともに多忙だと聞いたことがある。交通費だってばかにならないだろう。
あるいは、彼の"尖ってた過去"とやらが関係しているのかもしれない。昔いろいろあったからと、王子はあの店でこぼしていた。けれど水上は何も聞かない。王子はしゃべりたいことがあれば勝手にしゃべる男であり、彼が何も言わない以上、余計な詮索は必要ないと思うからだ。
「……まあ、名リポーターのきみにあの店を紹介できて良かったよ」
「その言葉、半分うそで半分ホントって感じやな」
王子は「うん?」と首をかしげた。おそらく前半は照れ隠しだろう。彼が水上の食レポぐせを知ったのは、数時間前のことなのだ。王子は何か言いたげな様子だったが、その何かを言わせてはいけない気がして水上は、
「や、俺も今日あの店に行けて良かったし。ありがとうな」
それは本音だった。カラオケ・ゲーセン等々、定番の遊び場は軒並み制覇していたが、地域の店を訪れる機会はあまりなかったのだ。
『はすのべ』が大規模侵攻を経験してなお、この地に残ってくれたこと。おいしいパンを毎日母校まで売りに来てくれること。いままで当たり前に享受していた購買のシステムが、実は『はすのべ』の厚意から成り立っているのだと知った。当たり前だと思っていたことが当たり前ではなかったのだと、水上は今日知ったのだ。
王子はまだ何か言いたげな雰囲気をかもし出していたが、適当な話をふってお茶をにごす。気づけば王子隊の作戦室前まで来ていた。
「そんじゃま、さっそく隊のみんなに宣伝といこか?」
土産のパンがたんまり入った袋を持ち上げ、水上はおどけてみせる。
「……頼りにしてるよ、みずかみんぐ」
王子もあいさつ替わりに袋を掲げると、隊室へと入っていった。
自隊の作戦室を目指し1人歩き出した水上の中に、ある思いがふくらんでいく。
(丹精こめて作ってくれたパンをけんかの理由にすんのも、なんかアレやな……)
アレが一体どんな感情なのか、うまくは説明できない。説明できないけれど、同じクラスの彼らに早急に謝らなければいけない気がして──水上はゆっくりと息を吸った。
◆
翌日。水上は、春巻きパンをめぐる近頃の振るまいについて反省の弁を述べた。
「ま、そういうこともあるだろ」
穂刈が発した言葉はそれだけだった。それどころか、自分はいいから影浦の方へいけとアドバイスされる。なんでも、水上の愚痴と食レポに毎度つきあわされ、影浦は食傷気味とのことである。実のところ、ここ最近の水上の昼休みの食事相手──すなわちその世話役は、影浦1人に任せきりの状態だった。
昼休み、穂刈はもっぱら自隊のミーティングで席を外していたのだ。荒船隊は、史上初・前代未聞のスナイパー3人体制でこのたび新たなスタートを切った。ポジションを変更したばかりの荒船は、追いつけ追い越せで訓練場にこもる日々を送っていた。
彼の通う進学校では、本校に先んじて期末試験がおこなわれる。月末に向けそろそろ勉強に集中したい頃ではあるが、ランク戦は学生の都合などお構いなしに開催される。多忙を極める荒船は、やむを得ず昼休みに隊員と電話をつなぎ、ランク戦の対策を練っていたのであった。
そんなわけで、穂刈が昼に留守がちなのは仕方のないことだったが、影浦にかかる負担を彼なりに気に掛けているのだった。
件の影浦には、「ワケわかんねーこと言ってねーで課題うつさせろ」と流された。実家がお好み焼き屋の彼からすれば、死んだ顔で飯を食う水上の姿は、到底受け入れがたいものだったに違いない。今日まで大して怒りもせずよく来てくれたものだと、水上は内心感謝する(実際には怒られたことがあったが、水上はものまねが似てなかったことを怒られたと勘違いしているためノーカンである)。
寛容な態度でいてくれたことに礼を言いたかったが、終わった話をむし返すことを影浦は好まない。だがそんな思いの変遷すらサイドエフェクトの前では筒抜けで、「言いたいことがあんならハッキリ言え」と促されてしまう。いま一度礼を述べた水上は、今後しばらく影浦の課題を積極的に見ることを約束、しれっと話に混ざってきた穂刈にも、同様の協力をする運びとなったのだった。
