家庭教師ヒットマンREBORN!~守護する者~(仮題) 作:寺桜
第4話
新たな男達に連れていかれた優奈。名も知らなかった男へと流した涙はいつの間にか止まっていた。涙が止まると、心も随分落ち着いた。そこで優奈はこの新たな『飼い主達』を観察することにした。
スーツを着込んでいる大人がだいたい十人、そして一人だけ白い白衣を着た男が居た。白衣の男はスーツを着た人達より偉いらしく、指示をだしたり怒鳴ったりしていた。
これからどうなるのだろう、そんなことをぼんやりと考えた。名も知らぬ男に誘拐されてどれくらいの日数が経過したのか、優奈は知るすべが無かった。
帰りたい、と今でも思う。こんな怖い世界など知りたくなかったと。朝お母さんに起こされ綱吉におはようの挨拶をし、保育園に行って友達と遊んで、夕方にはお母さんが綱吉と一緒に迎えに来てくれて、たまにお父さんが帰ってきてくれて綱吉と遊んで、そしたら晩御飯ができてて美味しくて、綱吉にお休みの挨拶をして眠る。そんな毎日が大好きだったのだと、檻の中で思う。
綱吉、綱吉は元気かな?最後に見た可愛い弟は床で泣いていた。乱暴にされていたが本当に怪我は無かったのだろうか、ちゃんとお母さんに会えただろうか、今笑ってくれているだろうか、そんな事ばかり思いながら怖い世界から自分を守った。
飼い主達は檻をトラックの荷台に入れて運んだ。トラックはスラム街を通り抜け、やがて真新しい研究施設の倉庫へと入り停車した。優奈は檻から出され、腕を掴まれて無理やり歩かされた。
連れていかれた先には質素な服が置いてあり、連れて来た男が質素な服を指さして何か言っている。多分着換えろという事なのだろうと見当をつけて、今まで来ていた豪華な服を脱ぎ着換えた。するとまた腕を掴まれて歩きだす。優奈が抵抗する事も無かったためか、先ほどより腕は痛くない。
廊下進む時に何人か優奈と同じように、質素な服を身に付けた子供とすれ違った。そして通り過ぎる部屋から子供の叫び声が聞こえる事もあった。この施設にはやたら白衣をきた人間が多かった。これから何をされるかなんて分からない、けれどきっと痛い事なのだろう。ここの大人は皆嫌な感じがする。
着いた部屋には白衣の大人が何人もいた。そして部屋の中はまるで病院の手術室の様だった。優奈はベットにベルトで固定されて、頭にはヘルメットみたいなものを着けられた。
初めにいきなり採血をされた。優奈は注射は嫌いだったが普段は優しい看護婦さんがやってくれるので、保育園では珍しく泣かない子として有名だった。優奈の心の準備ができていたのもある。だが、今回はいきなりだったので少しだけ涙目になってしまった。
その日はひたすら採血され周りの大人がワーワー何かを言っているだけで終わった。体はフラフラで頭はクラクラするが、自分に大丈夫だと言い聞かせた。その後また別の部屋へ連れていかれた。
そこにはたくさんの子供たちがいた。みんな優奈と同じくらいの年頃で、みんな質素な服を着ていて、みんな誰も笑っていなかった。
優奈は嬉しかった。自分が独りだけで無い事が嬉しかったのだ。
思わず笑顔になった。思い切って近くの子に話しかけてみた。
「私、沢田優奈って名前なの。よろしくね。
ねぇねぇ、お名前なんて言うの?優奈はね、並盛から来たんだよ!」
話しかけてみた子はチラリとこちらを見ただけで、何も言ってはくれなかった。それでも構わず優奈は話し続けた。優奈が話しかけた子は日本人ではなく、中国人の子供だったので向こうからしたら訳の分からない事を新人が一方的に話しかけてくるだけだったのだが。
優奈が一人で話し始めて数十分後、部屋にまた一人子供が帰って来た。その子供は泣いていた。それでも必死に声を押し殺そうと我慢しているようでもあった。
優奈は駈け出してその子を抱きしめた。
そして頭を優しくなでていた。
「大丈夫、大丈夫だよ。優奈が一緒に居るよ。」
抱きしめた子供は一気に泣きだした。声をあげながら、我慢していたものを吐き出すように。それを見ていた他の子供たちも泣き始めた。優奈そんな子供たちに手招きをすると近付いてきた子の頭も優しくなでた。
