家庭教師ヒットマンREBORN!~守護する者~(仮題) 作:寺桜
優奈は男に連れていかれた。逃がさないとばかりに強く握られた腕、踏みつけられていた頭や蹴られた腹が痛いが、それでも何も言わなかった。男に連れていかれた先には一台の黒い車が止まっていた。一般の車とは違い中をガラスからは見えないようになっている。
「乗れ、ガキ。」
そう言って車に押し込まれた。車のドアが閉じたとたん、男に目隠しをされた。
「ガキ、これからちっとばかしお寝んねしてもらうための薬を嗅いでもらうが暴れんじゃねぇぞ。お前が暴れた時点でお前じゃなく赤ん坊が酷い目に遭うぞ。」
男が言った事ははったりである。今から沢田家に戻れば既に奈々が帰宅していても可笑しくは無い時間だ。もし仮に綱吉を酷い目にあわせようと戻ったとしても、近隣住民に姿を見られる危険性がある。
優奈は男が言った事は嘘だとなんとなく分かったが、何故かはわからない。ともかく嘘だとわかったのだ。しかし、家からこの車までそう離れていなかったため、綱吉の安全を考え大人しく男の言うとおりに行動した。嗅がされた薬で意識が遠のくなか、綱吉が泣きやんでいると良い、きっとお父さんとお母さんが助けてくれる。そう思いながら意識を手放した。
並盛から一台の黒い車が去って行く。
その様子を一人の男の子が睨みつけていた。その男の子はただ並盛に相応しくないと強く思ったが、これから出ていくと分かり興味を無くした。
優奈が眼を覚ますとそこは見慣れぬ場所だった。沢山のイスが並んでおり、何かの乗り物の中の様だ。一瞬、大きなバスかとも思ったが違う。隣を見る自分をさらった男がニヤニヤしながら知らない言葉で電話で誰かと話していた。聞きたい事はたくさんあったが、とりあえず電話が終わるのを待っていた。優奈は電話の時に奈々に話しかけると後でね、っといつも言われていたからだ。男は優奈が起き来た事に気がついたようだが、優奈が騒がないと分かると電話を続けた。
「~詳しい取引の場所は担当のものが改めて折り返しお電話させていただきます。
…、ようガキ、眼が覚めたか。騒がなかったのは褒めてやるぜ。」
「優奈お兄さんと約束したから、静かにしてたよ。ねぇ、ここどこ?優奈のお家にお金ちょうだいってするんじゃないの?」
男は外見は25歳ぐらいだが、優奈にしたらおじさんである。それでもお兄さんと呼んだのは、八百屋でアルバイトしてるおじさんにおじさんと呼んだらショックを受けていたので、それ以来家光より年上の人しかおじさんと呼ばないようにしていたからだ。
「おうおう、その歳でオレをお兄さんって呼ぶとは分かってるなガキ。お前ならキャバ嬢でも行けたかもしれねぇな。オレは今気分が最高に良いんだぜ。何つったってガキ、お前のおかげで金がいっぱい手に入ったからな。
ついでだしお前の質問にも答えてやるよ。ここはイタリア行きの飛行機の中。そしてお前の家に金なんか請求しねぇよ。他の所からがっぽりいただいたからな。」
「飛行機の中?
優奈お家に帰れないの?お父さんとお母さんがお金あげたら優奈帰れるんじゃないの?イタリアってどこ?」
「あぁぁぁああ!ごちゃこちゃ五月蝿いんだよガキ。もう黙ってろ。せっかくの気分がお前のせいで台無しだ。
とにかくお前は帰れないんだよ!それが分かったら口閉じて寝てろ!!」
帰れない、それは優奈の心では受け止めきれなかった。保育園に来ていた警察の人は言っていた。もし悪い人に連れていかれて誘拐されても、お父さんとお母さんがその人にお金をあげれば帰ってこれるのだと。そしてその後悪い人は捕まってお金は帰ってくるのだと。
優奈の行動の全ては帰れる事が前提としてあったのだ。怪我をしても大丈夫、帰った後に病院にお母さんと一緒に行くから。綱吉は床で泣いていたけど大丈夫、帰ったらいっぱい遊んで泣いた分だけ笑わせるから。今は怖いけど大丈夫、帰ったらお母さんに綱吉を守ったよって言って褒めてもらうから。
今、その前提が覆された。優奈の中で何かにヒビが入った。何かとは「帰宅」という平凡な希望だったのかもしれない。
優奈は耐えた。耐える事しかできなかった。
飛行機はイタリアへ到着し、優奈は男の仲間へと引き渡された。それからの数日間、優奈は一日に一度だけもらえるパンと水だけで生き延びた。男の仲間たちは優奈を指さしながら何かを話し合っているが、何を話しているのかなんて相変わらず分からなかった。ただ覚えた単語もある。食事・トイレ・寝るそれだけは覚えた。
経過していくだけの日々の中で、ヒビ割れていたそれは砕け散っていってしまった。
優奈の中で大切なモノの一つが消え去ったのである。
ある日優奈は少し豪華な服を着せられ、大型の動物を入れるような檻に入れられた。
服はサイズが合わずブカブカだし、檻の中にはところどころ赤黒いシミがあった。お腹がすいているのが日常になっていたのに、その日の朝は何故かパンにミルクにスクランブルエッグと言う豪華な食事だった。檻に入れられてからも昼食としてパンと水が出され、周りが何を言っているかなんてわからなくても今日何かがあることは一目瞭然だった。
その日の夕刻、優奈を連れ去った男と久しぶりにあった。優奈な勇気を出してその男に聞いてみた、今日何があるのだと。
「今日何があるだと?ガキ、お前何で知らないわけ。オレが話さなくたって周りがペチャクチャ話してただろうが。」
「だって優奈、お兄さんと優奈の言葉以外分かんないもん。」
「そういえばそうか。お前にも分かるように説明してやると、お前はこれから来る人達に買われたの。ガキがコンビニで金払って菓子を買うように、オレにこれから来る人達がお金を払ってお前を買ったんだよ。」
「優奈、お菓子じゃないから食べれないよ。」
「ハハハッ!別の意味で喰われるかもしれねぇけどな。まぁそんなこと知ったこっちゃねぇ。明日からお前はこれから来る人の言う事聞いてりゃ良いんだよガキ。
おっと、そうこう話してるうちにお前の新しい飼い主が来たぜ。」
男はそう言うと優奈から離れて新たに来た男達と話し始めた、そのはずだった。
バンッ! バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
男は新たに来た人たちに銃で撃たれてあっけなく死んだ。男の仲間たちも何が起こっているか確認する前に死んだ。みんな頭や胸に紅い変な花を咲かせていた。
優奈にとってそれは初めて見る『死』だった。紅い変な花が血であると分かるまで数秒かかった。それほどまでに男達はあっけなく死んだのである。
男の名前なんて知らないし、聞いたことも無かった。
男の事を優奈は好きではなかった、むしろ嫌っていた。それでも男は唯一優奈と会話をしてくれた、日本語を話す人であった。それだけの存在のはずなのに眼からは涙がでた。