家庭教師ヒットマンREBORN!~守護する者~(仮題) 作:寺桜
白い髪の青年が並盛を歩いていた。鼻歌を歌いながらマシュマロの袋を片手に食べ歩きしている。青年は本来、海外の高校に通っているのだが、夏休みに入り宿題など1週間で終わらせ暇になったのだ。
青年の最大の楽しみである世界が景品のゲームまで、まだ数年時間があり対戦プレーヤーの準備もできていないので何もする気が無い。ゲームは面白くなければならない。青年と同等のプレーヤーは後2人…いや、スペアを含めれば3人いる。スペアは所詮ただの代わりなので期待できないが。
青年が夏休みとはいえ、わざわざ並盛に来たのは訳がある。プレーヤーの1人の所在確認のためだ。あの人はよく死んでいたり、生まれてこなかった事もある。あの人がいた世界はとても刺激に満ちていて、あの人のいない世界はとてもつまらなかった。
とある世界で我慢が出来なくなった自分が世界征服にのりだしたが、最大の敵は自分と同年代のあの人だった。その世界のあの人はスペアを守れなくて半分壊れていた。敵同士なのに自分と似ていた。あの人は半分壊れていて、自分は半分狂っていた。どこかおかしい者同士で、いつも何も意味が無いばかりの世界があの人と相対する時だけはとても鮮やかになる。
もう1人のプレーヤーのあの子は、その世界ではあの人の心を守っていた。守るべきものがまだあるからあの人は半分正気でいられる。
正直、邪魔だ。
完全に壊れてしまったあの人と対戦してみたいのに、あの子が居るからそれができない。何度暗殺しようとしたことか。けれどそれらの全てはあの人によって防がれてしまった。表では世界をめぐって争い、裏ではあの人の心の砦を破壊できるか守り切れるか競ってるのだ。なんて羨ましいのだろう。
それでもこの世界の自分が動き出さないのは、あの人が何処に居るかまだ分からないからだ。それさえ分かればこんな退屈な日々を送る事なんて我慢できない。
表から裏まであの人の事を調べ上げたが、誘拐されてからの足取りが綺麗に消えている。さらったのは間違いなく裏の住人だと分かるが、消されたデータは完璧に破壊されて復元すら不可能だ。これでは生きているのか死んでいるのかさえ分からない。
あの人がもし死んでいるのならば、スペアが成長するまで待たなくてはならない。生きているのならこの世界ではどうやって遊ぼうか。いつもは敵対してばかりだけど、手を組んでみるのも面白そうだ。信頼された所でスペアを目の前で殺したらどんな反応をしてくれるだろう。そうだ、殺す時はスペアだけじゃなくてあの人の親しかった人間を並べて殺そう。そうしたらあの人はどんな壊れ方をしてくれるか。
…
……
………
何はともあれあの人がこの世界で生きているのならば、どんな形でもスペアを守っているはずだ。近くにいて姿を確認できたなら良し、できなくても生死を判断できる何かが欲しいな。
青年は綱吉の家の前を通ってみたが、探し人の気配はしなかった。その事を残念に思いながらもとりあえず他の所も見て回る事にする。
考えながらマシュマロを食べていると、袋の中にはもう1つも残っていなかった。自分がマシュマロを良く食べる事を考慮し、パーティーサイズの袋を買ったのだが無くなったものは仕方が無い。コンビニで新たにマシュマロを買い、座って食べようと何処か良い所が無いか探す。
すると近くに並盛公園があった。公園なら親ようにベンチも設置されているはずなので、そこで食べる事にする。
日は傾いて既に夕刻だ。公園に入ると、意外な人間を見つけた。青年にとってはただのスペアである少年がブランコに座りながら俯いて考え事をしていたのだ。そして何故かスペアの友人や家庭教師の黄色のアルコバレーノがいない。
綱吉は公園で独り、考え事をしていた。家では子供たちや遊びに来る友人たちいるせいで、考え込む時間が無かったからだ。落ち込む時間が無かったと言えば良い事なのだろうが、骸たちの言葉が日常生活の中でふとした瞬間に必ず胸を刺す。
綱吉とリボーンは相談したうえで、骸達の話を他の人間にしない事にした。その場で聞いていた雲雀はもともと誰にも言う気は無いと断言されたので、自分達2人が黙っていれば誰にも知られる事は無い。
母親である奈々にまで黙っている事は辛かった。けれどマフィアとは関係のないところで生活をしている奈々に、攫われた後に優奈は人体実験をされて死んだなんて言えるはずが無い。リボーンは骸がまだ何か隠していると言っていたが、それが何なのかさえ分かるはずが無い。
今リボーンは骸からの情報で、もう一度優奈について調べなおしているらしい。それと連絡が取れない友人についても。綱吉の家庭教師になった時からリボーンは誰かと文通していた。書いてある事はすべてイタリア語で何を書いてあるのかさっぱりだったが、同封されていた写真は綺麗な花や子供たちの笑顔、オシャレな店や美しい景色が映っていた。