優奈には泣く子供たちが家に残してきた綱吉と被って見えたのだ。そして、誘拐される直前に泣く事を我慢していた自分にも。だから何があったかは知らない、きっと痛い事をされたのだろう。そんな事しか分からないが怖いと思う気持ちなら分かる。自分はあの時、お母さんに抱きしめてほしかった、撫でてほしかった、大丈夫と言って欲しかった。
だから優奈は今、して欲しかった事をするのだ。
少しでも子供たちが笑えるように。
自分はお姉ちゃんだから。
年上の子がいても自分がお姉ちゃんだから。
そして優奈は歌を歌った。『きらきら星』を日本語で歌った。
子供たちはやがて優奈を中心に穏やかな顔をして眠りについた。
翌日からも優奈は採血ばかりされた。頭に装置をつけられたり変な薬を飲まされたりしたが、基本的に痛い事はされなかった。だが、他の子は違うようで部屋に帰ってくると傷が増えている子や、腕や眼を失った子もいた。
優奈は帰って来た子一人ひとりを抱きしめて「お帰り」と言った。そしてみんなに眠るときはきらきら星を歌ってあげたのだ。
数日経つ頃にはみんな日本語のきらきら星を歌えるようになっていた。大きな声で歌うと大人に怒られるので、小さな声でひっそりとだが。数ヵ月後には子供たち同士でも話すようになった。初めは言語が一緒だったり似ている国の子とばかりだったが、次第に全く違う国の子とも話すようになった。色んな国の言葉をみんな覚えた。部屋はいつの間にか戻る場所ではなく、帰る場所へとなっていた。
優奈はいつでも人気者だった。誰もが優奈と一緒に居たがり、眠るときにはどれだけ優奈の近くで眠れるかで争われていた。でも暗黙のルールでその日痛い実験をされた子や、体の何かを失った子は一番近くで眠れた。
だから子供たちは耐えられたのだ。どんなに痛くても、苦しくても、部屋に帰れば優奈がいる。優奈に抱きしめてもらって、頭を撫でてもらって、そして優奈の隣で眠る。それが子供たちの希望になっていた。
「ユーナ姉ちゃん、おはよう!朝だから起きろユーナ姉ちゃん!」
「ジョン、おはよう。もう朝なのね。」
「ユーナ姉ちゃん、今日のご飯は何かしら。最近はパンと水ばかりだからハムが食べたいわ。」
「リーフェ、きっと今日もパンと水だよ。だって美味しいものは全部大人が食べちゃってるんだもん。」
「ユーナ、今日も実験頑張るからそしたら隣で寝ても良い?」
「いいよトニー、だからこの部屋にちゃんと帰ってきてね。」
優奈自身も他の子供たち同様に色んな国の言葉を覚えた。ここがエストラーネオ・ファミリーというマフィアだと知ったし大人たちが言っている事も分かるようになった。イギリス出身の8歳のジェームズに読み書きも教えてもらった。
痛い事も苦しい事も友達、いいや家族がいるから乗り越えられた。明日なんて考えられないけれど、それでも今日を精一杯生きていた。
今日も優奈は採血をされ、変な薬を飲まされ、良く分からない検査をされて部屋へ戻ってきた。けれど最近、ビージとヨッバという二人の研究者が何処を切るか話しあっているのを聞いた。近々とうとう何処かが無くなるらしい。
いよいよか、と体のどこかが無くなるにしてはのん気に思いながら部屋へ帰ると、みんなが悲しそうな顔をして優奈を出迎えた。
「どうしたの?みんな悲しい顔をして。誰か暴れてご飯抜きになったの?ジェシカ、教えてよ。」
「ユーナ、トニーがね、体をたくさん採られちゃったの。足は2つとも、眼は1個、お腹の中は何個かわかんない。」
優奈は慌ててトニーのもとへ駆け寄った。ジェシカが教えてくれたように、トニーはたくさんの物を失っていた。今日、優奈の隣で眠るのはトニーに決まった。
夜、優奈はトニーを抱きしめながら歌った。みんなもトニーのために歌った。トニーはきっと明日まで生きられないだろう。みんな分かっていたはずだった。これまでにもそういう子供は何人もいた。けれど、特に何も思わなかった。だって自分の事で精一杯だったのだから。
優奈が来てから全て変わった。ただ毎日を無駄に生き、できれば苦しくないように死にたいと思っていた。でも、今ここに居るのは家族だ。そして今日、家族が一人死ぬ。
朝、トニーは優奈の腕の中で冷たくなっていた。
せめてもの救いは、その顔は決して苦渋に満ちていない事だった。
トム→トニーに変更
次回原作キャラ登場