家庭教師ヒットマンREBORN!~守護する者~(仮題) 作:寺桜
遊んだ
遊んで遊んで、遊び疲れて
お腹が空いたなぁと思えば、いつの間にかお昼ご飯だった
日本にいた時とは違う、それでも心穏やかな『平和』をもらった。
姉ちゃんはオレの友達とも仲良くなった。オレも姉ちゃんと早く仲良くなろうと思って、たくさん話をした。イタリアに来る飛行機の中だけじゃ話せなかった事もあったし、オレの事を知って欲しかったんだ。
姉ちゃんもオレにたくさん話をしてくれた。
部下の人たちとの日常、おっちょこちょいで失敗しかけた任務でザンザスに叱られた事、ヴァリアーで本気でやった鬼ごっこの面白おかしい話、孤児院の子供の誕生日会、道端にいる怪我人を介抱したら行方不明の貴族の子息だった事件、ポンペイで発掘した不思議な鉱石の話。
「あの時はね、友人のジェームズとポンペイへ行ったんだよ。その時に案内された家の床にあれ?って疑問を感じてさ。
彼の許可をもらって掘ってみたら小さい空洞があったんだ!そしてその中には布に包まれた拳大の鉱石が見つかったってわけ!鉱石には詳しくはないけど、とても綺麗でやわらかい輝きをしていたよ。」
話をしている姉ちゃんは本当に楽しそうで、嬉しそうで、仮面に隠れている表情も簡単に想像がついた。子どもたちも、職員の人たちも、オレの仲間もみんなみんな、姉ちゃんを見ている。
ちょうど話に区切りがついたから、オレは山本に声をかけてトイレに行くことにした。
「山本、トイレに行くね。」
「分かったぜ」
山本はオレを見なかった。獄寺君も姉ちゃんを見ていた。2人とも姉ちゃんの話にすっかり夢中になっているようだ。
オレがトイレから戻ったらちょうど空港に移動する時間になった。みんなとまたイタリアに来たいねって話しながらバスに乗った。レティは泣いて別れを惜しんでくれたけど、また来るって約束したら笑って送り出してくれてほっとした。
空港で搭乗準備をしていると、姉ちゃんが日本まで送り届けてくれるって言った。オレはそこまでしてもらうのは遠慮したんだけど、他のみんながせっかくだから最後まで引率してもらおうって。
むず痒い感じがするけど、次はいつ姉ちゃんと会えるか分からないからみんなの好意に甘える事にした。
「そういえば…、姉ちゃん。 リボーンって今何してるの?」
リボーンとこんなに長い時間会わなかった事なんて今まで無いから、いくらあいつがすっごく強くても赤ん坊だし心配になる。
「リボーンなら用事を終わらせて綱吉を待ってるはずよ。今頃エクスプレッソでも飲んでるんじゃないかな?」
「オレいまいちエクスプレッソの何がいいのか分かんねぇ。」
「ふふっ。 苦味を呑み込めてこそ大人になるのだよ綱吉くん。」
「え!?オレ今そんな深い会話してなかったよね!」
オレがだんだん眠気に誘われて、会話が途切れ途切れになる。そしたら、歌声が聞こえてきた。
あぁ…これは反則だよ姉ちゃん。
まだ起きていたかったのに、本当はみんなが眠ったから…今から言おうと思っていたのに、でも…まだ大丈夫だよね。
綱吉が目を覚ましたのは、日本に到着してからだった。たった2日間の旅行だったのに、既に懐かしいと感じてしまっている。イタリアが良いところだというのは充分に理解したが、やはり故国には敵わない。そう思っているのは綱吉だけでは無い様で山本や了平、雲雀やクロームも嬉しそうだ。
明日は学校がある。旅行で疲れていたって、風紀委員長である雲雀は遅刻を許してはくれないだろう。雲雀だけ草壁が迎えに来て、さっさとそのまま帰って行った。他のメンバーは雌獅子が用意した車に乗って自宅の前まで送ってもらえる。
了平が妹の出迎えを受けて帰り、山本が戸の鍵を開けながら手を振り、獄寺が綱吉にビアンキへの土産を託して礼をし、クロームは優奈にまた後でと声をかけて車を降りて行った。
車内に残るのは運転手と眠るランボと優奈と綱吉だけ。
けれど運転席と後部座席は防音壁で区切られているし、ランボは眠っているので綱吉からしたら優奈と2人きりなのだ。家に到着する短い間だがそれでも2人だけで会話をすることができる。
