家庭教師ヒットマンREBORN!~守護する者~(仮題)   作:寺桜

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第55話

「綱吉、そんな所にいないでこっちにおいでよっ!」

 

優奈は綱吉が人の輪から外れて、ぽつんと立っていることに気がついた。綱吉は穏やかな性格のため、押し寄せてきた人々の波に乗りきれなかったのだろう。俯いていた綱吉に急いで駆け寄り、手首を掴んで守護者たちの元へ連れていく。

 

先ほどまで綱吉が居た場所は雌獅子たちと若干の距離があり、人の壁ができていたのでいざという時庇うまでに3秒は時間がかかる。ギャング程度ならば問題ないが、プロ相手なら死活問題だ。

とはいっても、この日のために部下たちと相談し警護は万全に備えているので綱吉の命は確実に守られる。

 

綱吉は雌獅子に勢いよく手首を引っ張られたことに対してなのか、少し困り顔だ。

 

「あ、10代目!何をしていらっしゃったんですか?」

 

「今ちょうど獄寺とホテルの部屋割について話してたんだぜ。」

 

「オレは極限に朝日が見える部屋を希望する。」

 

「僕は雌獅子に言って、君たちから一番離れた部屋に変更したから。」

 

「ランボさんは~、雌獅子とツナの真ん中!」

 

「私は雌獅子様の隣。」

 

獄寺と山本はどっちが綱吉の右隣の部屋になるかで言い争っている。綱吉としてはどちらが右隣でも良かったが、本人たちはいたって真剣であり喧嘩になりそうな雰囲気だった。

 

だが、雌獅子が仲介兼審判をしジャンケンで決着をつけさせた。結果は山本が獄寺に勝利し、見事に右隣の部屋を獲得したのである。獄寺は本当に、本っ当に悔しそうに左隣の部屋になった。

雌獅子はマスクを被っていても分かるほど機嫌良く全ての流れを見守り、スマホでホテルに連絡を入れていた。

 

「すごいなぁ。」

 

綱吉は優奈のてきぱきとした仲間の捌き方に感嘆する。

自分だけだったらこうはいかない。

 

雲雀さんはオレには何も言わずに、部屋もしくは滞在するホテルを移動していただろう。お兄さんの言う朝日が見える部屋なんてわからないから、きっと獄寺くんに調べてもらわないといけなかった。クロームとは何を話せばいいかなんてわからないし、女の子への気配りなんて思いつかない。ランボは真ん中が良いって言うけれど、パンフレットを見て部屋から部屋への数を数えないとわかりっこない。

 

それから……獄寺くんと山本。

 

二人はよく言い合いをしているけれど、オレ自身で言い争いを終われせれた試しがない。

こういう時はいつも、いつまででも言い合いをしてる。止めようとしても「しかし10代目」とか「でもなツナ」ってなってしまう。特に獄寺くんは『右腕』に拘っていて、右ってキーワードに敏感だから止まらないことが多い。リボーンは何でかオレじゃどうにもならなくなってからしか出てこない。もっと早く止めてくれればいいのに。

 

…だから、獄寺くんが勝負が決まった時に文句を言わなかったことにすごく驚いた。

 

いつもだったら、山本が不正をしたんだとか今のは練習だからもう一回だとか言うのに、今回は悔しそうだったけど納得していた。山本も獄寺くんをからかう様な事言わなかった。

 

 

本当に、本当に姉ちゃんはすごいよ!

 

 

 

ホテルのランクは上の下だ。これは獄寺と雲雀は除き、綱吉たちを気遣ってのことだ。本来ボンゴレの次期後継者やその守護者が宿泊するのならば、もっとランクが上の高級ホテルに泊まるのが当たり前だ。警護の面を考えても幾分かはしやすい。

 

しかし今まで日本で一般人として暮らしてきた彼らを、いきなり高級ホテルに泊まらせても疲れをとるどころか逆に疲れてしまう。逆に親しみやすさだけを考えてこれ以上ランクを下げれば、安全面を保証できなくなる。

綱吉たちから見て、高級そうだけどきっちりし過ぎていない。それでも完全には気が抜けなくて少し緊張する、といったところを探しておいた。

 

雌獅子は綱吉たちの様子を見ながら、素早くフロントにいる人間を見定める。

超直感の賜物で、変装を簡単に看破できるのはありがたい限りだ。ざっと見ただけでも顔馴染みの情報屋が5人、同盟ファミリーの人間が8人、見覚えのない人間が12人で1人は要警戒対象かな。綱吉たちは全く気が付いてないみたい。このあたりは一般人としての感覚が強いため、奇襲や暗殺を気にしたことすらない様だ。

 

 

優奈は顔パスならぬマスクパスで受け付けを素通りし、最上階の各部屋のカギを渡した。その後は貸し切りにしたレストランで早めの夕食をとる。ここのレストランは日本の味に近い料理を提供してくれるので、綱吉たちも食べやすいはずだ。

 

 

イタリアの芸術的な街並みを太陽の残り僅かな光と、星々の幻想的な淡い輝きが彩る。お粗末なテーブルマナーの音は、生演奏のピアノが消してくれた。

 

楽しく綱吉の守護者と話しをして、四苦八苦しながらナイフとフォークを扱う綱吉を見る。雌獅子はナイフやフォークで苦労することはないが、箸はとても苦労した。今では難なく使いこなせる。