ビアンキが一度リボーンが手紙を書いている姿を目撃した時には心臓が止まるかと思った。何せ綱吉がいるせいでリボーンが自由ではないといって殺しに来たくらいだ。いくらリボーンが友人だとは言っても、あの強烈な愛人が黙っているわけ無いと思っていた。
ところがビアンキは自分の分の手紙も同封して欲しいとリボーンに頼んでいた。それを聞いた時にはどれほど驚いた事か。リボーンの友人が女性である事はなんとなく分かっていたのでビアンキに思わず「いいのか!?」と尋ねたほどだ。そしたらビアンキはあっさり良いのだと返してきた。
それ以来その友人の人が気になってはいるし、リボーンが心配なのも理解できるが、そんなことよりも姉である優奈の事を何よりも優先して調べて欲しいという感情があるのは自分が子供のせいなのか。
綱吉は自分を守って死んでいったという姉が気になって仕方が無い。優奈は今現在ヴァリアーで生きているが、骸があえて勘違いをさせるような言い方をしたために綱吉は優奈が死んだと思っている。
「オレってやっぱりダメな奴だな…。」
「何がダメな奴なんだい?落ち込んでいるみたいだけど君、大丈夫?」
ただの独り言に返事が返ってきて驚いて顔をあげた綱吉。綱吉の眼の前には白い髪の青年が立っていた。独り言が聞かれた事に羞恥を覚えつつ、話しかけずにそっとしておいて欲しかったというのが本音だ。
青年は綱吉の許可も取らずに隣のブランコに座りマシュマロを食べ始めた。皆の公園なので綱吉に許可をもらうというのも変な話かもしれないが、青年はブランコから動く気配が無くこのまま居続けるようだ。独りで考えたかったのにもうできない。すでに夕方なので帰るタイミングとしては良かったのかもしれない。
綱吉はブランコから立ちあがった。
「待ちなよ。」
「え?」
「何か悩み事があるんでしょ。僕はただの通りすがりだから、話を聞いてあげられるよ。どうせ周りの人には相談できずに1人で考えてたんだろ。
そう言う時はいつまで経っても答えなんて出ないから、関係無い第三者にでも悩み事を吐き出しちゃいなよ。」
すべてお見通しというような話し方にイラッときて「何がわかるんだ」と青年に言おうとした、が青年はゾッとするほどに真剣な顔つきだった。
綱吉は青年の迫力に負けて、少しづつ優奈の話をはじめる。もちろんマフィアだ人体実験だという事は別の言葉にすり替えて。
自分を庇って行方不明になった姉がいたが、最近姉の行方を教えてくれた人がいた。その人いわく姉は攫われた先で虐待されて死んでしまったらしい。その人が教えてくれるまで自分を庇った事も酷い事をされていた事も知らなかった自分が嫌になった、そんな感じで簡単に説明をした。
青年はまるで自分に関係があるかのように真剣に聞いてくれた。特に何かを言ってくるわけでもなく、ただ相槌をうって話し終わるまで聞いてくれるだけだったが、綱吉にとっては何よりもありがたかった。
「オレは何で知ろうとしなかったんだろうって思うんだ。」
「そっか、知らないうちにお姉さんが君を庇って死んだことが悲しいんだね。」
「うん、すっげえ悲しいんだ。母さんから話を聞いた事くらいしか無かったのに。」
「それで君はどうするの?」
「え?どうするって?」
「これからどうするかが、君にとっては大切なんじゃないかな?」
「これから…。」
綱吉は自分の掌を見つめる。
そうだ、自分はまだ何もしていない。知らなかったんならこれから知れば良い。きっと今からでも遅くは無い。そうと決まればさっそくリボーンにでも調査結果を聞いてみよう。
「ありがとうございました!オレ、自分がどうすればいいか分かった様な気がします。それじゃあ、さようなら!!」
綱吉が立ち去るのを最後まで見届けた後も、青年はその場でマシュマロを食べ続けた。日はすっかり落ちて周囲は真っ暗だ。公園内の街頭の明かりが灯る。袋の中身が無くなるとグシャと握りつぶした。
「死んじゃってたんだ、あの人。じゃあスペア君、じゃなかった綱吉君が成長するまで待たなきゃね。
調べてもなかなか分からなかったのは死んでたからなんだ。それじゃあ、しょうがないね。でも教えてくれたって言っていたけれど、誰からだろう。そこは引っ掛かるかな。」
青年は自然と胸に手をあてていた。
「なんだか元々胸に空いていた穴が大きくなった気がする。
……あぁ、そっか。思ってたよりショックだな。会うのを楽しみにしてたのに。」
もう一度だけ相対する事を楽しみにしていたプレーヤーを調べ上げ、やはり表も裏も分かった事は行方知れずのままという事。ボンゴレが最近隠蔽したニュースとして、スペアが骸と戦い勝利した事はわかった。だがそんなものは、他の世界でも何度も起こっている事なので青年には新鮮味など無かった。
「つまらない、つまらないな。退屈だよ、君のいないこの世界は。」
何度もつまらない、退屈だと呟きながら青年は自分の国に帰国した。