最後に村上にも謝罪したところ、逆に"ここ最近の非礼"をわびられた。なんでも、1週間ほど前に水上に隠れて春巻きパンを食べてしまったのだという。そんな些細な出来事が彼を苦しめていたと知り、水上はあらためて申し訳なく思う。
そもそも村上は、『金的事件』の翌日から「購買」と聞くだけで笑いが止まらない症状に見舞われていた。無論、誰かのように大笑いするわけではない。「購買」というフレーズを耳にした瞬間、無言で口角を上げたまま彼の時だけが止まってしまう。いわば気遣いの塊のような笑い方であった。
ここ数日は、水上と顔を合わせるなり「あの、俺、そのっ……」と何かを言いかけ、「……すまない! 本当に俺は、俺は……どうしようもないやつなんだっ……!」と立ち去る、そんな言動が加わっていた。いつの間にか、村上だけ別の場所で昼を食べるのが当たり前になっていた。
少女漫画とも思しき謎のやり取りに、村上の説明を受けようやく合点がいった水上である。客を迎えるホテルマンばりのお辞儀を連発され、本当に村上という男は隠し事のできないイイやつなのだと知った。この件に関しては水上もなんだか肩の荷が下りた気がして、自分がまいた種ではあるが、謝ってよかったと心の底から思えたのだった。
◆
昼休み。水上は移動教室の帰りがけに2年A組に立ち寄ると、おつかい業務の終了を告げた。
「これでおれもお役御免ですか、意外と早かったなあ」
ゆるやかな笑みまじりにつぶやいた隠岐は、水上にこのたびの成果を尋ねる。
「先輩、あれからちょっとは春巻きパン食べられました? おれがおつかい行った時は、1個も買えませんでしたけど……」
「まあ、0勝7敗1分けってところやな」
1分けって、どういうことやろ。隠岐は疑問に思ったが、面倒な気配がしたので聞かなかった。事実、1分けとは「漆間に春巻きパンをゆずられ買わなかったこと」なので、聞かなくて正解だったかもしれない。
「にしても、先輩結構たまごパン食べたんちゃいます? ほら、おれが2回連続でたまごパン3つ買ってったこと、あるやないですか」
3つどころか4つ食べたこともあったが、水上は言わなかった。本日この後も昼の争奪戦がひかえており、極力話題を長引かせたくなかったのだ。
結局のところ、影浦は水上の愚痴にキレることはあれ、パンの買い方に苦言を呈することはなかった。その結果、「春巻きパンがなければたまごパンを買い占める」という愚行は、後輩2人を巻き込み粛々と続けられてきた。海に頼んだ分と自分で買った分も合わせれば、水上は8日間で計13個もたまごパンを食べていた。
漆間は既にパンを買い終えているかもしれない──そんな懸念がチラつきつつも、それはそれとして、念には念を入れて、たまごパンを買いあさる日々を送っていたのだった。
「でも良かったですわ。 これでおれも、先輩に気兼ねなく春巻きパン買えますし」
ちっともそう思ってなさそうな顔で隠岐が言う。
「なんでやねん」
ふっと笑って水上は、なかば条件反射的に腕をふり上げた。しかしそのツッコむための右腕は、行き場を失ったかのようにななめ45度の角度で不自然に止まる。隠岐の背後の教室から、どうにも熱い視線を感じたのだ。見れば隠岐のクラスメートと思われる女子3人組が、こちらの様子を伺いながら、何やらヒソヒソ話している。その表情は一様に険しい。
「はは……ドーモ」
水上は愛想笑いをうかべ、ツッコミ代わりに隠岐の肩にひじを乗せる。ついでもう片方の手をひらひらと振り、"後輩に暴力をふるう意思はない"ことをアピールして見せた。おかしなうわさがこれ以上広まるのはごめんだった。
「先輩どうしたんです? いきなり手ぇなんか振って。……ああ、マリオかあ」
水上の動作が細井に向けられたものと勘違いした隠岐は、観衆の後方にすわる自隊のオペレーターに笑顔で手をふった。なんとなく室内がソワソワした雰囲気に変わったが、よくあることなので細井も水上も気にしない。ひかえめに手を上げてみせた彼女の顔には、「用が済んだならはよ帰り」と書いてある。クールな対応の中に、多少の気はずかしさも混ざっているのだと知っている。水上は、去り際に本当に細井に手をふると教室を後にした。
