家庭教師ヒットマンREBORN!~守護する者~(仮題) 作:寺桜
はたして優奈と綱吉はどうなることやら…。
第52話
リング争奪戦が終わり、気がつけば1週間が経過する。過酷な戦いを潜り抜ければ、綱吉は平和な日常がどれほど素晴らしいものなのかを感じずにはいられない。
授業で教師に当てられて答えられずに笑われるのも、獄寺が山本に絡んで巻き添えをくらうのも、了平がランニング中に大声を出して昼寝中の雲雀を起こし何故か綱吉等も追いかけられるのも、イーピンとランボと一緒に夕食を買いに行きカゴにいつの間にか菓子が入っている事も、リボーンに酷い暴力を受けながら宿題をこなす事ですら戻りたかった日常だ。
けれど、ふとした瞬間に思い出すのは優奈の事であった。
「姉ちゃん、今は何してるかな?」
これでこの日何度目か分からぬ呟きをした。綱吉の想いは行き場も無く、浮き沈みを繰り返す。授業の解説は耳から耳へと脳を経由する事無く通り過ぎていた。今日の授業はこれで終わる。明日は休日だ、何をしようかとぼんやりと考え込んでいると、授業終了のチャイムと同時に放送がはいった。
「えー、ゴホン。風紀委員会委員長、雲雀さんからの呼び出しです。以下の生徒は直ぐに応接室に直行しなさい。
沢田綱吉、獄寺隼人、山本武、笹川了平。部活には雲雀さんの要件が終わってから参加しなさい。繰り返し放送します……。」
放送を聞いた綱吉は苦笑いを浮かべる。呼び出される事なんてした覚えは何もない。もしや友人2人かと疑い聞いてみたが、どちらも首を振る。途中で合流した了平にも聞いてみるが「知らーん!」と大きな声で返事をされた。
結局呼び出された理由は分からないまま、恐る恐る応接室を訪ねた。
ゆっくりと扉を開けたその先には…
「え?」
「はっ!?」
「マジか。」
「早く退け3人とも。極限にオレが入室できんではないか! …む?」
つい先日戦ったばかりの雌獅子が、リボーンと雲雀と並盛饅頭片手に茶を飲んでいた。
雲雀が居るのは分かる、なにせ綱吉たちを呼び出した張本人なのだから。リボーンが居るのもまだ分かる、彼は神出鬼没だし校内に頻繁に侵入しているし。雌獅子が居るのも納得できる、わけないが無理やり納得する。けれど、けれどもだ。
「なんで3人で茶を飲みながらゆったりしてるのー!!?」
綱吉のツッコミがその場の4人の心境を表していた。
「この間ぶりだね、綱吉。」
姉ののん気な挨拶に、何故かこのまま何も聞かずに下校したくなった。
綱吉は頭を抱えながら目に見えて混乱していた。その姿を見て、優奈は純粋に良かったと思う。別に綱吉が混乱する姿を面白がっているわけではない。
人によっては暴力による恐怖を後から実感し塞ぎこんでしまったり、どんな理由でも自分が力づくで物事を推し進めた事を許せずに深い自己嫌悪に陥る人間もいる。だが、今のところ綱吉も、その友人たちもどちらの傾向も見当たらない。
骸と戦った後にもそんなことは無かったのだから、気にし過ぎだと言われればそれまでだろう。それでも心配した。綱吉は正式に次期後継者になり、彼の友人たちは次期守護者となったのだから、これから先も日常に隠された闇を見る機会は何度となく出てくる。この段階で躓いてなどいられないのだ。
それはさておき、未だに混乱から抜け出せずに口をパクパクさせている弟に本題を言おう。綱吉にとっては嬉しくもなんとも無いかもしれないが、雌獅子は逃がすつもりはない。
「綱吉とその守護者たちには、明日から1泊2日でイタリアに来てもらうよ。」
