家庭教師ヒットマンREBORN!~守護する者~(仮題) 作:寺桜
「『』」はイタリア語としてお読みください。
綱吉たちのイタリア旅行は2日目に突入した。
獄寺のモーニングコールで目を覚ました綱吉は、しおりを確認する。昨日の夕食はとても美味しかったが、あまり食べた気にはならなかった。そのため朝食の欄にバイキングと記載されていて安心した。着替えを素早く済まして部屋の外へ出ると、獄寺と山本と了平が待っていた。
「沢田、お前が一番最後だぞ。」
「え!本当ですか。今って8時だよね!?」
「野球バカと芝生頭は朝のランニングで6時に起きたらしいです。2人がランニングをしに行くときには雌獅子さんは部下の人間と話をしていたらしいっすよ。オレは6時半には起きてホテルの中を見回ってました。その時に雲雀の野郎と会いました。クロームのヤツは7時ぐらいに部屋から出てくるのを見かけて、雌獅子さんと合流した後アホ牛を起こしに行っていたみたいっすね。
なので10代目が最後です。でも9時に玄関に集合と書いてあるので余裕です。」
「あ、オレ雌獅子さんから伝言預かってるぜ。雲雀は時間まで1人で行動するってさ。それからクロームとランボは雌獅子さんと行動するって聞いたから、今いるこの4人で食事をするみたいだな。」
「極限に腹が減った!!早く行くぞ沢田!」
会場、そう…会場というに相応しい場所が、これから朝食をとる場所だった。優雅な音楽が流れ、シェフがにこやかに目の前で調理をしてくれている。白と青を基調として、落ち着いた雰囲気が醸し出されていた。10人にも満たない人数で使うには広すぎる会場だった。
「オレ達で貸切―!!?」
思わずそう叫ばずにはいられなかった綱吉。
「朝から煩いよ、沢田綱吉。」
「うわっ! ひ、雲雀さん、すみませんでした!」
雲雀は綱吉たちよりも先に到着していたのか、既に朝食をとっている。プレートに並んでいる品は全て日本食だ。イタリアに来てまで日本食を食べる雲雀に驚きながらも、自分たちも好きな品をプレートにドンドン載せていく。
ランボが好き嫌いをしていないか心配になり様子を見てみると、ランボのプレートは日本で言うところのお子様セットだった。もうすぐ食べ終わるのだろう、残りはスパゲッティーだけだ。それでも野菜だけが残されているわけではないのできちんと食べた様だ。雌獅子とクロームは食べ終わっているようで、紅茶を飲みながら談笑していた。
予定時間までまだまだ余裕があるとはいえ、他の人間を待たせるのは忍びない。綱吉は少し慌てながら食べる。
「今日って、どこを回るんだっけ?」
「今日の最初のご予定は孤児院の見学です。昼食はここで食べるみたいです。孤児院までは車で移動します。移動時間は30分って書いてありますが、酔いそうだったら今のうちに酔い止め飲んどいたほうが良いと思いますよ。」
「ツナはそのくらい平気だろ。」
「うん、大丈夫。」
「オレが極限に大丈夫ではない!」
「テメェの事なんざ知らねぇよ。で、その後の予定ですが10代目…。」
今日の獄寺くんはまるで秘書みたいだ。自分以外に対しての口調は荒いが、知りたい事を事前に調べておいてくれたらしい。その心遣いが綱吉は嬉しかった。
綱吉が獄寺に対してそう思ったのは間違いではない。獄寺は綱吉が起床するより前に雌獅子と会った。雌獅子と彼女の部下の会話が終わるタイミングを見計らって、雌獅子に朝の挨拶をしたのだ。その際にもっと綱吉の役に立ちたいと相談したら、将来のためにも秘書検定を受けたらどうだろうかとアドバイスをもらった。資格をとるための勉強は日本に帰国してから行うことにして、獄寺は表面的なものだけでもとネットで情報を集めた。今朝の綱吉に対する態度はネットの情報を参考にしたのだ。
獄寺は雌獅子に対し、最初は何も想っていなかった。けれども彼女と出会ってから、印象はころころと変わっている。
黒曜戦で知った情報だけの知った薄っぺらい人間。リング戦で知ったバカげた力と、敵だったランボを庇うマスク姿の意味の分からないヤツ。再び訪れた平和の中で解った綱吉の大切なお姉さま。
そして現在、雌獅子は自分の生涯の主である綱吉の姉だ。しかも幼いころからその身を挺して綱吉を救っているすごいお人。とても強く頭も良い、自分と同じく綱吉がとても大切。綱吉への敬意を理解してくれる、道を示してくれる御方。
だから彼女は、やはり尊敬できる凄い先輩だ!
