家庭教師ヒットマンREBORN!~守護する者~(仮題) 作:寺桜
イタリア 病院VIP室
家光はリング戦の行く末を案じながら、9代目の目が覚めるのを待ち続けている。今、自分の息子である綱吉は命をかけて戦っている。この戦いに負ければ、遠くないうちに死ぬ事になるのは間違いない。
本来なら干渉することはできなくとも、応援しに行くべきなのだろう。だが、家光はイタリアの地から離れられない。忠誠を誓った主とも言うべき人が眠り続けているためだ。
自身の子供より主をとったのだ。酷い親だという自覚はある。
せめて遠くの地からでも見守ろうと、随時部下に報告をさせている。もしも9代目の目が覚めていれば、日本へと行く決心がつける事ができたのに。
もしもなどあり得ない。それでも言わずにはいられない。
病室に響くのは9代目の生存を告げる機械音。ベットに視線をむければ、そこには死人と見紛うほどの顔色をした9代目。呼吸をしてはいるがそれはあまりにも浅く、微かに聞こえる程度だ。機械音によってでしかこの人の生を確信できない。
「……早く目を覚まして下さい、9代目。貴方には聞きたい事が山のようにあるんです。
それにどうして貴方は2人居るんですか?貴方は、本物ですか?」
家光は超直感にあまり優れていない。全く無いというわけではなく、極稀に、確信の様な直感をする事があるという程なのだ。後は他の人間となんら変わりない。人の嘘を見抜く事も出来るが、それは経験則によるものが大多数を占めている。
ここ数代、沢田家はそれが普通だった。
逆におかしいのは優奈と綱吉である。あの2人は、伝説として語られるⅠ世と同じように超直感に優れている。いわゆる先祖返りなのだ。
家光は知らないが、彼が目覚めを待ち続けているその人は雌獅子が用意した影武者だし、本物である9代目も家光が思っているほど超直感に優れているわけではない。せいぜい人の隠しごとを頻繁に分かる、ぐらいだ。
凡人からみれば充分にすごくても、過去の歴代ボンゴレボスに比べれば大した事が無い。仲間の危機を遠く離れた地で察知するわけでもなければ、幻覚を完全に見抜くわけでも、未来の敵が事前に分かるわけでも無い。
ただ隠し事が分かるだけだ。これはボンゴレボスの基本的スキル、言ってしまえば基本しかできていないと言える。それでも平和な時代ならば充分と言えたのだろう。
……あんな計画さえたてなければ。
うつら、うつらと家光に眠気が襲う。ここ数日ろくに眠っていないためだ。せめて今読んでいる書類に目を通してからと思ったがダメそうだ。9代目も目を覚ます気配さえ無いので一度仮眠を取ろうと立ち上がった。
「9代目、また直ぐに戻ります。」
ため息を1つつき、扉に手をかける。
「う…うぅ……。」
「!!?」
まさに部屋を出ようとした瞬間、確かに9代目が僅かに目を開ける。急いで9代目の元へ戻り、手を握った。
「9代目、目を覚まして下さい!オレです、家光です!!」
「家…み……つ?」
「そうです9代目!」
家光の大声に廊下で待機していた部下たちが部屋に入って来る。1人はナースコールの存在を忘れてナースを呼びに行き、もう1人は家光と同じく9代目の傍へと来た。
喜びに涙を浮かべる家光を見た9代目は、淡く笑った。
「そうか、私は任務を遂行できたんだね。良かったと思うと同時に残念だよ家光、君は最後まで気付かなかったんだから。」
「どういう事だ…。」
「クックック、まだ分からないのかい?きっと分かりたくないんだね。
僕は影武者さ!」
「何だと!? おい!どういう事か説明しろ!!」
家光は怒りにまかせて影武者の襟元を掴み、揺すった。目を覚ましたばかりの病人に対するしうちでは無い。けれど我慢ならなかった。そんな怒る家光を、影武者は呼吸できずに苦しみながらも、哀れなものを見る目でみつめた。
「ぐっ、あの御方と何度も会って…いるのに、分からないなんて超直感がき…いて呆れる。」
「訳のわからない事を言って煙に巻くつもりか!?そうはいかない。もはや9代目ではないと分かった時点でお前は尋問室行きだ!」
影武者は部下たちによって、無理やり連行させる。家光は早々に身支度をすませ日本行きのチケットを取った。家光は自分の居場所を9代目の傍らだと決めている。だから彼は日本に向かう。今度こそ本物の9代目と共にあるために。
影武者は今まさに命尽きようとしていた。もともと原因不明の病で限界が来ていたのだ。執務室で倒れていたのもそのためだ。どうやら家光に揺さぶられたのが止めとなったらしい。
それでも悔いは無い。この命を雌獅子のために使う事が出来たのだから。未練はある、雌獅子の生きてゆく道筋を最後まで見届けられなかった、恩人である彼女に何も返せなかった。
家光に、あえて自分が影武者であることを告げ、もしかしたら気がついているかもしれないと確認してみたが、全然ダメだ。気がついていない。気がついていたのなら確信に変えてやるつもりだったが、彼は最後までダメだった。気がつかなかった。
だから全てを黙したまま天へと旅立とう。
それが僕から家光へ嫌がらせという名のプレゼントさ。
死人に口無し、だ。
日本 並盛
闇が深まるばかりの夜、2人の男が並盛中へと向かっている。
1人は介護用ストレッチャーに乗せられて運ばれる男、1人は片手に巨大な鉄球もう片手にストレッチャーのグリップを持って移動する男がいた。
ストレッチャーに乗せられている男は全身を包帯だらけでミイラのようだ。しかし包帯の間から見える眼はギラリと鋭く、一般人には聞こえなくされている戦闘音がする方向を睨みつける。
運んでいるもう1人の男は、今回の騒動の真実は何も知らない。しかし興味も無いので構わない。ならば何故向かっているかといえば、2人の恩人に借りを返しに行くためだ。運んでいる人物に対しては荷物の運搬ぐらいにしか思っていない。
荷物である男からの殺気は鬱陶しく何度かこのまま置いて行ってやろうかと思ったが、近隣住民の迷惑だと自分を説得した。
運ばれている男の名はスクアーロ、運んでいる男の名はランチアだ。
ランチアは一度は復讐者に投獄されたが、ある日突然解放された。ある人物によりオレの罪は清算されたのだと。意味が分からなかった。誰が勝手にオレの背負うべき罪を消したのだと憤った。例え骸に操られていたとしても全ては自分が背負うべき罪なのに!