それにしても──階段を下りながら水上は考える。同級生には一世一代の詫びを軽く流された。パシったはずの後輩は、小言の一つも言わずに任務終了を受け入れた。ボーダーの連中ときたら、どいつもこいつも大人なやつばかりだ。穂刈や影浦が己に対して若干の後ろめたさを抱えているとは露知らず、他郷で仲間にめぐまれた幸運を、じんわりとかみしめるのであった。
◆
水上が階段を下りきると、ちょうど目の前の廊下を2年生の行列が通っていく。体育終わりとみられる集団の中には若村と三浦もいて、目があった水上に「お疲れ様です」と会釈する。後輩たちは元気があり余っているらしい。その姿が見えなくなってなお、弾んだ声が聞こえてくる。
「ろっくん、お昼は購買行くの?」
「ああ」
「いいなあ。おれは今日も弁当だよ」
「……でもなあ、ここんところ、たまごパンが売りきれ続きで買えねえんだよ。なんでだろ」
身に覚えがあり過ぎる水上は、若村のぼやきは聞こえなかったことにした。
気がつけば2年男子の列は途絶えつつあった。廊下に出ようと思った矢先、水上の目があの男の姿をとらえる。男子集団の最後尾と、これまた体育終わりと思われる女子集団との間にはぽっかり空間が空いていた。制服に身をつつみ1人で道をいく漆間の姿が、やけに浮いて見える。
(──そうか。あいつ、一緒に行動するやつがおらんのか)
水上はここにきてようやく理解した。漆間が自分より先に購買につくのは、常に単独行動だからだ。水上は委員会がない時だって、友人と授業の感想をいいあったり、みんなからパンの注文をとったりしていた。その点漆間は、授業が終わればすぐに教室を出て、一目散に購買に向かうことができる。教室を出るまえに時間を消費している水上と人付き合いに縛られない漆間とでは、そもそも昼休みのスタートが違ったのだ。
女子生徒たちが歩く様をぼんやりと見つめていた水上は、今日も春巻きパンを食べられなかった。
清掃活動にご協力ください
放課後のことである。漆間が自転車置き場に向かっていると、裏庭ではしゃぐ男子生徒たちの姿が目にとまる。ボウリングのマネごとをしているようで、金髪男の足元にはピラミッド状に缶が並んでいる。10メートルほど離れた場所から、坊主頭の男が缶めがけて野球ボールを放った。
ストライク。缶を倒した勢いそのままに、豪速球は花壇にぶつかり宙を舞う。最終的にいくつかの花が下敷きになったが、2人は気にするそぶりもなく、そろって喜びの声を上げた。
「あ~、遊んだ遊んだ」
人を見た目で判断してはいけない。判断してはいけないが、彼らが次に取った行動はおおむね漆間の予想通りだった。缶を置き去りにしたまま、トンズラここうとしているではないか。
どうしようもねーのがいるもんだと思いつつも、厄介事に首をつっこむ趣味はない。スルーを決め込みふたたび目的地へ向かおうとした、その時である。
「あの~」
耳慣れた声が後ろからして、漆間は立ち止まる。
「あん?」
野太い声に不穏な気配を感じた漆間は、ふたたび彼らの方を振り返る。いつの間にか、金髪と坊主頭の前に自隊のオペレーターが立っていた。
「ええと、いま美化委員会の活動中でして。ぜひ、活動にご協力を……」
飛んで火に入る夏の虫。このことわざを使う日が来るとは思ってもみなかったが、いまの彼女は誰がどう見ても"虫"だった。
六田は2人に歩み寄ると、遠慮がちにゴミ袋を広げてみせた。仕草こそ控えめだが、引く気配はいっさい感じられない。
だが男たちは要請に応じず、ただただニヤけている。
「あーこれね、捨てる捨てる。捨てるけどさー……」
「捨てたらおれらとデートしてくれる?」
「で、デートですか? や、あの……今日会ったばかりの人とデートっていうのは~、ちょっと……」
(そういう問題じゃねーだろ)
そのやり取りに雲行きの怪しさを感じつつも、漆間は動かない。六田をなんとかしてやりたい気持ちがあるにはあるが、負ける勝負には挑まないタチなのだ。
己のあけすけな態度は何かと反感を買いがちで、和平交渉なんてとてもじゃないができない。万一けんかに発展したとして、生身の戦闘においては体格差が物を言う。小柄な自分が彼らに勝つのは難しいだろう。そう分析していた。
