家庭教師ヒットマンREBORN!~守護する者~(仮題) 作:寺桜
綱吉たちは雌獅子が並盛を訪ねてきたその日の内に、日本を旅立っていった。
ランボはイタリアに行けると分かった途端に大はしゃぎだった。それもそうだろう。ランボにとっては久しぶりの帰国なのだ。奈々がどんなに優しく共に居ようとも、『親代わり』にはなっても『親』ではない。ランボにとっての親は、ボビーノファミリーのボスなのだ。綱吉の守護者としてボンゴレに引き抜かれたが、本人にその自覚は薄い。
イタリアへ行く機会をくれたのが雌獅子だと知り、全身で喜びを表現しながら手を繋いで下手くそなスキップをしている。スキップが下手くそ過ぎて、たまにバランスを崩して転びそうになるのを雌獅子が手を引っ張って阻止していた。クロームは雛鳥のように雌獅子の後とちょこちょことついて行っている。
少し離れた場所で見ていた綱吉たち。彼らは手荷物だけで身軽だ。初めは1泊2日の準備をして旅行鞄に入れて運んでいたが、何処からともなく現れた猟犬達が華麗に預かって行ってしまったのだ。
「しっかしアホ牛の野郎、雌獅子さんに迷惑掛けやがって。イタリアに着いちまう前に果たしてやろうか!」
「落ち着いて獄寺君!雌獅子さん嫌そうにしてないから大丈夫だよ。」
「良いじゃねぇか獄寺。雌獅子さんが疲れたんならオレ達が代われば良いだけだろ?」
「沢田!オレ達の乗る飛行機はどれだ。」
「え!?えーと、オレは分からないです。」
空港にはたくさんの飛行機が並んでいて、どれかなんてさっぱり分からない。そういえばイタリア行きを聞いたのは今日なので、準備に追われて詳しい予定は何も聞いていなかったのだ。そんな事を言い合っていれば雌獅子がくるりとこちらを向いた。
「ん?あぁ、飛行機の話をしているの。」
「うん、そうなんだ。」
「雌獅子さん、しおりとかありませんか?」
「バカか野球バカ!そんなもん有るわけ…!」
「有るよ。はい、これ。搭乗してから渡すつもりだったけど、知りたいみたいだし今渡すね。分からない事があったら聞いて。」
「しおり有るんだー!!?」
雌獅子から手渡されるしおり。ランボははしゃぎ疲れたのか雌獅子の腕の中で眠っている。
それぞれ受け取って、確認していく。薄い緑色の布の表紙には何故か並盛中の校章、裏表紙にはボンゴレのマークが金糸で刺繍されていた。クロームの分だけは黒曜中の校章だ。
綱吉は無駄に高そうなしおりだと内心でツッコミながら内容を確認して絶句する。
しおりの内容はツッコミどころが満載であった。1ページ目の日程表まではまともだった。逆を言えば日程表しかまともな所が無い。2ページ目から、「何だこりゃ」が詰まっていた。
例をあげよう。 まず、飛行機に関する物だ。
「乗る飛行機は自家用ジェットですが、銃を乱射したり爆発物を使用してはいけません」はい、意味がわかりません。そもそも自分達の乗る飛行機が自家用ジェットなんて今初めて知ったし、誰の自家用だ。ボンゴレの自家用か?それに銃を乱射してはいけませんって当たり前以前に誰がそんな事をするのだ。獄寺君やランボは確かにダイナマイトや手榴弾を持っているが、そんなことはしない……しないといいなぁ。
次に、1日目でお店で食べるランチに関しての物だ。
「食事のメニューに嫌いな物があっても、店員さんに食事を投げつけてはいけません。テーブルを真っ二つにしての抗議も禁止です。」いくら嫌いな食べ物が出たからって、こんな事はしない。むしろこんな事いったい誰がするのかを教えて欲しい。
さらに、2日目に訪問予定のあるボンゴレが経営する孤児院に関しての物。
「汚職を見つけたからといって、脅す材料にして職員からお金を毟り取ってはいけません。証拠を発見した場合はすぐに緊急連絡網を使い雌獅子に連絡しましょう。」
…ナニヲイッテルカ ワカラナイヨ。
そして、緊急連絡網。
綱吉たちに貸し出された携帯番号と雌獅子のプライベート№までは分かる。だが、その後に何で9代目やその守護者達、本部直通の番号が記載されているのだろう。漠然とでしかないが、彼らの番号が記載されているこのしおりの影響力がとんでも無い事はあっさり想像できる。山本と了平は気付いていないようだが、獄寺のしおりを持つ手は小刻みに揺れていた。
「め、雌獅子さん。オレこのしおり返したいんだけど…。」
「ダメだよ綱吉。綱吉は暗記苦手でしょ、ちゃんと持っていないといざという時に使えないよ。」
「じゃあせめて、この連絡網だけ破らせて!借りた携帯に登録しとくからー!」
「雌獅子さん、オレ暗記したのでお返しさせて下さい!!」