「これは決定事項だから逃げられねぇぞ。安心しろ、ママンや他の保護者には既に連絡しといた。」
「僕も行くけど、君たちと群れる気なんてないから。」
それぞれの言いたい事だけを言っていけば、綱吉は了平にも負けないほど大きな声でツッコミをいれまくる。「何で行きなりイタリアへ行く事になったのか、そんな話聞いて無い、だいたい何時も突然すぎるだろう、しかも決定事項かよ、そもそも何で雌獅子さんがここに居るんだよ」と怒号のツッコミだった。
雌獅子としては周りは自身を含めてだいたいこんな感じの人物なので、ここまでツッコミをいれられるのは新鮮だ。
あぁ、本当に元気に育ってくれた。
私のしてきた事は無駄なんかじゃ無かった。
雌獅子や雲雀に直接言う勇気はないのか、綱吉はリボーンに文句を言う。他の3人は驚いてはいたものの、綱吉がいくのなら自分も行くと決めたようだ。
もし、ここで自分は残ると言い出したら守護役から下りるように誘導しようと雌獅子は思っていた。ヴァリアーと綱吉たちが争ったのはまだつい先日の事。
いくら雌獅子が綱吉の姉である優奈だとしても、所属しているのはヴァリアーだ。綱吉を肉体的に傷つける事は掟破りになってしまうが、精神的に追い詰める事など容易い。そんな危険性のある場へ綱吉を連れて行こうとする雌獅子に、簡単に綱吉を託してもらっては困るのだ。
恨みとは、霧中の底なし沼なのだ。先を見ようとしてばかりでは、直ぐに捕らわれる。逆に足元ばかりを見ていては、行き先を見誤る。少しでも油断すれば飲み込まれ、二度と這い上がって来る事など敵わない。
綱吉は放っておけば自分でイタリアに来る事などないだろう。友人たちと学業やスポーツに打ち込み、進学して時が流れるのを待つだけ。そんな姿が安易に想像できてしまう。
それは綱吉が一般人、もしくはボス候補のままであったのならばかまわなかった。
しかし綱吉は見事ザンザスを打ち破り、次期後継者になったのだ。正式にお披露目されるまでに何度かイタリアに来させる事が重要だ。イタリアという地に慣れてもらうのはもちろんだが、今回の目的はイタリアに来させる事そのものだ。
ボンゴレの人間はヴァリアーの実力を知っている。だからザンザスが相応しいとクーデターに参加した者が大勢いる。いくらリング戦にザンザスが敗れたとはいえ、戦いを直接見ていない者の中には、綱吉の不正を疑う奴がいてもおかしくは無い。実際には不正を行ったのはザンザスだが、リング戦は全てを内々に片づけたのだから知るよしも無い。
そう、知らないのだ。
綱吉のザンザスに打ち勝つほどの実力も、不正など行わない人柄も。
ボンゴレの人間はもちろんの事、ボンゴレの影響下にあるシマの人たちも。
知らないから不安になり、不安だから恐ろしくなり、恐ろしいから怯える。
負のスパイラルは早々に断ち切らなければならない。2日前まで綱吉を悪く言う噂がたちはじめていた。雌獅子は9代目からの依頼を受けて迅速に行動をした。悪意を持って噂を流していた奴等は、もう大空を仰ぎ見る事は叶わない。
噂を流した者がもういないからとは言っても、このままでは同じ事が起きかねない。
知らないのならば知ってもらえば良い、沢田綱吉と言う人物を。
私の大切な弟を。
雌獅子は本当の狙いを綱吉に言うつもりは無い。言うには早すぎる。綱吉はゆっくりと大人になれば良いのだ。急ぎ過ぎて雌獅子と同じになる必要は無い。
「たくさん話をしよう、綱吉。イタリアだって日本に負けないくらい良い所なんだよ!」
「雌獅子さんがまずオレの話しを聞いてよー!!」
綱吉の混乱は家に帰ってからも続いた。