何より、自分が人に絡まれることはあっても人が絡まれるのに遭遇したのは初めてで、つまりはどうしていいか分からなかった。漆間がその場をうろうろしていると、にわかに慌てふためく声がする。
「あのっ、手は……手は、困ります」
見れば彼女の頼りない腕が、金髪の両手に包まれていた。そこからの記憶はあまりない。気がつくと漆間は、3人の前に姿を現していた。
「……その辺にしとけよ」
「漆間くん……!」
「誰?」と問う金髪に、「こいつボーダーのやつだ」と坊主頭。
「んー? てことはキミもボーダー?」
「あ、はい……」
バカ正直に答えてんじゃねーよ。たやすく素性を明かしてしまった六田に、漆間は少々あきれる。
「てかどこ住み~? あのでかい箱からガッコー通ってんの?」
「箱ってボーダー本部のことですか? ええと、ボーダー隊員がみんな本部に住んでるわけではなく……」
「六田さん、それ以上は守秘義務っす」
漆間の妨害にもめげず、金髪はなお彼女の個人情報を引き出そうとしている。
「じゃあさ、どこの隊入ってるか教えてよ。A級だったりする?」
「それも守秘義務だから」
本当のところ、居住や所属部隊を明かす程度さしたる問題ではない。だがこの金髪はあきらかに六田に下心があるし、のちのちストーカー化しても困る。
そもそも、ふだんから2人が同じ部隊であることは極力ふせるようにしている。漆間はその性格ゆえ、敵を作りやすく揉め事を起こしやすい。何かあった時に彼女に迷惑がかからないよう、配慮しているのだった。
「さっきからなんなんだよテメー。おれはこの子に質問してんだよ」
「しつけーな。ボーダーに関する質問は答えらんねーつってんの」
「あっ、もしかしてこの子の彼氏だったりする? 嫉妬してんだ」
「……クズから人助けすんのに肩書は要らねーだろ」
「あ?」
「誰がどう見たってクズだろ。ポイ捨てなんて今どき小学生だってしねー。ベタベタ手ぇさわったり、しつこく質問責めにすんのもアウト。……あんた、モテねーだろ」
言ってから漆間はしまったと思う。いまは六田がそばにいて、なるべく穏便に、平和に解決しないといけないのに──そう分かっていたはずなのに、口から出るのは煽り文句ばかり。ボーダーでみがいた舌戦の手腕が、ここぞとばかりに発揮されていた。
「っ……訂正しろ!」
「しねーよ。事実だろ」
すでに戦は始まってしまったのだ。こうなったら徹底抗戦するほかない。何を言っても言わなくても、この場をまるく収める道は、もう閉ざされているのだから。
顔を真っ赤にした金髪は、漆間に詰めより胸ぐらを掴み上げた。
「う、漆間くん……言い過ぎ、なんじゃない、かな……? 謝った方が……」
六田は争いを避けるためならば、思ってもないことを言える人間だった。その声はか細く震えている。見なくても分かる、いまにも泣き出しそうなのだろう。
正直なところ、襟元を締め上げられておりかなり息苦しい。しかし漆間は挑発的な笑みを浮かべて続けた。
「言い過ぎ、どころか……ッ、図星でしょ。当たってるから……フッ、怒ってんだ」
「っ……! てめえっ」
とうとう地面に押し倒された。必死にもがいても、腹の上の巨漢はびくともしない。トリガーなしでは反撃すらできない己の非力さが腹立たしい。
「もう一度言う、あやまれ。いま謝れば、特別になかったことにしてやる……」
なかったことに"してやる"だと──? 謝罪を要求してくるやつというのは、どうしてこうもみな偉そうなのだろう。これまで自分に苦言を呈してきた大人どもも、大体がこんな調子だった。
──漆間くん、謝りなさい。君が謝れば丸く収まるんだ。
──オレは、わるくねえ。
──市民を守るボーダー隊員が、同級生と揉めてどうする?
──間違ってんのは向こうだろ? なんでオレが謝んなきゃなんねーんだ。
こんな短気なヤツを──痛いところを突かれたぐらいで怒りくるうようなヤツを、守れっていうのか? そんなにえらいのかよ、市民サマってのは。
──ハア。きみはそれでもボーダー隊員か?