「どうしたんだ、ツナと獄寺?」
「しおり程度荷物になるまい!」
「雌獅子様、犬と千種の番号がある。」
「クロームのしおりだけ書いてあるよ。国際電話してくれても構わないから。」
…結局しおりは返却させてもらえなかった。綱吉は後でマジックで黒く塗りつぶそうと決意する。そうこうしながら自家用ジェットに乗り込みシートベルトを着用する。視界に雲雀が映らなかったので聞くと、どうやら綱吉たちと同じ部屋にいるのが嫌で別室に居るらしい。
「本当はね、同じ飛行機に乗るのも嫌がっていたんだけど。」
「どうやった…んですか?」
雌獅子と会話をしていると綱吉は敬語が崩れそうになる。別に敬語が使えない訳ではないが、やっぱり使い慣れない。
それに雌獅子が優奈だと分かっているせいか、姉弟で敬語なんて変だと思う。と同時にリング戦最後の優奈の宣言のせいでどうやって接すれば良いのか分からない。
「ふふっ、綱吉ってば眉間にシワがよってるぞ。私の話はつまらなかったかな?」
「そんな事無いよ!」
「うん、分かってる。敬語のこともそうだけどたぶん、どうやって接すれば良いんだろうって悩んでたんでしょ。」
「普通に姉ちゃんと過ごすようにじゃダメなのか? オレは兄妹いないから分からないけどさ。」
「極限!他の家族と同じに接すればいいのだ!」
「それじゃ分からないだろ芝生バカっ!そうですね、オレんとこはとりあえず必要最低限は話しますね。で、気拙くなったら全力で逃げます。」
綱吉がなんとなく避けていた事を雌獅子自らがのってくれたので、追従する形で獄寺たちも話題にのる。あーだこーだと話をしているうちに話題がそれてしまう。どうしたらいいのか分からないこの状態で他の話題から戻したいのだが、皆が楽しそうに話しているため言いだし辛い。
このまま流れてしまうのだろうか、と困っているとクスッと小さな笑いが聞こえた。
「綱吉、敬語なんて綱吉がしたくないのなら使う必要なんてないよ。それにさ、綱吉ってばザンザスにも使って無かったし、ディーノにも使えてるか怪しい時がたくさんあるじゃない。
求められる時にだけ使えれば良いんだよ。」
「う、う~ん。そうなのかな?じゃあオレ雌獅子さんに敬語使うの止めるね!」
「いいよ。気楽に話しかけてくれたら私としても嬉しいから。」
優奈は仮面の下で笑みを浮かべ、グシャグシャと綱吉の頭を撫でた。それからは綱吉の緊張がほどけ、彼女が望んだ通りたくさん話をした。綱吉だけでは無く獄寺や山本たちともだ。
初めはマフィアごっこだと思っていた、自分ははじめから10代目のすごさを分かっていた、家に居る同居人たちの話、ボクシングの大会に出場する、旬の魚はおいしい、ダイナマイトの火薬の入手が大変だ、学校でどんなふうに過ごしているか、犬と千種も一緒に来たがっていた、友人たちと休日どうやって遊んでいるか。
友人たちは続々と寝てしまう。
まだまだ話足りないんだ、それから……姉ちゃんの部屋のこと。
「それでね、今は並盛高校の制服が入ってすぐの所にあるんだ…。は~あ~…。」
「眠いんだね。お休みなさい、綱吉。」
優しく、優しく頭を撫でられる。手袋越しでも伝わってくる優奈の温かさに、綱吉は心地よく眠りに引き込まれた。
綱吉と普通の会話ができるのが嬉しい。綱吉が周りの人間に恵まれているのが嬉しい。綱吉が今の状況を理解していなくても、解っている事が嬉しくて悲しい。
綱吉はきっと感じ取る事が出来なかっただろう、優奈の手が綱吉に触れる時僅かに震えていた事を。『雌獅子』は綱吉に触れるが『優奈』は綱吉に触れない。
彼女にとって、『姉』としてではなく『味方もしくは仲間』として綱吉に接触するだけでも恐ろしくてたまらないのだ。仲間やファミリーへの触れ方ならいくらでも知っている。けれど優奈から綱吉への触れ方なんて、とっくの昔に忘れ去ってしまったのだ。
それに、自分の罪科が、血の穢れが、恨みの怨嗟が、綱吉に移してしまわないかと怖くて、彼女は素手で綱吉に触れる事は無い。
ボンゴレの栄光、喝采、名誉は全て綱吉のもの。
ボンゴレの罪科、悲劇、呪縛は全て優奈のもの。
わらえ、ワラエ、笑え、嗤えよ優奈。
気付かれぬように、悟られぬように嗤えよ優奈。
優奈はピエロ、観客は綱吉。
綱吉が笑うために優奈は嗤う。
どんなモノでも今は隠してみせるのだ。それがどれほど身を削る事だとしても、綱吉の日常と安全を護るためならば喜んでこの身を削ってみせよう。綱吉の笑顔のために闇で捕らわれていよう、覚悟が決まるまで。
「きらきら光る…」
子守唄は彼と彼の守護者を包み込んだ。
あと3・4話くらい続きます。