家庭教師ヒットマンREBORN!~守護する者~(仮題) 作:寺桜
トニーが死んだその日から、家族が帰ってこなくなることが多くなった。一人、また一人と大切な家族が減っていく。新しい子もたくさん入ってきた。しかし家族になる前に部屋に帰ってこなくなる。
減っては増え、減っては増えが当たり前になっていく。
優奈は無力だった。それでも家族がいなくなるを黙って見ている事などできなかった。抵抗したし抗議もした、当たり前だ。優奈が来てからは、今部屋で暮らす子供はみんな家族なのだから。
だがそれは最悪の結果に繋がった。
優奈の日に日に増していく反抗的な態度を理由に、眼の前で数人の子供たちが殺された。そしてニヤニヤしながら様子を見ていたビージが優奈に言った。
「こいつらが死んだのはお前のせいだぞ。お前が反抗しなきゃあと数日は生きていられたのにな。そうだ、これからお前らの誰かが生意気な態度をとるたびに、眼の前で別のガキを殺そう。そうすれば以後は大人しくなるだろう?
そしてユーナ、お前が研究に積極的に協力するならガキ共へ何か支給してやる。」
「……、何かって何?」
「そうだな、例えば食事の回数を増やす、例えばパンにハムをつける、例えば痛み止めの注射をしてやる。どうだ?別にこの話を受けずにただ実験に付き合うだけでもいいんだそ。」
ビージは相変わらず気持ちの悪い笑みを浮かべながら優奈に問いかけた。優奈が断るなど欠片も思っていない顔だ。死んでしまった子供たちに心の中で何度も謝りながら、どうするべきかを必死に考えた。考えて考えた結果、優奈はこの話を受けようと思った。自分のせいで家族が死に、自分の行動一つで救われる家族もいる。優奈はお姉ちゃんだから家族を守るのは当然なのだ。だから優奈は迷わなかった。
「ビージさん、約束よ!」
次の日から採血や変な薬を飲む他に、戦闘訓練が始った。訓練がはじまるまで何をさせられるかと怯えていたが、ただ用意された大人と戦い傷を3か所つけろと言われた時はほっとした。
「あぁ、言い忘れていた。ノルマが達成できなかったらガキ共の夕食はいつもの半分の量にする。」
一瞬でも忘れていた、ここは地獄なのだと。
地獄の悪魔は優奈をいじめる。優奈を直接いじめれば良いのに、大事な大事な家族をつかっていじめる。
その日、優奈が戦いの中でつけられた傷はたったの一つ。夕食は半分の量でお腹が満たされるわけ無かった。優奈は自分のパンと水を全て他の子に別け与えようとした。でも断られ、逆にみんな優奈に自分の分をくれようとする始末だ。
みんなの優しさと、自分の情けなさに涙した。優奈は一つ心に決めた。誰にも言う事無く決めた。これから自分のせいで殺す子なんてださない。新しくきた子達もみんな守ってみせる。優奈の全部が無くなっても。それは、あまりにも自己中心的で、あまりにも難しく、あまりにも悲しい決意だった。
その日から優奈は変わった。子供たちに対しては相変わらず優しかったが、大人たちの認識はは完全に排除するべき敵になったのだ。戦闘訓練も昨日とはまるで動きが違った。
武器など持たされてはいなかったのに、自分の歯と爪でやすやすと大人に10ヵ所以上の傷を負わせた。これを見た研究者たちは大喜びでパーツにばらしてしまわなくて正解だったとご機嫌だ。ご褒美に何が欲しいかと聞かれ、パンにチーズかハムが欲しいと答えた。
優奈が研究に協力し始めてから3年。優奈は6歳になった。減れば連れてこられる子供がいるのは既にいつものことだが、3年前に比べれば減る子供の数が減った。それでも実験に耐えられなかった子供は死んでいく。家族が死ぬたびに優奈は涙を流して謝った。「ごめんね、ごめんね、守れなくてごめんね」と。
長く一緒に居る家族はもう、片手で数えるほどしかいない。ジョンとリーフェ、犬と千種。犬と千種は優奈がつけた名前だ。施設に来た当初、名前すら教えてくれなかったから優奈が勝手にそう呼び始めた。
今ではそれが名前だ。今では2人とも優奈姉さんと呼んでくれる。
ちなみに優奈には施設内で『雌獅子』と呼ばれるようになった。ひたすら群れのために餌をとってくる様は雌獅子そのものだと。そして皮肉をこめて雄獅子のいない群れなぞ怖くもなんともないと続く。
最近千種の体調が悪い。今日の訓練の報酬に千種を1日休養させることにするかと考える。普段だったら研究に対する口出しはできない。しかし今日は特別な訓練らしく、いつもより我儘でも聞いてもらえると言っていた。気合を入れて訓練室に行く。