漆間の考えに呼応するように、教師の呆れた顔が鮮烈によみがえってくる。
あーうぜえ。お前らなんか、お前らなんか……
「ボーダーがいなきゃなんもできねーくせに……!」
それは禁句だった。三門市民に言ってはいけないことを、漆間はいま、口走ってしまったのだ。
「は、はあ? そんなこと言っていいわけ? ボーダーのやつってやっぱり俺らのこと見下してるんだ? 表では正義ぶってるくせしてよ……!」
金髪の背後から、坊主頭のわめき声が聞こえる。
「見下すも何も事実だろ。アンタらがそうやってオラついてられんのも、ボーダーが街の平和を守ってるからだろ。ボーダーがいなきゃアンタらはいまここにいねー。どっか別んとこで大将にゴマすって、こそこそ金魚のフンやってんだろ」
「ざけんなっ」
金髪の拳が天高く振り上がる。漆間は目を閉じ、任務の失敗を悟った。
(あー、ダメだ。やっぱりオレ、交渉とか向いてねー……)
その時である。
「はい、カットカットー! いったん休憩入りま~す!」
突如として威勢のいい関西なまりが割り込んだ。
「「「あ?」」」
「水上先輩……!」
見ればそこには、スマートフォンを横向きに構え、こちらににじり寄るオレンジ頭がいた。金髪は思わず立ち上がり、颯爽とあらわれた緊張感ゼロの場違い男を問いただす。
「おい、なに撮ってんだよ……!?」
「何って動画やけど。俺、動画配信者になろっかなー思て」
「は?」
「いやな、俺高3やしそろそろ進路決めなあかんくて。知っとる? 動画配信ってむちゃくちゃ儲かるらしいですわ。だから俺も動画とか撮ってみよっかな~って。……あっカメラ直った。はい。てことで、さっきの修羅場つづけてもらえます?」
「……!?」
「殴る時の構えっちゅーの? お兄さん筋がええなあ。ホンモノの不良かと思いましたわ」
「いや、さっきから何を言って……」
「うーんと、お兄さんはさっきのくだりをそのまま続けてくれたらいーんですわ。さあさ、そこの漆間クンに一発、ガーンと喰らわしたってや!」
「あ"?」
はずんだ声でまくし立てる水上に、不信感を示したのは金髪──ではなく漆間だ。
「ちょっ、なんなんだよアンタ」
なぜだかこちらに加勢してきた水上に、坊主頭は動揺を隠せない。ふだん自分からグイグイいくぶん、相手からグイグイ来られるとどうしていいか分からないのだ。
「どーもどーも。未来の動画王・水上敏志です。以後、お見知りおきを~」
水上は懐から何やら黒くて小さい紙を取り出すと、両手をそえ、うやうやしく2人に差し出した。漆間はその光景を見て思う。ボーダーに名刺ってあったんだ……。
「ん? アンタもボーダーかよ。おたくの後輩どうなってんだよ」
「やー、申し訳ない。後でシメときますんで」
「オイふざけんなオレは悪くねー」
すかさず抗議する漆間だが、その声は届かない。
「すんませんねえ……こいつ、えらい態度が悪いでしょ?」
「ホントだぜ全く。あーあ、ボーダーに苦情入れよっかな~」
「ちょお、堪忍してや~」
なんだってんだ、この茶番は……? はつらつとした喋り、イキイキとした瞳、敬語まじりのへりくだった態度──水上のふるまいは普段とはまるっきり別人で、漆間は若干の寒気をおぼえた。
「せや」
水上はわざとらしくポンと手を打った。
「俺、影浦クンや穂刈クンと同じクラスやねん。2人からも漆間クンのこと指導してもらうよう言うときますわ。あっ、なんならいまから呼ぼか?」
水上はスマートフォンを再度取り出すと、影浦の名前を表示してみせた。こう言ってはなんだが、影浦と穂刈はタッパがあり目つきが鋭い。ボーダーのことをよく知らない一般生徒からは、怖そうと認識されているのであった。
「いや、いい……アンタがコイツのこときっちりシメてくれんなら、それで」
「おっ、おう。だよな……」
急に怖気づいた2人は、水上たちに背を向け退却をこころみる。
「ちょい待ち!」
「「ハイッ!!」」
「これこれ、忘れモン」
水上が地面に散らばる空き缶をさし示すと、金髪と坊主頭は無言で顔をしかめた。
「よかったらコレ使い。お兄さんたちにあげるわ」
水上はスラックスのポケットから黒のナイロン袋を取り出すと、2人に手渡した。それはボーダー本部でのみ買える限定エコバッグだった。
かくして、裏庭の清掃活動は無事終了したのであった。
()内のキャラ:地の文のみ登場or出番少なめ
※より右のキャラ:本当に一瞬だけ登場する
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『謝罪』 水上・王子・隠岐(穂刈、影浦、村上、※細井・若村&三浦)
・パン屋からの帰り道、王子は水上に言いたいことがあるようで──?
・思うところがあった水上はクラスメートたちの元へ向かい──?
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『清掃活動にご協力ください』 水上・漆間、六田、モブ不良
・不良にからまれる六田を助ける漆間を助ける水上
※急~に世界観がマガ◯ン。
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【次回予告】
次回は名刺の謎を知る漆間、漆間とモブクラスメート、影浦とモブ店員、購買で話す海と天羽をお送りします。よろしくお願いします!