家庭教師ヒットマンREBORN!~守護する者~(仮題) 作:寺桜
ピッ…ピッ…ピッ…
「う、う~ん。」
規則的な機械音が聞こえる中、優奈は意識を取り戻しつつあった。しかし、眼を開ける事は無く、目蓋の下で眼球が動くだけだ。
ここは何処なのだろう、何故目蓋が上がらないのだろう。ぼんやりとしている意識の中で再び意識が沈みかけていた。
「カワイコちゃん、今日も診察に来たぜ。」
そう言いながら誰かが優奈のいる場所へと入ってきた。聞きなれない声で知らない人間が近くに居ると言う事に、条件反射で意識が覚醒する。ここは何処なのか、今自分の近くに来た人間はどういう人間なのか。
体に点滴や医療器具を付けられている。それに顔は…。
「私の顔!!?」
「うわっと!」
いつもの仮面の感触がせず、思わず勢いよく起きてしまった。慌てて顔を触る。仮面はしていないが、代わりに包帯が顔全体を分厚く覆っている。優奈はとりあえず素顔が出ていない事に安堵した。
それから周囲の状況を確認もしないで起き上がってしまった事に気づく。
「おはよう、眠り姫さん初めて肉声聞くけど綺麗な声だな。久しぶりだけど俺の事を覚えてるか?」
そこに居たのは、Dr.シャマルだった。リボーンの知り合いで有能な闇医者、医者としてはもちろんの事暗殺者としても一流の男だ。たった一度しか会った事が無かったので、直ぐには思い出せなかった。
だが何故シャマルがここに居るのだろう。落ち着いて部屋を見れば、ボンゴレと繋がりのある病院の一室だ。何度か部下が入院して世話になっているので間違いない。声を出そうとしたら、長く声帯を使っていなかったようで咽てしまった。シャマルが水を差しだし、優奈は喉が潤った所で今度はなめらかに質問できた。
「シャマル、だよね。私どうしたの?それに何で仮面じゃなくて包帯なの?」
「あー、その前に俺から質問してくから答えてくれ。自分の所属場所と名前は?」
「ヴァリアー所属、幹部候補生の雌獅子。」
「今現在、体に違和感を感じてるか?」
「体が鈍っているように感じる。それと切り傷の痕?が引きつるわ。」
「体は鈍って当然、3か月も寝たっきりだった。引きつるのは我慢だな。もう抜糸も済んでるし、そのうち綺麗に治る。野郎にはしないほど丁寧に縫ったし、縫い目なんてわからねぇよ。
…、なんで入院してるか分かるか?」
シャマルに聞かれて思い出す。優奈はザンザスに切られたのだ。怒り狂っていたザンザスを止める事なく、受け入れた結果が今の状態なのだろう。何度も何度も切られ、刺された。優奈はザンザスを救う事が出来ず、ただ大丈夫だと言いながら受け入れる事しかできなかったのだ。
「そうだ、ザンザスに切られて倒れたはず…。」
「俺はただの医者だから詳しい事は何も言うな。ただ前後の記憶がしっかりしてて、理由がはっきりと分かってんなら良い。
さて、俺からの質問はおわりだ。聞きたい事があるなら聞いて良いぞ、答えられる範囲で答えてやる。」
「ザンザスはどうなったの?」
「いきなり残念。それは俺じゃあ答えられない。」
シャマルは若干おどけながら手でバツを作った。少しでも空気を重くしない配慮だろう。
「それじゃあ次の質問。私の顔、どうしたの?」
「顔に怪我をしているかどうかなら、していない。雌獅子ちゃんを看る時に邪魔になったから衛生面も考えて外したんだ。
っと、そんな殺気立たないでくれ。顔は見てない、医者のプライドにかけて本人の承諾なくカワイコちゃんのトラウマを抉ったりなんてしないぜ、俺。
仮面を取るのも大変だったんだぜ、なんせ意識が無いのに攻撃してくれるんだもんよ。しかも大量出血しながら。神経をマヒさせても手を顔から外さないってどんな根性だよ。意識の無い雌獅子ちゃんに、必死で顔を見ないって話しかけて約束してようやく治療ができたんだ。後ろから仮面を取って、顔を見ないように包帯を巻いた。清拭は体はナース、頭は俺。
どう、納得したか?」
「シャマル、疑ってごめんなさい。見られてたら殺そうかと思った。後、気遣ってくれてありがとう。たくさんお世話になったみたいだね。
でもどうしてシャマルがボンゴレの病院に居るの?」
「雌獅子ちゃんがあのクソザンザスに刺された日、俺はちょうどリボーンに用事があってボンゴレに来てたんだ。そしたら雌獅子ちゃんがザンザスに刺されたって大騒ぎ!