そこに居たのは一人のガリガリに痩せた男だった。今回の相手はこの男らしい。正直言うならば普段戦っている施設の構成員の方が強そうだ。
「雌獅子、来たか。さて言うまでも無くこの男が今回のお前の相手だ。男の名前はロン・サーガス。スラム街に住む観光客をターゲットにした引っ手繰り常習犯。家族構成は元娼婦の妻サーラ、今年12歳になったばかりの息子のケイナー。」
今日は何故か眼の前の男についての説明がある。いつもだったら構成員相手でもそんな説明されたことが無かったのに、だ。
嫌な予感がする。優奈のこのての勘は外れたことが無い。戦いの中では頼りになる相棒だが、こういう場面ではできれば何も知らせずにいてほしかった。まぁ、どうせ直ぐに分かってしまう事だろうけれど。
「さて、何故今こうしてこの男の事についてダラダラ話しているのか不思議だろ雌獅子。実はな、このロンは我がファミリー相手に引っ手繰りをしようとしてくれたわけだ。ただ家のファミリーに引っ手繰りに後れをとる役立たずなどいない。そうしてあっさりこのロンは捕まったわけだ。おとしまえ付けるために良い方法を考えていて思いついた。
そうだ雌獅子、お前に殺させようとな。
お前に様々な戦闘技術や訓練をさせて早3年、もう簡単に人殺しくらいできるだろう。だからと言ってファミリーの者を殺させてやるのは惜しい。お前は喜んであっさりと行ってしまうだろうしな。お前の群れの子供と殺し合いをさせ、…おいおい殺気をしまえ。随分前に怒り狂ったお前に約束した通り子供同士の殺し合いはさせんよ。
っでだ、ちょうどこの男の使い道が決まったわけだよ。雌獅子、お前のために用意した生贄だ。貪り喰うといい、この男の命を。男とお前の力量差でハンデとしてロンにはナイフ一本用意してやった。だが雌獅子、お前がしっかりと殺れたらご褒美を奮発してやろう。
ちなみに、できなかったペナルティーは群れの一匹の命。そうそう、言い忘れていた。もし、ロン。お前が眼の前の少女に勝つことができれば無傷でここから解放してやるよ。家族を路頭に迷わせたくなかったら、せいぜい頑張るこった。
じゃあ、スタート!」
ロンは死に物狂いで優奈に向って行った。この少女に勝つだけでマフィアからおさらばできるのだから。自分には家族がいる。サーラは家計がきつくなる度に他の男に体を売っているが本当はやらせたくないし、ケイナーには今まで引っ手繰りで貯めた金で学校に行かせてやるつもりだった。今回よくばって観光客より金を持っていそうなマフィアを狙ったのがそもそもの間違いだったのだ。
無茶苦茶にナイフを振り回すロンに比べ、優奈は最低限の動きだけで避けていた。一向にナイフがかすりもしない事にロンは焦りだし、余計に動きが単調化していく。
「ごめんなさい。」
ロンにその一言が聞こえたかは分からない。事は瞬きする間もなく終わったのだ。優奈がした事は単純。ロンの動きが単純になり読み切ると、ナイフを持っていた方の腕のツボを突きマヒさせナイフを抜き取り、そのまま心臓をさした。文章にすれば2行あるかないかくらいである。
記録を取っていたヨッバはつまらなそうだった。ヨッバとしてはもっと絶望した優奈を見たかったのだ。罪悪感にさいなまれる優奈はさぞや美しいだろうと想像し、口の中は唾液で溢れかえっていた。ところがだ、優奈は眉を寄せて悲しんではいるが後悔していないようだし明らかに絶望もしていない。拍子抜けもいいとこだ。
色々思いつつもヨッバの手は今回の戦いの分析結果を入力する事に忙しかった。雌獅子は人の表情や姿で既に攻撃を読むまでになってきている。覚醒するまでもう少しだ、そう考えると鼻血がでそうだった。
優奈を買い取ったエストラーネオ・ファミリーの計画。それはボンゴレの血をひく優奈を自分たちに都合よく育てた後ボンゴレに送り、優奈をボスにしてボンゴレを乗っ取るつもりだったのだ。
既に優奈はエストラーネオの構成員の誰よりも強い。
だが鎖は付いている、自らつけている。人質と言う名の鎖を。
優奈がはじめて殺人を行っていた時、別の部屋で実験されていたジョンが死んだ。そして他にも新人の子供が半分以上死んだ。
構成員はいつものように子供を補充する。
その一人が自分たちを殺す死神とすら知らずに。
「クフフ、ここが僕が新しく住む場所ですか。」