まだ綱吉に出会うより前、特攻するしか能のなかった頃。ボンゴレで雌獅子と獄寺は顔を合わせたことさえなかった。雌獅子は多忙を極めていたし、獄寺は孤高を気取っていた。お互いに名前くらいは聞いたことがあるという認識で終わっていた。
そのまま時は過ぎ去り、獄寺は綱吉と出会い、雌獅子はヴァリアーでザンザスと取引を行った。顔を合わせたのは本当にリング戦の時が初めてだ。
あの人と顔見知りになってまだ1週間も経っていない。
だが、知り合って間もないにも関わらず、綱吉のサポートをしながら雌獅子の役にも立てないだろうかと考えてしまうのだ。あんなマスクなんてしないで笑ってくだされば良いのにと思ってしまう。
そんな自分の考えを打ち消すために頭を振る。自分は綱吉の嵐の守護者だ。綱吉を支えるのが当たり前で、綱吉を支えることで精いっぱいの自分。それなのに雌獅子まで支えれるはずがない。きっと大丈夫だ。あの御方は綱吉よりも強く、綱吉よりも支える人間が多くいるはずなのだから。
孤児院に着くと、降りたとたんに30人程の子供たちに囲まれてしまった。
「『雌獅子様!お久しぶりです。』」
「『雌獅子様どうしてもっと早く来てくれなかったの?』」
「『僕たちの事嫌いになっちゃった?』」
「『雌獅子様の事大好きなの。だから嫌いにならないで。』」
「『みんな、私はみんなの事を愛しているわ。嫌いになんてなったりしない。長い間訪ねてこれなくてごめんね。その代りに今日はお昼ご飯まで一緒にいられるんだ。』」
全てイタリア語でのやり取りに、ヒアリングが追い付かない綱吉は今にも目を回しそうだ。どうしようかと思い、そっと獄寺に翻訳してくれないかと目配せをしてみる。だが獄寺は大勢の子供に囲まれているこの状態が不愉快らしく、綱吉のアイコンタクトに気が付く様子はない。
5分位経っただろうか。子供たちとの会話にひと段落した様で、雌獅子が綱吉たちを紹介する。子供たちにはイタリア語で綱吉たちには日本語で紹介した。途中でランボが子供たちの中に紛れ込んで「仲良くするなんて嫌だもんね」などと言ったが、直ぐに雌獅子と綱吉に発見されてしまった。
「じゃあ、綱吉たちはこれから子供たちと一緒に遊んでくれるかな。私も一緒に遊ぶけど、お昼時になったらご飯の準備を職員としてくるから。」
「え!?で、でもさ雌獅子さん。言葉が通じないんだよ、どうすればいいかオレ分かんないよ。オレは獄寺君に通訳してもらうにしても、山本やお兄さんはどうするのさ。」
「遊びに言葉なんて必要ないよ。はじめは子供たちのマネをしていればいいの。ダメなことは教えてくれるし、良いことをすればハイタッチ。ね、簡単でしょ。」
綱吉はまだまだ雌獅子に言いたいことがたくさんあったが、雌獅子は子供たちと遊びに行ってしまった。リボーンも雌獅子もいない状態でどうすればいいのか途方に暮れていた綱吉。しかしそんな綱吉を好奇心旺盛な瞳で見つめる子がいた。
「『ねぇねぇ、トゥナヨーシっていうの?』」
「えっと、オレの名前の事かな…。オレの名前は綱吉っていうんだ。」
「『トゥネヨーシ?』」
「つなよし。」
「『トゥネヨゥシ?』」
「つ・な・よ・し だよ。」
「『トゥ・ナ・ヨゥ・シィ?』」
「つ・な・よ・し!」
「『トゥ・ナ・ヨ・シ!』」
「う~ん、おしい。」
何度か頑張って名前を呼んでもらおうとしたが、結局正確に発音は無理みたいだ。ランボは初めて会った時から日本語をスラスラと話していたし、日本名も正確に発音できていたので練習すればできるのだと思っていた。
このままではどうしようもないので、あだ名を呼んでもらおうと思いついた。けれど、ツナのツが既にあやしい。ならば…
「よ・し。」
「『ヨ・シ?』」
「うん!オレのことはヨシって呼んで!」
「『ヨシ!ヨシ!ヨシ!』」
「『あのね、ヨシ!私の名前はね、レティシアっていうの!』」
「れてぃしあ?」
彼女の名前はレティシアというらしい。声に出して呼んでみたが、思いっきり日本語の発音になってしまった。これでは自分も人の事は言えない。自分の時と同じくレティシアの名前を正しく発音しようとお互いに頑張ったが、無理だった。そこで彼女も何か思いついた様子でゆっくりと話しかけてきた。
「『レティシアが難しいなら、レティは? レ・ティ。』」
「レティ?」
「『そうよ!レティ! あのねあのね、本当は仲良くなってからしか呼ばせないのよ!でもね、ヨシが私にヨシって呼ばせてくれるから私も特別にレティって呼ばせてあげる!!』」
言葉なんてさっぱり分からない。けれど言いたいことは何となく伝わってくる。一日目より断然イタリア語への苦手意識が薄れたし、レティともっとたくさん話したくなった。レティの言葉を理解したくなった。帰ったらリボーンに頼んでみようか。
綱吉はレティシアと名前を呼ぶことばかりに集中していたが、他の仲間の事を思い出してさっと目線を走らせた。獄寺は子供たちに知恵の輪を解いてドヤ顔をしているし、了平はボクシングを教え、クロームは幻術でシャボン玉の動物を出して楽しませ、ランボは鬼ごっこをしていたが転倒し年下の子に慰められている。
雲雀は木陰で眠る体制になっていたが、勇気ある子供が目を閉じている雲雀にそっと近づく。子供に反応して雲雀が目を開ければ子供はピタリと止まり、しばらくすると雲雀が目を閉じる。まるで「ダルマさんがころんだ」になっていた。
山本はといえば、野球ボールを構えているのでキャッチャーが心配になり相手を確認すると優奈だった。危ないと忠告する隙もなく放たれた剛速球はズドン!というボールが出す音ではない音を響かせて優奈のグローブに収まっていた。
優奈の傍に並ぶ子供たちは、あのボールをバットに当てる事を目標にしているらしい。
あの山本のボールをあっさりと受け止めれるなんて、と衝撃を受けずにはいられない。オレでも死ぬ気にならないときっと受け止めれない。
口をポカンと開けて見ていると、レティがランボの鬼ごっこを指さしていた。どうやらレティも鬼ごっこがしたいみたいだ。
綱吉は仲間たちに向かって走り出した。