家庭教師ヒットマンREBORN!~守護する者~(仮題) 作:寺桜
意識が戻ると、誰かに背負われているようだった。現状を把握及び安全確認をするためいきなり眼を開けるような事はしない。まずは不自然でない程度に息を吸った。空気がいつもの薬品臭い空気ではない。
草の匂いがし、風が頬を撫でる。自分を背負っているのは大人ではなく、子供でたぶん家族の誰かだ。足音は3人分、音の大きさから言って全員子供、それ以外には聞こえない。眼を閉じていても眩しくなく、肌寒いことから夜だと思った。
何故自分が外に居るのか、施設から脱出したのなら何故3人しか足音が聞こえないのか、意識を失ってどれくらい時間が経ったのかと疑問が次々に思い浮かぶ。
だが、疑問に対し明確な答えを得るには一度眼を開けるべきだと判断し、ゆっくりと目蓋をあげていった。
視界に入ったのは背の高い草原だった。
そして、上を見上げれば見渡す限りの夜空。
映像やデータではなく本物を見るのは何年振りだろう。3年前さらわれて名も知らぬ男に監禁された部屋から見たのが最後だったかもしれない。いや、あの時は訳も分からない現状にぼんやりと星を眺めていただけの記憶がある。
きちんと最後にこの夜空を見上げたのは…。
3年前、誘拐される少し前にお父さんお母さん、綱吉と行ったキャンプだ。何も知らず、幸せだったあの頃。もう、両親の顔はぼんやりとしか思い出せない。だが、赤ん坊だった綱吉の顔だけはしっかりと覚えている。
過去に数分だけ思いはせた後、背負ってくれているたぶん犬にもわかるようにゴソゴソ動いた。
「優奈姉さん、眼覚めたびょん?」
「犬、今意識が戻ったわ。」
「優奈様、大丈夫ですか?」
「おや、お寝坊さんが起きましたか。」
「千種、私は大丈夫だよ。
骸、お寝坊さんかどうか知るためにも教えてくれない?何で外にいるのとか、私達4人以外の家族は何処なのかとか、ね。」
「犬も優奈を背負っての歩き続けて疲れたでしょう。休憩がてら説明します。」
全員、と言ってもたったの4人ぽっちだがとにかく全員地面に座り、優奈は骸から説明を受けた。まず、骸は優奈とは別の部屋で実験され、その中で六道輪廻の力を得、その場で職員を惨殺。脱出は次の日に行う予定になっていたが、自分の力があれば難なく可能だとその場で勝手に決めて決行。
優奈を迎えに行くまでに他の子供を助けに、というより手駒を増やしに行ったのだが骸が行った時点で犬と千種以外は手遅れとなっていた。その後は研究者や構成員をエンカウントする度に、自分の体を力になれさせるために能力で瞬殺。
優奈の研究室にたどり着き、扉を開けると血濡れの優奈が手に橙色の炎を宿して立っていた。中に居た研究者は皆殺しになっていて、何が起こったのかを優奈に聞こうと近寄ると眼があった瞬間に糸の切れたマリオネットのごとく倒れた。
倒れた優奈を犬が背負い、食糧や医療品をある程度適当なカバンにいれて千種が持ち、骸が残党狩りをしつつ施設を破壊。データが残っているようなコンピューターは修理不可能になるまで破壊し、書類になっていた物は残らず火をつけ施設を後にした。
そして人里目指し歩き続け今に至る、と言う事らしい。
優奈はビージやヨッバを殺した事は覚えているが、他の研究者を殺した覚えが無い。手に炎を宿していたというが、その記憶も無い。だが骸の言う通りなら優奈以外が殺したとは思えないので、優奈が殺したのであろう。他にも大量の電撃を浴びたにも関わらず生きている自分が不思議だし、最後に見た良く分からない大量の映像のことも分からずじまいだ。
次は優奈が3人に説明をした。エストラーネオの紋章を腕に押された事、暗示にかかっていない事がバレそうになった事、ビージとヨッバを殺した記憶はあるがそれ以降意識が無かった事。
大量に見えた映像の事については言わなかった。自分でも何と言って説明すればいいか分からなかったし、言う気になれなかったのだ。根拠のない意味不明な情報で家族を混乱させたくなかった。
「これでお互いの状態は分かりましたね。僕はこれからこのままマフィアを撲滅していくつもりですが、どうします。自由は手に入れましたし、ついてきますか?」
「当たり前でしょ、骸はいつも隠れて無茶をするからお姉ちゃんが見ててあげないとね!」
「骸さんや優奈姉さんがいる所がオレの居場所だびょん。」
「もちろん、何処までもお供します。」
マフィアの殲滅を繰り返す中で4人は強くなっていく。犬と千種はまだまだ未熟だが、優奈と骸は一人で中小マフィアを潰せるようにまでなった。悪い噂を聞くマフィアを中心に潰していった。潰して救った命は数知れず、狙ってくる奴らも数知れず。
最近は襲撃される回数が格段に増えて来た。その上骸はとあるマフィアに潜伏中で頼るのは最終手段だ。優奈一人ならば撃退することも、逃げ切ることも簡単だ。だが優奈には犬と千種と言う重い鉛玉が、足に手についている。
そうなると逃げ切るのが苦しくなる。それでも優奈は一度たりとも二人を見捨てようとした事は無かった。
今もまさに苦戦一方の戦いの最中である。優奈は千種を庇い腹に銃弾を受けていた。止血をしながら建物の陰に隠れる。このままでは3人とも死んでしまう。そう結論付けた優奈は、時間稼ぎとして一人残る事にした。
「犬、千種ここからは貴方達だけで逃げなさい。」
「何を言ってるんですか、優奈姉さん。オレと柿ピーだけで逃げるわけ無いびょん!」
「その通りです。」
「ふう、こんな事は言いたくないけど足手まといよ。2人がいるから自由に動けない。むしろ2人がいない方が私の生きる可能性が高いわ。ごめんね、そんな顔しないで。私はあなた達のお姉ちゃんなのよ、ここは任せて行きなさい。
今なら近くに敵を感じないわ。骸の潜伏先は分かってるわね。あの子が一人の時に接触するのよ。私も生きてたら必ず会いに行くわ。
…さあ、今よ!!」
犬と千種は走り、その場から逃げおおせる。彼らは分かっていた。自分達が力不足な事も、優奈の負担になっている事も、いない方が彼女が楽な事も。それでも、それでも頼って欲しかった。彼女がいつも行っている通り自分達は家族だから。けれどそれが許されないのは、自分達が弱いせいだ。だから優奈はただ1人残ったのだ。
優奈は走り出した2人の後ろ姿を見送りながら、これからの事を考えた。正直、襲撃者達と戦って生きていられるかは五分五分である。普段なら少し余裕を持って勝てたかもしれないが、今はだめだ。傷から血を流し過ぎた。
だがここで倒れている暇は無い。自分が少しでも時間稼ぎをして彼らを逃がすために。
優奈は犬と千種とは真逆の方向、襲撃者に向かって走り出した。