一通りの怒りが収まると、ランチアは直ぐに自分が殺してしまった人々の遺族を訪ねてまわった。すると驚くべき事に、誰もがスラムの貧困層に陥る事無く生活をしていたのだ。調べまわっている間信じる事が出来なかった。どんな形であれ、必ず難しい事態になっていると予想していたのだ。
震える声で遺族たちに自分の罪を告白し、貴方達には自分を罰する権利があるのだと言った。初めは皆ランチアを責め立て、貶し、泣き叫んだ。当然だとランチアはその全ての感情を受け止める。
けれどしばらくすると、許されてしまった。
許されてなど良いはずが無いのに。
遺族たちは語った。自分達は救われたのだと。一家の稼ぎ頭を殺され、路頭に迷うのも時間の問題だったその時にあの人は現れた。そして今回の件は自分の家族が関わっている、だから責任をとる。そう言って本当に何もかも背負ってくれたのだ。
お金はもちろん、行き場のなくなった心まで。
恨んでいないと言えば嘘になる。けれどこの世が弱肉強食だという事くらい知っていた。行き場がなかった荒れ狂う怒りも悲しみも嘆きも、あの人が受け止めて優しく包んでくれたから今、前へと進んでいる。
前へ進めたからランチアを許すのだ。
許されたランチアは1週間、どうすれば良いのか分からなくなっていた。自分がするべき事が何も無くなっていたから。
ぼうと空を眺めていたある日、遺族の女の子がランチアに話しかけてきた。
女の子の父親はランチアに殺された。けれど女の子はあまりにも幼かったため、父親の面影すら覚えていないらしい。
「でもね、覚えてる事もあるの。パパはいっつもお酒ばかり買ってきて、ご飯は一回も買って来た事なんて無いの。だからママも私いっつもお腹ペコペコだったわ。パパが死んでからもペコペコで、私も死んじゃうと思ってたの。
そしたらね、あのお方が来てくれたわ!はじめはママはずっと怒ってたけど、あのお方は毎日お金とお薬とあったかいご飯をくれたの。そのうちママもニコニコになったわ。
毎日ご飯を食べれて、学校に行けて、心がポカポカするの!フワフワ飛んで行けそうなの!
私、パパが生きていた頃よりもずっと幸せだわ!
だからもう、おじさんもおじさんを許してあげなよ。」
そう言って女の子が笑った瞬間、ランチアは泣いた。
ここに来た当初、罪を奪われたことに憤っていた。しかし、それは償いたいという自分の都合でしかなかったのだ。もし仮にその人が現れずにいたのなら、きっと目の前の女の子はこうして笑う事などできなかっただろう。会う前に死んでいたかもしれない。
他にもたくさんの命が謝罪すら許されずに消えていたに違いない。操られていたせいで金の蓄えも無く、配給する食料も薬も、それを用意するだけの人脈も無い。何より傷ついた心なんてどうやって救えるのかなんて、予想すら浮かばない。
そいつが現れなきゃ、オレが来た時には全てが手遅れになっる。こんなことに今更気がつくなんてオレはバカだな、ただ遺族に会って謝ることしか頭に無かった。
オレの力じゃなくとも、多くの命が助かり、前を向いていてくれて良かった…。
遺族たちを巡って一段落した頃、手紙が届いた。綱吉を助けてあげて下さい、と書かれていた。ランチアはすぐさま日本へと向かう。綱吉は助ける。そしてまだお礼の1つも伝えていない恩人に会うために。
日本に到着し指定されていた隠れ家を出た時だ、スクアーロに出会ったのは。水揚げされたばかりの魚の様にストレッチャーの上で暴れていた。ベルトで固定されているのによくあそこまで動けるものだと現実逃避する。
目が点になりながらもスクアーロに近付くと、紙が貼られていた。
『これを並盛中に運んで来て下さい、夢の終わりを見せるために』
後半の意味が理解できなかったが、とりあえずスクアーロをストレッチャーごと運び今に至る。この荷物さえなければ今頃はとっくについているはずだったのだがしょうがない。
オレにはオレの事情があるように、こいつにはこいつの事情がある。それが紙に書いてあった「夢」なのだろう。
2人の男は並盛中にまもなく到着する。