・・

・・・

雌獅子が箸の存在を思い出したのは、家光に日本料理店に連れて行かれた時だった。

沢山の日本食のメニューに懐かしさで心躍り、その中でみつけた『オムライス』の文字。オムライスが日本食に当てはまるのかなどは疑問にも思わず、つい勢いよく注文した。普段は大人っぽい態度の雌獅子が、年相応のはしゃぎを見せているのに家光は笑みを浮かべて雌獅子の頭を撫でた。

 

先に運ばれてきたのは優奈のオムライスだった。オムライスをスプーンで下品にならない程度にパクパク食べる。美味しい美味しいオムライス。綺麗で大好きなオムライス。ケチャップでハートを描いて、ハートの中にニッコリ笑顔を描く。よくお母さんが優奈のためにしてくれていた。

 

お父さんと一緒に、お母さんがしてくれていた様に、優奈は大好きなオムライスを食べる。

 

優奈が無意識に生み出した家族ごっこ。それを現実に戻したのは店員の声と、お盆に載っていた箸だった。

箸を見た時、あれは何だろうと疑問に思ったのだ。記憶に引っかかっている二本の棒。何だったかが思い出せなくて家光に聞いた。

 

「その棒は何ですか?」

 

「ん?あ~、これか。これは箸といってな、食事を食べるのに使うんだよ。」

 

そう言って家光はうどんを箸で食べて見せてくれた。

 

「イタリアでのナイフやフォークと同じだな。」

 

優奈に、箸を使っていた記憶はない。けれど…優奈が幼い頃、視界の隅で家光や奈々が使っていたような気がする。

 

「見ていると難しそうですけど、子供も使えるんですか?」

 

「幼児はスプーンとかフォークを使うぞ。箸を使い始めるのは確か5歳ぐらいからだな。」

 

珍しく会話を多くしてくれる雌獅子に家光は気を良くし、ついでとばかりに最近息子が箸を使えるようになったのだと教えた。不器用な綱吉は他の子よりも箸を使えるようになるのが遅かったが、それでも今は完ぺきだと携帯の写真を見せながら教えてくれた。

 

携帯の写真には、奈々と綱吉がひまわりの様に咲いた笑顔でそうめんを食べていた。その後もニコニコしながら家族を語る家光。

 

家族の話題に、優奈が登場することはなかった。

 

家光との食事が終わって思ったことは「綱吉が箸を使えるなら私も使えなきゃ…」それだけだ。それ以外に何もない、有るはずがない、有って良いはずがない。

それから雌獅子は特訓した。雑貨屋でたまたま箸を発見し購入。購入した日から食事で使うようにした。ヴァリアーの皆から注目を浴び、ザンザスにバカにされながらも練習した。

 

懐かしくて、ちょっぴり苦い昔の記憶だ。

・・・

・・

食事を終えた雌獅子は、ランボだけを連れてボヴィーノファミリーへ向かった。

大人の汚い思惑など何も知らないランボは、ただただ帰郷を喜んでいるのだ。その想いに水を差すほど雌獅子は無粋ではない。

 

ランボは日本で綱吉に会うまで、使い捨てられる予定だった。日本行の片道チケットは、ランボにとっての地獄行のチケットになるはずだった。沢田綱吉がその心にランボを包容するまで。

 

ファミリーが拾って育てた子供たちの中でも、特に成績が悪かったランボ。特異体質以外に何の利用価値も見出されなかった、無駄飯喰らい。すぐに疳癪を起し泣きわめき、爆弾や銃を周りに構わず当たり散らすので機材にも損害が出ていた。

 

ランボの他にも、役立たずと判断された子供2人は遂行不可能な任務と共に放り出された。綱吉の元にいるランボを調べる過程でそのことを知った雌獅子は、子供を見殺しになどできなかったため、裏から手をまわして2人は裏の世界から救い上げた。1人は花屋の養子になり、1人はサーカスの見習い団員となった。

 

ランボの事も、雌獅子はどうにかするつもりでいた。けれど調査をしてみれば、あの家で幸せに暮らしているというではないか。それならば無理に表に帰すことは逆に不幸になってしまう。

 

だからボヴィーノファミリーのボスに伝えた。ランボの現在の姿を、利用価値を。ランボの価値を知ったとたんにボヴィーノファミリーは掌を裏返して彼を支援した。適度に武器を送り、不祥事には揉消しを行った。

 

ランボが現実を知るのは、もっと大人になってからで良いのだ。今は何も知らずに笑っていてくれさえすればそれでいい。

ボヴィーノファミリーは今回の訪問でも、ランボをファミリーとして扱う。彼は既に所属はボンゴレになっていても、心がボヴィーノにあるからだ。汚い考えの大人ばかりの中で、何も知らないランボを守るためにも雌獅子は手を尽くす。彼が笑い話にしてくれるその時まで。

 

楽しそうに、嬉しそうにファミリーの者たちと再会を喜び飛び跳ねるランボ。たった30分の再会だったが、彼はそれで充分だったようだ。

 

「ランボさんは今とっても幸せー! ママンが居て、ツナが居て、イーピンも居て、ボスも居る!

本当はね、ランボさんちょっとだけ怖かったんだ~。何となくボスに怒られる気がしてたの。でもね、ボス怒ってなかったよ!ツナと仲良しだって言ったら、すっごく褒めてもらえたの!」

 

「良かったね、ランボ。」

 

「雌獅子ありがとー。」

 

車の中で眠ってしまったランボと一緒に、雌獅子は綱吉たちが待つホテルへと戻って行った。

 

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