家庭教師ヒットマンREBORN!~守護する者~(仮題) 作:寺桜
第1話
沢田綱吉は困惑していた。
ただただ目の前に居る人物を見ている事しかできなかったのだ。なぜならその人物は自分がまだ赤ん坊だった頃に行方不明となり、正直死んでしまっているとすら思っていたのだから。
さらに言えばその人は敵陣で、憎しみと悲しみに溢れる眼で自分を見ていた。
「…姉ちゃん?」
「久しぶりね、綱吉。けれど貴方にとっては初対面と一緒だから、はじめましてが正解かしら?」
全ての始まりは14年前に遡る。
沢田家には家光、奈々、生まれたばかりの綱吉、そして綱吉の3歳年上に優奈がいた。
家光は当時から仕事のために長期的に家にはいなかったが、それでも可愛い盛りの愛しいわが子のためにできるだけ帰って来ていた。
「優奈は可愛いな、将来は奈々そっくりの美人になること間違いなし!
っは、そうなるとモテモテになって求婚者の列ができるんじゃないか。パパは認めないぞ!優奈はずっとオレだけの娘だ。」
「もう、あなたったら帰ってくる度に優奈ばかりかまって。ツナとも遊んであげて下さいよ。私はこれからお昼ご飯を作るから子供たちをお願いね。」
「お母さん、今日のご飯オムライス?ねぇ、優奈はねオムライスが良いの。オムライス美味しいから綱吉もきっと好きになるよ!それで優奈が食べさせてあげるの。お姉ちゃんだもの!」
綱吉は最近になり離乳食から普通の食事を食べれるようになり、単語ならば話す事が出来るようになった。ちなみに初語は「ゆう」だ。
そんな弟を優奈はとても可愛がり、お姉ちゃんだもんが口癖で常に一緒に居た。そしてその姉弟仲のいい二人をみて、家光も奈々も笑顔になり家族団欒と過ごしていた。
「ねぇ、あなた。夕方にはお仕事に行っちゃうのよね?」
「ごめんな奈々、あんまり長く居られなくて。オレが掘らなきゃいけない油田は世界各地にあるんだ。」
「仕方が無いわ、お仕事なんですもの。頑張って来てね。」
「お父さん、頑張ってね。綱吉は優奈が見てるから大丈夫だよ。」
夕刻、家光は仕事へと戻って行った。
奈々は少し寂しさを感じながらも気を取り直し、夕飯の準備をし始めふと醤油が切れている事に気がついた。夕食には刺身を用意しているので醤油は必要だ。
「あら嫌だ、私ったらお醤油買い忘れていたのね。どうしようかしら、でも急いで買ってこれば20分あれば帰ってこれるわよね。ツナは今お昼寝をしているし、優奈は良い子だから家から出ないように言ってテレビを見せておけば大丈夫。」
そうして、奈々は優奈に買い物に行ってくるが直ぐに帰ってくる。ツナが起きたら一緒に遊んであげて、と言って小走りで出かけて行った。
悲劇はたったその20分弱の間に起こったのだ。
光があれば闇があるように、表があれば裏がある。
奴等は待っていたのである。
たった20分?いいや20分も時間ができたのだ。
優奈は奈々に言われた通り、テレビを見ながら留守番をしていた。しかし途中で飽きたので自由帳にお絵かきをして、怪獣に立ち向かう自分と綱吉を描いた。その上に最近覚えた平仮名で『つなよしまもろゆな』と書いた。覚えたばかりで歪な上、少し間違ってもいる。正確には『つなよしをまもるゆうな』である。楽しい気分でできた絵を見ているとピンポーンとインターホンが鳴る。
「はーい!」
返事をしてからドアの前に置いてある台を覗き穴の下まで運んだ。いきなりドアを開けるような事をしなかったのは、普段から奈々に留守番の時に知らない人が来たらドアを開けちゃダメと教わっていたからだ。
台の上に乗り覗いてみると、知らない大人の男だった。
そして何故かこの人を家に入れちゃダメだと強く思ったのだ。
「こんにちは、お菓子の会社に勤める者なのですが今試供品をお子さんがいらっしゃる家庭に配っています。ドアを開けていただけませんか?」