ずっと、言おうか言うまいか迷っていたことがある。これを言ったらどんな反応を返すだろうかと頭の中でぐるぐる想像を巡らすが、結局それは想像に過ぎず答えにはならない。窓から見える景色は家に間もなく着くことを知らせてくれる。今言わなければ次がいつになるかわからない。きっとこんな機会はしばらく訪れることはないだろう。
綱吉は乾いて張り付いた喉に唾液を流し込み、手を握りこんで力を籠める。
だが、口はもごもご不確かな形を作るばかり。
沢田家が見えた。
リボーンが玄関で待っている。
車のドアが開き、もう降りなくてはならない。
ばいばいと優奈が手を振る。
言おう、言わなくてはならない。
「…っあのさ!」
「何?どうしたの綱吉。」
「あ…えっと、またね。ねえ…雌獅子さん。」
「うん、お休みなさい綱吉。」
車が発進してしまう。
言おうと思ったのに、言えない。
自分に勇気がないせいで、自分に覚悟がないせいで。
姉ちゃんを家に迎えてあげれなかった。
次の機会はきっと訪れる。直ぐではないかもしれないが、それでもいづれは来るのだからいつかでいい、そうやって言い訳をする。
「ツナ、お前バカだな。」
リボーンの言葉が心を抉る。
「なんだよリボーン。オレを殴らないのか?」
自嘲するしかない。こんな自分だから姉に本当に言いたいことを何一つ言えないのだ。
バシンッ!
鈍い痛みが頬を刺す。さらに体勢を崩して転んでしまった。掌も擦りむいたのか少し痛い。
「バカツナ、お前が何を言おうといてたかは簡単に予想がつく。お前は言えなかったと思ってるようだが、言わなかったんだ。言わなくて正解だったんだぞ。」
リボーンの言いたいことがどういう意味なのか理解できない。目を見開いて彼を見る事しかできない。
「お前は気づいてなかった様だが、優奈は震えていた。それだけこの家に来るのはあいつの負担になっていたんだ。ツナやチビどもにとっちゃ安寧の場所でも、雌獅子…優奈にとっては平穏を奪われた場所だ。
まだいうべき時じゃなかった。
だから、言わなくて正解なんだぞ。」
「オレ、逃げたと思ってたけど違うんだよね。」
「それを逃げたにするのか、下がったにするのかはお前次第だ。」
リボーンは1人で家の中に入っていく。腕に抱えているランボは白目でまぬけな顔だ。
綱吉はそんなランボのまぬけ面にどうしようもない安堵を覚えながら、クスッと笑って玄関の戸をくぐった。
「ただいま。」
いつかこの言葉をあの人が言えるといいなと思う。
運転手のフィリップは雌獅子の異変に気が付いていた。
彼女は腕をさすりながら自分自身に言い聞かせる。
「大丈夫大丈夫大丈夫。私は大丈夫絶対に大丈夫大丈夫大丈夫。お姉ちゃんだもの大丈夫大丈夫大丈夫綱吉にはリボーンがいる大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫。」
リング戦が終わった後に彼女から直接教えていただいた過去。
信頼の証として見せていただいたご尊顔。
あの時の自分はとんだ愚者で、とうとう明かしてもらった出自と初めて拝見させてもらったご尊顔に喜びしか感じていなかった。そしてその喜びのまま何も考えずに言葉が飛び出していった。
「なぜもっと早くに打ち明けていただけなかったのです。」
「あなた様こそボンゴレを率いていくのに相応しい。」
「まるで初代の再来ですね。」
けれど言葉にすればするほどあの御方の顔は曇っていくばかりだった。しばらくしてからやっと気づき、自分の愚かさに怒りを感じた。
雌獅子様の出自はそれだけで波紋を呼ぶ。簡単に教えて良いものではない。それについ先日、弟の綱吉様が後継者と決まったばかりだ。人によってはさっきの発言を内乱の企てととられても可笑しくない。その美しく凛々しいお顔は肖像画に残る初代と瓜二つだが、そのせいでいらぬ期待をかけられるだろう。綱吉様も雌獅子様に似ていることから入れ替わりを企む者がいないとも限らない。
自分で分かるだけの失言でこれだ。他の連中に聞かれていたらどうなっていたか分からないし、利用されただろう。何よりも雌獅子様を深く傷つけた。
それなのに雌獅子様は「ごめんね」とおっしゃっただけ。
あぁ、俺ではダメなのだ。
本当に気に食わないが、雌獅子様を支えることができるのはあの人だけなのでしょう。
そろそろ未来編に行きたいです。
閑話1話挟んでから未来編になります。