他の幹部や雌獅子ちゃんの部下どもがザンザスを相手してる間に雌獅子ちゃんを救出して、ボンゴレの医師達が治療しようとしたんだけど、さっきも説明した通り雌獅子ちゃんったら意識ないのに攻撃してくるわけでよ。
そこでリボーンが俺に頼んだわけ、雌獅子ちゃん治療して欲しいって。で、説得して動かなくなった所で近くの治療室に運んで応急処置。そのまま病院に運んで手術して、刺されてから3カ月たちましたとさ。」
シャマルのおかげで優奈はだいたいの事情は把握できた。その後いくつかたわいない事を聞き、再び眠った。
次に起きた時にはベットの近くに新しい仮面が用意されていた。優奈は部屋や部屋の周囲に誰もいない事を確認してから包帯を取り、仮面を付けた。ボイスチェンジャーもバッチリだ。仮面を持って来てくれたのはきっとルッスーリアだろう。
やはり包帯よりも仮面の方が落ち着く。新しい仮面の付け心地に満足していると、ドアがノックされた。
「はい、どなたですか。」
「雌獅子ちゃん、入っていいかね?」
9代目の声だった。9代目が来る事は予想ができていたので、落ち着いて対応ができる。軽く身の回りを整え、返事をする。
「どうぞ。」
入ってきたのは9代目と9代目の雷の守護者だった。他の守護者もいたがドアの前で待機している。
「9代目、このような格好で申し訳ありません。なにぶん、先日意識がもどったばかりでして、病み上がりのためご容赦下さい。」
「いや、むしろこちらこそ申し訳ないね。さて、そうそうで悪いんだが雌獅子、君に聞きたい事がある。」
「はい、何でもお聞きください。」
「君はザンザスに刺され、今現在入院しているね。あの子は確かに乱暴者だが、気に入っていた君を傷つけた。何故そんなことになったのか聞かせて欲しい。」
優奈はどう答えたものか悩んだ。9代目の来訪は予想していたが、9代目や守護者のまとう空気がピリピリとしている。ザンザスの怒り、自分の知らない3カ月、そしてこの空気。きっとザンザスが何かをしたに違いない。ボイコットなどという可愛らしいものではない事は確かだ。
そんな中でバカ正直に自分の直感した事まで報告する義理はない。だから優奈は自分の身に起きた事実だけを話した。任務から帰ってきたら既にザンザスが怒り狂っていた事、部屋に入り止めようと試みるも無理だった事。
「ザンザスが怒り狂った原因となる理由はあの子は言っていたかい。」
「申し訳ありませんが、私は聞いていません。私が聞いたのは、その、大変失礼ですが9代目を殺してやるなどと言った事ばかりで。
私が知りたいくらいです。9代目、知っているのならばザンザスが今どうしているのかや原因を教えていただけませんか?」
自分から聞く事で原因など知らないとアピールしながら、逆にこちらから情報を引き出そうとしてみた。
「……。雌獅子ちゃん、落ち着いて聞いて欲しいんだが、君も予想しているだろうがあの子はクーデターを起こしたんだ。」
「クーデターをッ!」
優奈は予想していたとはいえ、まさか本当にしたとは思わなかった。となると9代目が無事なことと併せて考えるとクーデターは失敗に終わりザンザスは殺されたか、幽閉されたか、拷問されているに違いない。
「スクアーロからの報告では、君がザンザスにクーデターを止めるようにと説得しようとして怒りにふれたと聞いたが。」
スクアーロはそのように説明したらしい。ならばと優奈はスクアーロの話に乗る事にした。
「ザンザスはとても怒っていました。私が話しかけても声が届いていないみたいで、暴れられるばかり。怒りにまかせて口からクーデターを仄めかす言葉が発せられたので、ザンザスを止めようとしたのですが、私はご覧の通りです。」
嘘は言っていないので9代目の超直感に引っかからないはずだ。優奈が部屋に入って声をかけても聞いていなかったし、9代目を殺してやるとクーデターともとれる言葉を発していた。止めようとした。そこまでは何も嘘ではない。ただ言っていない事があるだけだ。
「そうなんだ。ヴァリアーのほとんどがこのクーデターにザンザス側として参加し、行動を起こさなかったのは君の部下達だけだ。君がザンザスに刺されたことで懐疑心がうまれたのだろう。
君の部下たちは優秀だから、参加されていたらもっと被害が出ていたのは間違いない。ヴァリアーのほとんどに処分がいきわたり、今活動しているのは君の部下達だけだ。」
肝心のザンザスについて9代目は話してくれない。
「9代目、ザンザスはどうしたのですか?」
「ザンザスは、ザンザスは眠りについたよ。いつ覚めるかなんて分からない眠りにね。」
どういう事なのかは理解できなかったが優奈は大人しく頷くだけにとどめた。