その男はにこにこと笑いながらお菓子の入った籠を軽く持ち上げる。良い人の様に見えるが、優奈は家に入れちゃダメだという気持ちが強くなる一方だった。
「あのね、今お母さんお出かけしてるの。だから優奈お留守番してるから知らない人はお家に入れないの。」
「お留守番か、偉いね。じゃあ、お菓子だけでももらってくれないかな?お家には入らないからドアを開けてほしいな。ほら、美味しそうだろ。」
男はまるで絵本で見た『七匹の子山羊』の狼、『白雪姫』で小人の家までやってきた魔女。
「お母さんがダメって言ってたからダメなの!もうすぐお母さん帰ってくるからお母さんが良いよって言ったら開けてあげる。それまではダメなの!!」
どんどん押し寄せる不安、そして危機感。今にも泣きだしてしまいたかったが、リビングのベビーベットには綱吉が眠っている。お母さんはまだ帰ってはこない、早く帰って来てほしい、自分が泣いたら綱吉を起こしてしまう。下唇を噛みながら泣くのを我慢して強気に男へと言った。
すると男の表情が豹変し、いかにも危ない雰囲気が漂う。
「母親が帰って来てからじゃ遅いんだよガキがっ。」
ガチャッガチャッ!ガチャッガチャッ!!
強引にドアを開けようとし始める男。幸いにも鍵は閉まっているしチェーンもしてある。
お母さん早く、早く帰ってきて!怖いよ、怖いよ助けてお母さん。ドアを強引に開けようとする音を聞きながら、優奈は奈々の一秒でも早い帰宅を祈った。
だがそこで優奈は気がついた。奈々は確かにドアを閉めたし、優奈はチェーンを内側からかけた。だがそれはあくまでドアの話だ。庭に面した窓には鍵は閉まっていない。
「っ窓!」
小さくだが、それでも確かに言ってしまったのだ。たった三歳の女の子に、この状態で口に出すなと言う方が酷であるもの。
だがそれは残酷にも、外の男にも聞こえてしまったのである。
「そうか、窓か。」
そして走り出す音がする。
優奈も慌てて走り出すが大人に敵うわけが無く、優奈が玄関から走りついた時には既に男は窓を開けて侵入していた。そして男が手を伸ばす先には綱吉。
「残念だったな、ガキ。この赤ん坊はもらってくぜ。」
そうして手荒く綱吉を持ち上げる。それに驚いた綱吉は泣き声を挙げた。
「おぎゃー!おぎゃー!おぎゃー!」
優奈にはそれが綱吉が助けてと言っているようにしか聞こえなかった。男は綱吉を抱えて家を出ようとする。
「綱吉を離しなさいよ!」
そう言って男へと向かって体当たりをしたが、蹴り飛ばされて床に体をうちつける。服に着いていたお気に入りのイチゴのボタンが一つ何処かに行ってしまった。さらに男は追撃とばかりに優奈の頭を踏みつけた。
「全く、邪魔ばかりしやがって。予定より5分もオーバーしちまった。さてそろそろヤバいし目的達成したし帰るか。じゃあなガキ。」
優奈は痛みに耐えながら必死に考えていた。頭を踏まれているし、先ほどは蹴られたがこの男は手加減をしていると。だから優奈はこの前保育園に来た警察が防犯のために教えてくれた誘拐に違いないと思ったのだ。男の足が離れる瞬間思いついた。お金が欲しいなら綱吉じゃなくて自分でもいいはずだ。一か八かの賭けだった。
「綱吉じゃなきゃダメなの?」
「あ?」
「綱吉泣いてるし、痛い事すればもっと泣くよ。
優奈だったら泣かないし、お外いっても何にも言わないよ。だから優奈にした方がいいよ。」
「おうおう美しい家族愛だね、反吐がでる。だがガキ、お前の言っている事も確かだ。
いいだろう、お前が大人しく付いてこればこの赤ん坊は用無しだ。」
男はニヤリと嗤うと泣いている綱吉を床に置き、優奈の腕を掴んで歩きだした。
優奈は一度振り返ったが、男に約束した通り無言で男に付いて行った。